アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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※作品の情報更新のしかた、ちょっとだけ変えてみました

さて、バッドエンド第一弾です。三章のどっかの後書きでも書きましたが、今回はオリ主の立志のフラグ(特にみーちゃん)が一つでも回収されなかった場合に起こる結末です。

先に一言解説すると、オリ主自身にとってはかなり『幸せ』なバッドエンドです。他の細かい解説は後書きにて。


end 『自慰』

 長かった三年間も、ようやく終わりが見えてきた。

 ただ何もせず、責任という枷から逃げ続ける日々はとても快適で。一つとして意味のない死と同等の生だった。

 ふと、客観的な気持ちになって室内を俯瞰する。

 もはや誰も気にしない、当たり前になってしまった欠落が、ボクの目には嫌に印象的に映る。

 中でも深い傷を抉ってくるのが、愛理が退学になってしまったことだ。理不尽な試験によって、クラスの犠牲になった。彼女は最後まで優しく、笑って受け入れていたが、当然全員が容認していたわけではない。ボクは勿論、清隆含む何人かの小グループにおいて交流の多かった長谷部や、愛理とプライベートで仲が良かったらしい王と心は激昂した。

 他に、結末の変えようなどあったのだろうか。彼女を救うチャンスは……あるわけないか。どうせ、あの時できることなんて一つもなかった。これまで一度たりとも、尽力というものができなかったのだから。

 春樹の件もそうだ。あれは所詮彼の自業自得、こちらが何かしてやる義務はない。下手すれば、矛先が自分に集中していたかもしれないのだ。

 ただ、ほんの一瞬だけ八つ当たりを、最低な責任転嫁を許されるのなら、ボクは、清隆と鈴音を許せない。

 二人の退学にはどちらも最初の友人――今となってはその肩書も破棄すべきか――が加担している。春樹とは勉強会で、清隆については愛理とも親交は深かったはずなのに、いとも簡単に切り捨てた。

 少し、怖くなった。ボクの出会った二人は、こんなにも冷徹に、冷酷になれるのかと。もしかしたら自分も、容易くポイッと捨てられてしまうのではないかと。そう思うと、せめて及第点は越えなければと、影に徹しながらも必死だった。

 どうして自主退学しなかったのかって? しようと思ったさ、あの中間テストで赤点取って、即刻サヨナラしたかったさ。

 でも、出来るわけない。出来るわけがなかった。どうしても、先生との言葉が頭の中で響くから。

 もし退学しても、きっとあの人は黙って受け止めてくれるのだろう。本当に失意に沈む人に、酷いことはできないはずだ。だけど、そう思うだけで胸が張り裂けそうになる。

 だから残った。全部自分のために。それなりでいいから生き抜いて、ほどほどの明日を迎えられたら、それだけで十分だ。

 健が鈴音と楽しそうに、少しだけ頬を赤くしながら話しかける。それを無愛想ながらも邪険にはせず、鈴音は応答する。変わったな、清隆のおかげ、なのだろうか。

 そうだ、清隆とは……最後に話したのはいつだっけ。いつの間にか、多分一年生の内にはとても友人とは誇れない希薄さになっていたように思う。段々と彼も余裕がなくなっていったのか、元の冷たい一面が垣間見える機会が多くなっていたように感じる。まあどうでもいいことだ。兎に角、『約束』は果たされなかったのだ。記憶力の良い彼が忘れているとは、思えないけれど。

 平田がいつものように、ありきたりな鼓舞の一言をクラスに渡らせる。どうやら近々、何らかの試験がまたあるらしい。茶柱さんの話、聞いてなかったな。二年前の五月初頭のときもそうだが、あの人の話はどうも耳に入らない。

 Aクラスの座を懸けた戦い。そんなくだらないものへの興味はとっくに失われていた。

 今、何ポイントだっけ。Dクラスの下剋上、叶いそうかな。

 ……あれ? Cクラスだっけ。あ、Bクラスに上がって、いや、結局一気に落ちたんだっけ。もしかしたら既にAクラスになってたり……。

 ……まぁ、どうでもいいか。何位でも。

 ボクが関わる余地なんて、どこにもないのだから。

 …………面倒くさ。

 

 

 

 靴を履き替えていると、後ろから声を掛けられた。

 珍しい。誰かと必要以外な交流をするのは久しぶりだ。

 

「あ……」

 

 綺麗な銀髪に言葉を失う。こんなにも彼女は綺麗だったか。

 

「その、お久しぶりです」

「…………あ? ああ、えっと、久しぶり」

 

 何だか初対面よりもよそよそしく、緊張感がある。しおらしいというか、慎ましいというか。

 

「お元気ですか?」

「まあ、ぼちぼち。どうしたの? 急に」

「さっきすれ違ったので、挨拶しようと思いまして」

「すれ違った?」

「え、……気づきませんでしたか?」

 

 ……。

 

「ぼ、ぼーっとしてたから。というか、いいの? 一人じゃないよね」

「は、はい。真澄さんと隆二君と一緒でした。今は……待ってもらっています」

 

 だったらこっちなんかに構わなくてもいいのに。

 三人の仲は学年でもわりと知られているらしい。彼女が下の名前で呼ぶ相手は二人だけだし、隆二がプライベートで良好な関係にある異性も二人くらい。

 ……今は、隆二の部屋に集まっているんだったか。良かった、ボクがいなくても、やはり三人は幸せな関係を築けているようだ。

 ズキリと、正体不明の心苦しさに駆られるが、すぐに収まった。

 

「それで?」

「え?」

「何の用? それとも、顔が見たかっただけ?」

「えっと――」

「じゃあもう満足でしょ。さよなら」

 

 何かに苛立つように、いや、きっと逃げるように、急ぎ踵を返す。

 目を逸らした矢先だった。残っていた左腕が掴まれた。

 

「――っ!」

 

 反射的に、全力で振り払ってしまった。

 引っ張られるようにして態勢を崩した少女が、こちらに倒れてくる。

 ボクは……

 

「ひっ――」

 

 次の瞬間、淋しげな昇降口に乾いた音が響く。

 上身を床に強打した彼女を、ボクは唖然と見下ろしていた。

 

「ごご、ごめんっ! あ、違うえっと、大丈、夫?」

 

 動揺を隠せないまま、とりあえず心配だけしておく。

 膝を擦りむいたらしい。涙目になっている少女を前に、どうすればいいのかわからなかった。

 

「い、いや……」

 

 意味もなく、恐怖に染まった声が漏れる。

 

「わ、私は大丈夫ですから。浅川く――」

「そ、それじゃあっ!」

 

 脱兎の如く、少女を置き去りに飛び出してしまった。

 関わらないで欲しかった。もう、こっちにそんなつもりはなかったから。慰めも気遣いも、しないでほしかった。

 なのに、どうして優しいんだよ……。それで傷つくって、わからないはずないのに。何で余計な真似をするんだよ。

 真澄と隆二とで、満足できるはずだろうに。本当余計な……。

 ……あれ?

 そういえば、と、一つ違和感に気づく。

 真澄と、隆二と――、あの穏やかな目とソプラノ声。

 長らく呼んでこなかったから、忘れてしまった。

 

 あの子の名前、何だっけ?

 

 

 

 

 いつもは無感情に浴びるシャワーで、魔が差して思考が巡る。

 あの少女の涙は、確か、ボクが最初望んでいなかったものだ。あの顔をさせないために、隆二と真澄とグループを作らせて。

 ボクがいなくなっていなければ、あんな顔はしなかった? そんな自惚れが過ぎる。しかし一瞬で霧散した。

 ボクが誰か一人でも幸せにするなど傲慢な話だ。かつて大切な人を失ったときのように、自分もその近くにいる人も傷つけるのだ。

 ボクにできるのは精々、お膳立てくらいだ。今は遠くにいる愛理も、ギリギリまで王と心と笑顔の花を咲かせていた。清隆と鈴音も交流を広げ、クラスの動力源として奮闘している。平田や他のみんなも、各々問題を解決し葛藤を乗り越えてきた。その全てに、自分は一切関わっていない。

 この学校で自分が成せたことなど、一つもなかった。何か、何か目的があったような気がする生活も、虚無以外の何物でもない。

 着地点のない夢想を打ち切り、ノズルを締める。

 深い溜息と共にバスルームを出て、水気を落とし、寝巻に着替える。

 もういい、考えるのはやめよう。面倒だ。

 何を憂いようが、何を悔いようが、結局自分はこのまま、一度も奮起せずに卒業する。だったら苦しくなることに頭を使う意味はない。

 今は、ただ――

 

「お待たせ」

「うん、ドキドキしながら待ってた」

 

 数歩歩き、力が抜けたようにくずおれる。

 豊満な胸に、顔をうずめた。ゆったりと、だらしない身体が包まれる。

 

「何か、嫌なことでもあった?」

「……」

「慰めて欲しい?」

 

 コクリと頷く。甘い声に刺激され、真っ白な部屋で意識が一つに釘付けになる。

 やっぱ、他のことなんてどうでもいいや。

 ボクには、絶対的に永遠な安寧があるから。

 

「大丈夫だよ。君は委ねるだけでいいから。ただ気持ち良くなることだけ頑張って」

「うん」

「一人で脱げる?」

「ううん」

「今日はやけに甘えるね。……嬉しい」

 

 衣の擦れる音だけが響く。

 

「言ったでしょ。二人なら、きっと幸せになれるって」

「うん」

 

 一糸まとわぬ姿で、ボクは仰向けに倒れ四つん這いの相手に見下される。

 

「愛してるよ」

 

 これしか、知らないのだろう。極端な愛情表現に、拒否的な感情は全く湧かなかった。

 嗚呼、自分はなんてシアワセなのだろう。

 

「…………オレも」

 

 今はただ、盲目的に愛したい。

 




tips
①みーちゃんと出会わなかった→みーちゃんと心との関係値0、佐倉との関係値が本編未満
②勉強会に参加しなかった→勉強会メンバーとの関係値は0。平田からはただのモブクラスメイトの扱い
③ホワイトルーム残留を決心しなかった→当初の予定通り三人を避け始める→知り合い程度になった神崎と神室、それ以上に会話しなくなった椎名→神崎の部屋に集合している
④堀北の要請に応えなかった→堀北は勿論彼女に協力すると決めた綾小路とも関係が希薄に→二人の仲は原作以上+堀北の社交性、綾小路の積極性は原作以上本作本編未満+『ディスコード』『リフレクション』での二人の何気ない発言(=オリ主にとっては約束)が叶わなかった

⑤その他、全体
・序章で堀北の迷い、オリ主の迷い等フラグが未達成だと五月一日のやり取りが発生しない→このエンドに直行

・①の影響もあり、三章(佐倉の事件)からオリ主の干渉は0、以降は三章含めほぼ原作通りの展開→起こるのは暴力事件のみ、解決の過程も完全に原作通り+佐倉は三年間はグラドル休止(=原作通り)

・綾小路→同志を失い満足できない(原作よりかは良心アリ)+最初は気にかけていたが諦めと共に離れて行った→あらゆる葛藤(主に櫛田との交流による原作以上に複雑な)が解消できない

・堀北→綾小路と兄の出会いが原作通り→兄が咎められない+堀北へのケアが不足+他人の必要性の実感不足→はっきり欠点を認めるのが原作あたりになる+兄との関係もほぼ原作通り→兄を通過点にはせず今までの自分と決別(髪を切るイベント発生)

・このルートでは本編と違い、須藤は堀北に、佐倉は綾小路に明確な恋心を抱く

・龍園、葛城など、他クラスからのオリ主認知なし→坂柳は初対面の違和感を忘れる。一之瀬はいつの間にか忘れる。

・雨宮たちの捜査に全く協力しない→未解決確定+高円寺からは有象無象扱い、もう友人にはなりえない

・理事長→綾小路と離れたことを残念に思うものの気遣って何もしない+雨宮の捜査への抵抗心が増す

・茶柱→『カーテンコール』回想での出来事が消失→生徒への態度も思いも原作と変わらない+綾小路らが頑張っているためオリ主はもうどうでもいい

・櫛田→オリ主との交流0→つまらない陰キャ扱い
→二章もしくは三章までの綾小路の言葉により葛藤は蓄積しているがほぼ原作通りの行動→精神が原作より不安定+綾小路と堀北への敵意上昇
→退学はしていない

・オリ主がいてもいなくてもほとんどが同等の幸せを掴めている+オリ主の不干渉によって傷を免れた人はいる


以上です。いくつか気になる点があると思いますが、その違和感はこの先本編で解消されるはずです。

個人の偏見ですが、原作は学園ものなだけあって少年少女の成長を描いているため、生き残る生徒はみな何かしらの試練を乗り越えて卒業すると思っています。
なので、実はオリ主がいなくても当然全員の問題は丸く収まる。本作はそのメタ的な前提が土台にあります。それを示唆する上でも、この『オリ主が最初から諦めて不干渉』の世界線は描いておきたかったんですよね。

実は本編でもこの先、そのジレンマにオリ主が直面する展開を考えていたりいなかったり…?

番外編第一弾(題はナイショ)

  • 六月下旬(1章~暴力事件)
  • 七月下旬(期末テ⦅暴力事件⦆~三巻)
  • 八月中旬(四.五巻前後)
  • 夏休み以降の時系列がいい
  • やらない
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