アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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読み方は「はっしょく」ですけど、頑張れば前回と同じ読み方できますよね。どう頑張るんだ。

前回がまあまあ力作だった分今回ちょっと自信ないです。

初めてオリ主でてきません。


発色

 恭介が椎名との邂逅を果たした頃。

 彼の盟友綾小路もまた、素晴らしい出会いを遂げていた。

 ――そう、スバラシイ出会いを。

 

「……オレに務まると思うか?」

「うん。寧ろ綾小路君にしか頼めないの、お願い」

 

 そう言って目の前の少女は、彼の左手を両手で包む。

 しかし、その温もりは却って彼の心労を募らせるだけだった。

 勘弁してくれ……。

 周囲からの視線に内心ビクビクしながら、過ちを探しに過去の旅へ。

 どこで選択を誤ったのかと言えば、それは間違いなくあの時だったのだろう――。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 説明会を終えた後、綾小路は堀北と二人教室へと向かっていた。

 

「何か興味を引くような部活はあったか?」

「別に。そもそも私は部活動に入るつもりなんてないもの」

「え、じゃあ何で来たんだ?」

 

 彼の素っ頓狂な発言に、堀北はあからさまに顔を顰める。

 

「あなたが誘ったんでしょう。忘れたの?」

「あ……そうでした」

 

 いつもと違い――普段から盛んなわけでもないのだが――イマイチ活気に欠ける会話に、物足りなさを感じずにはいられない。

 

「この後予定は?」

「決まってはいないわ。寮に戻ろうかと思っているけど」

「……そうか」

 

 話題を変えるも彼女の素っ気ない一言ですぐに会話が途切れてしまう。綾小路は心の内で大きな溜息を吐く。

 違和感の正体は明白だった。浅川の不在。

 てっきり今日も彼と一緒に帰るものだと思っていたのだが、解散となるなりそそくさと体育館を出て行ってしまったのだ。

 辛うじてできた会話からして、恐らく今頃図書館へ向かっているのだろうが、綾小路はそこに自分も連れ添うのは野暮だと判断した。

 去り際に彼の見せた物憂げな表情が、頭から離れなかったからだ。

 普段とは異なるどこか儚げに思いつめた様子に、掛ける言葉が見つからなかった。そんな状態で無理に付いて行っても、余計に拗らせるだけだろう。

 能天気なだけに見えてその実二人の仲介的な立ち位置でいてくれていた彼への有難さを、綾小路はしみじみと感じていた。

 まだ教室まで少し距離がある。とりあえず今は堀北との会話を繋げようと思索する。

 ……地雷かもしれないが。半ば興味に従って口を開く。

 

「さっきの説明会で最後に話していた生徒会長、名前が堀北学って、お前の兄か?」

「……っ」

 

 堀北の歯噛みした表情を見て、綾小路は案の定かと失敗を悟る。

 しかし、彼女の発言は、彼の危惧していたそのままではなかった。

 

「そうよ。別に隠すことでもないし。兄さんがどうかしたの?」

「あ、ああ、いや……すごいな、生徒会長って。こんな学校なんだし大変そうだ」

「自慢の兄よ。とても尊敬しているわ」

 

 その言葉に綾小路は首を傾げる。

 堀北があの時兄を見ていた感情は、本当に敬意だけだったのだろうか。どこか畏怖も混ざっていたようにも感じる。

 

「自分も生徒会に入ろうとかは考えてないのか?」

「それをあなたに言う必要があるのかしら」

「確かにないが……」

 

 教えてくれてもいいだろうに、と言いたかった。しかし、喉まで出かかった言葉を彼はこらえる。

 恐らく答えてくれない。

 堀北が自分のことをどう思っているのかはわからなかったが、今の好感度ではこれ以上のことを尋ねても彼女の機嫌を損ねるだけだと直感した。

 いや、或いは――今彼女が無愛想なのは、別の原因もあるのかもしれない。

 

「気にしているのか? 朝のことを」

「……! そんなわけないでしょう」

 

 バレバレな反応だった。あからさまに苦い顔をして、よくもまあそんな虚勢を張れるものだ。

 こればかりは見過ごせないと、彼は問い詰めることにした。折角自分が溶け込めた人間関係を、蔑ろにしたくなかったのだ。

 

「あいつもきっと迷っているんだ。葛藤しているだけ、十分お前のことを想ってくれているはずだぞ」

「そう? 二人揃って随分と怠惰な様子だったけど」

 

 相変わらず棘があるなと思いつつ、言葉を返す。

 

「向上心の高いお前にはわからないかもしれないが、胡散臭い文句に裏のありそうなルールを聞けば、関わることに後ろ向きになるのも無理ないだろう。恭介は機械に疎いようだから、そういうものには尚更ストレスを感じてそうだしな」

「向上心って……普通の学生なら自分の評価を上げようとすることは当然でしょう? まさか社会に出てからも『面倒くさい』だなんて勝手な都合で奥手に生きていくつもり?」

「ここは社会ではなく学校だろ。今話しているのは恭介やSシステムのことについてだ。寧ろ勝手な価値観を押し付けているのはお前の方なんじゃないのか?」

 

 朝の件を掘り起こそうとしたにも拘らず「向上心」というワードに反応を示した堀北に疑問を抱く。

 二人の会話は徐々にヒートアップしていく。

 

「自由奔放甚だしい。そうやって色々なことから逃げて廃れていくのね、馬鹿げているわ」

「何でもかんでも全力で成功する人はそういない。時には力を抜くことも大事だ」

「ただの怠慢じゃない。怠けている間に置いていかれるわよ。全く、やはりいつまでもウジウジしているあなたたちとは解りあえないようね」

 

 その言葉には、明らかな怒りと軽蔑が乗っていた。

 しかし、綾小路には視えていた。そう呟く彼女の表情には、失望と寂寥が見え隠れしている。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……それは、お前のことだろう」

 

 今まで一度も見せたことのないような剣幕に、堀北は一瞬言葉に詰まる。

 

「……どういうこと?」

「迷って逃げて、それを正当化しているのは、お前の方だと言っているんだ」

 

 自分は出来た人間ではない。特殊な事情とは言え目立ちたくないという意志は本当で、怠慢という指摘を否定するつもりはない。

 だが、浅川は違うだろうと訴えたかった。

 今日何度か垣間見えた彼の表情。きっと積み上げてきた軌跡があって、葛藤に悶えながらも選び抜こうとする者にしかできない表情だ。

 そんな浅川の姿――生き様とも取れるかもしれない――を全面的な形で否定した堀北を認めたくなかった。

 どうにか誠実であろうとする彼に対し、たった一度のすれ違いで理解することを諦めようとした彼女に、()()()()()()()()()()()()()

 羨ましいとさえ感じていた、()()初めての友をあしらわれたことに、綾小路は……。

 だからこそ咎めた。浅川や、尊敬と畏怖を向ける兄に対して、向き合うことを恐れ足踏みしているのは堀北なのではないかと。

 しかし、それを知ってか知らずか、堀北の返しは予想外のものだった。

 

「それは……あなただって同じじゃない」

 

 今度はこちらが言葉を失う番だった。

 

「……悪い、何のことを言っているのかさっぱりだ。オレはちゃんと始めから協力しないと――」

「違うわ」

 

 綾小路の言葉を、堀北は遮る。

 違う?

 ならばいつのことを言っているのか。そう疑問に思うより先に、頭の中には別の光景が蘇る。

 

『オレのことを気にかけてくれるのは嬉しいが、無理に合わせなくてもいいぞ。鈴音は危なっかしいところがあるから、お前がいた方が心強いはずだ。だから――』

『違うな』

『何?』

『僕は、そんなできた人間じゃない』

 

 あの言葉の意味が、まだわかっていない。

 まるで、()()()()()()()()()()のだと仄めかすように遮られた、あのときの感覚。

 自身の考えが正しく届いていなかっただけかもしれない。相手の気持ちを相手以上に理解できていた可能性だってあるはずだ。

 しかし彼は、()()()()()()()()()()()()()と悟った。

 浅川の悩みは「三人の関係の変化」を恐れてのことだ、と綾小路は解釈していた。良くも悪くも優しいから。

 しかし、それが間違っていたという。

 答えの纏まらない命題に対し、綾小路はアプローチの取り方を全くと言っていい程見いだせなかった。

 刹那の思考の後、困惑しながらも次に発した言葉は、自分でも意外に思える一言だった。

 

「だったら、何が違うのか教えてくれ。オレはいつ、どこで、何を迷っていたのか――お前なら、わかるのか?」

「……っ」

 

 堀北は、最初よりもずっと険しい表情になり、背を向けた。

 

「そんなこと、自分で考えなさい……」

 

 それだけ言い残して、彼女は足早に去って行った。

 ポツンと、独り残された綾小路。

 彼は隣人の落ち着かない背中を、無機質な瞳で見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 綾小路が教室に戻ったのは、既に堀北が帰路へ就いた後だった。

 独り、か。

 寂寥感を覚えつつも、自分の性格では初日からぼっちだった可能性もあったことに気づき、寧ろこれまでの時間のほうが珍しいものであるように感じてきた。

 夕日を背に颯爽と、いや、トボトボと帰るために支度をしていると、

 

「あの。綾小路君、だよね?」

 

 後ろから声を掛けられた。

 振り返るとそこには、見覚えのある天使が。

 

「合っている。よく覚えていたな。えっと、櫛田だったか?」

「自己紹介してたじゃない、当然だよ。綾小路君の方こそ、ちゃんと私の名前覚えててくれたんだ」

 

 まさかあの自己紹介を覚えていてくれたとは。心の中で盟友へのお礼を忘れず、綾小路は用件を問う。

 

「それで、クラスのマドンナがオレなんかに何の用だ?」

「え? や、やだなあ、マドンナなんて。ちょっと恥ずかしいよ」

「事実だろう。まだ二日目だというのに、あれだけ人気者なんだからな」

 

 謙遜も過ぎれば皮肉になるとは言ったものだ。櫛田でマドンナになり得なければ、綾小路など差し詰めクラスのミジンコ程度の存在だろう。

 

「まあ、好きな呼び方をしてくれればいいんだけどね。それで、用なんだけど、綾小路君って堀北さんと仲良いよね?」

「鈴音と? ……まあ、それなりには話すけど」

「それなりなんてレベルじゃないように見えたけどなあ。浅川君も入れて三人で楽しそうに話してたよね? 今だって下の名前で呼んでるしさ」

 

 綾小路は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを見逃さなかった。

 しかし――今はそれどころではない。

 状況的にも自分の気持ち的にも、ここでそれを追究するのは得策ではないと判断した。

 

「実は、もうクラスのほとんどの人とは連絡先の交換してあるんだけど、三人だけまだなんだよね」

 

 そう言いながらこちらの表情を窺ってくる櫛田の様子を見て話を理解する。

 

「でもそれなら、オレたちが三人でいる時に交換しにくれば手っ取り早かったんじゃないか?」

「そういうわけにもいかないよ。変に水を差すようなことしたくないし」

「にしたって、どうしてオレなんだ。鈴音に直接行けばいいだろう」

 

 彼女が真に連絡先を交換したい相手は堀北だけで、自分らはついでなのだろう。本人に求めるのが常套手段、というより礼儀のはずなので、態々綾小路にコンタクトを取るのはお門違いと言うものだ。

 

「それが、何回かお願いしてみたんだけど断られちゃって……」 

「押して駄目なら引いてみろと言うだろう。少し機を置いてからまた試してみたらどうだ?」

 

 今の時期からそう易々と連絡先を教える人ばかりではないだろうし、堀北自身親交を広めたいという願望があるわけでもなさそうだった。比較的仲良くさせてもらっているという自覚のあるこちらとしては、彼女の望まない展開を無理強いするような行為は好ましくない。

 

「それも一応考えたんだけど、やっぱり心配なんだよね、堀北さんのこと」

「心配?」

「うん、男子と比べると女子ってけっこう仲間意識が高いから、どのグループにも入っていない堀北さんが悪い印象を持たれてるって話を時々聞くの。だから、なんとかしてあげられないかなって」

 

 緊急性のあるような事情ならば、クラスの均衡を維持している彼女が躍起になることは十分理解できる。

 ただ、それでも疑問が残る。

 

「……佐倉は?」

「え?」

「井の頭は? 王は? 鈴音以外にも交友関係に奥手な女子はちらほら見かけるぞ。そっちを先に解決したらどうだ」

 

 大人しめな女子はまだ真面なコミュニケーションができていないような印象を受ける。そんな現状で何故堀北にだけこうも執着を見せるのか。

 ここまでくると、流石に疑うしかない。

 ――鈴音に個人的な感情を向けているな。

 真意は定かではないが、思惑を隠したまま接してくる時点で彼は櫛田の相談に見切りをつけた。

 

「そもそも、鈴音の気持ちも少しは考えたらどうなんだ? あいつもお前の言っていることに気付かない程鈍くはないはずだ。その上であの態度を取っているんだから、そこへお前がズケズケと――しかも何度か断られておきながら――押し寄ろうとするのは失礼過ぎるだろう。あいつのためにも、悪いがその相談には乗れないな」

 

 それだけ言って、足早に櫛田から離れようとする。

 

「あ、待って!」

 

 教室を出たところで、腕を掴まれてしまった。

 廊下はまだ帰宅を始める生徒で溢れており、多少なりとも視線を浴びる。

 綾小路は僅かに焦りを感じ、何とか逃げ出そうと試みる。

 

「……なんだ。話はもう終わったはずだろう」 

「え、えっと、ごめん。でも、私……」

 

 そう言って櫛田は目をウルウルさせる。

 ……しまった。

 どうやら無意識に威圧的な表情をしてしまったらしい。感情が表に出にくいはずの綾小路にしてはらしくない失態だった。

 ここで無理に断ると恐らく翌日には話題になっているだろう。「大天使を泣かせたクソ野郎」として。

 

「……オレに務まると思うか?」

「うん。寧ろ綾小路君にしか頼めないの、お願い」

 

 そう言って彼女は両手で綾小路の手を包む。退くつもりはないようだ。

 勘弁してくれ……。

 参ったなと頭を掻いて考える。

 せめて何か見返りを得ることができるなら、多少なりとも彼女の懇願に耳を貸す価値が生まれる。

 彼はまだ、慈善的に人助けを名乗り出る程の善意を持ち合わせていなかった。

 

「……わかった。協力はできなくとも、相談には乗ってやるから、そんな顔をしないでくれ」

「本当?」

「ああ、その代わりと言ってはなんだが、一つ話を聞いてもらえるか?」

 

 友達に溢れた生活を送る櫛田なら、あの疑問にも答えを出せるかもしれないと光明を見る。

 

「少し長くなる。場所を移そう」

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんだね……」

 

 人気のないベンチに移動し、綾小路はこれまでの経緯をかいつまんで話した。Sシステムなどの件は隠してある。

 彼女はこうやって色々な人の秘密を握っていくのだろうとは思いつつも、背に腹は代えられなかった。

 

「ああ。だから、今オレがお前に協力したところで余計拗れてしまうというわけだ。本当はあまりしたい話ではなかったんだが」

「ごめんね、何も知らずに。軽率だったよ」

「いいんだ。オレが今まで渋っていたのも悪い」

 

 何とか自分の態度に理解を示してくれたようで一安心する。

 

「それで、どうにもオレでは二人の気持ちを理解できなくてな。大勢と交友関係を築いている櫛田なら、何かわからないか?」

「うーん。私自身がその場にいたわけじゃないし、二人と直接話したこともないから、大層なことは言えないかな」

「……やはりそうか」

 

 別に絶対的な信頼を寄せていたわけではない。櫛田の発言は優に想像がついていたので、そこまで落ち込みはしない。ただ、このままではかなり不本意な結果となってしまう。折角妥協したのに無益に終わるのはあまりにやるせない。

 そんな胸中を察したのか、櫛田が再び口を開く。

 

「だけど、ちょっと安心したかな」

「え?」

「綾小路君って、けっこう優しいんだなあって」

 

 今一つ要領を得られず首を傾げる。

 

「今の話のどこにオレの優しさを感じる部分があったんだ?」

「だって、堀北さんに理解できないって言われて、言い返したんでしょ?」

 

 素直に頷いてやると、櫛田は相好を崩した。

 まるで、あどけない幼子を慈悲深くあやすように。

 

「じゃあ、綾小路君はどうしてそんなことをしたのかな? 私の勘違いじゃなければ、君はあまり感情的にはならない人だと思うんだね」

 

 どうして、と言われても、自分でもわからない。浅川のことを悪く言われるのがどうにも解せなかった、と言うのが正しいか。

 綾小路は、その旨をそのまま言葉にした。

 

「納得できなかっただけだ。オレは確かに目立ちたくないだけだったがあいつは、恭介は迷っていた。この学校で一番親しんでいた、はずだからわかる。あれは単に面倒くさがっていたわけじゃない。きっとオレには想像できないような葛藤があったんだ。それなのにああまではっきりと言われてしまえば、さすがにな」

「うん、嫌だよね。友達のことを悪く言われて不快にならない人なんていないよ。でも、それを隠さずに示せる人はなかなかいないと思う。だから凄いんだよ」

 

 優しく語り掛ける櫛田の言葉の続きは、彼を動揺させるものだった。

 

「綾小路君は、()()()()()んだよね。浅川君のことを酷く言われて」

「……怒って、いた?」

「うん。友達を想ってちゃんと怒ることができるのって、とても素敵なことだと思うな」

 

 彼女の言葉を、頭の中で反芻させる。

 オレは、怒っていたのか?

 よくわからない。何かに対し何かを思ったことなどなかった綾小路には、あまりに縁の無いものだった。

 他人の心は分析できても、自分の中で揺れ動くものの正体まで理解することはできなかった。だから、感情についてはいつも()()()()()()()()()()()()()。囲まれた枠の中で方程式を解くことしか、術がなかった。

 どう、なんだろう。これが怒りなのか、はっきりと断定することまだできそうにない。でもいつか、あの盟友と、隣人と、過ごす日々の中で知っていけたら。

 それが人生で初めて腹の底から沸き上がってきた「意志」であることに、彼自身は気づかなかった。

 

「――綾小路君?」

「……すまない。少し考えていたんだ」

 

 あの時堀北は、何を思っていたのだろう。その答えを知りたい。知らなければならない

 その欲求が、少しだけ彼を前向きにさせた。

 

「ありがとな、櫛田。気が楽になった」

 

 誰とも打ち解けられる彼女のコミュ力は、決して眉唾ではなかったようだ。綾小路の中で櫛田の株が少し上がった。

 

「ううん。結局ちゃんとした答えは出せなかったから、ごめんね」

 

 櫛田は至極申し訳なさそうに俯く。

 

「とんでもない。オレの方こそあまり協力できそうにないから、お釣りをもらってしまった気分だ」

 

 我ながら都合の良いやつだとは思いながらも、本心を伝える。

 

「えへへ、そう言ってもらえて良かったよ。――あ、そうだ。綾小路君、連絡先交換、お願いしてもいいかな?」

 

 先程と同じお願いだが、答えは決まっていた。感謝の印としてそれくらいはしてあげたかったし、彼の連絡帳に三人目の名前が登録されることは単純に喜ばしいことだったからだ。

 

「ああ、俺からも頼む」

「やった! これからよろしくね、綾小路君」

 

 櫛田は朗らかに笑った。

 ……なるほど、クラスの男子が熱中するわけだ。

 恋心などというものは未だ理解し難いものであるが、少なくとも今の笑顔が魅力的であることは理解できた。

 

『――Dクラスが落ちこぼれ集団だとしたら、平田や櫛田はどうなるんだ?』

 

 昨晩の電話で浅川が口にした疑問が過る。

 今回の会話を経て、それは更に膨れ上がることとなった。

 これ程までに社交的で優しい少女が、どうしてDクラスに選ばれたのか。その答えには何か大きな闇が纏わりついているように感じる。

 今は別段、それを咎めようとは思わない。

 胸の内に秘めた思いや後ろめたい事情などは誰にでもあるだろう。彼女の裏を覗こうにも、まだ櫛田という少女を知らな過ぎる。

 故に、

 ――今は、目に見えているものが真実だ。

 目の前にいる「天使」を信じる選択をした。

 やはり自分には、知らないことが多すぎる。これから少しずつ理解していって、ようやく抱えているものに触れ、受け入れていかなければならないのだろう。

 同じように、浅川と堀北とも――。

 綺麗なもの、汚れたもの……自分の憧れた世界にあったのは、決して眩しいものだけではなかった。

 飛び出した大空には翳りがあったことに、少し寂しい思いを抱く。

 しかしそれと同時に、自分から何かを学ぼうとすることがこんなにも心躍るものなのだと初めて知った。

 

「よろしく。これから櫛田のことも、少しずつ知っていけたらと思う」

「うん。私も綾小路君のこと、もっといっぱい知りたいな」

 

 彼女は相も変わらず、本当に()()()()()()()可愛らしい笑顔を向ける。

 いつかは笑う以外の表情も拝みたいものだと、綾小路は陰ながら願った。

 




こんなの清隆じゃないって方もいるかもしれませんけども、個人的な解釈ですね。

原作序盤の彼を見る限り、最初から彼にしっかり寄り添ってくれる、それこそ正真正銘友達と呼べるような同性がいれば、これくらい青春に前向きになれたと思うんですよ。原作だと、冷たい隣人に皆仲良く主義のせいで清隆一人だけと向き合う余裕のない平田と櫛田、くらいしか関われませんでしたから。

清隆に限っては、そういう存在の有無がかなり大きな影響を与えるんだろうなと思います。特に無人島試験より前の段階までは。

オリ主の存在で少し好奇心高めになった清隆くんが今後どう変化していくか、温かく見守っていてくださいね。

オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)

  • 止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
  • ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
  • 止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
  • ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
  • ムーリー(前後編以内でまとめて)
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