アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

83 / 129
繕日

「ごめん! 助けにはなれそうにない」

 

 Bクラスの教室前。

 再び鈴音に同行して向かった先で、告げられたのは無情な宣告だった。

 

「そう、よね」

「本当にごめんね。さすがにクラス規模となると」

「わかってるわ。虫の良すぎる話だし、望みは薄いと思っていたから。少なくとも私なら断ってる」

 

 両手を合わせる一之瀬に鈴音は淡々と言う。

 確かに期待はしていなかった。しかし……

 

「……一之瀬、それはお前個人の判断か?」

「え? えっとね――」

 

 彼女がその総意に真に賛成だとは、あまり信じられなかった。ただの、願望の押し付けかもしれないが。 

 言い淀む一之瀬。その背後から現れたのは、彼だ。

 

「俺の提案だ」

「神崎――なるほどな」

 

 神崎が打診したのなら納得だ。こいつは一之瀬と同じく人情を持ち合わせているが、リスクリターンに慎重な男だ。一之瀬も、彼の言うことならと判断したのだろう。

 

「すまない。俺個人としても、何かを目撃したわけじゃないから、力になれそうにない」

「いいんだ。恭介もクラス対抗に関係を持ち込みたくないと言っていたしな」

 

 友達のよしみをここにまで延ばすつもりはない。

 鈴音は一之瀬の気さくな態度に気圧されながらも会話を続けている。

 突然、神崎がこちらに耳打ちしてきた。

 

「調査の方はどうだ」

「進展はある。が、芳しくはない」

「……職員室には?」

「職員室?」

「念の為行ってみろ。巡回していた教師が何か見ていたかもしれない」

 

 なるほど、この学校のセキュリティは厳重とはいえ、それを補強するように教師の巡回も行われている。ピンポイントの時間と場所を回っていた可能性はゼロではない。

 しかし……また違和感だ。

 

「この後行ってみる」

「健闘を祈っているぞ」

 

 

 

 Dクラスの二人が去った後。

 

「何だか騙してるみたいで良い気はしないなあ」

 

 一之瀬がぼやく。

 

「悪いな。だがこれで、少しは確実性が増す」

「うぅ、わかってるんだよ? わかってるんだけどねえ……」

 

 本当のところ、Bクラスは――と言っても一部の人間だが――既に今回の事件に関与している。

 それをDクラスに明かさなかった理由。それは、

 

「作為の可能性を悟られないため。抜かり無いね」

「考えたのは、俺だけじゃない」

「にゃはは、まさかここまで行動力と知性を持ってる人だとは思ってもみなかったよ」

 

 何もなかったとしても、BクラスはDクラスにできる限りの協力はするという総意になっていただろう。しかし、彼にここまでお膳立てをされてしまっては致し方ない。これも勝利のため、と言うのなら、まして誰かを傷つけることにならないなら、甘受できることだった。

 一之瀬たちがサポートするのはDクラスではない。一人の少年だ。

 

「こんな大掛かりなことをして、一体何が目的なんだろう。本当に須藤君を救うこと?」

「…………さあな」

 

 言葉を濁したが、神崎はその目的とやらを本人から聞き及んでいた。信頼故の告白であったからして一之瀬に明かすつもりは毛頭ないが、問題は……。

 

「心配だな」

「上手くいくといいね」

 

 そういうことでは、ないのだけど。

 思い過ごしであれば、ただの杞憂であればと、複雑な心境を抱く神崎だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 午後の課業を終え放課後に入るや否や、オレは一人職員室を訪ねた。鈴音は平田から話を聞いている最中だ。須藤と相対した石崎について、掲示板に情報が寄せられたらしい。

 

「お前が直々に単独行動とは珍しいな、綾小路」

 

 あまりうちの担任を頼るのもどうかと思うが、まずは彼女に話を聞くのが自然だろう。

 

「須藤が起こしたとされる事件当時、特別棟やその周囲にいた教師に心当たりはありますか?」

「ふむ……巡回の教師か。ちょっと待っていろ」

 

 二、三分程して、先生が帰ってくる。

 どうやら件の教師は、四月の水泳の授業で指導をしていた人のようだ。

 

「話はできますか?」

「勿論だ」

 

 示し合わせたように大柄な男が現れる。

 

「君は――覚えているよ。確か妙にセンスがあった生徒だ」

「人違いでは? 凡の評価が相応しい順位だったと思いますけど」

「曲がりなりにも国が誇る学校の教師だぞ。フォームや筋肉の付き方を見れば、君が手を抜いていたことくらい気付く」

 

 ……ああ、オレの浮かれポンチが酷かった時期だ。調子に乗ったツケがこんなところに回るとは。

 

「あー、っと、申し訳ないです」

「いいんだ。ちゃんと泳げるという結果を確認できれば十分だったからな」

 

 アイスブレイクを終え、互いに襟を正し本題に入る。

 

「六月三十日の午後六時頃、先生はどのあたりを巡回していましたか?」

「六時、というと、確か校門を通った先の大通りを歩いていたな」

「その後は?」

「特別棟の方へ向かった。お前達の学年で話題になっている暴力事件があった現場だ」

 

 まさか、ビンゴだって……?

 すると突然、茶柱先生が横槍を挟む。

 

「待ってください。本来の巡回ルートでは、そこを通るのはもう少し後では?」

「生徒から苦情が入ったんだ。やたらと耳障りな音がするとな」

「耳障りな、音……?」

「ああ。だから臨時で行ったんだが、着いた時にはそんな音しなかったから、その生徒の勘違いかちょうど鳴り止んだ後だったのかもしれない」

 

 音、か。この前聞いたな、似た証言を。

 

「では、着いた先で何か見ませんでしたか?」

「うーん……中にまで踏み込んだわけじゃないから、何とも言えないな」

「どんな些細なことでもいいんです。目を引いたものでも」

「………………あ、そういえば」

 

 先生は一度席を外し、何かを手に持って戻ってくる。

 

「こいつを拾ったんだ」

「これは…………」

 

 スパイク……!

 

「一体どこに?」

「特別棟を出てすぐのところだよ」

 

 事件現場の直下じゃないか。

 確か持ち主は柴田というBクラスのサッカー部だったはずだ。何故名乗り出なかった? 昼休みにBクラスに話を聞きに行った時は何も……。

 ……いや、焦りすぎだ。この証拠だけでは柴田が何かを目撃したことの証明にはならないし、もし何かを知っていたとしてもあの時名乗り出なかった時点でこちらの要請には応じるつもりがないということになる。

 強硬手段、はさすがにマズイか。本来の裁判では証人に証言を強制させることは証人威迫罪になる。この学校がそれに近しい処罰を審議に適用させないとは限らない。

 

「大丈夫か?」

「……はい、ありがとうございます。あの、これ、持ち主に心当たりがあるので、預からせてもらってもいいですか?」

 

 とりあえず、善良な一般高校生として、落とし物は持ち主に返しておこう。

 

 

 

「うへぇ、全然それっぽい情報集まらねえよぉ」

 

 池がへなりと机に突っ伏し、唸り声をあげる。

 Dクラスの教室には、綾小路と浅川を除いたお馴染みのメンバーが集まっていた。

 

「結局まともな目撃者は、佐倉さんたちだけだったね」

「明日の審議、これで勝てるのかよ?」

 

 沖谷と山内も、各々不安を零す。

 

「……難しいね、正直」

「平田……悪い、迷惑かけちまって」

 

 リーダーを張る平田の苦々しい表情。以前の浅川の言葉といい、須藤が罪悪感を覚えるには十分だったようだ。至極申し訳無さそうにしている。

 

「ある意味、必然的な結果よ。事件自体が仕組まれたものだとしたら、不確定要素は取り除いてあるだろうし」

 

 彼の精神的な一面に僅かながら変化があったことは認めるが、それで状況が好転するわけでもない。堀北は冷静かつ残酷に現実を口にする。

 

「完全無罪は不可能、だったよね……。このままじゃ須藤君に重い罰が……」

「こちらの手札は、佐倉さんたちの証言・証拠、バスケ部の実情、現場の不自然さ、そしてさっき届いた『石崎君が喧嘩強い不良だった』という情報。少ないわけじゃないけど、どれも曖昧で弱い」

「上手く言葉を並べて処罰を軽くするのが、関の山かしら。精々頑張りなさい」

 

「え?」平田と櫛田が目を見開く。「堀北さん、審議に出ないの?」

 

「は? 出るのは当事者の須藤君と、Cクラスの人数に合わせて二人でしょう。平田君と綾小路君に任せるものだと思っていたけど」

「僕は堀北さんと綾小路君だと思っていたんだけど」

「私も!」

 

 何で?

 自分が出るメリットが浮かばない。頭である平田が出るのは勿論、そこに添えるのは同性かつ頭と口の回る綾小路であるべきだ。

 しかし意に反して、他のみんなも同意見なようだ。

 

「堀北さんならって、多分みんな思ってるよ」

「俺もどうせなら、お前に託したいって思ってるぜ」

 

 えぇ……。

 気乗りしない、が、悲しいかな。世の中は民主主義、多数決が最も楽に回るものである。

 思い切り眉間に皺を寄せるが、それを揶揄う二人がいないこの場で軽々と指摘する者はいるはずもなかった。

 

「…………期待しないで」

 

 

 

「何でオレなんだよ」

「あなたが出ることにだけは誰も反対しなかったわ」

「こういう時だけ仲良い風を装って……!」

「良かったわね、信頼されて」

「……お前も良かったじゃないか。リーダーに一歩近づいたな」

「くっ……」

 

 電話の向こうでクスクスと笑う声がする。みんな気楽でいいな。どうして乗り気でない二人がよりにもよって出なければならない。

 

「はぁ……まあこういう時に断りきれないのが哀れな性分だが、お前はいいのか?」

「それは私だって」

「そうじゃない。わかってるのか? 生徒どうしのいざこざの審議、実質仲裁だ。そしてうちの生徒会は一生徒の入試結果を確認出来る程に強い権力を持っている」

「……っ」

「明日だぞ。行けるのか?」

 

 言いたいことは伝わっているはずだ。何と答える。

 

「……やるしかないわ。あの人ならこの土壇場で逃げないし、負けない」

「……わかった。明日、頑張ろう」

「あなたも発言しなさいよ。最近上がり調子のコミュニケーション能力で」

「嫌味か! ……報告ありがとな、切るぞ」

 

 状況が状況だ。あまり無駄な長電話は、彼に失礼になる。

 

「残念だったな。お前の細やかな願いは叶わないようだ」

「……明日、よろしくお願いします」

 

 堀北学生徒会長。今回の審議に生徒会が関わるという話は、今しがた遭遇した彼から得たものだ。

 

「勝てそうか?」

「兄妹揃って、嫌味が得意ですね」

「大方、Cクラスの計略だろうな。先手をまともに食らった時点で、難題だ」

「詳しいっすね。他学年のことなのに」

「嫌味か」

 

 単に権力を行使したというだけでは説明がつかない。己の頭脳を以て、彼なりに事件の様相を掴んでいるのだろう。恐ろしい男だ。

 

「……まあ、何とかなるんじゃないですかね」

「策でもあるのか?」

「いや、オレは特に」

「なら――浅川か?」

「あなたには何が見えているのかわかりかねます。あいつは一連の情報収集に関与していませんよ」

「……なるほど、面白い」

 

 待て待て何を察した。オレも確証がないからこそフワッとした回答をしたというのに。 

 

「お前達二人にしか通じ得ない、糸があるということだろう。それを阿吽の呼吸、俗的には『絆』と言う」

「……さあ。まだ手繰り寄せているところですから」

 

 もしかしたらこの人は、既に全てをわかっているのかもしれない。事件の真相、恭介の言動と心理、オレが吟味している取っ掛かり、その全てを。

 不意に「会長」と、彼の背後から橘書記が現れる。髪を纏めた二つの団子が、動物の耳のようで可愛らしい。

 確か以前、彼女は生徒会長のことを「学君」と呼んでいたはずだ。クラスやプライベートでの関わりと、生徒会での関わりとで分けているのだろうか。随分と律儀な……。

 どうやら生徒会室に向かうらしく、会長は踵を返す。

 

「明日、どれだけお前達が足掻けるか楽しみにしていよう」

「…………堀北学先輩」

 

 初めて、この呼び方をした。

 普段とは違うものを察したらしく、思わずといった調子で彼が僅かに身体をこちらに向ける。橘先輩は、目を瞬かせて今ひとつ察していないご様子。

 

「一個人としての興味で、あなたにお聞きしたいことがあります」

「……言ってみろ」

 

 あくまで会長と一般生徒ではなく、対等な個人として、オレは問う。

 

「――あなたたちは、お付き合いなさっているのですか?」

「………………え!?」

 

 応答したのは、橘先輩の方だった。

 

「な、ななな、何を言っているんですかあなたは!?」

「いや、学先輩にしてはやけに親しげで、信頼しているようですから」

 

 これは事実だ。正直ギャップというか、意外性がある。

 

「……嫌味か」

「嫌味です」

 

 これも事実。

 どことなく不機嫌さは覗いているものの、動揺した素振りすら見せないのはさすがの威厳だ。

 

「……誰も信じなくては得られない勝利は多い。優秀だから行動を共にしている、それだけだ」

「……へえ」

「お前もそう考えたから、浅川や鈴音たちと肩を並べようとするのだろう?」

 

 ………………。

 なんか、けっこう真面目な話になったゃった。

 

「あの、オレがしたいのはそういう話では」

「行くぞ橘、時間がない」

 

 嘘だろ、こんな形で逃げられるとは。

 

「綾小路、俺はお前の能力を買っている。だが、私的な会話は噛み合わないようだ」

「それは悪友って言うんですよ」

 

 というか、ぶった切ったのはあんたじゃないか。

 とても逃げているとは思えない堂々とした振る舞いで、彼は廊下を歩いていく。

 

「……生徒会長」

 

 今度はこっちの呼び方。彼は振り向かない。

 

「前のテストの件、ありがとうございました」

「……お前達が礼を述べる必要のない取引だった。鈴音から聞いた限り、上手く扱えたようだな」

 

 オレたちだけにしか理解できないやり取りだ。再び小首を傾げる橘先輩に、少しぎこちなさげに対応する会長の姿は、曲がり角に消えた。

 ……何だかんだ、似た者兄妹なのかもしれないな。

 

 

 

 恭介の寮室に入ると、そこに彼の姿はなかった。

 代わりに、儚い容姿の少女が出迎える。

 

「こんにちは、綾小路君」

「こんにちは。恭介は?」

「行くところがあるからと言って、学校に残っているそうです。珍しいですよね」

 

 確かに珍しい。登校程ではないにしても、大抵直帰していた印象だ

 

「気にならないのか?」

「――はい。必要ないので」

 

 ん……? 気のせい、か。

 

「いよいよ明日が審議ですね。自信の程は?」

「ないな」

「直球ですね」

 

 眉をハの字にして笑う。取り繕ってもしょうがないことだ。

 

「それは?」

「気分転換に、ミステリー以外にも手を出してみました」

 

 そう言って椎名が見せてきたのは本の表紙。タイトルは、

 

「マッチ売りの少女」

「アンデルセンの作品です」

 

 貧しい少女の淡い最期を描いた短い創作だ。確か、編集者から送られた木板画をモチーフに書かれたのだとか。

 

「稀に少女が助けられる結末が描かれることもあるらしいですよ」

「そうなのか。でも、俺は原作通りの方が好きかな」

 

 あの作品は少女が叶うはずのない理想を描きながら、ぽつりと命の灯火を絶やしてこそ完成される。可哀想だからと救ってしまっては、恐らく込められた意味を台無しにしてしまうはずだ。

 

「……」

「どうかしましたか?」

「……いや、確かに珍しいなと思って」

 

 言えるわけがない。こんな女々しい感情、反吐が出る。

 オレはもう、憐れなんかじゃない。憐れなままには、ならない。

 沈みかけた心を叩くように、躊躇いのない勢いで扉が開く。

 

「ただいま。――あれ、今日はあんたもいる日か」

 

 神室が驚いて言う。

 

「綾小路君も、今来たばかりですよ」

「ふーん」

 

 神室は椎名や神崎と違いこれといって交流が盛んではない。お互い話を広げるのが得意ではないからだろう。どことなく、鈴音の棘を良い意味でも悪い意味でも削ったような性格だ。

 加えて、彼女自身、立場上他のメンバーほど頻繁には恭介の部屋を訪れていなかったりする。

 

「今日はフリーなんだな」

「召使いじゃあるまいし、ずっと一緒にいるわけじゃないわ。あんたたちとは違ってね」

「え、オレと恭介もそういうわけじゃ……」

「傍からは見えるけど。浅川はともかく、あんたが他の人と話すところ、そんなに見ないから」

「……そうっすね」

 

 どうやら悪意はないようだ。それだけに、余計傷つく。皆どうやってトークデッキを手に入れているのだろう。

 

「……浅川は、今日も来てないのね」

「最近は集まってないのか」

「うん。椎名や神崎とは学校で会ってるらしいけど、私はここでしかあいつと話さないから」

 

 何やら物憂げな表情をしている。彼に対して、思うところでもあるのだろうか。

 

「ていうかいいの? こんなところにいて。随分と余裕そうじゃない」

「できることが少ないだけだ。今回の件、坂柳は動かないのか?」

「答えるわけ、って言いたいとこだけど、多分何もしないわ」

 

 動かないのなら、それを明かそうが明かさまいがオレたちに影響はない。ということか。

 

「坂柳さん……真澄さん、坂柳さんはここへは来ないんですか?」

「え、何、急に」

「ぜひ一度くらい、お勧めの本を語り合いたいと思っていたのですが。坂柳さん博識そうでしたし、浅川君のように新たな発見をもたらしてくれるんじゃないかと期待しているんです」

「…………来ないと思う。坂柳は浅川のこと嫌いみたいだし」

「……」

「ちょ、ちょっと、そんな悲しそうな目しないでよ」

 

 坂柳が恭介のグループにね、まああり得ないだろうな。

 来てくれる見込みがないことになのか、坂柳が恭介を嫌っていることになのか、ショックを受ける椎名を神室が宥める。ほう、案外面倒見が良いんだな。椎名にだけか?

 

「やっぱ実行すべきだったんじゃないか? 追加メンバー」

「……ちょっと後悔しています」

 

 新メンバーを招くという提案は恭介から出されたものだ。目安は各クラス一人、かつ男女比率が等しくなるように。オレが関わりを持ったことを良い機会だと判断したのだろう。

 しかし元祖メンバーの三人は全員反対。まず挙がった意見は「合コンみたいで嫌だ」とのこと。他にも、パーティーのような人数で煩わしくなりそう、関係が希薄になって結局グループが分割されてしまうかも、などなど。

 正直合コンなるものはよく知らないし、オレはどちらかと言うと賛成だったのだが、四面楚歌では抗う術などない。恭介はその日暫く部屋の隅で体育座りをしていて、その姿から漂う悲壮感ったらなかった。

 

「私は反対。これ以上賑やかなのは苦手だから」

「気持ちはわかります。綾小路君のように落ち着いた性格の人なら――うちだと伊吹さんなら、ありかもしれませんけど」

「……こっちはキツいかな。口数少ないっていうと鬼頭とかいるけど、あれは本当に最低限しか喋らないし、読書するとは思えないから」

「…………難しいか」

 

 別に今の関係が物足りないというわけでない。新参者の影がないのであれば、その分彼女らとの関係を大事にしていくだけだ。

 

「あ、そうです真澄さん。これ、見てください!」

「へ? な、何」

「先週まではなかった蔵書です。確か真澄さん、この作者の作品が好きと言ってましたよね? ぜひ」

「い、いや、それはそうだけど」

「ぜひ」

「だ、だから」

「ぜひ!」

「…………わかったわよ」

 

 両手で持った一冊を神室の眼前まで突きつけていた椎名は満面の笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます。でしたら隣に来てください。今日も読書会やりましょう」

「……新メンバー、私も考えるべきかな」

 

 バツが悪そうに頭を掻く神室だが、その表情は少し穏やかだ。結局素直に従い、椎名の隣に腰を下ろす。

 オレ、もしかして邪魔だったかな。

 

「綾小路君もこちらに」

 

 そうでもなかったらしい。あるいは気遣いだろうか。

 

「さっき蔵書って言っていたけど、椎名は一人で図書館に行ったの?」

「この前まではそうでしたけど、最近浅川君がまた一緒に来てくれるようになって、その時に見つけたんです」

「ああ、そういえば最初の頃もあんたたちはそんな感じだったわね」

「今度は真澄さんも一緒にどうですか? できたら神崎君も一緒に」

「多すぎじゃない? 図書館に行く人数じゃないでしょ」

「そうですか……」

「……全員の都合が合う日、浅川にでも相談してみたら?」

「――! はい、そうします」

 

 平和だなぁ。

 明日が事件の審議なんて、嘘のようだ。南東トリオとはまた違う心地良さ。

 宿主のいない宿で、オレは新刊のページをめくった。

 

番外編第一弾(題はナイショ)

  • 六月下旬(1章~暴力事件)
  • 七月下旬(期末テ⦅暴力事件⦆~三巻)
  • 八月中旬(四.五巻前後)
  • 夏休み以降の時系列がいい
  • やらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。