アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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自分が何を考えていたのか何度もわかりなくなっては思い出して書いています。ミステリーを書く人の構成力を思い知る次第です……。

※話の展開が明らかにおかしくなる部分に気付いたので、冒頭のシーンを何か所か変更。柚原医師の台詞も一つ(「十七時半」→「十九時半」)修正しました。


分譚

 嫌にませたミラーボールが目に毒だ。ロックなBGMも耳障りで、不快感を増幅させる。

 手元のグラスを見る。半透明なノンアルコールカクテルは、大して舌が好んでいるわけでもない。

 場所も苦手だ。自分のクラスが迷惑極まりない特色を持っていなければ間違いなくここにはいなかった。

 独り嘆息を吐いていると、開いた扉から三人の男が入室する。

 

「……すみません。もしかしたら、見られたかも、しれないです」

 

 一歩前に出た少年が肩を抑えながら申告した。

 相対するのは、どっしりとソファに構える長髪の男。

 

「……アルベルト」

 

 彼の呼びかけで指図の全てを理解した少年が、三人の前に立つ。縦横に大きな体格、男らしさを嵩増しする黒い肌、柄の悪さを感じさせるサングラス。

 

「I'll punish you」

 

 そこからはまた、見慣れた光景だ。大男にこれでもかと拳の雨を浴びる三人の憐れさといったらない。かくいう自分も、初めはその手厚い洗礼を受けた。

 ムカつく現状だ。沸々と湧き上がる瞋恚を、水分で誤魔化す。

 

「被害者らしさが足りねえな。もっと思う存分殴らせなきゃ駄目だろ」

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 虫唾が走る。目の前の虐待も、それを日常と見なす周りの連中も、諦めに近い感情を抱いている自分自身も。

 すると突然、一度閉まったはずの扉が再び開いた。

 

「あ、あの……!」

 

 人の声が途切れる。乱痴気な音楽だけは一定で、今この瞬間から場違いだ。

 

「お前は……」

 

 威圧感のある王の問いかけに、突如乱入した少年はか細い声を漏らす。

 アイツは……知っている。最近()()()()()()()()()()()()()()()だ。平生と比べて異様に余裕が無い。

 

「み、見ました! 僕、見たんです、その人たちが須藤君を騙したの」

 

 華奢な外見から飛び出た大打撃の発言に、関係者の表情が動く。

 

「何か勘違いしているようだが、暴力を振るったのはアイツだぞ」

「でも、写真撮りました。須藤君が虐められてるところ」

 

 そう言って取り出したのは、確かにこちらのクラスの三人が須藤という生徒を囲んでど突く場面だった。恐らく相手に殴らせるため、過度な挑発を行ったのだろう。

 部下の失態に、王が不機嫌になるのを肌で感じ取る。面倒なことになったものだ。

 

「須藤君を嵌めて、訴えるつもりなんですよね? だったらその前に、今から先生にこれを送りつけます」

「……ハッ、態々それを言うためだけにここへ来たのか?」

 

 うちのリーダーを上回る長さの髪が、ピクリと揺れる。

 

「ち、違います! これをそちらに渡す代わりに、約束して欲しいことがあるんです。ちゃんと、書面にも書いてもらって」

 

 取引か。まあ当然だろう。それ以外の目的はあり得ない。

 

「クク……こいつは傑作だな。そうもあっさりクラスを裏切るとは、肝が座ってやがる」

「う、うるさい! あんまり余計なこと言うと、本当にこれを送りますよ!」

 

 腰の引けた脅しに、顔を顰めるのが見えた。あからさまな小心者のくせに、主導権が向こうにある感が気に入らないのだろう。更に言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、先手を打たれたのだ。

 だが、少年はここがどういう場所かを失念している。

 

「……なるほど。お前の目論見通り、そいつが外に出るのは致命的だ。ただ、何もお前にそいつを手放させる手段が一つとは限らねえ」

 

 その言葉に合わせて、数人の男子生徒がか弱い鼠を取り囲んだ。

 嗚呼、可哀想に。

 

「監視の目がない場所にみすみす顔を出すとは、少しばかり頭が足りないんじゃねえか?」

「ひっ――」

「証拠の運搬、ご苦労だったな」

 

 少年の正面にいたクラスメイトが殴りかかる。少年はそれに反応することもできずもろで喰らった。

 次に背後の生徒が、腹を抱える少年の髪を引っ張る。無理矢理自分の方を向かせ、更に殴る。

 派手によろけた彼の脇腹を別の生徒が蹴ると、衝撃と痛みで倒れ込んだ。

 地に手を付けたらもう終わりだ。そのまま食べカスに群がるアリのように、暴漢によるリンチが始まった。

 もはや動じることもない。単にその蹂躙への嫌悪感に目を伏せ、酔えない酒を口にする。

 どうせ間もなく泣きながら無条件に写真を提供するか、誰かに端末を奪取されるかのどちらかだろう。そんな推測を抱えながら。

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……しかし、その宛は大きく外れた。

 

「……もういい、下がれ」

 

 静かに告げられた指示に、配下が迅速に従う。

 

「とんだバカがいたもんだ。うちのクラスにもお前ほどタフなやつはいなかったぜ、見かけに寄らないな」

 

 何度も苦悶の声をあげたにも関わらず、少年は降伏しなかった上、頑なに端末を両手に握りしめ続けた。その頑固さは、言葉の主がクラスの頂点に君臨するまでに見せた勝利への執念に匹敵するものがある。

 ――へえ、やるじゃん。

 しかしだからこそ、彼は「ただ粘り強い人間」がどれだけ厄介なのかを理解している。故に目の前の強かな鼠を暴力で屈服させるという考えは、既になかった。

 身体の傷は誤魔化せないのだろう。起き上がることのままならない少年に、言い放つ。

 

「いいぜ、お前の言う取引ってやつに乗ってやる」

 

 一見譲歩にも取れる言葉。しかしそれさえも怪しい。過剰な損失を被る条件や気に入らない条件があれば、お家芸で捻じ曲げようとするのだろう。

 

「……わかりました。僕が要求するのは――」

 

 藍色の髪に紛れた瞳は、微かでも力強い朱に光っている。

 ……この先の顛末など、どうでもいい。

 今はたった一つ、胸のすくような感情が胸中にあった。

 ――――ざまぁ見ろ、龍園。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 無機質なコール音が、右耳に響く。

 一定のリズムで続き、やがて途絶えた。

 ……これで十三回目、か。

 またインターホンを鳴らしに行っても無駄だろう。というより、一度管理人から注意を受けてしまった。危うく変質者扱いされると。確かに女子寮の一室の前で延々呼び鈴を鳴りし続ける男子生徒など、隣の部屋の住人が通報しかねない。

 膨れ上がる感情から意識を背けるように、溜息を零す。

 GPS機能を使ってみても、反応は間違いなく鈴音の部屋だった。z座標は表示されないため上空や地下の可能性も……さすがにないか。

 他の友人にはまだこの事態を知らせていない。事が大きくなるだけで、およそ進展の未来が見えないからだ。

 平田には連絡しておくのもありかと思ったが、問題はあった。

 今日は休校日。未だ冷たい印象を持たれている鈴音なら、こういう時の音信不通も致し方ないと考えるクラスメイトは少なくない。穏健な方へ思考が行きがちな彼が静観する可能性は高かった。

 須藤の件だけでも手一杯だと言うのに、ある意味それ以上の問題が起こってしまった。よもや敷地外に誘拐されたわけでもあるまいが、不安は拭えない。

 突然、端末が震える。

 慌てて相手を確認すると、恭介からだった。

 

「おー、おぱよ」

 

 昼だ。

 

「どう? 進捗」

「いやそれが……何から話せばいいか」

 

 とりあえず暴力事件について一通り説明してから、鈴音の失踪を打ち明けることにした。

 オレたちの仲だ。きっと恭介ならすぐに信じ

 

「ええぇ? まっさかぁあ」

 

 てくれないのがコイツだったか……。

 

「十三回だぞ? 不審者扱いされるまでインターホンも鳴らした」

「端末も本人の部屋。翌日の昼までやり取りゼロ。あっはは、役満だね」

「笑い事じゃ」

 

「笑い事のつもりはないよ」口調は間延びしているものの、語気には力があった。「笑い飛ばしているだけさあ」

 

「お前……」

「焦りは思考を鈍らせる。って、それくらい君ならご存知だろうに。珍しいこともあるものだね、君が落ち着きをなくすなんて」

 

 確かに、らしくはない。オレがこうも他人に関心を持ち、憂慮を抱くことになるとは思っても見なかった。しかし、今はその感慨に耽っている時でもないはずだ。

 極めつきにはオレ個人の都合もある。失踪が肥大化すれば間違いなく警察沙汰だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。万が一が起こった時、父親(アイツ)はその隙を逃さないだろう。

 

「どういう状況かもわからないんだ。最悪――」

「君の言う通りなら、もうこの時点で≪ゲームオーバー≫だ」

 

 存外、恭介は淡々としている。

 

「ユーモアを保ちたまえよ清隆。漢は不安な時こそ、ふてぶてしく笑うものだよ」

「…………はぁ、心得た」

 

 ここまで諭されて感情に飲まれる程落ちぶれてはいない……。まずは方針を決めよう。

 

「君らは捜査があるんだろう? 他の人に言ってないなら、鈴音は僕に任せなあ」

「いいのか?」

「健の方とは完全に別だ。問題ない」

「……やはり、須藤の事件だけは関われないんだな」

「うん」

 

 相手がオレだけの時はやけに素直で、口が緩い。そのまま何を抱えているかまで滑らせて欲しいのだけど。

 

「わかった。鈴音の捜索は、お前を信じる」

「信じられましたっ」

 

 後ろ髪は引かれるものの、そっちに気を取られて須藤を見捨てるわけにもいかない。オレのコミュニティの中では最も頼りやすく、力量のある彼に託さずして、他人に委ねることはできないだろう。

 

「そういえば、議論の後に生徒会長が神崎に含みのあることを言っていたが、関係あるか?」

「え? いや、チョーさんは何も……うぇ、まさか、お見通しってわけ……?」

「……事情まではわからないと言っていた」

「びっくりしたぁ……なら大丈夫。おっそろしいねぇチョーさんも」

 

 不思議な状況だ。こいつは隠し事があるとバレていることを、オレは隠し事の中身が全くわからないことをさも当然のように受け入れている。

 互いに害のないことだ。二人の間に蟠りがないのなら、何ら問題はない。

 

「君の方はどうするつもり?」

「ケヤキモールに行ってみる。色々と、()()()()()()調べてみるつもりだ」

「……そっか」

「それから、今日中にできるかわからないが――()()()()、Dクラスの証人に当たってみる」

「うん、いいと思うよ」

 

 段々と確信めいてきた。今まで胸糞の悪いものばかりだった中に紛れ込んだ、一筋の光になりうる希望的な観測が。

 オレが間違わなければ、きっと勝てる。

 

「君は健を、僕は鈴音を救う。大丈夫、僕らなら大丈夫さ。何だかそんな気がする」

「……そうだな、お互い最善を尽くそう」

 

 本当だ。どことなく何とかできるという、言い様の無い安心感を与えてくるのは、彼の性格故か、口調故か。恐らく天性のものなのだろう。

 そうだ。今はオレにできることをしよう。

 決して楽観視できる状況ではない。だが……

 今のオレこそが『らしさ』なのだと、みんなに認めてもらうために。

 

 

 

 

 

絶えずあなたを何者かに変えようとする世界で、自分らしく在り続ける。それこそが最も素晴らしい偉業である。

To be yourself in a world that is constantly trying to make you something else is the greatest accomplishment.

 

ラルフ・ワルド・エマーソン

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 設備が整っているとはいえ、ここは学校の敷地。受け入れる患者が限られているため、構える病院の大きさは然程ではない。

 

「な、何かさ、こういうとこくると緊張するよな……」

「……? そうか?」

「わかんない? やたら静かだったり真っ白だったりで、そわそわしちゃう感じ」

 

 静かで真っ白……ヤバい、幼少期は永らくそういう空間にいたせいで全然共感できない。慣れない場所だと言いたいのだろうが。

 すまないな、()

 

「てかさ、何で俺なの?」

「何でだろうな」

「えー……そこはちゃんとした理由とか欲しかったわ。数合わせってこと?」

 

 平田に連絡したら池か山内を同伴しろと言われたのだ。断りようもない。

 山内が静かにできるか怪しかったので、今回は池に来てもらった。今じゃこんな感じだが、中に入れば多分空気を読んでくれる。

 

「何を聞くかわかっているな?」

「えーと、多分……?」

「おい……」

「じょ、冗談だって! いや、冗談じゃないけど……わかってくれよ、あんま自信なくってさ。覚える努力はしてるから」

 

 まあ、いざとなったらオレが全部聞こう。

 じゃあどうしてオレ一人ではないのかと文句を言われるかもしれないが、学校という性質上踏み込んだ詮索は難しいのだ。

 これが企業間のやり取りなら自社の名を借りてアポイントを取れるが、オレたちの場合は『○年×組』になってしまう。できるだけ団体としての重さや案件の大きさを認めてもらうには、単純に人数で攻めるしかないし割と効果的だ。

 そんなことを露にも知らない池には、こう言っておくのが一番適切だろう。

 

「櫛田に良いとこ見せられるよう、頑張るぞ」

「……! お、おおう、やってやるぜ!」

 

 ほらな。

 

 

 

 受付の人に名乗ると、思いの外すんなり通してくれた。生徒への対応はお手の物である故、フランクな受け答えが適っているとわかっているのだろう。

 応接室には男性の医師が一人。石崎らを担当したという方だ。

 

「一年D組の、綾小路清隆です」

「お、同じく、池寛治です……」

 

 隣でガッチガチな自己紹介がする……。

 

「柚原です。――そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ、池さん」

「は、はい! 畏まらずにいかせていただきます!」

 

 患者として接する時とはまた違った感覚なのだろう。緊張した声音に柚原医師も苦笑している。

 

「それで、石崎さんたちについてでしたか?」

「はい。まず、彼らがいつ頃来たか教えてもらっていいですか?」

 

 学校の施設としての側面はあるものの、ある程度個人情報の管理は行われている。カルテや突き詰めた質問に応えてもらうわけにはいかないが、そうでないものならと、許諾を受けた。

 

「大抵の部活が終わって、暫く経った後――『十九時半ごろ』、ですかね」

 

 池から視線を感じる。マズイんじゃね? と。

 確かに、須藤の事件発生から一時間半後となると直接病院へ行くには時間がかかりすぎる。つまり、石崎たちの証言が正しく柴田の証言が虚偽――。

 やはりオレたちを助けるために、無理に庇っているだけなのか?

 

「……本人たちの様子はどうでしたか?」

「うーん……特段の事情がない限り憚れますが……」

 

 彼の言う『特段』に一身上の都合は入らないのは、無理もない。

 

「せ、先生から見た状態だけでもいいんで」

 

 拙いながら、池がフォローする。やはりいざとなれば動けるようだ。

 

「そうですね。ここへ来た時は、顔面だけでも数箇所、打撲の跡がありました」

「診察の時は?」

「服の下もかなり。丹青な跡が見られました」

「げっ、めっちゃ痛そうっすね……」

「はい。消毒の度に声を漏らしていて――ちょっと申し訳なかったですね」

「でもそうしないと、後々辛いんですよね」

「その通りです」

「いつもご苦労さまです!」

「いえいえ」

 

 ……あらやだびっくり。普通に雑談しちゃってるわ。

 池の社交性を称えたいところだが、生憎そんな時間ではない。

 

「どうすんよ?」

「そうだな。……」

 

 傷が浅ければ柴田の証言に天秤が傾いたが……分が悪いな。

 次の手は……

 

「他には何か?」

「……いえ、特には」

「なあ綾小路」

 

 渋々話を終えようとしたところを、池が止めた。

 

「傷のこと、もうちょい詳しく聞いてみるのは?」

「だが……」

「この際何でもいいから、有利な情報手に入れとかないとマズイだろ」

 

 ……池なりに、須藤の心配をしているんだな。

 

「……柚原さん。そういうことですので、傷のことについてもう少し詳しくお願いします」

「詳しくと言われましても……」

「部位に偏りがあったとか、殴られた以外の傷があったとか、何でもいいです」

 

 暫し首を唸らせる柚原さん。やがて、歯切れ悪く答えた。

 

「大体全身に渡ってでしたよ。ガーゼにも血がよく染み込んでいましたし、私の見落としというわけでもなければ全部人の拳や脚で打撃を受けたものだったと思います」

「…………そう、ですか」

 

 芳しい情報、あっただろうか……。

 

「以上でよろしかったですか?」

「……はい、ありがとうございました」

 

 

 

「どうよ綾小路。何とかなりそう?」

「……どうだろうな」

 

 どうもこうもない。最悪と言っていい。

 結果を纏めるなら『柴田の証言が間違っていると示す証言を得た』だけだ。

 

「まあ頑張ってくれよ。お前なら大丈夫だって」

「オレ、そんな信頼されるようなことしたか?」

「この前の審議、延期に持ち込んだのは綾小路のおかげだって平田から聞いたぜ?」

 

 脚色しすぎだ……神崎のおかげと言ったはずだが。

 

「それに中間テストの時、俺たちに色々教えてくれたじゃん」

「微力だったけどな。オレ自身勉強が得意ってわけじゃない」

「んな細かいことはいいって。こっちが助かったと思ってるのは本当なんだからさ」

 

 カラッと称賛する池。何だかむず痒い。

 

「……はっきり言って、逆転は難しいぞ」

「でも動いてるのは俺らだけじゃないだろ? 平田と山内は、何か収穫あったかも」

 

 噂をしていると、件のコンビが現れた。

 

「二人とも、お疲れ様」

「おっす平田。山内もお疲れ」

 

 早速近くのベンチに腰を下ろし、情報共有を始める。

 

「どうだった?」

「有力かはわからないんだけど――」

 

 二人が行ったのは柴田への徴収だ。平田は同じ部活で話しやすいだろうということだったが、山内を付き添わせていたようだ。

 

「音の件は、やっぱり聞き間違いじゃないって言っていたよ」

「そうか」

「逆に耳障りな音っていうのは、特に聞こえなかったらしい」

「……わかった」

 

 時系列が確定した。耳障りな音を佐倉たちが聞いた後、鈍い音がして、それを柴田が聞きつけた。――オレの推測と矛盾しない。

 

「小宮たちの向かった方角は?」

「それも間違いないって」

「……実は、病院で話を聞いたところ、Cクラスに有利な情報が出たんだ」

「それって……」

「寮に戻ってから病院へ向かった場合に適した時間に、診察を受けていた」

 

「マジかよ」と目を瞬かせる山内だが、平田は思案顔だった。

 

「…………いや、まだわからないよ。もしかしたら、ケヤキモールの方で何かあった可能性もある」

「は? ここで?」

「柴田君の証言通り小宮君たちは街に直行。それから傷を増やして病院に行ったなら、辻褄は合う」

「ケヤキモールでって、このあたりのどこでそんな物騒な目に遭うって言うんだよ」

「そ、それは……」

「いや、ありがとう平田。参考にさせてもらうよ」

 

 平田がオレを見る。ただの気遣いではなく本当に助けになったのだと察してくれたようで、表情が明るくなった。

 平田の推測が正しければ、あわよくばオレだけが入手している『鍵』が役に立つかもしれない。大いに感謝だ。

 

「そこまで言うなら色んな人に聞いてみる? 目撃証言ってやつ」

「ううん、善い結果にはならないと思う。もし本当に何かを見た人がいたとして、それを探すのは途方もないよ。それに今日はもう、人が疎らになってきた」

 

 各々昼ご飯を済ませてから集合し行動を開始した。少々早いが打ち切りだろう。

 

「――あ。綾小路君、一つだけ気になったことがあるんだけど」

「何だ?」

「浅川君って今、何してる?」

 

「え!」話題が変わり過ぎだ。しかもタイムリー。「急だな」

 

「ところどころ店を回っている姿を見かけた気がしたんだけど、見間違いだったのかな……」

「き、きっとそうさ。今頃寮室で惰眠を貪ってるんじゃないか?」

 

 相変わらず見た目に反した行動力だ。早速動き出したと思ったら街中で情報収集? つくづくあいつの「面倒くさい」がズレていると感じる。どうせ今回も「時間がかかって余裕がなくなる」だの「手遅れになった時の罪悪感」だのを面倒と称しているのだろう。

 今鈴音のことを悟られるわけにはいかない。申し訳ないが、騙されてもらおう。

 

「浅川のやつ、結局本当に須藤のこと見捨てちまったのかな」

「……僕はまだ信じてるよ。浅川君にはきっと、何か事情があるんだって」

「でもさぁ……」

「彼がそんな冷たい人だとは思えないんだ。実際テストの時だって、付きっきりで池君たちを教えてくれていたって聞いたし」

「うっ、それはまあ、そうだな……」

 

 話が都合の悪い方へ流れようとしている。オレはその腰を強引にへし折った。

 

「他に調べることはないか?」 

「うーん……」

「お手上げだ」

「浅川君以外に情報のアテはないかもね……」

 

 ……やむを得ない。全員で動くのは、これで限界か。

 

「……わかった。明日は何とかオレの方で、気になったこととか調べておこう」

「ありがとう。また手を貸して欲しいことが言ってね、協力する」

「ああ。今日も助かったよ」

 

 さて、明日は随分と忙しくなりそうだ。

 

番外編第一弾(題はナイショ)

  • 六月下旬(1章~暴力事件)
  • 七月下旬(期末テ⦅暴力事件⦆~三巻)
  • 八月中旬(四.五巻前後)
  • 夏休み以降の時系列がいい
  • やらない
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