アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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やっと書けた……いくつか真相には候補があったのですが、どれもどこかしら不自然になってしまって。一番マシなものにしました。
因みに事件構成の関係で、寮の構造がアニメとはかなり違っています(原作がどうなのかはちょっと存じ上げないので、それだけ伝えておきます)。
また、区切りの都合上今回けっこう長いですがお付き合いください。

※前話に重要な修正を行いました。「ロビーに入ると物音」→「無音」
 余計手がかりがなくなる形になって我ながら草生えました。


確真

 心地悪い風が頬を撫ぜる。

 立っているだけで汗の噴き出る猛暑の中、浅川は仁王立ちを決め込んでいた。

 

「……」

「バスケですか。すごいですね」

「将来プロになるのが夢なんだ。今じゃそれもかなり危ういんだけどな……」

「それはあんたの自業自得でしょ」

「…………」

「でも羨ましいです。私なんてボールを持っているのだけで疲れそうですから」

「ひよりは運動音痴過ぎ」

「運動しねえのか?」

「読書ばかりでからっきしですね」

「………………」

「そうです、今度みんなでトレーニングしませんか? 勿論真澄さんも」

「えーイヤよ、面倒くさい」

「いいじゃねぇか! 俺も浅川たちとよく――」

「シャラーーーップ!」

 

 気怠い暑さを吹き飛ばす大声量に、三人の視線がこちらを向く。

 

「うるさい」

「急に血が上ると熱中症で倒れますよ?」

「割と芯の通った声出せんだなお前」

「違うよね? ねえ、僕がおかしいわけじゃないよねぇ!?」

 

 全く想定していなかった状況に思わず頭を抱えた。

 

「やっぱ僕だけでやるべきだった……!」

「んな堅っくるしいこと言うなって。あっちじゃ何もできねぇから、せめてこっちで役に立ちたいんだ」

「う、うぅん……じゃあ健は善しとして、椎名と真澄は?」

「浅川君の友人の危機とあらば」

「私は悪くないからね。ひよりに連れてこられただけ」

 

「があっ!」こんなに連続で発狂するのは久し――いや、初めてだ。

 目の前の三人、本来接点はなかったはず。なのに、一体全体どうしてこうなった。

 経緯は確か、今朝早くからだ。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「でぁぁあああぁ」

 

 疲労困憊の浅川は起床するや否や、抜けきっていない倦怠感に屈しデスクにひれ伏していた。

 昨日綾小路から引き受けた堀北の捜索。手始めにケヤキモールの店を全て回って尋ねたが、有力な情報は得られなかった。校舎もひとしきり――倉庫や物置の類も全て――確認したが、隠し通路や隠し部屋といったインチキでもない限りはいないと断言できる。

 綾小路曰く失踪は寮だったらしいが、誘拐されたならそこから遠くへ向かった可能性があると踏んで行動したところ見事不発。元々探し物は心当たりの遠方から近場へ順にする性分であるが、だいぶ堪えた。

 あの広さで敷地の一部というのだから驚きだ。どう見ても地元の倍以上の発展ぶりを受ける。

 そんなわけで。次に浅川が目を付けたのは「ここ」だ。

 堀北本人が見つからなかったとしても、暫定の事件現場であることに変わりない。検証だけでもしておきたかった。故に今日は坂柳理事長にも協力を要請している。

 自分にできることは、最後の一滴まで吟味する。その決意は、決して揺らいではいないのだ。

 ――本当に『これ』でいいんだか。

 変わると決めた。しかしその結果、初めに変わる前の、最初の自分に戻ってきているような気がして、その点迷いがないとは言い切れなかった。

 まあそもそも、今まで『自家発電』なんてしたことないのだけど。

 

「――おはよう」

 

 唐突に背後から声がかかる。

 

「んー……お? 珍しいじゃん」

 

 椎名かと思ったが、神室が相変わらずの無愛想顔でお出ましだ。

 

「ただいまと言えばいいのに」

「……ちょっと恥ずかしいし」

「思春期なのね……前は素直に言ってくれてたのに、お母さん悲しい」

「やめてよね、イマイチ否定しにくいこと言うの」

 

 実際初期は「ただいま」も「おかえり」も言ってくれていた。ある時から突然、口を籠らせるようになってしまったのだ。

 

「で、どした?」

「理由はいらないって言ったの、浅川でしょ」

「それはそうだけど、君が真に受けたのは初めてじゃないかあ」

 

 大抵椎名に巻き込まれる形か暇を持て余した時にしか姿を見せなかったはずだが、今日はこんな早い時間に独りで。何とも殊勝で不思議な心掛けだ。

 

「今日は寮が使えなくなるって話だったから、偶には誰かと羽を伸ばすのもいいかなって。椎名、じきに来るでしょ?」

「あらまあホームシックに駆られたのね」

「帰ろうかな」

「親離れには早いわよ」

「何でよりにもよって母親気取りを続けるの……」

 

 彼女とのユーモア劇場は密かに気に入っていたりする。出だしこそ堀北のようにスルーしたり酷い返しをしたりするものの、終いにはげんなりしつつツッコミをしてくれる。何だかんだで優しい子だと感心する傍ら、だから坂柳に良いように使われてしまうのだと憐憫も抱いてしまう。

 それはさておき、どうやら神室のお目当ては椎名のようだ。

 

「てことは君、今暇なの?」

「そうだけど」

「なら丁度いい。今から君に重大な任務を与えよう」

「坂柳で間に合ってる」

「ごめん友達としてお願いっ!」

 

 あからさまに顔を顰める神室に縋る声が漏れる。

 

「嫌な予感しかしないんだけど」

「……鋭い」

「パスで」

「今じゃなきゃ駄目なんだ! 頼む!」

 

 両手を擦り合わせて土下座のコンボを突きつけると、彼女は嘆息を零し腕を組んだ。

 

「……内容による」

 

 浅川は当然、目をウキウキと輝かせた。

 

「ありがてぇ!」

「で、何すればいいの?」

「マッサージ!」

「そのまま骨折ってあげる」

 

「ふぇ!?」物騒な返しはあまりに予想に反している。「こっちは大真面目なんだけど」

 

「イヤ」

「どうして?」

「人の肌触れるの苦手だから」

「減るもんじゃないじゃん」

「それ自分の肌には使わないでしょ」

 

 割と本気で身体が重いため、筋肉をほぐしてくれないのは痛手だ。

 項垂れていると、再び玄関が開く。

 

「あれ、真澄さん?」

「ひより……コイツどうにかして」

 

「まあ」椎名は屍のように床に倒れて動かない浅川を見て緩い驚き声を出した。「まるで理解の追いつかない状況ですね」

 

「この子ったら酷いのよ椎名。悲痛な叫びにも応えてくれないの」

「誤解を招く言い方しないでよ。あんたの横暴に反発しただけじゃない」

 

 ひとしきり説明してやると、ようやく椎名は合点のいった表情になった。

 ぽん、と、右拳を左手の皿に乗せる。

 

「では、私がやってあげましょう」

「おお、さっすがあ」「え、いいの?」

「問題ありません。経験はほとんどありませんが」

 

「じゃあ頼んます」意気揚々と、浅川はベッドによじ登りうつ伏せになる。

 

「真澄さんはどうしますか?」

「私にもやってくれるの?」

「お任せあれ」

 

 微妙な顔をする神室。それもそのはず、椎名の極度な運動能力の低さ、二人分のマッサージに足りるのかと言うと、答えは浅川と一致していた。

 

「…………いや、いいわ。私は」

「そうですか? では――」

「私もひよりと同じ側にしとく」

「え?」「ふぇ?」

 

 二人の間抜けな声が重なる。先程とは打って変わった返答だ。

 

「気が変わった。ひよりを手伝う」

「え、マジ?」

 

 こちらに向けるあくどい笑みに、とんでもなく戦慄を覚える。

 

「や、やっぱやめとこっかなあって思ったり」

「ダメ。――ひより」

「諒解です」

 

 のそりと逃げ出そうとしたところ、あっという間に二人に拘束された。椎名に至ってはその俊敏さを普段もっと活かせばいいのにと、場違いな感想を抱くほどだ。

 

「あんたご所望のマッサージよ。けっこう効くから覚悟しなさい」

「…………御手柔らかにお願いします」

 

 それから数十分程、室内にやたら女々しい悲鳴が響いた。

 

 

 

 

「ふっかーつ!」

 

 めっちゃ効いた。超効いた。

 肩をぶんぶんと振り回し足首を回す。これなら今日の捜索もベストを尽くせるだろう。

 

「ありがとなあ二人とも、助かったよ」

「どこか行くの?」

「ちと野暮用、椎名と二人でごゆっくりー」

 

 軽くお礼と外出の報告を済ませ、足早に階段を降りる。

 ロビーを出て、振り返った。

 

「……」

 

 今この少年を見た者は、彼がついさっきまで苦悶に喘いでいたとはとても思えないだろう。

 完全に切り替え、細い目を寮に向ける。

 ――うん。やっぱ、ここかな。

 

「浅川?」

 

 今日に限って遭遇イベントが多い。さすがに溜息――は心中に留め応じる。

 

「どうしたんだい、健?」

「ランニングしてたら偶々見かけたから、声を掛けただけだぜ」

 

 どうやら被告人である須藤本人が調査に参加するのは良くないということで、今は手持ち無沙汰らしい。

 

「先生が信じて待ってろって言ったんだ。バスケが一番の取り柄の俺にできる『待つ』ってのは、万全な状態で部活に戻れるようにしとくことだろ?」

 

 それを聞いてひどく感心する。一匹狼を気取ろうとしていた彼が、そこまで言うようになったか。人情味というか、思慮の成長を感じる。

 ただ、

 

「大方、じっとしてらんないってのが大きいんだろう?」

「ははっ……バレちまうか」

「お察しするよ。気が気ではないだろうからね」

 

 互いに微笑んでいると、途端に須藤が真剣な顔つきになる。

 

「……安心したぜ。その感じだと、嫌われちまったわけじゃなかったんだな」

「え? ああ、勿論だよ。調査の件は申し訳なかった」

 

 あまりに自然に会話するものだから失念していた。表向き浅川は須藤を見捨てた形になっている。

 

「綾小路たちが、何か事情があるんじゃねえかって――やっぱそうなのか?」

 

 訊かれないのが一番であったが、こうなってしまっては仕方がない。致命的というわけでないので素直に頷く。

 

「信じてもらえないかもしれないけれど、僕なりに罪滅ぼしはしているんだ」

「罪滅ぼし?」

「うん。だから……」

「……バカ、信じるって。寧ろこんな俺のために、サンキューな」

 

 元々拗れていたわけでもないが、そうなる前に和解はできたようだ。空気が弛緩する。

 

「てこたぁお前が寮をじっと見てたのも、その罪滅ぼしってやつなのか?」

「ふぇ? あ、いやー、えーっと……」

 

 困った瞬間後悔する。頷いておけば良かった。何もこんな時にまで律儀に嘘を嫌わなくとも……己が忌々しい。

 

「違うのか?」

「あぁ、まあ…………大丈夫かな」

 

 すまん、清隆。

 

「絶対に誰にも言わないって約束できる?」

「お、おう」

「破ったら針千本刺すからね?」

「直球だな」

 

 親友に謝罪した後、打ち明けた。

 

「マジかよ! 堀北が!?」

「ちょバカ、しーっ!」

 

 慌てて口を塞ぐ。だから渋ったのだ。

 動揺がある程度収まるまで待ってから解放すると、須藤は大きな肩を揺らす。

 

「ぷはぁ……わりぃわりぃ。それで、お前は堀北がどこにいんのか搜してるってことだな?」

「そう。ケヤキモールの方は昨日行ったけど収穫なし」

「で今度はここってわけか。まさに、ええと、と、とう……あー、トウバイカリグラシ?」

「灯台下暗し」

「それだ」

 

 原寸大アリエッティじゃないか。

 

「なるほどな。……よし、俺も手伝うぜ」

「ん。………………ん? 今何て?」

「俺も一緒に堀北を探すっつったんだよ」

 

 待て待て、どうしてそうなる。ついさっき自分なりな『待つ』について熱弁していたばかりではないか。

 

「いいって。肉体労働は要らんぜよ」

「独りじゃできないこともあるかもしれないだろ」

「その時はまた呼ぶから」

「遠慮すんなって。仲間がピンチだってのに、呑気に走ってなんかられねえって」

 

 正直須藤の言う通り、堀北の誘拐が複数犯たった場合その検証に人数が欲しくなる。ただ、単純な身体を使う工程なら自分だけで事足りるため、余計な人員は望んでいなかった。

 しかしここで断れないあたり、良心が残っているのだろう。

 

「……好きにしな」

「おうよ、任せろ」

 

 任せた覚えはないのだけど。

 

「さて、じゃあ――」

「話は聞かせてもらいました」

「は!?」

 

 気を取り直そうとした矢先、聞いたばかりの声に目を剥いた。

 

「二人とも、何で……」

「心做しか急いでいたようなので、跡をつけさせてもらいました」

 

 失態だ。真面に集中できていない時の自分の愚鈍さったらない。

 得意気に胸を張る椎名。ご満悦な笑顔は何とも幼気で可愛らしいが、それを上回る億劫さが胸中に広がる。

 隣で眉間に皺を寄せる神室にアイコンタクトを試みる。

 

『止められなかったのか』

『追いかけるので精一杯だった』

『連れて帰れ』

『この状態のひよりを?』

 

「ぐぬぬぬぬ……」

「浅川?」

「なんでもない!」

 

 ええいままよ。こうなれば即席探偵団結成だ。

 手短に二人にも事情を話し、納得してもらう。

 

「それって結構やばくない? 先生に連絡した方が……」

「依頼人が課したノルマだ。僕――僕らだけで解決する」

 

 細かい事情は知らないが、綾小路からは事が大きくなる前に堀北を見つけ出してほしいとのこと。できるものなら叶えてやりたい。

 

「やったるよ。僕のロジック舐めなさんな」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「だと言うのに何なのさこの体たらくは!」

 

 何度回想しても破茶滅茶な展開だった。それを甘んじて受け入れたというのに、解せない現状だ。

 

「待ってろって言ったのは浅川じゃねえか」

「うるさくしてろなんて言ってない」

「私は巻き込まれただけだし」

「椎名を連れて帰ってくれ」

「邪魔、ですか……?」

「い、いや邪魔じゃな――うん、ちょっと邪魔かな正直」

 

 まさか自分が坂柳以外を邪険に扱うことになろうとは。親交を深めるのはご自由だが、気が散る。

 

「――らしくないですよ、浅川君」

「は?」

「いつものユーモアが掻き消えています。暑さにやられてしまったんですか?」

「……使い所を見極めてこそだ。それに、部屋にいた時はこんなんじゃなかった」

 

 憤怒しても意味がないことくらいわかっている。平生はそれ故に寛恕を抱いていられるのだが、暑さにやられてしまっているのかもしれない。クソ、椎名の言う通りか。

 そうこうしていると、視界の端からこの暑さの中瀟洒な正装を見事に着こなす中年男性が現れた。

 

「おや、待たせてしまったかな?」

「いえ、今さっき来たところです」

 

 恋人どうしの待ち合わせか、などというツッコミを入れる余裕はなかった。

 

「浅川君、この方は?」

「ん、坂柳理事長」

「おー、理事長か。…………は、理事長つったか今!?」

「うん」

 

 三者三葉、驚きを露わにする。対する理事長は苦味走る顔をやんわりと緩めている。

 

「あまり生徒の前には顔を出さないからね」

「学校の長としてどうなんですか、それ」

「お恥ずかしい限りだよ」

 

 子供に対してここまでフレンドリーになれるのなら、逆に頻繁に表に出た方が良い気がするのだけど。この学校の特性上良くないのだろうか。

 

「坂柳って、まさか」

「想像通りっすよ真澄さん」

「……運がない」

 

 親子共々交流果たすとは、神室と坂柳には不思議な因縁でもあるのかもしれない。

 

「それで、浅川の言ってた協力者っていうのが、理事長?」

「そう。寮を一時的に空けてもらった」

「あれ浅川君の仕業だったんですね」

「まあね。――理事長さん、いいんですよね?」

 

 こちらの問いかけに、理事長は快く応じる。

 

「我が校の生徒が一人、最悪命の危機なんだ。僕が何もしてやらないわけにはいかないからね」

「だったら警察とか頼った方がよくないですか?」

「そうかもしれないけど、頼らずに見つけることは不可能ではないはずだよ」

 

 綾小路が言っていた通り、大事にするつもりはないようだ。一体どういう意思共有がなされているのか。はこの際重要ではないか。

 

「この埋立地に繋がっているのは車道一つだけ。必ず事前に厳しいチェックが入る。車内やトランクは勿論ボンネットの中まで念入りに調べて人一人見つけられないなんてことはあり得ない」

「つまり、俺らの住んでるこの敷地に絶対いる、ってことか?」

「僕はそう睨んでいる。――須藤君、一応教師だから、敬語くらいは使って欲しいかな」

「あ、すまねえっす。って、俺の名前知ってるんすか?」

 

 一同目を見開くが、当の本人は飄々としている。

 

「当然さ。そちらは椎名さん。君は……うちの有栖に随分と可愛がられているようだね、神室さん」

「……おかげ様で」

「生徒の顔と名前くらいは、一致しておかないとね。プライベートには踏み込まないけれど」

 

 総勢480名の生徒を全て。それ相応の記憶力がなければできない芸当だ。げんなりする神室の横で、浅川はひどく感心を覚えた。

 

「浅川君、まだ正午まで少し時間がある。よければ事件についてわかっていることを教えてくれないかな?」

「構いませんが、大したことは、」

「情報共有は大事だよ」

「……そうですね」

 

 行動を共にする生徒三人にも、ある程度把握してもらっておいた方がいいか。

 

「清隆の証言通りなら、事件発生は一昨日の十八時ごろ」

「おいそれ、俺の時と同じ……」

「奇しくもね」

 

 何やらある作戦を試した帰りだったらしいが、そこは割愛する。

 

「清隆と鈴音は寮の前――ちょうど僕らが立っているあたりまで歩いていた。そこで清隆は通話のため裏へ。鈴音にはその場で待っているよう伝えた」

「堀北さんの反応は?」

「は? ちょ――までだと」

「扱い雑過ぎじゃない?」

 

 失敬な。愛ある対応だ、多分。

 

「その間約一分。彼が戻った時には既に人一人気配がなかった」

「見落としって線はないのか?」

「気付いたはずだよ、あいつなら」

「僕も同感だね」

 

 あり得ないとは言わないが、表に出れば十分に視界が開けている。可能性は極めて低い。

 ……しかし、何だ。その域を超えた確信が、理事長の一言に含まれているような気がした。

 

「……先に中へ入ったのかと思った清隆はロビーに入り、急いで階段を上った」

「エレベーターは?」

「どちらも使用中でした」

「何階のあたりだった?」

 

「何階?」やたら細かいことまで聞くのだな。「そこまでは確認していなかったらしいです。監視カメラなら或いは……光の影響で見えない可能性もありますけど」

 

「ふむ……それで?」

「各階念入りに確認したものの、鈴音はおろか人の姿一つ見つからなかった」

「その後少し待ってから翌日まで、定期的に連絡を試したところ応答なし。でしたね?」

 

 椎名の確認に頷く。

 今となっては直後から応答可能かどうかを確かめるべきだったと言えるが、いくら何でも即刻行方不明を断定するのは無理だ。堀北の不機嫌に賭けた綾小路は、日が暮れるまでアクションを起こさなかった。

 

「いくら清隆と言えど、自分らの住まいをいちいち細部まで記憶していない。違和感や取っ掛かりをこの短期間で見つけることは叶わなかった。僕らでもできるかどうか……理事長は?」

「残念ながら、僕も同じ条件だ。学期ごとの正式な点検には立ち会うんだけど、それ以外はさすがにね」

 

 寧ろ点検にはちゃんと立ち会うのかと感心する。業者に任せっきりでも文句は挙がらないと思うが。

 

「堀北さんが寮にいると考える根拠は?」

「ないよ」

「ねえのかよ!」

「うん。ただ、タイミングからして今回の件はCクラスの仕業だと仮説しているから、下手に生徒が立ち入れない場所は除外してある。それに、僕らが真面な捜索をできる範囲は校舎とケヤキモール、そしてここ。前二つは既に僕が全域調べた。他の茂みとか――考えたくもないけど海とか――となると、それはもう大人に然るべき対処を取ってもらうべきだと思う」

 

 密かに理事長にアイコンタクトを取る。心得ているよ、と首肯が返って来た。

 事情を追究するつもりはないが、人命に関わる事態である以上に優先すべき理屈などどこにもない。一刻を争うという結論が出たら、その時点で自分らは退く。

 人海戦術はどうかという話も、結論は却下だ。そもそもそれ程の人数この件に関して信頼をおける相手がいないし、もし揃えられたとしても大規模過ぎて無関係な教師陣や部外者に事件が漏洩する可能性が高い。そうなれば結局警察に捜査を委託しなければならない状況に追い詰められる。

 

「……と、そろそろ時間か。始めて問題ありませんね?」

「構わないよ。何から始めるんだい?」

「まずは……誰もいないからこそできることをしましょう」

「どうすんだ?」

「全部屋調べる。何か見つけたら僕に連絡して」

 

 女性陣、主に神室の表情が引き攣る。

 

「それはあんま良くないんじゃ……」

「性的なもののこと?」

「……っ、まあ、それも」

 

 何に戸惑っているのか、神室が目を泳がせる。的外れな返しだったわけではないようだ。

 

「気にするな、見なかったことにしておけばいい。本人の許可無しで合鍵が作れるんだ。問題は問題にされなきゃ問題にはならない。――理事長も織り込み済みだしね」

「それで堀北さんが見つからなかったらシャレにならないからね、あくまで例外中の例外。それに、僕は浅川君がその手の不祥事を働かないと信じている。君たち三人も、その浅川君から信頼を得ているからここにいるはずだ」

「あ……まあ、そうっすね」

 

 ただの成り行きだったのだが……帰らせてよかったものをそうしなかった点で、強ち間違いではないか。

 

「折角五人いるから、階ごとに分担しよう。下から順に理事長、健、僕、椎名、真澄。僕と健は三階ずつ、他は二階ずつでやるよ。――質問は?」

「ないわ」「ありません」「大丈夫」「ねえぜ」

 

 反対はなし。早速始めよう。

 

「では、行動開始」

 

 

 

 

 

 調べる部屋数からして、要した時間はそれなりだった。

 長針が一周するほど経過した後、続々と寮の前に団員が集合する。

 

「……その様子だと、みんな駄目だったか」

 

 調べ漏らしはないと信じよう。……須藤は怪しいが。

 

「やっぱり寮も違ったんじゃない?」

「でもそうなると、私たちの手には負えない案件かもしれませんね」

 

 女子二人が言う。

 

「どうすんだよ」

「……理事長はどう思いますか?」

 

 顎に手を当て考える浅川。ここは大人の力にもう少し頼ってもいいだろうと、助け船を求める。

 

「捜索自体は、やれるだけのことをやったと思うよ。敷地の広大さ故に十分とは言い切れないにしても必要な限りは尽くした」

「…………捜索自体は、か」

「初歩的なことを忘れているんじゃないかな?」

 

 ふむ。つまり、『それ』も話を通してあるということか。

 

「……よし、続行だ」

「続行つっても、他に何がやれんだよ」

「強硬策でダメなら、次は地道な捜査。基本に立ち返るんだ」

 

 今までは急を要するということで段階をすっ飛ばしていたが、もはやそれでは突破口が見えない。結果的に遠回りしている感は拭えないが。

「なるほど」椎名だけが理解を示す。「理事長はそれも織り込み済みということなんですね」

 

「緊急事態に全て子供に委ねるのは無理強いというものだ。うちはさすがに、こんな状況を想定した訓練はしていない」

「男性陣と女性陣で分かれよう。僕らはもう一度寮を調べる。椎名と真澄は管理人に頼んで証言と監視カメラの検分をお願い。鈴音の姿だけじゃなく手がかりを探すんだ」

 

 簡潔な指示を飛ばす。理事長には椎名たちに付いてもらおうかとも迷ったが、寮の構造や些細な点は彼の方が知っている部分もあるかもしれないと判断した。椎名に負担をかけてしまうが甘受しよう。

 

「何を探せばいいの?」

「基本寮内は満遍なくカメラが構えているはずだ。事件前後のロビーの様子とか、誰かが出入りしていなかったかとか、全てのカメラを調べて欲しい」

「全てって……」

「諒解しました」

「ちょ、ひより。いくら何でも」

「大丈夫ですよ真澄さん。――何か気づいたら報告しますね。浅川君も、確かめて欲しいことができたら言ってください」

「ああ、ありがとう」

 

 人っ子一人なかった、ということは、もし監視カメラに捉えられていた人影があればそれが関係者である可能性が高い。

 

「頼んだよ、二人共」

 

 

 

 

 

 とりあえず堀北の部屋を調べてみようと、向かう最中。

 不意に理事長が話を振る。

 

「浅川君。君は、綾小路君を高く買っているんだね」

「え? そりゃ親友ですから」

「そうか。――これからも仲良くね」

「…………あの、さっきから妙な感覚だったんですけど」

 

 厳密には初対面の時からだ。特に業務的ではない砕けた会話の際、筆舌しがたい感慨の琴線に、何かが触れる。

 

「僕、あなたに会ったことありますか?」

「逆にあると思うかい?」

「……うーん」

 

 悩んでいる間に、堀北の部屋にたどり着いた。

 

「さて、始めようか」

「……はい」

 

 促されるまま、中へ入る。

 すぐに目に飛び込んできたのは、

 

「料理の痕跡がある……」

「どういうことだ?」

「昨日の夜、あるいは今日の午前中も、堀北さんは自室で生活していたかもしれないということだね」

 

 まだわからない。合鍵を作って侵入すれば、このような偽装は可能だ。

 リビングに移動するが、ここでも生活の痕跡がある。ベッドには皺が残っており、デスクにはノートが広げられ筆記用具も置きっぱなし、窓も鍵がかかっていない。

 全体を見回した感じ、綾小路程ではないが個人の特徴を表すような物は何も置かれておらず、それこそが堀北らしさと言えるようなレイアウトだった。

 

「健、学生証カードを探してくれ」

「学生証?」

「清隆曰く、鈴音の端末のGPSはこの座標で表示されている。多少の誤差があるにしても、寮の中かその周辺に落ちていると見て間違いない」

 

 発展した技術が用いられているとはいえ、寸分の誤差なく座標を表示することは難しい。概ね寮を中心とした直径五メートル以内を範囲と見るべきだ。その第一候補は当然本人の自室となる。

 曖昧に何かを探せというのも無茶な話。特に須藤なら、具体的な物を提示して探させた方が建設的だろう。

 

「全部探すぞ。クローゼットもタンスも、トイレもバスルームも、手あたり次第に」

「げっ……わかったよ」

 

 ここは九階。椎名が一度確認しているが、今度は別の対象を捜索する。

 しかし、どの隙間を漁ってみても、これといったものすら見つからない。

 ――やはり別の場所なのか……?

 困れ果てて頭を掻く。その足はリフレッシュ気分で窓際へと寄った。

 カーテンと窓を開け放つが、広がるのはカメラの死角――茂みや木々、室外機などが並ぶだけの殺風景。内外共に汚れの隙がない縁にもたれ掛かる。

 

「堀北さんは本当に、今も普通に生活しているのかな」

「さすがに私生活を監視しているわけではないのでわかりませんが、真面目な彼女なら登校前に片付けや整理は行っていると思います。これを偽装と捉える根拠がない以上、鈴音はしっかり下校して食事も摂っていた。という仮説は死にません」

 

 プライベートはずぼらというのも、部屋全体の整い具合を考えるとなさそうだ。

 

「確かめてみたらどうだい?」

「……」

 

 理事長の意図を察した浅川は端末を取り出し、椎名に通話を掛ける。

 

「何かありましたか?」

「二つ聞きたい。まず、鈴音は部屋に戻ったか?」

「――戻っていますね。時間帯からして、綾小路君が離れてすぐでしょう」

「そうか……じゃあ、鈴音の他に誰かが部屋に上がり込んだりは?」

 

「ちょっと待ってください――」数分PCを操作する音の後、返答が来る。「前後三十分を確認しましたが、堀北さん以外に入室していませんね」

 

「……」

「あの、浅川君」

「なに?」

「これを見て欲しいんですけど」

 

 そう言って送って来たのは動画――ロビーを映す監視カメラの映像だ。

 一目でわかる不自然な点があった。

 

「ポストが開いている……」

「堀北さんの、ですよね?」

 

 迷いなく向かう素振りからして間違いない。堀北のポストだ。彼女がロビーに入る前から開いていた。

 

「誰がやった?」

「それが……わからないんです」

「は? どういう――まさか」

「はい、顔が確認できません」

 

 帽子やらサングラスやら、いくらでも簡単な方法はある。向こうは犯行の痕跡を隠したいのではない、正体の痕跡を隠したいのだ。必要最低限の隠蔽をしている。

 

「管理人が表に出ていないタイミングか。……ポストに何か見える、紙か? なら内容は」

「俺の事件のことなんじゃねえか?」

 

 いつの間にか戻ってきた須藤が言う。念のためバスルームの状態を聞いたが、やはり使用の跡が残っていたらしい。

 須藤の暴力事件――自分が櫛田の依頼を熟した時と同じだ。堀北が注目している案件を餌にして行動を誘導したということか。現に映像の堀北は焦るようにエレベーターに乗り込んでいる。

 

「なあ。自分で言っておいてなんだが、堀北がそんな簡単に騙されるか? 分が悪いってのはわかってるけどよ、俺でも罠だってわかるぜ」

「……今の鈴音なら、容易く動く」

 

 自分や綾小路と同じく、彼女も欠点を探し、受け容れ、変えることを心掛け始めている。そんな彼女であれば、時間や機会に条件を付けるだけで動かされてしまうはずだ。

 だが、一つだけ疑問がある。

 先読みしたように、椎名が窺うような声で聞いてくる。

 

「もう一ついいですか?」

「どうぞ」

「今日の午前中まで、堀北さんが部屋を出る姿が確認できないんです」

「ですよねぇ……」

 

 二連休一度も自室を出ないなんてことはよくある。アクティブではない堀北なら尚更だ。

 しかし綾小路からのコンタクトに堀北は一切応じていない。そして今不在であるという事実……。

 可能性は二つだ。堀北が何らかの事情で姿を隠さなければならなかったか、犯人による偽装。どちらも応答の皆無と部屋の状況に矛盾しない。

 だがどちらにしても、方法がさっぱりわからない。

 まさしく幽霊の如き消失。――などとオカルトに思考を囚われるわけにはいかない。浅川の中で一つ答えが浮かんだが、明らかに無理があるし、堀北本人と犯人どちらがその方法を取るにしても態々そこまでのリスクを冒す理由がはっきりしない。

 

「通気口は?」

「バスルームにあるけど、人の通れる面積はないね」

「合鍵を作った人は?」

「一人もいないらしいです」

 

 どちらもダメか……。

 結局決定的な証拠はおろか端末すら見つかっていない。いくつか違和感はあるものの、堀北の行方を推理する材料が足りなすぎる。

 この状況はまさに、

 

「完全犯罪、ってやつか――」

 

 いの一番に思考を放棄した須藤がそう銘打つ。

 

「ミステリーでもないし、あり得るかもね」

「そんなことはありません。犯行が為されたなら、どこかに紐解くヒントはあるはずです」

「解決できるかどうかは兎も角、僕たちが堀北さんを見つけなければ詰みだ」

 

 各々が所見を口にする中、浅川は一人思案に耽る。

 …………駄目だ。

 取っ掛かりがないため、お得意のロジックも組み立てられない。

 天を仰ぐように顔を上げると――理事長と目が合った。

 ……? 何だ。何かを訴えている――?

 

「――浅川君。解決できるかは、この際後だ」

「……」

「堀北さんを、()()()()()()

「………………!」

 

 そうか。そういう事か……! 今自分らのすべきことは――

 

「完全犯罪を、仮説する」

 

 生徒三人がこちらを向く。

 

「手がかりは残らなかった。決定的な痕跡は残さず、犯人は犯行を成し遂げた」

「で、ですが浅川君――」

「僕らのミッションは、立証じゃないんだ」

 

「どういうことだよ」須藤が真っ先に疑問を発する。「犯人は誘拐がバレたくないから、証拠も痕跡も残さないんじゃねえのか?」

 

「だったらロビーに映る行動自体避けたはずだ。相手は争点を完璧に理解しているからこそ姿を見せた。――犯人の告発は絶対条件じゃない。つまり証明の必要はない。証拠も要らない」

「情報と推測だけで十分、ということだね」

 

 唯一理解、というより実質発案者である理事長だけが話を合わせる。

 目標はずっと簡単だ。根拠がなくとも、堀北を見つけるだけでとりあえずの勝利。

 

「じ、じゃあどうするの?」

「情報が少ないのに視点を僕らのままにしておくと視野が狭くなる」

 

 パッシブではなくアクティブ。与えられた情報がないのなら、情報を与えない犯行を『想像』する。

 つまり、

 

「――()()()()()()()()()()()

 

 探偵役に徹しない。犯人なら――自分が正体をバレないまま堀北の姿を消すにはどう動くべきか。それでロジックを展開する。

 『暴く』のではなく『辿る』のが、今回必要なリゾート。

 その過程にあるのが、堀北の隠し場所だ。

 浅川はこれまでにない真剣な表情で、眉を顰める。

 

「さあ、本気でヤるぞ」

 

 そしてゆっくりと、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとな」

 

 少年の背中を見送る。にわかに昏くなった空を見ると、微かな星の瞬きがあった。予定ではおやつの時間には自由の身だったのだが、随分と寄り道をしてしまったものだ。

 今しがた手に入れた重要な情報。この機会のきっかけを与えてくれた()に、内心礼を言う。

 鈴音のことは考えない。あいつならやれると既に託した。

 そして――オレにできることは全てやった。これ以上を残りの時間で調べることは不可能だ。

 ……さて。

 『最後』の手がかりを思考に組み入れ、この事件を終わらせる結論を導き出そう。

 長い防衛戦の幕を下ろす装置に、ようやく手が伸びる。

 オレは、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『今日は随分と早いじゃないか』 『あれは何だ?』  『大したことじゃないけど』   『昨日事件があったんだけど知ってる?』 『写真が好きなので』  『偶々です』   『どこからか、音がしたような』  『待て、今何か』 『いませんでした』   『隠してることがあるからじゃないかな』  『一目散に逃げるでしょうね』 『三人が見ていたのは、浅川君よ』  『グラビアアイドルの雫、か』   『何をたそがれているの?』 『あの時間帯にここを選ぶのは違和感がある』  『やはり行動が不自然なのね』   『サッカーのスパイクを見かけなかった?』  『前の部活の後に怪我をしちゃったらしくて』 『一生に一度のお願いというやつでござる』   『ごついカバーとフィルムでがんじがらめでござる!』  『ここ、少し削れてる』 『破片を踏んだ』  『俺の提案だ』   『職員室には?』 『耳障りな音がするとな』  『こいつを拾ったんだ』   『前のテストの件、ありがとうございました』  『マッチ売りの少女』 『彼はこの事件のもう一人の関係者、いや、被害者です』   『暴力どころか、会ってすらいませんっ』  『鈍い音でした』 『軽い怪我を大仰に偽装したと』  『特別棟を出て右に曲がりますね』   『特別棟を出て左ですね』 『持ち主は、お前ではなかったようだな』  『何が武器になるか、わからないからな』   『知ってるんじゃないかなと、思います』  『予見されていたんだ』 『同じ変人がいるのかしらね』   『須藤の事件だけは関われないんだな』  『おっそろしいねぇチョーさんも』 『もう一人、Dクラスの証人に当たってみる』  『十九時ごろ、ですかね』   『服の下もかなり』 『傷のこと、もうちょい詳しく聞いてみるのは?』  『ガーゼにも血がよく染み込んでいました』   『間違いないって』 『寮に戻ってから病院へ向かった場合に適した時間に、診察を受けていた』  『ケヤキモールで何かあった可能性もある』   『最後の手がかり』 

 

『トウバイカリグラシ?』 『灯台下暗し』 『それだ』   『寮を一時的に空けてもらった』  『警察とかに頼った方がよくないですか?』 『頼らずに見つけることは不可能ではないはずだよ』  『事件発生は一昨日の十八時ごろ』 『清隆は通話のため裏へ』   『気付いたはずだよ、あいつなら』 『僕も同感だね』  『エレベーターは?』 『使用中でした』 『何階のあたりだった?』   『定期的に連絡を試したところ応答なし』  『自分らの住まいをいちいち細部まで記憶していない』   『Cクラスの仕業だと仮説している』 『全部屋調べる』   『本人の許可無しで合鍵が作れるんだ』  『階ごとに分担しよう』   『事件前後のロビーの様子とか、誰かが出入りしていなかったとか』 『料理の痕跡がある』   『自室で生活していたかもしれない』  『ベッドには皺』 『デスクにはノートが広げられ、筆記用具も置きっぱなし』 『窓も鍵がかかっていない』  『鈴音の端末はこの座標で表示されている』   『ここは九階』  『広がるのはカメラの死角』 『内外共に汚れの隙がない縁』  『真面目な彼女なら登校前に片付けや整理は行っていると思います』   『鈴音は部屋に戻ったか?』 『戻っていますね』  『誰かが部屋に上がり込んだりは?』 『堀北さん以外に入室していませんね』   『ポストが開いている』  『顔が確認できません』   『俺の事件のことなんじゃねえか?』  『使用の跡が残っていたらしい』 『堀北がそんな簡単に騙されるか?』   『部屋を出る姿が確認できないんです』  『幽霊の如き消失』   『通気口は?』 『人の通れる面積はないね』  『合鍵を作った人は?』 『一人もいないらしいです』   『材料が足りなすぎる』  『完全犯罪、ってやつか』   『僕たちで、見つけるんだ』 『完全犯罪を、立証する』  『情報と推測だけで十分、ということだね』   『チェス盤をひっくり返す』

 

 

 

   

『         「カラオケルーム」

 欠けた手がかりは、         に眠っている

          「事件前のカメラ」      』

                            

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「解は出た」

 

 別の場所、別の時間。

 終局を捉えた二人は、凛とした目で呟いた。

 




オリ主の発言に近いこと言いますが、ここまで読者に明かしている情報で暴力事件の勝ち筋、誘拐事件の真相を推定することは(論理的とは言えないものの)可能です。前者に至ってはわりと全部明かしているのでロジックでいけるかも? ただ、あくまで「勝ち筋を導くこと」なのがミソです。

番外編第一弾(題はナイショ)

  • 六月下旬(1章~暴力事件)
  • 七月下旬(期末テ⦅暴力事件⦆~三巻)
  • 八月中旬(四.五巻前後)
  • 夏休み以降の時系列がいい
  • やらない
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