彼女は町一番の歌手になるために、たくさんの人に歌を届けるために、劇場で歌を歌い続ける。
しかし、もう一人の彼女がそれを否定する。
ついには劇場のオーナーにも否定され、彼女の心は荒れ果て、激しい雨が降り注ぐ。
荒野の雨の中、彼女が見つけた真実とは……?
文章力はあまりあるとは言えませんが、読んで頂けると嬉しいです!
ある町のある劇場に一人の少女がいました。
彼女の夢はこの町一番の歌手になること
そして、たくさんの人に歌を届けること
「あなたの理想のヒロインになりたいんです!」
でも、私の心の奥底にいる、もう一人の黒い私がこう囁きかけるのです……
「無理よ。私の歌なんて誰にも届かない。本当はわかっているのでしょう?
あ な た は 私 だ も の」
「ねぇ……起きて、起きてってば……」
「うーん、あっ、おはようございます」
私を夢の世界から引き戻してくれたのはシェアハウスの同居人でもある同じ劇場に通う親友だ。
「珍しくお寝坊さんだね」
「ちょっと、いやな夢を見ちゃって……」
「いやな夢見るとなんか気分が重くなるよねー。そういう夢はすぐ忘れた方がいいよ」
「そうだね、ありがとう。そうする」
「それじゃ、今日も劇場の練習行く?」
「うん。あなたも行くよね?」
「もちろん!私の可愛さをみんなに届けるためだもん。もっともっと頑張らないと!」
そうだ。私もこの町一番の歌手になるために、たくさんの人に歌を届けるために頑張らないと!
そうして、練習は日々続いていった。
それから一年後、ついに私は初めて劇場の舞台に立つ事が出来た。
劇場に立てるようになって、より一層気合いの入った私は毎日のように人気のない早朝の橋の上で自主練をしていた。
その橋の上は私だけの舞台、誰も知らないステージだ。
そんなとある日、いつものようにひとりきりで汗まみれになりながら、早朝の自主練をしている時、走り込みをしている一人の青年と出会った。
「君、いつもここで歌の練習をしているよね。もしかして、あの劇場の子だったりする?」
「え、えぇ……。まだ新人ですけれど」
「そうなんだ。僕もよくあの劇場に歌を聞きに行くんだよ。でも君の歌はまだ劇場で聞いたことないなぁ。ここで練習してる時の歌声とても綺麗だから、劇場で聞けばきっと感動するだろうね」
「それは……どうでしょう?」
「きっとそうだよ。ここで聞く君の歌、僕は好きだよ。劇場でも聞いてみたいなぁ~楽しみにしてるね」
その青年とはその日から毎日のように会って話すようになった。
「君は本当に歌が好きなんだね」
「そう!私、歌いたいの。たくさんの人に歌声を届けたい!私が歌に込めるのは喜びと感動と少しの熱狂。それを、歌を聞いたみんなが感じとってくれたら、とても嬉しいなって、そう思うんだ!」
「そっか、頑張ってね。僕も応援してるよ」
しかし、そんな彼からの期待とは裏腹に、それからの私は成長もなく、後から出てきた後輩にも追い越され始めていた。
練習もどんどんきついものに変わっていって、本当の気持ちがたまに分からなくなっていた。
やるべき事はひたすら歌の練習のみ。
だけど心がそれに追いつかなくなっていき……
そして、ついには……
「待ってください、オーナー!どうして私だけ出番がないんですか!?」
「残念だけど、あなたの歌の評判が良くないの。もううちの劇場に立たせてあげることは出来ないわ」
「そんな……っ!?」
「さぁ、今日の公演にあなたは邪魔よ。出ていって頂戴!」
そうオーナーに言われて私は劇場を追い出されてしまった。
劇場の外は太い雨が自分の心を砕くかのように、痛めつけるかのように地面を強く叩きつけていた。
「私の歌は誰にも届かない。子供の頃のこと……覚えてる?」
かつて夢で見た黒いもう一人の私が唐突に現れ、私にそう問い掛ける。
「みんなと少しだけ違う。ただそれだけのことだったけど私はいつも不安だった。
誰かに変な子だって思われたら、嫌われたらどうしよう。
いつもそんな風に怯えていた。
だから、本当の自分を隠すようになった。
そうしたら、すごく楽になれた。
あの日からずっと私は嘘の私のまま……自分を偽っている人の歌が誰かの心に届く訳がない。そうでしょう?」
……そう、そのとおりだ。
私はその場で跪いて、両手で顔を覆い隠す。
曇天の空の下、傘も差さずに雨に濡れる私の瞳からは雨粒ではないモノが流れ出して止まらなかった。
「どうしたの?」
私の前にいたのは、あの時の青年だった。
彼は私に傘を差し出す。
「大丈夫?」
その優しさに少し甘えたくもなったけれど、彼はただの一視聴者。
劇場の歌手が一人の視聴者に弱いところを見せるなんて、あってはいけない。
「ええ、少し転んだだけです。心配していただいてありがとうございます」
そう言って、私はその場から逃げ出した。
「やっぱり恐いんだ。本当の自分を見せることが」
また黒い私が私の心に問い掛ける。
「だって……」
その言葉の後に私が言おうとした言葉は黒い私が代弁した。分かりきっていると言いたげに……
いや、実際分かりきっているのだ。
彼女は私なのだから……
「嫌われたくない。そうでしょう?」
「…………」
肯定したくない。でも否定出来ない事実。
「私、歌いたいの。みんなの心に届く歌を!」
でも、その私の歌がもし認められなかったらと、そう思う自分がいる。嫌われるのが恐いのだ。
「もし認められなかったら、嫌われたらなんて、そんな風に思っていたら成長なんて出来ないよ。一歩を踏み出すには……そのためには、自分をさらけ出さなきゃ」
黒い私が手を差し伸べる。そして、こう言った。
「受け入れて」
出来ないよ……。さらけ出すなんて。
嫌い……。こんな私……。
もう歌は……やめよう。
次の日、私は劇場に行って、退会の手続きをした。
「本当にこれでいいのね?私はこのままのあなたなら劇場に立たせてあげられないって言ったの。もう一度、ゼロから修行を積んでいったらまた舞台に立つチャンスをあげられないこともないけれど……」
これで……いいんだ。この町一番の歌手だなんて、私には過ぎた夢だった。
「いえ、もう大丈夫です。今までお世話になりました。ありがとう…ございました」
劇場から去ろうとする私に親友が声を掛けてきた。
「ねぇ、待って!もう一度オーナーに頼んでみようよ?「チャンスを下さい」って!」
「もういいの!」
私は少し自暴自棄になりながら、怒り気味の声で親友にそう言葉をぶつける。
そんな私の前に再び、黒い私が現れた。
「そんなに恐いの?本当の自分を見せることが」
そう問い掛けるのを無視してそのまま通り過ぎようとした私を、彼女は今までにない大きな声で制止した。
「……待って!!」
私は歩みを止める。けど、振り向く事はしない。
やっぱり、私なんかが歌手になるなんて無理だったんだ。もう歌は諦めよう。それでいいんだ……
しかし、次の彼女の言葉で私は後ろを振り向いた。
「私、それでも歌いたいよ……」
彼女らしくない。黒い私らしくない弱々しい声だった。
でも、今までで一番、心に訴えかける声だった。
その黒い私の声とともに……
『君の歌、僕は好きだよ』
初めて会った時にそう言ってくれたあの青年の眩しい笑顔を思い出す。
それは一人迷いこんだ闇を照らす一筋の光だった。
胸の奥の変わらないたった一つの想いにこの時、私はやっと気付いたのだ。
私は彼女に対して、謝罪の言葉を述べる。
「ずっと貴女から目を反らしていた……。でも「歌いたい」その気持ちだけはきっと真実。……今までごめんなさい」
そして、私は黒いもう一人の私の手を取った。
迷いも不安も全部ありのままの私を受け入れる決意をした。
これが私
逃れようのない本当の私
嫌われるかもしれない。
でも「好きだ」って言ってくれる人もいた。
だから、この小さなステージでもう一度はじめよう。
「……どうしたの、なんか変だよ?」
「ごめん。「もういい」なんて、そんなの嘘……やっぱり私、歌いたいよ!」
その私の言葉を聞いていたのだろう。
廊下の曲がり角に隠れていたオーナーが顔を出して、こう笑った。
「ふふっ、やっと一歩を踏み出せたみたいね。あなたが今まで成長出来なかったのは、自分の個性を見つけられなかったからよ。これからはあなただけの個性を……武器を見つけなさい」
「はい!」
私だけの武器がなんなのか、まだ答えは出せない。
その答えは簡単には出せないだろう。
でも、もう見失ったりしない……私だけの、この想いを!
私は『虹の花咲くその日まで』というアニガサキ二次小説も執筆させて頂いています。
そちらも読んで頂けるととても嬉しいです!
↓こちらで読めます!
https://syosetu.org/novel/246290/