バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った   作:haru970

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第27話 癖が嵐を呼ぶ?!

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 マルテウス 視点

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「「「「「おはようございます、お嬢!」」」」」

 

 タジタジになるマルタの前にはゴロツキの恰好やスーツ姿の男性が勢ぞろい彼女に頭を下げていた。

 

 「(やってしまった~~~!!!)」

 

 事は藤村雷画と共に猪狩りに出た切嗣達が猪の肉を持って帰り、マルタは()()()()()()肉を捌き、()()()()()()()()()()

 

 マルタ(三月)からすれば数年間やっていた事なので別に何とも無いのだが、藤村組の皆には大変良く受けていた。

 

 と言うのもこの世界での彼らからすればマルタはあくまでも「お嬢(大河)の学友」であって、それほど頻繁に会う訳でも無い。

 

 せいぜいが「地味な眼鏡の子」や「冴えない子」と言った認識。

 

 そんな子が藤村組()()の好みの味を()()で見抜ける程()()()()()()()()()事に全員が感動し、大河と並ぶ重要人物として認定されてしまった。

 

「では皆の衆、私について来い!」

 

「「「「「よろしくお願いします、アーサーの()()!」」」」」

 

「え~~~~~~(マジかこいつら? 私の為にそこまでする?)」

 

 マルタ(三月)は気付いては居なかったが、彼女の目立ちたくが無い為に「地味な子」の演出が更に彼らの庇護欲を誘い、衛宮邸でご厄介になっている「アーサー(セイバー)」の()()に武術の教えを乞う藤村組。

 

 流石カリスマBランクと英雄だけあって、藤村組の統一感は更に上昇し、腕も磨かれていった。

 

 余談だが、お代はちゃっかりとセイバーは藤村雷画から貰って、それで自分の好きな(主に食べ物の)お店を手当たり次第まわっていた。

 

 尚、セイバーが第二の生を生きる為に「オシャレ」、所謂化粧やドレスを着て冬木市を見まわり、「兄貴」が実は「姉御」と後に藤村組の者達に気付かれてかなりの大波乱が起きる。

 

 それは未来の藤村組の内戦状態間近まで発展するのだが…………それはまた別の機会で話すとしよう。

 

 とまあ、マルタはうっかりと()()()()()同様、もしくは年が更に前なので、それ以上に藤村組に良くされる事となった。

 

 ただ────

 

 「────こちらB班、異常無しですぜ」

 

 「────C班だ、お嬢の通る道にゴミをポイ捨てした野郎をポイントβに連行」

 

 「────A班だ! 喜べテメェら! 俺達の様な者にお嬢が手作り弁当を配給なされた!」

 

「「「「「ウオォォォォォ!!!」」」」」

 

 ────上記の通り、度を越えた過保護な者達も出て来てしまったが。

 

 それらが聞こえてしまうマルタは少々肩を落としつつも、隣で一緒に登校する大河が複雑な笑みを浮かべていた。

 

「ま、まあ……彼らも悪気はないんだから、良いんじゃない?」

 

「そう()()()()()は言うけどさぁ………」

 

 マルタは別のこれらを嫌がっている訳では無い。

 寧ろ微笑ましいと思う。

 

 ただ、彼らの行動はかつての「ファンクラブ」をマルタに連想させていた。*1

 

 しかも今回は学園で自分(マルタ)と大河を画いた『虎xマル同人誌』の発見事項もあり、()()の学園生活とは()()違った方向に目立ち始めていた。

 

「………………どうしようかフーちゃん?」

 

「ね~?」

 

 マルタの深刻な顔に、明るい大河(フーちゃん)が笑う。

 

 勿論この事が衛宮邸の他の皆に影響しない訳が無く、切嗣は組長である雷画の「良き友人」で何時の間にか「()()()()」。

 イリヤは「イリヤ嬢」(「お嬢」呼ばわりを猛反対したセラによって渋々命名。)

 アイリスフィールは「若候補の奥方」。

 舞弥は「舞の姉貴」。

 そしてセイバーは勿論「アーサーの()()」だった。

 

 後、大河はやはりこの時代でも自分の名前が気に入らず、悩んでいた所をマルタが思わず「藤姉」と言いそうなのを「ふj────『フーちゃん』なんてのはどう?」と言う所から即採用されていた。

 

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 雁夜 視点

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 雁夜はソワソワしていた。

 どの位と言うと桜を救う為、三月とチエ達の提案祈り、臓硯(クソ爺)相手に命を賭けた博打に出た時以来だった。

 

 手と体は震え、喉はカラカラになり、冷や汗が体中から噴き出していた。

 

 心臓の鼓動音が耳朶にうるさく、ドキドキとしてさらに緊張感を与えていた。

 

「(装備は十分、備えもある! イザとなった時の逃走経路も三重に練った! だが……………)」

 

 雁夜は万全過ぎる準備をしたとしても再度全ての道具を確認して、点検をして行く。

 

 不安なのは変わらない。

 

 失敗は許されないのだから。

 

「(……………………来た!)」

 

 雁夜の目的である人物が勢いよくビルから出るのを目視して、彼は様々な装備を構える。

 

「(よし! こいこいこいこいこい!)」

 

 標的が雁夜に気付き、急接近し始める。

 

「かりやおじさん?」

 

 「桜ちゃわ~~~~~~~ん」

 

 7台ほどの家庭用カメラに2台のテレビ番組用のカメラの内一つのビューファインダーでドロッドロの笑顔になる雁夜のカメラを小学校入学式を終えたばかりの桜が覗き込む。

 

 もう他所から見れば親馬鹿を通り越して『超』が付く程の馬鹿が付く様子である。

 

 何処からどう見ても最新のカメラ道具一式(家庭&業務用両方とも)。

 動いた金はくだらない程なのは火を見るより明らかだった。

「このお金は何処から?」と思う者がいるかも知れないが、実はと言うと雁夜は三月(本体)とチエがこの世界を後にした後イリヤと凛の『魔法』の指南役をしていた。

 

 錬金術の名家であるアインツベルンと冬木市の管理人(セカンドオーナー)である遠坂家。

 この二つの家がお金に困る事は…………………………………………………

 

 いや、訂正。

 遠坂家は5、6歩間違えばすぐさま経済難となるガラスの橋の上に成り立っている。

 だが遠坂時臣が安泰であれば大丈夫だろう。

 

 …………………多分。

 

「桜ちゃわ~~~~~~~~ん、こっち向いてちょ~~~~~~~~~~♪」

 

「お、おじさん…………恥ずかしいよ~」

 

 「ア゛ッ! マイハートがやばい! 良い! その照れ顔が良い! ディ・モールト! ディ・モールトベネッッッッ!!!!!

 

「ちょっと君、良いかね?」

 

「へ?」

 

 超超超ご機嫌な雁夜の肩に手が置かれ、彼が振り向くと青い制服(警官)の方達が他の親に呼ばれていた。

 

 尚、彼らの説得にかかった時間の間桜の小学生姿を堪能したマルタだった。

 

「もう桜ちゃんかわゆいよ~~~~~~!!!!♡♡♡」

 

「え、えへへへ~」

 

「勿論よ! 自慢の妹なんだから!」

 

 そこで「フフン!」とドヤ顔をする凛。

 

 これを見たイリヤはすぐさま不服なプックリお餅顔になり、母であるアイリスフィールに迫り、お願い事をする。

 

「お母様! 私も弟か妹が欲しい!」

 

「あらあら、これはキリツグにもうひと踏ん張りして貰わないと」

 

 イリヤは知らなかったかも知れないが、実はと言うと切嗣とアイリスフィールは既に()()()()()()中であった。

 

 だがイリヤの頼みもあり、アイリスフィールは躊躇していた魔術をその日から使った。

 

「………………おじさん? な、何かやつれていない?」

 

「だ、大丈夫だよマルテウス君。 ハ、ハハハハハ」

 

 その少し後の切嗣は『本来の物語』通り顔がやつれて行った。

 

 まあ、これもある意味一種の呪いではあるか?

「生物」である限りの誰もが持つ「繁殖欲」と言う呪いだが。

 

 もう一つのリア充バカップルのケイネスとソラウはウェイバー&ライダーと共にロンドンへと、桜の小学校入学式の一週間前に帰ったばかり。

 

 さて、何故突然この者達が話題に出るかと言うと────

 

「────邪魔しているぞ、カリヤ!」

 

「────お前、ロンドンに行ったんじゃねえのかよ?!」

 

「あ、あかひげおじさんだ! いらっしゃい!」

 

「え? 何で、ここに?」

 

 間桐邸に帰って来た雁夜と桜、そしてマルタを出迎えたのは間桐邸の居間で踏ん反り返りながら大型テレビに接続したゲーム機で『アドミラブル大戦略IV』をプレイしている場面だった。

 

 しかもテーブルの上には食い荒らされていたお菓子と飲み物の残骸達。

 

「いや、坊主が『ロンドンは良い!』と言っていたので付いて行ったら天候は辛気臭いし、陰気な魔術師共がウジャウジャいてのぅ? 最初は我慢していたのだが…………」

 

「「だが?」」

 

 始めてみる、神妙な顔になるライダーに異様な気配を感じて緊張する雁夜とマルタに彼はハッキリと答えた。

 

 「飯があまりにも不味過ぎる!」

 

「「そこかよ?!」」

 

 ライダーの言葉に思わずこけそうになる雁夜とマルタがツッコむ。

 

「何を言うか?! 生を生きる為の糧となる食物は大事だぞ?! なのにあれは何だ?! 世界を一時的にとは言え牛耳る大帝国の本国が、まさかの家畜の餌以下とはあんまりではないか?!」

 

「え? まさか征服王はそれで一人で帰って来たの?」

 

「応とも! やはりこの極東の島の飯が上手くてな! 余はやはりここに居た方が良いと思ったまでよ!」

 

「まあ…………ライダーの言い分も分かる」

 

「そうであろう、そうであろう!」

 

 ライダーがウンウンとマルタに同意すると間桐邸の電話が鳴り始めた。

 

「「……………………」」

 

 これを聞いた瞬間、雁夜とマルタは互いを見て────

 

「「────フン! フン、フン、フン、フン、フン!!!」」

 

 ────ジャンケンを始めた。

 

 そして何度目かのあいこの末に負けた雁夜が渋々鳴り続けていた電話の受話器を取りながら、恨めしそうに桜をチョコンと股に座らせながら彼女と共にライダーのゲームを見るマルタを睨んだ。

 

「ハイ、こちらまt────」

 

 『────そっちにライダーは居ないか雁夜?!

 

 雁夜が思わず受話器を耳からすかさず離すも、「キィーン」と耳鳴りはしていた。

 

「ウェ、ウェイバー君かい?」

 

『あのバカ、ただ“余は帰る”の置手紙一つで忽然と消えたんだ! で一応ギリシャ行きの便などに使い魔を出したんだけどアイツの姿がどこにも────』

 

「────こっちに居るよ。 何か『飯が不味い』という事で────」

 

 『────ハァァァァァァァ?!

 

 本日二度目の耳鳴りに耐える雁夜であった。

 

 結局ライダーの住居は取り敢えず広い間桐邸にライダー自身が決めた。

 

 それも「チエ殿が帰って来るとすれば此処であろう? ならば余がここで構えるのが通りである」という彼らしい無茶ぶりだった。

 

 雁夜は雁夜で頭痛の予感しかなかったが内心安心はした。

 

 何故ならライダーは自分が間桐邸のお世話になる限り、桜の護衛役を買って出てくれたのだから。

 

「未来ある子を守る事位、どうと言う事はない! という事でよろしくな?」

 

「ひげさわらせて~!」

 

「おお、良いぞ!」

 

「わ~、さらさらしてる~!」

 

「……………………………俺も生やすか」

 

「え゛」

 

 これを見た雁夜はその日から髭を生やし始め、髭用のグルーミングセットを買うのだった。

 

 そしてその日から桜の学園登校に付き合うライダーはその性格で学園の少年達の間で人気者となる。

 

 これには桜の兄の慎二も同じであり、前回の世界線の彼を知っているマルタは彼女なりに気を使って、彼と桜の世話を見ていった。*2

 

 ___________

 

 ウェイバー 視点

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 ウェイバーは毎日胃薬を服用しないといけない程、胃を痛めていた。

 

 原因は主に彼の師であるケイネスが冬木市で得た『聖杯に関する情報』の一部を公表した事である。

 

 無論、時計塔の魔術協会がこれに興味を示さない筈が無く、ケイネスの地位は更に上昇。

 そこで彼は────

 

「────私自身、助手であるウェイバー君の手を借りて得た情報。 彼の才能は魔術の外にあった事には意外だったよ」

 

 と言う、正に爆弾宣言にも似た一言が腫れもの扱いであったウェイバーの立場が一転し、注目を周りから浴びる事となる。

 

 ちなみに彼が腫れもの扱いとされたのは他でもないケイネスが彼の書いた論文の『新世紀に問う魔導の道』が関係する。

 

 これは構想三年、執筆一年といった、計四年の時を使った、『なぜ術師としての期待度が血筋だけで決まるのか?』や、『なぜ理論の信憑性が年の功だけで決まるのか?』などと言った、現在の魔術師社会を根底からひっくり返すような内容だった。

 

 少しウェイバーの背景のおさらいをするが、実は彼はベルベット家の三代目魔術師────

 

 

 

 

 

 

 

 ────ではなかった。

 実はと言うと、初代ベルベット家魔術師である彼の祖母は『興味本位のみ』で、しかも()()()()()()ついでに初歩的な魔術を習ったに過ぎない(しかもこれは祖母の当時の愛人の興味を引く為である。)

 そして二代目ベルベット家魔術師のウェイバーの母親は「ママ(祖母)の思い出を大事にしたい」という事から秘蹟を継承。

 

 つまり本気で魔術の追及に全力を出すのはウェイバーの代が初めてであり、現実的に言うと彼が初代ベルベット家『魔術師』となり、初代と二代目と共に厳密には『魔術師』ではなく『魔術使い』だった。

 

 そんな家系を持ったウェイバーは、魔術師社会の事を良く思っていない母親の猛反対を押し切り続けて、両親が病没した途端、家財一式を擲って入学資金を捻出し、裸一貫で時計塔へと乗り込む事に。

 

 だがロンドンの時計塔で彼を待っていたのは苦労と挫折であり、名だけの『三代目』。血統の古さばかりを鼻にかける優待生達と、そんな名門への阿諛追従(あゆついしょう)にばかり明け暮れる取り巻き。

 

 これは同じ生徒に限った事ではなく、講師達も名門出身の弟子ばかりに期待を託して、ウェイバー達のような『代が浅い』魔術師達には術の伝承どころか、魔導書の閲覧すら渋る有様。

 

 それが彼の憧れていた魔術師社会(魔術協会)であり、時計塔(ロンドン)だった。

 ある意味、ウェイバーの背景は間桐慎二に似ていたかも知れない。

 

 そんな環境で論文を書くのに4年も費やした覚悟を当時のケイネスは一通り流し読んだ後、大勢の前で彼を指摘して「君のこういう妄想癖は、魔導の探究には不向きだぞ。ウェイバー君」と共に破り捨てた。

 

 これがウェイバーを『聖杯戦争』という血みどろの殺し合いに参加した理由だった。

 

 人生の中での大博打。

 

 そこで彼は様々な人と存在に出会い、変わり、彼はその人達の強さと力に憧れた。

 

 無論彼だけではなく、参加者全員が変わったと言っても過言ではないが…………

 

 ウェイバーには特に()()に対して敬意と誇りを持っていた。

 彼は()()に『自分の正義を持つのは大切な事』だと学んだ。

 

 さて……………少しおさらいが長くはなったが、そんな彼が突然()()ロード・エルメロイのケイネスからの注目を浴びて、無事な訳が無い。

 

 まずロンドンに帰って来た初日にはライダーの居ない隙を狙って、『優等生』達にちょっかいを出され、講師達は見て見ぬフリどころか『余興』として面白がっていた。

 

 だがウェイバーには彼女(チエ)(綺礼)に鍛えられた事もあり、『優等生』達を見事返り討ちにした。

 

 この変わりようにウェイバーは良い意味での注目を更に浴び、彼の元に『代が浅い』魔術師達がこぞって集まり、彼を中心にした派閥を作って行った。

 

 ウェイバーは最初の頃こそ嫌がっていたがこれを良しとしない他の派閥の者達がこの新しいコミュニティの子達を再起不能寸前まで追いやる事などが起き、ウェイバーは激怒した。

 

 結果、彼は持ち前の抜きん出た観察力と洞察力、そして師である二人からの教えでメキメキと他の子達を鍛えて行った。

 そして彼は創ってしまったのだ、文武両道の(現時点での)最強集団を。

 

「………………ハァ~~~」

 

 ウェイバーが憂鬱の溜まった溜息を出しながら、自分に届いていた手紙や招待状などを流し読むながら、長くなり始めた髪の毛を()()のように束ねる。

 

「……………ンンンンンンンン?!?!?!?!」

 

 そのこんもりとした紙の束の中に、ケイネス自らが書いたウェイバー宛ての招待状があった。

 

 この事から「ウェイバー達が『ロード・エルメロイ』に認められた」と言う噂が飛び散り、彼の元には名門家の『優等生』達も集まる事となる。

 

*1
作者の別作品、『天の刃、待たれ』より

*2
別作品の『天の刃、待たれよ』より




お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!

さて……………そろそろ『天の刃』の方も書くか♠

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