バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った 作:haru970
___________
衛宮切嗣 視点
___________
「「言峰……奇礼?!」」
「見つけたぞ、衛宮切嗣………そして、間桐雁夜」
神父服の言峰綺礼は切嗣と雁夜を見て、待ちわびたとばかりにそう口にした。
何故この場に言峰綺礼がいるのか、切嗣は頭で一説の仮定を考えた。
キャスターと子供達の侵入を確認した時点では綺礼がこのアインツベルンの森に侵入したという事を確認していなかった。 どさくさに紛れてか、或いはその後か、どちらにしても切嗣にとっては最悪の状況である。
前門の虎、間桐雁夜に後門の狼、言峰綺礼。
前後共に代行者並みの能力を持つ者の間に挟まれた切嗣。
「(セイバーに
急造の魔術師の筈の間桐雁夜にそのサーヴァント、双方規格外の実力を示した片割れの一人とここに言峰綺礼の出現。
暗殺稼業など行う衛宮切嗣は想定内で事態が収まる例は数少なく、常に想定外を基本に行動を起こしているがこうも想定外の更に上を行く出来事が連続で起き続けていた。
そして綺礼が来た方向はキャスターからの逆方向、つまり自分の妻アイリスフィールと舞弥と遭遇した可能性が高い。 或いはもう衝突した後────
「(────いや、冷静になれ。 ここで僕が倒れたら元も子もない。 セイバーをこの場に呼んで離脱するか? 出来れば一人、ここで排除したいが……駄目だ、リスクが高すぎる)」
仮にここにセイバーを強引に呼んだとしても一つでも打つ手を間違えればマスターとしての資格どころか命を落としかねない。
「(ならばセイバーを呼び、離脱────)────?!」
切嗣が令呪で呼ぼうとした時、綺礼は黒鍵を数本取り出しそれらを投擲する。
___________
言峰綺礼 視点
___________
一瞬切嗣は躱す為に身構えるが黒鍵達は大きく切嗣から逸れ、向こう側にいた雁夜へと飛んでいく。
「なッ?!」
突然投擲された黒鍵を雁夜は躱し、綺礼は何の感情もこもっていない声音で言う。
「成る程。 やはり“急造の魔術師”と呼ぶには些か以上に優秀なマスターのようだ」
先程綺礼は“試す”ではなく“殺す”気で黒鍵を投擲したのでおおよそ一般人では反応できる速度ではなかったが、雁夜はそれを躱した。
師であり、今尚協力関係である時臣の話に聞いていた間桐雁夜であれば、今の投擲で即死の筈。
だが実際はどうだ?
ともすれば、師の時臣の話は嘘か、はたまた時臣の勘違いのどちらかである。 が、味方であり、信頼を置く協力者の綺礼に嘘をつく道理はない以上、時臣の勘違いという可能性が一番高かった。
それを裏付けるかの様に現に間桐雁夜は衛宮切嗣と対峙し、大した手傷を負っていない様に見える。
「(この男、どれ程の実力か見計らう必要がある。 少なくとも……)」
綺礼は生まれてこの方、万人が美しいと感じるものを美しいと感じる事が出来ず、今日この時まで持って生まれた性に懊悩し続けてきた彼は苛烈な人生を送る切嗣を自身と同じ存在であると推測し、聖杯戦争が始まったその日から切嗣の事を調べ続け、もし切嗣の聖杯にかける願いをしれば、自身の答えを見つける事が出来るかもしれないと固執していた。
それに時臣の障害になる以上、排除しなければならないが、そうでなくとも、自身の求める答えを持っているかもしれない切嗣と対等に渡り合える雁夜は綺礼にとって、邪魔な存在でしかなかった。
ならば取る行動は一つ。
「衛宮切嗣」
「…………」
「無視をするのなら、それでいい。 聞き流すだけで構わない。
「信用出来ないな」
___________
衛宮切嗣、言峰綺礼、間桐雁夜 視点
___________
「信用出来ないな。(
切嗣の意見はもっともだ。 何せ綺礼と時臣が師弟関係であり、協力者である事は既に調べがついている。
そして魔術師殺しという異名を持つ切嗣は時臣にとって、脅威である筈。
その上綺礼が危険な存在であると睨んでいる切嗣からしてみれば、綺礼が雁夜を排除するとならそれは願っても無い提案ではあるものの、信用など出来るはずもない。
今すぐにでも自然な動作で隣に立ち、雁夜へと戦闘態勢をとる綺礼の頭にコンテンダーを撃ち込みたい衝動に駆られている。
だがそれは今の状況では悪手で綺礼に引き金を引けばコンテンダーを再装填する必要がある。 もし綺礼を葬ったとしても今度は再装填が必要なキャリコとコンテンダーで雁夜を退けねばならない。 少なくともセイバーを呼び、体勢を立て直すまでは。
それに────
「(────今は
────切嗣の感が告げていた。 今この瞬間綺礼よりも雁夜が脅威だと。
深く息を吐いた後、切嗣の敵意の視線が自身から雁夜に向いたのを感じ取った綺礼は雁夜へと肉薄した。
「えっ?! ちょ! 待っ! (こんなのありか────?!)」
「────ふ!」
綺礼一度の踏み込みで開いていた距離を詰め、そのまま掌打を雁夜の身体の中心点めがけて放つ。
「(早い! これが三月の言っていた八極────)────グォアァァ?!」
雁夜は咄嗟に両腕でガードするが、腕はミシミシと骨が軋み、足は踏ん張る事も出来ずに雁夜は廊下の奥へと吹き飛ばされる。
そしてそれを追撃するように切嗣は持っていた手榴弾を投げると数秒後に轟音とともに城の一角が吹き飛んだ。
“流石魔術殺しと呼ばれるだけの事はある”と綺礼は考えるなか、切嗣は人影が立ち上がっていくのを確認する。
「……本格的に人かどうか疑いたくなる。死徒でも相手にしている気分だ」
「フ、同感だが並の死徒ならば先の一撃で消し飛んでいる。 まだ死徒の方が闘い様もある」
「いててて、酷い言われようだ。 ある意味お前たち二人よりはまともな人間のつもりなんだけどな」
これを聞いた綺礼は神父らしく、最もな事を言い返す。
「お前を人間と定義するならば、我々は人以下の存在であると言わざるを得ないが、敢えて言わせてもらうとすれば、お前を人と認める訳にはいかない。
(殺すつもりで打ち込んだが………あの感触。 私同様に肉体と服に多数の防護壁が張られていると見た。 であるならば、最も防御の薄い頭部を砕く他無いか)」
「癪にさわるが、僕も同じ意見だ。 お前の様な人間界の法則を無視した存在が人間でたまるか。
(あの態勢からの踏み込みで、あの破壊力のある一撃を生み出す綺礼も驚異的だが、それを何食わぬ顔で受けきる雁夜はそれ以上に驚異的だ。 何故こんな化け物が今の今まで一般人として生活をしていたんだ?)」
「いやだから俺は人間だよ?
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう痛みは引いたが八極拳ハッキリ言って怖いし骨がミシミシってどれだけ?)」
冷や汗を流しながら雁夜は静かに敵意の眼差しを自身へと向ける本来ならば在りえない最凶最悪のタッグを見据える。
三月から雁夜が聞いた話によると本来なら切嗣と綺礼は水と油。 何がどうあっても交わる事の無い存在同士であり、どう足掻こうとも、一時的にであれ、
だが雁夜と言う明らかに異端で巨大過ぎる共通の妨害となる存在によって水と油同士の存在は今この瞬間交じりあった。
無論、本来水と油の存在同士の切嗣も綺礼もお互いの事を欠片も信用しておらず、合わせる気などはなっから無い。
だが人体の破壊を極めた八極拳の使い手であり、死徒と呼ばれる存在を屠る事を生業としてきた綺礼と、魔術師を銃火器や爆破物などありとあらゆる手段を用いて殺し尽くしてきた切嗣。
この二人の用いる攻撃手段は違えど、どのタイミングで何をすれば良いかがモノを言う行いをして来た二人。 タイミングに関して言えば、非常に近かった。
故に信頼も信用もありもしないコンビは互いが思っている以上に相性が良かった。
綺礼は雁夜へと接近しながら両手にある黒鍵に魔力を通し、刃を出現させる。
「ッ?!」
綺礼は自身の身体に何かが圧し掛かった様な重さを感じ、僅かに態勢を崩すがさらに深く強く踏み込み、床を砕く勢いで突進するように雁夜へと黒鍵を振るう。
「チィ! (重力3倍でもこんなに早く動けるのか?!)」
雁夜は綺礼の黒鍵を躱し、綺礼へ向けて更に魔法を行使しようとした時
「(あっぶねー! 今のは切嗣か?!)」
そこで雁夜は思う、綺礼は動きが鈍っている中強引に体勢を立て直し自分へと今また襲い掛かり、切嗣にしては自分が躱せる程起源弾の狙いが雑だった事を。
「(
「(後ろ?!)」
確かに雁夜の実力は僅か一年前まで一般人だったにしては立派なモノへと成りつつある。
だが戦闘経験が圧倒的に欠落していた、特に多対一と言う今の状況に彼はほぼ経験が無い。
更に元代行者と魔術師殺しという特殊な経歴から他の魔術師にはない経験があり、油断或いは意識の散漫などに対する変化に敏感だった。
「(この者は────!)」
「(────ここで仕留める!)」
「ッオオオオオオォォォォォォォ!!!」
「「何だと?!/何ッ?!」」
綺礼の拳と切嗣の放った起源弾が同時に雁夜の身体に当た────
────らないどころか雁夜の身体を文字通り
「ハッハッハッ────」
「────馬鹿な、あり得ん」
「────悪夢か、これは?」
何が起きたのか、切嗣と綺礼には到底理解出来なかった。
今まで雁夜がしてきた事全てが理解の範疇を超えていたが、今回の出来事は無理矢理自身達を納得させようにも出来なかった。
仕留めた。 そう思った瞬間、双方の攻撃は空振りに終わり、振出しへと戻った。
何かどうなったのか、自分達は何故また雁夜と対峙しあっている状態に戻ったのか、思考を張り巡らせてもあるのは漠然とした矛盾だけだった。
「(起源弾が
「(あり得ん。 奴の身体を通り抜けるなど。 過去にそれらしき能力を使徒などが模範した例は在ったがあの奇妙な感覚は何だ? 魔力はおろか、まるで空気そのものを駆け抜ける感覚だった。)」
「(クソ、俺とした事が………ここで奥の手を使ってしまうとは…………)」
「一つ……聞かせてもらおう」
「な、何だ? (言峰綺礼が俺に質問? どうでもいい、今は息を整えないと………)」
「間桐雁夜、お前は聖杯に何を求め、何を望む? 魔導から目を背け、ただの
「何も………望むもの………など無い」
「ッ?!」
“望むものなど無い”。
雁夜の口から出た言葉に綺礼は目を見開いた。
彼、言峰綺礼は間桐雁夜を魔導を捨てた落伍者として認識していた。 そして一度は捨てた魔導の道、間桐家とは絶縁状態にある家に戻ってきて、急造で魔術師になる程の何かを抱き、この聖杯戦争に参加したのだと綺礼は思っていた。
だというのに雁夜から返ってきた答えは予想外のもの。
“捨て去った血筋を利用してまで参加した万能の願望機の為に命を賭して闘う聖杯戦争に、何の願望も持たずに参加した”と綺礼は雁夜の答えをそう解釈していた。
「それは────」
────まるで自分の様だ。
思わずそう綺礼は口にしそうになった。
確かに二人は聖杯自体に願望は無い。
だが決定的に違うのは雁夜は“初めから聖杯に求めるものなど存在しない”に対し、綺礼は“自身が何を求めているのかすらも分からない”。
似ても似つかない圧倒的な差。
綺礼は戸惑いながらも自身の問いを雁夜へと投げる、感じた事も無い感情の昂ぶりを持ちながら。
「ならば……ならば、お前は何故この聖杯戦争に参加した! 求める物があるからこそ……答えを持っているからこそ、参加したのではないのか?!」
もしかしたら、切嗣ではなく、この男も自身の追い求める答えを持っているのかもしれない。
雁夜の経歴を見れば、綺礼や切嗣とは違い、魔術師に言わせれば「凡俗」としての人生を歩んできた雁夜。
それが自身と同じである筈などない。 と、綺礼心の底では理解していた。
雁夜は自分のように空虚な男ではなく、一般的な美的感覚を持ち、道徳を尊び、悪を許さない。
そんな当たり前の人間なのだと。
だが、問わずにはいられなかった。
それは目の前であり得ない事からの動揺か焦りからか、それとも答えを得られるのであれば誰でも良かったのかは綺礼本人にもわからない。
「それは…………」
雁夜は考える。 “何故参加した”、か。
初めは“押しかけ女房”ならず、“押しかけ小女”の所為で不審者扱いされた。
先の少女から持たされた情報と取引で桜を間桐家の魔術と臓硯から守る為に帰って来て…………
そこからの一年間で聖杯戦争への準備…………
「俺には答えられない」
「ッ?!」
「そもそもそれの答えは自分で見つけるものだと思う。 人は一人一人、自分で満足出来る答えを見つけている。 もし答えたとしてそれは“俺”の答えだ」
前に三月に何でここまでしてくれるのか聞いた事があるが、帰って来た答えは“自分の我儘だから”。
チエさんは“バカンスだから”。
そして俺は桜に“人として幸せになって欲しいから”。
綺礼は目を見開いたまま、ただ“信じられない”という様な顔で雁夜を見ていたが途端に近くの窓に身を投げてその場から離脱した。
着地には一体のアサシンが待ち構え綺礼を受け止めるとそのまま抱きかかえその場から離れていった。
「君は…………」
「ん?」
「…………いや」
そこに残された切嗣が雁夜に何か聞きそうになるが、気が変わったのか問いを止めるとほぼ同時にチエが割れた窓から雁夜をお姫様抱っこでまた出ようとする前に切嗣を見る。
「行くぞ、雁夜」
「え?! ち——バーサーカー! 俺はまだ────!」
「────衛宮切嗣、森の子供達を頼んだぞ────」
「────だから話を聞けぇぇぇぇ?!」
雁夜が抗議するがチエは無視し窓から城外へと跳び出てそのまま森を駆け抜ける。
「キリツグ!大丈夫ですか?!」
その数秒後チエが自身のマスターへと向かっているのに焦り、若干遅れて現れたセイバーは切嗣が無事でいる事に安堵しつつも切嗣の様子が何時もと違うのを感じ取った。
「……取り敢えず、生きているよ。 結果は完敗だけどね」
「それは…………私も同じ様なものです。 貴方の危機を知りながら、あのサーヴァントを警戒するあまりに足止めを強いられていました。 それに貴方も私も、まだ脱落はしていないのですから、まだ負けと決まったわけではありません」
「………そういう見方もある……か……」
切嗣の視界が揺れ、彼はその場で倒れる。
ケイネスから始まった固有時制御の連続使用の上に激戦の反動は二分に高かく、緊張の糸が切れた瞬間切嗣の意識は遠のき始め、次第には深い闇へと落ちた。
___________
ランサー運営 視点
___________
「……………はッ?!」
ケイネスは見た事もない景色、経験した事もない出来事の記憶から目を覚まし、意思が覚醒するにつれ先程の事を理解し始めた。
サーヴァントと契約を交わしたマスターは、ごく稀に、夢という形で英霊の記憶を垣間見ることがある。 となると先の夢はランサー、“ディルムッドとグラニアの物語”の一場面の筈。
ケイネスは深く息を吸い、廃墟ならではの埃じみた空気と冬の夜の冷気が寒さを感じさせる。
彼が今いるのは街外れの廃工場、冬木ハイアットホテルが切嗣により爆破解体された後ここを仮の隠れ家として居を据えた。
数時間前、ケイネスはキャスターを追跡し、ランサーと共にアインツベルンの森へと辿り着いた。 そして偶然にも雁夜と彼のサーヴァントを見つけランサーはサーヴァントの足止めを、自分は倉庫街での報復を。
そして敗れた。
顛末の全てを思い出したケイネスだったが、その頭の中にあったのは屈辱でも憤怒でもなく、純粋な疑問だった。
自身の最高傑作である魔術礼装月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)を一撃の元に消し炭とした雷の
二節。
たったの二節で放たれた一撃にしてはあまりにも規格外な威力はサーヴァントにすら通用しえるものである事はケイネスも理解した。
なのに何故あれは自分に向けてなかったのか? もし自分へ放たれていたら間違いなく即死であったのは明白だった。
全力で防御に徹していたとしてもだ。
ならば答えは一つ。
間桐雁夜は殺意が無かった。
通常のケイネスなら“情けをかけられた”、あるいは“生かすだけの理由があった”と考え激怒するが今はそれ以上に、あれだけの威力を持った魔術を使用するのに二節の詠唱のみであった事。
時計塔で“神童”と謳われたケイネスならそれなりの準備、条件が全て合い始めてあの規模の魔術が使用可能となる。
だが雁夜はそれを必要としていなかった所かたった二節でそれを行った。
そして雁夜はそれを自分に使用せず、拳でねじ伏せた。
故にケイネスは考える。
“何故だ?”
雁夜の行動も、魔術の専門分野も理解できなかった、天才である筈の自分が。
ケイネスの頭の中でこのような思考がグルグルと回って数秒後、彼は口を開く。
「ランサー」
「ここに」
ランサーはケイネスの呼びかけに実体化し、現れた。
「私をここに運んだのはお前か?」
「は、勝手ながら一刻を争う事態でしたので」
確かに、あの場は一刻を争う事態だった。
“サーヴァントによる足止め”。 確かにそう命じたが、
離脱しようにもその素振りを見せただけで
そして爆発がアインツベルン城内で起こりやっとランサーは身動きがとれるようになった。
“ただ一つ、主への忠義を示す事。それこそが我が望み。聖杯など必要ありませぬ”。
そうランサーは言っていた。
聖杯にではなく、聖杯戦争自体にランサー、ディルムッド・オディナがかけた願い。
「ランサーよ。 その行動、褒めて遣わそう。 お前がいなければ、私は敵のマスターの手に落ちていた」
「…………………」
「……?」
ケイネスは顔をうつむくランサーを不思議に思った。
誰を討ち取ったわけでもない。何かを得たわけでもない。
彼ならば今の言葉で感動を現すと思ったのだが…………
「どうしたのだランサー?」
「主よ! 申し訳ございません!」
「な、何だ? 何だと言うのかね?」
何故だ? 何故ランサーは悔しそうに肩を震わせている? 何故?
………………待てよ、さっきからソラウの姿が────
────まさか?!
「ランサー! ソラウは! ソラウは何処だ?! 彼女はどうし────!!!」
「あー、目が覚めた?」
「?」
ケイネスは聞いた事の無い、女性と呼ぶには幼さが残っている声のする方へと視線を移した。
そこには十代前半の少女が立っていた。
“ミーちゃん”、“みっちゃん”、“ゴスクロ悪魔”。
またの名を────
「お初にお目にかかりますロード・エルメロイ、私の名は三月・
────雁夜の
「なッ?!」
ケイネス突然の挨拶と情報に素早く立ち上がり戦闘態勢に入ろうとしたが身体がよろめき、ランサーが肩を貸す。
「貴様! 彼女を、ソラウをどうした?!」
「さあ? どうでしょうね~?」
三月がクスクスと笑いながら笑顔を出し、ケイネスは色々な妄想や仮定を────
「────もし私が何かしたとして、貴方はどうするのかしら?」
「貴様ぁぁぁぁ!」
ケイネスは怒りに身を任せ、未だに顔をうつむくランサーを強引に振り解き三月に拳を振るい、三月はそれを躱し続ける。
本来なら魔術を行使する事も、最愛の婚約者の身に何かあり、この愉快そうな少女がそれに関係すると考えただけで戦術や策略は殺意に上書きされた。
「あらら、動きが素人同然ね」
「貴様! 貴様はぁぁぁ! 私の愛する人をぉぉぉ!」
「“愛する人”? じゃあ何でその思いを彼女にストレートに伝えなかったのかしら?」
「黙れぇぇ! そんな! そんな事! 恥ずかしくて直に言えるかぁぁぁぁぁ!!!」
プライドも、誇りも、聖杯戦争への理念もグチャグチャにされつつあったケイネスはその身に辱めも受けた。
「本当に? 本当の本当に? 彼女が許嫁だったからじゃ無くて? 自分が優越感を感じる為に傍に置いた訳じゃなくて?」
「当たり前だ! 彼女は………」
ケイネスは元々衛宮切嗣や言峰綺礼みたいに化け物並みの体力は無く、今の振りかぶる拳にはキレや勢いは既になくなっていた。
そこには自分の拳が虚しく空回りしている事実に目から涙が流れていた人間、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという名の、ただ一人の男性がそこにいた。
「………彼女だけは私にとっての光輝く女神だったんだー!!! 来る日来る日も研究などで充実していた毎日は彼女が加わった途端、充実感が何倍にも増した! 彼女が傍にいるという事実だけで私の心は安らげたんだぁぁぁぁ!!!」
「だ、そうよ? ソフィアリ嬢?」
「……………………………………………………え?」
三月が部屋へと通じる戸口へと声を掛けると耳まで真っ赤にしたケイネスの婚約者、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが立っていた。
「け、ケイネス………その………」
「ね? 言った通りでしたね、ソフィアリ嬢?」
「…………………………………………………………………へ?」
ケイネスは何が起きているのか、何が起きたのか理解が追いついていなく、ただ自分の愛しい人のソラウを見ていた。
「誠に申し訳ありませんでしたロード・エルメロイ様。 魅了の呪いを外したソフィアリ嬢にロードの本心を聞かせる為に敢えてこう演じていました」
「……………………………………は?」
「ケイネス………さっきの事全部……本当なの?」
ケイネスはソラウの真っ赤になった顔を見ると、彼女の目は熱意のこもった視線をケイネスへと送っていた。
「あ…………う…………」
「ねえ、ケイネス。 答えて頂戴。 お願い」
理解がやっと追いつき始め、タジタジになり後ろへと後ずさるケイネスにソラウはズカズカと彼の前に接近して彼の顔を見上げた。
「………………………………」
「ケイネス?」
戸惑いを隠せていなかったケイネスは次第に何時ものキリっとした表情に戻り、ソラウを真正面から見た。
「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ」
「は、はい」
「いいか? よく聞け」
「はい」
「私はアーチボルト家、九代の当主にして時計塔鉱石科の
「はい、それはもちろん存じ────」
「────話はまだ終わっていない。 そのような者が何故こんな極東まで来て聖杯戦争などに参加したと思う?」
「それは…………やはり自身に魔術師同士の決闘に勝利し、戦歴を────」
「────違う」
「では、聖杯戦争に勝ち、聖杯に願いを、或いは────」
「────違う。 違うのだよ、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。 私は………その………」
「????」
「君に………ソラウに…………いかに優れた、いやこれも違う…………良いか? 一度しか言わんぞ? 私は………愛するソラウに………………………良い所見せたかったのだ」
「へ? 今………何て?」
「き、聞こえなかったか? ならばそれ君の落ち度だ、私に────」
「もう、ケイネス。 そんな事しなくても、貴方が優秀なのは周知の事実」
「む? そ、そうか? 宜しい、では────」
その場から動こうとするケイネスを、ソラウはケイネスの手を両手で取り、動きを止める。
「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。 私は……ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは………貴方の事が好きよ。 いえ、今は愛さえしているわ。 ケイネスは………どう思っているの?」
「ど、どうって………先程申し上げた通りに────」
「────私は貴方から聞きたいの、ケイネス」
「……………わ、私は……………ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは………………君の事を………あ………あ………あ………………………………好いている」
「どの位?」
「だ、だから………その………………世界で………………何より……もだ」
「!!! ケイネス!」
ソラウは今までに見せた事の無い、心からの笑顔でケイネスの背中に腕を回し、身体全体を密着する勢いで抱擁し、頭をケイネスの胸に埋めていた。
「そそそそそそそソラウ?!」
「ごめんなさいケイネス! ランサーの黒子の呪いで魅了されていたとはいえ、貴方の事を不安にさせて、心を乱していた! でも、こんな形でも貴方の本心を聞けたのは嬉しい!」
「ソラウ…………」
ケイネスは遠慮しながらも感動に泣き始めるソラウの背中に自分の腕も回し、抱擁し返した。
「謝るのはこちらも同じ、自分の世間体を気にするあまりに君に私の思っている事を伝えずに、ただ自分を押し付ける様な事を────」
「────ああ、ケイネス!!!」
「ソラウ!!!」
この場を満足そうに見ている三月は未だに顔をうつむいているランサーの肩を叩いた。
「協力ありがとうランサー、ケイネスとソラウの為とは言え一芝居を打ってくれて」
「いや、礼を言うのはこちらだ少女よ。 最初は我が主を騙す様な行いに加担する自分が許せなかったが…………今こうして見るとこれで良かったと俺も思っている。 感謝する、三月よ」
「いえいえ、私も砂糖無しのブラックコーヒーもグイグイ行ける甘~~~~い場面を見る事が出来たからここに来た目的は半分達成したわ」
「半分? では俺の魅了の呪いの無効化と彼女にかかった魅了解除の他に何かあるのか?」
「あるけど、あの二人が落ち着いてから話に入るとするわ」
「そうか…そうだな」
三月とランサーは満足そうに、それこそ心から祝福しているかの様に涙を流すケイネスとソラウ二人の仲睦ましい姿に優しく微笑んでいた。
作者:うお~~~~ん! ええ話がな~~~~!
三月:うわ?! また泣いている?! と言うかこの話、結構力入っているわね?
作者:だっでケイネスと切嗣の戦いカッコいいじゃん?! でもでもケイネスってかませ犬になっちゃうじゃん? そして婚約者が病んで酷い事するじゃん?! もう何か救いが無いじゃん?!
三月:うわ、こいつもう顔ボロボロ。ほら、ハンカチで鼻かみなさい
作者:あんがど。 (チィ~~~~~ン!!!) ……………では次回! 三月は何故ランサー運営に接触したのか?! お楽しみに! あ、これ返すわ────
三月:────ぎゃあああああ! 返す前に洗えよ! 汚い!
マイケル:あいつら何してんだ?
ラケール:確か“コント”ってヤツね。