緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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ルート分岐:八百万エンド

 

「――『UNITED STATES OF SMASH』!!!!」

 

 神野での一幕を経て、オールマイトがオール・フォー・ワンへと拳を振るう。彼らしくないフェイントでぶち込んだ最高の一撃は、完全に意識を刈り取る一撃だった。

 オール・フォー・ワンはたまらず倒れ込み……結晶のように砕け散った。

 

「……なんだと!?」

「殺してしまった――と思ったかな? 何度でも覚醒するといい。僕はその度に何度でも生き返ろう。君は絶望と恥辱の中、あらゆる苦痛を味わいつくした末に終わるのだよ」

 

 それは勝利宣言。その絶望的な力の前にオールマイトは膝をつく。もはや戦う力は残っていない。

 

「待ってもらおうか、悪の帝王」

「巨悪の歩みを止めるため、鋼の巨人が来ましたわ」

 

 そこに乱入する二人。緑谷出久と八百万百、もっともその言葉通りにヒーローとして来たわけではない。

 この一幕の時点で『機甲巨人化創星録』(フルメタルギガース)は胎動を始めていた。オーバードライブとしてアストレアとラダマンチュスと裏で組んで勢力を拡大していた……オールマイトに秘して。表舞台に姿を表すにはまだ時期尚早だが、八百万も幹部として加わっているなら動ける段階になっていても不思議はない。

 

「……はは。大きく出たね、金魚の糞が。だが君たちのような幼く弱いヒーローの卵など、簡単に割られてしまうさ。ねえ、オールマイト」

「ぐっ。二人とも、逃げるんだ……!」

 

「逃げるくらいならここには来ねえさ、師匠。いや、オールマイト」

「ヒーローとして来たわけではないと言ったはずですわ。力の差は、勝てない理由にはなりません」

 

 普段とは異なるその恰好、ヒーローらしい真っ向勝負ではなく道具もなんでも使うと示していた。

 

「無理だね、道具は限界を超えない」

「……!」

 

 オールフォーワンは余裕の態度だが、オールマイトの方は悪い予感が止まらない。その見慣れない姿には、一点だけ共通しているところがある。……首の後ろに何か装置がある。

 

「それはヒーローのやり方であれば、でしょう?」

「努力をせず楽にがヴィランの信条だったか。だが現実はどっちかじゃねえさ。”使った”上で努力した方が強くなれるのは、当たり前の話だろうさ」

 

 ごぼり、と不吉な音がする。

 

「「――『暴星励起』(イグニション)」」

 

 個性因子が増殖する。強力に、暴走のように力を増していく。ここでオールフォーワンも気付いた。

 

「まさかクスリを使うのか! だが、見逃してあげるほど君たちに興味はないんだよ!」

 

 衝撃波で二人を吹き飛ばそうとする。首の後ろの装置がクスリを注入し、それが効果を発揮するまでわずかな時間が要る。その間に殺せばいいだけだ。

 

「……ッ!」

 

 裏社会に君臨し続けていたオールフォーワンは抜き身のように鋭い。囮をよそに、こそこそ己を狙う殺意に気付いた。

 いや、自動設定した茨の力が殺意に反応して地べたを這うそいつを貫いた。伏兵か、めざといななどと思って――その瞬間に思考が止まった。……狙撃で頭が弾き飛んだ以上、考えることなどできない。

 

「なんだ!? チッ。そっちかあ!」

 

 だが、オールマイトの一撃を喰らったときと同じように回復。衝撃波で狙撃手が居るはずの反対側、ビル上部を消し飛ばした。

 

「……ふう。お時間いただき、ありがとうございます」

「効くまでの一瞬は、もう過ぎちまったぜ」

 

「くだらない挑発だ。クスリなんてものを頼る情けないヒーローの卵! いや、それはヒーローのやり方ですらない。復讐者でも気取るか?」

 

 未だオールフォーワンの余裕は崩れない。再生の力があり、そもそも隔絶した地力があるのだから。

 

「私たちはあなたを殺す準備を進めていた、と分かりませんか?」

「どうせ分かってないだろう? 頭を撃った一撃、対角線のことなど」

 

「対角線……? なんの」

「どうせ殺意は感知できるでしょう? 達人ならできることを、個性の力で実装していないとは思えませんもの」

「なら、後は簡単だ。逆側に合図を出す人間を用意すればいい。あんたが始めに撃った方さ。その隙に合図を受けたスナイパーが所定の場所を撃った。――そこに、殺意なんて乗らねえ。それがカラクリさ」

 

「……ッ! なるほどね、魔王を相手取るに油断はしていなかったか……だが。なッ、ぐああああああッ!?」

 

 あざけるように、いたぶるように会話していたオールフォーワンはいきなり無くなった眼窩を抑えて苦しみ始めた。

 

「これも、予想していないはずはないでしょう。というか、あなた見た目からして目がありませんもの」

「赤外線を見るピット器官、その他エトセトラ。どうせ可視光線の他にも見て、視覚以上の視覚を得ているんだろうさ。そして、他の罠を警戒するなら。そこに可視光じゃない爆光をぶち当てられるとも思わずにな」

 

 その種は単純な目潰し、もっともフラッシュバンではなくこの決戦のために用意した特殊な発光物質ではあるけれど。

 

「……八百万百――『創造』かッ! それで僕の目潰しを!」

「ええ。そして、正義の味方ではない。あなたのせいで、多くの涙が流れた。溢れるほどの血が流れた。あがった悲鳴は消えていない」

「隠れ潜んでサル山の頭を気取るにしても、アンタはやりすぎたんだよ」

 

 ギガースは今回姿を現したが、この悪の帝王を倒せるだけでお釣りが来る。それほどの悪を成したオールフォーワン。そして過たずに、すべてをかけても”殺す”気概でもってこの戦場に足を踏み入れた。

 

「小癪な口を! こんな虚仮脅しで――何だと!? ワンフォーオールが、7……9、12ッ!? いや……」

 

 驚いたということなら、ここまで一杯どころか何杯でも喰らわされている。だが、これには一瞬だが戦慄し――しかし与一はオーバードライブの持つ一つだと感覚で分かって、落ち着きを取り戻す。

 こいつらは、ただの兵士だ。残り火を使って増やしただけの……ヒーロー、否――悪の敵。

 

「命に代えても貴様を討つ。そのために」

「「「「我ら、友との誓いを果たさん」」」」

 

 ワンフォーオールの残り火を与え、クスリで強化した兵隊だ。つまりは即席オールマイトの軍隊が4人一組で3組いる。しかもオーバードライブも突っ込んでくるから、四方からオールマイトに攻められる悪夢が現出する。

 だが、しょせんはオールマイトではない。命を薪とくべただけで、彼と比肩することなどできはしない。

 

「よくやるね。そんな無理やりな強化ではもって一度か二度。そして、それでも僕には――魔王に傷を付けることは叶わない!!!」

 

 牙を揶揄するように、無数の黒い触手が即席オールマイト達を引き裂いた。オーバードライブもまた、片腕を奪われた。

 ここまでハメてもなお魔王としての強大さを見せつけるオールフォーワン。

 

「そして――破れかぶれなど見飽きてるんだよ、うっとおしい」

 

 軽く薙ぎ払うと、辺りを爆砕する爆破が起きる。四方からの特攻に加え、味方を巻き込んでそれごと殺す八百万の爆撃だった。が――無情にも簡単にしのがれてしまった。

 

「どこまでも呆れた力押しですわね……!」

「ふふふ。魔王とはそういうものだろう。人が敵わないからこそだからね」

 

 さすがに八百万も震えが止まらない。とんでもないものを相手にしている。万策尽きた――死力を尽くしても、この敵には敵わない。オールマイトも伏せたままで動けない、終わりだと絶望する。

 

「諦めねえよ。――誰かの明日を守るために。涙を笑顔に変えるために」

 

 だが、オーバードライブは立ち上がるのだ。血を流して満身創痍、このままなら失血死するが。それでもと、拳を握る。

 絶望なんて知るかと、片腕のまま吠えるのだ。

 

「……ええ。こうなれば最終作戦を頼るほかありませんね」

 

 八百万も立ち上がる。夢想ですらない、計画することですら犯罪的。ヴィランなどと主張して遊んでいる者では考えつくことすらできない。少なくとも、漏れればトップ10ヒーローが強襲を仕掛けるだろう。それほどまでに、”悪”とすら呼べる策。

 

「最終作戦、ねえ。秘策を温存とは、ずいぶんと舐められたものだ」

 

「あなたはまだ私たちのことを舐めている。ずっとヒーローを相手にしていたのだから仕方ありませんが――光のために、誰かのために、犠牲を覚悟して走り続けるのがギガースです……!」

「しつこいなあ。確かに今まで相手してきたヒーローに、君たちほどの滅茶苦茶は居なかった。が、それでも実力不足だ。全盛期のオールマイトなら、そんな無様はしなかった」

 

「はい。こんなことをしなくても良かったでしょうね。……『創造』、【リトルボーイ】!」

 

 八百万が爆弾を創造する。バカでかいが、でかいだけの火薬であれば警戒する理由はなかった。それは呪われた兵器、かつて日本に落とされ地獄を現出させた悪夢そのものであるのだから。

 

「……な!? 何をしている――ッ!」

 

 ない目を剥いた。今まではどこか余裕があった。たとえば推理小説であれば、どこまで予想外だろうがしょせんは紙の中の出来事だろう。翻るにこれは――オールフォーワンにとってすら目の前の危機だ。現実に命が脅かされている。

 

「正気か!? それは、”核”かッ!」

「正義のために、光のために。手を伸ばすだけ。……核ですらも!」

 

 オールフォーワンは当然のことながら嘘を判定する個性も持っている。だから知りたくもないことが分かってしまう。

 八百万が投げたそれは、正真正銘の核爆弾だ。一度爆発すれば日本が滅ぶ。魔王すら生き残れない。

 

「この……クソガキがあああああ!」

 

 必死。魔王にあるまじき姿だが、しかし本気で核爆弾を爆発させようとする【馬鹿】が目の前に居たらこうもなるだろう。

 

「チィィィイ!」

 

 プルスウルトラ、ではないにしても100%中の100%で強化した腕力でその爆弾を殴り潰した。核爆弾は精密機械だ、壊してしまえば爆発は起こらない。

 

「はぁっ! はあ――」

 

 これで安心だと安堵のため息を吐いた。一息入れた、その瞬間に八百万が冷たく言い放つ。

 

「やはり駄目ですか。ですが、1度でだめなら2度目を。雨が石を穿つがごとく、通じるまで――【ツァーリ・ボンバァァ】!」

「……ば、馬鹿か貴様は!」

 

 とんでもないことをやられて、オールフォーワンですらも真顔にならざるを得ない。ヒーローが街のど真ん中で核を使ってどうする。しかも駄目だったからと、次はすさまじい威力を持ち出してきた。それ(水爆)は何段飛ばしだと思っているのだ。

 というか、なぜ魔王ががんばって人々を守ろうとしているのだという疑問まで浮かんできてもうだめだ。頭の中が滅茶苦茶にかき回された。どれだけの(個性)を持っていようと、精神を揺さぶられては脆い。

 

「――隙ができたな」

「舐めるなァ!」

 

 そこを突いたオーバードライブ。満身創痍、死にかけなれど関係ない。生きているのなら戦うのだ。

 が、相手は魔王。残った片手で心臓を狙った一撃を繰り出すが、自動防御で抜き手の方がへし折れた。さらに黒い茨がオーバードライブの身体を貫く。

 

「がふっ」

「馬鹿め。――しま……!」

 

 だが、ツァーリ・ボンバーが起動する。

 

「があああああ! なに、が!?」

 

 爆弾から放射される光に焼かれる。だが、それは水爆ではない。一瞬で全てを粉みじんにする皇帝(ツァーリ・ボンバー)とは違う。

 

「個性に振り回されていますね。嘘を判定する個性……二度目を、核だと言ってはおりませんもの。――ごほっ」

 

 リトルボーイの次がツァーリ・ボンバーと来ればそれは水爆でしかない。その教養を利用して、新兵器にその名を冠すことで騙した。開発した兵器にどんな名前を付けようと嘘ではない。それは嘘を感知する能力では見抜けない、策略。

 

「ぐ……あっ! 力が、個性が――」

「ええ、これは個性を破壊する光。……それほどに個性を所持していたら、苦しみも相当でしょう。げふっ」

 

 オールフォーワンは全身から出血している。だが、八百万もまた吐血している。

 

「く――狂っている! こんなものは愚かな自爆だ!」

「おかしなことを。私たち(ギガース)は1度か2度の戦闘で終わると、他ならぬあなたが看破したことではありませんか」

 

 この二人は、いやすでにやられた15人も含めてクスリを使った強化によって渡り合ってきた。それは未来を捨てて、悪を轢き潰す光となるために。

 そこまでしてもオールフォーワンの一挙手一投足で致命傷を刻まれてしまうが、しかし。まだ生きている。そして命が残る内に追い詰めた。

 

「ぐ……! オールマイト、君はこんなことが!」

「オールマイト先生は関係ありませんわ。世界の敵――いえ、歴史の裏に隠れた寄生虫よ。教科書に載らないあなたに意味はない。ただ誰かの足を引っ張り、恐怖を撒き散らすだけの悪。ゆえに殺すと、巨人の意思はそう決めたのです」

 

 血を吐きながらもオールフォーワンを糾弾する。八百万は生徒としてここに立っているのではない。ヒーローとしてここに立っているわけではない。

 悪の敵、フルメタルギガースとして。オーバードライブの掲げた思想に沿って戦っている。殺しにタブーなど、ない。

 

「……」

 

 だからこそ、オールマイトは何も言えない。相手が生徒であれば叱責できた。だが、この二人はどう考えてもすでに巣立っている。殺すな、と無責任なことを口に出せない。

 力なく、先の結末を見続けるしか。

 

「オールマイト!」

 

 だから、オールフォーワンに何か言いたげに怒鳴られても目を伏せるしかないのだ。彼の思惑はどうあれ、もはや決戦はオールマイトの手から離れた。

 

「ありがとうございます、最後まで油断してくれて。あなたの目の前に居るのがオールマイトの生徒だと、そう驕ったから勝てた」

 

 パン、と取り出した銃を撃った。

 

「なんだ? 今さら銃なんかでこの僕を倒せると――」

「それは『巻き戻す』個性を込めた銃弾。受精卵まで戻せば、あなたを殺せる。……そして、来なさい!」

 

 爆発音じみた落下音とともに、二体のロボットが着地した。まだ手は残っている。弱った状態でしか通用しないけれど、今はそれで十分。

 

「ぐ――好きに、させるか!」

「ここまでです! もうあなたにはこれをどうにかすることはできない! 『石棺』に閉じ込めて、何もさせない!」

 

 ロボットは巨大な棺を二分割したような箱を持っている。それでオールフォーワンを閉じ込めるつもりだ。

 

「く……そおおおお!」

 

 ヒーロー相手なら捕らえられても、別に構わなかった。牢屋に入れられても再起すればよいだけなのだから。

 だが、さすがに理解している。こいつらは完全に殺す気だ。それは都合が悪い……いや、それ以前に恐ろしい。いかにオールフォーワンと言えど、いやオールフォーワンだからこそ死の恐怖を感じたことなど後にも先にもオールマイトの一撃だけだった。

 

「まだ……まだだ! 『全因解放』、破壊されようと止まらない個性の奔流ですべてを叩き潰すまで!」

 

 石棺に閉じ込めた、と思ったのも束の間。中から肉があふれ出し、無理やり石棺が開かれてしまう。しかも、それは不完全ながらも無数の個性を放って来る爆弾だ。

 

「ならば、我らも死地へ赴こうぞ兄弟よ」

「たとえ屍を晒すことになったとしても、その先に未来があると信じている」

 

 まだギガースには仲間が居る。命を削るクスリを使い、新兵器によって個性因子を攻撃されながらも戦いに加わる者が。

 ある者はオールフォーワンが出した茨を切り飛ばした。ある者は増殖する肉を殴り潰した。ある者は炎ごと蹴り飛ばし、電撃を金属でそらした。

 

「後を託す、兄弟」

 

 そして、それでもさばききれない攻撃は己が身を呈してかばうのだ。

 

「な――この、狂人どもめ! うざいんだよ!」

 

「いい加減、終われや」

「死ね。悪」

 

 そして、狙撃がオールフォーワンの身体を貫いていく。

 

「おのれ、おのれ……! オールマイトの……」

「いいや、オレ達は機甲巨人化創星録(フルメタルギガース)だ。覚えて冥途に落ちやがれ――『GIGANT SMASH』!」

 

 身体が石棺の外に押し出すが、そこにオーバードライブが容赦のない追撃が襲ってきて彼を石棺の中に叩き戻した。

 

「あ……ああああああああ!」

 

 巨悪、オールフォーワンの断末魔が響く。石棺の中で、受精卵よりも元に戻されて消えて行った。

 

 

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