転生したら米国二冠ウマ娘だったけどコーチの依頼が無くて極東に行ったら名コーチになって教え子に囲まれてます(仮)   作:罠ビー

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 お疲れさまです
 3周年ですね~。つまりこの作品も……なんでまだ初年度クラシックやってるんですかね―

 オルフェーヴルやジェンティルドンナといったサンデー孫世代トップクラスの大物の実装ですが、この作品的には新たなサンデー直仔のスティルインラブです。個人的にもスティルが一番刺さってます。

 今回で95年春4部作終了です。

※今回は95年宝塚記念です。ご存知だとは思いますが予後不良があるレースです。覚悟をして読むかブラウザバックをお願いいたします



Show Must Go on

 

「ライスが人気投票一位……お兄様、嘘だよね」

 

「嘘じゃないぞライス。宝塚記念のファン投票。今年の最多得票は君だ、ライスシャワー」

 

 

 5月の初旬。お兄様から告げられた知らせはライスにとって驚く以外の無い知らせだった。ライスを応援してくれる人はお兄様や限られた人しかいないと思っていたから。

 ブルボンさんやマックイーンさんの記録を阻んだ漆黒の刺客。それでいてそれ以降は期待に応えられてない、王者の器ではないウマ娘。ライスのイメージなんてそんなモノだと思い込んでいた。

 

 それが今はライスを応援してくれる人がこんなにもいる。そう思うと胸が熱くなる。たとえナリタブライアンさんがいないからという理由があったとしてもだ。

 

 

「しかも今回の宝塚記念は奇しくも京都レース場だ。まあこの事を喜ぶのはあまり行儀がいいとは言えないが、風が吹いているとは思うよ」

 

 

 お兄様は出走についてはライスに任せると言っていた。ライスは来年からはブルボンさんやマックイーンさんと同じようにドリームシリーズに進むつもりだった。大目標の春の天皇賞の後は春はお休みの予定だったけど……どうしよう。

 

 

「ライスちゃん」

 

「サンキューさん」

 

 

 歩いていて出会ったのはサンキューさん。サンエイサンキューさんはライスの同期で札幌記念を勝ったウマ娘だ。三年前の有馬記念で致命的な故障をしたけれどその怪我から復帰して去年の秋ごろから実践復帰をして、今はマイナーリーグでドリームシリーズ昇格を目指している。

 

 

「聞いたよ。宝塚記念の投票。すごいじゃない」

 

「そんなたまたまだよ」

 

 

 サンキューさんの言葉に恐縮しそう言う。そうたまたまだ。ビワハヤヒデさんやナリタブライアンさんが健在だったらライスが一位では無かったよ。だからたまたま。

 

 

「そうかな?ライスちゃんのトゥインクルシリーズでの頑張りの結果だと思うよ。ブルボンさんやテイオーさん、マックイーンさんにハヤヒデさんが離脱しても、もがいてもがいて走り続けたライスちゃんの」

「確かにテイオーさんやブライアンさんみたいな強烈なスター性は無いかもしれないけど、それでも応援してくれる人のために懸命に走り続けた。ライスちゃんの結果だと思うよ」

 

 

 サンキューさんはライスにそう言う。そこにサンキューさんが自分に言い聞かせているようなニュアンスを感じた。そうか、ライスは生まれついてのスターじゃない。けれども、もがき足掻こうとする人達の支えになれるんだ。この得票にそういう意味があるんだと。

 

 

「あの有馬記念で折れた私が歩き始めたのは、きっかけをくれたのはテイオーさんだけど。歩き続けているのはライスちゃんのおかげでもあるんだ」

 

 

 いきなりステージに上げられちゃった時はびっくりしちゃったけどと言われればライスは目をそらすことしかできなかったけど。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 1995年6月4日

 今日は春のグランプリ。宝塚記念だった。やはり競走中に事故があるとショッキングだ。近日だと大舞台でのあれほど激しい事故は3年前の有馬記念だろうか。まだ発表がないため当該ウマ娘の無事を祈るばかりである。

 ⋯⋯それでも幾分か冷静なのは私が薄情だからだろうか。いや、そう思おうとしているのかもしれない。私自身アイツの境遇には感じ入るところがある。オレではなく私が平静であるべきだと抑えつけている。

 

 Show Must Go on

 

 それでもレースは続き勝者は生まれ、ライブがあり次のレースが始まるのだ。厳しく冷酷ではあるが時は平等に、淡々と進む。人の心を置き去りにして。

 それと同時に常に勝者は称えられるべきだとも思っている。心が置き去りにされたままでは勝者に対しての礼を失している。私の立場ではそのリスペクトを失していいとは思わない。

 

 だから回顧をしていこう。

 今年は阪神レース場の修繕の影響で京都レース場で行われる。直線こそ平たいが第3コーナー付近に起伏があるためコーナーを駆け降りていくコース形状だ。

 ファン投票1位はライスシャワーだったがやはり距離が短すぎるということなのかAJCCから安田記念まで年明けから連対をキープしてるサクラチトセオーに人気は譲っていた。

 2番人気は留学生ダンツシアトル。年明けはまだ条件ウマ娘だったが3月末に条件を抜けるとそこから5月までに3戦と厳しいローテをこなし、京阪杯では強豪チョウカイキャロルを倒しての参戦。BNW世代であり遅れてきたシンデレラガールといった所だ。

 

 スタートは大きな出遅れは無く17人一斉に飛び出した。2枠のトーヨーリファール*1がハナを主張しようとするが更に内、1枠のダンツシアトルが簡単には譲らず、外側タイキブリザードも好位を主張しネーハイシーザーやフジヤマケンザンといった強豪も前目にポジションを取るために押していく。一方で上位人気ではライスシャワーとサクラチトセオーが後方を選択していた。

 レースは1000m59.3秒とミドル寄りだがやや早いペースで進行していた。向こう正面でバグンはやや縦に伸びると集団は3コーナーの登り下っていく。淀の下りは抑えなければならないと言われているが難しい。集団が気持ち早まっていく中、事故は起きた。

 

 前述している通り事故については深く触れない。近くにポジションを取っていた後方組のサクラチトセオーやナリタタイシンといった面々には不利に働いたのは事実だろう。ナリタタイシンは急な姿勢制御を余儀なくされていた。

 半面前方で展開したウマ娘はタフな展開の中、垂れたりヨレることはなくラチ沿いをしっかりと走っていた。ダンツシアトルとタイキブリザードの両留学生が粘り熱い競り合いを演じていた。レースを引っ張ったトーヨーリファールは少し疲れが出たのか、一列後ろを追走していたエアダブリンに差されてしまう。

 留学生二人にエアダブリンも詰め寄り3者横一線の大接戦を制したのはシンデレラガール、ダンツシアトルだった。タイキブリザードとともにアメリカの大スター、シアトルスルーの指導を受けたウマ娘のワンツーだ。そういうこともあり、また事故の余韻からかライブの盛り上がりは少し落ち込み気味ではあった。

 

 勝者は称えられるべき。今日の勝者はダンツシアトルであり主役は彼女である。おめでとう、new heroine

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 調子は間違いなく良かったと思った。みんなの期待を背負い、京都レース場を一番に駆け抜けるのはライスだと思っていた。だけれど第1コーナーを回るころにはなんとなく違和感を感じた。調子が良すぎる。調子がいいことは良い事なんだけれど⋯⋯違和感を感じることは良い事ではない。

 第3コーナー。何度も走っている京都レース場の下り。だけれど今日は超長距離に比べれば距離が短いからペースが速い。速くなればなるほどコーナーは外に振られる遠心力が身体に襲い掛かる。いつもより敏感な足の感覚がレース場のわずかな凹凸から足の底面ではなく側面を地面についたことを伝える。刹那の後

 

 

 

 ――――グキッ

 

 

 鈍い音と鋭い痛みが左足から登ってくる。身体グラリとが大きく傾く。

 

 

『レース中の事故で最も重大なアクシデント。それは転倒です』

『60キロのスピードで地面に叩きつけられるとその衝撃が心臓や肺といった臓器、体を動かすための背骨が折れてしまうととても大変なことになっちゃうの*2

 

 

 頭の中にシャダイ先生のお話がリフレインする。目の前に地面が迫る。このまま下に叩きつけられてはひとたまりもない。推進力がそのまま下に向かってしまわないように、推進力を減らすために右足を付く。つんのめりながら推進力の方向性を下から前に戻す。

 

 

『小難しいことはいざとなったら飛んじゃうわよね。大事な事はね』

 

 

 

『最後まで闘志を喪っちゃいけないの』

 

 

 

 シャダイ先生にしてはらしくない言葉だから覚えている。理屈じゃない。前に進むっていう意思が足元に広がる諦めた先の運命から逃げ切る最も確実な方法なのだから。だからライスも前を向く。諦めないために、勝つために。

 

 痛む足を2度3度踏みしめる。後ろにいた、多分タイシンさんが少し大回りに外からライスの前に抜けていく。背中を見せつけられる。

 

 負けるもんか、負けるもんか負けるもんか。

 

 

 【負けるもんか】

 

 

 歯を食いしばり、屈辱を薪にし痛む足を回しながら、その時は来た。

 推進力がなくなれば機能を幾分か失った足は耐え切れず力が抜ける。できるだけベクトルは平行に、滑るように、少しでも前に距離を稼ぐために、倒れこみ4コーナーを外に転がっていく。

 

 泥だらけになりながら、芝の破片が幾度も口の中に入れながら、それでも闘い続ける覚悟を決めて。やがて身体は制止する。

 だけどまだだ。極限に高めたライスの中の本能が止まるなとささやく。右足を軸にして立ち上がりゴールを見据え走りだそうとする。スピードは出ないが足を進めたところで何かがライスの邪魔をする。

 

 

 【邪魔をしないで。ライスは、ライスは!!】

 

「ライス、ライス。レースは終わったんだ。戻ってこい。いや戻ってきたんだ」

 

 

 声をかけられて、少しずつ冷静になれば。それがお兄様のものだと理解する。頭が冷えてくれば無茶苦茶に動かした身体から痛みが登ってくる。痛い。

 

 あ、生きてるんだね(勝ったんだね)。ライスは。

 

 

 

 

 負けちゃったんだ。(生きてるんだ)

 

 

 

*1
マイナー系リローンチ産駒。重賞3勝

*2
ウマ娘は脚が折れただけで予後不良にはならないけれど防護無しでバイク事故を起こすようなものだと思うので。バイク事故は前に飛びますが歩行による転倒はより下に向かいますのでこういう解釈




 運命は越えられる。けれども舞台は進んでいく。
 ショウ・マスト・ゴー・オン。この作品の本質の1つです。ただこのとっかかりのフックは当然3年後に帰って来ると言っておきます。

 【】
 勝利への渇望、理性を脱ぎ捨てたウマ娘の本能。生き残るには野生にやつす必要があり、野生は止まる事を知らない。

『闘志を喪うな』
 ウマ娘が生き残る為の緊急避難の合言葉。しかしトレーナー的には嫌う傾向もある教え。トレーナーは野生に身をやつすウマ娘の手綱を握るのがお仕事。

 サンエイサンキューとライスシャワー
 実は同期。28話【天才はいる。悔しいが】より。有馬記念をフックに今回の話。
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