転生したら米国二冠ウマ娘だったけどコーチの依頼が無くて極東に行ったら名コーチになって教え子に囲まれてます(仮) 作:罠ビー
まず落馬事故で亡くなられた騎手に哀悼の意を示させていただきます。
1995年10月7日
今日はバブルのメイクデビューだ。しかし気持ち早いような気がする。それとなく刑部トレーナーに声をかけてみたところその感覚はトレーナーも感じているらしい。ということはこの早期デビューは意図的であるということになる。
もともと評判も良く、本人の達観した、ミステリアスに見える素振りは年齢にしては落ち着いた印象を与える為か当日は圧倒的な1番人気に支持されていた。中団から差し切りを狙うがマークがきつかったか停滞した流れが不利となり追い切れず前二人とはタイム差のない2着であった。ただ負けてなおその才覚を示したと取れるだろう。今後が楽しみである。
1995年10月10日
菊花賞に向けて練習を再開していたマーベラスが今度は左足を骨折したという知らせが入った。あんなに健気な子なのに運命はなかなか残酷だと思う。滝トレーナーも細部まで監督できていなかったと私に言っていたがパートナーの事といい忙しかったのだろう。深くは責めないし責めることは建設的ではない。
普段のマーベラスで騒がしい彼女は、実のところは寂しがり屋だ。見舞いに行ったら前回同様気丈な態度を私たちには見せるだろう。少し策を練るか。腕の見せ所だぜエンターテイナー
1995年10月14日
今年もトレーナー合同見学会を行った。今年はジェニュ、ツヨシにパートナーがG1を取っており、重賞クラスもそこそこおり以前よりも注目度は上がっていた。以前は目敏いトレーナーが来ていたという印象だが、今日はまさに色んなトレーナーが来ていた。急遽別開催日も設定する事になった。
有名なベテランから一旗揚げたい若手まで多い中注目を集めたのがサイレンススズカだ。まあ以前から話題にはなっていたからスカウティングリストに入っていたのだろう。特にご執心だったのが東条、沖野そして滝の比較的親交の深いトレーナー達だった。
モチベーションはともかくダンス練習をそつなくこなしている、良くも悪くも図太さがありメンタリティも問題なし。ややコミュニケーションに癖があるがチーム内の輪を乱すようなタイプではない。身体も規格外よりなタイキシャトルを除けば均整も取れており上積みも期待できる。今年のメイクデビュー待ちとしては上位の逸材であろうことは諸所で噂になっている。
1995年10月22日
ティアラ路線、エリザベス女王杯の前哨戦ローズSが行われた。出走ウマ娘は桜の女王ワンダーパヒューム、地方のヒロインライデンリーダー、桜花賞とオークスで掲示板入りしているエリートのプライム、オークス2着のユウキビバーチェ。樫の女王であるパートナーが菊花賞参戦を表明した以上今年のティアラ路線の強豪ウマ娘が揃っていた。
レースは向こう正面で先頭に立ったウマ娘がペースを上げて大逃げのようになったところを先団に構えた桜花賞ウマ娘、一歩後ろからライデンリーダーやプライムが睨んでいく形となった。直線ワンダーパヒューム、プライムが次々と突っ込んでくるが勝利したのは大外一気を決めたハピネスだった。
ハピネスは私の生徒の一人だ。94年世代4人娘のスティンガーの姉にあたる。春は出遅れてオークスまでに間に合わなかったが既にG2を勝利しており有力ウマ娘の一角だった。混戦模様のティアラ路線で新しくヒロイン候補が名乗りを上げたのだ。
1995年10月29日
秋の天皇賞。秋のビッグタイトルの話題はジェニュインのクラシック級の挑戦を吹き飛ばすくらいのビッグニュースが舞い込んできていた。
ナリタブライアン、復帰
春が終わり空いていた主役の座は三冠ウマ娘というこれ以上ないビッグネームが埋めていた。⋯⋯しかし明らかに万全ではない。暴力的な獣王がその威迫をもってして傷を隠し王座の前に仁王立ちしている。そのように感じた。
当然1番人気はナリタブライアンだ。BNW世代で、そのBNWがすべて引退した現在トゥインクルで世代の意地を見せているサクラチトセオーが続くが怪我明けを加味してもブライアンが上というのが大衆の見立てだ。ジェニュインは4番人気。クラシック級からの挑戦者、しかも京王杯はともかく次の毎日王冠で実力を見せられなかった割には評価されている方だろう。
レースは宝塚記念と同じようにトーヨーリファールが引っ張り、内枠で好スタートをきったジェニュインと外枠からポジションを取りに来たホクトベガがその後ろを追走。注目のナリタブライアンはジェニュイン達の後ろの集団やや外、サクラチトセオーは最後方に構える展開になった。
有力ウマ娘が比較的前に固まったためペースは平均やや早めのペースで迎えた最終コーナー。前のウマ娘達を捉えようとジリっとナリタブライアンが前に出てくる。ビリビリとその圧力は一切変わらずに前のウマ娘達に伝わっただろう。
しかしナリタブライアンの見せ場はそこからは訪れなかった。前のウマ娘に追いすがるが怪我をする前のような破壊的な末脚は無く前との差はつまらない。そんなナリタブライアンを大外から最後方一気で置き去りにしてちぎり捨てたのがサクラチトセオーだった。
内を走るジェニュインやトーヨーリファール、アイルトンシンボリなどは大外からのサクラチトセオーの強襲には気づかなかったかもしれない。……いや、ナリタブライアンを無視はしてないだろうから気付きはしただろう。しかしナリタブライアンの影から唐突に現れサクラチトセオーの存在に気を逸らしたかもしれない。2着ジェニュインと1着サクラチトセオーの差はクビ差。その一瞬が勝負の明暗を分けたに等しい結果だった。
ナリタブライアンは12着。病み上がりだからといったように説明をつける要素はある。しかしナリタブライアン自身がこの走りに説明をつけられるのだろうか。その答えを今の彼女は持ち得ていないように見えた。
……ジェニュイン惜しかったなぁ。あとちょっとだったのに。でも一歩本物に近づいたんじゃないかと私は思うよ。
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見学会の後、フジと落ち合うと奴は得意げな様子で私の前にやってきた。手品の仕込みはバッチリってとこだろうか。
「そんなんじゃないけど、マーベラスの怪我は心配だしね。マーベラスの事を言えばみんな協力してくれたよ」
納得が微妙にいってない様子。マーベラスの事をダシにしないとジェニュイン達とまともに話していなかった事か、自分の言葉だと反発されるのにマーベラスの事だといとも素直に事が進んだところあたりだろうか。
「その両方だよ。姉さんひょっとしてエスパー?」
お前がわかりやすいだけだよ。妙に鈍いよなホント。
そう思い頭を抱えるがこの天然ジゴロには効かないだろうし諦める。そして面会終了の時間になってから中に入る。看護師等への根回しも既にすませてある。
病室のマーベラスはあからさまに寂しい顔をしていた。滝トレーナーも忙しいし、昼間は友人が来ても夜は一人だ。特にコイツが孤独に弱い事を私は知っている。
カッコいい演出なんかも考えてたがその姿を見ると私はガラリと扉を開けてマーベラスのもとに歩いていく。唖然としたマーベラスを抱きしめる。一時的だ、自己満足だ。
私ではマーベラスの孤独の全てを埋めることは叶わない。私の両手には愛を向けるべき愛弟子達が多すぎる。
「センセー?なんで?」
「すマないマーベラス。これは多分オレの自己満足なんだ。オレだけじゃお前の涙を拭えねぇけど拭いたくなっちマう」
「全く私の事をからかう癖に姉さんも大概自分を卑下するから困るね。そうは思わない?マーベラス」
「フジ!!二人ともなんでこんな時間に」
マーベラスの声にフジはハンカチを出しパチンと指を鳴らす。床頭台のテレビが電源を付ければそこにはフジ達が走った時の合宿のレースの映像が流れる。そこには当然マーベラスも走っている。
続いての映像は生徒達がカメラに向かってコメントしていく。下級生のスズカやリョテイ、すでにチームも決まっているダーク達。そして同期のツヨシやジェニュイン、パートナー。最初はフジの頼みということに難色を示しているがマーベラスに見せるということをフジが言うと各々コメントを残していく。
『マーベラス、貴女とはチームも同じですしあの優男トレーナーも期待してるわ。それにあなたが帰ってこないと学生部が暗いのよ』
『マーベラス。貴女とクラシックで争う事はありませんでした。得意距離も地味に違いますから直接ぶつかり合う機会は減るでしょう。それでも貴女は私のライバルであることには変わりません』
『マーベラス、オレがダービー取っちまったぞ。まあお前は主張の強い奴じゃないけどダービーウマ娘の称号は別だろ。なんてな。戻ってきて早く走ろうぜ。その舞台がトゥインクルなのかマイナーなのかドリームなのかはわかんねえけどさ』
「こんな風にみんな君を待っている。当然私も。というより私は追いかけなきゃいけないのかな」
映像の最後にフジが自分の言葉で声をかける。マーベラスは瞳に輝きを取り戻して映像を見ていく。夜の寂しさからは完全に逃れられないがその寂しさを誤魔化して。
立ち直ったなら私の言葉は蛇足だろう。
◆◆◆◆◆◆
私はサイアー試験の勉強をはじめていた。リーヴァにあったのもあるが単純にマイナーリーグを走るためのバイトとしての面もある。
サイアー免許の講習で一人明らかに適当に聴いてるウマ娘がいた。まるで免許を取ることより他の目的があるような。そんな様子だった。
彼女の名はデインヒル。この出会いが私に新たな知見を与えてくれる事はこの時の私には知るよしも無かった。
デインヒル
数少ないサンデーより格上と表現できる90年代から00年代にかけてのモンスターサイアー。実は1年だけ日本で繋養されます。この時点ではまだ気鋭のサイアー程度。
マベフジ
正直マーベラスシナリオで頭焼かれた。というかマーベラスシナリオの焼き増しという。