「いやぁ!ころさないで!ころさないで!ころさないで!」
イロハはフラッシュバックした記憶中でそう叫んでいた。イロハの目の前には恐ろしい大男が立ちはだかり、彼女を睨みつけている。大男はイロハを殺そうと彼女の首を絞める。
「ころさないで・・・ママを返して・・・」
次の瞬間、彼女は我に帰った。
はっ!
彼女は青年の首を絞めていた手を離した。青年は苦しそうに呼吸を再開する。
「ゲホッ、はあっ、はあっ、はあっ」
イロハは申し訳なさそうに謝る。
「ごめん・・・やりすぎたわ。頭に血が上ってつい・・・」
「いや、大丈夫。俺もよく考えて喋るべきだった。ごめん」
「ええ、いいわ。それで、さっきの話だけど、どうして寝返ろうと思ったわけ?」
「俺、今回の戦いで、自分の正義に自信がなくなったんだ。君の圧倒的な強さを見て、俺の信じてきた正義が崩れ去るのがわかったんだ」
「どうして?」
「俺は戦って、敵を1人でも多く殺すことが正義だと教えられた。でも君はきちんと考えて、味方の犠牲を少しでも減らそうと戦っていた。力って、味方を守るためにあるんじゃないのかなって、その時初めて思ったんだ。実は俺の指揮していたあいつら、命令に絶対服従するクローン兵士なんだ。クローンとはいえ、俺は仲間を大勢死なせてしまった。俺は組織の親玉を倒して、気の毒なクローンが二度と作られないようにしたいと思ったんだ。だから、頼む!仲間にしてくれないか!?」
イロハに頭を下げて青年は頼む。
「アンタの考えはわかったわ。でも、それを決定するのは組織よ。まあ、アンタのこと、組織に掛け合ってあげるわ」
「いいのか!?ありがとう!本当にありがとう!」
「ーーーーーそういえばアンタ名前は?」
「2番機」
イロハは絶句した。
しばらくした後、やっとのことこう言う。
「名前、無いのね」
彼は恥ずかしそうに頷いた。
「アタシがつけてあげるわ」
「いいのか?」
「2番機だからジロウはどう?」
「うん、それでいいよ。ありがとう」
それからイロハを迎えにきた国民保護隊の隊員に、ジロウは拘束具をつけられて連行された。イロハの掛け合いにより、彼は精密検査の後、イロハの監視下で行動されることが許された。その為、イロハとジロウは基地内に2LDKの住居を与えられ、共同生活をすることになる。それから数日後、イロハとジロウの2人で戦闘訓練が行われることになった。
「ジロウ、せいぜいあたしの足手まといにならない様に気をつけなさい!」
「お、おう」
戦闘訓練は、隊の基地のテニスコート10個分の広場で行われる。そこにランダムに現れる電灯のついた無数の大型ドローンのを時間内に全て撃破するというもの。ドローンの電灯は点滅する様になっており、無点灯のドローンを撃破したら訓練失敗である。はやい話が、モグラ叩きの様な物だ。
「今日のは簡単じゃん」
「そう、なのか?」
「アンタまずやってみなさいよ」
ジロウは訓練場に入り、訓練を開始した。
高性能ドローンは改造人間であるジロウに悲鳴を上げさせるほど速く動く。また、撃破しようと思って攻撃したドローンの電灯が急に消え、訓練を一からやり直しになったりもした。
ジロウはやっとのことで訓練を終わらせた。彼は汗だくになり、息を切らしていた。
「はあっはあっはあっ」
「ご苦労様、はいこれ」
イロハはジロウにスポーツドリンクを渡した。改造人間でも水分は多少なりとも必要なのだ。
「ありがとう」
「アンタの性能を考えたら、初めてにしてはよくやったんじゃない?」
「そうなのかな?」
「アンタ、あたしの実力見てなさい!」
イロハは自信たっぷりに言う。
訓練場に入った彼女は訓練を始めるや否や、ものすごいスピードで動き、ミスなく次々とドローンを撃破していった。気がつけば10秒ほどで訓練を終わらせていた。ジロウの最高記録は100秒である。
「はあ!?いくら俺より性能がいいからってそんな動きできるものかね?」
「自己ベストは8秒よ。アンタも頑張れば30秒代は目指せるわ」
ジロウは改めて彼女との実力差を思い知らされるのだった。
登場用語など
拘束具 改造人間用に造られた特別な物だが、本作品では単に拘束具と呼ぶ。
高性能ドローン 国民保護隊が軍の兵器工場で製造させてもらっている訓練用のドローン。訓練用だが、武器を積めば実戦でも使用できる。
近日中に三話目を投稿できると思います。