紅い終局で大打撃を受けたのは北海道も同じだ。大津波や海面上昇で沿岸部の都市は、その大半が水没してしまった。
「北海京都」通称北海京。それは北海道を新しく再編した自治体名である。北海京にはその中枢都市の「北海京市」があり、新東京市に匹敵する規模の国民保護隊基地が置かれている。
国民保護隊北海京基地にて
戦闘指揮室のスクリーンには侵攻を続ける五米ほどのヒト型機械兵の群れと、それを囲む様に陣形を組んだ何百もの重武装の人間が映し出されている。それらは市街地を破壊しながら、北海京市の主要施設を制圧せんと、国民保護隊の隊員と激戦を繰り広げていた。敵の数の多さに隊員は一人、また一人と血の海に倒れ伏してゆく。
此方の状況が不利になっているのを把握した指揮官が、怒鳴り声で部下達に命令を下す。
「強化外骨格部隊を出動させろ!何としても奴らの侵攻を止めろ!」
この指揮官の名を石狩征と言い、立派な口髭を生やしている。
「偽装コンテナで既に待機させてある小隊を向かわせます!他の隊は地下ゲートからの直通通路使用での緊急出動でよろしいですか?」
「構わん!総力戦だ!これでダメなら新東京市から応援を呼ぶしかない」
民間のものに偽装されたトラックのコンテナの中から、鋼の装甲を纏った、敵の機械兵と同じくらいの大きさの兵器群が現れる。彼らは敵の銃弾を受けてもものともせずに敵陣に突っ込み、ある者は腕につけた刃物を振るい、または装甲に隠した高威力の散弾銃で、抵抗する敵を次々と血の滴る肉塊に変化させてゆく。
一時戦況が此方に有利になったかと思えたが、敵を少し押し戻したところで敵の強い抵抗にあい、戦線は硬直状態に陥った。
前線で敵と戦闘を繰り広げる、強化外骨格兵器21号のパイロットは、この戦闘に嫌気がさしていた。敵がクローン兵なのは知っているが、それでも生きており、潰せば血や肉塊が飛び散り、骨の砕ける嫌な音もする。その点、機械兵同士の戦いは気持ち的に楽だ。機械の上から敵パイロットを潰して仕舞えば、人をグチャグチャにせずに、いや、そうなっている場面を直に見ずに済むからだ。彼、21号のパイロットは、後輩の22号の女性パイロットが羨ましかった。彼女は「生まれつき」の戦闘狂なのだ。なんでも、強化外骨格兵器の操縦を簡易にするために、遺伝子を改造されているらしい。「紅い終局」前の言葉では彼女のことを「デザイナーベイビー」と言ったそうだ。
「消えなあっ!」
22号のパイロットは、強化外骨格兵器の両腕を、鞭の様にしならせながら振り回し、敵を打ちのめす。その様子は、虫でも潰すかの様で、彼女からは情け容赦など微塵も感じられない。敵の機械兵を捕らえ、両腕を捻り切るとそれで機械兵の胴体を貫く。頭部に蹴りを加え、倒れたところを更に踏み躙る。
バキィン!
彼女の足元で機械兵の頭が潰れる。流れ出る赤いオイルが、まるで血の様だ。
周辺にいた敵を全て物言わぬ屍に変えた彼女は、コックピット左部に取り付けてある無線機を取り、そのスイッチを押す。
「センパイ、ここらの敵は全滅させましたぁ!」
「そ、そうか。ご苦労様」
(なんだってこんなギャップが彼女にあるのだろう!?)
さっきまでの敵に対する乱暴な態度とは打って変わった様子に困惑する。彼女のことは昔から知っているが、それでもやはり慣れる事ができずにいる。
(彼女は敵をいたぶる時はあんなにも残虐なのに、特に俺には、何故あんな甘える様な話しかけ方をするんだ?)
(もし彼女の機嫌を損ねてしまったら、俺はどうなってしまうのだろう!)
そこで彼は、冷たい笑みを浮かべる彼女になす術もなく痛めつけられ、情けなく助けを乞う自分の姿を想像する。
ゾクッとした彼は我に帰り、その空想を振り払う。
と、作戦指揮室から無線が入り、別命あるまでその場に待機しろと言われた。
(待機なんて嫌だなぁ)
彼は、後輩の活躍で量産された敵の肉塊や血溜まりの方に目をやった。
前線が硬直状態に陥ったと報告を受けた石狩は、新東京市に増援を要請するように命令を出す。
近くにいた職員が、再確認する。
「本当にいいんですね?」
ストレスからか、彼は髭の先をいじっている。
「本当は奴らに借りを作りたくはないのだが、仕方あるまい」
待機中の21号のパイロットは、今まで思っていた疑問を口にした。
「なあ、そういえばさ、この敵達って何処から攻めてきているんだ?」
「え、先輩知らされてないんですか!?」
22号のパイロットは驚いた様子で言った。
「ああ、俺は上層部に後輩よりも信用されてないのか・・・」
彼が気を落としたことに気がついた彼女は、必死で彼を慰めようとする。
「そ、そんなの知らなくっても大丈夫ですって!気を落とさないでください!きっと何か理由があるんですよ!」
「ありがとう・・・それで、敵がどこから攻めて来ているかって話なんだけど・・・」
「GR会の学者達が、物体縮小保存装置という、人や兵器を縮小してカセットにしまい込む機械を開発したんですって!」
「へえ!やっぱり奴ら、ただの非合法組織じゃなさそうだな」
「その技術は先進国では開発途中の段階で、だから奴らのバックには、とてつもない大きな組織があるのではないかと噂されているみたいですよ」
「それが本当だとすると、なんの目的があるのかな?」
「さあ、そこまではわかりません」
超音速輸送機に乗って、イロハとジロウは北海京市に向かっていた。
「しっかし、速いもんねぇ!これ軍用とはいえ輸送機なのよ!」
「イロハもこれに乗るの初めてなの?」
「そうよ、アタシ達は基本的に、決められたエリアの治安維持や防衛を担当しているでしょう?だから、他所のシマに入る事は、あまりないのよ」
「へえー」
「そういえばさ、これ食うか?」
ジロウは袋入りのタラの燻製をイロハに差し出す。
「アンタ、若年寄みたいね」
そう言いつつもイロハは、彼の差し出した燻製を、美味しそうに頬張るのであった。
ドドドオォン!
21号のコックピット付近に風穴が空いたかと思うと、爆発を起こした。
「センパイ!?」
それは一瞬の出来事だった。
彼女は目の前に、煙でぼやけてはいるが、一つの人影がある事に気がつく。
煙が晴れると、そこには片手で強化外骨格兵器の主要機関を握りつぶしている人物がいた。
(敵の改造人間!?こいつがセンパイを・・・!)
彼女は歯を剥き出しにして怒鳴った。
「貴様がやったのかぁ!」
敵の改造人間は、だったらなんだという様な、不敵な笑みを浮かべる。
怒った彼女は改造人間に向かって、強化外骨格兵器に内蔵されている自動小銃を発射する。しかし、大して効いた様子もなく、煩そうにこう言い放つ。
「おっと、ボクはキミの相手をしている暇はないんだ」
機械的な冷たい声だった。が、その声が彼女を更に怒らせる。
「なんだと!貴様殺す!殺す!殺すぞ!泣いて詫び入れても痛ぶり続けてやる!」
そう言いながら彼女は改造人間に殴りかかる。
ブゥン!と鋼鉄の腕が空を切り裂く。が、その腕は虚しく空振りし、その腕は代わりに近くの街灯をへし折った。
「しつこいねぇ」
敵の改造人間は目にも留まらぬ速さで、彼女の強化外骨格兵器の関節部分を全て破壊する。
「キミ、ゴミだね」
そういうと一瞬で姿を消し、どこかに行ってしまった。
「準備はいい!?」
「いいよ!」
「今!」
そういうと、パラシュートを背負ったイロハとジロウは、輸送機から飛び降りた。
バッ!
バッ!
二人のパラシュートが開き、空に花が咲いた様だ。
更に後続で重武装の隊員達が降下してくる。
「アタシ達は作戦通りにト-五地点に向かうわよ!」
「うん!」
降下しながらイロハは誓う。
(GR会、本格的に攻勢を仕掛けて来たわね!母さんの仇、GR会は絶対に壊滅させるわ!)
降下しながらジロウは決意する。
(GR会によって不幸になる人間を少しでも減らすんだ!それが俺の正義!)
ト-五地点では激しい戦闘が行われていたが、イロハとジロウの加勢により、敵を押し返し、更に包囲する事に成功した。特にイロハの活躍は凄まじく、敵の機械兵の半分以上を一人で倒してしまった。敵の機械兵の両腕を引きちぎって戦闘力を落とし、更にコックピットに攻撃を加える。その姿は鬼神の如く、敵に恐怖を植えつけた。イロハはアスファルトに倒れた機械兵にとどめを刺すべく、拳を振り上げる。
ドン!
イロハは何者かに殴り飛ばされ、電柱に叩きつけられた。その電柱は折れ、とどめを刺そうとした機械兵を押し潰す。
もうもうと砂塵が舞う。
「何!?」
イロハが電柱に叩きつけられたのを見たジロウは動揺した。彼は、イロハを突き飛ばせる様な存在がこの世にあるなど、思ってもいなかったからだ。
と、砂塵の影から機械的な冷たい声が響く。
「君たちが新東京市の改造人間だね?上の命令で君らを始末しに来たよ!」
「まずは未完成の2番機君から壊してあげよう!」
「未完成!?どういう事だ!」
「知ってどうするの?君はどうせボクに壊されるんだから」
ジロウは、蛇に睨まれた蛙の様に、動くことができなかった。
次回予告
敵の改造人間に追い詰められるイロハとジロウ。
薄れゆく意識の中、彼女は過去を思い出す。
敵の攻撃で傷ついたイロハを見て、彼は怒る。
未完成の2番機に隠された意味とは。
裏で進む謎の計画とは。
次回「激闘」
次回もよろしくお願いします!