ブウゥン!
「!?」
ジロウは自分の目を疑った。敵の改造人間がまるで蜃気楼の様に、突如として姿を消してしまったのだから。
「ステルス機能か!?」
ジロウは周りを警戒するも、敵はどこにも見当たらない。
「ハッ!」
背後に気配を感じたジロウは、斜め横に飛んで回避行動を取りながら、敵の方を向く。
だが、時すでに遅かった。
「未完成のポンコツは未完成のまま消えなよ!」
ジロウの予想を遥かに超える速さで接近する敵は、その拳でジロウの重要機関の集まる部分を貫かんとしていたのだ。
(こ、殺される!)
ジロウは恐ろしさのあまり目をつぶった。
しかし、感じるはずの痛覚信号も、破損信号も、何もなかった。
ジロウは目を恐る恐る開ける。
「何だ!」
敵の拳は見えない何かに掴まれているのか、腕全体が曲がってはいけない方向に向きそうになっていた。
「ステルス機能が使えるのは、アンタだけじゃないのよ!」
敵の腕を掴むイロハの姿が現れたかと思うと、目にも留まらぬ速さで脚を振り回す。
「さっきのお返し!」
敵は瓦礫の山に吹っ飛ばされ、埋まった。
「い、イロハ・・・!ありがとう、助かったよ!」
「ほんと間抜けなんだろから!でも、無事でよかったわ」
「えっ!」
「いいから!来るわよ!」
ドゴオォーン!
瓦礫の山が四散する。
砂塵の中からゆらりと影が現れる。
敵の端正だが鉄仮面の様な顔から、とてつもない殺気が感じてとれた。
「2番機君、君は彼女が惨めに壊される様子でも観てなよ!そのあとたっぷり遊んでやるからね!」
イロハとはまだそんな関係じゃない!と思いつつも、この場に及んでジロウはドギマギしてしまう。
ジロウのそんな様子を理解したイロハ。
「アンタは下がってなさい!できるだけ遠くに!強化改造でも施さない限り、今のアンタじゃ、アイツには勝てない!」
「でも・・・!」
イロハから離れたくないと思ったジロウは引き下がろうとしない。
彼女はものすごい形相でジロウを睨みつける。この時彼は、彼女の美しい顔が般若の面に見えた。
「言うこと、聞けないわけ!?」
「わ、わかったよ!」
「いい子ね」
彼女はさっきとは打って変わり、優しく微笑むと彼の左頬を優しく撫でた。
「行きなさい!」
ジロウは彼女の戦闘の邪魔にならないとこへと駆けて行く。
「無駄なことするね、1番機ちゃん」
敵は逃げるジロウを捕まえようと追いかける。
(速い!)
敵の足は速く、イロハですら追いつけるかわからなかった。
(アイツがジロウにこだわる理由は何!?)
「・・・劣化が酷くなるから、本当はしたくなかったんだけど、仕方ない!脚部リミッターを30%解除!」
イロハは今までにないスピードで敵の跡を追いかける。その速さは音速に匹敵した。
寸前のところで敵に追いついたイロハは、敵の正面に回り込み、ラリアットをくらわせる。
敵は後頭部をアスファルトにバウンドさせながら、彼女の遥か前方に吹き飛ぶ。
「アンタの相手はアタシよ!」
立ち上がった敵は、瓦礫の中から折れて先の尖った鉄パイプを数本取り出す。
「1番機の串団子、いっちょあがりぃ!」
ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!
イロハは鉄パイプの槍をかわして行くが、そのうちの一本が彼女の右肩の表面を抉る。
「チッ!」
鉄パイプの槍を回避する隙を狙って殴りかかってきた敵に、イロハは腰に下げている対戦車用ピストルを抜いて撃ち放つ。
バン!バン!バン!
「効かない!?」
「いや、結構痛いよ!!」
敵の拳を両腕で受け止めると、敵の腹に前蹴りをくらわす。
が、それを敵は耐え、捨て身でイロハにのしかかろうとする。
「しまった!」
敵をかわそうとするが、下半身が上手く動かず、馬乗りにされる。
先程リミッターを限定的だが解除した反動で、回避行動に遅れが生じたのだ。
ガスン!ガスン!ガスン!
敵は容赦なくイロハに拳の連打を浴びせる。
彼女も必死に反撃する。彼女の反撃で敵の体はボロボロになるも、それでも構わず攻撃する。
ドゴッ!
イロハは敵の腹に最大の力でパンチを入れる。
敵の力が緩んだ隙に、今度は彼女が逆に敵に馬乗りになる。
彼女の目は怒りに燃えていた。
「アタシをここまで痛めつけた奴は初めてよ!許さないわ!」
「キミの攻撃は満点だね!アメイジング!本気を出さないと勝てそうにない!」
「本気って・・・まさか!」
敵は血で汚れた鉄仮面の様な顔の口元を、ニヤリとさせて言う。
「Release all limiter!(全リミッター解除!)」
イロハはその瞬間、飛び退って敵と距離を置く。
その頃、ジロウはイロハに言われた通り、遠く離れたところに退避していた。
適当なところがないか、ビルの間を練り歩いていると、敵の機械兵の残骸や、敵の肉塊、乾いて赤黒くなった血溜まりが集中している場を発見する。
「うわっ!ここ酷いなぁ」
すごい戦い方をする味方がいるもんだと感心していると、彼の聴覚センサーが、微かだが誰かのすすり泣く声を感知する。
(逃げ遅れた民間人だろうか?助けなきゃ!)
彼が声のもとに走って行くと、そこには二人の人間がいた。
片方は手が傷だらけになっている少女で、もう片方は意識不明の重体で、男性らしい。服装と近くの強化外骨格兵器の残骸から、二人ともパイロットだろう。
男性は彼女に応急処置を施されたのだろうか。危険な状態に変わりはないが、それでもなんとか一命を取り留めている様だ。少女の方はずっと男性の方を向いてすすり泣いている。
ジロウは声をかける。
「あの・・・国民保護隊新東京市基地・・・特別作戦課の・・・第一班所属の、ジロウというものです」
少女は顔を上げてこちらを見て言う。
「衛生兵!連絡がついているのに来ないと思ったら!私は強化外骨格兵器22号のパイロットです!私よりも早く先輩を助けてください!」
「そんな!俺は衛生兵じゃないからその、気の毒だけど・・・」
「衛生兵じゃないんですか!?」
彼女はイラッとした様だ。
彼はショックを受けると同時に、己の無力さを思い知る。
今この状況でに必要なのは、衛生兵だ。俺には何ができるのだろう。
「その、衛生兵が来るまで、この周辺の敵の哨戒をします」
「・・・ありがとうございます」
少女は男性の方に顔を戻すと、悲しそうな表情に戻り、センパイ・・・と小さな声で呟いた。
(彼女の手の傷はきっと、この男性を助けたときについたものだ。彼女にとって、きっとこの男性は特別な人なんだろう)
そう考えながらジロウは周囲を警戒する。と同時に別の思考をする。
(俺はこんなところで何をしているんだろう!命令されたとはいえ、俺は仲間を見捨てる様な行為をしているんじゃないのか!?)
だがその考えは、イロハの元に戻りたいと願う彼の欺瞞であることに気がついていなかった。
リミッターをすべて解除した敵は怒涛の勢いでイロハに襲いかかる。
(まさか、自暴攻撃をしてくるなんて!)
敵は高速でイロハに飛びかかると、さっきとは比べ物にならない力で拳の連打を浴びせる。
「うぅ!」
彼女は敵の攻撃を受け止めきれず、大ダメージを何発も受ける。
「アンタ!こんな攻撃続けていたら、死ぬわよ!」
「ああ!知っているよ!でもウエポンてのは本来そうあるべきじゃないか!?」
「何を言っているのよ!」
「それを、君たちはヒトの様に振る舞って!僕達は兵器なんだよ!?なんでキミらはヒトの様に飲み食いして家に住んでいる!?クレイジーだ!普通は廃棄寸前の食料を経費削減のために食して格納庫に雑魚寝だろう!?それを君たちは!!」
彼の鉄路仮面の様な顔は怒りに歪んでいた。
「使い捨てられる兵器に!兵器である君達にはヒトみたいな生活、感情なんか必要ないんだよ!兵器がなんたるかをその体に教え込んであげるよ!!」
「フフッ」
敵の言葉にイロハは嗤う。
「何がおかしい!」
「嫉妬ね」
「!?」
敵の猛攻を何発か浴びながらも、敵に更に隙を作るために挑発を続ける。
「憎しみや嫉妬の感情を爆発させている今の状態のあなたが、よっぽどヒトらしいわよ?」
「なっ・・・!?」
敵はその一言に驚愕し、隙が一瞬だができる。
(ヒトらしい!?僕がヒトらしいだって!?そんなの、認めない!!ヒトは不完全で、醜くて・・・でも俺は違う!ヒトを越えし改造人間という兵器なんだ!)
隙を狙ってイロハは攻撃を仕掛けるが・・・
「僕は兵器だ!!使い捨てられても、壊れても後悔はしないんだ!!」
ドゴオォン!
敵の怒りの鉄拳がイロハの体を突き、彼女の体は遥か宙を舞う。
意識が遠のき、視界が霞んでゆく。
(攻撃を避けられなかった・・・アタシ、もうダメかもしれない。ごめんね、母さん。復讐、果たせないかもしれない。ジロウもごめん。アンタとの生活、楽しかったわ・・・みんな、本当にごめん)
用語解説
リミッター 改造人間本来の力が暴走しない様に、体全体に仕組まれている装置やプログラムのこと。場合に応じてリミッターを外すこともできるが、部品の劣化や疲労が激しくなるので、多用するのは好ましくない。
読んでくれた方、ありがとうございます!後編もご期待ください!