ジロウは沸き上がる敵への憎悪と共に、とてつもない力が溢れ出るのを認識した。
「イロハをこんなにしやがって!許さない!!」
バッ!
敵の改造人間に急接近する彼のスピードは、イロハのそれに匹敵するかそれ以上だ。
ジロウは敵の首を片手で掴んで持ち上げ、地面に叩きつける。もう片方の手で敵の腹を思い切り突き刺す。
ブシュウッ!と、敵の体内で圧力の均衡が崩れ、赤い液体が吹き出す。
敵は悟った様に言う。
「作戦は・・・成功したよ。悔いはない。良かったじゃないか、キミは未完成じゃなくなったよ」
「黙れ」
ジロウは敵の顔面を何度も殴りつける。
ガン!
ガン!
ガン!
憎しみのこもった一発一発が正確に敵の顔面を捉える。
端正な顔が徐々に歪み、原型がわからなくなってゆく。
敵は運命を受け入れたかの様に、抵抗しなかった。
ジロウは敵がイロハにやった様に、横腹を思い切り蹴り上げてやる。
「うっ」
「まだ生きてるだろうが!死んだふりしてんじゃねえよ!!」
何度も蹴りを入れていると、敵からの反応がなくなった。
「はあっはあっはあっ・・・うっ!」
力を使い果たしたのか、ジロウもその場にバタリと倒れ込んで動かなくなった。
国民保護隊新東京市基地極秘作戦会議室にて、二人の男女が赤銅司令官と、側近の女性職員の清流が、高級職員用のソファに隣り合って座っていた。
「D機関の回収はどうなった」
「2番機からの取り出しが成功したと先程連絡が入りました」
「そうか、ならいい」
「1番機の様子は」
「多少時間がかかりましたが、元通りに修理出来ました。1番機は現在、2番機の最終調整が行われている、基地の第三整備工場に居ます」
「あの事は話したか?」
「ええ、抜かりなく」
彼女は少し間を置いて再び話し始める。
「それと、R計画ですが、問題なく完了しました」
「残りのAM計画と、B計画は進んでいるか?」
「ええ、あと一ヶ月もあれば目標に到達します」
「プランOMEGAを支える三本の計画、必ず成功させてくれ」
「わかりました」
返事をした後、チラリと時計を見る。
「赤銅さん・・・」
時間を確認した清流は、色っぽい声で彼の名を呼ぶ。
「いきなりどうした?今は勤務時間だぞ」
「フフフッ今日は業務時間短縮日で、今はもう休憩時間ですよ?」
「そ、そうだったな」
清流は赤銅の首に腕を回すと深いキスをし、ソファに彼を押し倒す。
「清流くん、私は貴女のためならし・・・」
言いかける彼の唇を再びキスして塞ぐ。
「そんな事を言ってはいけません。貴方はプランの重要人物の一人なんですよ」
彼女はそう言って微笑む。
「でも、無理は、いけませんよ?」
「わかった・・・」
「愛していますわ、赤銅さん」
「私もだ、清流くん」
彼がそう言うと、彼女は意地悪い笑みを浮かべる。
「たとえ、世界が滅びても?」
「この気持ちはどんな環境に於いても変わらないと約束するよ」
ベシッ!
昼過ぎに、最終調整を終えて工場を出たばかりのジロウの頭を誰かが叩いた。
「イテッ!」
「アンタ、相変わらず間抜けね」
彼の頭を叩いたのはイロハだった。彼は嬉しさに顔を輝かせた。
「イロハ!治ったんだね!ほんとに良かった!」
「そうね、でも右腕の接触がまだおかしいの・・・てかアンタ、あたしの言う事聞かないで戻ってきたでしょ!」
「ごめん。で、でも」
「でもじゃない!結果的に勝てたからいいけど!?次アタシの言うこと聞かなかったら酷い目に遭わすわよ!」
「ごめんなさい」
イロハはフンッと鼻を鳴らし、わかったんなら良いわと言う様な表情をした。
帰宅すると、ダイニングの座卓には高級店の寿司が沢山並んでいた。驚いたジロウがイロハに尋ねると
「アンタこういうの好きでしょ?感謝しなさい」
とのこと。
「「いただきます!」」
今まで工場で整備を受けていたので、イロハとの食事は久しぶりだった。
「イロハ、本当にありがとう!美味しいよ!」
「それは良かった!今度はアンタが何かアタシに買いなさいよ?」
「うん!」
「あっ!」
イロハは右手に持っていたコップをひっくり返し、中のお茶を溢してしまった。ジロウは溢れたお茶を拭くのをすかさず手伝う。
「ごめん、まだ接触が悪いみたい」
「明日、工場に見に行ってもらった方がいいんじゃないのか?」
「そうね」
程よい熱さの湯が彼女の生体部品のみならず、機械部品まで温めて一日の疲労を忘れさせた。が、記憶までは消せなかった。
「アタシら、兵器なのよね」
彼女は先日戦った敵の改造人間のことを思い出して呟く。
(アイツはGR会で、ジロウよりも酷い生活をさせられていたのね。だから、同じ改造人間で兵器のアタシ達が恵まれた生活をしていることが許せなかったんだわ)
フゥー
彼女はため息をつく。
(まさかジロウが廃棄処分される可能性があったなんて・・・)
ジロウよりも重傷を負ったにもかかわらず、集中的な修理で彼よりも早く復活した彼女は、早々司令室に呼ばれると先日の戦いの事実を、今後の作戦運用に必要だということで話された。そこで彼女は衝撃の内容を耳にすることになる。ジロウの体内にはある博士の思惑により「D機関」なるものが内蔵されており、ジロウの性能がイロハより劣るのは予算不足のせいだけではなく、D機関を積むために性能を落とさざるを得なかったと言う事実。また、D機関を発動させた彼は用済みとなり、廃棄される可能性があったそうだ。それは今後の作戦で彼が大破した際に、廃棄するかまた検討される事になるらしい。また、D機関が、日本のみならず世界の役に立つ装置であると言うことも聞かされたが、それ以上の詳しい話は聞き出せなかった。
(まあ、アタシらは上の言う事に従うしかないけど、ジロウを廃棄処分なんかさせたくないわね)
自分たちが「兵器」である事を再認識した彼女の心は、少し落ち込んでいた。
(右腕、ちゃんと直さなきゃ・・・兵器失格よね)
イロハは自分の目的を思い返して、暗い気持ちを吹き飛ばす。
(母さん、GR会は必ず壊滅させるわ!)
次回は番外編でイロハの過去に焦点を当てた話を投稿したいと思います。次回もよろしくお願いします!