六二式改造人間   作:ヒガシリク

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イロハ、過去の記録

12月の下旬、夜の旧東京都

 

その日の最低気温は33℃

 

もうすぐ年が明けるというのに、列島を襲う熱波は一向に引く気配を見せなかった。

 

旧東京都の高層建築は紅い終局の影響で軒並み倒壊しており、そこにかつての大都市の面影はなかった。唯一無事だった東京タワーを囲む様に、大小様々なバラックが立ち並んでいる。それはまるで、富裕層からのおこぼれに集まる乞食かのよう。

 

夜になって急に降り始めた雨が、バラックの屋根達をバラバラと打ち付ける。

 

バリバリバリバリ!

 

けたたましい排気音が地に轟き、その音がバラックの群れに近づいてゆく。獲物を狙う猛獣の目の様な、ギラギラとした幾つもの光が、バラックの群れをめがけ駆けてゆく。

 

「なあ、兄貴!あの噂は本当だったろ?」

オフロード車を運転している金髪の男は、後部座席に座っている彼よりもひとまわり大柄な、無精髭を生やした男に話しかける。

「ああ、奴らバラックなんか立てて生活してやがる。金目の物は洗いざらい奪え!特に電子機器の類は徹底しろ!」

 

あるバラックにて

 

バラックの外の様子を偵察していた肩幅の広い男が、無線を使って各バラックの仲間に連絡をする。彼の名は山本多津平といい、民兵団の隊長である。彼にはこのバラック町に、美しい妻と幼い娘がいる。

 

「まずい!奴ら5分後にはこの町に到着する!警察と軍に連絡しろ!男は武器を取って女子供を守れ!」

気弱そうな新兵が心配そうに多津平に尋ねる。

「多津平隊長!あの数、とても我々だけでは太刀打ちできません!」

彼は怒鳴った。

「そんなのわかっている!だが!ここで我々が戦い!奴等の侵攻を少しでも遅らせなければならない!」

 

長い様で短い5分間が経とうとしている。

 

「射撃用意!」

 

カチャ!

 

ジャキ!

 

射撃用意よし!

 

弾を装填し、配置についた民兵達は合図を送る。

 

「隊長!いつでもいけます!」

「よし!撃てぇ!」

 

ダダダッ!

 

ダダダッ!

 

ダダダッ!

 

車両のタイヤをに集中して射撃を浴びせる。

 

敵車両の幾つかが横転したり、他の車両にぶつかって炎上する。

 

「オラァ!奴らを血祭りに上げろぉ!」

「ウオオォ!」

 

横転した改造トラクターから何人もの荒くれ者が飛び出してくる。

 

敵の1人がナイフを持って多津平に襲いかかる。

 

シュ!

 

ナイフが頬をかすめ、血が滲む。もう一撃を加えようとナイフを突き出してきた敵の腕を掴み、関節を曲げてはならない方向に曲げた。激痛のあまり敵は地を転がる。

「ギャァー!」

「悪く思うな」

 

ダン!

 

多津平は小銃で敵の頭を撃ち抜く。

 

バキ!

 

彼は後ろから近づいてきた敵の首を、蹴って折り曲げた。

 

「うわあ!」

 

先程の新兵が敵に武器を奪われ、今にも殺されそうになっている。

 

ダン!

 

多津平は小銃で敵の頭を撃ち抜いた。

 

「隊長!ありがとうございます!」

「礼はいいから戦え!」

「はい!」

 

序盤は此方に有利だった戦いも、敵の数の多さに圧倒され始め、防衛戦を突破されてしまった。

 

 

多津平のバラックにて。

 

多津平の妻の瑠璃子は、幼い娘を土埃で汚れたクローゼットに匿いながらこう言う。

 

「いい、イロハちゃん。何があっても、ここから出たり、声をあげてはいけませんよ」

「わかったわ。ママ」

 

瑠璃子は微笑むと、クローゼットの戸を閉める。

 

スゥー

 

ハァー

 

(貴方、無事なの?)

 

夫の身を案じて不安になった彼女は深呼吸をする。

 

 

その頃多津平は、こちらの体制を立て直すために、後方に陣地を移していた。

多津平は怒鳴る。

「援軍はまだか!」

「隊長!何者かにより電波が妨害されています!」

「何!だとすると、奴らの仕業だ。奴らの車両のどれかに無線妨害する設備が積まれているはずだ」

多津平は夜間用の双眼鏡で敵車両を観察する。

長年の戦闘の経験から、怪しい車両を一つ発見した。

「あのやけに装甲の厚いトラックが怪しい」

「どうやって破壊します?」

「対戦車地雷があるだろ?それを使って・・・」

「隊長、まさか!」

「心配するな!こう言う仕事は俺の方が慣れているからな」

「あのトラックの周りには人影が少ない。きっと装甲をつけているからって油断しているんだ。お前らは、俺がトラックのコンテナに地雷で穴を開けたら、そこに手榴弾を投げ入れてくれ」

 

 

 

敵車両に蛇の様に音もなく彼らは近づいていく。目的のトラックにたどり着いた多津平は、コンテナの真下に対戦車地雷を仕掛ける。横道たちはトラックのタイヤの片方に向かって手榴弾を投げる準備をしている。

満を期して多津平が叫ぶ。

「よし!いまだ!」

多津平の掛け声とともに投げられた手榴弾はトラックの片方のタイヤに当たって爆発する。その瞬間、多津平は対戦車地雷に向かって銃弾を発射する。

 

ドオオオォンッ!

 

対戦車地雷が被弾した衝撃で爆発を起こす。トラックは横転し、地雷によって穴の空いた腹を無防備に晒した。そこに回り込んだ横道たちはさらに手榴弾をその穴に向かって投げ込む。と、轟音とともにコンテナは弾け飛んだ。それを確認した多津平は部下たちに命令する。

「よし、撤退する!」

「了解!」

 

ダダダダタッ!

 

多津平たちに気が付いたのか、こちらに銃弾が飛んできた。

「急ぐぞ!」

多津平たちは全速力でその場を離脱しようと駆ける。

「ウッ!」

多津平は呻くと体をのけぞらせ、その場に倒れ込む。見ると背中から、大量に血液が流れ出している。

「隊長!」

横道はそう叫ぶと彼を味方陣地に連れて行こうとする。彼はそれに気がつくと怒鳴る。

「俺に構うなぁ!早く行け!命令だ!」

横道達は悔しさで歯噛みしながら、その場を後にした。

 

 

 

 

バキバキバキ!

 

 

「!?」

 

多津平夫人のバラックの入り口が、荒くれ者によって破壊された。

壊された入り口から2人の荒くれ者がズカズカと乗り込んできた。

 

「何ですか貴方達!出てゆきなさい!」

 

バラックを破壊した無精髭を生やした大男が、瑠璃子を見るなりこう言う。

「おお、このゴミみたいなバラック街にもいい女がいるじゃん」

「兄貴!後でその女、俺にもやらしてください!」

金髪の男が大男に頼み込む様に言うと、大男は懐からピストルを取り出して怒鳴った。

「うるせえ!お前は金になりそうな物をありったけ頂戴しろ!それができねえなら、お前の頭に鉛玉をぶち込んでやる!」

「ヒィっすいません!」

(ママ、怖いよぉ)

クローゼットに隠れているイロハは、震える手で耳を塞いだ。

 

大男は瑠璃子を床に押し倒すと、服とブラジャーを剥ぎとり、彼女の大きな胸を片手で鷲掴みにしながら、もう片方の手でズボンのファスナーを下げる。

「ほおっ!いい体してる!」

「いや!やめてください!」

「やめねえよ」

大男は彼女のパンティを引きちぎると、彼女の股に吸い付いた。

「ああっ!」

 

(ママ、どうしたの?)

イロハはクローゼットの戸板の割れ目から、恐る恐る外の様子を見た。

そこにあったのは、大男に覆い被さられ、悲鳴をあげている母親の姿だった。

(いやっ!こんなのいや!だれかママを助けてあげて!)

悲しいことに、幼い少女の願いには誰も答えてくれなかった。

 

ことを済ませた大男はズボンのファスナーを上げ、意識の朦朧として倒れている瑠璃子にピストルを向ける。

彼女はやつれた顔を心なしか青くした。

「どうしてって顔してるけどなあ、俺たちの顔、覚えられちゃ不味いんだよ。じゃあな」

 

ダン!

 

冷たい鋼の礫が彼女の額に勢いよく吸い込まれ、美しい顔が吹き出した血で赤く染まる。

 

その様子を見てしまったイロハは、思わず声を出してしまった。

「ママ!」

イロハはしまったと口を押さえたが、もう遅かった。

「ああん!?」

「おい!そこのクローゼット開けろ!」

金髪の男がクローゼットの戸を開ける。

「兄貴い!ガキンチョがいますぜ!」

大男はイロハに向かって近づく。

「お嬢ちゃん、俺たちの顔、見たろう?」

「見てない!見てない!見てないから殺さないで!ママを返して!」

「この反応、見た証拠ですぜ?」

金髪の男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

「いやぁ!ころさないで!ころさないで!ころさないでぇ!」

「兄貴ぃ、このガキ、富裕層の外人に売りつけるって手もありますぜ?」

「いくらぐらいになると思う?」

「この見た目だと一千万円は下らないかと」

と、そこに小柄な男が息を切らしながら走ってきた。

「お、親分!大変です!」

大男が答える。

「どうした!」

「警察と軍の増援がもうすぐそこまで来ています!」

「何ぃ!予定より速いじゃないか!」

「ええ、かつてない規模です。我々を今回で全て殲滅するつもりかもしれません!」

「おい!撤収するぞ!」

「えっ!でもガキが・・・」

「ガキンチョの記憶力なんざたかが知れている!放っておけ!」

荒くれ者達は凄い勢いでバラックから飛び出し、どこかに消えた。

 

 

 

 

しばらくして民兵団の兵士の一人が、倒れている母親に縋り付いて震えているイロハを見つける。その兵士は多津平に救われた、若い新兵である。彼は怒りで肩を震わせている。

「奴ら、隊長だけでなく、その奥さんまでも・・・!!残されたこの子が気の毒だ!」

「だが横道二等兵、孤児院は何処も満員だし、どうしようもないぞ」

新兵のそばにいた同期の兵士が言う。

横道二等兵は思い切った様に顔を上げる。

「民兵団でこの子を育てられないか?」

「何を言うんだ?俺らにそれを決める権限はないぞ」

「だったら上に掛け合うまで!」

そこには戦闘前の弱々しい新兵の姿の彼はなく、目の前の幼い少女を救わんと奮起する男の姿があった。

 

 

 

それから数年が経った。横道は昇進して階級が上がり、国民保護隊に勤務する様になる。イロハも逞しく育った。彼女は父と母を殺した組織がGR会として活動していると知ると、GR会への復讐心から、改造に反対する横道を、自らの強い意志で納得させて「戦闘用侵襲式人体改造計画」の試験台と自らなり、それば無事成功した。「六二式改造人間」イロハの誕生である。




次回予告

大規模な地殻変動が世界を襲う。
もはや一刻の猶予もない。赤銅司令は決断を下す。
遂に産声をあげるプランOMEGA。
明日に希望はあるのか。

次回「発動」

読んでくれてありがとうございます。次回もよろしくお願いします!
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