※原作プレイ後推奨
「つまり私の誕生日が今日だという可能性があるのだからケーキを要求するのは何らおかしいことではないわよね」
「そ、そうかな・・・?」
食堂はいつも騒がしい。
女が三人寄れば姦しい、などとは言われるが、ここには十人ほどの少女達が集まっている。
だからこの盛況ぶりも納得できる――と簡単に言っていいものか。
詳しい経緯、事情は割愛するが、彼女らは地下666メートルの監獄から脱出するため、日々怪物達の巣窟と化した街を命懸けで調査している。
その中で一人の死人も出すことなく談笑しているのは奇跡だろう。
血式少女――おとぎ話の登場人物の名を持つ、出自不明の少女達。彼女らは人を越えた能力を携えた兵士でもあるのだ。
だが実際、軍隊のような厳しい戒律があるわけではなく。普通の少女達の感性も持ち合わせており、このような会話もその一つだった。
◆
「何を揉めているのかしら?」
食堂を通りかかった黒髪の少女―――アリスは話に入り始めた。
先ほどまでは自室で幼馴染みのジャックと過ごしていたが、賑やかな声に引かれて共に出てきたのだ。
「ごめんなさい、ちょっとうるさかったかな」
「いえ、大丈夫よ。・・・話の内容が気になっただけだから」
申し訳なさそうに答えたのは人魚姫。だがアリスは別に賑やかな場を苦手とはしていない。むしろ、お茶会を開きたいという願望を持ち合わせていたりする。
それならよかった、と人魚姫が説明を始めた。
「えっと、誕生日って分かるかな」
「ええ、一応知ってはいるけど・・・」
人がこの世に生を受けた日。
この日に人は歳をとることとなり、一年の成長を祝う―――それくらいのことならば昔住んでいた集落でも聞いたことはある。ただ、そこで祝い事をする余裕はなかったし、そもそもいつ生まれたのか分からない。だから自分には無縁のものだと思っていたのだ。
「うん、わたしたちも誕生日を覚えてなくてね、それで『黎明に来た日を誕生日としてお祝いする』っていうルールだったの」
「揉めるような話ではないと思うのだけど」
「いや、そこまではまだ平和だったんだ」
人魚姫の隣にいた(というか大体隣にいる)少女、つうが続けたことには。
「それで『毎年ケーキを作ってもらった』って話を始めたらグレーテルが急に変なことを」
「だから何もおかしいことではないと説明したじゃない」
なるほど、とアリスは得心がいった。グレーテルがお菓子の話に食いついてくるのは人の知るところである。
だがケーキを求めて誕生日を詐称するのは如何なものか。
そう考えたアリスであったが、グレーテルには論理的な説明があるらしい。
「黎明に所属した日を誕生日としているとすれば、私の誕生日はまだ決定してないじゃない」
「ルールの上ならそうね」
グレーテルほどではないが、アリスも論理、合理を好む人間だ。一応説明に耳を傾けてみる。
今のところ主張に穴はないように思えるのだが、実際揉め事が起こっているのは忘れてはならない。
「そして本当の誕生日も分からない。つまり私の誕生日である可能性は全ての日に等しく存在しているわ」
・・・可能性があるから今日、というのは流石に暴論ではないだろうか。
「別に毎日ケーキを要求する気はないわ。今日食べたら次の要求は一年後の今日になるわね」
「今日ケーキが食べたいだけではなくて・・・?」
「まあまあみなさん、決まってないなら良いじゃないですか?」
「ボクも・・・いいよ・・・」
「ではわらわも今日が誕生日だった気がします~。というわけでそこの水を取ってください」
「・・・こういうのが出てくるから認められないのよ」
「てかかぐやは誕生日決まってたじゃん」
この件について血式少女の中では賛否が分かれており、それが揉め事の原因のようだ。
アリスには黎明のルールはよく分からないため、この話に口出しすることもなく、目の前で行われるああだこうだという議論を眺めているだけであったが。
「そうだ、アリスはどうする?」
「わたし?」
唐突につうの口から自分の名前が出た。
さて、この話は自分と何か関係があっただろうか。
グレーテルの言葉を思い出しても、特に気になる点は―――
「アリスの誕生日は決まっていないだろう?」
―――そうだった。さっきから訴えを繰り広げるグレーテルは勿論、ラプンツェルやハーメルン、そしてアリスも誕生日は決まっていない。
「今日と言われたら何の準備もないし困るけど。ルール上では決まっていないんだ、どこか特別な日でも教えてくれればお祝いするよ」
「特別な日・・・」
思い出せば印象に残る日は多く浮かんでくる。一人ぼっちの自分に少年が話しかけてきた日、初めて一緒に遊んだ日、世界でたった一つの宝物をもらった日。
その大部分は幼馴染みとの思い出だが。
「アリスさんは・・・やっぱり・・・」
「ジャックとの思い出かい?」
「いいえ、ここに来た日を誕生日にするわ」
「えっと、それでいいの?」
「ええ」
最近だって思い出は沢山生まれた。
暗い独房から出て、温かい空気に包まれて、希望を見つけた。
それをくれた―――
「かけがえのない、仲間たちと出会えた日よ」
みんなで祝うならば、きっとその日の方が良い。
◆
議論は探索の時間になるまで続いた。
『ここでワレらが仲間になった日ぎゃワレにょ誕生日、すなわちゆ―――』
『ラプンツェルもここにきたひでいいよー!』
『ワレの言葉を遮るでないわーっ!』
結局、誕生日がまだ決まっていなかった血式少女はこの場所に来た日を祝うことに決定した。
グレーテルは最後までごねていたが、同じ境遇の3人がそれで納得した以上、勝てないと踏んだのだろう。
渋々、といった顔で引き下がった。
探索が始まる前に終わって良かった、と血式少女たちは準備をしに各々の部屋へ戻っていった。
「あのね、ジャック」
アリスもジャックと共に廊下を歩いていく。
「わたし、みんなに出会えた日をみんなで祝いたいって言ったじゃない」
「・・・?」
血式少女隊の仲間たちのことを、アリスはジャックと同じくらいに愛している。
先の発言はそれゆえのものだったが、それはそれとして。
「それでね、もう一つ思ったのだけれど、あなたとの思い出の日を二人でお祝いできたらいいなって」
アリスの中でジャックは特別である。
ジャックとの思い出の日を祝いたいという気持ちも当然あった。
ただ、二人の出会った日をみんなに祝われるのはやはり気恥ずかしい。
故に、こうしてジャックだけに提案をする。
「・・・どうかしら?」
「んぎ・・・ぼぐも"・・・お"い"・・・だい"」
―――僕もお祝いしたい。
答えはすぐに返ってきた。
ジャックの中でもアリスは特別なのだ。
「ふふっ、ありがとう。じゃあ出会った日を二人で・・・。待って、初めて遊んだ日の方が良いかしら」
「がみ"・・・がざ・・・」
「ああ! その日も良いわね!」
怪物となってしまった今でもジャックは自分との思い出を覚えてくれている。
疑ったことはないが、やはりそれが分かると嬉しいものだ。
二人の関係は残酷な運命などに引き裂かれず、わたしたちの中には変わらない、本物の愛と絆が宿っている。
「お祝いしましょう、ジャック。ゆっくりできるのは監獄塔の探索が終わってからになると思うけど・・・約束よ」
「ぎ・・・う"ん"・・・」
お茶会を開こう、お菓子を用意しよう、それもまた素敵な思い出にしよう。
二人は未来を語りながら進んでいく。
監獄塔の調査はこれまでのエリアとは比較にならないほど危険なものになるだろう。
この約束が希望となり、進む先を示す灯火となることを願っていた。
筆者はFinaleプレイ中でして、設定に矛盾が出たら嫌だなあと。
それで2世界線で書き始めました。
書いているうちに嫌なことに気付きました。
開き直って書いたら誕生日記念作品とは呼べないものになりました。
ごめんなさい。