明石が新兵器を作った。なんでも音楽を聞かせて気持ちを昂らせることで艦娘のパフォーマンスを上げるというらしい。
*いろいろ設定がおかしいのですが、それはいつものこと。
ちなみにあなたはどんな曲を聞くと気分が盛り上がりますか?
見慣れた街をあてもなく歩く。そして耳障りな雑踏にまじって聞こえてきたのは何度も耳にしたあるアーティストの歌声。
「……♪」
足取りが軽くなる。それまで見えていた景色がどこか変わって晴れやかになる。
音楽は身近な存在だ。特に心とは密接に関わっている。
好きな音楽、お気に入りの曲を耳にすると思わず口ずさんでいる。心が弾む。
反対に悲しげな音色を聞いていると気分までもが滅入ってしまう。
「……!」
お気に入りの曲を耳にループし、今日一日を乗り越える糧にする。
音楽は魔法だ。気分を高揚させることも沈ませることも出来るのだから。
心を躍らせるのも沈ませるのも…音楽を用いれば造作もないことなのである。
□
「…新兵器?」
朝早くに工廠に呼び出された俺は思わずそう聞き返した。
「俺、なんも聞いてないんだけど」
「あれ、そうでしたっけ?」
自身の知らぬところで勝手に物事が進められていたことに若干のイラつきを覚える。そしてそのイラつきが態度にも表れてしまったのだが、俺をこの場に呼び出して新兵器云々と告げた当の本人…明石はどこ吹く風、あっけらかんとしていた。
俺、一応司令官なんだけど…。
「…とにかくこれを見てください」
眉を顰める俺を華麗にスルーして、明石が何かを差し出してきた。
これは…。
「…ヘッドフォン?」
「はい、ヘッドフォンです!」
明石に手渡された物は新兵器という言葉には相応しくないほどにありふれていて、身近な物だった。見た目から百均に売ってそうなチープな作りだ。
「しかーし!そこら辺のヘッドフォンとはわけが違う!」
呆然と手元の新兵器(笑)を眺める俺に明石は得意気な顔で人差し指を振ってみせた。
「…ところで提督はバフとかデバフって言葉ご存じですか?」
「え?」
バフとデバフ?それって強化したり弱体化させたりってやつのこと?
「お!ご存じでしたね!それなら話が早い」
「…………」
「ふふふ、これを作るのどれだけ時間が掛かり、またどれだけ資源を費やしたことか…。やった、遂に私はやったんだ…!」
…全然話が見えてこない。ついでに目の前で明石が爛々としながら小躍りするところを見せられてちんぷんかんぷんなんだけど。
「おい明石、悪ふざけなら他所でやっ…」
明石の電波発言に流石に我慢の限界を迎えて声を張り上げる。しかしそれは俺が怒鳴り上げた時と同じタイミングに発せられた明石の大声によって見事に掻き消された。
「実際にお見せしましょう、その性能を!!!」
□
「…明るい曲調に心が弾むのは何も人間だけではないんです。艦娘も同じく心を弾ませ、パフォーマンスが向上するんです。なぜなら私たちには心があるから!」
「…なるほど!!勉強になります!!!」
…とうに夜明けは過ぎた。今では暖かなお日様が頭上高くで照り輝いている。
「そこでこの新兵器!!これを耳に装着してご覧なさい!戦意高揚を促す最高の曲が朝潮ちゃんの底に眠る潜在的パワーを呼び起こすことでしょう!!」
「…すごい!!!」
…あれから数時間、俺は一体いつまでこの工廠にとらわれ続けるのだろうか。
「(…帰りたい)」
ふと二時間前のことを思い返してみる。ちょっとハイになった明石が駆逐艦朝潮を召喚し、そこからさらに話がややこしくなった。
「………」
ちなみに俺は明石に思いっきり手を掴まれているので逃げるという選択の余地がない。なるほどあくまで新兵器の性能を見せるまでは帰さないって魂胆か…。
誰か助けてくれぇ!
「ふぅ、一通り新兵器やバフデバフについての説明はしたけど…。朝潮ちゃん、何か質問はあるかな?」
「いいえ!!明石さんの説明、とっても分かりやすかったです!しかもこの朝潮に新兵器を搭載して頂けるとは…!!光栄です、感激です!!!」
朝潮よ、本当に大丈夫か!?俺、ずーっと君たちのやり取り聞いてたけど何一つピンとこなかったよ!?
あー、朝潮って怪しげな新興宗教とかに騙されちゃうタイプか…。明石の野郎、新兵器の実験にある意味で適任者を選びやがった!
「この朝潮、新兵器を搭載したことにより生存性と汎用性が大幅に向上いたしました!そして…」
俺の不安とは裏腹に…目を輝かせながらハキハキ喋る朝潮はそこで言葉を遮ると明石に向けていたその顔を俺の方に向ける。キリリとした表情がまた美しい…。
「…そしてこの朝潮、司令官の為に全力で艦娘としての使命を全うします!!!」
「…素晴らしい!」
「えぇ…」
気合の入った朝潮の宣言に明石が涙を流しながら拍手を送る。そして俺は困惑が困惑を呼ぶこのカオスな空間に眩暈を覚えるのだった。
□
「…出撃準備完了いたしました!いつでもいけます!!」
「はーい!新兵器もしっかり耳に着けた?」
「はい!!!もちろんです!!!」
「はーい!じゃあちょっと待っててね…。今、この明石が選別した最高の曲を朝潮ちゃんに送るから」
明石はそこで無線を切り、どこから取り出したのだろうか…無骨なデザインの謎のデバイスを弄り始めた。
…そして俺はと言うと鎮守府の作戦室へと無理やり連れて来られ、目の前には巨大なスクリーン。そこには意気揚々と出撃命令を待つ朝潮の姿が映し出されている。
一体、何が始まるんです?
…とりあえずすごく楽しそうな明石を横目に、俺は先程の二人のやり取りを思い出してみる。
…あの百均で売られているようなヘッドフォンと現在明石が弄っている謎装置がセットで新兵器ということ。それでヘッドフォンを装着した艦娘に明石が音楽を転送し、それを聞いた艦娘はポテンシャルを最大限まで引き出すことが出来るということ。
「(…わけ分からん)」
出撃を前にうずうずしている様子の朝潮をスクリーン越しに見ながら、こうなったら成り行きを見守って、ヤバそうだったら今度こそ俺が明石の暴走を止めてやるとひそかに奮起した。
「…それじゃあ、まずはこのナンバーから!」
そして俺がひそかに覚悟を決める中、明石は声高々に新兵器の実験(笑)を開始。謎のデバイスをピコピコ操作し始める。
「…うわっ!!」
突然、作戦室に壮大な音楽が流れ始めたので俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「…あ!ちなみに朝潮ちゃんの耳に流れる音楽はこの作戦室にも同時に流れますからね」
それ、早く言ってよ!
…と、明石の遅すぎる忠告に心の中でツッコミを入れながら、自身の耳になだれ込む音楽に首を傾げる。
はて?この曲どっかで…?
「おー!!いいですよ~!提督、スクリーンを見てください!出撃待ちの朝潮ちゃんが肩を揺らしてます!早速新兵器の効果出てますよ!!」
…スクリーンを見ると確かに朝潮が肩を震わせていた。しかも目を閉じながら左右に体を揺らしている…?
「あ、今流してるのは『パシフィックリム』のメインテーマです!」
「」
あ、ああ~!なるほどね、どっかで聞いたことあると思ったら…!『パシフィックリム』のあれか~!どうりで巨大ロボットが頭に浮かんだわけだ………。
いやいや、ちょっと待て。
「さあ、朝潮ちゃん!!GOです!!!」
俺が突っ込む間もなく。明石が無線で飛ばした指示のもと、朝潮は艤装を稼働させる。そして普通に出撃したのだが…。
「お、おおお~!!!朝潮ちゃん、やりますねぇ!」
突然のことだった。何を血迷ったか朝潮は出撃してすぐ、まだ敵に会敵さえしていないのに艤装をフル稼働させて魚雷やら砲弾等を四方八方にばら撒いた。ばら撒き続けた。鎮守府近海(母港の真横)で朝潮は滑るように航行しながら、時にはクイックターンや特段ジャンプを決めてあらん限りの弾薬、砲弾、魚雷をまき散らしていた。
その姿はまるで氷上を華麗に舞うフィギュアスケーターの様や(ヤケクソ)!
「…は?」
もちろんまだ母港を出て一分も経っていない。故に朝潮の魚雷やら砲弾の餌食になるのは深海棲艦ではなく鎮守府なわけで。
鎮守府の…特に母港の方で断続的に爆発が…。
「ふふ、すごい!!これはすごい!!!」
大はしゃぎの明石とは対照的にもう俺は死にそうです。
「よーし!今度はこの曲でどうだ!?」
どこか面白がってる明石と鎮守府が破壊されていく様をただスクリーン越しに見ていることしか出来ない俺。
そして明石が嬉々と新たに流した音楽…。それはどこかの宇宙の暗黒卿が大軍勢を率いていそうな時に流れてそうで…それはスクリーン越しに映る暴走朝潮と妙にマッチしていて、俺は感動した(小並感)。
この後、鎮守府VS朝潮という構図になって鎮守府近海で『スターウォーズ』の壮大な曲をBGMに大バトルが展開されるんですね、分かります。ちなみに朝潮が負けそうになると途端に『アベンジャーズ』のテーマが流れてどこからともなく八駆が朝潮の援軍として駆けつけてくるんですね、分かります。そしてそして…朝潮陣営と鎮守府陣営がガチ戦争をし始めた時に『ゴジラ』の曲が流れて超巨大な深海棲艦が第三勢力として参戦するんですよね、分かります。そして最後に色々疲れ切った司令官が『バックトゥザフューチャー』の例の曲を聞きながら過去をやり直そうとして、新たな話が始まるんですね、分かります。