英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

11 / 82
 
 批判や疑問に原作の話などを含め、感想お待ちしております。


第9話 流行と不穏

 

  今は12月、実家を離れてから初めての冬であり、雪が群馬県内に降る日のことだった。

 

 姉上らが幻想兵器の訓練や試運転を日々行っている倉庫は、元々当然ながら軍事機密として見張りが付き、唯の弟如きが様子を窺うことなど不可能だった。然し幻想兵器の機密保持姿勢が緩み、また己に対して好意的で甘めに認識してくれる自衛官*1を増やしてきた甲斐もあって、刹那ら倉庫内の者に気付かれぬまま覗くことができるようになった。

 

 刹那や、中に入ったことのある自衛官から話を伺い、時には見張りの自衛官に協力してもらいながら倉庫の僅かな穴から覗き、更に匿名投稿された戦闘動画を毎回視聴する日々を続けていた。その内に、ある変化を観測することができた。

 

 (「__幻想兵器の、クラウ・ソラス*2の威力が増大傾向にある」)

 

 光剣の外観自体に、英雄の光刃とは別種の輝きに変化は見られない。だが動画では、以前と同等の腕力と集中力で剣を振るったのに以前に比べて斬撃の範囲も速度も増しており、僅かながら刹那の後方以外で無人の戦場における周辺被害も大きくなっている。

 戦闘も武に関する鍛錬も未経験であった使い手が経験を重ねて身体能力も戦闘方法も成長した、という要素は間違いなく存在する。だが動画を視覚と聴覚で分析し前世の戦闘観測データと照らし合わせてゆく。

 

「大丈夫大丈夫。今日はCEが思ったより硬くなくって、拍子抜けだったなー」

 

「此方にCEが迫ってきたときお姉さんが助けてくれたけど、ちょっと迎撃するのに衝撃波が広くて危ない思いを…あいや無事だったし言わなくてもいいよ迷惑掛かってないから内緒にしといて」

 

 そして聞いてきた話の中の、戦況や評価に違和感を纏め上げた上で__

 

 (「使い手のみならず、武器そのものも強化されている。而も強化の傾向は恐らく一定ではなく、不安定ながらも指数関数的でありまた恒常的だ。」)

 

 手入れの際の技術的な改造改良の可能性も想像したが、それでは傾向にそぐわない。また強化の傾向は、動画投稿以前に生じていないらしい。その旨を踏まえれば、根拠のない憶測、人々の認知度や印象が幻想兵器の性能にフィードバックされるという仮説も、信憑性を多少なりとも帯びることになるだろう。

 

 一方でこの仮説は、ある懸念材料ともなり得る。

 

 それは、幻想兵器やその強化が使い手の制御を困難且つ危険にしてしまうことだ。

 

 何しろ使い手自身ではなく武器自体が勝手に強化されるのだから、慣らしておかず以前同様の感覚で扱えば、武器に振り回されることになる。而もその強化が、武器の改良や調整といった人や機械の手によるものではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を直接反映させているのだとしたら、強化度合の事前把握や設定申出も不可能だ。

 

 動画投稿によって強化を目論んでいるであろう政府や自衛隊上層部に影山も、簡単な話ではなかろう。

 確かに動画とその中の戦いは、現実で流行りつつある。だがこの時代の日本政府に情報媒体の完全な掌握は、法的にも技術的にも政治的にも不可能だ。もし動画内容に対して、虚偽との批判や危険性への懸念など負の印象が貼られては弱体化を招く恐れもある。それに世間で、期待や好評が増して強化に繋がったとしても、その流れが過剰となってしまえば使い手の刹那も持て余し戦闘に支障を来す程に過大な力を備える結果となり得る。

 

 尤もだとすれば、現場を無断撮影した何者かによる匿名投稿、という体での広報は成る程理がある。

 公的に報じれば、映像の信憑性検証や性能の考察がマスコミや研究者に国民の大多数から行われ、疑いや懸念の発生も称賛の増大も一定以上が見込まれるが故、強化にせよ弱体化にせよ程度も大きくなる。しかし水面下にて映像を流せば、世間の認識とそれに比例する力の変化も小規模に抑えられる。その後の動画流行において、刹那の使用に悪影響を及ぼさない範囲で順当に強化されたなら引き続き投稿し機を見て公表。もし使用に問題が生じれば、公的な宣伝と違い投稿を止めるだけで世間の認識の増幅を容易に留め、幻想兵器の変化も制御し易くなる。

 

 何れにせよ、駐屯地外の世情や流行、動画内容のへんかや刹那の状態に対して注視しなくてはな。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 影山が東京都の防衛省に出向かっていたある日、何時もの様に訓練を終えて自室に戻った刹那に対して兵器の使い勝手を聞いた所、興味深い情報が話された。

 

 先ずは「クラウ・ソラスが前より強くなってきた」とのこと。己の分析が的中したのだろう。

 

 次に「何だかクラウ・ソラスが気持ち悪くなってきた」とのこと。どうやら強化以外のよく分からない何らかに違和感や不快感を感じているらしい。変化を齎す要因が恐らくだが不安定極まりない世間の認識によるもの、だからであろうか。

 

 そして「変換器*3だけど、もっとカッコよくて身軽なベルト型を作って変えてもらうよう影山先生に言ってみる」とのこと。己が開発や製造に携わった星辰奏者が力を発動する為の武器も、刀剣や銃に手袋など様々な種類を用意していたのだ。戦場における動きの最適化を図る為にも、量産化を行う場合に備えても、使い手に合う形状を用意しておくのは良い案だ。

 

「姉上よ、何か不調や無理、それに幻想兵器に関する注文があれば遠慮なく言っておけ。現時点で特に危機は訪れていない様だが、命が軽く何が起こるか分からず、歴戦の猛者ですら容易く死に至るのが戦場だ。不確定要素や阻害理由は可能な限り事前に排除しておかねば、刹那程の体力やクラウ・ソラスの様な武器があろうと危うい事態を招きかねん。」

 

「……わかった。いつも心配してくれて本当にありがとね。ところで影山先生が帰ってくる日にお菓子作ろうと思ってんだけど、どうかな?」

 

「お菓子か。刹那の菓子作りは上手であり、それに調理台も頼めば貸してくれるだろうからな。良い案だと思う、のだが__」

 

「?どうしたの英人?」

 

「いや、あの影山という男、食に対して好みや拘りがあるのかとふと疑問に感じてな」

 

「う〜ん、確かに言われてみれば、食堂や購買で食べてるとこ見たことないし…明日京子ちゃんに聞いてみるよ。あ、そうだ、もし暇だったら材料買かったりお菓子作り手伝ったりしてくれないかな?」

 

「構わないぞ。己としては、影山殿の話も気になるしな。」

 

「ありがとう!それじゃあよろしくね!」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 翌日、姉上が保科に聞いた所、彼女も一緒に食事をしたことがないので好みは不明だが、会食の経験はあるので人に見られながらの食事に忌避感もないだろう、と返されたようだ。取り敢えず作る品については、姉弟揃って偶々食堂で同席した群馬県外出身のとある自衛官が発案した“抹茶カステラ”に決定し、小遣いでもって購買や宅配を利用した食材購入を行い、調理台を借りて2人で作ってみせた。

 

 そして、東京都から影山が帰還した際に、一緒に作ったからと己も伴い倉庫に入り___

 

「先生、お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・が・し?」

 

 氷河姫(ピリオド)*4にでもなったというのか刹那よ。

 

「美味しそうだね、頂いておくよ」

 

「まさかのスルーっ!?」

 

 そう言って影山は、刹那が主になって作り差し出した抹茶カステラの乗った紙皿を受け取った。

 

「洒落の練習なら付き合うぞ」

 

「そんな恥ずかしくなること言わないで」

 

 との茶番を他所に、保科が溜息を吐いてから影山を出迎え話し掛けた。

 

「先生、会議の方はどうだったんですか?」

 

「今日は改めて幻想兵器の仕組みを説明した程度だよ、本格的な話はまた今度かな」

 

 __幻想兵器、仕組みとは強化の原理であろうか。

 

「こちらは特に問題もなかったかな?」

 

「はい、問題はありません。ただ――」

 

「ベルト型の変換器が欲しいですっ!」

 

 無視されたショックから立ち直った刹那が元気良く割り込む。

 

「そうか、刹那君は東の映画派だったか、僕は円な谷派でね……」

 

「何言ってんですか?」

 

 恐らく創作物に関する好みを漏らす影山に対し、京子が刹那からの変換器の要望を伝えると、

 

「分かった、では考えておくよ」

 

 そう笑顔で応え、紙皿を持ったまま倉庫を出るところで__

 

「あ、先生。忙しかったら後でいいんですが、ソラウ・クラスが何か強くなってるんですけど何でか分かりませんか?」

 

「……そうだね、今から自室でやること色々あるから、暇ができたら説明するよ。」

 

「ありがとう!それとカステラ、ここの人たちに色々用意してもらって、英人と2人で作った自信作だから美味しいよ!」

 

「それは楽しみだね。それじゃ失礼するよ。」

 

 影山が返事をして寮の方に戻った。何処迄明かす気かは不明であり、内容次第では口止めされる可能性もあるので己が知ることは難しいかもしれぬな。

 

「よかったじゃないか、刹那」

 

 色鐘が微笑を浮かべながら肩を叩くも、刹那は心配と思案の読み取れる顔を見せていた。

 

「…う〜〜ん、影山先生、ホントにちゃんとご飯食べてるのかなぁ。」

 

「……えっ?ま、まさかあの男に気があるのかっ!?」

 

 我らの父親が嘗て刹那の浮ついた(事実無根であった)噂を聞いた時の様に肩を掴んできた色鐘だが、本人にそんな気持ちはないだろう。

 

「それはないって、先生はイイ人だと思うけど、恋人には絶対にしたくないもん」

 

「貴方、サラッと酷い事を言うわね……」

 

 苦笑し首を振る刹那、ああ言いつつ共感はしているらしき保科。

 

「先生、私の事は凄く褒めてくれるし気にかけてくれているけど、“私”は見ていない感じがするんだよね」

 

「刹那のくせに難しい事を言うとは、熱でもあるのか?」

 

「なんだとーっ!」

 

 誂われて怒る刹那をあしらいつつ考え込む色鐘。発言に共感している様で、恐らく影山のことを、“万人を駒や数字として捉え目的に向かって平常心のまま利用し切り捨てられる存在”であると推察しているのだろう。

 

 己とて、その認識や思考回路は十分理解できる。他者を統率する立場、動かす仕方を考案・実行する立場にある者は、多数利益や目的の為に少数派の利益や意思を蔑ろにする必要性に迫られるものだ。それは大局的・長期的視点で見れば妥当であり合理的な判断だが、排除や抑圧を本人の心情に拘らず実行する罪悪感や、切り捨てられた者からの懇願や怨嗟と向き合う羽目になる。

 それ故旧西暦末期であれ新西暦10世紀間であれ、組織や複数人を束ねる立場や策を提供する立場には、元から人情や感覚の鈍い者か精神の適応により鈍った者、或いは倫理観や感性を保ちながらそれらを抑え込む執念や気力で邁進する者が務められる。第三が正にヴァルゼライドであり、影山は直接的な接触や隊員からの評判をもとに分類付ければ第一にあたるであろうな。

 

「…………」

 

 色鐘が溜息を吐いた。影山を如何に評価するか考えていたのだろう。奴の目的が判らぬ以上、警戒するに越したことはないな。

 

「綾子ちゃん、難しい顔しているけど、ひょっとして……太ったの?」

 

「それはお前が心配しろ」

 

 と言って刹那を叩く色鐘。

 

「毎日毎日、菓子を作っては食いおって、豚になっても知らんぞ」

 

「大丈夫だって。私、脂肪は全部オッパイにいく体質だもんっ!」

 

「__姉上の間食、見張って制限させるべきだな。胸にゆこうが腹にゆこうが、脂肪が付き過ぎては健康や戦闘に支障を来すやもしれぬ。」

 

「……理由は兎も角そうしてあげて。私と刹那が揃っていると、綾子たち女性自衛官の一部から妙な目で見られることあるし」

 

 我等が倉庫から出たのは、斯様なやり取りを終えてからであった。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 雪の降る翌日、刹那達が何時もの様に出動した。何でも今度は軽井沢だというが、毎度の如く匿名動画が後日投稿されるのであろう。

 

 今日も今日とて、勉強と鍛錬と手伝いと交流、会話による情報収集を行うのだが___

 

(「そろそろ、秘密裏のハッキングに挑んでもよかろう。通信関連に携わる協力者は作った。駐屯地のセキュリティ解析も済んだ。唯の英雄(天道寺刹那)の弟でい続ける気などないのだからな。」)

 

 己にとっての調査対象は2点。幻想兵器のより詳細な情報と、国内外の勢力による幻想兵器への監視体制だ。

 何しろ幻想兵器は、CEの光線をも防ぐ防御性能と、鋼材すら裁断する切れ味、更に使用者の素質が限られているものの使いこなすのに半年も掛からぬ簡易性、不審に見られぬ形状に仕立て上げることも可能な変換器の隠匿性。軍事技術としては非常に革新的で強力且つ便利な代物であり、またインターネットから誰でも存在を知ることのできる兵器なのだ。合法非合法を問わずに調査して当然故に、此方としても防諜に貢献し、あわよくば其処から新情報を獲得しておきたい。

 

 ___それにしても、機械や重兵器が活躍し生身の兵士の比重が限られていた戦場にて、圧倒的な破壊力と機動力を身軽に有する等身大のヒトガタが単騎で標的を対処する新技術、か。己はその本懐を果たせぬまま日本の地上からの喪失を防げなかったが、よもや我が姉の手によって成し遂げられるかもしれないのか。

 

――「私たちを支えてくれるここの人たちのためにも、CEに怯えてつらい思いをしているみんなのためにも!」――

 

 __いや、刹那は国や正義の為ではなく、身近にいる誰か、大切に思い合っている誰か、支えてくれる誰か、それに嘗ての自分と同じ境遇にいる誰かの為に戦っているのであったな。

 まぁ良い。行動や結果は兎も角、内心の動機を非難する権利など誰にもなく、況してや刹那の目的意識に干渉する資格など、助けてもらう立場の己にはないのだ。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 刹那達が帰還してきた。毎度の如く、今回も目立った傷は誰にも負っていないようであったが、何やら刹那の顔が浮かない様子だ。戦場で衝撃的な光景でも受けたのだろうか?

 

「おかえり姉上。今回も無傷で戻ってくれて何よりだが、調子が悪そうだな。どうかしたのか?」

 

「…あ、ううん。何でもない。いつも通りの大活躍で、みんなの大砲もお休みだったよ。」

 

「そうか。ならいいが、愚痴や相談があるなら気軽にやっておけ。己も他の皆も喜んで接するさ。」

 

「大丈夫だって。それじゃ、また後で。」

 

 そう言って歩く刹那。隊員達にも毎度の如く礼を行い続けた。

 

 

「…影山先生、強さの秘密を内緒で教えてくれるって言ってたけど…」

 

 誰にも聞かれぬよう潜めた独り言を、己の耳にだけ入ったと思ったのは、如何なる理由かはたまた気のせいに過ぎなかったのか。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 情報収集の結論から言うと、幻想兵器の強化の原理は憶測通りであり、また外国の諜報や国内の反政府的勢力は確かに最大の戦場たる群馬県内に蠢いており、駐屯地内の者や中央の役人への接触らしき動きも確認できた。

 

 果たしてその努力が、未来に如何程の影響力へと繋げられたかは定かでないが。

 

 

 

 

*1
彼らには、己の行動の内幻想兵器や作戦内容への情報収集において、規則や命令に触れぬ範囲での情報提供や、情報収集活動の黙秘をしてもらっている。彼らは、子供らしい好奇心や姉の助けになりたい思いが動機であり、叱られたり心配掛けられたりしないようバレては困るのだろう、と認識しておりそのことを利用した。実際の所、この動きを影山や駐屯地上層部に把握される事態は、念の為避けたいが故であるがな。

*2
刹那が用いる光剣の名前を指し示す。由来は欧州にあるケルト神話で登場する、光の剣の総称。これを特定したのは保科京子であったそうだ。

*3
正式名称は何でも「幻想変換器(ファンタズム・コンバーター)」で、腕輪型であり此処から光が放たれて、体を越える大きさのソラウ・クラスを形成するとのことだ。

*4
人造惑星の1体で、氷結能力使い。今は些細ですぐ忘れる程度の情報を思い起こせたら十分だ。




 専門外で詳しく書けない部分はサラッと結果だけ記します。情報通信技術については素人同然の知識理解故ですが、ご勘弁下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。