英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
今後は、原作に辿り着くまでオリジナル展開と描写になりますので、更新が遅れるかもしれません。
また、自衛隊の組織構造についても素人ですので、実際の自衛隊や自衛官と描写に間違いや疑問をもし感じられたなら、遠慮なく感想欄にて質問や指摘を行って下さい。
時は旧西暦2026年2月、人類がピラーやCEを観測し襲撃されてから1年が迫ろうとし、群馬県内には雪が残っている。
秘密裏に、それでいて積極的な不穏分子を調査した結果、確認できた外国勢力は、2026年時点における米中露や欧州の英仏独からの公的に派遣された文官武官や学者に軍需産業業者、更に此等に加えて近隣の独裁勢力からも含めた、民間人や難民に紛れての工作員。日本人の要警戒対象としては、CE教*1や違法行為も厭わぬ一部マスコミに自称インフルエンサー、また利益や弱味等により彼等や外国勢力に阿る官民の背信者。以上が群馬県や長野県、また首都における政官財に自衛隊に報道機関にと把握できた。
そして己は今、通信科新町派遣隊*2の面々や、立ち会っている情報科の者と共にいる。
「………こんなこと言っては何ですが、子どもにパソコン教えようとしてネットに触れさせた筈なのに、まさか私達より遥かに多く危険分子を見つけ出すなんて…」
「そなたらの教えや様々な協力あっての成果だ。正直な所、己でもここまで捕捉できたのは驚いた。改めて、誠に感謝する。それと、常々頼み込んでいるのだが__」
「天道寺英人は通信科の新町派遣隊に一度も関与していない、それだけを守った上で此等の情報を得た手柄の行方は我々に委ねる。そうでしたね。確か秘匿を望む理由として」
「刹那の付添に過ぎぬ民間の子供が此処まで携わったと発覚すれば様々な問題が生じること、影山准教授や政府・自衛隊上層部への警戒だ。」
「…失礼な話かもしれませんが。小学生の子どもがいる私に言わせれば、君は明らかに異質です。類稀な頭脳や技能もそうですが、それ以上に何があれば…恐ろしさや頼もしさすら感じられる程の心を備えられるのですか?経歴は既に把握していますが、それにしても…」
「__御大層な理由はない。ないが敢えて言うなれば、御伽話の英雄の影響であろうな。それよりこの情報をだ」
「君の事は伏せた上で上に報告、恐らく警務課*3や防衛監察本部、警察など他省庁とも協力して監視や取締を実施するでしょう。」
「本当に助かる。これで日本の安全保障や対CE戦に少しでも貢献できるなら甲斐があったというものだ。」
「…それに天道寺刹那、君のお姉さんも邪魔され難くなる筈ですね。もし頑張りを知れば、きっと喜んで励みになるでしょう。」
「__そう、であるかもな。では己は失礼する。もう直ぐ夕食を共に食べる時間であるからな。」
「了解。ゆっくり休んで下さい。子どもの本来の仕事は、よく食べよく眠り、よく遊びよく学びよく休むことですから。」
やり取りを終えて食堂へと向かった。
(「__喜んで励みになる、か。果たしてどうであろうな。」)
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それより十数日程経った頃になると、見つけ出した不穏分子が多少なりとも片付けられた模様だ。流石に最重要同盟国たる米国の工作員や協力者を排除するのは難しいだろうから、恐らく今後の関係強化と覇権維持への支持と引換えに、列島内の対CE戦や幻想兵器に関する妨害工作の自粛を求める方針でゆく、と予想される。だが関係性に比較的配慮せずに済む国の手の者や、カルト宗教に不法不正な所業を行った公務員・防衛産業業者は、逮捕や処罰に左遷を実施したらしい。
尤も、対CE戦を無断で見物や調査に及んだマスコミや民間人については、そこまで厳しく対処していない。まぁ何せ、政府や自衛隊が“幻想兵器使いの戦いを勝手に且つ隠れて現地で撮影し匿名でネット上に投稿し続けている”、という体で流布している以上、彼等は厳格に規制し処罰するのに数ヶ月前から発信され続けている動画は未だ野放し状態にあるのは二重規範だ、と非の打ち所がない批判に晒されるからな。
一先ず刹那を、幻想兵器使いを害する存在はある程度抑えられる筈だ。無論、危険要因は完全に排除できない。勝って兜の緒を締めよとの諺は隊員の皆が知っておろうが、連戦連勝であるが故にCEへの警戒を緩める傾向は防ぎ難い。政府の監視や取締が厳しくなろうと、立ち回りを工夫し逃れつつ妨害を企む者や組織に国家は残ってしまうだろう。ならばこそ、己もより情報収集を活発化させねばなるまい。
「英人、英人ぉー、…ねぇ聞いてるアヤトぉー!」
「__ん、何だ姉上そんな大きい声で」
「いやさっきから呼び掛けてたんだけど。明後日作るお菓子の相談してる途中でボォっとしてさー、もしかして寝不足?」
「__嗚呼、自覚はなかったがそうかもしれんな。すまない姉上、確かどの様な菓子を誰に渡すのであったろうか?」
「…コンニャク団子だよ、英人や京子ちゃんが2ヶ月前からカロリーだの糖分だの取り過ぎだの言ってくるからヘルシー系にしてんのに。あげるのはいつも通りお世話になってるみんな。」
「蒟蒻団子だな。では今回もレシピの調査や食材調達に一緒の調理と手伝うとするか。」
「ありがとね。……ねぇ英人?」
「どうした姉上。己の心配なら不要だぞ。体調管理は改める所存だ。菓子作りの時間的・体力的余裕も十分ある。」
「ならいいけど、ってそのことだけじゃなくてね。」
「……弟としてさ、私って、どう思う?」
「姉上に対する認識か?短所から述べるとすれば、ドジで勉強が全般的に苦手で心配掛けさせる所が素行精神何方にも未だ存在する。長所ならば、優しくて人当たりがよく駐屯地の皆から好かれ仲良く付き合い、他者からの期待に応えんと懸命に努力を心掛け、運動と料理が得意で、常勝無敗故の順応があるとはいえ戦場に出向きまた華として振る舞う度胸を有する。総じて駐屯地の環境や対CE戦の継続に於いて、幻想兵器の適性を除いても重要な人物であると己は評価している。」
「………そう。そっか、難しいけど、何だかんだで褒めてくれて、ありがとう。」
「これで良かったか?」
「うん。それじゃ、おやすみ。」
「…やっぱり英人って、まるで…」
「おやすみだ。お互い体調に気をつけようぞ」
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翌日、雲一つ見当たらぬ程の晴天下、刹那と第12対戦車中隊は軽井沢のCEを撃滅すべく出陣した。
己は、毎日恒例の手伝いや通信と秘密裏に協力しての情報収集及び不穏分子の確認、また調理予定と語っていた蒟蒻団子の調理法や材料調達ルート調べを行う予定であった。
__いつも通りの作業、いつも通りの会話。然し其処に異変が生じたのは、昼食を済ませ、食堂の掃除を軽く行ってから通信科の下に着いた、正午過ぎの頃であった。
「失礼する。調子は如何か………、どうした?何かあったのか?」
「…………………」
何やら其処が、重苦しい沈黙で満ちていた。皆の表情も、青褪め信じ難い何かが生じたが如きものであった。中には加えて己に顔向け出来ない、と言わんばかりの面持ちも見られた。
確か本日は刹那の出陣を遠隔撮影する予定であった筈だが___もしや
「___外の姉上に、何かあったのか?」
「「「…!!!???」」」
「__生じたであろう異常事態の中身は、敢えて聞かぬ。それが貴方方に与えた影響は、己には想像出来ぬ。」
「__手伝いに来ただけの部外者に、如何なる権限も公的な責任も有さぬ唯の子どもに、発してよい言葉などないかもしれない。」
「__回りくどい言い方だが、此等を承知で、その上で尚、この天道寺英人に勝手な発言を許して頂きたい。」
「__何を茫然と留まっている貴官ら!!」
「「「!!!???」」」
「想定外への驚愕、絶望、罪悪感。紛れもなく人の心を穿ち、思考も行動も封じる要因であろう。それ自体は恥じずともよい。正常な反応なのだ。」
「だが今は戦時であり、この一帯は最前線だ。ならば予期せぬ事象など有り触れており、自軍を陥れる苦難は刹那の先に立ち塞がるがちで、頼もしき戦友や護るべき民草が先立たれてもおかしくない。」
「そして戦場では、兵士には、
「何より貴官らは自衛官であろう。最前線にて銃砲を放ち死地に見を晒す訳では無いが、それでもこの前線基地に赴任し、通信業務でもって、最前線の兵と銃後の民と祖国に貢献する護国の士だ。内心の動機は様々であれ、覚悟と決意を日の丸の前に誓った筈だ。」
「であらば、貴官らのやるべき事在るべき姿とは何だ?想定外に打ちのめされ絶句されることか?是迄幾度となく生じてきた筈の喪失に悲しみ悔やむことか?精神の切替と臨機応変な対処に動かずじっと俯くことか!」
「改めて述べるが、自衛官たる貴官らに己が宣う話ではないのやもしれぬ。それでも__それでも己は、日の本を民草の盾となり懸命に戦い足掻く様を望んでいるのだ。」
沈黙が数秒間、続いた。
「…………………眞田、本部に報告可能な限りの情報全てを通達。仁村、牧戸、軽井沢にて潜伏と思わしき外国の工作員やカルト等を捕捉し監視。原中、周辺基地に――」
彼等が動き出してくれた。やはり日の本を護るに値する兵達だ。
「………ありがとう、感謝する。心配掛けさせぬべき子どもに叱咤激励してくれたのは、初めてだ」
「自力で立ち上がり戦ってくれたのに、礼など不要だ。人は、理想と決意と切っ掛けで立ち直れることもあるのだから。こんな子どもがその切っ掛けに、少しでも貢献できたなら喜ばしい限りだ。」
邪魔にならぬよう、己は静かに立ち去った。
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駐屯地内を見回ることにしたのだが、どうも現場の情報を入手し易い立場の者程混乱し、把握の遅れる立場の者は困惑の表情で慌てながらも比較的普段通りの動きをしていた。前者の中には、己を見て通信科の一部面々同様の申し訳無さを隠すような態度になった人もいた。疑惑と懸念が益々深まりつつ、己はやがて何時もの出迎え場所に着き、待つことになった。
「「……………」」
出迎えに付き添ってくれる自衛官等の面相、も優れない。暫くすると第12対戦車中隊が帰還した。
先に降りてきたのは、指揮車から、色鐘と保科であった。通信科の面々以上に、絶望と後悔と悲痛、そして己に気づくなり、拳を握り締め歯を食い縛り、何も言えそうもない、と顔で語るような姿になった。戦車から降車した機甲科の隊員も同様であった。
「姉上に何かあったのか?」
「「「…………………そ、れは」」」
「もしや、戦死なされたのではないか?」
「「「…!!!!????」」」
「立派に最期を遂げ、皆のお役に立てたのであろうか?」
その時、疑問符が小さく聞こえたような気がした。
「姉上が、天道寺刹那の戦死は、戦場ではこれまでも、そしてこれからも、十分あり得る事態であった。亡くなられたとしたら大変悲しいことだが、それでも皆無事であったのであらば、せめて姉上もあの世で誇りに思ってくれるかもしれぬ。」
「___己に、唯の弟に、天道寺英人に宣う資格があるかは判らぬ。それでも言わせてほしい。」
「__刹那と共に戦っていただき、刹那を支えていただき、己含め日本の民を護っていただいたそなた等には、誠に感謝も尊敬もしている。己は、姉上の奮闘と犠牲に何れ必ず、報いてみせる。
「__その為にも皆には、余り気に病まず休んでいただきたく願っている。」
頭を一度下げた後、否定の返答がなく、刹那の声も聞こえぬまま己はその場を去った。
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通信科の所に再び訪ねてみれば、先程に比べ幾分か落ち着いたようだ。尤も、多忙な状況故に落ち込む暇もないのが一因でもあるだろうが。
「お忙しい中失礼するが、4点尋ねたい。__天道寺刹那は戦死なされたか?彼女の様子は確認できたか?幻想兵器クラウ・ソラスは回収てきたか?戦闘時の映像は流出されているか?」
「……ああ英人君、見ての通り忙しくて暇ない、けど色々助けられたし既に覚悟してるっぽいから特別よ」
今年初めで新町派遣隊に来た女性自衛官が、有り難いことに疲れを堪えながら話してくれた。
第一に、天道寺刹那の現状は消息不明。胸をCEの光線で撃ち抜かれたので生存は絶望的だが何故か身体も行方知れずとなった。彼等の嘆き悔やみの様子も、遺体さえ持ち帰れなかったことも影響したのだろう。
第二に、彼女の戦闘映像はいつも通りに撮影されていたことが、指揮車を運転していた隊員から伝えられたという。この後持ち帰られた映像データを取り扱うそうだ。
第三に、幻想兵器も刹那身体共々紛失した模様だ。実際の戦場を見ていないから分からぬが、両方ともCEが持ち去ったおそれがある。
第四に、戦闘映像は未だマスコミにもネット上にも渡ってないとのこと。今まで駐屯地から内密に発信してきた映像の基はまだ使われず、マスコミや民間人に外国勢力も通信科からの情報提供と政府の対応により、確認できる限りでは戦場から除かれていた。これで、“幻想兵器使いさえCEには敵わない”という認識が世に少しでも芽生えてしまう危険はある程度抑えられる筈だ。
「……それにしても、英人君。本当に大丈夫なの?無理してない?」
「否、貴官らを含め駐屯地の方々や中央の者達は兎も角、己は無事で、精神的体力的時間的余裕も有り余っているが。」
「そう、なの?だって…あんなに強くて優しくてみんなから愛されてる、そんなお姉さんが…」
「___嗚呼、そうだな。確かに姉上が亡くなられたのは辛く悲しい。」
「だがそもそもだ。積み重ねも強さも人格も、関係なく死ぬのが人間であり戦場なのだぞ。準備、才能、努力、装備、協力、それ等を全て完璧に仕立て上げようが、些細な切っ掛けや躓き、過去の因果や油断に不運で潰えても有り得るのがこの世界だというのに。」
斯く言う己も、そしてヴァルゼライドもそうであった。
運命の歯車に巻き込まれた砂粒、我らが犠牲にしてきた人間、逆襲劇を紡げるだけの力と絆を得た敗者。彼と彼女にとって、少なくとも結果的には必然の展開であったかもしれぬ。だが時間と努力と技術と執念、そして誓いの果てに計画を最終段階まで進めてきた我らにとって、あの時の認識では、突然で不幸で理不尽な脅威と敗北であった。
「それに姉上は、此処の皆の為戦友たちの為、自身と同じ喪失に苦しみ恐れる者の為、ああそれと己の為に、その様な環境へ挑み、CEの恐怖に対し勇気を振り絞って立ち向かい続けてきた。」
「ならばこそ、残された者が為すべきは、天道寺刹那の殉職に嘆き悲しみ祷るべく立ち止まることではない。
「と、いう訳だから、己のことは心配しないでくれ。それより職務を全うし、CEの撃滅と日本の復興へ邁進してくれた方が己にとっても、何より姉上にとっても心の支えとなる。」
「………分かった。お姉さんは私も憧れてたから、ちゃんと彼女の為にも君の為にも、その思いに報いてみせるよ。」
気合を入れた表情で再び仕事に戻った彼女。他の自衛官らも、職務の士気を向上させて加速した様に見えたのは、己の言葉が役立ってくれたから、というのは自惚れだろうか。
「年齢以前に人として恐ろしい程前向きで冷静…いや、それ位が今の日本には…」
__誰かの呟きが耳に入った様な気がしながら、己はその場を後にした。
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その後の駐屯地内は、当にお通夜の如しといった雰囲気であった。誰もが皆意気消沈し、堪えながらも涙を目に浮かべる隊員や職員もよく見受けられた。
まぁ無理もない。戦死したのは階級も職種も環境も関係なく仲良しになり、親切にし合い愛し愛された新町駐屯地の実質的なアイドルだった。しかも世界の何処でも過酷な対CE戦線において、常勝無敗・被害者皆無であり続けたが、それは英雄への絆や信頼に依存を深め、また犠牲への慣れを薄めてきた。その刹那が敗れ、亡骸すら帰って来なかった。皆にとって共通の悲劇であり、大失態だったのだろう。
__アドラー帝国は、宿敵にして国民の大多数から尊敬と憧憬も信頼を集めていた
己への態度も変わった。罪悪感、接し辛さ、気不味さ。たった独りの戦死者遺族でありまだ小学生であり、まだ事情を知らされていないと思われているだろう天道寺英人に対するのだから仕方ないが、正直なところ、煩わしくも感じる。
「……こ、こんばんは…」
「__食事量が前より減っているぞ。よく食べよく身体を保たねば、折角恋仲へと進めそうな新しい友人に心配掛けさせてしまうぞ。」
「…変わらないね。君は。」
「己としては、気遣ってくれるよりも健全に働き健康でいてくれる姿の方が励まされるからな。」
「…………いつも、ありがとう」
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夕食と風呂を済ませて自室に戻った。刹那の荷物を改めて整理し、分析を纏め、床に就いた。
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それより半年振りの、そして恐らく永くなる、独りきりの夜の中で眠った。
感想や評価に質問や指摘など、是非ともお待ちしております。