英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
自衛隊の描写に関する間違いや、読み辛さなどをもし感じ取ったのでしたら、遠慮なく報告して下さい。
旧西暦2026年2月とある晴天の日、天道寺刹那が消息を絶った。
その翌日、ドローンで撮影した映像の中身を、通信科の方々から聞いた。
当初は毎度の投稿動画の如く鮮やかな殲滅戦を映していたが、CEの群れに突入して斬り伏せ続けること数分、突如刹那の動きが止まりその隙を光線で撃ち抜かれたらしい。その際ドローンは、疾走した彼女を追い掛ける形となり、光線が貫通して倒れ伏すまで背後を撮っていた。故に彼女の視界に映るものは不明、彼女が敗れた経緯も調査中ながら未だ不明。
以上が報告の内容であった。情けない話であるが、流石にこれだけでは己にも解らぬ。
確実に言えるのは2点。第一に、天道寺刹那は装備していた幻想兵器と共に消え去り、生死も行方も不明という事実。第二に、“聖剣の英雄”の敗北と喪失による、対CE戦における日本の軍事的・心理的な大打撃。
この末路が表沙汰になれば日本政府は、未成年の少女が最前線で戦いそしてあの末路を辿った責任を大いに問われ、更に幻想兵器と人間の限界を国民に印象付けて士気と幻想兵器の性能を弱らせてしまう、という事態陥るのだ。元々“聖剣の英雄”がネット上における信憑性皆無な匿名の投稿動画だけでしか確認できない非公式の存在なのをいいことに、此度の戦闘動画を封印して情報の一切を明かさぬ方針に決める筈だ。現に、通信科を含め新町駐屯地の全隊員・職員・そして民間人にして遺族たる己に対する厳格な箝口令が敷かれている。
そして“聖剣の英雄”を喪ったことで対CE戦は、攻勢から守勢へと移ってしまった。駐屯地内でも、色鐘は刹那の敗北の検証と捜索を、専門チームを結成し率先して必死に行うも成果無し。影山と保科はショックによるものか、何か研究や作戦と(少なくとも姿勢自体は)前向きな目的の為か、ずっと二人で自室に籠もっている。他の者も、失意故か作業効率を落とす者、憎悪故か過労の心配がある者が生じてきた。通信科は接する限り健全に働けている様であり、己も避難所での経験を活かしつつ、出来る限り奔走し彼等の精神状態改善へと努力しているつもりだ。
「__と、以上が己の把握した限りにおける、例の日から本日迄の他部署の様子だ。接する範囲で貴官らは、無理のないようによく頑張っているだろう。」
「その励ましに感謝します。然しこれは、一番辛い筈の英人が冷静で前向きに振る舞ってくれているお陰でもありますよ。」
「そう言って頂き光栄だ。ところで、この近辺における不穏分子や外国勢力の推移はどの程度かご存知か、聞いてもよいか?」
「流石に詳細は
「まず、嘗て刹那出陣の度に投稿してきた動画の途絶に怪しんだのか、内も外も、直接的にせよ間接的にせよ、数も動きも増大しました。が、現状は君の助けや政府の尽力もあって対応も間に合っています。」
「途絶に怪しんだ、か。色鐘三等陸尉により結成された英雄失踪捜査チームには警務課が、それも
「……今更ながら、恐ろしい程に好都合な人脈を築き上げましたね。此処の人達に仲良くしてきたのも手伝ってきたのも、駐屯地内を動き回ってきたことも手段ですか。」
「交流や助力自体は、本心であり欲求であり責任だ。唯その中で、協力者や情報網も伴って構築してきたのだよ。情報も人脈も、重要な力であるからな。という訳で、貴官ら通信科も己のことを、遠慮なく用いてほしい。」
「…分かりました。引き続き、ご協力お願いします。」
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例の日より5日後。色鐘チームの協力者からの進展情報は無く、代りに
先ずは、籠りっぱなしであった影山と保科が室外に出てきた。保科の方は窶れ疲弊し心を沈ませた状態で、影山は顔色も体つきも不自然な程変わらずされど歪な笑顔と昏く澱み燃える瞳で。単に立ち直ったとも切り替えたとも到底思えぬ様子であり、何らかの切っ掛けが生じたのか怪しまれる。
次に色鐘だが、どうも捜査終了とチーム解散が命じられたらしい。だが奇妙なのは、彼女の性格と立場と刹那への入込み具合を鑑みれば失意や憤慨が滲み出ていようものなのだが、それを塗り潰されたが如く、何処か怖ろしく…或いは悲痛な存在を目の当たりにしたらしき表情を浮かべていた。これは宮田にも共通していたのだが、2人に何があったのか。
___4者の己を見つめた際の瞳も顔も、変化を見せていたのは偶然でなかろう。人脈と情報通信技術を駆使して調べておかねばな。
___斯くして己は各協力者に対し、宮田・色鐘・影山・保科の4名の動向や、愚痴を含めた汎ゆる言動に関する情報提供を可能な範囲で求めた。また、対象から怪しまれぬよう対面や尾行を避けつつ、密かに自分のPCから政府や自衛隊・防衛省の中央へとハッキングし、対象から何らかの報告や提案等が伝えられていないか探ることにした。
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我々、東部方面システム通信群の新町派遣隊は、天道寺英人によるハッキングを含め高度で表沙汰にできない手段を用いて得た情報の提供や、何時の間にやら構築した人脈に基づく他部署隊員の紹介を受けながら、本業の片手間で宮田司令や影山准教授と政府や防衛省の接触について、他課の者、特に私にとってちょっとした事情で関係のある情報科と協力して調べていた。
本来ならば天道寺英人という、“英雄”天道寺刹那の弟であるだけの民間人の子どもに、任務の干渉や要望を許すことなど、規則の面でも大人の立場としてもあってはならない…のだが然し、それでも付き合い続けているのは、あの少年が余りに完成されている態度と、極めて天才的な頭脳、そして正確且つ有用な成果を多大に貢献してくれているからに他ならない。
天道寺姉弟は僅か半年間で、この新町駐屯地に於いて代え難い存在と成っていた。特に、最前線に立ち輝かしく敵を倒す姉は戦闘を担う隊員達や幻想兵器技術を提供した影山准教授に助手の保科から、後方で簡単な手伝いからプロ級の調査まで実行してきた弟は我々の他に不穏分子や不正行為の排除を助けてくれたと警務科や会計科にや需品科等より、信望を向けられるようになった。
……正直な所私は、彼に対しては感謝や信頼だけでなく、警戒心も向けている。
電子機器という道具と簡単な使用法説明さえ与えてやれば、地域や中央の不穏分子を多数、そして正確に探知してのける。通信や情報、経理に規律と後方の安全な運営に於いて重要な立場の人間と協力や情報共有を行い、更に横の連携も自身を中継して秘密裏にやらせる。幾ら仕事のないある意味自由な状態にあるからといって、殆どが大人で構成された駐屯地内にてそんな関係を構築できるものなのか。
それに刹那が、彼の姉が消息を絶ったあの日の態度もそうだ。我々の様子から即座に事態を悟り、元から想定していたが如く理解し大人に喝を入れた。刹那と同行し、彼女を救けられなかった第12対戦車中隊の者から話を聞けば曰く、姉の死はとうに覚悟しておりそして自分達の努力を褒め称えてから休息を促した、とのこと。嗚呼なんて立派で理想的な応対だろうか。遺族に対するこんな物言いなど絶対何処でも口に出す気はないが、全く
それでも我々は、英人を協力者として扱う者達はきっと皆、疑いつつこれからも利用し続ける。何故なら彼は、極めて正しく、真摯で、優秀で、有用だからだ。我々は彼が失敗や悪用をしないよう細心の注意を払う。彼もきっと我々を信頼し手伝う一方で、失敗や悪用又は背信を計らないよう注視している筈だ。
………だからこそ、彼が政府と影山准教授との繋がりに関する機密情報への手掛かりを寄越した際は、驚愕以上に納得を抱き…彼より先に、隊長でもある私のみが情報科と共同で恐る恐る確認した時、咄嗟の判断で必死に発音を堪えながら憤慨した。
「「
それは、自衛隊員としての一線を越えながら発見してしまった名称は、影山明彦発案、と幻想兵器開発者の直筆により記された対CE反攻計画の題であった。
中身を要約すれば、“光剣使いの英雄”天道寺刹那の弟を長野ピラーすら撃滅可能な程の幻想兵器使いに仕立て上げる為の凄まじく非人道的な育成計画だ。
○幻想兵器使いによって巨大で頑丈なピラーを撃滅する場合、人類の認識が性能を左右する仕様上、水面下であるものの既に功績と人気を獲得している天道寺刹那の唯一の血縁たる天道寺英人が役目を受け継ぐ事で、“英雄の弟”としての期待や身内の悲劇を背負う関係性を利用して活躍と人気も継承させる方針が最適。
○天道寺英人に幻想兵器使いとしての科学的適性は、検査により刹那同様高いと判定済み。但し精神的適性、即ち思い込みの激しさについては、凡そ7ヶ月の観察の結果、冷静沈着で成熟し過ぎており刹那程の素質は見られない。
○故に、弟に対しては
○一方で、全国から幻想兵器使いの素質を有する少年少女を募り“学校”にて教育と訓練を施し実戦を担わせる。これによって、天道寺英人が“英雄”に相応しい年齢と精神性に完成する迄のCE被害を抑制すると共に、クラウ・ソラスを見て幻想兵器への評価と警戒を高めた他国に対し、あくまで刹那とクラウ・ソラスが絶大な強さを誇るのであって幻想兵器や幻想兵器使いそのものは然程脅威となり得ない、と認識を改めさせ、妨害工作への意欲を弱める。
○更に学校内には、彼が入学する時期と配属先に限定して護衛兼監視の為の親衛隊を、作為を隠した上で創る。構成員は全て、彼が特別性をより強く思い込ませまた色香でもって行動を制御させ易くすべく、孤児から選別し養成させた美少女とする。
○尚期間について、彼の教育終了と入学は2031年春とし、学校は一般の高等学校に合わせて3年制、開設は彼の入学時に先輩が揃うように合わせて2028年と予定する。但し此等は今後の事情に対応して変更してもよい。
以上があの影山によって政府に提出された訳だが……
「巫山戯るな…外道の所業ではないか…!!」
要するに刹那が最も大切にしていた家族を、我々大人や自衛隊が護るべき一民間人の子どもを、駐屯地で共に過ごし助けてくれた聡明な戦友を、白痴で幼稚な
反吐が出そうなのは、案の文章も内容も理知整然とした合理性を感じられることであり、裏方とはいえ表でも裏でもCEと戦ってきた身として、倫理性を無視した純軍事的思考に基づけば反論し辛いことだ。
然しこれを容認してしまえば私は人として…いやだとしても既に提出された案に対し今更どうするリークでもして自分や家族の人生も自衛隊や政府の戦いも壊してしまうことに…だがそんなもの計画の一番の被害者たる英人には何の言い訳にもならなくて…
と今気がついてしまったが、英人は此処にまだ居たのだ。もし知ってしまったらと横を向き、椅子から立つ姿が見え………
人生で最も恐ろしい気持ちになったのは、私だけだろうか。
「__ふっ、フハハハハ!ハハハハハハ!まさか、
わらう笑う嗤うワラウ
「__なぁ、貴官ら、己は
「「「!!!???」」」
当然ながら誰もが驚愕した。自分の自由も、知性も、未来も台無しにしてCEと戦うだけの
「ま、待ちなさい英人君、幾ら君が国と民に尽くしたいと日頃語っていたとはいえ、こんな人道と原則に反しまくった考えに乗らずとも__」
「嗚呼、心配せずとも良い皆よ。狼狽する気持ちは察せられるが、一先ず己の話を聞いてほしい。」
焦り身を案ずる警務官に、自然体で応える英人。取り敢えず全員黙ることにしたが、語られたのは耳を疑う様な魂胆と提案だった。
「例の計画だが、己は
「そして己としては、既に把握した以上、只この計画に流され動くだけなど性に合わん。然し残念ながら、今の己は幻想兵器についてもCEについても無知に近しい。加えて貴官らやこの基地を侮辱する意図は無いのだが、己の協力者も情報網もまるで微小で不足だ。」
「故に、これより己は更なる人脈と情報網の拡大、CE等の分析、そして日本を救う為の
「己の、天道寺英人という誇大妄想家な童の、
沈黙に満たされること、凡そ1分。それが覚悟に費やされる時間だった。
「……条件がある。第一に、私は天道寺英人を
「了承しよう。今の己にとって配下など分不相応。決して見下しこき使う真似はしない。」
「第二に、私は
「当然だ。己は骨肉の一片に至るまで日本国と国民の幸福に尽くす。信念を蔑ろにした際に切り捨ててくれるならば寧ろ本望だ。だが解っているな、その誓いは自分自身にも帰ってくることを。此方から契約不履行が見られたなら__」
「その時は仕方ない。元々お前のお陰で昇進も昇給もできた身だ。家族の危機の場合は遵守する自信はないが…」
「それなら構わぬ。貴官の家族も護るべき大和の民草。己の方も可能な限り保護に努めよう。」
「ありがとう。それなら……
大言壮語にも程がある。どう対処し、あれ以上の計画を建てて遂行させるかも分からない。何よりこんな契約、自衛隊員としては失格な行為だろう。
それでも、天道寺英人ならばやってのけてみせる。傀儡の英雄でなく、本物の英雄として不可能も可能にしてくれる。人間とは思えぬ頭脳と本質で、影山明彦も日本政府も越えて日本を救えてしまえる。
きっと、そう皆思ったから次々に全員が、
>――――――――――――――――――<
あの場を後にした己は、食堂へと向かいながら[
影山がどの程度幻想兵器やCEについて理解できているかは不明だが、現時点での評価は
何せCEの被害により日本は徐々にではあるが軍事経済人心共に追い詰められているのだ。早急に、なるべく少ない犠牲で解決せねばなるまい。それに発見や発明というものは、遅かれ早かれ何処かで誰かが果たすものなのだ。第二の影山明彦が、触発された第二の幻想兵器独自開発が、或いは幻想兵器以外の新たな軍事技術が何れ他国で生じる可能性は大いにある。ならばこそ、折角真っ先に生み出せた日本が解決し、功績を世界中に示さねば他国に先を行かれ、復興による優位も国際的な立場の確立も遅れてしまう。
よって、
第一、第5次世界大戦でも新西暦での聖戦でも、大和に覇権と繁栄を齎すべく創られながら成し遂げられずにいた己にとって、日本を救える
とはいえ、先程
おお大和よ、必ずや己が、本来の計画にて想定される以上の成果を挙げて、この地についた日ノ本へと、勝利の栄光を捧げようぞ!
感想や質問に指摘など、ドンドン募集しております。
因みに英人君、最後に天秤に掛けるまでもないと心中で述べていますが、それは対象が自分自身だからでしかないからです。もし仮に、“自分以外の日本人”が代償となっていれば、嘗てのヴァルゼライドが如く葛藤することになります。
尤も、そのヴァルゼライドがどの様な決断を下したかというと……ですが。