英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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  遂に第2章にして、原作の「第1話 出会い」へ突入しました。

 この話から登場する某原作メインキャラクターの本名につきましては、〘笹木さくまのファン〙というハーメルン作者の方から、許可をいただいた上で自作に於いても使わせてもらっております。
 この前書き欄にて、感謝をお伝えします。


第二章〜戯曲を簒奪せし人造天孫〜Puppet show usurped by the hero ✧
第13話 伝説の黎明と運命の対面


  正面の男は、金髪碧眼の白人だった。厳つくも美しい顔立ちだが、この新西暦に於いて素質と身分の証たる日系の要素を微塵も宿さぬ外見である。

 その漢は、複数の軍刀と士官用外套を纏った偉丈夫だった。前線での武功を名目に慣れない文官仕事と飼殺しを強いられたにも関わらず、勤勉且つ実直な働きぶりで役人にも感化された者が徐々に生じている。

 事前に知らされなかった招致の訳を問うた()()からは、灼熱の業火の如き情念、傷も錆も無き鋼鉄の如き意志、万人を魅了する黄金の如き覇気が感じ取れた。

 

「__そう、己が貴様を呼び寄せたのだよ。クリストファー・ヴァルゼライド。」

 

 暗い鋼の地下室、液体に満ちたカプセル内へ掛かった声、無自覚の内に見惚れた想いがチューブで繋がれたボロボロの胸の奥底に芽生えたことなど知らずにそう返答した。

 

「見ての通りこの場を動けずとも、その程度なら己にとって造作ない。地上の動きを見守り、我が意思を代行しうる候補者を選び出すこともまた。そして、それは遂に見つかった。お前はまさしく英雄(かいぶつ)だ。その傑出した才と力によって1つ手を貸してほしい。」

 

「__候補者?代行だと?」

 

「嗚呼、代行者だ。この壊れた世界を大和が制覇した地球(在るべき姿)に修復する大業のな。」

 

 正義と未来と祖国と勝利、其れ等を追求せし光の属性。故に相手の語気と眼差しに共感しながら、己が使命を__天上に追放された大和と民草をこの中津国(地球上)の覇王として迎え入れる決意を語った。

 

「己ではなく、主のために?」

 

「そう、信じるべき未来の為に。その暁には地上に遍く一切合切、大和(カミ)の支配へ捧げるのみ。総てを膝下に組み敷こう。この迦具土神がそれを成す。」

 

 告げた返しに嘘偽りは欠片もない。それを感じ取ったのであろう様子で、奴は__

 

「いいや、勝つのは人間(おれ)だ。そこは譲れん。復活せし大和(カミ)の技術的遺産、その総ては我が帝国アドラーが独占させてもらうとしよう。この国、そして民こそが、クリストファー・ヴァルゼライドの血と骨故に。貴様こそ、服従するなら覇権国アドラー(世界)に居場所を与えてやるが?」

 

 馬鹿馬鹿しい法螺話だと疑わず、取るに足らぬオンボロ人形だと侮らず、唯平伏すのみな絶対的脅威だと怯えず、国の為民の為人の為にと、虚勢の欠片もない宣戦布告を一歩も引かず言い放った。

 

「迦具土神様……迦具土神様……」

 

「__面白い。」

 

「起きて下さい……もう時間ですよ……」

 

 此れこそが運命、使命実現のみが我が存在意義にして唯一無二の幸福という己の在り方を変えてくれた感謝を述べた方がよいのかもしれぬが__そんな心境を知らぬが故に、そして今は()()()()としても()()としても目覚めることを優先せねばならぬが故に___

 

 ?待て、何故その2つの名を否それどころではないとの声が___

 

「ハッッッッ!!??___夢であったか。__お早う。そうだ、起こしにきてくれたのに済まない。時間はまだ大丈夫か?」

 

「え、あはい。問題ありません。」

 

 この家最後となる朝は、夢見に浸る()()()()或いは()()()()()を、義母或いは同志によって目覚めさせて頂く、という斯様に申し訳ない形で始まった。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

  己は登校前の最後の仕事として、朝食を手に持ち食べながら、PCで各地から此方に寄せられた情報を整理しつつ今後の活動の指示を送っている。

 

「迦具土神、荷物の準備が整いました。出発予定時刻が迫ってきておりますので、そろそろ切り上げるべきかと。」

 

「承知した。此方ももう終わる。___これで良し、と。では征くか、()()()()()()。」

 

 この機関拠点(我が家)での業務は片付いた。今後の活動は、特高内にて秘密裏に用意した機関専用の設備で行うことになる。

 

「そっか、やり残したことはもうないか?何か忘れてるかも、てのも大丈夫か?」

 

「そうであるな__いや、問題ない。」

 

「わかったわ。……ところで、最後の朝食があんな安さと栄養しか取り柄のない代物で本当にいいの?」

 

「嗚呼。寧ろ己にとって人生一番のお気に入りだ。安価で容易確保でき保存も効く。作業しながら簡単に食べられる。栄養も固さも十分で健康保持にも適している。教えた経費・仕入経路の誤魔化し方を御義両親が実施してくれたお陰で助かった。」

 

「そ、そうか……義父さん義母さんは普通の食事のままでいいって言ってたけど、アレで喜んでくれて嬉しいよ。天道寺家の家庭料理とか陸自の飯とか初期の高級料理とかよりあんな食えるだけの品が好みって……

 

「さて、と。行程としては、玄関前にて待機する同志の車に乗車し、群馬県前橋市内の駅で降車。その後□番のバス停に向かい、特高行きの特別バスへと他の入学予定者に紛れる形で乗り込む。であったな。」

 

「ええ。()()()()()()()の伝説の幕開けは特高に着いてから。それまでは余り目立たない位が丁度良いの。英人もその筋書きで了承したでしょ。」

 

「応とも。目立たぬよう気をつけるさ。」

 

 既に己の荷物が運ばれた家の前の自動車に乗るべく、玄関に着いた。出発に向け扉に手を伸ばし__一度引っ込め振り向いた。

 

「嗚呼そうだ。最後に伝えることがあった。__今から話すのは朝日夫妻の義息子としてであり、同時に迦具土神としての別れの言葉でもある。」

 

「「??」」

 

「__新町駐屯地にお二方が来訪してから6年間。初めはお互い事情を隠し、目的の為に騙し合いながら挨拶して、この家に移って、家族の如く暮らしてきた。」

 

 姿勢を正しつつ、真面目な表情で沈黙する()()()()()

 

「半月が迫った頃、2人に自ら調べた秘密や己が目的を告白し、迦具土神機関へと引き込もうとした。」

 

 あの時を思い浮かべているのか、複雑な顔を見せる()()()

 

「最終的に同意してくれて、今となっては元の立場よりも己の指示を忠実に遂行してくれる様になり、どす黒い謀略さえも支えてくれた。利は事前に示したものの、それでも従って頂いたお陰で、己は至極助かった。」

 

 過大評価とでも言いたげな様子になった()()()()()

 

「出逢いも日常も裏側も、何もかもが異常極まりない6年間であったが__己は、()()()()()としては、()()()()にとっては__」

 

 息抜きを兼ねて3人で週単位の掃除をしてきた廊下や階段。生活も陰謀も余すところなく24時間撮り続けてきた隠しカメラ。玄関から見えぬだけで、2千日以上も過ごし用いてきた空間や設備に機材。駐屯地でも同じ想いを懐いたが、全く己は何時こんな()()になったのだ?

 

「お二方が教育係に選ばれてくれて、御義両親として迎え入れてくれて、同志として働いてくれて、心から感謝している。」

 

 当人方が両方とも感極まっている様なのは、如何なる立場としてのものか___何だって構わない。何故ならそれ等総ての貌は、どれも本人を表すペルソナなのだから。

 

「故に誓おう。己は必ずや瓊瓊杵維新を成功させ、[機械仕掛けの英雄]もピラーも他国も乗り越え、この日本に勝利を、お二方とその家族も含め国民に安寧と繁栄を齎してみせる。この第三の我が家で暮らした毎日も企てた陰謀も、決して無駄にはしまい!我等機関は、輝かしき未来を照らし出すことになろう!その日が来る迄、暫しいってくるぞ!!」

 

「「こ、此方こそ、この6年間も貴方のことも、決して忘れません!!私達も、貴方の様に、貴方の義親としても同志としても恥じることのないよう!!国の為民の為、それに家族の為にと、汚れを厭わず苦難に負けず一生懸命生き抜いてみせますので、どうかご心配なくいってらっしゃい!!!!」」

 

 告げた別れに涙はなく、あってもそれは唯の錯覚だ。出向く側も見送る側も、笑顔を保つが理想形。英雄とは決意を胸に、試練と栄光の荒れ道へと雄々しく旅立つものだと相場で決まっているのだから。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「全く、車の中から扉も門も越えて聞こえてたってのに、あの時の感動を没収するって横暴が過ぎますよ迦具土神様はぁ!」

 

「面目ない。御義両親が折角誓って頂いたというのに己があの一家の、そして機関の恥になってしまうとは。」

 

 我ながら、雄々しさの欠片もない醜態に付き合ってもらいながら、己は特高行の()()()に乗っている。

 何故こうなったかというとだ。無事駅に着いて降りた、所迄はよかったものの、偶々困ってる民間人を見掛けて、時間の猶予ありと独断で協力することにした結果__

 

「ウロウロして時間無駄にし、特高側から見張りとして配属された同志達が態々機転効かせてバレないよう手伝ってあげたってのに、結局予定時刻に合わせて出発したバスに乗り遅れ、待機してた私へと連絡来たからこんな両方の計画にない対応する羽目になったのですがねぇ。」

 

「本当に、そなたにもあの場の同志達にも迷惑を掛けてしまい、大変申し訳無い。あの人の問題が直ぐに解決するとの見込みの甘さ、そして計画外の勝手な行動、そのせいでこの様だ。」

 

「やれやれ、見過ごせなかったのは英雄らしいエピソードになりますし、滅私奉公を謳う迦具土神様の性格の信頼性を保障してくれたのでいいとして、せめて駅員なり警察官なりに任せておくべきでしょうに。」

 

「今になって反省も後悔もしているさ。瓊瓊杵維新の要は“[機械仕掛けの英雄]の台本をある程度なぞり振る舞うこと”にある。にも拘わらず、初日に遅刻で狂わせてしまうなどあってはならぬ、というのに。」

 

「……私は、()()()()()()()に対しては大義や目的を最優先する冷酷無比で合理的な怪物だと認識しておりました。計画に支障を及ぼしかねないアドリブで人助けする様な()()だったのは意外ですよ。」

 

「__そうか、己にとっても振り返れば驚きの対応だったのだ。見立ては間違っていない、筈なのだがな。__何時の間にか心も()()らしくなってきたのだろうか?

 

「?何か言いました?それよりもう直ぐ着きますよ。」

 

「嗚呼いや何でもない。到着したら生徒や教職員には己の方で誤魔化す。そして同志達には__」

 

政府()に対し、“()()の副作用で我儘な勝手しでかしたので特高に遅刻せぬよう急遽乗せて運んだ”と口裏合わせて説明しておきます。……色々無礼を働いてしまいましたが、迦具土神様のことはそれでも信用しております故。」

 

「此方こそ、臆せぬ真っ当な叱責を頂けたこと、大変有難くまた同志達を誇らしく思っている。では頼んだぞ。大和万歳。」

 

「ご武運をお祈りします。大和万歳。」

 

 斯くして降り立ったのは、高い壁に囲まれた広大な特高の敷地。嘗ての戦禍の傷跡を均した、茶色の乾いた大地の続く殺風景な光景。その中心に建てられし無骨で角ばった構造物こそ特高の校舎、幻想兵器でもって護国に務め上げてきた勇敢なる若人達の住まう基地だ。己の記憶に照らし合わせてみれば、以前確認した設計図や衛星写真通りらしい。

 さて前方には己の乗り遅れた特高行バス、乗車していた入学予定者は大方降りた模様だ。横を廻り校門へと向かうことにしたが、確か[機械仕掛けの英雄]台本では到着直後のイベントとして__

 

 と校門方面から此方に駆け寄ってきたのは、1人の美少女であった。

 薄い桜色に染めたツインテールの長髪。長く伸びた四肢と引き締まった腰を活発そうに動かし、また大きく膨らんだ胸を揺らし、全身から香るような色気を醸し出しつつ向かって来た。無邪気さを上手く()()()笑顔は、何処か小学生時代に見慣れた面影に()()()()()()()様に見えた。

 そう、己と運命の再会を果たすべく校門にて予定以上に待たせてしまったその女子は__

 

「おや、お早う。貴女も同じく特高の生徒__」

 

「何よ久しぶりに出逢えたのにその他人行儀は!?分からない?音姫よ、千影沢音姫(ちかげさわおとめ)!」

 

「何とそうであったか、よもや斯様な地で音姫と再会できるとは驚いたが、元気そうで何よりだ!」

 

「うん、ずっと会いたかったよ英人!」

 

本名()()()()

 実際は、嘗て親族全員をCEに殺された孤児。救助後児童養護施設に預けられた後、影山明彦率いる“天道寺英人”用の親衛隊養成グループが引き込んできた。其処で4年に渡る教練や、幻想兵器使いと親衛隊双方の資格両立という過酷な教育プログラムを潜り抜けてた末に()()()()()()()()()()()()()()役を充てがわれた、というのが彼女の真の経歴であったな。

 

 そんな彼女は、己目掛けて勢い良く飛びつき__

 

「おっと、突然勝手に手を握ってしまって済まない。姉上程ではないがおっちょこちょいなのは相変わらずだな。怪我はないか音姫?」

 

「……え?あ、うん。大丈夫………ってちちちょっと恥ずかしいってこの格好!!」

 

 音姫(月夜)の抱きつこうとする動作に合わせ瞬時に我が身を逸らし、なるべく相手に直接当たらずに躓かせようと足を動かし、互いの立ち位置を反転させ両手を掴む。結果2人の体勢は、まるで転びそうになった女と彼女を咄嗟に支えた男の構図だと周囲に認識されるように変化した。

 叡智宝瓶(アクエリアス)*1に所属し星辰体運用技術発展へと貢献してくれた研究者としても技術者としても武芸者としても最高峰な男、彼より生み出された武才と技巧に秀でしとある魔星、そして時折打算と好意を秘めて迫ってきた女性の対応に苦慮してきた宿敵。彼等の体捌きは実に参考となった。

 

「悪かったな音姫よ。ほれ立てるか?嗚呼それと、態々己を待ってくれたのは有り難いが、そろそろ校舎に入らねば最悪遅刻扱いされかねんから行くぞ。」

 

「は、あー、……ってちょっと英人待ちなさーい!折角この私と再会できたのに呆気なさ過ぎるわよー!!」

 

 月夜殿、綿密に備えてきたであろうが、台本通りの抱擁と接吻に応じてやれず申し訳ない。

 ()()とは、高潔にして孤高たるべし。理想的な偶像(アイドル)は恋愛も発情もせずに輝き続ける者、と俗に言う様に、己は万人の信を背に祖国を勝利へ導くあの英雄に至るべく、せめて色恋面だけでも清らかで在りたいのだ。

 それに、たとえ任務であろうと(人外)如きに唇を捧げて穢しては、戦後の彼女の人生が憐れというもの。元より備えし美貌と、磨き抜いた魅了の術と、今だ揺るがぬ芯の強さがあれば、何れ己より遥かに相応しき()()と出逢え恋し結ばれる筈だ。この場では謝罪も弁解も行えぬが、そなたも真の名で斯様な未来を平穏に享受できるよう、大和をお救い致す故暫し辛抱してもらいたい。

 

 と、校門に足を進めつつ、怒った素振りを演じる月夜の背後に目を向ければ、バスの出入口付近で呆気にとられる様子の、同い年の男子が2名いた。

 

 片方は遠藤映助(えんどうえいすけ)。愛媛県出身で、家族は借金を抱えているが、仲は良好らしい。

 もう片方は空知宗次(そらちそうじ)。群馬県出身で、実家は何と空壱流槍術(くういちりゅうそうじゅつ)なる古武術の道場だという。___興味を惹かれるな。

 

 果てさてこの機械仕掛けの運命は如何様に紡がれるのやら、と笑顔で校門に足を運ぶ。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

  言葉も素振りもなく、あったのは目線だけという、後世に遺る偉大な伝説と比べれば余りに詰まらぬ邂逅だった。

 尤も、案外運命の出逢いとやらは、斯様な形式の方が多数なのかもしれぬ。

 

 

*1
アドラー帝国第十一研究部隊の名称であり、科学研究や技術開発を担う部署。その中には、己と繋がりヴァルゼライドも協力した上で、人体実験や死体の取扱い等非人道的でもあるが故に隠されている所謂暗部も存在する。




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 因みに高1時点における本作英人の外見イメージとしては、天道寺刹那*1を男性化し大人びた雰囲気にした姿をベースに、『シルヴァリオヴェンデッタ』のカグツチ復活状態を少年期に戻して筋肉を一般DK位に迄削ぎ落とした姿の面影が感じられる、といった想定です。
 簡単に言ってしまえば、威厳と風格と覇気を漂わせた絶世の美少年ですね。

 また、英人は刹那と一緒にいる間しっかり者の弟として振る舞っておりますが、その分前世の天然ぶりが発露されずに済んでいます。
 カグツチの天然な一面については、『シルヴァリオヴェンデッタ』の特典ドラマCDの内2枚を是非参照して下さい。※作者の勝手な宣伝です。

*1
小説家になろう版原作の125話目『おまけイラスト』を参照して下さい。

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