英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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  今話は、原作2〜6話目分の英人視点となります。

 この時点での英人の身体能力は一般的な男子高校生並となります。
 理由は、周辺毎迦具土神機関本部同然に化したとはいえ、本来外出を許されぬ身分なせいで、6年間も家の外で運動できず閉じ籠もった生活を送ってきたからですね。英人自身は、肉体の成長を疎かにできる性分ではないので鍛錬こそしていました。唯彼は一方で、機関の活動を最優先しており多忙な状態にありました。加えて“機械仕掛けの英雄”が身体能力を強化する際に、運動や鍛錬は不要どころか精神面での問題から邪魔になる、という事情があるので、(本人の感性としては)然程努力と時間のリソースを注がずともよい分野になっていました。


第14話 二度目の初戦と挑戦譚

 

 

  再会した幼馴染(演技上手な親衛隊員)と並んで、いよいよ校舎に入ってみれば、手抜き工事の痕跡の一切見られぬ施工内容通りの要塞だと確認できた。

 

「新入生の皆さん、まずは上履きに履き替え、教師の指示に従って地下に向かって下さい!」

 

 背広姿で教員の如く新入生を誘導する、△△駐屯地から派遣された1等陸士に挨拶し、昇降口にて専用の靴を頂き履き替え地下階へと向かう。無骨なコンクリートの通路に金属の扉が並ぶ、少々懐かしい雰囲気の道を歩いて、案内された部屋に入室する。コンクリートが剥き出しの壁に囲まれた室内でパイプ椅子に座ると、月夜*1が話しかけてきた。

 

「ねぇ英人、楽しみだよね。これから私達ACE(エース)隊で、刹那お姉さんみたいな英雄になれるんだよ?なんか興奮しちゃう!」

 

 自分や己と共に華々しく活躍する学園生活を送るのだ、と印象付けてくる台詞に対し、本音も交えて同調しておく。

 

「そうか、己も実は少々浮き上がっているのだ。何れヴァルゼライドが如き存在(ピラーを倒せる英雄)に至る機会が到来した、とな。お互い頑張ろうではないか音姫。」

 

 その返しに、多少驚いた様子を抑えつつ同意する月夜。さて正面に向き直っていると__

 

「えぇ、大体そんな感じよ。」

 

 聞き覚えのある成人女性の声がした。その声の主は、席に着き待機中の新入生総勢150名の前に登場し、自己紹介を行った。

 

「皆さん、特高にようこそ。私はここの研究員と養護教諭をしている保科京子よ。」

 

 嘗て影山の助手として新町駐屯地に住み込み、刹那に最も近く接してきた女性の一人。そして[機械仕掛けの英雄]立案に携わった当時の大学院生は、事前情報通りの肩書となり、特高の説明を開始した。

 

「対クリスタル・エネミー特殊隊員養成高等学校の名前通り、本校はCEから日本を守る為の隊員を育てる学校よ。そして……皆さんは対CE隊員[Anti Crystal Enemy]、略して[ACE]の隊員となる素質に恵まれた、約五千人に一人の選ばれた逸材なのです!」

 

 少年少女らへの賞賛を込めた宣言により、胸を張って鼻を高くする多数の新入生。中には彼等同様の態度を演じる者や、困惑した表情を浮かべる者もいるが。

 

「CEの登場により、我々人類は深い傷を負ってしまいました。ですが、引き換えに発見された物があります。それが[幻子(ファ ントム・マター)] であり、幻子を用いた新たなる武器[幻想兵器(ファンタズム・ウェポン)なのよ!」

 

 保科の話は、6年前だと一切が最重要軍事機密として扱われ、使い手の戦闘についても何一つ公表されなかった幻想兵器にまつわるものだ。されど2031年春時点では、素材や強化原理等引き続き機密情報とされている部分が多いものの、市井の小中学生でも存在自体は周知となっている。

 既に公開の解禁された語句を聞いて、興奮でどよめく新入生の期待に、慣れた様子で応じて進行する。

 

「みんな、早く手にしたいって顔をしているわね。ではリクエストに応じましょうか。」

 

 保科の声に合わせて部屋の扉が開き、メタリックな輝きを放つ黒い大きな腕輪が教師達の押す台車に積まれ、衆目に晒される。

 

「これは[幻想変換器(ファンタズム・コンバーター)]。幻想兵器を生み出す装置であり、貴方達の身を守る盾にもなってくれる、エース隊員の証よ。」

 

 保科は運んできた教師達と共に、幻想変換器を生徒に配っていく。

 

「これがあのコンバーターか!」

 

「凄え、超格好いい!」

 

 標準的な武器装備としてよりも、アニメキャラクターやスポーツ選手や芸能人が用いている憧れのアイテムの様に感じているのか、はしゃいで受け取る新入生。保科は優しく微笑みながら説明を続ける。

 

「受け取ったら利き腕にはめてね。ただし、ロックがかけてあるから幻想兵器は出せないわよ!」

 

「「「え〜っ!!!」」」

 

「慌てないの。直ぐに使わせてあげるけど、一人ずつデータを取りながらね。そういうわけで、一番前の席に座っている子達は私について来て。」

 

 保科は手招きして部屋から出て、最前列の生徒十数人を幻想兵器の種別判定へと誘導していく。

 

「英人、これがコンバーターなんだね!どんな武器になるんだろ!」

 

「一先ず我らは4列目だから、まだ少々掛かるであろうな。それにしてもこれが姉上も装備していた__」

 

 幻想変換器、CEの核を中心として製造された、9mm拳銃未満の重量を誇る武器。確か腕輪型の他にベルト型が、刹那の要望から開発されるも彼女の死により量産化は為されず一機のみだったな。

 

「やっぱり刹那お姉さんみたいな輝く両手剣とか?華やかでカッコいいし。英人ならきっと受け継いで選ばれると思うんだ。」

 

「両手剣か、何れにせよ己も待ち遠しいさ。」

 

 出来れば無手で核融合を発生させられる能力が望ましい、などとは口に出さず私語で時間を潰す。インターネットに触れる機会もないとの雑談を交わしているのが聞こえた前列が呼ばれ、そして4列目の番となった。

 

「4列目に座っている子達、ついて来て下さい。」

 

「「「はい!!!」」」

 

 皆緊張した面持ちで立ち上がり、呼びに来た教師の後を追う。案内された部屋の中は、コンクリート壁の殺風景という先程の部屋と同じ造りであったが、此方は壁の片面がガラス張りになっていた。その向こうでは保科をはじめ、白衣の学者達が忙しく機械を操作しており__硝子管(フラスコ)内から眺めていた景色を連想し、郷愁に少々浸りつつ順番を待つ。

 

「次の子、 前に出て。」

 

「はい。」

 

 己の番となり、部屋の中央に歩み出て、右腕を前に伸ばし変換器へと告げる。

 

武装化(アームド)ッ!」

 

 その瞬間、幻想変換器から光が発生し、己の掌に集い、一つの形へ成してゆく。出来上がった己の新たなる武器は__

 

「ほう、西洋風の両手剣か。随分華美な装飾であるな。」

 

「綺麗ね、貴方の武器の由来を調べてみるわ。......凄い、アーサー王伝説のエクスカリバーよ!大当たりじゃないかしら!!」

 

 敢えて他人行儀を取りながら驚く保科と、ざわめきだした科学者達。 概ね天道寺英人が、[機械仕掛けの英雄]に相応しい武器に選ばれた事への歓喜と、最初の試練を合格した達成感を感じているのだろう。

 

「成程それは良かった!__唯、一先ず興奮を1人で噛み締めたいので、下がっても宜しいか?」

 

「ええ。それと、幻想兵器を消すには変換器の横に付いているボタンを3回押せばいいわ。」

 

「了解した。保科先生。」

 

 と下がり、月夜に交代した。さて、彼女はどの様な兵器となるのやら。

 

「貴女は......ダーインスレイブ、北欧神話の魔剣よ。」

 

()()()()()()()だと?」

 

「え、英人?この赤黒く輝いてる剣がどうかしたの?」

 

 前世ぶりに久しく聞いたその名は、中央にまで轟く程悪名高き強欲竜団(ファブニル)*2の首領の苗字。それと同名の武器を、親衛隊の1人が発現させた事態に声が出てしまうも__

 

「いや、何でもない。唯音姫の剣の外観も、魔剣という響きも格好良いものだと感心してつい、な。」

 

「そ、そうかなー!英人のエクスカリバーに比べたら全然だよー!」

 

「はいはい、イチャイチャするのは後にして下がってね。」

 

 彼女が実は、己の死後に没して月夜に生まれ変わったその男本人だ、とでもない限り単なる偶然だろう。そもそも其奴の自称する名は、姓名とその組み合わせからして自身が新たに作った名称である可能性が高いのだ。恐らく彼の名前の引用元が北欧神話であり、偶々月夜の由来と被ったと想像される。無論、月夜にも前世が存在する可能性は、天道寺英人(カグツチ)という前例が存在する以上切り捨てられんが故、注視はすべきであるが。

 

 その疑念を胸の奥へと秘めながら、我らは校舎外のグラウンドへ出て待たされることに なった。

 

「おい、それマジかよ?」

 

「本当だって、あいつきっと天道寺さんの弟だよ。」

 

 ふと、男子の声が聞こえてきた。天道寺刹那の家族構成は世間にも公表されており、また容姿も似ていることや、「刹那お姉さん」と月夜の言葉から察した者がある程度いるようだな。尤も己に対する視線は血縁への認識 のみならず、一部に美少女を侍らせる美少年への嫉妬も感じ取れるが。

 

 さて全員の起動テストが終了したのか、教師陣がグラウンドにやって来た。そして保科が呼び掛けたのは__

 

「皆さん、幻想変換器の起動テストの成功おめでとう。続いて幻想兵器の稼働テストを行います。……実戦形式でね!」

 

「「「えぇっ!!!???」」」

 

「安心して、ちゃんと怪我がないよう、変換器から幻子装甲(ファントム・アーマー)が発生しているの。気づいてないだろうけど、皆はもう装甲車より硬くなっているのよ。」

 

「ホント!?試してみていい?」

 

「こちらこそ。___ほう、叩き合ってもお互い肉体に当たらず弾かれるな」

 

「実感できたかしら? その強固な鎧と幻想兵器という剣があるからこそ、エースはCEと戦える最強の兵士なのよ。幻子装甲は貴方達の幻子干渉能力… 分かりやすく言うとMPね、これが切れると使えなくなるけど、それまではほぼ全ての攻撃を防いでくれるし、切れる前には警告音が鳴るから、幻想兵器で斬り合っても安全に試合ができるわけ。それに、皆も折角手に入れた幻想兵器だも の、一度はちゃんと使っておきたいでしょ?」

 

 安心した様子の新入生達を前に、入学祝いを兼ねた稼働テストへの準備を促す保科。

 

「では、相手が決まった人から前に出てきてね。」

 

 彼女は開始の合図に両手を叩き、2人組を作って訪れた新入生に対応する。

 

「なんかすっごくワクワクするね!とうとう幻想兵器を使えるなんて。」

 

「嗚呼そうだな。では早速__」

 

 台本通りに月夜と組んで戦い、最初の勝利を掴む所まで持っていく、とのつもりであった己の下に足音が迫ってきた。

 

「天道寺英人君、で合っているか?」

 

 その声は空知宗次。3列目にいて、出身地の情報通信環境を卑下する思いなく述べていた男であった。

 

「嗚呼。それがどうかしたのか?」

 

「俺と試合をしてくれないか?」

 

 やはり、至近距離で見れば十分理解できる。空知宗次、そなたは___

 

「よかろう。此方こそ手合わせ願い申し上げる。」

 

 真っ直ぐな瞳に宿る闘志に応じ、アドリブ展開を開始する

 

「ちょっと英人!?貴方の相手は私よ!」

 

「すまない音姫。何しろ先に求められたのは、この空知殿なのだ。また次の機会に勝負しようではないか。」

 

 勝手ながら申し訳ない、月夜。今の己にとっては、彼の方に関心が向いているのだ。

 よって我等2人は保科の下へ向かい、申請した。

 

「先生、俺達にも試合をさせてくれ。」

 

「了解よ、天道寺英人君と……へぇー、君がね。」

 

 保科は空知の顔を見て一瞬驚くも、直ぐ真顔に戻って隣の教師を呼んだ。

 

「木村先生、この子達の試合をちょっと見て貰えますか?」

 

「はい、任せて下さい。」

 

 木村はにこやかな笑顔を浮かべながら、グラウンドの中央へと我等を招いた。

 

「聞いた、彼って天道寺刹那の弟なんだって!」

 

「マジで!?これは見逃せないわね。」

 

 刹那の弟が試合を行う、とあって周囲の新入生が盛り上がり、教師達も注目する中で、空知の名を呼ぶ者は唯一人だけだった。

 

「宗次、そのいけ好かないスケコマシなんぞ、ボコボコにしたれ!」

 

 バスから降車後に隣にいて、先程の空知との会話相手でもあった遠藤映助。己への僻みが混じりこそすれど、空知への純粋な励ましを乗せた応援を叫んでいる。

 

「あぁ、頑張るよ。」

 

 手を振りながら返事をする礼儀正しい対戦相手。再び正面へと向き直してから、己と同時に起動の合言葉を発する。

 

「「武装化っ!!」」

 

 彼の顕現させた幻想兵器は、槍であった。唯でさえ平均より上である持ち手の身長の2倍を超える長い柄、笹の葉を思わせる広く鋭い穂先、武骨でシンプルな外見のそれを構えている。

 

「空知殿、試合前にその槍の名を教えてくれぬか?因みに己の剣の銘はエクスカリバーだが。」

 

「先に教えてくれて有難う。名は蜻蛉切(とんぼきり)。戦国武将、本田忠勝の愛用の武具だ。」

 

「ほう、かの偉大なる徳川家康公の高名な家臣にして、武勇でも内政でも功を成した史実の人物由来であったか。」

 

「そう評してくれて、本人もきっと嬉しいだろうな。」

 

 語り合いの後、空知は槍を半回転させ、石突の方を己に向ける。

 

「何あれ?槍を使うまでもないって事?」

 

「お前なんて本気を出すまでもないって舐めてんでしょ、サイテー!」

 

 と野次が飛び空知が慌てて弁明する。

 

「待ってくれ、俺は唯、生身相手にいきなり穂先を向けて使うのは危険だと思ったからだ。」

 

「そうであったか、配慮してくれたのだな。__とはいえ空知殿は石突、己は真剣。流石に不公平というもの。今から試してみるので、少々待って頂きたいのだが。__ハアァァッッ!」

 

 沸き上がる疑念を敢えて払い、己が望むイメージを浮かべ、剣へと流し込む様に集中し__エクスカリバーの両刃が砕けた。

 

「おお、初使用にして、咄嗟の思い付きでぶっつけ本番の挑戦だったのだがいけたな。世の中案外、心一つで為せば成るものだ。」

 

「__凄いな、そんな事が出来るのか。」

 

「幻想兵器の奥深さを理解できて良かったぞ。嗚呼、空知殿は付き合わなくて構わん。刃抜きはあくまで、己の武器が両刃で峰打ちが出来ぬが故の対応だからな。」

 

 __などと、格好つけてみせるものの、内心では両刃のままで十分だった、というより石突相手だろうと両刃のままでも殺傷能力は不足な位だ、との思いも潜んでいるのだがな。

 

 __何しろ眼前の相手は、間違いなく()()だからだ。

 

「そうか、ならお言葉に甘えて、この状態で挑ませてもらうぞ。__お互い、準備はできています。」

 

「分かりました。それでは……試合、開始!」

 

 審判役の木村の掛け声で火蓋は落とされた__が、己も空知も様子見に徹し、得物を向けるのみで動かない。

 

 ___空知宗次、やはり一切の隙が見当たらぬ。

 

 入学前に簡単に調べた空壱流槍術の歴史と実力、目視で確認できた範囲での肉体、歩行に構えに視線に表情に精神性、それ等を総合的に分析した上で、天道寺英人の現状と比較した末の予測結果は___百度闘えど十割の確率で()()()()

 当然の話だ。身体的素質が違う、身につけた技術の有無と重みが違う、実践経験が違う、武への誇りが違う。己が勝るのは頭脳、劣らぬと自信があるのは意志と執念、されどその程度で奴に追い縋れる可能性を許す様な積み重ねに非ず。

 

 演算回路のみならず、第六感も確定された結果だと結論づけている。[機械仕掛けの英雄]に於いて、本来敗北の許されぬ己は、あの申し出を何が何でも断るべきであり__

 

 

 嗚呼、だから?

 唯勝機が皆無という()()の理由で勝負を避けてみよ。礼を尽くし勝負を望んでくれた空知殿にも、汎ゆる苦難へと進撃し未来を切り拓いた我が宿敵にも顔向けできぬではないか!

 それに己は、恐るべきCEにも強大な列強諸国にも打ち勝って祖国に光を齎すと、誇らしい同志方に誓ったのだ。眼前の武芸者(かくうえ)に勝利できずして、斯様な大志なぞ果たせるものか!

 まぁ勇ましい決意だけでなく打算もあるがな。あくまで試合であって()()に非ず。此度の敗北如きで、己の大義が潰える訳ではない。[機械仕掛けの英雄]の台本としても、初戦で同い年ながらも武を培った猛者に敗れるも闘志を燃やし成長の薪となり、やがて雪辱を果たすという王道の筋書きに書き換えるべく干渉すれば良い。

 

 という訳でだ。__さぁ、挑戦譚(ジャイアントキリング)を始めよう。

 

「ウオオォォッ!!」

 

 様子見段階で、前世の記憶から両手剣使いの星辰奏者を探し出し、戦法の手本(モデル)として行動パターンに反映させる準備を整えれば、危険を承知で突撃し、奴の僅かで比較的隙のある角度を狙い斬り掛かる。遠慮も躊躇も不要、奴が対応できることを前提に、間合いを詰めて攻撃せよ。

 

「せいやっ!」

 

 予想通り、目線を外さず瞬時に受け止める。一手の先の先を予測し、相手の防御に冷静且つ苛烈に喰らいつけ。

 

「うおおぉっ!はぁっ!」

 

 可能な限り間髪入れずに剣を幾度となく振り続ける。攻撃は全て幻子装甲にも届かず槍で止められる。望む体捌き剣捌きには、身体能力と技巧の慣れの両方に於ける不足で全く届かない。それでも頭も体も心も目も耳も全力で稼働させ、必死に突破口を探し出しこじ開けよ。

 

「君は、本当に天道寺刹那の弟なのか?」

 

 汎ゆる攻撃を平然と捌き、今だ心身共に疲れも痛みも伺えぬ猛者から掛けられた疑問。有り余る余裕(マージン)の極一部を用いて発せられた言葉に対し、息を切らしながらも敢えて答える。

 

「そうだ、遺伝子的にも法的にも。__期待に添えなかったか?」

 

「………いいや、けど。」

 

 奴の下半身に警戒せよ。暗黒と銀刃の同格(ハデス)による絶命を経験した戦闘兵器としての直感が発動した。

 

「すまなかった。」

 

「いかん、拙い!」

 

 急遽剣と体を引くも間に合わず、腹に蹴撃が襲った。

  

「ぐふぅッ!」

 

 苦痛と、空気の抜け出る感覚に苛まれながら後方に吹き飛ばされる。それ即ち__剣の間合いから槍の間合いへ。

 

「うがぁッ!」

 

 高速の石突で肩を穿たれ、体勢を立て直す間もなく、頭部が叩き付けられ、足が側面から薙ぎ払われ、トドメに胸に刺突を喰らう。

 __怒涛の三連撃に抗う術なし。

 

「げぐぁぁぁぁぁっッ!!」

 

 地面に転がり、気を失いかねんダメージを必死で堪える。

 四肢が動かぬ。視覚も聴覚も触覚も鈍ってきた。回避できなかった敗北の予測、乗り越えられなかった圧倒的な実力差。木村は計画遵守の為判定は出さぬ筈だが、普通はここで試合終了だ。

 

 己の負けだ。2度目の負けだ。それは受け入れよう。

 

 ___然し、それがどうした。

 己よ勝て。我が信念に誓ったが故。

 己は勝たねばならぬ。祖国と同志に繁栄を齎すと誓ったが故。

 己は今度こそ勝つ。如何程の敗北を刻まれようと決して諦めることのない宿敵と共に誓ったが故。

 己は、勝ちたい。()()()()()()()()に。

 

 ならばこそ、決まっている。己は、迦具土神は、天道寺英人は___勝利を目指し、こう唱えてしんぜよう。

 

ぐっ、がはぁ、はぁっ、__()()()!()!()

 

 苦痛も疲労も薪に変え、立ち上がり前を向く。構えを解かぬとは素晴らしいぞ、21世紀の武士(もののふ)よ!

 

「空知宗次よ、誇るがよい!貴様は紛れもなく、今の己より強い!だが己は、必ずや強大なるCE共を打倒し、祖国に光を齎してみせる!故に、敬意を表し、全力で貴様を越えてゆく!!」

 

 握り締める両手剣が呼応したのか、黄金の輝きを放ち出した。

 では征くぞ、嘗て護国と繁栄を導いた勝利の聖剣なれば、どうか己の祖国に光あらんことを。

 

「エクスゥ、カリバァァァァ!!!」

 

 大空へと掲げた聖剣から、果てなく真っ直ぐ伸びる光。

 さぁ宗次よ、この浄滅の巨刃を振り降ろし、貴様を全力で___!___?

 

 全力で__果てなく伸びる光を__浄滅の巨刃を___このグラウンドで、誰一人として幻子装甲を纏わぬ観衆の中で___疲弊し痛みの残る己の体で?___!!??

 

 拙い、駄目だ、頭脳も直感も最大限の危険信号を発している!

 

「宗次、すまない。__止めてくれぇぇぇェ!!!

 

 最早己には重過ぎて支えられん!大きく出し過ぎて力を引っ込められん!どの方角へ傾こうと人が巻き込まれる!

 情けない無茶振りだが、幻想兵器を展開し体力のある宗次にしか何とかできんどうかこの光刃から守ってくれ!

 

「頼む、蜻蛉切っ!」

 

 その正面の本人は、その場で踏み込み槍を構え、降ろした光刃へと突き刺した!押されて石突が地面に着きながらも槍を支え棒にして耐えてくれるが、どうにか保ってくれ!

 

「「逃げろ、早くっ!!」」

 

 偶然にも被った双方の避難勧告。聞き届いたのか急いで逃げる観衆を、光刃の挟まった視界から確認したが、正面方向は、宗次は果たして無事なのか。

 

 横に逸れることなく減速し縮みながら地面スレスレに降ろされ、その時点で漸く消失した光刃。前方奥、宗次の背後の位置にいた者は皆横に後ろにと退避し、怪我は見られなかった。だが宗次は__

 

 光刃が一度覆い被さったものの、五体満足。されど蜻蛉切は消失し、槍を持ちて支えんとした構えは解かれ、倒れ伏していた。

 

「宗次ィッ!大丈夫かッ!?」

 

 瞬時に駆け寄ってみれば__外傷無し、呼吸も脈も異常無し。幸いにも気絶のみで済んだらしい。だが実際の被害は本人の感覚や特高の医療設備による検査でなければ解らん。

 

「だ、大丈夫!?英人君、宗次君!」

 

「お、おい兄弟!どないしたんや!?」

 

 慌てて来た保科ら教師陣と遠藤に、一先ず彼を預けることにする。

 

「己はっッ!__いや無事だ。それより、宗次を頼む。一見気を失っているだけの様だが、何かしら傷を負った可能性はある。」

 

 勝負が中断した事でぶり返してきた全身の苦痛を堪えつつ、グラウンドを後にする。

 体調だけならば、あの光刃を喰らったであろう宗次の方を診ておくべきだが、[機械仕掛けの英雄]の要である以上己の方を優先されかねん。故に取り敢えずこの場を去り彼への注意を惹かせて、また後で己自ら診療してもらおう。

 

「大丈夫なの英人!?さっきの大逆転はステキだったけど、怪我はない!?」

 

 己の背後へと寄ってきた月夜、その後ろに心配そうな表情でついて来る1-A(親衛隊)予定の少女達。

 

「痛ッ!__いや問題ない。取り敢えず校舎内で休み、体に支障が出れば自分で保健室に向かうさ。何せ己は、()()になる男だからな。試合で受けた攻撃なぞ全て、お茶の子さいさいへのかっぱ、とやらだ。」

 

 この時ばかりは、計画に関わる事態故に本心から心配している様子の彼女等。

 歩きながら、ふと拙い問題が発覚した。

 

 __同志への弁解、[機械仕掛けの英雄]とのズレに対する誤魔化し、どうしようものか__

 

 苦痛と疲労に妨げられようが即刻適切な対策を考えねばなるまい、と先程の衝撃が少し残る頭を再び高速回転させることにした。

 

 

 

*1
紛らわしい故、本物であり実際には検査すらされていない他県在住の千影沢音姫と区別すべく、内心では本名で呼ばせてもらうとしよう。

*2
アドラーの隣国を拠点に置き、ヴァルゼライドが嘗て活躍した東部戦線で暴れる精強にして非道な傭兵組織。経済的利益より反アドラーを絶対的に重視する事で有名であり、それを前提とするならば依頼内容や手段の難易度・善悪を問わず、民間人の虐殺や街の放火といった戦争犯罪さえ平然と行うという。己は中央から動けぬ故連中の関係者と接触することはないが、それでも被害や危険性を伝える情報が良く届いていた。




 感想、お待ちしております。

 今回の英人の失態原因は、次の3点です。
①英人に対する期待の認識が原作以上に集い、エクスカリバーの性能が強化された。原作以上の認識の出処は、次話にて分かる人には分かる形で記す予定。
②全力を発揮する際に、前世の感覚のまま力み過ぎた。というのも前世では、『シルヴァリオヴェンデッタ』最強の身体能力を備えた状態で、最弱の攻撃手段が水爆単発という位に絶大な火力を自然体で操っていた。そんな怪物が、嘗てと同じ感覚で、ひ弱且つ疲労困憊な身体のまま全力を出そうとすれば制御不能に決まっている。
③絶対的格上と判断した相手に勝つ事で頭が一杯になったせいで、周囲の状況が暫し忘却された。本人に言わせれば「うっかり」の様なもの。


 それと、ある意味重要な話ですが、本作音姫(月夜)は、シルヴァリオサーガの某キャラクターの転生者でも何でもありません。幻想兵器は、原作の設定そのままに過ぎませんのであしからず。
 天道寺英人(カグツチ)にとっては、自分以外にも“新西暦”から転生者が来ているかもしれない、と考えるでしょうが、作者としては英人以外にシルヴァリオサーガからの転生者を登場させる予定は皆無です。
 その辺り、どうかご了承下さい。

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