英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今回は、原作主人公である空知宗次視点のみでお送りさせて頂きます。

※2023/6/19にて、第14.5話を上下に分割致しました。下のアンケートにて、1万字超えでも構わないと答えて下さった方には申し訳ないのですが、読み直してみればやはり長過ぎるのではと判断した次第です。因みに文章内容自体は分割前と変わりません。



第14.5話上 武士(もののふ)と愚者

 

 

  前橋駅から10分足らず、バスから降車し、それだけの時間に親しげに接してくる気の良い男である映助が、校門前で立つハイカラな少女を指差しときめいていた。

 彼女が此方へとやってきた事に驚き、また隣にいた映助が後ろに隠れたが、そのまま通り過ぎ、直ぐに後方から同年代の男の大人びた声が、尊大ながらも丁寧な口調として聞こえてきた。

 振り返ってみると、漆黒の長髪と瞳をした、快活な笑顔を浮かべる美少年が視界に映った。

 そんな彼は、走って近寄るもうっかり躓いた少女を見事に支えて、昔馴染みであるかのように心配の声を掛けた。

 

 2人の光景に、()()()()()()()()として何故か違和感を覚えたものの、それは瞬時に心の片隅へ捨て去られる程度でしかなく、その思いを他所に校門へと歩もうとする少年と怒っている様子の少女。

 そこで少年が、立ち尽くす自分と呆然とする映助へと、僅かな間だけ視線を移し、直ぐに校門へと戻して向かって行く____

 

―――――――――――――――――――――

 

 そこで目が覚め、見知らぬ天井と見知った白衣の美女が視界に映った。

 

「京子、先生?」

 

「えぇ、どこか痛む所はない?」

 

 微笑み心配してくれた京子先生。然し、あれ程の光に圧し潰されたにも拘わらず、痛みが無ければ特に身体の何処かで不調を来している訳でも無かった。なので首を横に振り、逆に問いかける。

 

「映助や皆は無事ですか?」

 

「……君って子は、起きて最初に言うのがそれ?まぁ安心して、大丈夫よ。君が頑張ってくれたおかげで、皆直撃は免れたから。」

 

「俺が?………そうか、本当に良かった……。」

 

 相手の物言いに()()()()()()()()()も、一先ず安堵の息を吐き__改めて現状を、あの勝負の結果を理解した。

 

「負けたか、悔しいな……。」

 

 祖父相手に何千回と味わった敗北だが、それでも慣れる事はない。

 悔しさに歪む情けない顔を見られたくないと、掌で隠していたが、問い掛けを聞いて手を降ろす。

 

「英人君に、負けたと思っているの?」

 

「えっ、負けましたよね?」

 

「あっ、うん、負けた事になっているけど……。でも、先に英人君を倒したのは君でしょ?」

 

「審判は勝敗の宣言をしていませんでした。」

 

「けど」

 

「いえ。彼は立ち上がり、俺はこうして倒れた。なら俺の負けです。」

 

 過程や方法など関係ない、最後に立っていた者が勝者なのだ。

 それが、勝負という厳しい世界の掟であり、戦場というこれから俺達が向かう世界の法則でもある筈だ。

 

 ___それに、俺が英人を一度本来敗北確定(あの状態)にまで追い込めたのは、武術を習い心技体を鍛え上げてきたという経験者の優位(アドバンテージ)あってのものだから。

 

「鍛え直しだな。」

 

 祖父に腕を褒められて天狗になっていたが、井の中の蛙にすぎなかったのだと、反省し克己心を奮い立たせた__ところで、幻想兵器に関する疑問が生じたので、京子先生に質問してみた。

 

 

 彼女曰く、英人の用いたエクスカリバーも俺の振るった蜻蛉切も、歴史上にせよ神話・物語内にせよ、実在する若しくはした武器そのもの、ではなくその武器に対する人々の幻想を集めて形成された存在だという。

 それ故に形状や性能は、本来の伝承と完全に同一とは限らず、人々にとっての当該武器に関する印象や想像から影響を受けて決まるそうだ。

 

 例えば英人のエクスカリバーの場合、本来遠方の島国に遺る古の物語に記された武器なれど、その名や凄い剣という印象は2031年の日本人でも多数が知っている。然し剣の物語に於ける詳細を知る者は少数であり、その他大勢にとってはゲームやアニメ等現代的な創作物による、()()()()()()()()()()()()()として粉飾された存在を指し示すらしい。故に()()()()()()()()エクスカリバーは、あの様なビーム兵器にもなり得る最新最強の聖剣として顕現したとのこと。

 

 そして、幻想兵器とは、幻子なる人の精神に影響を受けて自在に姿を変え、莫大なエネルギーを生み出す物質で構成されており、されど幻子の性質に関する原理や原因等は未だ解明されていないという。

 

 そこまで説明した所で、たとえ未知に覆われた物質や力であろうと今の人類はそれに頼る他ない、と弁解しながら、貴方を心配するからこそこれ以上の深掘りを止めてほしいと訴える様な瞳を向けてきたので、質問を終えた。すると、怖くなったら辞退しても構わないと心配してくれたが__否。

 

「先の事は分からないけれど、今はまだ逃げる気はありません」

 

「そう、嬉しいわ」

 

 京子先生は、裏表の無い笑顔で、俺の頭を撫でて口止めをお願いし、退室した。

 

「……この後、どうすればいいんだ?」

 

 怪我人として運ばれていながら何も指示されずに立ち去られ、これ迄以上に悩んだが、一先ずベッドに再び寝そべることにし__先生が戻ってくるまで試合の流れを振り返ろうと判断した。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 試合に向け2人組を作るよう言われ、映助が誘ってくれたことに有難く感じつつも敢えて断り、歩み出していた。

 

 仮にも武術家の端くれ、戦うのならば最強の相手と槍を交えたい。そんな欲求から校門前に見掛けた現在少女と話し込む少年へと、“英雄・天道寺刹那の弟”へと話しかけた。

 結果は不敵な笑みで了承。2人で試合を申請し、グラウンドの中央へ。

 

 誰もが皆手を止め囲み観戦しようとするが、感じられる視線も聞こえてきた会話も殆どが相手に対するものだった。

 それは別に気にならない。自分より英雄の弟の方が有名なのは当然だろう。それでも、映助が独り叫び応援してくれたのは励みになった。

 

 幻想兵器を互いに発現させれば、 相手は1本の両手剣を握っていた。 卑下も侮蔑もする気はないが、 俺の槍より派手な武器だと感じた。

 見ただけでは如何なる銘か分からなかったが、相手がエクスカリバーと先に教えてもらった。なので此方も紹介すれば、本来の愛用者である本多忠勝についても賛辞と共に理解してくれた。礼儀正しく教養深い男だと感じられた。

 

 幻子装甲があると言われたものの、いきなり生身の相手を突くのが怖くて、俺が石突を正面に回すと非難の野次が飛んできた。

 だが相手は、不公平だからと言って__柄を握り締め、両目を剣に向け、念を押し届けるが如き様子に変わったと思えば数秒後、なんと綺麗に両刃だけ砕け切った。

 木剣同然へとエクスカリバーを変えてくれた律義さ、殺傷性を削ぐこともできる幻想兵器の可能性、そして直ぐに思いつき一発で成し遂げてのけた小さな偉業に感心した。

 

 真剣と真槍をお互い危険の少ない状態へと構えた中で、審判の木村先生により開始された、初めてとなる祖父以外の者との手合わせ。

 

 先ずお互いに観察と警戒を無言で続け合っていたが、決意した表情を一瞬見せ、相手が突撃してきた。

 先攻は向こう側という形になった対戦で、直ぐさま槍で防御体制を採る。 だが___

 

 初撃、顔と声と雰囲気の迫力に比し軽く感じた。

 第2、第3撃。剣圧が軽い、振りが鈍い、全身の動きに無駄があり過ぎる。

 第4、第5で、“英雄の弟”の身体能力と戦闘技能が素人同然だと理解し、「()()()()か」と落胆が一瞬芽生えた……が、次で瞬く間に別の違和感に塗り潰された。

 第6。比較的、ほんの僅かだけ()()()()()()()を狙われた、と感じた。

 第7、8の後に、受けた剣撃を思い返せば……最初から、そして段々と正確に、()()()()()()()()()()()()斬りつけている!

 第9、10、11で理解した。相手は、俺の防御の動きを予測して斬りつけていると。雑念が排された状態で、彼なりに感覚を精一杯研ぎ澄まし、俺と槍へ集中し勝機を必死に探っていると。一切を防がれようが心を乱さず受け止め次とその次の攻撃を思考し、なのに徐々に鬼気迫る闘志と殺意を乗せて剣をぶつけていると!

 

「君は、本当に天道寺刹那の弟なのか?」

 

 ……?確かに見定めた理由も一瞬がっかりしたのも“英雄の弟”という触れ込みとの差異だが、今はそんな事より凄さに感嘆すべきな筈……と、思考を自身の発言について巡らせられる余裕のある俺に対して__

 途切れ途切れの荒い息、疲れを滲ませながら、それでも集中や攻撃を緩めてなるものか、と言わんばかりの態度を強める相手が、()()が態々答えてくれた。

 

「そうだ、遺伝子的にも法的にも。__期待に添えなかったか?」

 

 ___ハッとする気づきが心中に湧いた。

 天道寺英人は、俺が“英雄・天道寺刹那の弟”だから申し込んだ事を初めから分かっていたんだ。

 天道寺英人は、自分より俺の方が強い事を試合前から見抜き、その上で頼みに応じて闘ってくれたんだ。

 

 聡明で、慧眼で、律義で、勇敢な挑戦者(チャレンジャー)

 

 対して俺はどうだ?

 此れ迄英人に接してきた者達と恐らく同様に、姉を失った身の少年へと、英雄の身内という色眼鏡で見て、姉と比べ過度な期待と勝手な失望を抱いた愚か者。

 そしてそんな少年へと、只実家が槍術道場であり肉体と武術を培う機会に恵まれただけなのに、それを利用して相手の本気を平然とあしらって格差を見せつける卑劣漢。

 空壱流槍術継承者として、武術家として、いやそもそも人として失格な、どうしようもない恥知らずじゃないか!

 

 ……だとしても、始めてしまった試合、今出来る全てを駆使して本気で闘っている英人に対する、対戦相手としてせめてもの償いは、恐らく1つだけだろう。

 

「すまなかった。」

 

 英人の腕を見極め、心の整理も終えて覚悟を決めたから、守勢でいる事を止めて__俺の本気を叩き込もう。

 

 見事にも反撃の時を察したのか咄嗟に剣も身体も下がろうと動いた英人、だが後退前に素早く蹴り飛ばす。

 怯んだ状態で槍の間合いへと移させて、矢よりも鋭く石突を繰り出す。

 肩を突かれよろめきながらも、想定していたのか体勢を立て直そうと__する間も与えず上から頭を殴りつけ、横から足を薙ぎ払い、トドメに胸を突き刺す。

 

 ❛空壱流槍術・全方撃❜

 

 名前通り、槍で行える打・払・刺という全ての方法で、上・横・前と全方向から攻撃を放つ連続技であり__俺なりのこの場なりの礼儀だ。

 

 技を全て喰らってしまった英人は、悲鳴を上げて地面に転がり倒れ伏す。

 

「ふぅ……」

 

 宗次は軽く息を吐きながらも、構えを解かず残心を怠らない。

 理由の1つは「槍を握れば常在戦場」が祖父の口癖だったから、試合終了の合図迄油断も隙も晒す真似はしない。

 もう1つは……英人は、英人ならもしかしたら……

 

「……先生。」

 

「…………」

 

「なぁ木村先生。」

 

「な、なんだっ!?」

 

「合図したらどうや?」

 

「…………」

 

 審判役を呼ぶ友の声に、つい顔を横に向けてしまった。

 

「……おい先公、宗次の勝ちやないか、早よ宣言せえ!」

 

「…………」

 

 其処には、詰め寄る映助と、唖然とした顔で何も言わない木村先生。

 

「何を呆けとんや、早よあのいけ好かんスケコマシがボロクソに負けたと、痛っ!何すんねん!?」

 

 その映助に今度は、何人もの女子が怖い形相で詰め寄ってきた。

 

「あんた、英人が負けたなんて勝手な事を言わないでよ!」

 

「い、いや、現に負けて」

 

「そうよ、英人君は負けてなんかいないわ!」

 

「槍を使わず挑発したり、蹴りを使ったりした、あいつの反則負けよ!」

 

「な、何を言うとんのや? スポーツじゃあるまいし反則なんて」

 

「反則よ反則、この卑怯者!」

 

 映助の反論に耳を貸さず、ひたすら金切り声で俺を非難しており、困惑してしまった。

 俺が卑劣漢なのは否定できないが、彼女等のせいで友に迷惑が掛けられるのでは?と心配する。

 

「ちょっと、貴方達こそいい加減にしなさいよ!」

 

 と其処へ1人の女子が割り込み非難するも、数と流れに通じる様子はない。

 

「あんなの認めないわ、やり直しよ!」

 

「そうよ、英人君は絶対に勝つの!」

 

「認めないわ、絶対に卑怯な事をされたのよっ!」

 

(「そうだ、彼奴は絶対まだ終わらない。きっと立ち上がって、俺を越えようと作戦なり奮起なりで挑んでみせる筈だ。」)

 幾ら英人の、或いは天道寺刹那のファンだからといって異常な程しつこく騒がしく敗北を否定し俺を責める彼女等。

 理解不能に感じつつも、木村先生が合図を出さぬ以上試合は続いているので顔を、苦しそうにうつ伏せとなる英人へ向けた__直後。

 

「まだだ!!」

 

 観衆全員の注目が一点に集まった気がした。驚愕と、密かにだが確実に点火された()()の目で正面を見据える。

 

 天道寺英人が、震えて剣を杖代わりに立ち上がり、顔を上げ、歓喜と尊敬と決意に滾る太陽の如き笑顔を形作ってきた!

 

「空知宗次よ、誇るがよい!貴様は紛れもなく、今の己より強い!だが己は、必ずや強大なるCE共を打倒し、祖国に光を齎してみせる!故に、敬意を表し、全力で貴様を越えてゆく!!」

 

 台詞と態度に対する感想よりも、先ず想起されたのは試合開始直前、発想力と意志力でエクスカリバーの刃を潰した姿。

 何故と自問せず瞬時に、これは()()()()()()()()()()だと判断し警戒すれば、眩い光を発し始めた両手剣を掲げながら__

 

「エクスゥ、カリバァァァァ!!!」

 

 人生最大に感じられる程のプレッシャーと共に天上へと放たれた、荘厳で、壮大で、穢れなき黄金の光柱。

 

 驚くべき、恐るべき、或いは()()()()()()()の必殺奥義を前に、俺は__勝利の手順を組み上げた。

 

 見た所、用途はあの幻子装甲さえ盾にならぬ位に超威力だろう光刃を振り降ろし、俺を戦闘不能に、若しくは“死”に到らせるのみ。

 巨大で強力だが、その分攻撃に移る速度は遅い筈。

 しかも英人は、蓄積された疲労やダメージに加えて両手剣とあの光刃を支えているせいで、腕や脚に震えが見られる。

 また初めて出した大技故の不慣れ、脚を動かせず移動不可能な状態、一度振り降ろしてから再発する事は消耗度合と掛かる時間を踏まえれば恐らく困難であろうとの予測。

 

 であらば__腕が動くタイミングに合わせて横に回避し、無防備な側面から、今度は気絶して試合中には立ち上がれぬ位の攻撃をぶつける。

 それでもまだ復帰してみせる、若しくはその弱点も考慮して勝利の算段を建てているなら__その時はその時だ。

 これで英人に勝てる。此処で英人に勝つ。それで無理なら、空壱流槍術と心技体の全霊を以てして、英人の挑戦に受けて立つ。

 

 さぁ来い英人。お前が大義と使命と敬意によって越えようとするのなら、更なる全力で迎え撃ち、「勝つのは俺だ」と宣告し__

 

「宗次、すまない。__止めてくれぇぇぇェ!!!」

 

 ___思わず背後を振り返った。呆気に取られ光刃を見上げる映助や木村先生に他の生徒・教師がいた。

 右に首を振る。其処でも皆微動だにしない。

 左に首を振る。誰一人逃げようとしていない。

 再び正面を向き、目線を後方へ向ける。この場の全員が、避難してない幻想兵器を展開してない。__即ちどの方角に光刃が振り降ろされようが、必ず犠牲者が出てしまう。

 そして英人の顔と向き合う。慌てて懇願するように、「観客皆(誰か)を救えるのはお前しかいない!」と訴え祈るように!

 

「頼む、蜻蛉切っ!」

 

 回避行動の準備をしていた両足を、その場で留まり踏ん張るように構え直す。

 停まった蜻蛉が切れるほどの鋭い穂先を、聖剣の光に突き放って立ち向かう。されどげに凄まじきは光刃の重圧。直ぐに蜻蛉切は押し返され、石突が地面を打つ。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 それでも槍を柱に据えて、決死の覚悟で光の刃を支え続ける。

 友を守る為に、誰かを救う為に。信頼して助けを求め、重いだろう剣を必死に支え少しでも俺が止められ易くなるよう踏ん張ってくれる英人の為に!

 

「「逃げろ、早くっ!!」」

 

 振り向く余裕もないままに叫び、偶然重ねられた声は、背後の生徒達に届いたのだろうか。

 それを確認する間もなく、蜻蛉切の柄が限界を迎えた。

 

バキンッ!!

 

「あっ……」

 

 すまない、と槍に謝る間もなく、五感が光の奔流に飲み込まれたと感知した瞬間、意識が暗い闇の淵へと___

 

 

 

 




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