英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 前話の前書きにて記した通り、今話は元々第14.5話として1話分であった文章を前半後半とで分割して挿入しました。
 内容は特に変更しておりません。


第14.5話下 再戦の誓いと分不相応

 

 

  ………振り返ってみたが、あれだ。

 英人の強さと、自分の不甲斐なさが改めて理解できたな、うん。

 

 とそのタイミングで京子先生が部屋に戻って来た。

 

「どう?体調に問題はない?」

 

「ええ。何処にも痛みはありませんし、体も平気で動かせます。」

 

「良かったわ。なら検査も治療も要らなさそうね。それじゃ、もう退室していいわよ。あ、そうそう、実戦形式での試し合いはあの後中断して、それで全員に寮棟の割振りをやって何番棟で泊まればいいか伝えたから、貴方のお友達も他のみんなもきっと寮に入ってるわ。貴方の寮は十二番棟だけど、場所は分かる?」

 

「大丈夫です。それでは、ありがとうございました。もしまた怪我でも負ったら、その時はよろしくお願いします。」

 

「もうお世話にならないように祈ってるわ。気をつけて行ってらっしゃい。」

 

 という訳でベッドから立ち、保健室を退室し校舎の出入口へと向かっていたら__

 

「おお宗次殿、体調に問題はないか?」

 

 英人とばったり出逢った。顔や露出した皮膚に傷や痣は見られない。

 

「まるで健康体さ。腹は減ってきたけどな。あんたの方は平気なのか?試合とはいえあんなに殴って蹴って突いてしまったが。」

 

「此方も平気だ。試合である以上その程度の衝撃は当たり前であり、それに幻子装甲が守ってくれたからな。」

 

 今日初めて出逢った仲ながらも、映助とは違う意味で気安い雰囲気になったが、直ぐに姿勢を正し__頭を深く下げてきた。

 

「それでだ。___試合にも拘わらず、あれ程の規模の攻撃を、衆人や設備を傷つけ命すら危ぶまれる様な光刃を、我が身を犠牲に止めて被害を最小限に抑えて頂き、誠に有難くまた大変申し訳ない!!」

 

「___!?あ、英人?」

 

「此度の件、己は試合だというのに宗次殿に対して()()()()()()()()()()程の全力をぶつけてしまった!加えてあの光刃を出しておきながら制御できず、そなたのみならず周囲の方々にも危険に晒してしまった!然しそれを、そなたが懸命に立ち向かい止めて頂いたお陰で、そなた自身の負傷と引き換えに誰一人として巻き込まれず無事で済んだ!」

 

「た、確かに京子先生はみんな無事だと言ってたが……」

 

「改めて、誠に感謝と御詫び申し上げる!あの時あの場に於いて宗次殿は間違いなく“英」

 

「待ってくれ!!」

 

「__!?」

 

 俺を含め、怪我人が出なかったのは幸運だった。英人の言う事も気持ちも十分理解できた。だが__

 

「御礼を言うのはこっちの方だ!エクスカリバーを掲げている際に「止めてくれ」って頼んでくれたからみんな無事で済んだんだ!」

 

「__何?己の発言が?だがそなたは踏み込んで立ち向かい__」

 

「正直に話すと、あの時言ってもらえる迄俺は、光刃を回避して振り降ろした隙を狙いあんたを倒す事()()()()考えていなかった。留まって抑えようなんて、()()()()()()()()()なんて、僅かでも頭に無かったんだ。」

 

「そ、宗次殿……。」

 

「だけど英人、あんたは周囲の観衆とエクスカリバーを直ぐに確認して危険を予測し、羞恥心の欠片もない叫びで俺を頼ってくれた。あんたのお陰でみんな助かった。俺は助ける事ができた。」

 

「だ、だがそもそも己があの様な危険極まりない規模と威力の攻撃を放とうとしなければ、そなたは庇う必要もなく__」

 

「けどそれは、自分より強い俺からの挑戦に応じて、どんなに圧倒されても必死に闘おうとしたからだろ?英人、俺は幼い頃から槍術を習い身につけ、身体を鍛え続けて、沢山対戦形式の稽古も積んできた。でもあんたは、特に武術やスポーツとかやってないんじゃないか?ならあの大技も、自分の不利をその場で可能な限り追い縋って覆そうとした英人なりの努力と作戦だった筈だ。」

 

「それは間違っておらぬのだが、入学前の積み重ねがあるからとアレを容認するというのは__」

 

「今思えば、兵士としての訓練且つ俺等の年代初の試合とはいえ、武の経験の有無を考慮せずに優劣を決めるのは不公平じゃないか?英人の所は知らないが、俺の過ごした学校の体育の試合だと、ある程度のハンデ付けられたぞ。だからもうこれ以上頭を下げるのも、御礼も御詫びも不要だ。」

 

「__う、うむぅ……宗次殿の立場からそこまで申されると、流石にしつこくかえって無礼、という事か。__よいのか?」

 

「あぁ。もうお仕舞いにしてくれ。それと、「殿」も付けなくていいぞ。呼び捨てで構わない。」

 

「そ、そうか。では御言葉に甘えさせて頂く。__と、その上で申し上げるのは憚られるのだが、1つ頼みがあるのだが構わぬか?」

 

「?遠慮せず言ってくれ。聞けるお願いなら応えてやれるが。」

 

「有難う。では__先の試合について、エクスカリバーを止めてもらうよう懇願したであろう。其れについて、己は斯様な発言を行わず宗次も聞かなかった、という事にしてくれ。」

 

 __何?あんな必死の形相で大きく叫んだ言葉を口止め?あの場のみんなに聞こえてる筈だから、今更俺1人に求められても__、との疑問が顔に浮かんで見抜かれたのか、英人は神妙な顔つきで驚くべき事を告げてきた。

 

「その様子だと、保科先生にあの発言を伝えていないらしいな。我等の試合の後なのだが、どの先生も、生徒も、己の懇願が聞こえておらず、基本的に“己の光刃と宗次の槍が衝突し合い、押し合いの末宗次が光に圧し潰された”とだけ認識していたそうだ。一部の者は、“己の光刃に巻き込まれそうになった所を宗次が身を挺して護ってくれた”と主張しておったが、彼等も同じく聞いていない様子であった。」

 

「……そうか、何でか解らんがきっとあの巨大な光や発していた音に注目して、近くにいて英人本人に集中していた俺以外の耳に届かなかったのかもな。それなら絶対口外しない。俺にとって、空壱流槍術の者として一生涯の恥というべき事態だったからな。でもあんたはいいのか?その一部の者とやらが、自分達観衆を気にせず巻き込もうとした悪者だと誤解したままになるかもしれないぞ。」

 

「問題ない。その認識自体は言い逃れできぬ事実であるし__此処だけの話にしてもらいたいのだが、彼等以外の大勢の者等に対してだけでも、斯様な醜態を絶対に知られたくないのだ。手前勝手な思いだがな。」

 

「了解した。お互いのプライドの為にも、墓場の下まで持っていくよ。__それと、代わりと言ってはなんだが、俺の頼みも受けてくれ。」

 

 疑問と催促が伝わってくる英人の美貌と面向かい、此方も姿勢を正して、本音・本心、そして決意を表明する。

 

「また今度、俺と蜻蛉切、英人とエクスカリバーで試合がしたい。そして__次は、俺が勝つ。」

 

 「__クッ!ハハハハハハ!おォ、そうか再戦の申入れと勝利宣言か!よかろう。直ぐにとは確約出来ぬが、何れ、その時は他者一切に被害が及ばぬように闘おうではないか!」

 

 嬉しそうに破顔し、頼みの1つを受け入れてもらったが__然し、笑顔を負けん気に満ちたものへと切り替え、言葉を続けてきた。

 

「だが、後者の頼みは聞けぬな。何故ならば、次もまた、そう如何なる時如何なる相手であろうと__勝つのは己だ。」

 

「__!分かった。けど2度目の試合(リベンジマッチ)時点で、その宣言を圧し折ってみせるさ。お前が国の未来を背負っているなら、俺は空壱流槍術の伝統と誇りを背負って、今日より更に磨き上げた心技体で勝利する。その時迄には、身体も身の熟しも俺の後ろに迫れる位に、精々鍛えておけよ。」

 

 __その時ばかりは何故か、まるで正論だけど難しい注文を指示されたと言うが如き表情で唸っていた英人。だが10秒後には普段の不敵な笑顔に戻り、別れの返事を発してきた。

 

「……そうだな、此度の闘いは、己の弱さを改めて実感させてくれた。ならば、反省し努力し、弱さを克服せねば、宗次の“宿()()”たり得ない。次は、エクスカリバーが発揮してくれた光に甘んじず、そしてアーサー王に失望される事の無きよう鍛錬してみせよう!それでは、本日はこれでおさらばだ。ゆっくり休んでくれ!」

 

「英人もな。成長には適度な休養や余裕が必須だぞ。頑張り過ぎで体壊して、京子先生のお世話になったり戦えない状態に陥ったりしないでくれよ。それじゃあ気をつけてくれ。」

 

 ……「宿敵」との表現に僅かな疑問が生じるも、胸に秘めて一時の別れを告げる。英人は用事か忘れ物か待ち人でもあるのか、校舎を出ようとする俺とは反対方向に歩いて行った。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 夕焼けの下、俺は校舎を出て少し離れた場所に建てられた4階建て全12棟のエース隊員寮へと歩く。グラウンドではら俺や英人が頑張っても尚防げなかった物的被害といえる長大な溝を、数台のブルドーザーが埋めており、それを横に到着する。

 

「大きいし多いな。」

 

 兵士、正確には自衛隊員だが、の寮だからもっと狭苦しい物だとの想像とのギャップが口から漏れた。

 

「これも理由があるのか?」

 

 京子先生なら知っているだろうが、喋ってくれるかは疑問であろう。

 

 ともあれ、先生から伝えられた十二番棟、校舎から一番遠い建物へと歩き、着いて入った途端__

 

「無事やったか、兄弟っ!」

 

 玄関先の椅子に座っていた映助が、外傷も不調も見られない無事な姿で抱きついてきた。暑苦しくも嬉しかった。

 

「俺達、兄弟だったのか?」

 

「天然かいっ!頭打ってアホになったんちゃうか?」

 

「いや、勉強は出来る方だと思うが。」

 

「うむ、その反応は間違いなく宗次やわ。」

 

 俺を心配し、安堵してくれた映助は__試合の話題へと移してきた。

 

「しかし、あのスケコマシめ、ワテらを殺す気かっちゅうねん。思い出す度に、ホンマ怖くなってくるわ。」

 

「………怖かった、か。確かにな。」

 

 エクスカリバーに怯えて怒る映助。どうやら叫びを聞いていない、という英人の話は本当らしい。

 

「意外やな、いっちゃん危険なトコにおったのにあんな勇敢に立ち向かってたやんか。」

 

「……いや、今思えば、本当に恐ろしかったよ。」

 

 聖剣の威力や、俺が命を落とす危険性には、それ程恐怖を感じなかった。

 

 __一番恐ろしいのは、エクスカリバーでも英人でもなく、救けを求められる迄一切他人を、応援してくれた友の安否さえ顧みず、対戦相手と闘いに勝利することしか頭にも心にも存在しなかった、あの場の俺なんだ。

 

「まぁ、あんなスケコマシの事はどうでもええわ、それよりこっちの方が重要やで。」

 

 俺にとって恥ずべき醜態である事、英人本人からの口止めという事もあり、映助の誤解を解こうと釈明もせずに、話題の変更を受け入れ友の指差す方向を、玄関の横にある談話室へと集い親睦を深める寮生達を見つめた。

 

 そうして女子達を眺め興奮する映助の背後に、先程迄他の女子とお喋りしていたセミロングの美少女が青筋浮かべて接近し、アームロックで映助の反省を促せばそんな俺達を見て笑って怒りが霧散した様子で自己紹介してきた。

 

平坂陽向(ひらさかひなた)よ、漫才師さん。」

 

「空知宗次だ。」

 

 少女こと陽向は笑顔で右手を差し出したので握り返す。綺麗ながらもたこの触感がした。

 

「ワテは遠藤映助や、よろしくな陽向ちゃん!」

 

「聞いてないわよ。」

 

「聞いてないって。」

 

「二人して冷たすぎやろっ!」

 

 そうして泣いて逃げ去る映助を他所に、寮長が説明したという共同生活の組み合わせを教えてもらった。

 

 何でも寮の組分けは性別無関係にクラス毎で為されるようで、寮長曰く「エースとして活動する時も、クラス単位で動く事が多いから、一緒に暮らして親睦を深めておけ」とのこと。

 また、生徒一人一人の個室は女子と男子とで別の階に、と言ってもなるべくだそうだが、そう区分されたという。然し一方で、風呂は大浴場を時間毎に分けての使用を命じられたそうだ。

 

 男女共同生活という、風紀の面に於いて不可解な仕組みに疑問を呈する陽向の意見は、俺も同感だ。

 この対CE特殊隊員養成高等学校は、単なる共学高校としても、自衛隊員を養成する学校としても、異様で且つ一見非合理的だ。

 

 だがしかし、京子先生は、人類にはもう幻想兵器に頼る以外の道は残されていないと語っていた。

 そんな何十億もの人命を左右する兵器の使い手達を、何の管理もせず放し飼いになどするだろうか。

 何らかの意図を感じずにはいられないものの、何にせよこれが本当に人々を救う道に繋がるのなら、単なる1生徒に過ぎない自分には拒む事もできない。

 

 ともあれ、俺等に出来ることは共同生活に於けるルール策定と問題発生防止位だ、と2人で話し、陽向は女子達のもとへ戻ろうとする__途中で立ち止まり振り返った。

 

「そうだ、言い忘れてた。」

 

「何だ?」

 

「助けてくれてありがとう。その……格好良かったぞ!」

 

 そう言って照れ笑いを浮かべ、恥ずかしがって駆け去って行った。

 

「助け……あぁ。」

 

 数秒の間をおいて、思い出した。

 

 あの光刃の落下軌道に、彼女も居たのだ。

 英人に野次を飛ばしていたグループを止めようと、注意していた女子がおそらく陽向だったのだろう。

 

 

「………みんなには、申し訳ないな。」

 

 京子先生も、映助も、陽向も、そしてあの話が本当なら2人以外全員が知らないのだ。

 

 英人が自分の失敗を即座に察知し、プライドよりも勝利よりも皆への犠牲阻止を優先し、疲労困憊な体で懸命に剣と溢れる光を抑えようとしてくれたこと。

 俺がそんな英人の想いを聞き逃していたら、唯只管に愚かな程に勝利を熱望し、恐らく背後の悲鳴も苦悶も全て気にも留めず、俺への敬意と闘志を示したせいで巻き込んでしまったと痛み入る英人に対して無慈悲に攻撃し、倒した感激に打ち震えながら惨劇をやっと認識していたかもしれないこと。

 

 

 英人が言っていた「一部の者」は俺を“英雄”扱いするだろう、という自惚れの如き予感に慙愧の想いが込み上げて___

 

 突然、苦痛を乗り越え「太陽の如き笑顔」を向けてくれた、血縁や経歴と関係無く真に“英雄”に相応しいと想わせる勇姿を写した記憶が甦ってきた。

 それが、()()()()()()()を、より強く、より巧く、より優しく己を成長させよと()()()()()()に昇華させてくれた様な気がしたから、気持ちを切り替えることにする。

 

 

 今夜は精神修練と休養を十全に行おう、と自分の個室に向かうことにした。

 

 




 尚、今後の宗次や1-Dの日常描写は一部省きます。
 理由としては、物語途中迄は宗次の内面の変化以外然程原作と変わらないからです。その変化に関する場面や、原作と異なる展開は描きますが、それ以外の1-Dの学園生活や戦いは浅く留めますので、ご了承下さい。

1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合

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