英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今回は原作に於ける【聖剣の英雄伝説】の本作バージョンとなります。

 本編と何が違うかというと、「※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」と本来注意書きすべきにも拘わらず、純粋な史実・ノンフィクションとして世に出ている、そんな話になります。



【護国の剣神と(つわもの)達の英雄譚・ 第1章〔彼誰時(かわたれどき)(そび)え立つ雄大な空❳・26ページ

 

 

「空壱流槍術・全方撃!」

 

「げぐあああああっッ!!」

 

 古来より脈々と受け継がれし空壱流槍術の武威が、全国より勇士の卵達を集められしグラウンドにて、衆目の下に披露された。

 大方の想像とは異なり、“英雄の弟”が“無名の武人”に圧倒されたのだ。

 

 尤もこの趨勢は自明の理であった。

 何故なら此の世は大概の場合に於いて、()()()が物を言うのだ。

 

 天道寺英人は、弱い。

 彼は武術・武道・格闘技は勿論のこと、体育系の部活動や習い事の経験すらない、色白な柔肌の指し示す通り平凡な少年なのだ。

 故に、幾ら賢くとも、夢理想を抱こうとも、大きな期待を背負おうとも、闘いの中で彼なりに踏ん張り工夫しようとも__素人は玄人に敵わない

 況してや彼は、身体能力や運動神経に関して先天的な無類の逸材であった天道寺刹那と違い、()()()()()()()なのだ。

 

 空知宗次は強い。幼い頃から先祖代々の武術を受継ぐべく体を鍛え、技を磨き、心を高めてきた。積み重ねた修練は10年以上、祖父との厳しい手合わせは数知れず。少なくとも幻想兵器不使用ならば、入学時点のエース隊員としては、この3年間に於いて最強と呼んでも差し支えないだろう。

 何よりこの場で強調すべきは心の有り様。伝統と能力に裏打ちされた自信に満ち溢れど、油断や慢心に怠惰とは無縁。故に、足元にも及ばぬ弱者たる英人にも、隙や加減を一切出さない。

 

 片や心意気と知恵しか持たぬ剣士、片や心技体全てが熟練し卓越した槍使い。血統や知名度等という些事を排除すれば、誰であれ後者の勝利を疑わない。

 

 それは弱者にして敗者の烙印が待ち受ける英人本人も同じだ。

 彼は聡明であったが、されど愚昧な男でもあった。

 何故なら彼は、試合を申し込もうと話し掛けられた時点で、空知宗次という男の強さを見抜いていたからだ。

 

 引き締まった頑健な体と其処の僅かな箇所薄っすら見える古傷、自然と効率性が研ぎ澄まされたであろう歩き方、対戦相手を見据える瞳。彼は直ぐ様強者だと察知し__好奇心と闘争心の赴くまま、勝ち目のない初戦に挑んだ。

 

 結果、悪い事に本人の予測は外れず、それどころか戦闘と分析の中で益々実力差が上方修正され、出来る限りの努力と工夫と奮起に励むも、惨敗だ。

 

 英雄の血縁者が何処ぞの馬の骨とも知らぬ強者を打ち負かす。その様な大衆の願望は、普遍的な道理を前に一蹴された。

 それでも尚、相手と現実に打ちのめされ苦痛と疲労に苛まれながらも、英人は闘い抜こうと藻掻いている。

 

 それ故か、審判役の木村先生は決着の合図を告げずに待ち続け、優勢の覆らぬ立場にある宗次は「槍を握れば常在戦場」という祖父の言葉を遵守し備え続ける。

 

 友の勝利をたった独り願い主張する少年、応援している英人の敗北を認めず信じる音姫達。試合の不動ぶりに触発されたのか、場外が騒がしくなりゆくその時__!

 

「__まだだ!!」

 

 グラウンド中に響き渡り場外に静寂を齎したその声は、ふらついても尚剣を支えに立ち上がる弱者(英人)が、腹の底から出したものだった。

 

 そして彼は、槍を構える宗次へと、これ迄にない程の焔が無意識の内に胸中で着き始めたが如き瞳へと真っ直ぐ顔を向け、太陽と見紛う様な満面の笑みで、ありったけの称賛と勝利宣言を言い放つ!

 

「空知宗次よ、誇るがよい!貴様は紛れもなく、今の己より強い!だが己は、必ずや強大なるCE共を打倒し、祖国に光を齎してみせる!故に、敬意を表し、全力で貴様を越えてゆく!!」

 

 驚愕より感嘆より先に、実家での本気の手合わせと同等の警戒を、石突と共に向けた強者(宗次)

 

 そんな正面の彼を尊敬し超越せんとする決意が、国を愛しピラーを打倒せんとする信念が、弱き自分厳しい現実への自覚と変革の意志が、握り締める柄を通して幻想兵器に伝わり煌めいて掲げられる。

 やがて世界に轟く大帝国に至りし島に遺る、古代の物語。其処に記されしアーサー王の栄光を切り拓いた斬鋼剣が、雄々しき若人の叫びに呼応し、遥かな時と場所を超えて原典以上の力を解放する。

 

「エクスゥ、カリバァァァァ!!!」

 

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉無し。

 我に能うものなしと、傲岸不遜にただ単騎(ひとり)

 全ての幻想(ゆめ)を凌駕せんと、王の宿命が発動する。

 謳い上げるは全能の証明。天に轟くは黄金光。

 約束されし絶滅闘争の覇者が、最初の勝利を掴むべく今此処に巨刃を掲げる。

 

 

 敗北間近な筈の少年が具現化した無謬の光が、観衆も審判も尽く心を奪い沈黙させ、其れが振り降ろされ初の勝利を刻み込む展開を見守らせる。

 __唯独り、光を待ち構える男以外は。

 

「__!面白い、上等だ。」

 

 光刃と英人を真っ直ぐ見つめながら、蜻蛉切を握り締め、大地を踏み込む宗次。その胸中には、驚愕と恐怖を埋め尽くす程の、歓喜と興奮と対抗心が燃え盛っている。

 

 __そう、彼もまた、いいや彼こそが英人を応援していた外野よりも誰よりも、眼前の格下(勇者)の奮起と奇跡を熱望していたのだ。

 

 宗次は知っている。端から勝てぬと理解しておきながら試合の申入れを許諾し、持てる全てを費やして挑み、高き壁を踏破せんと知力と気力と凡庸な体力を振り絞っていることを。

 宗次は警戒し期待していた。たとえ熟練の槍術と屈強な肉体差でもって完膚無きまでに倒されようと、不屈の闘志と底知れぬ叡智によって、何らかの覚醒若しくは秘策を発揮し、自分に追い付いてくることを。

 宗次は嬉しくて楽しくて仕方ないのだ。祖父以外に自分と本気の闘いを体験させてくれる初めての相手が、しかもそれが強者(自分)へと立ち向かい乗り越えんと奇跡さえ顕現させて領域に跳躍してみせた弱者(英人)であることが!

 

「頼む、蜻蛉切っ!」

 

 口を歪め、初めて石突でなく真槍を英人へと向けた宗次。

 勝利への筋道を本来合理的に策定するならば、取るべき選択は横への回避、そして側面からの攻撃であった。

 

 威力も規模も絶大だと推定される一方で、鈍重にして一度きりの大技に過ぎないとも予測される光刃。

 苦痛と疲労と幻子干渉能力消耗が蓄積され、剣を掲げる腕も脚も震え、覚醒による振り降ろしが精一杯な上発動中は身動きが取れないと分析される相手。

 故にそうするべきなのは自明の理であり、況してや宗次には完璧に実行するだけの体力と瞬発力と立ち回りの余裕は十全だ。そして彼もその選択は容易に想定でき___

 

「来いエクスカリバー、勝つのは俺だ。」

 

 にも拘わらず下した決断は、真っ向から光刃へと槍を突き粉砕して英人を穿つ。そんな蛮勇にも程がある愚策であった。

 

 何故か?第一の理由は、英人への非礼に対する宗次なりの償いだ。試合を申入れたのは“英雄・天道寺刹那の弟”だから。戦闘中に勝手に失望したのは“英雄・天道寺刹那”と比べて拍子抜けの弱さだったから。そんな身勝手な期待と失望、今迄相手が何度も味わってきただろう先入観や比較。

 それ等を恥じるからこそ、英人の敬意や闘志に満ちた光刃に対し、敢えて正々堂々挑まんとするのだ。

 

 __一方で第二の理由は、斯様に立派な代物ではない。それは至極単純、英人の全力を自らの全力で真っ向から打ち破り有無を言わさぬ勝利を掴み取る事。

 要は戦士としての意地、青臭く馬鹿げた対抗心に過ぎず、本人も重々承知の上で無理無茶無謀へと挑戦したのだ。されど愚行だとて、確かな実力と自負と熱意と決意の基に及べば、闘いに於いては博打、観る者にとっては冒険となり得るもの。

 故に無自覚なれどこの判断は、宗次を応援する者も、対峙する英人さえも魅了しているのだ。

 

 よって、聖剣の光刃と名槍の穂先が、正面衝突を起こし押し合いに至る。

 

「素晴らしいぞ宗次よ!ならばこそ、貴様の全てをこのエクスカリバーにて浄滅せん!」

 

 心の焔を更に滾らせながら、残る全体力をこの一撃に込めるべく圧力を増加させる英人。

 

「お前が国の未来をどんなに重く背負ってようが、それだけで空壱流槍術の伝統は超越できない。その事を思い知れ!」

 

 結果的に温存されていた体力全てを、光を押し退け穿つべく解放し不動不壊の壁が如く耐え抜く宗次。

 

「勝つのは、己だァッ!!」

「勝つのは、俺だっ!!」

 

 拮抗する剣と槍、大地を強く踏み締め一歩も引かんとする両者。

 

「「うおおぉぉォォォォォッ!!」」

 

 何人足りとも妨害不可乱入不可。1秒毎に意志力と幻子干渉能力が上昇し、比例して白熱してゆくせめぎ合い。

 英人とエクスカリバーか、宗次と蜻蛉切か。勝利の軍配の行方を全員が見守る中__

 

バキンッ!

 

 粉砕音が鳴り響く。___さっきまで槍を握り締めていた宗次の手元から!

 

「!?__すまない__」

 

 実力不足により折ってしまった蜻蛉切へ、愛用の名槍を使わせてもらったのに初戦を黒星で飾ってしまった本多忠勝へ、会って間もない仲なのに唯1人自分の勝利を願ってくれた映助へ。

 謝罪の言葉を最期に、宗次は光に覆い隠される。

 

「__ぜぇ、はぁ、はぁ、くっ!」

 

 光刃を完全に振り降ろしたところで消し去り、剣を地に突き刺し両手越しに体重を掛け杖代わりにする英人。

 彼も、映助や審判含めた全観衆も、宗次が立つ場所に残る光や砂埃が霧散する迄見つめ続け__

 

 其処に居たのは、槍を失い倒れ伏す宗次。

 

 挑戦譚(ジャイアントキリング)は、今此処に成されたのだ。

 

「宗次ィッ!大丈夫かッ!?」

 

 然し敗者を目視するやいなや、英人は即座に飛び出す。

 勝利の余韻に浸るよりも、疲れ果てた体を休めるよりも、対戦相手の安否を最優先すべく。

 

 露出した皮膚を観察、外傷見当たらず。呼吸を確認、安定。脈を計測、正常。

 

「だ、大丈夫!?英人君、宗次君!」

 

「お、おい兄弟!どないしたんや!?」

 

 その場へ慌てて集う保科養護教諭や審判役等教師陣と、友の背後で見守っていた映助。彼等に対し、苦痛と疲労が再発してきた中の勝者は__

 

「己はっッ!__いや無事だ。それより、宗次を頼む。一見気を失っているだけの様だが、何かしら傷を負った可能性はある。」

 

 との言葉を残し、ゆっくりとだが着時に足を動かし、よろけそうな体勢を何とか保ちながら、グラウンドから出ようとする。

 

 そんな男を心配して音姫や、英人を応援していた少女達が駆け寄る一方で、僅かに目を覚ましかける宗次は___

 

「今度こそ…試合を……次こそ……」

 

 勝つのは俺だ。

 

 雄々しく見えし勝者の背中へ向けた、誰にも聞こえぬ位小さな決意表明。それを言い終える前に、再び意識が沈む。

 

 

 斯くして、強者(槍使い)弱者(後の英雄)の初戦は、心一つでの覚醒で顕現した奇跡が、幾年の時を掛けて積み重ねられ洗練された武を凌駕する、そんな感動とも不条理とも呼べる決着となった。

 

 そしてこの試合は、真の意味で世界を光で照らす英雄譚の、泥臭くも輝かしき幕開けとなる。

 

 __また、これが2人の英雄の、熱く激しく高め合い競い合う関係の序章、運命の出逢いとの意味合いを有することは、この時点に於いて、当人方のみが予感という不明瞭な形であるものの解っていたのであった。

 

 

>―――――――――――――――――――――<

 

 

「......いや、俺こんなに格好良くはないぞ?流石に美化されすぎじゃないか?」

 

「謙遜するな宗次よ、少なくとも己にとっては正当な評価に他ならぬ。」

 

小説を読みながら、気まずそうに眉間へと皺を寄せる宗次へと、英人は自慢げに諭した。

 

「ワテらにとっちゃホンマに立派な雄姿やったんや、胸を張れや兄弟!......アレコレ終わってから真相聞いたときはびっくらこいたけど。」

 

「私もよ。あの時は「優勢を誇ってたかませ犬を無我夢中で撃退した英雄様」だと称賛してたのに......実際には、その他の巻き添えも把握や考慮してたなんて。」

 

「……俺がみんなを救けられたのは紛れもなく英人のお陰だ。実力云々じゃない、俺は勝利に囚われる程心が弱くて、英人は眼前の勝利以外にも意識を向けられる位に心が強かった。それにしても、何で俺以外に聞こえてなかったんだろうな?記憶では、あの勝利宣言以上の大声量だったのに。」

 

 自虐と称賛の混じった表情を向けてきた宗次に対し、首を横に振り、考察を述べる英人。

 

「恐らく、あの光刃自体に注目が集まった段階で、観衆の認識が聴覚さえ含めて其処へ、聖剣の英雄へと固定されたのであろうな。己の勝利を望む者は格好良く光刃で相手を倒す英雄、宗次の勝利を望む者や危機を感知した者は自分達の犠牲すら厭わない脅威、と。そう認識したが最後、試合が決着する迄不変となり、己への印象を揺るがしかねんみっともない懇願が排除された、といったところか。」

 

 そこで英人は宗次を見据えて、お前こそ英雄だと、誇ってもよいと讃えるような笑顔で言葉を続ける。

 

「対して宗次は、あの場で唯一光刃に囚われず対戦相手を認識して、そなたの言を信ずるならば己の全身の状態や表情を観察し集中し予測していた。故に己の言葉を一語一句違わず聞き取りその内容を理解し、斯様な雄姿を発揮し見事自分1人の気絶程度で被害を抑え、友を民を守り抜いた。改めて、感謝と敬意を表しよう。」

 

 臆面もなく語る英人。槍使いの友と英雄の幼馴染役が、既知でこそあるが想像以上に高く大きく重い評価と好意を見せられたことで絶句しているのを横に、宗次は口を開く。

 

「…………分かった。そう言ってくれて、少しは気が楽になった。ところでだ、何で作中の俺はあそこで技名を叫んでるんだ?」

 

「いやそこツッコむんかい!?」

 

「作劇上の都合だな。唯心中で呟く程度では折角の試合なのに味気なく、またそなたの気概と己との優劣を簡明に読者へと伝えるべく派手に脚色された訳だ。」

 

「......例の懇願は?書かれてなかったんだけど。」

 

「己としては、醜態であろうと事実だから何方でも構わんのだがな。制作に携わった同志日く、惨めな発言をありのまま記すよりも、己と宗次の熱き闘い、決意が起こした奇跡と武術の達人が激突し拮抗した末前者が押し勝ったという単純な形式の方が物語として綺麗だから、光の発現から勝敗迄の過程はこう描写する、とのことだ。」

 

 仕方なかろう、と嘘偽りの素振りが見えぬまま弁解、というより説明する英人。

 

「英雄譚編集に於いて、己の権限はあくまで参考資料の一部として求められた情報提供位故に、同志であろうと担当から断られては容認せざるを得ない訳だ。納得してくれたか?」

 

「「…………」」

 

 嘗て啀み合っていた男女2人が、共に同じ思いで訝しむのに対し、宗次は理解した様子に変わる。

 

「分かった。あと、そろそろ向かわないとな。」

 

「嗚呼。特高同窓会、折角他の方々に頼み込んで暇を頂いたというのに、「大事な予定で遅刻ですか、折角1度目は我々が何とかしてあげたというのに、反省と対策はどうしたんですか?」と非難されるのでな。」

 

「……なぁ()()、英人ってやっぱ、天然……」

 

「……はぁ、こんな奴に入学式から振り回されていたなんて……」

 

 英人と宗次は歩みを進め、映助と月夜は呆れ顔でついて行くのだった。

 

 

 





 文章後半の形式につきましては、笹木さくまのファン様からお借りさせて頂きました。
 この場で感謝を申し上げます。

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