英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

23 / 82
第16話 特高生活と苦痛

 

「こら英人、態々幼馴染の私が来てやったわよ!起きなさいっ!」

 

「__嗚呼、朝か。お早う音姫、起こしに来てくれて感謝する。」

 

 午前7時、幼馴染役の月夜が任務の一環として来室したことで目が覚め、起き上がりながら試合の疲れが残っておらぬと体調を確認して、彼女に後で向かうと告げて行かせ、制服に着替えた上で共に部屋を出る。

 降りてから弁当を受け取り朝食を済ませ、親衛隊全員を伴って寮から校舎へ、そして1-Aの教室に入る。

 

「す、凄い……!最高に豪華じゃないの!」

 

 初めて見た光景かの様に月夜が評したが、確かにそれは英雄を毎日もてなすべく用意された極上の空間であった。

 人体工学に沿って設計された高級品の椅子と机、1人1台ずつのタブレットPC、教室の前方には液晶ディスプレイ、後方にはドリンクバーと軽食コーナー。当にいたり尽くせりの環境が、己の満足感や特別意識を保ち肥大化させんと用意されていた。*1

 

「こんなに立派だなんて、英人も嬉しいよね!」

 

「__そうだな、大したものだ。」

 

 こんな事に血税を費やさずとも本当は問題ないのだが、だの厚遇するのなら金属板やパイプで囲ってもっと暗く機械的にしてもらえたら最上なのだが、だのといった感情を表に出さず同意した。

 

 着席して開始時刻を待つ内にスピーカーからチャイム音が鳴り、丁度その時に教室の扉が開かれた。入室した教師にして監視・統率役は__

 

「おはよう諸君。私はこのクラスの担任、色鐘綾子だ。」

 

 長い黒髪を後ろで纏め、三角形の眼鏡を光らせた三等陸佐であった。

 己を一瞥し、複雑な感情を押し殺して教壇に立ち話し始める。

 

「諸君、改めてACE隊に、1年A組にようこそ。この学校はCEから日本を守り、世界を救う戦士の為の養成所だ。そしてこのクラスこそが、その理念を最も実現する可能性を秘めた、英雄の資格を持つ者達となる。」

 

 第3期生A組とは、機械仕掛けの英雄御本人様とそれを取り巻き操る親衛隊で構成された主演部隊故に。

 

「何故ならこの場の全員が、強大な幻想兵器に選ばれた、ACE隊最強最高の戦士に至って然るべき存在だからだ。よって、誇りと希望を抱いて任務に邁進してくれ。」

 

 そこで一息ついて、本音本心の混じった声色となり話を続ける色鐘。

 

「だが、資格を有するからといって直ぐに、そして必ず無敵の英雄となれる訳じゃない。CEは依然として脅威だからだ。先ずはこれを見ておけ。」

 

 そこからは、己や親衛隊員の精神状態に悪影響を及ぼす懸念を踏まえても尚知らしめて注意喚起しなければならない、そんな思いが感じ取れるようにCEの説明が行われた。

 

 最初にディスプレイに映し出されたのは、CEの攻撃を受けて意識不明の昏睡状態に陥ってしまい、瘦せ細りながらベッドに横たわる患者の様子。治療方法は6年経っても未だ不明。

 次に松本市内の戦場風景、非現実的な六角形の結晶体が、中心の赤い球体から光を放ち、それを浴びた市民が耳を覆いたくなる絶叫を上げて倒れこむ様も流れていた。

 

 演技困難なまでに気分を悪くさせる一部の者。仕方ない、親衛隊の大半はCE被害により親族も家も失った孤児から選抜されたのだから。

 

「大丈夫か、竜宮(たつみや)。辛ければ保健室にでも同行するが。」

 

「⁉……いやうん、ただちょっと、ね。」

 

「色鐘先生、トイレに行きたくなったのだが一旦中断してもらえないか?」

 

「あ、ああ。構わんぞ。皆も5分休憩を取るから、お手洗いに行きたくなったら今済ましておくように。」

 

 先に立ち上がり部屋を出る。廊下から他の教室を見れば生徒が数人、各扉から出てきていた。

 小便を済ませ、女子トイレを外から何とか窺い親衛隊員数名が出てきた所を隠れて確認してから教室へ戻った。

 

 その後はCEの攻撃性能*2と、CE被害は最小限に抑えられておりエース隊も昨年度犠牲者皆無、という前向きな現状、そして警戒心を植え付ける注意喚起で話は締められた。

 

「以上、理解したか?なら今からCEに負けない体力と連携を培うべく、体育の時間だ。今から即刻ジャージに着替えてグラウンドの芝生エリアに移動しろ。」

 

「「「は、はい!!!」

 

 と指示を受けたので、皆が持参したジャージを取り出した。己も用意してきたが当然教室から出て、隣の小部屋で着替えて服をそこに置き向かうのであった。

 

 

 1-Aの訓練内容、それはフットサルである。しかも部活動の様な本格的スポーツではない。ある程度体を動かし協力しながら、和気藹々と()()だけの代物だ。

 兵士としての鍛錬どころか、一般的な高校生の体育授業にすら劣る内容故、己にとっては余りに生温すぎて満足いかん、のだがだ。機械仕掛けの英雄に過度の負荷を日常的に掛けて幻想兵器使いとして劣化させる訳にはいかない、という計画をずらし己の実態を露見させられない。それに、唯でさえ過酷な任務を背負わされた状態で、更なる負荷を親衛隊員に掛けさせるのも問題だ。

 

 よって、己は初回に於いて全親衛隊員の動きの癖や思考パターンの分析を専念することに決めていた。

 

「征くぞ音姫、取ってみろ!」

 

「ってちょっと強く蹴らないでよ、全く!」

 

「見てたけどやったわね英人君!次は私とチーム組みましょ!」

 

 それはそれとして、勝負事は無論、本気で取り組み、ついでに皆の接待プレイの仕方も分析しておくことにする。

 

「……。」

 

「どうした?よそ見して。」

 

「いや何でもない。さあ続けるぞ、次もまた次も、勝つのは己だからなぁッ!」

 

 茶色い乾いた土の上を走っている1-D担任の大河原と宗次、彼らに必死に追いつこうとしている遠藤。

 彼らと共に駆ける方が、余程有意義にして楽しかろうに。

 息を切らさず安定した調子で走る宗次に、実際には追いつけなくとも汗水垂らして競争してみたい、と脚が疼くも、露わにできる筈もなくフットサルに興じるべく心を切り替える。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 訓練を終え、小部屋で制服に着替えて教室に戻り、座学*3を2,3科目受け、昼休みが訪れた。

 

 空間を広く確保してはいるものの、人に椅子に机にと詰められた、少々狭苦しく見える食堂。その一番奥に向かってみれば、教室同様特別豪華な1-A専用エリアがあった。

 

 __其処はまるで高級料亭の様だった。置かれた上質な畳と机。陽光や外に植えられた花で安らげそうな縁側。配られた料理も会席料理同然の御馳走で、高価な緑茶が奇麗な茶碗に注がれていた。

 

「……すっごく美味しそう!一緒に食べよ!」

 

「__嗚呼、是非とも感謝して頂くとしよう。」

 

 栄養補給さえできれば十分な己にとっては極めて勿体ない贅沢な献立ではあるが、種類に結果的に文句付けて変えてもらった*4身で更に我儘を主張することは憚られるので、食材や生産者に調理人、用途を知らずに費用を負担してくれた民草へと感謝を込めて頂く。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 昼休みが終わり座学を数時間受け、本日最後はグラウンドにてジャージ、そして幻想変換器を身に着けて行うのであった。

 

「この時間は改めて、幻想兵器を使った軽い打ち合いをしてもらう。昨日は()()()()()、エクスカリバーに選ばれし天道寺の活躍が凄まじかったあまり、実働時間を設けても皆集中できなかっただろうからな。」

 

 己の暴挙・醜態を何とか誤魔化そうとしながら説明する色鐘。周囲から向けられるのは親衛隊らしく憧憬や好感の込められた視線。

 

「昨日、保科先生が説明したように、変換器を着けた諸君らの体は、幻子装甲という一種のバリアに覆われており、怪我をする危険はない。」

 

 キーワードが必要な幻想兵器と違い幻子装甲の方は、使い手自身の防御本能を基にするだけあって自動で起動し、己含め生徒全員の体が既に透明の力場を纏った状態にある。要するに変換器を装着している限り、策や生半可な威力が無ければ、たとえ武装化せず油断に満ちた状態への不意打ちであろうと傷1つ付かない訳だ。

 

「しかし、攻撃を受け続ければ、諸君らの幻子干渉能力が限界に達し、幻子装甲も幻想兵器も消えてしまう、という話も聞いているな。」

 

 幻子装甲は身体を全体的に満遍なく覆っており、意識的に特定部位へと集中させない限り何処に負荷が掛かろうと消耗度合は変動しない。そして幻子装甲も幻想兵器も源は唯一認識力のみ故に、使い手に外部から掛かる負荷は幾ら微々たるものであれ幻想兵器の維持性・継戦能力を削ってしまう。

 

「幻子装甲が半減すれば一度警告のアラームが鳴り、更に限界寸前になればアラームが鳴り止まないように設定されいる。しかし、戦いに熱中して音が聞こえず、攻撃を続けてしまったという事もあるだろう。よって試合の際は必ず、相手の装甲が半減した時点で双方の幻想兵器が自動でロックされるように設定してから始めさせてもらう。」

 

 昨日の己の如く、勢い余って相手の身体に被害を与えてしまう事態を防ぐべく。

 

「という訳で、試合をしたければ双方共に私に、見当たらなければ別の先生にでもいいから絶対申し出るように。無断で幻想兵器を用いた私闘に及ぼうものなら、幾ら()()()()だろうと相応の処罰を下さねばならん。これは学年学級問わず共通の規則だ。以上、では対戦相手を決めて2人1組で私の下へ申請せよ。」

 

 説明が終えられたところで、騒がしい雰囲気に変わる親衛隊。彼女等の顔が一斉に己に向けられる。

 

「英人さん!私と対戦しませんか!?」

 

「いいやあたしよ!」

 

「……私も、闘いたい。」

 

 と全員が己を指名し、己の相手を立候補して争うのだが__

 

「済まない皆、己は真っ先に申し込まれた相手を選ばせて頂く。という訳で音姫よ、昨日は断ってしまったが、詫びとの表現も何だが己と改めて闘ってくれないか?」

 

「え!?私?……全くしょうがないわね英人!いいわ受けて立とうじゃない、幼馴染として!」

 

 よって皆に頭を下げつつ、月夜と共に色鐘に申請し、グラウンド中央へと向かう。選ばれなかった彼女等も切り替えて我等の勝負を観戦する動きを見せる。

 

「では天道寺英人、千影沢音姫、これより試合を行う。始め!」

 

 ある程度距離を取った位置で注目する他の親衛隊員に、同じく離れて合図した審判役の色鐘。その様な状況下で己と月夜は向き合い、幻想兵器を起動させる。

 

「「武装化ッ!!」」

 

 何方も両手剣ながら、片や綺羅びやかな装飾の施された、イングランド発祥の物語に記されし聖剣。片や赤黒く煌めく北欧神話に記されし呪いの魔剣。

 

「先ず私から行くわよ、英人!」

 

「掛かってこい、音姫!」

 

 先手は月夜。剣を横に振り被って突進し、此方が防御体勢に移行した直後、()()()()()()斬り掛かってくる。

 

「はぁーっ!やぁーっ!どうしたの英人!守ってばっかじゃ私を倒せないわよ!」

 

「無論だ、勝つのは己なのだから。」

 

 相手の剣戟を同じく剣で受け止めてを繰り返し__分析完了。

 情報や予想を外れぬ話であるが、月夜は__己が程良い緊張感や手応えを味わった上で勝利できるよう手加減している。

 

 当然だ。[機械仕掛けの英雄]が想定する天道寺英人の在り方とは、幼稚な全能感と自尊心に満たされて勝ちたいと願う戦いでは常に勝利せねば自我を保てない餓鬼なのだ。あっさりとしたつまらない勝利だと満足させられぬが故それなりに張り合う戦闘(お遊戯)位には成り立たせねばならず、然し最終的に予定調和の如く必ず負けてやり勝利の美酒に酔わせることが、試合に於いて月夜含めた親衛隊員に求められる戦法(振る舞い)だ。

 

 よって己にとって親衛隊員との試合は、思い込みの強さを増幅させるとの意味合いで()()()()といえるが、経験や技巧、心構えや知恵に勝負勘を培う()()とは呼べぬ。

 勿論それは不満だが、更に加えて、想定された()()()()なら兎も角己にとっては極めて生温く、少なくとも昨日に比べれば心底退屈でしかない。

 

 尤も、そんな本心彼女等には秘匿している上に、あくまで本人達も任務の一環で対戦して(遊んでやって)いるのだ。文句を直接ぶつけるつもりはない。

 なのでせめてこの接待試合を、素人の身である己が宗次に少しでも追い縋れるよう有効活用させてもらうとしよう。

 

「隙やり!たーーっ!」

 

 己の脇腹に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()切り込みが迫ってくる。それを己は敢えて留まりながらカウンターを狙い___

 

 さて、幻子装甲とは自己の生命を守らんとする防御本能が、幻想兵器と同じエネルギー源から消費され、不可視のバリアという形で発生した鎧だ。

 これによって、小銃弾やCEの光線すらも弾き返すことができ、しかも衝撃どころか痛覚さえもある程度身体に通させない。

 

 ならば、もし防御本能を抑えることで、幻子装甲に費やされる分の認識力の一部を、幻想兵器の出力や身体能力の強化に転用できるとしたら?

 鎧を削ぎ落して防御力低下を引き起こすのと引き換えに、攻撃性能や機動力を高めることができるのでは?

 例えば刹那が考案した集中幻子拳という技は、幻子装甲を拳に集めることで、全身を覆う防壁が薄くなる代わりに拳撃の破壊力を増強させる。ならば変換器から発生する幻子製武装全体でも、同じ調整が可能かもしれぬ。

 無論、強大な破壊力・殺傷力を有する幻想兵器を生身で受け止めるなど自殺行為でしかないが、幻子装甲を唯封じるつもりはない。即ち、抑える防御本能の種類を選んで制限すればよいのだ。自らを守りたい、と一言で言い表せても防御や回避の対象は複数存在する。例えば死そのもの、傷、肉体の欠損、或いは過去のトラウマの再現。

 その中で己が抑制するのは痛覚。動作に及ぼす支障は()()()()()で最小限に留める。

 実戦でいきなり試す訳にはいかんが、対人の試合なら失敗による死亡や重傷の危険が限られる。加えて己対親衛隊員であらば、相手は相当加減して攻撃してくる。故に、この様な思惑は伝えられぬ以上、接待試合は適切な検証機会だ。

 

 

 静かに息を吸い、痛覚限定での防御本能を抑えて剣の力を高めんと意識を研ぎ澄ます。そして、月夜のダーインスレイブが胴へと迫り、直撃し___

 

 ぐガあ゛あ゛ア゛ア゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッゥオおお゛お゛オ゛オ゛う゛ぅゥッ何のこれしきいィィッッまだだっ!!」

 

「⁉きっキャアァーーーッ!!??」

 

「ッッなあっ⁉おい音姫大丈夫か⁉………勝者、天道寺英人!」

 

 己にとっても月夜にとっても想定外の力で吹っ飛ばされ倒れた対戦相手。2つの音源からけたたましく鳴り響くアラーム。驚愕と心配に飲まれるも切り替えて審判(持ち上げ役)として叫ぶ色鐘。

 

 __振り返ってみると、先程己は、苦痛からの奮起で無意識に剣を振り回して、月夜の幻子装甲を切り砕く感触と同時に__それでこうなったようだ。

 

「す、凄いよ天道寺君!次は私と!」

 

「ズルいわ私とよ!」

 

「いいやあたしとだ!」

 

「__嗚呼そうだな、だが休憩したいので少々待って頂けないか?」

 

 詰め寄る親衛隊員にそう言いながら、月夜の下へ足を運ぶ。

 

「音姫、怪我はないか?素晴らしい試合であったぞ。」

 

「……ええ!英人ったら強いわね、私は無事よ!」

 

 立ち上がる姿勢と向き合う表情を見るに、その言葉に嘘はなさそうなので一先ず安心した。

 

 それにしてもだ。あの時点では今までにない激痛だと感じられたが__今だと、あの感覚が大袈裟なように思えてくる。

 

 何せ前世の、満を持した機生初の戦闘では、磁性を有した放射性分裂光とその直後に斬撃を喰らい、第一の覚醒で内臓機関複数壊滅、第二の覚醒で体温が融解寸前に上昇、第三の覚醒で金属細胞生成直前にて傷痕からの身体崩壊、そして最期の斬首。

 それに比べれば、()()()()()()()()()()()()()、普通に堪えてそれなりの力でカウンターを放つなど造作もない筈だが__心当たりとしては、機体が2度の覚醒を許容できる程度の耐久性として製造された戦闘兵器か、戦闘や負傷どころか運動さえ6年間全く行っていない貧弱な凡人か、だろうな。

 

 ならば今度は、痛覚の耐久限界を分析し考慮した上で試合に望み、先程の高威力が幻子装甲削減分の出力転用の産物か、奮起による認識力の上昇か、或いはその両方か検証していかねばな___と方針を修正し、他の親衛隊員の申し出に応じていく。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 休憩を挟みながら試合を連続で続けて、2日目の時間割は終了し、食堂にて昼休み同様に夕食を頂き、寮に戻って入浴する。

 1人で体を洗って湯船に浸かり、疲れを癒す。

 

「__試合は実に大変だったが、有意義な時間となった。」

 

 あの後の試合は己にとって全て、接待を心掛けて相手する親衛隊員に対し、防御本能の効率的な絞り方と適切な体裁きの構築と痛覚の順応を挑戦することの繰り返しであった。

 

 結論からいえば、本来幻子装甲に回される筈の幻子や認識力の一部を、幻想兵器の出力上昇や身体能力の一時的な向上に転用することは可能であった。

 防御本能の抑制度合や抑制対象、転用する力の流動、認識力の節約法、効率性・持続性・機動性等を考慮した幻子製武装の最適な比重。更に前世の記録からの模範と対人戦経験を基にした現状の身体能力に合う理想的戦闘動作の構築及び更新。

 何より痛覚に慣れる丁度良い機会であった。試合の度、検証の為攻撃を装甲で受ける度に激痛や衝撃が伝わってきたものだが、徐々に思考や体勢の立て直しが効くようになり、また月夜戦の如く無意識に過剰な威力の攻撃を当てることがなくなってきた。まぁそのせいで試合終了時は毎回疲れが残り汗も生じ、顔に表れたのか対戦相手から心配されてしまったがな。

 とはいえまだまだ不十分極まりないので、今後の試合は常に密かに実行し順応と検証を重ねてゆくつもりだが___もう一つ理解したことがある。

 

「宗次の奴、相当な力と集中、そして闘志を込めて己を攻撃してきたようだ。」

 

 防御本能抑制を行わず幻子装甲は仕様通り全開で、にも拘らず戦闘続行が困難になる程身体に痛みや衝撃が響いてきたのだ。幾ら奴にとって己が隙だらけであったとしても、幻子装甲を越えて痣を複数刻んでのけたということは即ち、槍術の練度と勝利への意志の凄まじさを指し示す。

 諦めるという選択肢はそもそも論外な上に、宗次と交わした再戦の誓いを反故にするも同然。しかし、挑み競い乗り越えるべき壁は余りにも壮大で重厚だ。

 

 ___嗚呼全く、俄然やる気が湧いてきたとも。己は勝つ。必ず勝つ。相手が己より遥かに努力と修練を重ねた心技体の完成者だろうと。

 

 そういえばもう少しで男子から女子の入浴時間に入れ替わるが、確か台本だとその境目にて幼馴染役(月夜)が1人で__

 

 出入口の辺りからガラガラと音がして、振り向けば態々一糸纏わぬ姿が、予定時刻通りに現れた。

 

「おっ、音姫よ、何故だ!?」

 

「英人こそ、どうして……って、きゃあぁーっ!」

 

 突然気付いた風に悲鳴を上げてうずくまる月夜。

 

「済まない、今直ぐ出る故__と、危ない危ない。」

 

 彼女に合わせて湯船から上がり、()()()()()()()()()石鹸を拾い上げる。

 

「あ、英人?何やってんの!?恥ずかしいから兎に角……え?」

 

「いや、石鹸が落ちていたので元の所へ戻そうと思ってな。それと申し訳ない、どうやら時間を忘れて寛ぎ過ぎたらしい。」

 

 芝居だとしても、女性に恥ずかしい思いはさせたくないし、穢してしまうのも忍びない。付き合い切れなくて悪いな。

 

「もう出るから、ゆっくり休んでくれ。後、風呂場は滑り易い上に、この石鹸の様に転びかねない代物がまだ他にも床に落ちているかもしれん。足下に気をつけてくれ。それでは。」

 

「………………あ、ありがと。」

 

 

 斯くして1人で大浴場を出て、着替えて自室に戻り、昨夜同様室外の見張りに発覚されぬようヘッドホンで互いに報告し合い、眠りにつく。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 尚、入学前に仕入れた情報に拠ると、もしも異性の入浴時間に過失でなく故意で入り又残った、若しくは企んだ場合だが。

 入学以前の身辺調査の一環として性格分析目的で収集した図書館の貸出記録や通販サイトの購入記録から、当人の性癖発覚に繋がる書籍をクラス内にて公表する処罰法が採用されている。

 

 実際2031年度以前にも、そして後に聞いた話だがこの晩にも未遂既遂問わず事例が存在している。

 

 __己にとっては様々な意味で無縁な話であるが。

 

 

*1
因みに、A組以外は黒板であり、B組は軽く傾斜した床に長机が並んだ大学風、C組はパイプの椅子や1人用の机が並ぶ小・中学校風、D組は全木製の2人掛けの机と椅子のみとなっている。尚、影山案ではD組だけ温度管理は石油ストーブしか認めない方針であったが、幾ら4世紀先に比べれば夏期平均気温が大層涼しいとはいえ、流石に健康面で看過できぬ故、機関の働きかけもあって全室に最新のエアコンが設置されている。

*2
今は程度が判明されている。防弾ジャケットやライオットシールドでは防げず、戦車の装甲や分厚いコンクリート壁なら防御可能。即ち光線の貫通力はアサルトライフル以上、アンチ・マテリアルライフル以下である。尚幻子装甲はこれを十数発程耐えられる。

*3
内容は普通科高校同様の科目、同等のレベルのもの。暫く日数が経てば戦術論や軍事技術等軍隊らしい科目も追加されてゆく。己にとって大概の科目は至極簡単な授業となるのだが、無論簡単だろうと本気で学び取り、一方で知才を悟られぬよう参加態度やテスト点数を一般的な16歳平均程度に調整することになる。

*4
特高で提供される食事について確認した際、己が「千歩譲ってA組のみに高額の美食を用意する、のは仕方ないとしても、己含め特高生は皆日本人なのにフレンチとは奇妙なものではないか?」とうっかり呟けば、通信していた同志が「ならば直ちに和食へと変更させておきます!大和万歳!」と言うや否や連絡を切ってしまい、特に続ける話もなかった上に数日で変更を報告してきてしまった上、食材の内国産品の割合を増加且つ費用削減や第一次産業の経済効果を論理的且つ統計的に提示、という訳で叱るに叱れず、事後的に了承する羽目になった。





 感想や指摘に質問等、お待ちしております。

 因みに色鐘現1-A教師や、同級生という名の親衛隊員視点での話は後々書き出します。

1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合

  • 前半後半等と文章を分割すべき
  • 制限内なので1話分として投稿してもよい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。