英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 感想や質問に指摘等、お待ちしております。


第17話 一週間と月影

 

  3日目、教室内で授業を受けていた午前中のことだった。

 

ウゥーーーッ!

 

 突然、CEの侵攻を報せるサイレンが鳴り響く。存在こそ事前に伝えられたものの聞くのは初めてな親衛隊員、その一部がざわめきだす。

 

「静かにせよ。そのまま着席していろ。」

 

 色鐘が呼び掛け収めた直後、教室の外から何十人もが一斉に廊下を走る、ドドドッと雪崩のような音が聞こえてくる。

 

「先生、今のサイレンとこの足音は何だ?」

 

「CEが襲撃してきたから、2年と3年が出撃している。」

 

「己も出向いた方が」

 

「まぁ待て、天道寺も皆も。幾らこの1-Aが英雄たり得る部隊だからといって、実戦はまだ早い。折角だ、これからCE襲撃から撃退の流れを見学する。」

 

 このやり取りで落ち着いた親衛隊員達も含め、皆が液晶ディスプレイと色鐘に注目を集める。

 

 最初に映し出されたのは、妙にグラグラと揺れながら、走る人の群れの映像だ。

 

「エース隊員は出撃時、カメラと通信機が内蔵されたヘッドセットを着用する。これは出撃準備をしている、とある3年の撮った映像だ。」

 

 大型のヘッドフォンに似た装備を被り、腕には幻想変換器を身に着けた上級生達が、慣れた動きで校舎横の格納庫に走り込み、その中で発進準備を始めていた装甲車に飛び乗っていく。その様子が中継されている。

 

「彼等は防衛ラインである軽井沢方面へと向かい、到着次第戦闘を開始することになる。」

 

 その説明の後、装甲車内にて両側に向き合った状態で座り楽しげに談笑する計12名の姿が流れる。

 

 __嘗てアドラーの政府中央棟(セントラル)から収集していた、兵士の日常に関する情報記録。

 第37代総統以前(暗黒の血統派時代)にさえ存在していた、戦場という極限状態を生き抜く為にも必須な、緊張を解いて明日死に別れるかもしれぬ戦友と信頼を深めながら息抜きに励む軍人の日々が其処にもあった。

 

「さて、もう到着する頃だ。」

 

 装甲車がゆっくりと停止して、上級生達が素早く降車を始めた。

 

 カメラが捉えたのは、軽井沢より少し進んだ先、長野県御代田町の光景。

 6年前では古寺とゴルフ場、そして畑位しかない、寂れた田舎であっても静かで穏やかな空気に包まれた町。

 されど今映し出された御代田町にあるのは、ただ一面の焼け野原。

 CEとの度重なる戦闘によって刻まれた、鉛玉と炎の破壊跡だけであった。

 

「CEの、せいで……」

 

 テレビでも何度か流され、ネットを探せばいくらでも見つかる光景。

 それでも、3年生の視点で見る御代田町の生々しい破壊の跡は、彼女らに恐れと怒りを湧かせ、或いは想起させるのに十分だろう。

 

「慣れろとは言わん。だが今は上級生達の動きに注目しろ。」

 

 憤りや怯えの情念が生じてきた教室内に、色鐘の優しい声が静かに響いた。

 

 次に衛星から捉えた御代田町の写真がディスプレイに表示された。西の方向、ピラーの存在する長野県松本市方面から近付いてくる、光り輝く群れが写っていた。

 

 直ぐに隊員からの撮影映像に切り替われば、其処に結晶体の怪物、CEが登場し、直後上級生が一斉に動き出す。

 

「射撃隊、前へっ。」

 

 弓矢や投石器に投げ槍と、21世紀の戦場に於いて本来時代遅れの飛び道具を持った少年少女。彼等が隊の前列に出て、CEの接近を待ち__号令が発せられる。

 

「放てっ!」

 

 必中必殺の幻想を、逸話を備えた矢や弾に槍が、生き物の如く宙を駆け、先頭を進んでいたCEの中心部にある球体を貫く。

 

「あの赤く光る球体が奴等の弱点、“コア”だ。破壊しなければCEの体が再生するから決して止まらん。」

 

 色鐘が解説中も、次々と結晶体がエース隊の飛び道具に貫かれ消滅していく。

 されどCEの軍勢は止まらず、半数程消滅した所で前列の弾切れも確認された。

 

「射撃系の幻想兵器は使用分で幻子干渉能力*1を消費して、やがて幻子装甲の維持もできなくなる。だから射撃武器の使い手はよく注意せよ。」

 

「「「はい!!」」」

 

 射撃系の幻想兵器に選ばれた親衛隊員達が真剣な顔で返事した。

 

「盾隊、前へっ!」

 

 次の号令に合わせて、射撃部隊と盾を構えたエース隊員が前後に入れ替わる。

 

「盾の幻想兵器は幻子装甲より遥かに頑丈で、CEの攻撃を何十発も防げる。常に最前線へと立ち味方を守り切る、最も危険で重要な役割だ。心しておくように。」

 

「「「はい!!!」」」

 

 盾系の幻想兵器に選ばれた親衛隊員達も、同様に返事をした。

 一方でカメラに映る上級生達は、構えながらCEの接近を無言で待ち続けている。

 

「前にも話したが、CEの攻撃は射程が約30mと短い。我々の方から飛び出して体力を消耗するより、待ち構えて迎撃する方が楽だ」

 

 そう頭で分かっても、ゆっくりと敵が近づいてくるのを、目の前で待つ緊張感は如何程のものか。

 耐えかねて突撃しかねない味方を、号令を上げていた女性が上手く堪えさせており、相当な信頼と経験と実績を培ってきた戦歴が窺える。

 

「まだだ、焦るんじゃない、もっと引き付けるんだ。」

 

 刻一刻と過ぎてゆく時間、迫りくるCE、高まる緊張状態、そして__

 

「今だ、全員突撃っ!」

 

「「「うおおおぉぉぉーーーっ!!!」」」

 

 雄叫びを上げ、上級生達は一斉に駆け出した。

 

 先頭を走る盾役達が30mの距離を切った瞬間、CEの群れから一斉に赤い光線が放たれる。

 しかし、タイミングも狙いも正確すぎる攻撃は、それ故盾役によって捕捉され伝説の盾で容易く防がれ、火花を上げて四散する。

 

 そして、次の攻撃が始まる僅かな合間に、エース隊員の花形、近接部隊がCEに躍りかかった。

 伝説の剣が、斧が、槍が、槌が、火を噴き雷を轟かせ、結晶体を両断し、粉砕し、貫いていく。

 

 己が結果的に新西暦へと齎した、個の兵が時代遅れな筈の武勇と未知なる超常的な異能を発揮し猛威を振るう戦場。それを彷彿とさせる闘争が、同じ人類や機械兵器でなく異形の人外相手に行われていた。

 

「CEの光線は脅威だが、約5秒に一度程の頻度でしか発射できないと既に把握できている。この間隔を体に刻み込まなければ、英雄の資格を有していようと生き残れないぞ。」

 

 同士打ちを避ける知能はあるのか、後続のCEは前方に味方がいれば、攻撃を控えてる様にしているらしい。

 おかげで、突撃した近接部隊は大した反撃を受ける事なく、目の前の敵を1体ずつ確実に仕留めていく。

 

 とはいえ、光の速度で放たれる攻撃を()()()()程度では全て避けられるはずもない。

 最前線で戦っていた斧使いの藤村が、運悪く集中砲火を受け、変換器がけたたましいアラームを響かせた。

 

「藤村、退きたまえ!河野、替わりに前へ!」

 

「分かった!」

 

 乱戦の最中でも混乱せず、的確に指示が飛ばされて、藤村は余裕をもって前線から退き、隙を生じさせずに河野と交代した。

 

(「先山麗華(さきやまれいか)、やはり第一期生の実質的な指揮官を務めるだけあってそれなりに采配も上手なものだ。」)

 

 今年1月のある日の夜中にて、他教職員が[機械仕掛けの英雄]に関する雑談を偶然聞かれた上、入室して彼等が晒してしまった挙動不審な様を見られ疑惑の表情を浮かべたので、もしかしたら悟られたかもしれない、とその場の同志から報告されていた彼女。

 然し戦場でも校舎でも寮内でも、不調や不審は確認されなかった故、計画に行き着いておらぬか推測しても態度に変化を来さずに済んだ、と見做しており、少なくともこの中継映像、及び彼女の昨年通りの優秀な状態からは問題無しと窺える。

 

 そんな彼女のカメラが映す光景に於いて、CEは見る間に撃滅され、やがて最後の1体が打ち取られ、人類の敵は全て粉々の欠片となって地面に散らばった。

 

「状況終了、第二陣がなければこのまま帰投します。」

 

「了解、ご苦労様でした。」

 

 保科の労いを聞いて、上級生達は警戒しつつも帰る準備を始めた。

 

「以上で作戦は終了だ。ここ数年、CEは今回のような小部隊を繰り出してくるのみで、此方から仕掛けない限り、6年前ほどの大部隊を展開してくる事はない。そのため、現在のような睨み合いが続いているというわけだ。」

 

 と本日の戦闘を一旦締め括った色鐘は、新しい映像を映し出す。

 それは上空からの衛星写真で、群馬から南西に200㎞以上離れた名古屋周辺を撮ったものだった。

 

「今回、CEは東日本方面にしか進行してこなかったようだが、当然ながら西日本方面へと進行する事もある。これは1ヶ月ほど前、それを撃退した自衛隊の映像だ。」

 

 名古屋より30㎞ほど東へ進んだ先の岐阜県中津川市。

 御代田町と同様に人の姿が消え、建物すら焼け落ちて荒野と化したそこに、CEが群れをなしてゆっくりと進んでくる。

 だが突然、無数の轟音と土煙が上がり、砕けたCEの結晶が宙を舞った。

 

「FH70・155㎜りゅう弾砲、および99式自走155㎜りゅう弾砲による間接射撃だ。」

 

 色鐘が説明する間も砲撃は延々と続き、既存の物理兵器によってCEを粉々に粉砕していく。

 それを無言で見続ける親衛隊の表情には、感心や興奮の色が微塵も無かった。それは恐らく、CEの厄介極まりない性質を既に把握しているからだろう。

 

 暫くして砲撃は止まった。生じた土煙が自然の風で吹き飛ばされてゆく。やがてその地点にて現れたのは、ガラス片のごとく大地に散らばった結晶と、その中でまだ光を放つ赤い球体。

 

「見ての通り結晶でできた体は砕け散ったものの、このコアは残存している。そしてCEは、コアを破壊しない限り活動を止めない。加えてコアはバリアのような物で厳重に保護されているらしく、並みの砲撃では表面しか破壊できない事が多い。」

 

 唯、映像内の地面には割れて光を失ったコアも散見されており、決して砲撃が無駄だったわけではない。

 

「後は戦車で接近し、外さないよう至近距離からコアを破壊して回るのだが、この時が最も気を使う。」

 

 色鐘は、地面に半分以上埋まったCEコアの動画を映す。

 

「これは敵を研究分析するため、敢えて破壊せず放置しておいたコアの映像だが、見ていろ。」

 

 百倍速で流れる動画の中で、球体のコアしか残っていなかったCEの周りに、キラキラと光を反射する結晶が生まれていった。

 

「この通り、コアを破壊しない限り、CEは何度でも結晶の体を再生してくる」

 

 そして、何度でも人々を襲撃し、光線を無尽蔵に放ち魂を収奪する。

 

「だから、コアは何としても破壊しなければならない。土砂に紛れていた物を見逃したり、間違って戦車で踏んで地面に埋めたりすれば一大事だ。」

 

 戦車で砲撃跡に向かった自衛官達は、慎重の末に慎重を重ねて地面を精査していた。

 

「もっとよく調べようと戦車から降り、埋まっていたコアに攻撃を受けて、再起不能になった者もいる。辛く危険な任務だ。」

 

「…………」

 

「それに榴弾は一発で20万円以上もし、それを1度の作戦で2百発以上も撃ち込んでいる。掃討を行う戦車の弾薬、燃料、それにメンテナンスの費用も考えると……嗚呼全く嫌になってくるな。」

 

 同感だ。CEの進行は年に何十回も繰り返されるのだ。

 莫大な資金と資源と労働力が毎年喪失する現状には、財務大臣でなくとも頭を抱えたくなる話だろう。

 故に2031年4月時点での消費税は12%、財務省の筋からは15%へと近々値上げする方針だと報告されていた。

 

 しかも武器弾薬含めた輸入品全般が右肩上がりに値上がりしている。何せ他国もCEとの長い戦争を続けており、慢性的な物資・労働力不足に悩まされているのだ。

 自国の分すら不足している物を、売ってくれと頼まれて、はい喜んでと安値で差し出す馬鹿はいない。

 CE登場以前の何倍という値段を吹っ掛けられても、それを黙って買うしかないのが日本の現状だ。

 

 税金と物価の上昇に伴い国民の生活は逼迫。不況に加えて悲壮感や諦観の蔓延で娯楽産業は凋落の一途を辿り、当然消費は低迷傾向となって他産業も上から下まで慢性的な打撃を受け、それ故税収の必要性と損害が益々増大する。此れが全世界に生じているのだ、世界恐慌と呼ぶに値しよう。

 

「戦うには金が要る、CEに滅ぼされたくなければその金を払い続けるしかない。その様な苦境に立たされて6年、元から資源不足で悩まされてきた日本は、むしろ良くもった方だろう。」

 

 その間延々と戦い続けているせいで、自衛隊の装備はどれも使用劣化が激しく、騙し騙し使っているのが現状だ。機関としても、既存の防衛産業に対しても人材資金技術にセキュリティ等支援して持続や発展に尽力しているが、それでも限界がある。

 

 今の所は進行を全て防ぎ切り、都心部まで攻め込まれていないから、市民の多くが余裕を感じているが、それは混乱を避けるために流された偽りの希望でしかない。

 一度何処かが崩れれば、東京、名古屋、大阪といった大都市にまでCEが流れ込み、日本という国はアフリカ等の中小国複数を追って地図から消滅するだろう。

 

「我々は勝ち続けているのに敗北に向かっている。この流れを止められるのは諸君ら1年A組、そして聖剣に選ばれた英雄しかいない、それを良く覚えていて欲しい」

 

 それ即ち、[機械仕掛けの英雄]以外に日本は救えない。その実情と期待を籠めて話し終えた色鐘に対し、親衛隊全員が、改めて執念と責務を固めていた。

 

 ___己としても、迦具土神機関としても、何としてでも祖国日本に実り多き偉大なる勝利を、民草にCEや外国の脅威から解放された未来を。そして人の世に、失われた希望と日常を補って余りある光を、昨日今日より遥かに輝かしき明日を。齎さねばならぬと決意を強めてくれる話であった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 午後の合同体育訓練は、昨日と同じくフットサル。砂埃舞うグラウンドで走る1-Dを脇に、青い芝生の上で行うのだが___本日より徐々に工夫を凝らす。

 

「ところで、己は折角だからチームを指揮してみたいのだ。故に己に従ってくれ。」

 

「「「えっ!!!???……いいわよ(はい)!!!」」」

 

 唐突な我儘にも応じてくれた親衛隊。コートに散らばり、己は全体を見渡せる立場のゴレイロ*2に着き、試合を始める。

 

「園城、右向かって止めろ!」

 

「お、おう!」

 

「風間、左前に進んでシュートだ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 事前に仕入れていたフットサルの戦法や勝負記録、親衛隊員のキャラ付けと実際の性格や能力、それらを考慮した上でチームの指揮を執る。

 

 ___己はこのフットサルを、1-Aの統率や連携を強化する為の集団訓練に改造しておきたい。

 現状では体力向上に結びつく筈もなく、さりとて厳しい訓練を要求しようものなら[機械仕掛けの英雄]にそぐわぬ故却下される、どころか人格改造(教育)の未完成を疑われかねない。

 然も親衛隊の内孤児から選抜された者は、兵士として求められる体力や戦闘術でなく家事や演技に房中術を習わされており、言わば身体能力は同年代の女子平均を逸脱する程でなく、また過酷な負荷や経験を精神面で有していても肉体面では皆無に近い。それ故本格的な体力訓練に巻き込んでしまえば、心身が着いてゆけず挫折する者や幻想兵器の適性を失う者が生じる懸念がある。

 

 よってこの唯遊ぶだけの時間は、遊びながら相互理解や団結力、それに戦術理解や思考力に判断力が培われる様な集団訓練へと改革させて頂こう。

 無論、色鐘や親衛隊に疑われず又脱落せぬよう漸進的に秘密裏に取り組む、が何れは幻想兵器使いとしても戦闘部隊としても、そしてやがて己の()()()()()()()()としても完成させてみせよう。

 

「よしそこまで!皆訓練ご苦労だった。こうして頑張れば頑張る程、日本や民衆を救える英雄に近づくからな。次の授業迄に着替えて休むように!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 授業の終わりを告げた色鐘の表情には、疑惑の感情が見受けられなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 さて、地道に改革中の訓練、自重が求められる点を除けば割と面白い座学、痛覚や幻子制御に慣れつつある接待試合、座布団に座り美食を頂きながら食堂に集うエース隊員を観察しながら親衛隊員と会話する昼食、合間に受ける機関からの報告、そして同志との密かな挨拶。

 斯様な日々を過ごして一週間が経った頃の水曜日。昼休み後半の教室、午後の授業開始直前になって急報が舞い込んだ。

 

「英人!!明日の合同体育、あの最低な槍使いと闘うことになったわ!もう一度ぶっ飛ばしてやりなさい!」

 

「___ほう?入学日に試合を行ったあの男とか?」

 

 気構えし、待望し、思考検証(シミュレーション)を万回以上重ね備えてきた約束の時が確定したのだ。

 

「お前達、もうそろそろ授……業だというのに騒がしいぞ、何があった?」

 

 ざわめきだした教室へと色鐘が入り、騒がしさへと疑問を口にした。

 

「先生!D組の男どもと初日の卑劣な槍使いが、英人を侮辱して私に暴力振るおうとした挙句仕返しで明日に勝負をと言ってきたんです!」

 

「何だと?……そうか、分かった。」

 

 真実は兎も角、機械仕掛けの英雄にとって更なる晴れ舞台を提供する機会だと色鐘にのみ伝えようとするが如き表情で話す月夜。意図を理解した様な反応を一瞬浮かべて、ディスプレイの前に立つ色鐘。

 

「天道寺、そして1年A組全員に告げる。千影沢によると、1年D組の連中が愚かにも喧嘩を売ってきたそうだ。明日の合同体育授業にて、入学日の初試合で逆転敗北を晒した槍使いが、我らが輝かしき天道寺へと再戦を要求した。そうだな千影沢?」

 

「ええ!アイツらは、英人を馬鹿にしてきたのよ!私はそれを許せない。それに反論したら殴り掛かろうとさえしてきたの!」

 

 迫真の演技で1-Aの正当性や1-Dの悪性や蒙昧を主張する2人。成程そういう展開を所望か、我が目標にして好敵手が下劣な対応を取るとは思えぬが、済まない宗次よ此処は彼女らの望み通りに振舞わせてゆこう。

 

「何と、それは許せん!ならばその挑戦、受けてたとうではないか!そして次もまた、勝つのは己だ!!」

 

「そうですよ!天道寺さんが負けるわけありません!」

 

「あたしも同感だ!最低なD組なんか蹴散らしちまえ!」

 

 親衛隊員が皆、憤慨や応援の態度を示して再戦へと熱意を表明していった。

 

「……静粛に‼思いは理解した。天道寺もやる気だ、我々1年A組は、D組からの宣戦布告を受理し、明日の合同体育の時間にて一対一の試合を行う。異論はあるか⁉」

 

「「「ありません!!!」」」

 

「よし。だが一先ずその闘志と団結は試合の時に持って行け、今は落ち着いて授業を受けるように。いいな!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 ___己と宗次(我ら)の闘いが如何に決まったかは後程確認しよう。

 だが宗次よ、己は己なりに対策を練り上げ、戦闘を今の未熟な身体に慣らし、新技も考案してきた。無論、宗次も鍛錬を続け、貴様も恐らく対策を講じているのだろう。

 その上で、次こそ___「勝つのは己だ」と、そう宣告しよう。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 その日の晩の寮、明日に備え早寝したいと親衛隊員に告げて自室に戻ろうと3階に上がった所で___

 

「天道寺君、お休みですか?」

 

「寮長か、そのつもりだ。明日は大事な試合が待ち受けているからな。」

 

「そうですか。__月夜に見過ごせない動きあり、来て下さい。

 

「?了解。」

 

 同志から耳元で囁かれ、誰にも見られぬよう寮長室に入る。月夜を見掛けぬと感じていたが、何事だろうか。

 

「月夜が校舎裏へと1人向かい、今しがた空知宗次と接触しました。映像と音声確認下さい。」

 

「宗次と? ___ほう、これは。」

 

 同志専用情報端末を受け取り、機関用の隠しカメラから校舎裏の様子を視聴すれば___千影沢音姫とは異なる態度を宗次に対し露わにしていた。

 

「お前は、本当に千影沢音姫か?」

 

 異常な変貌に戸惑いながら、実家から送られてきた木製の槍を構える宗次に対して、月夜は意外な対応を見せる。

 

「あはっ、あはははっ!そうよ、私は千影沢音姫、天道寺英人の幼馴染で、彼の事が大好きなの。」

 

「…………」

 

「父が銀行員で転勤が多く、小学校3年の時に英人と離れ離れになったけど、特高で運命の再開を果たしたの。嫉妬心が強くて英人が他の女の子と話していると、怒って暴力を振るったりもするけれど、2人きりの時は子供みたいに甘えるの。」

 

「何を……」

 

「好きな食べ物はイチゴ、嫌いな食べ物はアスパラガス、好きなアーティストはルナティック・ブルー、勉強や読書は好きじゃないけど、英人が子供の頃からよく読んでた『世界の偉人伝』や『誰もが楽しめる図鑑』だけは集めているわ。」

 

「何を言っている!」

 

 台本でも読むように、1-Aの千影沢音姫としての設定を、[機械仕掛けの英雄]を知らぬ一般エース隊員に語る月夜。嘘の経歴や性格だと露見させ、任務や自らの立場を危うくする筈の行動には驚愕ものだ。

 

「……同志、これは拙いですよ。」

 

「まぁ待て。機関としては、両者に横槍入れず入らせずでゆこう。」

 

「え?」

 

 されど、相手が宗次であるのなら___これもありか。

 

「貴方は、天道寺英人に勝てない。貴方は強い、全学年のエース隊員を見ても、真正面から勝てる者はおそらくいないでしょう。」

 

「背後からでなくとも勝てそうな奴が、目の前にいると思うが。」

 

「貴方は天道寺英人よりも強い、けれど勝つ事はできない。何故なら、望まれていないから。」

 

「…………」

 

「勝者は、絶対無敵の英雄は、たった一人でいい。」

 

「………」

 

「___果たしてどうかね?」

 

 その場から立ち去った月夜と、その後も槍を下ろさず留まる宗次を見て、端末を置いた。

 

「同志加具土神、如何なさいますか?直ちに色鐘へでも通報を?それとも機関で内密に処罰ですか?」

 

「否、此処は敢えて経過観察だ。やり取りについて、第三者が確認していたなら何もせず、それでいて我ら以外に知らぬのであらば秘匿せよ。それが()()()()()()()()でもある。」

 

「……畏まりました。そうお伝えします。」

 

「さて己は月夜の帰らぬ内に退室する。大和万歳。」

 

「はい。大和万歳。」

 

 寮長室を出て303号室に入って寝床に着き___カメラに映らぬよう笑みを溢す。

 

「クックックッ、楽しみになってきたぞ。宗次よ、貴様はどうなってゆくつもりだ?」

 

 ヘッドホン越しに連絡を済ませ、眠りにつく。

 

 ___空知宗次、己は負けんぞ来るがよい!

 

 

*1
認識力の対外的な表現。言い換える理由は、力の出処が人々の認識に依るものであることを誤魔化す為だ。

*2
ポルトガル語でゴールキーパーの意味。





 特高の敷地や建物には、元々設置予定の監視カメラに加えて、迦具土神機関が同志に勧誘した建設業者に命じて校舎や全寮棟等様々な場所に忍ばせておいた隠しカメラや盗聴器が存在しております。

 因みに原作にて音姫(偽)が収集していると語ったのは『レジェンド・ヒーローズ』という作中世界の創作物でしたが、本作英人の小学3年生時点迄については、人並み程度に触れている位で特別ハマっている訳ではありませんでした。

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