英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 ノンフィクション(ありのままとは言っていない)回の続きにして、原作25話目相当、そして本作主人公vs原作主人公の2戦目となります。

 本作1の長文となってしまいましたので、ご了承下さい。

 感想や指摘に質問等、何時でもお待ちしております。


【護国の剣神と兵達の英雄譚・ 第3章〔天に昇るは黄金馬鹿、空を登るは馬鹿蜻蛉〕・37ページ以降より】

 

 

  4月17日木曜日の午前、澄み渡るような晴天下。

 通常体力訓練が行われる時間帯にてグラウンドでは、1年A組とD組が睨み合っている。

 

「両クラスの代表者、対峙せよ。」

 

 審判役として双方の間に立つ色鐘先生が声を掛ければ、この時この場の主役2人が、互いのクラスメイト達の前へと歩み出る。

 

「英人、必ず勝つのよ!」

 

「「「英人君、頑張ってっ!!!」」」

 

「応とも、任せてくれ!」

 

 A組からは、救国の使命を掲げし初戦の勝者、天道寺英人。

 

「兄弟、あのスケコマシを二度と立てないようボコボコにしたれっ!」

 

「「「うぉーっ!!!ぶち殺せっ!!!」」」

 

「勝ったらご褒美上げますよ~、陽向ちゃんが。」

 

「ちょっ、勝手に何言ってんの!?」

 

「ふぁ、ファイトです……」

 

「嗚呼、応援ありがとう。」

 

 D組からは、古武術の伝統を担いし不屈の敗者、空知宗次。

 

「英人、雪辱の機会、果たさせてもらうぞ。前回の奇跡に甘んじてくれるなよ。」

 

「無論だ、偶然頼りなど至極無礼にして愚策。己は実力で以て常勝不敗を貫こう、貴様が相手だとしても。」

 

 片や一見堅く締まりつつ情熱や歓喜を滲ませて。

 片や、不敵に笑いつつ緊張や警戒を無意識に浮かび上がらせて。

 

「では、貴様らの要望に応じ、これより天道寺英人と空知宗次の試合を始める。」

 

 クラス内では全戦全勝となる漢同士が、誇りと決意、加えて互いのクラスメイト達の期待と信頼を背負って再戦に挑む。

 

「「武装化っ‼」」

 

 アーサー王の聖剣エクスカリバーが刃の抜かれた状態で、本多忠勝の名槍蜻蛉切が石突を正面に向けられて、再び相見える。

 刮目せよ。これより始まるは、幻想を具現化させ心技体をぶつけ合う、同族間の血湧き肉躍る闘いなり。

 

「他の者は全員2人から距離を取れ。……では行くぞ、始めっ!」

 

 審判が観衆と共に、試合に巻き込まれぬよう離れ、誓戦の火蓋を切る合図を発した。

 

「「……フゥー……」」

 

 開始より数秒間、聖剣使いと名槍使いは互いに得物を構えて向き合いながら、深呼吸しつつ観察する。

 

(「やはり宗次、この1週間も相当鍛錬を重ねたらしい。見ただけでも筋肉や体幹の成長が理解できる。まともに闘えば勝ち目はなかろう。」)

 

 英人とて入学日以降も、身体的な努力を重ねてきた。同級生達との模擬戦闘、自室での鍛錬。

 然し悲しい哉、英人()が幾ら努力を培おうとも、慢心せず努力してきた宗次()に敵う道理は無いのだ。

 

 さらに言えば、そもそも1年A組はクラス全体で戦線を駆けて強敵を撃滅する特殊部隊としての役割を期待される性質上、体力訓練では連携や戦術的思考、纏った状態での機動力の育成を目的として、フットサルが採用されている。

 故に、個人の身体能力向上に於いては、ランニング50週を実施しているD組含めた他クラスよりどうしても劣ってしまうのだ。

 

 __尤も英人は、体力差など百も承知であり、その程度で勝利を諦める男でもない。

 だからこそ、弱者なりに抗うべく、模擬試合での幻子装甲調整、脳内での宗次の戦闘パターン検証、そして3つの対策法考案、此等を行ってきたのだ。

 

 そして、先攻は__

 

「うおぉぉぉーーーッ!」

 

 前回同様英人から。勢い良く踏み出し、聖剣の届く距離まで迫る。

 

「ふっ!」

 

 迎え撃つ宗次は、様子見することなく呼気と共に槍を突き出し迎撃する。

 素人に毛が生え掛けた程度の突進は、胸下に刺突を受けて後方へ飛ばされ__ずに、幻子装甲を掠りながらも勢いを削がれぬまま接近に成功する。

 

「はあァッ!」

 

「くっ!」

 

 そして英人は直ぐ様剣を斬り付ける。

 初撃に成功し切れなかった宗次は、回避行動を取りながら槍を振り回した。

 武器を振るう速度と込めた力、その差を鑑みれば英人が一方的に打たれ飛ばされるのは確実であり__にも関わらず、互いの攻撃は幻子装甲を掠めるに留まり、宗次は剣の間合いでの戦闘を強いられることになった。

 

「かあッ!せいッ!」

 

「ちっ、やるなっ!」

 

 英人は更に近づき攻撃し続ける。

 剣の振り方引き方は、次の次の次を想定した現状の身体能力と技術に於いて最大限に効率的、故に安定したペースを保っている。斬り込む箇所は、全てが相手の注意の死角を正確に狙っており、故に相手の意識を防御以外に向けさせない。更にどの一撃も、()()()()()が込められており、多少なりとも宗次を威圧し警戒させている。

 

 それでも本来ならば、宗次は直撃覚悟で強引に反撃し、形勢を逆転させることが可能だ。それ程までに、総合力の格差は依然として絶対的である。

 然し__

 

(「何故だ?剣の威力が、英人の慣れを考慮しても異様に強い、才能が開花した訳でもなさそうだが、聖剣自体が強くなったとでもいうのか……?」)

 

 連続攻撃を余さず全て槍で受け止め後退しながら、考察する宗次。

 

 __その推測は正しい。エクスカリバーはこの時、紛れもなく通常時より、強化されているのだ。

 

 そう、此れが第一の策、幻子の流動による幻想兵器の強化である。

 攻撃中の英人は今、本来幻子装甲の発動や維持に費やされる幻子と幻子干渉能力の()()を、エクスカリバーへと集中させ出力や強度の増大に用いている。

 何せ幻想兵器も幻子装甲も、幻子を基に構成され人の精神を原動力としているのは変わりない。よって、使い手自身が強く意識し集中さえすれば、幻子装甲の弱体化や消失と引き換えに幻想兵器の強化を為せるのだ。

 

 無論、その手法は自身の身を守る鎧を薄く脆く変えているに等しい。それ故この策は、自らが一方的な攻勢状態であることが前提となり、反撃を受けようものなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()判断が出来ねば重傷を免れない。

 

 加えて特高内での試合に於いては、幻子装甲が半減した段階でアラームの発動と幻想兵器の停止を生ずる、という仕様に幻想変換器は設定されている。

 よって英人の策は、攻撃に向け幻子装甲から幻想兵器へと転用させた直後に試合の中断を招くだけなのだが__

 

(「この日に備え、()()()()()()に及んだ甲斐があったものだ。」)

 

 そう、英人は事前に、幻想兵器を担当する特高の技術者の一部と協力し、共に自身の変換器へと細工を仕掛けたのだ。

 これもまた、宗次(格上)へと挑戦し勝利する為。正規で安全な手段に拘る余裕はないと自覚するが故に。

 

 __断言しておくが、彼が細工を施したのは英人専用の変換器()()だ。宗次の変換器にまで手を付ける程、恥知らずでも臆病者でもない。

 また、あくまで改造内容は、“アラームの作動条件を幻子装甲の半減から、装甲へ掛かった負荷が半減並に達した時点とする”、()()である。決して幻想兵器が直接的に強化される様な調整はしていない。

 

 

 ともあれ英人の斬撃が20に迫る途中、思考を巡らせる宗次であったが__

 

「考え事か?余裕を持たれて当然の格差だが、兎と亀は知っているだろう?」

 

 事もあろうに、態々戦闘へと集中を引き締め直させかねない問い掛けを、今だ格下の分際に過ぎない英人が、剣を押し込みながら語ってきた。

 

「__済まない、でもそんなこと言っていいのか?ハンデを捨てさせるなんて。」

 

「それは己も考えたが、まぁ、勝てるのなら本気の宗次相手が望ましいのでな。」

 

 変換器の改造という反則行為に及んでいながら、或いはだからこそか、相手が本領を発揮した状態で打倒したいと正道を希求する英人(愚者)。その返事は__

 

「……ふっ、御立派な高望みは英雄らしいけど……せめて後悔はしないでくれ!」

 

 次撃に移らんと剣が引かれ始めた瞬間、突然宗次の両手が放され槍を落とし、何方も握り拳へと変わってゆく。

 

「__ッ!?」

 

 謎の行動を視界に映した英人の頭脳へと、第六感の危険信号が鳴り響く。

 咄嗟に回避行動へ移行__する間もない。

 何故なら、その時点で宗次は既に、剣の間合いの内側へと侵入し、大地を踏み締め準備を終えていたのだから。

 

「はっ!」

 

「ぐはっッ!」

 

 宗次の鉄拳が淡く光りながら、英人の脇腹へと命中。

 幻子装甲は、幻想兵器から幻子を戻して張り直されていたにも関わらず、本体へと衝撃が届いた。

 

 更に怯んだ隙へと絶え間なく叩き込まれる反撃の拳。右、左、正拳、裏拳、掌底、どれも重く速く正確で、おまけに必殺の意思が誠心誠意込められているが故に、英人はサンドバッグと化す。

 

 __空知宗次の秘策とはこれなのだ。

 両手に幻子装甲を集中させて、相手の装甲を打ち砕く程の破壊力を込めて拳を放つことで、至近距離の格闘戦を制し剣の間合いでも圧倒する。それは実に、効果覿面だった。

 

「ぐっ、があぁァァーーッ!」

 

 去れど英人は諦めない。必死な形相となり左手で裏拳を返し、回避行動をとらせて少しでも攻撃を中断させて剣を突き出す。

 狙いは刺突と同時に、浄滅の光を放出して付近の宗次を吹き飛ばすこと。突貫しながら煌めいてエネルギーの装填されたエクスカリバーは__

 

「飛べっ!‘空壱流体術・牙弾き’!」

 

 ロケットのごとく英人の掌から吹き飛ばされ、腕を上方向に押されて上がった状態にある使い手、その背後の地面に突き刺さり、光線も逆転も不発に終わった。

 

 簡単な経緯だ。宗次が右手の掌底を、片手持ちとなり握りの甘くなった剣の柄頭に放っただけ。

 

 反撃どころか武器の喪失で隙を晒したライバル目掛けて宗次は、前蹴りを放って突き飛ばし、槍の間合いより僅かに離れた時点で、右腕の幻想変換器に手を伸ばす。

 

「武装化っ!」

 

 発声の直後、地面に転がっていた蜻蛉切は跡形もなく消失し、秒も掛からず槍使いの手の内に顕現、形成される。

 D組との模擬戦中にて練習してきた動作は迅速で、英人は再形成する間もなく追撃を喰らう。

 

「‘空壱流槍術・絶三段’!」

 

 心臓・喉・眉間という当たれば絶命確実の急所を全て貫く、無慈悲な三連突き。それが敬意と殺意を込めて全て直撃した。

 

「がっ、ぬわぁーーーッッ‼」

 

ブゥーッ!

 

 悲鳴を上げて倒れる英人。右腕から鳴り響いたアラームは、幻子装甲が半減する程の衝撃を受けた証だ。

 

 斯くして、空知宗次は雪辱を果たした__筈なのだが。

 

(「おかしい、殴った時といい絶三段といい、攻撃が英人へと届き切っていなかった。おまけに感触が、掠ったと判断した初撃と2撃目に近いものだった。何故英人も、幻子装甲も耐えられているんだ……?」)

 

 胸中に蔓延る想いは歓喜や興奮よりも疑念。直撃したであろう攻撃が、どれも違和感を抱かせる結果になった。

 

 __錯覚でも間違いでも、そして変換器の改造によるものでもない。英人の第二の策が上手くいったのだ。

 

 それは、攻撃の命中箇所に対する幻子装甲の集中。

 原理自体は偶然ではあるが、宗次の秘策と同一。幻子装甲を集中させる部分が、殴打する為の拳か、防御する為の体表面の特定一部か、の違いに過ぎない。

 手順はこうだ。事前に対戦相手の動作・戦闘パターンを把握し解析し予測。戦闘中にてパターンや相手の意識・視線等から攻撃の狙いを算出し、体表面全体に満遍なく張られた幻子装甲を推定命中箇所へ集中させる。これによって、幻子装甲に掛かる負荷の総量も、本体に伝わる衝撃も減少させられる。

 

 当然ながら、言うは易く行うは難し。何しろその推定命中箇所と、実際の命中箇所が外れていた場合、無防備な状態で攻撃を受けるのだ。唯殴られるだけでも内出血と苦痛を生じ、当たりどころと威力次第では死に至るのが脆弱な人の身体。それが普通の刃物より遥かに強力な幻想兵器の一撃を喰らえばどうなるか。模擬戦で死者を出す事態はありありと想像できるだろう。

 よしんばその防御法が1度成功したとして、戦闘である以上相手の攻撃は何度も繰り出されるのだ。集中による防御の継続とは即ち、放たれる致命の一撃の一切を、怯えることなく見切り予測し集中部分を変更する姿勢に他ならない。

 要するにこの策を成功させるには、洞察力や分析力に集中力、加えて戦闘全体への意識を割ける余裕の確保や、予測箇所を外す恐怖に乱されぬ胆力、そしてそんな無茶を続けられるという自信が必須となり__

 逆説的に、以上の条件を満たして耐え切る英人の、肉体や幻想兵器に表れぬ能力の凄まじさが、暗に示されていると言える。

 

「か、勝ちました……っ!」

 

「よっしゃあ、流石はワテの兄弟やっ!」

 

「「「……あ、英人……っ」」」

 

 ___尤も、それはあくまで()()()()()()()()()()()()であって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()という事実を覆す事情とは当然なり得ない訳だが。

 

(「__くっ、苦痛と衝撃が響いて、直ぐには立てんッ!__今しがたアラームが聞こえた…己の、負けか。」)

 

 グラウンドの土を握りどうにか立ち上がろうとするも、心は兎も角今の彼の体には難しい。何より、アラームが作動した側の幻想兵器使いが敗北となる、という本人も順々承知のルールが重く伸し掛かる。

 

 此処で立ち上がった処で意味はない。初戦同様、「勝つのは己だ」と決意を宣言しようが過去もルールも勝敗も決して揺るがない。

 ならば態々無理して復帰する必要はない、このまま地面にうつ伏せとなって休んだ方がよい。敗北したが仕方ない、命や戦う権利を奪われる訳ではから後日反省して頑張って強くなろう。そんな声が内側から__

 

「見たか、これが散々落ちこぼれ扱いされたD組の底力やっ!」

 

「…………」

 

「ほら綾子先生、早う宗次の勝ちやってA組に言ったって。」

 

「…………あ、嗚呼そうだな。すまない。」

 

 外から耳に入った声は、宗次(勝者)の友たる映助と、審判の色鐘だった。驚愕したのか微動だにしていなかった彼女は、D組の生徒に肘でつつかれ、はっとした。

 

「……では、勝者、空」

 

「待って下さい!」

 

 試合の終わりを告げる判定は、別の声に遮られた。

 

「どうした、空知宗次?」

 

「__まだ勝負は着いていません。対戦相手は……天道寺英人を負かしてはいません。」

 

 自分を倒した好敵手の言葉が、倒れ伏す敗者の心に焔を燈す。

 

「……いや、何言うとんの兄弟?さっきアラーム鳴ったやん。」

 

「あれは“幻子装甲の半減”を示すアラームだ。“戦闘の続行が不可能”なことを示すものじゃない。つまり闘いは終わっていない。」

 

「……ち、ちょっと待ちなさいよ!確かに英人が負けるなんて認められないけど、だからって半減した状態でアンタと闘って、もし怪我でもしたら……」

 

「幼馴染なら、彼奴を信じてやれよ。半減しただけならまだ幻想兵器使いとして闘える。ひょっとしたら、逆転する機会が来るかもしれないんだぞ。」

 

「し、然しだな……ルールに従えばこの時点で既に空知が勝利しているのだから、続ける理由はないだろう。それに天道寺が、倒れて動かない状態にあるのに、まさか痛めつけたい訳ではあるまいな。」

 

「いいえ、俺は唯、英人と全力で闘い抜いて、その上で勝ちたいだけです。この程度で自分を勝者だと誇るのは避けたいんです。それと__」

 

「天道寺英人は、心身共に健在です。攻撃は全て肉体に届き切らなかった。うつ伏せですが、今尚立ち上がろうとしています。まだ負けていないんです。完膚無きまでに敗北を刻み付けない限り、俺は英人に勝ったと主張できません。」

 

 その言葉が、期待が、信頼が、闘志が、男を奮い立たせる。

 何を考えていたのだ己は。

 敗北や挫折は人生に当たり前だとしても、それを仕方ないと甘んじて慰めてよい理由にはならない。

 再起が無意味だ?尊敬する漢(誰か)の願いに応えるのは動機として十分、否大体前進に意味など不要なのだ。

 ならば己は寝ていられぬ。祖国を明日へと導く為に、CEを民草の繁栄の礎に変える為に、我が最高の目標から好敵手として認められ、対峙する為に!

 故に発する言葉は唯一つだと、少年は地面を押して体を起き上がらせ、前を向き宣誓する。

 

「まだだ!!」

 

 轟き響いた決意が、グラウンドにいる者全てを注目させる。

 土が付着し汚れているのに、一層輝いている様なのは黒髪の美少年が泥臭さとお似合いだからなのか。理想を見据え熱く燃える瞳と、万人魅了す雄々しき笑顔が其処にあった。

 

「宗次よ、実に見事な反撃であったぞ、称賛しよう!だがな、己は如何なる障害も踏破し敵も制覇して、何が何でも祖国と民草に勝利の栄冠を捧げると誓ったのだ!よって此度もまた宣誓しよう!勝つのは、己だあァッ!!」

 

 格上に、現実に幾ら打ちのめされようと、燃え尽きることのない不滅の闘志と理想の宣言が、発した少年を鼓舞した。

 さらに審判も観衆も__A組のみならずD組でさえ、困難極まりない目標の達成に、疑義を抱くことができなかった。

 

 そして、その場の誰よりも奮起を信じ、望んでいた武士(もののふ)は、僅かに笑みを浮かべたが直ぐに顔を引き締め、声を掛ける。

 

「背後の剣を取れ、遠慮は不要だ、勝つのは俺だからな。」

 

「よかろう。__後悔するなよ、2度目の敗北を。」

 

 英人は、試合の判定を延長させてくれた好敵手の礼儀と自信に応えるべく、グラウンドに突き刺さった聖剣を抜いて正面に構えながら煌めかせる。

 

 __互いに全力を尽くした上で勝利したいから、まだ判定を出さないでほしい。そんな宗次の見立ては実に正しく、そして槍使いの判断は愚かしかった。故に、これより先の劣勢は、自業自得と言わざるを得ない。

 

「エクスカリバーッ!ケラウノス!!」

 

「「「___っ!!!???」」」

 

 観衆も、審判も、宗次も絶句した。

 英人が叫びながら為したのは、刃抜きされていた聖剣に、初戦の巨刃が如く輝く黄金光を、纏わせて一回り大きな赫灼真剣へと変貌させたことであった。

 

「さぁ征くぞ、第二ラウンドの幕開けだ。」

 

 そう宣した男は、槍の間合いに触れた瞬間刺突を放とうと構えている宗次へ突進し、その間合いより一歩前で地を踏み締め剣を振り被り__

 

「はあッ!」

 

「なぁっ!?」

 

 驚愕しながら咄嗟に槍どころか身体毎後方へ下がる彼の胸下に、なんと本来届き得ない筈の光刃が差し迫ってきたのだ。

 

「かあッ!ふんッ!」

 

「くぅっ、ちぃっ!」

 

 一定の距離が保たれた状態で、英人は疲労に苛まれつつ堪えて、徐々に狙いを研ぎ澄ませながら剣を振るい、宗次は後退しながら機を窺う、と試合序盤を彷彿とさせる戦況に変化した。

 

 __これぞ、英人の第三の策、エクスカリバーのビームを変質・凝縮させて刃の形で剣に付属させることである。

 この技、❛エクスカリバー・ケラウノス❜の長所は4点。リーチの延長、剣の威力増大、更に振るった軌跡に合わせて光刃が飛びまた留まることによる中距離戦闘、そしてもう1点。

 去れど、光線として発射される筈の黄金光をこの様に活用することは可能なのか__結論から述べるならその通り。何せエクスカリバーは、原典たるアーサー王伝説の時点で、光輝を帯びて発する剣として描写されており、故にビームサーベルが如き状態への変容を阻害することはない。

 

 傍から見れば、剣士が再起と秘策によって逆転し追い詰めている戦況。だが然し、やはりというべきか__

 

「ふっ、認めるよ英人、お前は凄い。けどな、この程度で勝てると信じているのか?神算の素人剣士の癖に。」

 

「嗚呼、鋭いな宗次よ。確かに()()()()()倒せる筈はない。」

 

 攻め手が把握し、守り手が見抜いたのは新技の欠点。

 初使用故の不慣れな剣捌き、大振りで隙のある動作、通常より膨大な幻子干渉能力の消耗。

 以上を踏まえれば、技の維持が長引く程今だ無傷で体力の有り余る宗次に反撃を受ける可能性が増大する。そして試合開始より幻子装甲への攻撃を序盤で一度掠っただけの宗次には、必然の未来でしかない___去れど。

 

「だがな、如何に敗北必須の状況であろうと、己は必ずや絶対勝利を体現してみせる。理屈も道理も知ったことか!そうでなくば貴様は超えられん、それを為してこそ、民と国の明日を切り拓くのだ!」

 

 誇大妄想であると理解しながら大言壮語を大真面目に宣誓する様は、天道寺英人の本質を露呈させた。

 彼は利口でもまともでもない、彼は愚鈍でも痴れ者でもない。何故なら英人は、宗次評する通り至高の才智を備えた上で__それより遥かにずば抜けた無類の大馬鹿者だから。

 

「__⁉」

 

 直後に宗次は、自身の中で再び鳴り響いた第六感の危険信号を察知し、瞬時に跳び下がりつつ幻子装甲を最大限に堅める。

 

「かあァッ!」

 

 叫びに合わせて振り下ろされた聖剣の光刃が、地面に触れかけ__瞬間一際眩しく輝きを放つ。

 

ドォゥ―――ン!!!

 

「っなあっ⁉」

 

 地面から光が爆ぜ、英人も宗次も吹き飛ばされる。

 __❛エクスカリバー・ケラウノス❜の第4の長所、それは宣言も予備動作も溜め時間もなく、即座にビーム砲として光線を発射できること。今しがた英人は、振り下ろす勢いで、心中にて念じるだけで光を地面目掛けて放ったのだ。

 

 宗次が着地し体勢を整える一方で、英人は足場からの爆発の衝撃により相手の背より高く飛ぶ。そして__

 

「まだだァッ!」

 

 2度目の覚醒を示す大喝破は、心一つで再び奇跡を発動させる。

 右手で堅く握り締めるエクスカリバーとは別に、英人の頭頂部に光が集まり、凝縮し集束し何かを形成してゆく。

 頭上に設置されたドーム状の円盤、其処から高さ10cmの棒が生え、頂点から2本の板が対となって横にできる。2本と棒の直径を合わせれば10cmとなるそれは、まるで竹蜻蛉の如し。幻子が遂に構成され切り、光の収まった其処にあるのは、回転する黄色の物体。

 

 今や日本のみならず、世界中で大勢が認知しているそれは、20世紀後半から世に出た漫画を原典とする新たなる幻想兵器の名は___

 

「「「……た、タケコプターっ!!!???」」」

 

 好奇心と夢を刺激してくれた薔薇色な架空未来の象徴、何れ到達し得るかもしれぬ科学技術の産物が、21世紀の明日に希望を求める漢に新たなる力を齎した。

 

「何が、どうなっている……⁉」

 

 宗次は地に足着けてそう呟いた。真上に近い角度から見上げる彼に見えるのは、蒼穹を舞い上がり佇むライバルと聖剣のみであり、空を飛ぶ術を知ることはできない。尤も、槍を上方向に構えて最大限の警戒態勢を取っている辺りは流石だが。

 

「エクスゥッ、カリバァーッ!」

 

 そして空中の英人が剣を宗次に向けて光線を発射した。宗次は予想される着撃地点から急いで飛び去るが。

 

「曲がれぇィッ!」

 

「何っ⁉」

 

 光線が宗次を追跡する様に畝って襲い掛かる。遠ざかろうと走る宗次であるが、光はまるで蛇の如く、地面をこれ以上傷付けぬようスレスレに追跡する。

 

 煌めく大蛇に追われる宗次。対空攻撃手段を持ち合わせていない唯の槍使いは、逃避の末のエネルギー切れを狙う以外に勝ち目がなく__

 

(「いや、折角試合を継続させて、奇跡を起こす暇も与えてやったんだ。お互いつまらない終わり方は御免だろ?だから……」)

 

「ふぅぅーーー………、‘空壱流歩行術・這鯉登(しゃりとう)’!」

 

 地を走る宗次は、槍を棒高跳びの要領で地面に突き刺し用いて__何と正面に立ち塞がる光線の軌跡へと跳び乗った。

 

「「「なあぁッ!!!???」」」

 

 英人も審判も、A組もD組も驚愕する中、宗次は構わず4足歩行で、まるで獣の如く黄金の大蛇の背を駆け登り、空高くより光を発射し続ける英人の下へと向かう。

 

「よもやそう来るとは。ならば追い着けエクスカリバーッ!」

 

 見下ろす英人は、敢えて解除により空を目指す好敵手から梯子を外そうとしなかった。蒼穹で待ち構えながら、宗次の背後へと光線を追跡させたのは、逆転の機会を与えてくれた本来の勝者への御礼であり、第二の幻想兵器顕現による飛行という自分以外誰もできないある種の反則に対する謝意でもあった。

 __然しながら、殺意も戦意も健在どころか寧ろ増大しているのは、礼儀と警戒と負けん気の表れだ。

 

「はあぁぁぁーーーっ!」

 

 それでも宗次は、負けじと背後から喰らわんとする蛇の口と距離を保ち、揺れ畝り捻じ曲がる光の道を一心不乱に加速しながら駆け登ってゆく。心技体が何れも1秒毎に成長する武士、その意地と執念が遂に天上へ到達し掛け__

 

 英人は危機感と罪悪感から顔を歪め、然し決意して解除を念じようとする。だが__

 

「こうなっては、済まぬそ__」

 

「まだだっ!」

 

 時既に遅し。宗次は両手が浮き両足が光の道に着いた状態で、ライバルが2度発した言葉を叫び、王手を掛ける。

 

「武装化っ!」

 

 宗次が光線を踏み締め勢い良く跳躍し、両手に再三蜻蛉切を携えて、聖剣の構えが甘くなった英人を穿とうと飛び掛かる。

 

 空壱流の継承者として受け継ぎ磨いた武才と技巧と誇り、特高で出逢い闘った尊敬すべきライバルへの憧憬と対抗心、そして如何なる無理無茶無謀にも挑戦し達成してみせんとする弩級の馬鹿さ加減が、叡智と奇跡と大義をも打ち破らんと致命の一撃を放ってくる。

 

「__ッ!?」

 

 英人は真っ直ぐ好敵手を見据えながら、神算が瞬時に導き出した()()の末路を覚悟し__

 

「勝つのは、俺だぁ――――___」

 

 ___英人の視界は、消えゆく蜻蛉切と、大声量の勝利宣言を突然かすめて目蓋を降ろし大地の重力に引かれ掛ける宗次を映す。

 耳には、これ迄の試合で聞いたことのないアラーム音が、正面方向からずっと入ってきている。

 

「__っなっ、宗次ぃィィッー!!??」

 

 直後、英人は聖剣を手放し__目前で落ちてゆく好敵手の手を掴み取る。

 

「「「……!!!???どうした!!!???」」」

 

 突然の異常事態、幻想兵器を消失させ落下しそうになったD組代表者と、その手を掴み浮遊するA組代表者の姿を前に、その場の全員が騒ぎ出す。

 

 一方で英人は、左手を握り締めながらゆっくり降りつつ、宗次を観察している。

 

(「手や手首に擦り傷や痣は診られるが脈は安定。顔色は悪くないが目も口も閉じたままで反応なし。一先ず無事、なのだろうか。」)

 

 ゆっくり丁寧に宗次をグラウンドへ降ろし、自身も着地した英人は、唖然とする審判に目を向ける。

 

 宗次を保健室へ、そう頼もうと口を開こうとしたら__

 

「兄弟ぃ!大丈夫か!」

 

「宗次君!今直ぐ保健室に連れてかないと!」

 

「すまん、ちょっと退いてくれ!」

 

 口々に叫びながら同級生の下へと駆け寄り、あっという間に身体を校舎へと持ってゆくD組。今の彼等には、英人もA組も試合も、すっかり意識の外に置かれていた。

 

 それを見て安心したのは、英人だけではなかった。

 

「……よかったじゃない、見直したわ、空知宗次。」

 

「……あの様子なら大丈夫そうだな。保科教諭には、私からも報告しなければな。」

 

 安堵する音姫と色鐘先生。そして2人は顔を英人の方へ向ける。

 

「取り敢えず、判定は出しておこうか。天道寺英人、この試合、お前の勝ちだ。」

 

「__己の、勝ち?」

 

 すると、A組全員が英人の下に集まってくる。

 

「おめでとう、英人君!」

 

「やっぱ凄いじゃないか、英人!」

 

「……天道寺英人、万歳。」

 

「奮戦、お疲れ様でした!」

 

「__己が、勝者、か。」

 

「何呆けてんのよ英人!折角私達が褒め称えてあげてんだからもっと嬉しそうにしなさいよ!」

 

「………嗚呼、そうだな。皆、己を応援して頂き、誠に感謝する。」

 

 勝利の喜びをクラス全員で分かち合う中、英人は1人別のことを考えていた。

 

(「__放課後、宗次の見舞いと、賛辞を贈ろう。」)

 

 

 斯くして、聖剣使いと名槍使いの誓戦、2人の大馬鹿者達による死闘は、()()()()天道寺英人の勝利で決着が着いた。

 

 彼等は知らない。

 後に、「“護国の剣神”が知恵と勇気と激戦によって覚醒し、未来の幻想を具現化させて飛翔した瞬間」という、眩き英雄の叙事詩に相応しき出来事になることも。

 両者の次の、決意と敬意をぶつけ合う絢爛で雄々しき死合の場が、遙か先にして人類史上最大最強の個人間対戦になることも。

 

 ___尤も、天道寺英人も空知宗次も、如何なる不可能も意志と努力で成し遂げんと高らかに掲げる稀代の馬鹿である以上、詮無きことかもしれぬが。

 

 





 ノン(以下略)恒例となる、本編後のキャラ達による感想会シーンについては、本文が長くなってしまったので次話にて掲載します。

 それと、英人視点での試合は書きません。理由としては、この話と余り変わらない記述になるからです。

1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合

  • 前半後半等と文章を分割すべき
  • 制限内なので1話分として投稿してもよい
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