英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
今話は、原作の13話目と27話目に当たります。
感想や質問に指摘等、お待ちしております。
4月29日火曜日、天気は曇り。
俺達D組は、午前の訓練や授業を終えて食堂に来た。
「おっ、今日のお昼はカレーにサラダか、美味そうやな!」
満員に近い状態に人の詰まった空間に漂うスパイスの香りに食欲を刺激されながら、カウンターへと向かい料理を取りに行く。
「本当に美味しそうね。」
「これが食べられないなんて、A組も哀れですよね~」
「そ、それは言い過ぎじゃ……」
(「……英人とは、食えないんだよな……」)
そもそも接触しないよう心に決めておきながら今更未練がましい感傷を他所に、映助らと同じテーブルに着く。
「いただきます。」
特高の管轄が陸上自衛隊だからだろうが、カレーのレシピは巷に全く公開されていない陸自風だと、食堂の職員から紹介された。少し甘めながら、しっかりと感じられるコクと辛みが、白米と絡み合う事で至高のハーモニーを奏でている。
「うん、美味い。」
「大量に作っているからか、給食の味に近いですけど、こっちの方が美味しいですよね。隠し味に何を使っているんだろ?」
料理好きだという一樹は、真剣な顔つきでスプーンを口に運びながら考察している。
「隣の席、いいかな?」
とそこへ、中性的で凛々しく、聞き覚えのある声が横から掛かってきた。
「先輩ですか、構いませんよ。」
「うげっ、またあんたかいっ!?」
やってきたのはイケメン俳優の如き容姿ながらも、胸の膨らみが確かに存在する女子である
「怪我は治ったようだね。」
「はい、おかげ様で。」
「いや、なに普通に世間話してんねん。てか先輩、あんたA組なんやろ。ならあっちで懐石料理でも食ってろや。」
横に座ってきた先輩との会話に、映助がツッコミを入れてきた。
食堂の端にあるA組専用の広々とした畳の間にて、今日も英人が女子達と談笑しながら、見るからに高級な和食を食べている。
其方に顔を向けた先輩は、俺達の方に戻して困った様子で苦笑を見せた。
「ボクだって君らと同じ普通の家庭で育った、極一般的な高校生だよ?高級だが薄味の料理より、気取らない濃い味の方が好きなんだ」
「そ、そうなんですか……」
「だからって、下級生の所になんか来ないで、同級生と食べたらいかがですか?」
神奈は少し残念そうに、陽向は指摘こそもっともだが何故か不機嫌で刺々しく言葉を発した。
その陽向に対し先輩は、白い歯を見せて笑顔を浮かべてきた。
「怒らないでよ、子猫ちゃん。ボクは君達と楽しくお喋りがしたいだけさ。」
「~~っ!?」
瞬間、陽向は全身に鳥肌を立たせ、声にならない悲鳴を上げた。
「あれっ、不評だったかな?他の一年生は喜んでくれたんだけど。」
「一人には大好評ですけどね~」
「お、王子様っ!?麗華×宗次とか有りだと思います、でゅふふ……」
心々杏は、以前の様にまるで鼻血を出しそうな程興奮している神奈を見ながら引いていた。
それを見て一樹は、スプーンを動かしていた手を止めて、話題を戻しに尋ねる。
「今日は何のご用でしょうか?」
「特別な用事はないよ、ただ親睦を深めようと思っただけさ。」
「はぁ……」
「意外かな?もう少ししたら君達一年生もCEと戦うのだし、その時に指揮を執るのはボクの役目だからね。友好な関係を築いておきたいんだよ。」
背中から撃たれたくはないからね、と冗談めかして笑い、カレーを食べていた俺の顔を覗き込んでくる。
「それと、君には個人的な興味があるんだ。」
「ん?」
「ボクも女だから、強い男には惹かれるんだ。」
「なら、余計にA組のテーブルで食べたらどうですか!」
「そや、ワテらみたいな落ちこぼれより、スケコマシのご機嫌でも窺ったらどうや?」
確かに英人なら、肉体面を除けば俺より余程強いのだ。どうも苛立ちの感じる陽向と、映助の言葉に内心同意する。
すると先輩は、また困った顔を浮かべた。
「天道寺君の周りには怖い子が沢山いるから……それに、彼らを指揮する事はなさそうだしね。」
「どういう事ですか?」
怖い子、という点は分かる。彼女らの異常な嫉妬や排他性が上級生にも知られてきたのだろうし、先輩は知っているのか不明だが、約二週間前の夜に千影沢音姫の理解不能な面を晒されたのだ。だが、指揮する事はなさそう、だと?
「これはまだ噂だけどね、1年A組は他のB・C・D組はもちろん、2年や3年とも共に行動せず、独自の判断で動く部隊になりそうなんだ。」
「またA組だけ特別扱いか、もう怒る気にもなれんわ。」
映助達は皆、やれやれと肩を竦めていたようだが……英人の知略・炯眼・胆力・統率力、幻想兵器の破壊力・殲滅力・機動力、更にA組のみフットサルで他クラスと別方向に特訓してきた事実。これらを踏まえれば理由は恐らく。
「__1年A組は、戦場の異常事態に介入する切り札、若しくは戦線や攻防に対象等を問わない遊撃として養成された、天道寺英人を中核とする強力な特殊部隊。特高や自衛隊はそう運用する方針だからですね。」
「……そこまで御大層な話じゃないと思うよ。単純に彼らが、ボク達3年生にとっても大仰で扱い辛く危険な存在だからだろうね。正直に言わせて貰えば、あんな厄介なクラスを指揮せずに済みそうで安堵している位さ。」
………そう、なのか……?確実な考察だと自信を持っていたのだが……
「そうね、初日に私たち毎吹っ飛ばそうとした奴の横で、一緒に戦うなんて御免よね。」
「あんなにビームを暴れさせてた男と…確かに怖いです……」
「悪口を言うようで気が引けますけど、僕も彼と一緒はちょっと……」
悲しいことに、英人の内心を知らないとはいえクラスメイト全員が、俺ではなく先輩に同調し、怯える者もいる始末だ。
「いっそ、あのスケコマシに全部任せればええやん。」
映助は両方の意味で匙を投げ出したが……確かに英人が単独で、CEの様な脅威を一掃できる方が、戦いで生じる犠牲者も減らせるし出力さえ足りれば効率的な戦法だろう。然し本人は、果たしてそんなたった1人の決戦存在に全てを解決させる他力本願とも受け取れる様な方針を歓迎するのか……。
とそこで先輩の表情を窺えば、先程まで意味合いはどうあれ笑顔を浮かべ続けていたのが、何かに触れたのか曇っている。
「うん、そう思ってしまうよね。それが原因で」
ウゥーッ、ウゥーッ!
突如、食堂に鳴り響いてきたサイレンは、入学以来5度目となるCE襲撃の合図だった。
「「「ちっ!!!」」」
直後、少し離れた位置のテーブルにて食事中だった2年生も3年生も、盛大に舌打ちした後慣れた様子で、10秒で掻き込めるだけのカレーを口に含み、水で流し込んで一斉に走り出していった。
「無粋だね……また今度、ゆっくりとお話しよう。」
「行ってらっしゃい。」
颯爽と走り去ってゆく先輩へと手を振り送り返す。そうして食堂を出ていった後に、置きっぱなしの食器トレーを見れば__
「また、トマトを残している。」
「どうでもええわっ!」
麗華先輩の分も含め、上級生達がやむを得ず残していった大量の食器。
俺はそれらを返却口へと運ぶことにし__
「天道寺英人や
独り言ちながら、麗華先輩と出逢った時のことを思い返す。
―――――――――――――――――――――
特高入学より2日目の昼休み、俺達は初めて食堂に入った、のだが。
「なんでやねんっ!」
その日の晩にて恥や秘密を暴露されて燃え尽きようとは知らない映助が、何度目かの叫びを発した。
何せ食堂の大部分は普通な感じであったのに、最奥にはA組専用エリアが広くとられていたのだ。加えてそれ以上に、距離を置いて見た限りでも上質そうに思える畳と机、日当りの良さそうな縁側。その場だけが
「食ってる物まで高級やし、何やねんっ!」
俺達に配られたのは、ご飯に味噌汁と漬物、コロッケにサラダ、飲み物は牛乳といった、学校の給食としても自衛隊員の昼飯としても普通の代物。
なのに、A組のみが高級そうな和食を提供されているのだ。飲み物も茶碗な辺り、高価な茶を用意されていてもおかしくない。
「いちいち怒るのにも飽きたわ。」
「私もです~」
「他のクラスや先輩達も我慢してる、騒ぐのはよそう。」
「うっ、そうやな……」
実際に、周囲を見渡せばD組と思わしき上級生も、そしてB組もC組も俺達と変わらぬテーブルと椅子で、同じ昼飯を食べていた。特別なのは何年生であれ、A組だけらしい。
「それにしたって胸糞悪いわ、PTAに訴えたろうかっ!」
「無駄だよ、やめておきたまえ。」
愚痴る映助の背後から、今と同じく凛とした忠告を掛けてきたのが、麗華先輩だった。
「隣の席、いいかな?」
「どうぞ。」
「えーと、あんた誰や?」
「3年の先山麗華、君達の先輩だよ。」
俺に対しても、不躾に聞いてきた映助に対しても、笑顔で名乗ってきた。
「空知宗次です。」
「遠藤映助や。で、先輩が何の用や?」
礼儀にのっとり名乗り返すものの、映助の態度は固いままだったが、先輩は穏やかな態度を崩さずに答えてくれた。
「君達の話が聞こえてね、先輩として後輩に忠告しておこうと思っただけさ。」
「PTAに訴えるってやつか?」
「そう、外に特高の内情を漏らすような真似は慎んだ方がいい。」
「何やそれ?」
映助も本気で訴える気など無かったようだが、そんな事を言われると俺も映助も気になってしまう。
「友達や両親に元気だと伝えるくらいは構わないさ。けれど、特高の秘密、特に幻想兵器やA組に関わるような事は、外部に漏らさない方が……いや、漏らせないと思った方がいい。」
「それは、監視されているという事ですか?」
「監査や検閲と言った方が近いかな。特高から出す手紙や電子メール、ネットへの書き込みの類は全てチェックされていると思った方がいいよ。」
特高やエース隊はあくまでも
「何や、それ……っ!?」
「いや、普通じゃないのか? 軍事機密を守るために、兵士の動向は監視するものだろ?」
「あははっ、君はしっかりと覚悟してきた口か。うん、その通りだね。ひょっとしてミリタリーオタクかな?」
先輩は上機嫌に笑って俺を眺めてきた。
「彼の言う通り、兵士なら通信をチェックされるなんて当然の義務さ。けれど、特高に入ったばかりの子は、それを分かっていない事が多くてさ。」
先輩の苦笑は、入学時の自分を思い起こしている様にも感じられた。
「ボク達は神話や伝説の武器を手にしてはいるが、あくまで“兵士”にすぎないのさ。好き勝手にふるまえる“英雄”ではない。」
「英雄やない……」
周囲が、まるで残酷な現実を突き付けられたが如く絶句する中、先輩は1年生全体へと同情するように優しく告げた。
「そう、ボク達は英雄に成れない。だって、英雄は1人だけだからね。」
先輩が横目で窺った先には、女子から甲斐甲斐しく料理を口まで運んでもらっている、俺のライバルがいた。
「「「…………」」」
その方向に視線を向けた全員が、意気消沈な様子で口を閉ざしていた。
自分は英雄に成れない、成れるのは彼唯一人と胸に重くのしかかっているように。
……然しまぁ、何だ。
「お話は終わりですか?」
「えっ?まぁ、そうだけど……君は何も思わなかったのかい?」
「何も、とは?」
その瞬間、初めて先輩が笑み以外の表情を浮かべてきた。
「だから、英雄に成れるのは彼だけで、君はそうじゃないって事にだよ。」
少し苛立った声で再度言われても、胸に湧くのは疑問だけだった。
「英雄とはそんなに大事なんですか?」
「えっ……」
「俺は爺ちゃんや、隣の木下さんや、美緒ちゃんのような、身近な人達をCEから守るためにここへ来ました。」
世界とか国家とかは大き過ぎて、今でもまだピンとこない。
ただ、幼い頃から顔を知っている人達が、正体も分からない結晶の怪物に襲われて、死ぬよりも辛い目に遭うのは見たくない。
それが、特高に
「別に英雄に成りに来たわけではないのですが。」
特高やエース隊に入る動機としてそこにこだわる事、それが不思議だったのだ。
見つめていると先輩は、呆然とした顔で見つめ返し、やがて自嘲するように笑った。
「そうか、そうだね。だからボクは……」
続く言葉を、首を振って打ち消した先輩は、残っていた食事を口に掻き込み、食器を手に立ち上がった。
「悪かったね、ご飯が不味くなってしまうような話をして。」
「いえ。」
少し冷めてきた味噌汁を飲んで、最後に此方から。
「ただ、一つだけ言わせて下さい。___トマト、残っています。」
食べ物を粗末にするのは見過ごせないので、手付かずの小さな赤い粒へと指をさした。
「なんでやねんっ!」
映助のツッコミを他所に、先輩はまた驚いたのか固まって、直ぐにその日も今日も含めて一番となる笑顔を見せた。
「すまないね、これだけは苦手なんだ。」
素直に謝りながら、女性らしい細い指でプチトマトを掴んだかと思うと、俺の口に優しく放り込んできた。
「ん……」
「このお詫びは、次に会った時にでもね。」
そう言ってウインクし、颯爽と歩き去っていった。
「ワテ、あいつ苦手やわ。」
「奇遇ね、私もよ。」
顔を顰めた映助に対して、陽向が珍しく同意した。というかその時も今日も、普段は映助に厳しい態度をとるのに、麗華先輩が絡むとどういう訳か陽向が同調するんだよな。
それはさておき、プチトマトを嚙み締めながら何組かを聞いていないことに気付いた。が、特別気にする事ではないので、残ったコロッケを箸で掴んで口に運び___
(「「英雄に成れない」、か……」)
英雄に成る為に特高へ来たわけではない、それは本当だ。
英雄として世界や国家を救う為に来たわけではない、それは本音だ。
英雄らしい活躍や名声を挙げる為に来たわけではない、それは本心だ。
身近な人間や暮らしてきた地域を護り、できればそのついでに培ってきた空壱流槍術を発揮してみたい、それが此処に来た動機だ。
だが、然し__
英人と出逢って、闘って、敗北してからは。
此処で唯一「英雄に成れるのは
勝つのは自分だ、と互いに再戦と勝利を誓っているからには。
(「国家や不特定多数を想い、大義と理想を折れることなく掲げて突き進む彼奴が、
天道寺英人は
俺は英雄に成ろうという気は無かった。だが英人と真に対峙する以上は__
(「
英雄へと登り詰めることで、英人に勝利する為ならば、どんなに現実が厳しく立ち塞がろうと、ライバルの如く乗り越えて突き進むのもありかもしれない。
その為に今できる事として、誓った再戦の日やCEとの戦いに備えてもっと精進してゆこう。
―――――――――――――――――――――
(「……そんな漠然とした目的意識を秘めていた俺とは違って、やはり英人は、きっとこの特高全体に於いても
危険や困難を十全に理解した上で実現に向けて邁進し、窮地に立たされようと諦めず愚直に懸命に知恵や闘志を活性化させ、心一つで黄金の巨刃や空飛ぶ絡繰りを生み出しては揺るがぬ自信で使いこなす。
「為せば成る」を本気で貫き通してのける無類の馬鹿なら英雄に至れて当然だろうし、やってみようかなってみようかと理想を断言できない時点で俺が負けても仕方がなかった。
「………だったら俺も、本気で彼奴みたいに……」
「宗次君?何か言った?」
「あ、ああいや何でもない。みんな手伝ってくれてありがとう。」
「こんなん大した苦労やないで、気にすんなや兄弟!」
「そうだよ、私達だって好きで直してるんだし。」
「ふ〜ん、「好きで」、ねぇ……」
「……?兎に角僕も同じです。忙しくて大変な先輩達の為でもありますし。」
「……今の沈黙、もしかして、ホントにありだったりして……」
そんなこんなで俺達は、加わってくれたA組以外の1年生全員と共に、上級生の残した食器を片付け終えるのであった。
……この昼休み迄、俺は思いもよらなかったのだ。
余りにも早く、戦場という危険と責任の重大な世界へと参じて
俺がどれだけ戦友に恵まれていて、この1年D組が誇らしい戦士であることも。
……だけど1つだけ、深く確信していたことがあるとすれば、それはやはり、
◆おまけ
原作主人公「〜〜1年A組は特殊部隊として運用する方針だからですね。」( ・ิω・ิ)
麗華「えっ?性格とか幻想兵器とかが厄介だから離されたと思うよ?」
1-D「あぁ、それは同感。」
原作主人公「…………」(´・ω・`)
1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合
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前半後半等と文章を分割すべき
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制限内なので1話分として投稿してもよい