英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 原作主人公兼本作サブ主人公含めた、1年D組初めての対CE戦回です。




第19.5話上 見送りと初陣

 

  俺達は食器を全て片付け終え、A組以外の他の1年生と一緒に教室へと戻って来た、のだが。

 

「何やあれ?」

 

 A組の面々が英人を筆頭に固まって、教室から出てきていた。

 しかも女子達は、俺達の教室前を通る時、「フッ」と態々笑って通り過ぎていく。

 

「本当、感じ悪い連中ね。」

 

「あんな性格悪いと結婚できないですよね~。」

 

「つまり、二人は独身を貫くんやな。」

 

 また余計な事を言った映助が、何時もの様にダブルローキックを喰らったが気にすることではないので座って待機する。

 そして少し経つと、大馬先生が入室してきた。

 

「オーマイガー先生、A組の連中が何や連れ立って出てったけど、どないしたんや?」

 

「それは今から説明する。」

 

「華麗にスルーッ!?ちゃんとツッコンでやっ!」

 

 ボケ潰しは酷いと騒ぐ映助とは異なり、先生は至極真面目に語り出す。

 

「A組は今日から作戦に参加する事となった。」

 

「はぁ?そらまた急な話やな。」

 

 上級生達と一緒に出撃しなかったみたいだし、A組も恐らく先程知らされたのだろう。

 

「大丈夫なのか?」

 

 A組はフットサルでチームプレイについて鍛えているようだが、軍隊としての本格的な集団戦用訓練には程遠い。しかもその分俺達と違って純粋な体力向上には取り組めていない筈だから、()()1()()なら兎も角()()()として実戦に耐えられるのか不安だ。

 

「ええやん、ワテらがあいつらの心配してやる必要ないわ。」

 

「ですね~、ハーレム君が蹴散らしてくれるんでしょ~。」

 

 映助や心々杏の呟きに同級生全員が、「それもそうか」安堵した様子で頷いている。

 

(「……まぁ、英人がいるし、……千影沢音姫なら多分何とかするか。」)

 

 気力知力機動力のみならず、俺との再戦で集中しつつグラウンドにも観衆にも被害を出させなかった自律心や広い視野を有するライバルは言わずもがな。

 千影沢も、俺の背後を容易く奪い、カウンター技も避けてみせた実力者だ。

 

 ……それにしてもあの体術は、何処にいたら経験できるのか、明らかに厳しい訓練で培われた物だ。

 加えて、普段は普通の女子高生、とクラスメイトから聞いたが、の如く振舞いながら、再戦前夜に見せた仮面のごとき底が窺えない本性。

 

(「特殊部隊……いや、忍者と言った方が近いか。」)

 

 心を殺して刃に徹する、そんな影に生きる冷たい気配が彼女にはあった。

 

(「まさか、他の女子も?」)

 

 英人を過剰で不自然な位妄信し、只管褒めちぎる少女達。

 彼女達も音姫と同じように、厳しく訓練された者達であり、誰かの命令で太鼓持ちを演じているとしたら、あの異常性にも説明はつく。

 

(「……まさかな。」)

 

 そんな事をする意味が分からない。幾ら“英雄・天道寺刹那の弟”だからって護衛を1クラス分内緒で着けるのは大袈裟過ぎるし、護衛ならああも過剰に子供らしく女らしく持て囃し接する必要がないだろう。

 ………そういや英人、誰にも秘密や醜態を知られないようにって__

 

「とにかく、A組は出撃したが、諸君らはまだ学校に残って授業だ。早く一人前のエース隊員になれるよう、午後の授業も厳しくいくぞ。」

 

「「「えぇ~っ!!!」」」

 

 おっと、普通に授業するのか。

 上級生全員や1年A組は出陣しているけど、今回も俺達は居残りか。気を取り直して勉強に集中しよう。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 今日の午後最初の授業である国語、教科書を開き板書と先生の講義に集中しつつノートを取っている最中__

 

ビィー、ビィー、ビィーッ!

 

 昼休みから1時間も経たぬ内に、教室のスピーカーからけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 ただ今回は、1ヶ月間に何度か聞いた襲撃を知らせる物よりどうも甲高く耳障りで、妙に不吉な予感のする音色であった。

 

 直後先生は、弾かれるように教科書を閉じた。

 

「お前達、大人しく自習していろ。」

 

「先生、何や今の?」

 

 先生が映助の質問にも答えずに素早く教室を出て扉を閉めると、走り出したのか激しい足音が室外から耳に伝わってくる。

 

「……何やろか一体?」

 

「分からない……、だが、恐らく緊急事態か何かが起こったのかもしれない。……多分、身構えておいた方がよいと思う。」

 

「……不吉やし自由時間が勿体ないけど、兄弟を信じるわ。」

 

 そうして俺は、授業で取り扱っていた話を読みつつ、気構えを心掛け__数十分後、先生が見たこともない程に悔しそうな苦しそうな表情で戻り、一呼吸して口を開く……が。

 

「……お前達、大至急グラウンドに向かって変換器を受け取り装甲車に乗れ。これは訓練でも授業でもない……1年生は3クラスとも、今からCEとの戦いに出陣する。」 

 

「「「ええぇぇっっ!!!」」」

 

 __どういうことだ!?何故急に!?

 

「せ、先生!何で出動することになったんですか!?分隊編成や集団戦訓練を始める頃まで実戦には駆り出されない、と言ってたじゃないですか!」

 

「……弓月、そして皆、実は今しがた、CEがこの前橋市にある黒檜山方面にて出現した。上級生は全員軽井沢方面で戦闘中であり、今直ぐに部隊を此方に移すことはできん。自衛隊にも出動要請が発せられているが時間が掛かる。よって、この校内に残っている1年生にCEを撃退し市民を守ってもらうしかない状況だ。」

 

「「「っ!!!???…………」」」

 

「戦いに向けた精神と戦法の備えが不足しているのは、私も十分理解している。だが不幸中の幸いというべきか、数は限られており1年生3クラスだけで十分対処可能だと予想される。また出動中は我々特高からも指示を出して不安をできる限り解消しよう。」

 

「「「……………」」」

 

「命懸けの戦いに怯えるのは当然のことだ。然し承知の上で挑んでもらわねばこの前橋市の市民が大量に犠牲となる。直ちに出陣しCEを撃退して市民を守り、そして全員揃って無事に帰還せよ。これは上官としての命令であり……情けない大人としての懇願だ。」

 

 そう言って先生は頭を下げ数秒後。

 

「……わかりました。みんな戦おう、大丈夫さ必ず勝てる!」

 

「……そうね、私達一杯特訓してきたんだもの!」

 

「せやな!ワテら人間の、そしてD組の底力見せてやるでー!」

 

「このヒリヒリする緊張感、懐かしいな~。久々に腕振るいますか〜。」

 

「そ、そうですよね!だったら今直ぐ向かって助けに行かないと!」

 

「こ、怖いけど、頑張ります!」

 

 優太を皮切りに、みんなが意気込みを発しながら立ち上がっていく様を、先生は目を見開いて息を吐いた様な表情に変わり、笑顔を浮かべる。

 

「そうか……皆感謝する。グラウンドにて装甲車が並んでいる。1台12名ずつ乗車し北東へ向かえ。揃い次第出発するので乗る車は自由だ、他クラスとの相乗りも今回は気にするな。但し一刻を争う事態故迷う暇はない。頼んだぞお前達、改めて、市民を守って生還してくれ。」

 

「「「了解!!!」」」

 

 そうして俺達は、1年D組とB・C組112名は、恐らく人生初となる命と責任の掛かった戦場へと、征くことになった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「つ、ついにワテらも実戦デビューか、腕が鳴るわ」

 

 特高の敷地を出て走る装甲車の中、頭に装着したヘッドセットを弄る俺の隣に座っている映助は、教室内と同様に自身を鼓舞しようとするも、その声は微かに震えていた。

 仕方ない話だ、まだ2ヶ月は先だと思っていた戦場に、実戦経験豊富な2・3年生の手助けもなく、突然放り込まれる羽目になったんだ、普通の反応だろう。

 

「ひ、ひぅ……」

 

「大丈夫、ちゃんと無事に帰れるわよ。」

 

 陽向は今にも泣きそうな神奈を慰めていたが、やはり手が微かに震えている。

 

「みんな、緊張したら力が出せないぞ、深呼吸してリラックスだ!」

 

「すーはー、すーはー」

 

 流石というべきか、委員長の優太委員長は一樹に深呼吸をさせ励ましているが、本人の膝はカクカクと震えている。

 他の乗員達も同じような様子で、落ち着いているのは昔不良で修羅場に慣れているらしい心々杏唯1人だ。

 

「あーあー、これ聞こえているのか?」

 

「指揮所の先生達には聞こえているみたいですよ~」

 

「皆の声は聞こえないのか?」

 

「ごめんね、本当は生徒同士でも通信できるんだけど、分隊も決めていないのに通信を可能にすると、逆に混乱すると思って止めているのよ。」

 

「むっ、京子先生?」

 

 急に耳元から京子先生の声が響いてきて、少々驚いた。

 周りを見れば、皆も驚いた顔をしており、保健医の声は全員に聞こえていたようだ。

 

「その装甲車に乗っている、君達十二名への指示は私が担当します。いいわね?」

 

「「「は、はい。」」」

 

「よい返事ね。では、今から作戦内容を説明します。」

 

 京子先生の声に応じて、ヘッドセットの左目を覆う透明なディスプレイに、前橋市の周辺地図が映し出される。

 

「黒檜山に出現したCEは県道四号線沿いにゆっくりと南下中、これを畜産試験場前の交差点で待ち受け、3クラス全員で迎撃します。」

 

 周辺が田畑で視界が開けており、敵の進行速度と合わせても、そこが恐らく一番戦いやすいのだろう。

 だが地図を見ていた陽向が、立ち上がって先生へと叫ぶ。

 

「ま、待って下さい、この先にも沢山民家があります、そこに住んでいる人達はどうするんですかっ!?」

 

「避難勧告は既に出してあります。」

 

 京子先生は普段の優しい保健医のものとは違う、冷たく事務的な声で言い切った。

 仮に逃げ遅れている者がいたとしても、救いには行かない、その余裕は無いのだと。

 

「……っ!」

 

 陽向が唇を噛んで座り込んだ。

 

 恐らくだが、自分の無力を嘆いているのだろう。全ての人を救う絶対的な力、大軍すら薙ぎ払う無敵の能力。そんな代物を振るえる人間は、この車内には誰1人いない。

 だから、京子先生の冷徹な判断ではなく非力な自分を責める様に、ボソリと呟くのが見えた。。

 

「悔しい、何で私は……」

 

「…………」

 

 他の皆も同調したようで、暗い顔で俯いてしまっている。

 ……この空気、拙いんじゃないか?

 

「あのスケコマシなら、何とかしたんかな。」

 

 映助の口から、聞いたことのない位に弱々しい声と本音がポツリと漏れ、更にみんなが表情を曇らせてしまった。

 

 初めて出逢った時に麗華先輩が、A組以外の1年生に告げた、「ボク達は英雄に成れない」という言葉。

 まるでそれが実感となり心を蝕んでいるように見えてしまい__

 

「皆、よく聞いて」

 

「先生。」

 

 京子先生が何か言おうとしたのをうっかり遮ってしまったが、それでも此方から質問させてもらうぞ。

 

「何かしら?」

 

「敵の数はいくつですか?」

 

「……約200体よ。」

 

「そうですか。」

 

 単純計算すれば……簡単な話じゃないか。

 

「1人が2体ずつ倒せばいいんですね。」

 

「えっ……?」

 

 良かった、みんな顔を上げてくれたようだ。

 たった2体、たかが2体、それだけ倒せば俺達で十分市民を救える。

 

 無論、現実の戦争はそんな容易い代物ではなかろうが、「為せば成る」とライバルが掲げて実現してみせたんだ。自信と気概と理想を抱けないようでは、勝てる戦も敵いやしないだろう。

 

 それに、こうして明確な目標が示されることで、”無数のCE”という漠然とした恐怖は、手の届く希望へと変わってくれる筈だ。俺だって只”空壱流を極めよ”や”英雄を目指せ”といった抽象的な到達点よりも、”爺ちゃん”や”英人”に追いついて越えると決意する方が精進し易いしな。

 

「先生~、この辺の人口ってどれくらいですか~?」

 

「えっ?今は30万人くらいだったかしら。」

 

 顔色が戻ってきているみんなを見て便乗してくれたのか、心々杏が質問して返答を聞いた瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、私達って三十万人を救う英雄ですよね~、報酬はいくら貰えるでしょうか~?」

 

「危険手当が少しは支払われるけど、特別な報酬は」

 

「はい、京子先生のおごりで焼肉パーティー決定です~っ!」

 

「何でっ!?」

 

「大馬先生にも払って貰いますよ~」

 

「ふっ、分かったからちゃんと帰ってこい。」

 

 京子先生の傍にいたのか、大河原先生も通信に混ざってくれて、何時の間にかそんな普段の授業風景を思わせる空気に変わったお陰で、みんなが一斉に吹き出した。

 

「心々杏、女子が焼肉をたかるのは無いんじゃない?」

 

「せ、せめてスイーツで……」

 

「僕、駅前のカフェで行ってみたい所があるんです。」

 

「どうせおごりなら、ここは風」

 

「やめろ映助君、戦闘前に死にたいのか。」

 

 明るく笑い合う態度はきっと、己の恐怖や無力感を隠す空元気に過ぎない筈だ。

 けれども、見栄や意地であろうと無気力よりは遥かにいい。

 

「二人とも、助かったわ。」

 

「そうですか?」

 

「貸し1ですよ~」

 

 京子先生から送られたお礼の通信は、みんなの様子を見るにどうやら俺と心々杏の2人だけへ届けられたらしい。

 

 そうして、士気が回復してきた所で、装甲車が停止した。

 

「…………」

 

 俺達12名全員は、無言で固唾を呑み、後部扉から外に出る。

 

 四方が畑で遠くまでよく見える十字路の先に、まだ結晶体の姿は無い。

 しかし、確実に直ぐ近くまで迫っていた。

 

「あと5分ほどで視界に入るはずよ、まずは幻想兵器の準備を。」

 

「「「武装化っ!!!」」」」

 

 俺達ほ気合を入れるため、敢えて大声で己の武器を呼び出す。

 幻子の光が形を変え、生み出された武器はどれも、普段よりも強い輝きを放っている。

 

「実戦に伴い制限を解除しているわ。それが本来の幻想兵器よ。」

 

「これが……」

 

「間違っても味方には当てないように、下手をすれば一発で幻子装甲を貫通するわよ。」

 

「……っ」

 

 何十分の一にも力を抑えたという、練習や試合での状態とは全く違う。人間どころか結晶の怪物すらも殺せる強大な兵器が手元にある。

 

『攻撃の手順は上級生達の戦いで知っているわね?まずは射撃武器で遠距離から攻撃。』

 

「は、はいっ!」

 

 スリング紐を手にする一樹が、緊張しながら応えた。

 

『撃ち終わったら、盾役を先頭に距離を詰める。』

 

「わ、分かりました……」

 

 神奈が大きな盾に隠れつつも頷く。

 

「あとは近接武器で叩くだけ。ねっ、簡単でしょ?」

 

「おう、やったるで!」

 

 映助は棍棒を振り回し、必死に自分を奮い立たせていた。

 

「行動の合図はこちらで出すわ。けど、次からは君達自身で判断する事になる、よく勉強しておくのよ。」

 

「はいっ!」

 

 小隊長志望の優太が、弓を手に深く頷いた。

 

 そうして手順の確認も終わり、ただ敵の到着を待つ数分は、まるで何時間にも感じられるほど長かった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 刀を持ちながら、緊張により戦いの前から息が荒くなっている陽向を見て、その肩にそっと手を乗せる。

 

「怖いか?」

 

「……うん、やっぱり怖い。全国大会の時だって、こんなに怖くなかったのに。」

 

「そうだな。」

 

 見栄を張らず頷いた陽向に同意する。

 爺ちゃんとの手合わせはとても苛烈で、数え切れない程やってきた。英人との再戦は互いに殺意を込めてぶつかり合い、僅かでも間違えれば死に至る無茶も重ねて闘い抜いた。

 けれど、ルール無用で無慈悲に命を奪われる恐れや、友達や無辜の人々への脅威へと命懸けで立ち向かう責任が伸し掛かる戦争は、生まれて初めてなのだ。

 

「ただ、俺は嬉しい。」

 

「えっ……?」

 

「ずっと無駄だと言われてきた槍術で、誰かの役に立てる。こんなに嬉しい事はない。」

 

 __爺ちゃんから空壱流槍術の継承者として、常々述べられた現実。

「銃弾が飛び交うこのご時世に、槍なんてまさに無用の長物。」

「平和なこのご時世に、武術なんて覚えて何の役に立つ。」

 

 俺には何も反論できず、胸に刻まれながらそれでも武を鍛え爺ちゃんに習い空壱流を継ぐことを諦められず、去れど歳を重ね体が育ち技を身につけてゆく毎に、爺ちゃんの思いを益々実感し共感してしまった。

 

 だがそれが幻想によって覆り、振るうべき槍を得て、倒すべき敵が前におり、越えるべき光に出逢わせて進ませてくれた。

 

「戦えるという事が、ただ純粋に嬉しい……野蛮かな?」

 

「男の子だね。」

 

 陽向は剣道を修める者として共感してくれたのか、優しく笑い、会話を続ける。

 

「こんな時は「俺が守ってやる!」とか言うものだよ。」

 

「できる保証がない、嘘を吐くのは嫌だな。」

 

「も~、君はロマンがないんだから。」

 

 と言われた直後、心々杏がひっそり陽向の耳元に近寄って__

 

「うひゃおっ!」

 

 何を囁かれたのか、陽向は奇声を上げて飛び上がった。

 

「ちょ、な、聞いてたのっ!?」

 

「この距離で聞こえないと思っていた事が驚きなんですけど~、ねぇ~?」

 

 心々杏の言葉に対し、男子クラスメイトの殆どが何故か一斉に舌打ちする。

 

「こんな時にイチャついてんじゃねえよ!」

 

「将校の何割が背後からの銃弾で倒れたか知ってるか?」

 

「うぎぎぎっ、兄弟、ワテら非モテ同盟を裏切るとは……っ!」

 

「宗次さんは最初から参加してないと思いますけど。」

 

 一樹以外のほぼ全員から強大な、といっても英人に比べれば微風程度の殺意が篭った視線を向けられる。何でだ。

 

 すると心々杏が、男子全員へと語り掛ける。

 

「喧嘩しなくても、これが終わったら先生がキスしてくれるそうですよ~」

 

「「「えっ???」」」

 

「皆、この一戦にワテらの全てをぶつけるんやっ!」

 

「「「おぉーっ!!!」」」

 

 村の外の、同い年の男子の多数はこういうものなのか……?

 

「ちょっと、小向井さんっ!?」

 

 通信越しでもわかる程慌てふためく京子先生へと、心々杏は心底邪悪な笑みで応じる。

 

「京子先生、私は「先生」としか言っていない……分かりますよね~?」

 

「悪魔か、あんたは。」

 

「お、大馬先生のブラザーで大乱闘、でゅふふふ……」

 

 呆れ果てる陽向の後ろで、神奈は必死に鼻血を堪えていた。またか。

 

 そんな風に緊張が解けたところで、視界に遂に、輝く結晶体の群れが現れる。

 

「射撃部隊、前に出て」

 

「は、はい!」

 

 先ずは3クラスの射撃装備持ち、20名あまりが前列に出る。

 

「CEは大勢の人がいる方に向けて移動する性質があるの。だから焦らなくてもこちらに寄ってくる、十分に引き付けるのよ。」

 

 今にも攻撃を始めようとする生徒達へと、保科先生は静かな声で諫めていた。

 

 3 百m、2百mと徐々に大きく見えてきた敵が、150mの距離まで近付いた所で、張り詰めた弓が解き放たれる様が見える。

 

「撃てっ!」

 

「「「うおぉぉぉ―――っ!!!」」」

 

 雄叫びを上げて放たれる20の矢と弾丸が、最前列の結晶を次々と撃つ砕いてゆく。

 

「当たったっ!」

 

「良くやったわ、でも次弾急いで。」

 

「はいっ!」

 

 自分達の攻撃がCEに通じたお陰で、射撃装備持ちの生徒達が自信を高めながらは次々と飛び道具を放っていき、更にその状況を観戦することで、俺も含め後方で待機する生徒全員から不安が失せてゆく。

 

 そうして60体も倒したところで限界が訪れたのか、射撃していく内に疲労や動作の鈍りが見えてきた20名全員が、攻撃の手を止めた。

 

「はぁはぁ……体が、凄く怠い……」

 

 一樹は息を荒らげながらも次撃を放とうと念じているが、次のスリング石は形成されない。

 

「何でだ、訓練の時はもっと撃てたのに……」

 

 優太も矢は作り出せたが、弓の弦が重いのか引けなくなったようだ。

 

「よく頑張ったわね、あとは皆に任せて下がりなさい。」

 

「は、はい……」

 

「すまない、皆頼んだぞ。」

 

 射撃部隊が装甲車の傍まで下がり、漸く俺達90名の近接部隊の出番となる。

 

「盾隊、前に出て。」

 

「ひ、ひぅ……」

 

 悲鳴交じりに頷く神奈を含む、9名の盾持ちが最前列に出る。彼女等のみで、残りCE140体の攻撃を受け止めねばならないのだ。如何程の恐怖と責任感を受けていることだろうか。

 

「合図と共に全員突撃するけど、これが成功するかどうかは貴方達に掛かっているわ。」

 

「ひぃ、ひぃ……」

 

 神奈は過呼吸気味になってしまっており__その震える肩に、陽向と心々杏が両側から支えの手を置く。

 

「神奈、失敗しても大丈夫よ、私達がなんとかするから。」

 

「ただ前に走ればいいだけですよ~」

 

「ひ、陽向ちゃん、こ、心々杏ちゃん……」

 

 2人のお陰で神奈の呼吸も静まっていき、それを見計らったように、京子先生がカウントダウンを始める。

 

「皆、準備はいいわね? 5、4、3、2、1……全員、突撃っ!」

 

「「「うおおおぉぉぉ―――っ!!!」」」

 

「わ、わぁーっ!」

 

 雄叫びを上げて突撃する皆の前を、神奈は精一杯の声を上げて走ってゆく。

 

 彼女等が盾を前方に構えながら迫っていく内に、今まで味方が倒されても無言の行進を続けていたCE達が、一斉にコアから赤い光線を放つのが、後ろからも見えて聞こえてくる。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 前方のCEから超える光線が一度に放たれ、盾越しでも目を潰されそうな凄まじい光の波濤に襲われている中、盾に当たって弾ける衝撃を受けてか、神奈が悲鳴を上げて尻餅を付いてしまった。

 けれど、彼女が初撃から仲間を守り切るという、盾の役目を立派に果たしたと、俺達は確信している。

 

「グッジョブですよ~」

 

「後は任せて!」

 

 陽向や心々杏が、俺より先に駆け抜けながら、神奈にエールを送り横を通り過ぎていった。

 

 次の攻撃に向けてチャージを開始しているらしきCE共へと、1年3クラス総勢81人の近接攻撃幻想兵器使いに於いて一番槍を突きたてたのは、罰で一番グラウンドを走らされていた分俺より足が速くなった映助だ。

 

「我がモテ道のために死ねやっ!」

 

 映助が、普段と相変わらずな雄叫びをあげて棍棒を振り下ろすと、対ライオン特化という〈オリーブの棍棒〉固有の性質は発揮されずとも、CEの透明な体を粉砕してのけた__が。

 

「よっしゃあっ!」

 

「まだだ、コアが残っている。」

 

 歓声を上げる映助の横から蜻蛉切を伸ばし、結晶を砕かれ剥き出しとなった赤い球体を貫く。

 球体は刺されたことで微塵となって消えた。

 

「あっ、ずるいで兄弟!」

 

「そんな事を言っている場合じゃないでしょ!」

 

 騒ぐ映助の横で、陽向も見事な唐竹割で、目の前の敵を一刀両断にしながら叫んでいた。

 

 直後視界にて、約5秒掛かると習ったチャージを終えた模様のCE複数が、赤く光らせたコアをこちらに向けているのが見えてしまった!

 

「あ、あかんてっ!?」

 

「――っ!」

 

 コアの輝きが限界に達した瞬間、咄嗟に槍で映助の足を払いながら、地面に深く伏せる。

 

 間髪を入れず放たれた無数の赤い光線が、彼らの上を通り過ぎてくれた。

 

「助かったで、兄弟。」

 

「礼は後だ。」

 

 宗起き上がる勢いに乗せて、下から蜻蛉切を突き上げれば、CEは見事にコアを貫かれ、ボロボロと崩れ落ちていく。

 だが、目の前の壁が消えたせいか、後列でチャージを終えていた別のCEが、コアを赤く光らせていた。

 

「くっ!」

 

 直ぐに横へ飛んで回避し__

 

「ぎゃっ!」

 

 流れ弾が当たったのか、背後から短い悲鳴が上がってしまった。

 

(「しまった、これが集団戦か。」)

 

 場合によっては敵の攻撃が見えていても、あえて受け止めるべきかもしれない。

 

 そう考えながらも、体に無意識レベルまで刻み込まれた技を繰り出し、CEのコアを貫いていく。

 

 結晶体の砕ける甲高い音、攻撃を受けた味方の上げる悲鳴、限界を知らせるアラームと、危ない生徒を下がらせようとするヘッドセットからの通信。

 そういった音の洪水も、戦いに集中するうちに耳から消えていく。

 

 有るのは蜻蛉切の確かな重みと、目に映る倒すべき敵の姿。

 突き、避けて、叩いてから突き、また避ける。

 己が槍と同化して、一つの()()となるような感覚。

 祖父と何千回と繰り返した練習試合の中では、一度も辿り着けなかった、真剣の死合だからこそ踏み込めた領域___

 

(「__?何だ?妙な直感?が……って戦闘中に考え事はっ!」)

 

 はっとしたその時点で目に映ったのは、無数の結晶で埋め尽くされた畑と、雲一つなく澄み渡った青空だった。

 

「……終わった?」

 

「勝った、ワテら勝ったんやっ!」

 

 実感が湧かないしふと何かが出てきた?ような感覚に戸惑っている一方で、転んで土まみれの映助が歓声を上げていた。

 

 それは徐々に他の生徒達にも広がり、地を揺るがすほどの大声に変わってゆく。

 

「私、ちゃんと戦えた、皆を守れたんだ。」

 

「ひ、陽向ちゃん、怖かったよ……っ!」

 

 肩で息をしながらも、無事に生き残った陽向に、緊張が切れて震え出した神奈が抱きついている。

 その横で地面に転がる心々杏の、短剣を手放した腕からは、ビービーと不吉なアラームが鳴り響いていた。

 

「あ~、やっぱり喧嘩みたいにはいかないですね~」

 

 どうやら何発かCEの光線を受け、幻子装甲は限界寸前であるらしいが、それでも廃人にならず生きている。

 

 他の生徒達も変換器がうるさく鳴り響き、息を切らせ体力も擦り減ってはいたが、誰一人欠ける事なく目を輝かせていた。

 

 

 __俺も、みんなも。これにて初陣は終いだと、市民を守れたと思い込んでいた。

 

 





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 因みに大河原先生による教室内での出動命令の場面は、私のオリジナル描写となります。


◆幻想兵器一部紹介
○空知宗次〈蜻蛉切(とんぼきり)〉:史実の武将本多忠勝の用いていた槍。穂先に止まった蜻蛉が切れる程鋭い。

○遠藤映助〈オリーブの棍棒(クラブ・オブ・オリーブ)〉:『ギリシア神話』のヘラクレスが用いていた武器。ライオンへの特効性能を有する。

○平坂陽向〈村雨丸(むらさめまる)〉:『南総里見八犬伝』の犬塚信乃が用いる日本刀。付着した血を洗い落として斬れ味を保つ他、常に霜を発し相手の武器とかち合った際冷たい霜を顔面に振り掛けて目潰しとなる。

○鴉崎神奈〈「最強」の盾〉:故事『矛盾』にて商人が売ろうとした盾。基本的に無敵の防御力を誇り、槍や矛及びそれらに近い物体と衝突した際双方とも必ず砕け散る。

○小向井心々杏〈つらぬき丸〉:『指輪物語』に登場する短剣。

○斑鳩一樹〈スリング石〉:『ケルト神話』の神ルーが用いていた石、及び石を生み出す投石用の紐。投げれば狙う対象の目に自ら向かって飛ぶ。因みに〈魔弾タスラム〉の原型ではあるが、そちらは既に3年生の1人の幻想兵器として発現、登録されている為この名称になった。

○弓月優太〈ロビンフッドの弓〉:イングランドの伝説上の義賊が用いていた弓矢。

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