英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 更新遅くなった上、一番の長文になってしまいましたが、原作第5章宗次編、これにて御仕舞です。

 恐らく本作最大のキャラ崩壊が生じているかもしれませんので、御注意下さい。



第19.5話中 超人への前進と人間らしい幸福

 

「ふぅぅーー、はぁぁーー、………」

 

  幻想兵器を解除し、緊張や興奮を冷まし調子を整えるべく深呼吸しながら、四方の畑を見渡す。

 

「……完全に守り切れた、と言えるのか……?」

 

 襲い来るCEを撃退せんと動き暴れる内に、何時の間にやら農作物も土壌も荒廃させてしまっていた。

 戦争だから、人や街を守る為だから。弁明材料をつくるのも通すのも簡単だろうが然し、それで済ませていい結果ではない筈だ。

 

 農家がどれだけ収入源として頼り、消費者の食卓に届けてくれているか。技術や伝統と共に代々受け継いで、愛着と誇りを持って努力を注いできたことか。

 

 その永い時と想いの籠められた農地が、僅か1時間足らずでこの様だ。

 村で田畑や耕し生産する人々と、物心ついた頃から家族ぐるみ地域ぐるみで関わって触れ合って手伝って分けて貰えて……そうしてきた俺も今や、槍を振るいながら踏み躙り惨状を生み出してきた当事者になってしまったのは笑えない。

 

 もっと被害を出さぬ程迅速且つ丁寧にCEを倒せたのなら、そう心掛ける余裕を持てる位強ければ……

 

「だったら尚更頑張らないとな。嘆いても悔やんでもそれで元通りになりはしないんだから。」

 

 やむを得ない戦禍と唯受け入れ妥協して終わり?いいや否だ。

 生み出した犠牲を真摯に見つめて理解し、責任を背負い不足を反省し、それらを前進・成長の燃料に変えて、次こそ犠牲を最小限に、成果を最大限にと努めて報いる為に__

 

「ん?どないしたんや兄弟?」

 

「宗次君、顔が険しくなってるけど大丈夫?」

 

「……あ、なんでもない。ちょっと戦いを振り返って」

 

「みんな聞こえてる?緊急事態よ!」

 

 今度は何だ?随分焦っているように__

 

「そこから北西約3キロ先に、小型ピラーが出現してCEを放出しているわ!あなた達は全員装甲車に乗って!」

 

「「「ええぇぇっーー!!!???」」」

 

「今相模原駐屯地からヘリ部隊を攻撃のために出動させてるの!彼らがCEを倒してくれるし上級生達ももう少しで駆け付けてくれるから、代わりに1年生は全員、出現地付近の避難所へ向かって民間人の避難誘導を!」

 

「「「っっ!!!???」」」

 

「………分かりました!みんな急いで車に乗って!」

 

「「「は、はいっ!!!」」」

 

 優太委員長の一声で、俺達は直ぐに車へ駆け込む。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 道路を高速で走る装甲車内に、陸自のヘリ部隊による攻撃の証か、爆音と地響きが伝わってきた。

 

「ひ、陽向ちゃん……」

 

「大丈夫、大丈夫だから。」

 

 陽向は泣きつく神奈をあやしていたが、その言葉は自分に向けて言い聞かせているように聞こえた。

 

「…………」

 

 普段はよく喋る映助も、沈痛な面持ちで黙り込んでいる。

 何せ幻子装甲は既に赤信号が点灯しているのだ。次にCEと戦えば間違いなく攻撃が貫通し、心を奪われ生きる屍と化す訳であり、その上で普段通りに笑える筈がない。

 

 そんな重苦しい空気に包まれていた装甲車が止まり、重い足取りで外へ出てみれば__

 

「おいどけ!とっとと逃げねぇと!」

 

「ちょっと押さないでよ自分勝手じゃないの!」

 

「つとむー!何処だー!返事をしてくれーっ!」

 

 正午迄平穏な毎日を過ごしていただろう住民による、沈黙とは真逆の騒乱が待ち構えていた。

 俺達は思わず絶句して立ち尽くしてしまう。

 

「皆さん、直ちに避難してください!」

 

「荷物は邪魔になります、置いていってください!」

 

「ママ、ママーッ!」

 

「ほら、泣かないで、急いで!」

 

 此処は調整池の近くに建てられた中学校で、周囲の人々が千人以上も避難していたそうだ。そして今、教師や市の職員と思われる者達が大声を張り上げ、泣き叫ぶ子供やその手を引く大人達を、必死に街の西側へと誘導していた。

 だが、その歩みはあまりにも遅い。

 

 僅か1㎞程先の地面から突如ピラーが出現し、続いて攻撃ヘリがやってきて爆撃し、更にその爆炎で家や畑が吹き飛ばされ、焼け焦げる臭いが黒い煙と共に校舎にまで流れてくる。

 そんな突然の異常事態に対する恐怖、爆撃と火災という分かりやすい死の恐怖。

 今さっき訪れた俺達でさえひしひしと感じるのだから、安全安心を求めてここに来た住民の足が、竦み上がってしまったのもやむを得ない。

 

「皆、私達が指示するから、言う通りに避難を手伝うのよ。」

 

「「「は、はい!」」」

 

「…………」

 

 隣のみんなが精一杯の声を上げ、避難誘導に取り掛かっていく。

 

「皆さん、私達が来たからもう大丈夫ですよ!」

 

「お、落ち着いて逃げてください……」

 

「足の悪いお年寄りやお子さんはこっちに来てください、装甲車で運びます!」

 

「ほれ婆さん、ワテが担いでやるから早よ乗り。」

 

「押さない、駆けない、喋らない、戻らないですよ~っ!」

 

 そんなみんなの、エース隊員の特徴である制服姿を見たお陰か、僅かながら空気が和らいでいく避難民達。

 彼等と、付きっきりになる映助達を眺め、振り向いて誰にも気づかれぬよう俺はその場を静かに走り去る。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 勝手な行動にも関わらず、向こうも相当慌ただしい状況なのか京子先生から通信が入らないのをいい事に、俺は調整池付近の十字路の真ん中に1人到着する。

 

「武装化。」

 

 呟く様に唱えて顕現させた蜻蛉切は、消耗の様子なく硬い感触と無傷の外観を保っている。

 

 道の先を見据えれば、燃え続ける炎が、内側からブワリと膨らんできた。

 中から現れたのは、煤で汚れてすらいない輝く六角柱の群れ。

 

「25体くらいか。」

 

 空爆を逃れたCE達が、大勢の市民が避難している方向、つまり俺の所へゆっくりと近付いてくる。

 

「空知君、何をやってるの!?」

 

 京子先生の声がヘッドセットから発せられたので、俺は戦闘に気構えつつ答える。

 

「しんがりです、ここで食い止めます。」

 

「やめなさい、君がそんな事をしなくても」

 

「犠牲は出ませんか?」

 

「…………」

 

 質問への答えは沈黙、つまり出るという事だ。

 若く体力のある者達は、いざとなれば走って逃げられるだろうが、まだ幼い子供や老人は間に合わない筈。

 装甲車に乗せて運ぼうとはしていたけども、人数が多すぎて間違いなく一度では運べない。

 それに最短路は徒歩の者達で埋まっており、迂回路を走るしかないせいで余計に時間が掛っている。

 

 CEの移動速度は成人男性の徒歩と同じ約分速百m。

 しかも疲れを知らぬとあれば、恐怖で足の鈍った集団に追いつくのは容易いと懸念される。

 

「けど、君1人じゃなく皆で」

 

「まだ余裕のある者は、どれくらい残っていますか?」

 

「…………」

 

 二度目の質問に対する答えも沈黙、即ちやはり俺以外に余裕のある者はいない。

 俺達12名の内、幻子装甲がほぼ無傷な者は、盾役故に単独での戦闘能力がない神奈のみ。射撃担当は限界、白兵部隊も体力や精神力を相当削られたらしい。恐らく1年生3クラス全体がそんな危機的状態なのが予想され、加えて。

 

「本体と分かれたCEが5体、小道を通って市民の方に向かっています。」

 

「ミサイル攻撃の撃ち漏らしか、戦える生徒を集めろ!」

 

 はぐれたCEの迎撃に駆り出され、こちらに回す余裕はなさそうだ。

 

「それでも、君1人が犠牲になる必要なんてない。英雄気取りも大概にしなさい!」

 

 京子先生から初めて厳しく叱られた。逃げるように促がしているのは伝わってくるが、俺は静かに首を横に振る。

 

「英雄気取り……そうですね。」

 

「えっ?」

 

「麗華先輩に言われました、俺達は英雄に成れないと。」

 

「…………」

 

「その通りだった、俺に英雄の資格はない。」

 

 大勢の人々を救った偉大なヒーロー、という元々の英雄像に興味はあったが成れると幼稚に自惚れらる事はできず。

 国家の為民衆の為人類の為未来の為、と漠然とした不特定多数を思い遣る姿に焦がれながら、遠大な視野も理想も持てず。

 

「そして、兵士にも成れなかった。」

 

 自分で勝手な行動はせず、上官の指令を忠実にこなす手足。

 それが、組織にとって大切な存在である事は分かる。

 ただ、滅私奉公の武士に成れる程老成しておらず、そう在れるだけの鋼の理性も忠義も使命もなかった。

 

「俺は結局、唯の武術家で、槍使いで、身勝手な人間でしかなかった。」

 

「……何を言っているの?」

 

「さっき、CEと戦って分かったんです。__戦場では唯1人、何も背負わず前のめりがいい。」

 

 人を守りたい気持ちは嘘ではない、仲間は頼もしく共に居るのが楽しい。

 けれど、戦う時は、命のやり取りに興じるこの瞬間だけは、1人孤独に槍だけを感じていたい。

 

 それに、多勢に窮地、単騎に伸し掛かる責任。この程度、英雄(彼奴)なら乗り越えられるに決まっていて、であらばライバル()も踏破して成し遂げてやる。今の俺にとって現状は、太陽に1段階届く為のまたとない好機なのだ。

 ……何時から、或いは元々の本性が、こうも愚かで自己中心的なのか、そんな自覚が可笑しくて口元が歪んでゆく。

 

「………」

 

「だから、これは俺の我儘です。」

 

 京子先生に告げて、頭のヘッドセットを外して地面に置く。最早、左目のディスプレイや通信の音すら、戦いに邪魔だ。

 

「すまない、待たせたな。」

 

 もう百mの距離を切っていたCE達に向け、謝罪してから槍を構える。

 この先は、もう言葉はいらない。

 ただ己の槍を持って、互いの命を奪い合うだけ。

 

「…………」

 

 CEは変速せずに近付いてくる。

 50m、40m、35……30、其処で様子が変わる。

 

カッ!

 

 前列のコアから一斉に赤い光線が放たれた、がとっくにこっちは低姿勢で突進している。

 

「おぉぉぉぉ―――っ!」

 

 光線の下を潜り抜け、真っ直ぐ正面のCEに襲い掛かり、助走の加わった一突きを与えて、容易く結晶を貫き中の球体を破壊する。

 

「ふっ!」

 

 5秒後、次の攻撃を予想して右へと大きく飛ぶ。

 

 味方が邪魔になったのか、3体のみが光線を撃ってきたのに対し、俺は槍の広い穂先で受け止めた。

 

「正確すぎる。」

 

 先の戦闘で分かったのだが、CEの攻撃は常に人間の中心、鳩尾を狙って放たれていた。なら回避は容易い。

 

「ふっ、はっ!」

 

 2連続の突きで2体を倒し、後列からの攻撃がこないよう、今度は左側の敵を盾にするように回り込む。

 

 後は只、同じ事を繰り返すだけ。

 突いて、避けて、突いて突いて、避けて突く。

 

「しっ!」

 

 そうして合計21体目を倒した、直後__

 

「__っ!?」

 

 突如、CEの後方で燃え盛る炎の中から、赤い光線が飛んでくる!

 

(「避けれない!__ならばっ!」)

 

「くっ!」

 

 自身の鳩尾へ咄嗟に、防御意識(幻子装甲)を集中させる。

 結果、後ろにのけ反ったものの衝撃も装甲の消耗も僅かに抑えられた__と思えば残り4体から光線が襲ってくる!

 

 右へ飛んで避けるが、そこにまた煙の中から赤い光が襲い掛かる。

 

(「このままだと危険だ、30m以上離れようっ!」)

 

 全速力でバックステップを繰り返し、攻撃の届かない所で止まって炎とその奥を見つめる。

 

「何だ?」

 

 本来ありえない筈の距離、ありえないタイミングでの攻撃。

 火中からその正体がゆっくりと現れる。

 

 水晶のように透明な体、中心部でルビーのように輝くコア。

 それは今まで出会ったCEと全く同じ。

 

 しかし、結晶の形が見慣れた六角柱とはまるで違う。

 正確な三角形が20個集まって構成された、丸に近い形状、言うなれば正二十面体であった。

 

「新種か。」

 

 授業で習った限り、CEはこの6年間、たった1種類しか存在しなかったという。

 それがここにきて、外見も行動パターンも全く別の個体が現れた。

 

「…………」

 

 無言で警戒する俺へと、二十面体は六角柱を盾にしてゆっくりと近づいてくる。

 

(「先程までの攻撃から考えて、新種の射程は百m以上はある。」)

 

 だが、その射程内に入っても二十面体はコアを光らせず、攻撃してこない。

 

(「此方の硬直を確実に狙い撃つ気か。」)

 

 攻撃、防御、回避、どれも終わり際に一瞬の隙が生まれるのは避けられない。

 今までのCEは攻撃の間隔が長く、また馬鹿がつくほど正確であったため、隙のある行動もタイミングさえ間違えなければ安全に行えた。

 その優位が、たった1体の新種によって潰されてしまった。

 

(「こいつの知能はどの程度だ?」)

 

 ジリジリと後退しながら、神算と炯眼に至らぬ身で可能な限り思考を巡らせる。

 

 二十面体に人間や動物程高度な知能はおそらくない。

 仲間の六角柱を散会させ、俺を包囲して逃げ場を奪うなど、有効な戦術を取る様子がないからだ。

 

(「高度なプログラム、という程度か。」)

 

 格闘ゲームのCPU、それもハードモードといった感じだろうか。

 人間には不可能な反射速度で技を出してくるが、所詮は決められたアルゴリズム、パターンさえ解析してしまえば打倒は容易い。

 

 問題は、そのパターンを読み切るまで、宗次の幻子装甲が持つかどうか。

 

「……やるか。」

 

 行動方針と覚悟を決め、俺は後ろに下がっていた足を前に蹴り出す。

 

 30mのラインに入った瞬間、飛んできた4体の光線を、短めに持った穂先で受けながら前に走り続ける。

 そこへ二十面体の光線が放たれる。

 

「くっ……!」

 

 狙われたのは鳩尾ではなく左肩、新種は相手の防御が薄い箇所まで見極める知能があった。

 

「はぁっ!」

 

 肩への衝撃を無視して走り寄り、正面の六角柱に槍を突き刺す。

 コアを貫き固まってしまったが、二十面体の攻撃は飛んでこない。

 

(「チャージ時間は早くない。」)

 

 だが、残る3体の六角柱が再びコアを輝かせる。

 それを慣れた動作で回避するが、続く二十面体の追撃はやはり避け切れず、今度は着弾点を予測できぬと装甲の集中を行わなかった。

 

(「先ずは後顧の憂いを断つ。」)

 

 じわじわと忍び寄る死神の足音を今は無視して、目の前の3体に向けて蜻蛉切を放つ。

 素早く突いて3つのコアを破壊した瞬間、予期していた通り二十面体から光線が飛んでくる。

 

 今度は左脇腹に着弾し、幻想変換器が遂に警告音を鳴り響かせる。現時点で二十面体相手の装甲集中を行わない方針を心掛けたお陰で助かったが__

 

(「こんな所で終われるものか!」)

 

 ようやく一騎打ちとなり、笑みさえ浮かべて二十面体に向けて突撃し、その勢いを乗せた渾身の突きを放つ。

 しかし、攻撃が当たる直前、二十面体は高速で回転を始めた。

 

「何っ!?」

 

 僅かに体表へ突き刺さった蜻蛉切は、コアを貫く前に弾かれてしまう。

 

 槍に引っ張られて体勢を崩してしまい、二十面体が一瞬で回転を止めて赤い光線を放ってくる。

 

「くっ!」

 

 さっきの直撃で味を占めたのか(此奴に味覚があるかは知らないが)、左側の脇腹を撃ち抜かれ、幻想変換器が更に煩く警告音を立てる。

 だが、最早退路はない。よって、これでけりを付ける!

 

「はっ!」

 

 蜻蛉切で突きを放つが、再び回転した二十面体に穂先を弾き飛ばされる。

 だが瞬間、槍から手を離してそのまま前へと飛び込む。

 空中で高速回転する二十面体結晶、ミキサーに身を投げるような自殺行為だろうが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 狙いはCEの下、浮遊する結晶と地面の間にある僅かな隙間。

 そこに仰向けで体を滑り込ませ、回転技の弱点たる中心軸に向かって、右拳を突き上げる。

 

「砕けろっ!」

 

❛空壱流体術・鯉龍*1

 

 それを、残る幻子装甲を集めた集中幻子拳で放つ。

 ドリルのように回転する先端と、拳の間で激しい火花が散る。

 

 そして、甲高い音を立てて結晶がひび割れた。

 回転が止まりゆっくりと傾く二十面体だが、まだそのコアは残っており、貴様も道ずれだとばかりに、いっそう強く輝き出した。

 

 だが、死に体如きにむざむざ殺されはしない。

 

カチカチカチッ。

 

「武装化っ!」

 

 投げ捨てた蜻蛉切を消して再形成、そして起き上がる勢いで突きを放つ。

 同じタイミングで、二十面体のコアも最後の光線を撃った。

 

 迫る赤い破滅の光を、蜻蛉切はその伝承通り、触れただけで切り裂いてゆき、やがて光線ごと赤い球体の真芯を貫いた。

 

「____」

 

 知能のないCEは音を発することなく、只崩れていくだけ……なのに何故か、二十面体の声が聞こえたような気がした。

 

 __お前の勝ちだ、しかし、我々の勝ちである。

 

カッ!

 

 注意を少々割いていた炎の方面……よりズレた角度から光が伸びてきて、全霊を振り絞り硬直状態にある俺を貫く!

 

「ぐあっ……!」

 

 回避も集中もできず、体の真芯を貫かれて思わず膝をつく。

 

ブー、ブー、ブーッ!

 

 鳴り止まない警告音は、ついに限界を迎えた証拠だったが、それを聞くまでもない。何故なら__

 

「くぅ……」

 

 全身が怠く、頭も霞が掛かったように上手く回らない。

 幻子装甲が消える、そのエネルギー元である幻子干渉能力――精神の力が空になったのだろう、と霞んでゆく意識を必死に奮い立たせて現状分析を図る。

 

 形成する力を失い、右手の蜻蛉切まで消えてしまうのが手の触感から分かってしまう。或いは感覚の喪失自体を意味しているのか?

 

 残る気力を振り絞って、どうにか後退しながら狙撃手を探せば__燃え盛る炎から数m左にて、なんともう1体、二十面体のCEが現れ、しかも間近に迫って来ていた。

 

「嘘……だろ……」

 

 漏れたのは驚愕か、絶望か、諦観か。

 体力も干渉能力も尽きかけていた状態で、新手の強敵。

 

「……武装化。」

 

 蜻蛉切は形成されなかった。

 集中幻子拳も果たして発動できるのか分からない。

 

「終わりか……」

 

 思いのほか早く訪れた死には、意外なほど恐怖を感じなく、然しようやく得た生きる場所に、もう立てない事が残念であった。

 

(「無用と言われた槍術を思う存分振るえて、仲間や市民が逃げる時間も稼げて、そんな名誉の戦死ならせめて家族も納得して受け入れてくれる、筈だ。」)

 

 光を充填させながら近寄るCEを前に、少し早い走馬灯が脳内の情景に流れてくる。

 

 家族団欒の日々、爺ちゃんの稽古、地域や学校のみんな、外で初めて出逢った親友に___

 

(「己は、必ずや強大なるCE共を打倒し、祖国に光を齎してみせる!故に、敬意を表し、全力で貴様を越えてゆく!!」)

 

(「心一つで為せば成ると信じ抜く限り、己に不可能など存在せんのだ。」)

 

(「__勝つのは、己だ。」)

 

「__いいや、まだだ。」

 

 __絶体絶命、満身創痍、それがどうした。

 俺は死んでいない、負けてない、心が燃えている限り。

 

 何を諦めていたんだ情けない。

 そんな必要はない、何故なら前を向いて進めば道は必ず拓けるから。

 そんな権利はない、何故なら英人ともう一度闘う迄常勝を誓ったから。

 

「終わりじゃない、英雄ならできるぞ、英雄ならできるぞ、英人ならできたぞ。だからライバル(好敵手)の俺が為せない道理はない。」

 

 朧気だった思考も感覚も戻ってきている、どころか寧ろ前よりも冴えてきた。

 

 目指すべきは太陽なんだ、たかが結晶如き踏み台にしてくれる。

 

「__勝つのは、俺だ。」

 

 左手を握り締め構え、本能を適切に制御し解放する。

 策は既に練り終えた、後は実行するのみ。

 

 俺は奴の正面へ、幻子装甲を節約の為一旦完全消失させながら突進する。

 奴は静止し、俺目掛けて光線を放ち__

 

「うおぉぉーっ!」

 

 その光から身体を少し右にズラシながら、幻子集中拳を発動させた左拳を光線にぶつける!

 光線は拳に衝突した感覚を届けるも、嗚呼上手くいった。

 

(「幻子装甲が受け流してくれてる、このまま進むぞ!」)

 

 光線は身体に直撃することなく、唯俺の左側へと逸れてゆくのみ。

 簡単な話だ、幻子装甲で受け止めるのはもう無理なら、受け流すよう意識して装甲を調整すればいい!

 

 左拳を前に突き付けながら、僅かでも身体や手の位置がズレたり装甲の調整を誤ったりせぬよう注意しつつ、迅速に着実に進み続ける。

 そして更に光の勢いが増す中接近し__

 

「喰らえっ!」

 

 瞬時に屈み回避しつつ、コア目掛けて集中幻子拳を、貫手のアッパーカットを放つ!

 奴の回転防御は、光線発射中には行わない。そう踏んで、此方が光線に当たりながらも耐え抜いているように見せかけて、光線を中断し回転する迄にコアを穿つ。

 確証のない考察を基にした賭けであったが、出力の増大途中なのもあってか動きが鈍く、そのまま手を深く突き刺してやる!

 

 もっと深く、中心に届けんとするも奴の光線が止み、動こうとして__

 

「まだだっ!」

 

 腕の力が、右手に集めた幻子装甲が、雄叫びに呼応して急激に増したのを感じながら勢いをつけて、遂に__

 

 赤く小さい球体へと指先が接触、粉砕、感知直後に引き抜き後ろへ跳び下がる。

 

 罅割れる二十面体の結晶、崩れゆくコア、視覚でも聴覚でも認識できる奴の状態は__俺の勝利を意味していた。

 

 奴の消滅を見届けて、俺は視線を下ろす。

 右手は見るからにボロボロで、感覚も鈍いが完治可能だと直感的に把握する。

 激痛に苛まれている筈なのに、胸に占めるのは、興奮と達成感、そして万が一の事態に対する警戒心のみ。

 

 ふと炎の方へ首を向ければ、また1体、それもやはりというべきか二十面体が奥からやってきた。

 だが、対戦車ミサイル・ヘルファイアが直撃したのだろうか。その姿は、コアにまで罅が入っており、歩みがかなり遅くなっていた。それでも赤い光は消えておらず、俺を狙える程度の力は残っている模様。

 

「来い、最期の足掻きだろう?」

 

 それは相手に対してか、自分に向けてか。左拳を上げてCEを迎える。

 本来空っぽの幻子干渉能力を、気合と根性で振り絞り湧き上がらせて集中幻子拳に備える一方で、半壊した結晶体はやはり何も変わらず、ただ淡々と距離を詰めて、魂を奪う光線を__

 

「ひゃっはぁーっ!」

 

 放つ直前、横から飛び出してきた装甲車に轢き飛ばされていった。

 

「……は?」

 

 呆気に取られていたら、装甲車から誰か1人が飛び降りて、撥ねられて半壊から全壊になったCEのコアに、トドメの一撃を見舞う。

 当たった武器は、抜けば玉散る氷の刃、八犬士の愛刀・村雨。振り向いてきたのは、避難誘導中な筈の陽向。

 

「兄弟、無事やったか!」

 

 そして、装甲車の運転席から飛び出してきたのは、運転していた自衛官ではなく親友の映助だった。

 

「どうして……」

 

「ワテの家、農家やったからな、重機の運転なんて小学生の頃に覚えたわ。」

 

「いや、そっちじゃなく」

 

「宗次さんっ!」

 

 突然胸に、一樹が飛び込んでくる。その中性的な顔には、大粒の涙が何時かの様に流れている。

 

「どうしてこんな無茶をしたんですか!僕、宗次さんの身に何かあったら……」

 

「……すまない。」

 

 俺は、只謝る事しかできなかった。

 

「落ち着け、落ち着くのよ私、相手は男なんだから……」

 

「お、男の子だからこそ、ライバルでぶふぅっ!」

 

「はい、ティッシュあげるから鼻血を吹きましょうね~」

 

 何やら怒りを抑えているらしき陽向の横には、神奈と心々杏の姿もあった。

 

「皆、どうしてここに……」

 

「別に、宗次君を助けに来たわけじゃないわよ。群れから逸れたCEを退治していたら、たまたま通りかかっただけで。」

 

「…………」

 

「まぁ、京子先生から「馬鹿が馬鹿してるから助けに行って」って頼まれたしね。」

 

「ぷぷっ、ツンデレ乙です~。本当は自分から言いだ、むぎゅっ!」

 

 陽向が心々杏の口を話の途中で塞ぎ、自分のヘッドセットを外して俺の頭に被せる。

 

「何か言う事は?」

 

 耳元から響いてきた京子先生の底冷えする声に、思いついた単語は1つだけ。

 

「ごめんなさい。」

 

「はぁ……処罰は後で言い渡すから、今はとにかく帰っていらっしゃい。」

 

 それだけ告げて、先生は通信を切った。

 

「盗んだ装甲車で走り出し、CEを壊して回った罰とか、考えるだけで怖いですね~」

 

「えっ、ワテらも罰っせられるんっ!?」

 

「当然だと思いますけど。装甲車の運転手さん、カンカンでしたよ?」

 

「あ~ぁ、前面がベッコリへこんでるじゃない。これ修理代何百万円取られるのよ」

 

「ほ、保険とかないですよね……」

 

 映助達は和気あいあいと話しながら、ふらつく俺に肩を貸して装甲車に乗せてくれた。

 

「皆、すまなかった。」

 

 席に座り改めて頭を下げると、陽向から軽くデコピンをくらう。

 

「謝罪はもういいわよ。宗次君が頑張ってくれなかったら、街の人達やクラスの誰かが死んでたかもしれないんだから。」

 

「だが、俺は」

 

 戦いたいから戦った、英雄と並び合いたくて挑んだのだ。唯の我儘で皆にまで迷惑を掛けてしまった。

 そう告げようとする口を、陽向に人差し指で塞がれた。

 

「いいよ、どんな理由でも。君が皆を救ったのは本当なんだから、もっと胸を張って。」

 

「……いいのだろうか?」

 

「いいのっ!」

 

 力強く言い切った陽向の、感情任せの励ましが、どうにも胸に温かくて、自然と笑顔が浮かぶ。

 

「ありがとう、君と友達になれて本当に良かった。」

 

「…………」

 

「何か拙い事でも言ったか?」

 

「いや、うん、嬉しい事は嬉しいんだけどね……」

 

「まぁまぁ、これで一歩前進ですよ~」

 

「ふぁ、ファイトです……」

 

 何故か項垂れて落ち込む陽向を、心々杏と神奈が慰めている。

 それに首を捻っていると、運転席の方から声が上がる。

 

「うん?何やろあれ?」

 

「どうした?」

 

 運転席まで身を乗り出すと、映助が窓の外を指さす。

 

「ほれ、何か光ってるやろ、またヘリでも来たのかと思うて。」

 

 確かに、西の空に星のような何かが光っている。だが、大きさ的に戦闘機やヘリコプターの類ではない。

 何より、宗次はその黄金色の輝きに覚えがあった。

 

「――っ!? 映助、止めろ。」

 

「はぁ?」

 

「皆も伏せ――いや、椅子にしがみつけ。」

 

「いきなりどうしたの?」

 

 ライバルとしてのか恐ろしい予感がして、妙に顔が綻びそうなのを堪えながら叫べば、皆は不思議そうに見詰めてくる、が2秒後に__

 

 シュゴオオオオオォォォォーーーーッ!!

 

 聞き覚えのある津波のごとき音と共に、激しい光と衝撃が装甲車に襲い掛かった!

 

「まさ、ぎゃああぁぁぁ―――っ!」

 

「な、何ですかっ!?」

 

 装甲車が横転し、俺達の天地が1度ひっくり返って止まった。

 

「み、皆無事か?」

 

「これが無事に見えるんか?」

 

「う、うきゅ~……」

 

「お、重いです……」

 

 映助はシートベルトで宙吊り状態、一樹は気絶した神奈の大きな胸に押し潰されている。

 

「痛たた、何が……えっ?」

 

 陽向はというと、何とか俺の胸にしっかりと抱きしめて守れたようだ。

 

「怪我はないか?」

 

「うきゃわっ!」

 

「大丈夫そうだな」

 

 真っ赤になって奇声を上げ、慌てて飛び退く元気な姿に、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「これ、ひょっとしなくてもアレですかね~」

 

「だろうな。」

 

 コアラみたいに両手足で椅子にしがみ付いていた心々杏の予想に、頷きつつ後部扉を開けてみる。

 逆さになった装甲車の上に、どうにかよじ登って周囲を見渡せば__

 

 人の気配がなく、CEとエース隊・自衛隊の戦闘による被害か荒れた様子の道路や建物。

 その先へと目を向ければ、空に輝く黄金の光が嫌でも目に入る。

 

 怪物を吹き飛ばす聖剣の輝き、それを手にして宙を飛ぶ、頭にプロペラを装着した少年。

 それが誰かなど、言うまでもない。

 

「「「殺す気かっ!!!」」」

 

 エクスカリバーで味方を転がしながら外敵を浄滅したであろう英人へと、俺以外の5人全員が、揃って罵声を浴びせる。

 

「ふざけんなや、マジで死ぬかと思うたわっ!」

 

「そもそも、何でここにあの人がいるんですか!?」

 

「助けに飛んで来たんつもりじゃないの~」

 

「それで味方に殺されたら世話ないわよっ!」

 

「ひ、酷いです……」

 

 みんなはあらん限りの罵詈雑言を彼奴に浴びせており__聞いている内に、どうにも堪え切れず腹を抱えて笑い転げてしまう。

 

「く、ふふっ、あはははっ!」

 

「うおっ!?どしたんや兄弟、珍しいな。」

 

「いや、可笑しくてな。」

 

「オカシイのはあのスケコマシの頭やろ、金玉引っこ抜くぞあのガキャ!」

 

「アッハハハハッ!」

 

 唯孤独に槍を振るい、命のやり取りをしたい欲望が、胸から消え去ったわけではない。

 

 けれど、こんなにも愉快で頼もしく、こんな愚者を助けてくれる仲間がいるのだ。

 

 それに、高い空から全てを見下し、民衆を救う聖剣使い(ライバル)を眺めていたら、理解してしまう。

 

(「俺のこと、見てくれたんだな。」)

 

 よくよく辺りを観察すれば、街にも土地にも黄金光を掠めた跡すらなく__誰にも何にも傷付けずに敵を倒してみせたのだろう。

 しかも車を改めて見れば、損傷は先程の突進と、たった1回ひっくり返った分しか見受けられない。

 恐らく丁度俺達が回転し混乱する程度に調整し、そんな絶妙で嫌らしく当たるよう光線を発射し操縦した筈だ。

 何故この様な真似をしたのか……彼奴のことだから底知れない計算あってかもしれないし、ひょっとしたら単に悪戯気分で当てたのかもしれない。

 だけど、勝手ながらその行為に、天翔て尚地べたで抗う俺を認識し、評価してくれた証だと意味付けしてしまう。

 

 どんな時でも励まし救ってくれて、共に横を歩いてくれる仲間達が居る。

 天上から人々を完璧に救い、大義と理想を掲げて邁進しながら只人()を見守るライバルが居る。

 

 それだけで、英雄などと世間から褒め称えられずとも、自分は戦い続けていける。()()と共に助け合い支え合いながら、孤高の英雄と同じ領域へと登り詰められそうだと思えてくる。

 

 それが嬉しくて、俺は青空と太陽に向けて笑い声をあげるのだ。

 

 

 

*1
槍をかいくぐられ、万一組み伏せられた時に、全身の反りを利用して放つ反撃技。





 次話は、この襲撃と活躍に於ける大人達を描写します。

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