英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
遅くなりました。原作幕間2話分+大河原と芹沢の遣り取りになります。
因みに大河原今回登場するネームドキャラの内、機関の同志は芹沢1人となります。
またも大変な長文となりますが、御了承下さい。
市内に突如出現した20m級のピラーが聖剣の光を受け、ゆっくりと崩れ去っていく光景を俺達は指揮所のモニター越しに眺めていた。
「やった、本当にピラーを破壊できた!」
「プロジェクトの正当性がついに証明されたのね!」
新たなピラーの出現という緊急事態も、全てこの為に用意されたのかと思えてくる。
「私達の“英雄”が、ついに実現したんだ!」
特高に配属されると決まってから、集められた我々陸自隊員や防衛省職員に対し説明された事を思い出す。
絶大な力によって困難な状況を解決する神の如き救世主を造り出すという、[
それが天道寺刹那という悲劇の死を迎えた英雄、その弟というこれ以上ない逸材によって今完成された……そう言わんばかりに、一斉に歓声を上げる周囲の如く、無邪気に喜べたならどれ程楽なことか。
「いやー、2年も茶番を演じてきた甲斐があったというものですね。」
3年C組の担任教師でもある久保田から満面の笑顔で同意を求められ、何とか笑顔をつくって相槌を打つ。
「えぇ、そうですね。……英雄か。」
俺の受け持つ1年D組を含め、1年A組以外のエース隊全員に知らせていない裏側を思えば、どうしても考えてしまう。
「本当に、これしかなかったのだろうか?」
教師としてはまだ1ヶ月も経っていないが、個性豊かな生徒達と共に過ごした日々が、胸に大きな迷いを生み出してしまっている。
「たった一人の“英雄”を造るために、3百人以上の子供達を踏み台にするなんて……」
英雄・天道寺英人を輝かせるためだけに、当て馬として用意された少年少女。
それが特高に集められた、選ばれしエース隊員という名前の哀れなピエロ達。
俺達教職員全員が、この残酷な真実を隠しながら彼等に接しているのだ。
「早速、この記事をネットに上げないとな。」
「加減を誤らないでよ。入学式の画像を上げた時だって、うちの生徒が書き込んで危うくイメージダウンしそうだったんだから。」
視線を横に向ければ、情報操作の担当者達が、生徒達のヘッドセットから得た映像などを切り貼りし、ネットの掲示板に流す画像を選定している。
「タイトルは『群馬に英雄現れる!』でいいかな?」
「貴方は本当にセンスないわね。あまり持ち上げると反感を買うだけでしょ、『凄い画像撮ったったwww』ってピラー破壊の写真を載せて、さりげなく天道寺英人の存在を臭わせる書き込みをすればいいのよ。」
「それだけ?足りなくない?」
「嘘か本当か分からない、それ位の方が興味を惹かれて、皆が自発的に情報を集める。そして、自分で苦労して見つけ出したからこそ、天道寺英人は本物の英雄だ」と思い込んでくれるんじゃない。」
その苦労して見つけた情報とて、職員達が用意した餌に過ぎないのに。
「人はいきなり宝石を渡されても「偽物じゃないか?」と疑ってしまう。だけど、鍵を掛けた宝箱に入っていたら、あっさり本物だと信じてしまうのよ。「こんな厳重に隠しているなんて、価値がある物に違いない。」ってね?」
それが本当は、人の手で作られたガラス球にすぎなくとも。
「真実を伝えても駄目なのよ、“真実だと信じたくなる面白いモノ”を用意してあげる。それが民衆をコントロールするコツよ。よく言うでしょ、政治はパンとサーカスだって。」
「……君、独裁者でも目指したらどうだ?」
真っ黒な冗談を言って笑い合う同僚達の様にはなれず、暗澹とした気持ちで顔を覆う。
「こんなハリボテの英雄のために、彼奴等は……」
事前の説明曰く。
幻想兵器とは人々の幻想、胸に描いた想像を束ねて形にしたモノであるが、それは何も神話や伝承の武具でなくとも、“物”ですらなくとも構わない。
大勢の人々が望み、心の底から“存在して欲しい”と渇望しているモノなら、強大な力となって現れてくれるので、恐怖に怯える自分達を救ってくれる都合のよい“英雄”は最適の
しかもそれが嘗て死んだ英雄の弟とくれば、よりドラマチックで信憑性が高まる。
何処かの誰か、では駄目なのだ。人々が「そんな都合の良い話はない」と信じないから。
けれど、“英雄と同じ血を引く者”ならば、誰もがあっさりと受け入れてしまう。蛙の子は蛙だから、英雄の弟も英雄だと、くだらない詭弁に騙されてくれる。
よって、故人となった幻想兵器開発者の影山は、天道寺英人に白羽の矢を立てたのだ、と。
そして、願望が幻子によって現実へと変わる瞬間を俺達は目撃し__
「馬鹿馬鹿しい。」
確かに天道寺刹那は、色鐘司令筆頭に当時新町駐屯地に居た者等の話や、戦闘動画から判断するに俺も稀代の天才だと感じた。だがそれは、遺伝子や環境が生み出した偶然に過ぎない。
何せ両親はあくまで普通の人間であり、英雄の血族でも、神々の子孫でも何でもなかったから。
よって、弟も特別な才能など無い、普通の少年に過ぎないのだろう。
なのに、人々は彼までが天才で、英雄の再来だと無責任にも決めつけた。
それが束となって、CEを滅ぼす希望の幻想〈機械仕掛けの英雄〉を生み出したのだから、皮肉な話だと思うがそれよりも。
「彼奴等は、俺達を許してはくれまい。」
目の前のモニターに映る、市民の避難誘導を行っているD組の生徒達。
文句や泣き言を漏らしながらも、大馬の厳しい訓練についてきて、今も自分達にできる最善を尽くしている36名の少年少女。
彼らがどんなに努力をしようとも、天道寺英人を超える事はできない。
本人の資質は関係ない。英雄の看板に傷がつかないよう、教員達とA組女子の手によって、決して勝てないように仕組まれているから。
「只踏み台にされるために、入学した筈がないのにな……」
曰く、英雄には必要な物が3つある。
第一に敵、邪悪な打ち滅ぼすべき目標。
第二に民衆、敵に蹂躙されて助けを求める、暴力を正当化してくれる理由。
そして第三、愚かでひ弱な兵士という、英雄の引き立て役。
全ては相対的故に、強者を目立たせてくれる弱者が、英雄を際立たせる無名の雑兵が必要不可欠。
その為だけに作られたのが特高、引き立て役の収拾所。
天道寺英人こそが選ばれた救世主、たった1人の特別な人間なのだと、生徒達にも、何よりも本人に深く植え付けるべく、教室や食事に格差をつけ、さらに男1人のハーレムまで用意し、〈機械仕掛けの英雄〉を確固たる物とする。
室内で教えられた全員が、悪趣味だとの印象を懐き、吐き気を催す気分に陥ってしまったこの計画。だが結果を出してしまったせいで、3百名余りの少年少女達が全国から集められたのだ。
天道寺英人の心と体が、戦闘に耐えうるまで成長を待つ間の時間稼ぎとして戦わされてきた2年と3年は、特に哀れであろう。
「殺されて当然だな……」
出来る事なら全てをぶちまけて、生徒達の手で断罪して欲しい。
けれど、それだけは決して許されない。
長野のピラーを破壊し、日本をCEの脅威から開放するために、何百人という犠牲と何千億という血税を費やして、ようやく計画が成就したのだから。
そして何より、生徒達に大人達の醜い策謀や、人殺しの罪など背負わせられない。
「教師になど、なるものではないな……」
歓喜に沸き立つ指令所の中で、寂しく重い溜息を吐き、そして今後の憂いを思い出す。
「それと、校長に空知のことを伝えておかねばな。」
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今月8日、新入生含めた生徒全員が寮棟に戻っている頃、俺は校長室に訪れていた。
「大河原です、失礼します。」
放課後、俺のスマホへ芹沢校長からの呼び出しメールが突然掛かってきたので、「19時丁度に、誰にも知られることなく1人で来なさい」という趣旨の指示に従ったのだが……
「此方から呼んでおいて何だが、態々ありがとう。座って楽にしたまえ。」
七三分けの白髪、60代にも関わらず俺と同等の体格、元防衛大校長であり、特高の運営や職員の統括に政府省庁や外部との交渉を担っている芹沢校長。
何故呼ばれたのか、何故メールを用いたのか、疑問を胸に秘めて笑顔を作る。
「お言葉に甘えさせて頂きます。」
上質な皮のソファに座って、茶飲み2つが置かれたテーブル越しに、校長と向き合う。
「そう固くならんで構わぬよ。其処の茶も飲んでみたまえ。」
「……ありがとうございます。」
器も茶も大して詳しくない身だが、何となく何方も高級品であろう事位は理解できた。
「さて、先ずはだ。招かれた理由について、心当たりはあるかい?」
「……日中、天道寺英人と対戦した新入生、私が担当するD組へ配属となる空知宗次、彼に関してですか?」
「正解だ。では次に、彼の情報を把握している限り、そして本日の素行や伝聞込みで印象を述べてくれ。嗚呼、遠慮や忖度は不要だ、君の思うがままに語ってほしい。今この部屋での会話は、君のキャリアに何1つ影響しないと約束する。」
「……承知しました。では。」
空知宗次、群馬県○○村出身。実家は空壱流槍術なる古武術を代々継承しており、彼の祖父が当代の師である。学校での成績は優秀、校内でも地域でも親切な態度を取り面倒見が良く、人助けや手伝いに積極的な優等生。入学の動機は、身近な人達を守る為。
「それと、本日の騒動についてですが……大変申し上げ難いのですが。」
「……その場に居た教師と、一部生徒とで相違がある事か?ならば聞いた範囲で両論述べて、その上で正直に何方寄りかを語り給え。重ねて言うが、この部屋での会話は処遇に何ら支障をきたさない。」
「……本当でございますね。それでは。」
審判を担当していた色鐘陸佐からの報告、即ち
彼は[機械仕掛けの英雄]の要にいきなり試合を挑み、途中迄は追い詰めるも幻想兵器の覚醒を発生させ、光線をぶつけられて気絶した。恐らく後世にて、“聖剣使いの英雄に敗れた噛ませ犬”と位置付けるとの追記も。
一方で一部生徒__偶然にも彼と同じく1年D組配属予定となる者達に拠る主張だと、後半部分が異なっていた。
どうやら天道寺英人は、自分達観衆が射線の延長に居る事も構わず光線を放ってきたという。それで空知が回避せずその場に留まり、幻想兵器で正面から受け止めて命懸けで守ってくれた、らしい。
それで、実際の試合こそまだ観れていないのだが、双方を聞いた上で俺は……
「本心を申し上げますと、後者の見解を信用します。」
「その訳は?」
「一部新入生が嫉妬や反感を懐き誹謗した。その可能性はありますが、それ以上に特高側が計画に不都合な真実を隠す必要性が大きいと判断しました。」
「………」
……?表情に呆れが一瞬見受けたが気の所為か?
「また主観ですが、一部生徒は本気で真実を訴えている様に見えた一方で、色鐘司令からは「そう決まってる事であり異論は認めん」との意思を受け取ったと感じました。」
「……そうか、つまり君は、“天道寺英人が暴走したのを空知宗次が
「……あくまでも私個人の感覚的な見方ですが、正直に申し上げますとその通りです。」
その時、何故か校長が安堵した様に感じたが、直ぐに顔を引き締めた。
「宜しい。さて、長くなってしまい済まないが、これからが本題となる。……1年D組担当、大河原大馬三等陸尉。明日以降、空知宗次の素行について、私芹沢校長への秘密報告を命ずる。」
「……そ、空知宗次の報告ですか?」
一特定生徒の監視?しかもその言い方だと、
「理由は簡単だ、彼が計画遂行に対する不安要素となりかねない。」
「天道寺の存在を、絶対無敵の勝利者との認識を崩す恐れ、ですか?」
近接戦闘に於いて万能感を挫くかもしれない程圧倒し、光線をたった1人と1本の槍で受け止めた実力。もし何かの切っ掛けで再戦してしまえば……
「それだけではない。戦闘力もさることながら、“天道寺の暴挙から他者を命懸けで守った”事実、今後学内の空気や本人の動向次第では“反英雄の象徴”と化す懸念だとも。」
「__っ!?」
……元々特高は、天道寺英人の自意識増長に加え、第3期生A組以外の生徒達に彼の特別性を印象付けて認識力を集める為に格差を設けている。だがそれは生徒達に、特高と彼に対する不満・嫉妬・疑心・怨嗟を育んでしまう副作用も存在する。
「天道寺が弱ければ、選ばれてなければと足を引き摺ろうとする負の認識、意図的な依怙贔屓という反感の正当な根拠。
”英雄“と雑兵に過ぎないその他エース隊員、という扱いに嫌悪感を催したとしても、予定通りCEを自分達より遥かに容易く、華麗に殲滅する姿を、繋ぎとなる2年間以上のペースでCEが滅びる結果を見てしまえばどうなるか。
自分や戦友に銃後の家族が死ぬ危険も、世の中の右肩下がりな不景気も、戦争の終わりが見通せない不安も、彼に任せてしまえば消し去ってくれる。その期待が、自分や身近な人間や市民の
「……だがもし、対抗馬が現れたら?それも、英雄の身内ではなく運命性のない無名が。幻想任せの素人ではなく並の武器を振るう玄人が。最上位に優遇された我儘小僧ではなく最低の待遇を受けながらも他人の為に危機に挑める益荒男が。」
「……対照的で、恐ろしく目立ってしまいますね。本人の心情はどうあれ。」
「そしてエース隊員達はこう思うだろう。「天道寺英人でなくとも、空知宗次なら人類を救ってくれる
「結果、長野ピラーを打倒するのに必要な
「御名答。故に君には本来の職分を全うしてもらいながら、彼の担任として監視し報告しほしい。この計画は言うまでもなく、日本国と人類の未来が掛かっているのだ。“反英雄の象徴”やそれに近しい存在を目論む行動、だけに限定せず念の為、汎ゆる素行の内特異な点気になる点にも気をつけてくれ。無論、特別手当も弾むよ。」
「……承知しました。ですが2点質問させて頂いても宜しいでしょうか?」
黙って頷いた校長へと、問い掛ける。
「第一に、空知の監視報告は
「では何方も答えるが、簡単に言うと計画の遵守も彼の保護も両立させる為だ。」
「……空知の保護、ですか?」
「左様。現状特高や政府はピラー打倒の要を天道寺1人のみと定め、各種要因による軋轢こそあるがその1点に於いては全員一致で固まっている。君もそうだろう?」
「……えぇ。それが……分裂が起こるからですか!?」
「当たりだ。もし対抗馬候補が現れたと此方側が感じ取ってしまった場合……3派閥に別れる懸念がある。空知が計画の障害足り得ないと放置する者、脅威と見做して強行的排除を狙う者、天道寺以上に有用な“英雄の器”と期待して変更しようとする者。」
「そんな事になって、対立が生じたら……」
「対CE戦体制の効率も、特高の秘匿性も低下。エース隊員や市民に自衛隊の犠牲も増加、日本の勝利は遠のいてしまう。加えて既に天道寺英人の人格改造は済んでいるのだ、今更英雄候補から降ろしたところで碌な未来は得られまい。」
「空知についても、此方の都合で無理矢理排除するか、新たな
「因みに私は放置派だ。彼は所詮脅威にも代替にもなり得ない、唯の一般エース隊員に過ぎず、またそう在って欲しいと願っている。……尤も、不幸にも既に憐れな立場に就いてしまったがね。」
「……そうですね。」
やがてピラーを滅ぼす救世主の初戦に於けるやられ役、覚醒の踏み台。或いは計画の都合上、後世であることないこと誹謗中傷を貼られた上で英雄伝説に載せられてしまうのではないか。
……そして俺は、国民や国家の為という大義で誤魔化して、そんな悲劇を止めやしないのだろう。
「兎に角、他の教職員に悟られず又生徒から空知宗次の特別視を疑われぬよう監視し、
「は、はぁ、ありがとうございます。」
渡されたのは最新型なのか、見たこともないスマートフォンだった。といっても携帯端末を見分けられる程詳しくはないのだが。
「内蔵されているアプリの内、「YMT」と名付けられたフォルダにあるアプリで、通話ないし文章で伝えよ。ただ、別に堅苦しい形式に拘らんでもよい。それこそ友人と私的な遣り取りする感覚でもだ。」
「ど、どうも。使わせて頂きます。」
「だいぶ長くなってしまったな。今回時間を取らせてしまった分も含め、手当は口座に振り込んでおく。くれぐれも内密にな、頼むぞ大河原先生。」
「了解しました。」
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今迄空知について、誰にも内緒で専用端末を使い報告してきた。
幻想兵器の適性は女性の方が高い傾向にあるのでA組は殆ど女性で占められている、と説明したが疑念を懐かれた事、幻想兵器の特性や安全性にも不審に感じている様子がある事、更には3年の先山と接触したらしき事や、今月18日に昨日の試合映像を視聴したいと申請してきた事も全て伝えた。
俺の目から見て、計画に関する空知の評価は……エース隊員としては優秀で模範的ながらも“英雄の器”にも“反英雄の象徴”にもならないだろう。
彼は心技体何れも強い上に伸び代があり、また指導力も気配りも社交性も完成されており、自衛隊員としても将来有望だ。然しそれ故地に足が着き過ぎているせいで、幼稚で都合良く勝利や活躍を思い込めやしないだろうし、見たところ俗欲に薄く天道寺英人に実施している依怙贔屓を今から徹底してもかえって反発されるだけだ。
そして1度目は観衆被害を顧みぬ攻撃で、2度目は判定遅延やルール違反によって敗北を与えてきた天道寺英人に対してだが……奇妙な事に悪感情が全く見受けられなかった。
というのも2戦目の試合映像視聴時、隣に居たのだがその間の彼は一見怒りや不満無く冷静に分析している様子だった……がよくよく観察すれば、どうも楽しげというか興奮しているというか、何となくだが憧れのスポーツ選手の活躍を観ているかの様にキラキラワクワクしている、と感じたのだ。
気になって映像が終わってから「本来勝っていた筈の試合だぞ、気分は悪くしてないか?」と聞いてみたら、俺の負けだと強く否定された。その口調は結果を真摯に受け止めたが故の律儀さ……だけでなく、何処か納得し、敬意を払っている様に思われた。
まぁ俺に見せなかっただけかもしれないが、少なくとも私感では反“英雄”的立場を目指そうとしておらず、挫きも腐りもしないで只管努力を重ねつつクラスメイトの精神的支柱程度に留まってくれている。現状、俺も校長同様に放置派となったって大丈夫だろう。
だから今は、慙愧を背負って担任で居続けよう。英雄に成れなくたって、無事に生きていられるように。
「お前達、良くやった。……初陣からの全員生還、おめでとう。」
>――――――――――――――――――――――――<
「やりましたね、色鐘三佐!」
「あぁ、そうだな。」
歓喜を浮かべるオペレーターに気を遣って笑顔で応え、ゆっくりひっそりと、高校の後輩であり親友でもある京子の傍に寄る。
「先程の映像、共有データベースからは消して隔離しておけ。公表は上と相談して慎重にタイミングを計る。」
「はい。」
京子がパソコンを操作し、目的の動画をスマートメディアに保存してから、浮かれる職員達には悟られぬようデーターベースから消し去る。
それは、1人の少年が地面に置いたヘッドセットが、幸運にも捉えた戦闘の記録であり、新種のCEを映した現在唯一の映像。
「本人にも口止めをしておけ。口の軽い奴ではなかろうが、他の生徒に漏れればパニックとなる。」
たった1人で、しかも初陣で30体以上のCEを撃破した槍使い、空知宗次。
他の教職員達の意識では、天道寺英人の活躍によって影に埋もれただろうが、彼の戦闘能力は明らかに桁が違っている。
それこそ華麗に斬り倒してきた、優しく直向きな
そんな彼を、死の手前迄追い詰めた新種のCE。
恐らく戦いに慣れた2年生や3年生であっても、いや慣れているからこそ突然の変化に対応できず、死者が出かねない強敵の出現。
迂闊に公開すればパニックを引き起こしてしまうだろう。
「ですが、あまり長くは止められませんよ?」
「分かっている。」
自然ときつくなる京子の声に、重々しく頷いた。
強敵だからこそ、早く情報を共有して対策を立てねば、本当に死者を出してしまいかねない。次に軽井沢方面から押し寄せるCEが、全て二十面体型でない保証はないのだから。
しかし、迂闊に世間に広めてしまえば、もっと大勢の犠牲者が出てしまう。
「小型とはいえピラーが新しく出現し、新種のCEまで登場した。馬鹿共が今すぐ核を撃てと騒ぎかねんからな。」
「…………」
私も京子も、上からの話で、既に自国へ核を放った3ヵ国、アメリカ・ロシア・中国から、日本政府に向けて極秘の提案が来ている事を把握している為に、杞憂で済ませられない。
貴国の憂いを晴らすため、是非とも我が国の核兵器をプレゼントしよう。その替わり、幻想兵器の全情報を譲ってほしい、と。
まるで親切なふりをして、私達が血を吐く思いで積み上げてきた物を、横から泥棒しようと厚顔無恥に。
「野党の犬が3ヵ国に尻尾を振って、核を使えと騒ぎ始めたらしい。今は与党と国民感情が許さんが、一歩間違えば地獄だぞ。」
前回の衆議院選挙はCE襲撃の影響で、そんな事をしている余裕はないと見送られたものの、今や幸か不幸かCEの撃退が安定し、余裕が生まれてしまっている。
今度こそ選挙を、独裁を許すな、国民の権利を取り戻すのだ。そう叫ぶ声が、日増しに強くなっていた。
それで選挙が実行され、政権交代が起きてしまえば、事態は予想通り最悪の方へ向かってしまうだろう。
「あの犬ども、核が失敗しても外国に逃げればいいと考えているようだ……馬鹿がっ!この地球に逃げ場などあるものか。」
実際に核兵器を使った3ヵ国は、放射能汚染と国民感情の悪化に苛まれクーデターや内戦一歩手前。元々火薬庫地味た地域の南米・中東・アフリカに至っては、CEの混乱に乗じた侵略・略奪・虐殺が多発し、理性的対応を遵守しようとした国も難民との衝突を避けられず、血の嵐が猛威を振るう始末。
こんな海外の惨状は、ニュースからでも分かるというのに。
「仮にハワイにでも逃げたとしても、待っているのは種の終わりなのだぞ。」
現状、CEは海を渡って攻めてくる事はない。
この為、ピラーが出現しなかった一部の小さな島は、まるで6年前から全く変わらぬ楽園と化し、世界中の金持ちが逃げ込んではCEとも人間の戦争とも無縁の優雅な生活を送っているそうだ。
だがその安寧も、このまま世界中の大陸がCEに支配されて人類の99.9%が死滅しすれば、大陸からの補給が絶え、鉱山資源もない小さな島で、文明は消えて魚を釣って暮す古代のような日々に変貌するのは想像に難くない。
それでも生き残れるなら良いという考えも、今日をもって不可能となった。
6年前より数の変わらなかったピラーが増え、無個性でたった1種類だけだったCEが新種を生み出したのだから、恐らく今後ピラーは更に増殖し、CEが進化して海や空にさえ適応するのだろう。
その時こそ、人類という種は6百万年の寿命を終える。
「所詮、人間の敵は人間。有能な敵より無能な味方の方が恐ろしい……全くその通りすぎて忌々しい!あんな奴らを救うために、子供達を犠牲にする位なら、いっそCEに綺麗さっぱり滅ぼして貰いたくなる。」
「…………」
そんな苛立ちを発すれば、京子が無言で、ただ私を引き留めるように手を握ってくれ……気持ちが落ち着き、心配と共感が滲み出る顔へと向き合う。
「………いや済まない、分かっているさ、京子。」
自分にも言い聞かせるように、小さな声で、だが強く断言してみせる。
「あの子が守ろうとしたこの国を、どんな手を使っても守り抜く。それまで私は死なんさ。」
「それ、死亡フラグですよ?」
京子に茶化されて、思わず顔が綻んだ。
「よせ、私は可愛い美少年と結婚して子供を5人産むまで死なんと決めている。」
「先輩、まだその腐った夢を諦めてなかったんですか?」
「……1年に、一人有望な子がいてな。」
「分かりました、D組に先輩を近づけないよう、大河原三等陸尉に伝えておきます。」
そんな遣り取りの中、私も京子も、普段通りの柔らかな雰囲気に戻っていく。
「だがな、そういう京子は既に、生徒に唾を着けているではないか?」
「……何の事でしょう?」
「とぼけるな、あの槍使いに対する依怙贔屓、気付かれていないと思ったか?」
図星を刺された筈だというのに、内心の動揺を全く出さず、平静に笑みを浮かべてくる。
「彼は実に優秀ですから、目を掛けたくもなりますよ。」
「それは否定せんよ。だが、あいつが一人で足止めに出た時の焦りよう、冷静な研究者の京子先生らしくなかったがな?」
敢えて意地悪な笑みを浮かべ、ジワジワと追いつめてやれば……
「それは焦りもしますよ。彼、まるで刹那みたいだから。」
「……そうだな。」
彼女の死から5年近く経った今も尚、私達の魂を縛り続けているのを自覚する。
……
「集中幻子拳を自力であみ出し、初陣で30体以上を撃破か。本当に刹那の再来だな。」
空知宗次は能力も戦果も、刹那に見劣りしない。
それでも、彼が英雄になる事はないし、させるつもりもない。
「だが、我々には
「分かっていますよ。」
目的を履き違えるなと、厳しい声で忠告し頷き返された。
日本国民1億2千万と秤にかけて、1人の少年を選ぶほど愚かな女ではない。
それに、京子が気に入る様な姿とは……
「彼が作り物の英雄に成らず、自らの力でどこまで進めるのか、見てみたいですから。」
「そうだな。……では私は持ち場に戻るぞ。」
「はい、先輩。……一応無事を確認しに通信掛けてみよっと。」
栄誉は授けられず、私の方から感謝も賛辞も送れないが、そんなもの無くても大丈夫だろうと足を動かし__
「__え?どうしたの何か騒がしいけど?」
やれやれ早速これか、後輩に遅い初恋が来たのなら御目出度いが相手が__
「嘘!?右手がズタボロなの平坂さん!?何があったの!?」
__は?
「コアを手刀で、ってそれでも幻子装甲纏わせてたら流石に__血みどろ!?何でさっき言わなかったの!」
流血だと!?刹那でもエース隊の2年間でも、戦闘自体で出血を確認した前例は皆無だが何があった!?
「
………京子、頑張れ。
感想や質問に指摘等、お待ちしております。
因みに芹沢に語らせた懸念については、本作オリジナルの考察となります。
1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合
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前半後半等と文章を分割すべき
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制限内なので1話分として投稿してもよい