英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 本作主人公たち天道寺家の現在所在地は、群馬県新町↔長野県境を想定しています。
 但し私は群馬県に訪れたことがないのて、再現度には期待しないでください。


第2話 未知の厄災と今出来ること

 

  __それは、己の今世に次いで、未知の現象であった。

 

 休日、姉上と並んで視聴していたテレビアニメが突如、緊急放送として流れた。

 

 場所は長野県松本市、そこに映されていた光景は__

 

「……何これ?」

 

「何だ?知らぬぞこれは?」

 

 

 __非現実的な六角形の結晶体が、中心の赤い球体から光を放っていた。浴びた市民を辛く悍ましい絶叫の後に倒しながら、それは街を、無辜の民を蹂躙しているのだ。

 

 駆けつけ応戦する自衛隊、されど結晶体は見えない壁で銃砲撃を弾きながら、まるで怪獣映画の如く護国の兵をも屍に変えてゆく。

 

(己が敵拠点への潜入と制圧を果たす際に役立つよう歴史知識も落と(ダウンロード)されたが……任務に不要な出来事として省かれた?否、それにしては……)

 

 __アスクレピオスの大虐殺*1、画面上だけでもそれに匹敵するであろう被害と猛威に加え、仮に自然発生するとしたら、間違いなく日本史に伝えるべき大事件であろうに……

 

「……気分悪くなっちゃった。テレビ消そっか。」

 

「悪いが己はまだ見ておきたい。姉上は休むがよい。」

 

「私たちのところには来ないよね?」

 

「今のところ断定できる問題ではない。避難経路と物資の確認はやっておくべきだ。……それ故第一に、姉上は心身共に健康でいられるよう務めてくれ」

 

「分かった、ありがとう。英人も無理しないでね。……頭いいし心構えもしっかりして、少し羨ましいかな?」

 

 __さて、如何にすべきか。まず現時点での己は一般人の子供である以上、対抗技術の構築も自力での戦闘も著しく困難だ。然し出来ることはある。情報収集と避難準備、それに小学校での呼び掛けや対応確認もやっておこう。学校での評判は生徒も教師も高く積み上げてきたのだ、ある程度の効果は期待できよう。

 __彼等も家族も忠を誓い救けるべき大和の民だ、怠慢や傍観などしていられない。

 

 

 己は為せることを為していった。その日の晩に両親へ避難準備を済ませるよう説得し、結晶体が世界各地に出現した明日には水や食糧、緊急時の日用品を買い溜めした。月曜日には粟立つ学校で__

 

「皆聞いてほしい。県で結晶体が暴れているのは休みの間聞いているだろう。我々子どもにできることは少ない。だが何もできないわけでも何もしなくてよい理由もない。簡単な話だ、防災の心掛けとして家族の避難準備を呼び掛け、いざという時が迫っても焦らず落ち込まずしかし呑気にならず、大人を頼りながら危機感と希望と持って逃げることだ。明日に突然、辛い目に遭うかもしれない。だが日はまた昇ると言うように、不幸を乗り越えた先にこそ未来がある。…つまり、前より気をつけながら真面目に、家族を大事にしながら日々を過ごそう」

 

 教室でこう述べたお陰か、ちょっとした混乱はあれど、聞いていた教師共々、意識の向上と精神の安定に繋がったようだ。その後災害対応に関する話が入れ込まれた今日の小学校を後にし、避難経路を歩いてから帰宅し、ニュースの確認や家族との会話の中で食事し、もしもの夜襲を警戒しながら就寝した。

 

 その翌日もまた翌日も、そして来月も同じように過ごしていった。日に日に結晶体、なんでもCE(クリスタルエネミー)と名付けられた敵対存在は、兵器での撃破こそ大砲やミサイルの数発で通用はしたが相当険しい相手であり、現時点での軍事力では膠着状態に持ち込むのがやっとな筈、と情報収集と分析を行ってみた。恐らくこの調子では、水素爆弾を用いて国土の汚染と民衆の被害を覚悟してでも奴らの出処である結晶柱(ピラー)を破壊する国が現れるだろうが__

 

「つくづく無力だ、今の己の身体では。」

 

 もしヴァルゼライドとの合体で復活した状態、とはいかずとも本来の完全体となった兵器の身であらば、直ぐにでも直接接近し核融合攻撃でもって日の本を害するCEを滅却できようが。

 

 __否、今のあるがままを受け入れず過去の力に囚われるなど論外だ。己の為すべきことは、いつか訪れかねないCE襲撃への備えと、大人として大和に尽くすべく努力を積み重ねるだけだ。避難用品は常備し、経路は何度も、そして複数ルート確認。学校でも皆の意識の向上や安定に務め、暇があれば情報収集か鍛錬に費やす。もし来るであろうCE襲撃(Xデー)が遅くなれば、隣県の地獄は対岸の火事とみなされ家族を含め地域住民の警戒心は緩むので、如何に意識を保たせ続けるかも求められる。一般家庭の子供だとて、迫る脅威に備える能力があろうと立場や慣れ故に気にせずともよい、などと腑抜けた考えはしない。“往けるものは、征くべきなのだ”、甘んじるなど認められぬ。家族を、学校の若人達を、そう大和の民を護るのが己の使命なのだ。

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

「上覗いて見たけど、刹那も英人もグッスリ寝てたわ。」

 

「そうか、んじゃあの時と同じく、満月の綺麗で、静かな夜に…」

 

「「2人の結婚記念日に、乾杯。」」

 

「今年はピラーやCEに増税のせいで、お酒も高くなっちゃったけど、千影沢さんが引っ越してきたばかりの頃に渡してくれたこれがあって良かったわ。」

 

「確か、不安がってた音姫に英人が仲良く接して街の案内もしてくれた礼と、仕事の関係で貰ったけど下戸だから呑めず困ってた、って言ってたな。」

 

「そうそう、それで刹那も暇な時には心配だからと一緒に出掛けて、日の没む前に2人を背負って帰って来てたわね。」

 

「それが、一緒に風呂入って聞いたら先導した刹那が道に迷って巻き込んじまった上にスマホも3人とも持ってきてなかったからだったな。それで英人が、帰り道を何とか推理し思い出し探って歩いて、疲れた自分と音姫を背負ってもらいながら指示してようやく辿り着いた、って言ってたな。」

 

「刹那も話してくれて、ごめんなさいと謝って音姫ちゃんは街巡り楽しかったし2人がとてもカッコよかったから内緒にしとく、なんて返してくれて。凄くいい娘よね。」

 

「…にしても英人、やっぱり天才だと思うぞ。その時だって街の地図を予め()()()()()()()()お陰で帰宅できたとも言ってた位だからな。」

 

「刹那の居ない間に教科書読んでは、この文章はこう読むこの問題はこう解くこの用語はこう覚えるってメモして、テスト勉強だと言って家に誘った際の友達が、凄く助かったとよと話してたわ。図書館に行ってもいつも難しい本ばかり借りてくるし。」

 

「刹那は刹那で、今でも男子すら追い抜いてマラソン大会優勝し続けるし運動会も一番目立つ位に活躍するし…自分達が言うのもなんだが、“鳶が鷹を生む”ってレベルじゃないよなぁ。」

 

「でも刹那は、責任感あってみんなを引っ張ろうとして空回りしがちで、だけどひたむきで優しいところとか貴方そっくり。」

 

「それは君の方じゃないか?優しくて料理が得意だけどドジっ子なところとか。……英人は…どうなんだろうな。」

 

「…昔っからあの子、真面目でしっかり者で落ち着いてて、年下や同い年だけじゃなく年上の子まで束ねてたわね。先生との面談でも毎回、授業に真剣でクラスの纏め役で悪い事は許さず困ってる子に親切で、と模範的な生徒だと語ってくれて。…贅沢な話だけど、ちょっと育て甲斐がないなぁ、って思う位よ。」

 

「それに言葉遣いも一体何処で聞いたのか、いつの間にかあんな古風というか堅いというか、になってるし。「己」なんて一人称、生きてる中で初めて聞いたぞ。」

 

「でも英人、子ども達のグループ内で変わった口調だからと誂われても、いつも逆に諭して治めてたし、友達の中には彼や彼の言い方がカッコいいからって真似する子もいてるわ。」

 

「そりゃあ、男は少なくとも一度や二度、カッコつけたがって言葉遣いや名乗りに素行を変えてみるもんなんだからな。…英人も案外そうだったりして。並より賢くて上手くいってる分()()()()()()が人より早く長くなってるとか。」

 

「もう酔い回ってんじゃない?…でも何だっていいか。2人がどんなに頭や体に優れてたって、どんな性格だって、()()()()()()()()()()に違いないんだから。」

 

「あぁ全くだ。願わくば、英人が注意を呼び掛ける「Xデー」とやらが、CEが襲って来ないことを。」

 

「そしてたとえその未来が、杞憂で済まなくなっても。」

 

「「家族みんなで、できなくてもせめて2人が、一緒に無事で生きていられますように。」」

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

 __そして、物価も税も厳しくなりつつも群馬県にピラーが現れなかった数カ月が過ぎた頃、誰もが怯え恐れて、或いは思考から排し、若しくは備え注視していたXデーが訪れた。

 

 

 

 

 

*1
カグツチが犯罪者の骸を基に、代行者ヴァルゼライドと帝国軍の研究開発部隊である叡智宝瓶(アクエリアス)の暗部で共同製造した星辰体運用生体兵器人造惑星(プラネテス)の暴走が齎した、帝都の一角を燃焼させ軍人民間併せ総計約七万三千人もの犠牲者を出した事件。尚ヴァルゼライドが鎮圧して自身の評価も改革派も大躍進を遂げたことで、帝国は黄金時代を迎えた。




 天道寺英人(cv.どてら4号)のスペック
肉体:星辰体による恩恵がなければ姉のような才能もなし。但し日々の鍛錬と活発な運動のお陰で体育は高成績。

頭脳:旧西暦26世紀のMade by the Japanese Armyなスパコンクラス。基礎知識もインプットされたので歴史も学問の未発見情報も把握している。然し本人にとってそうあれと未来で創られたが故のものなため内心恥じている(必要とあらば躊躇なく活用する)。

精神:本家光の奴隷。おまけに一度存在意義を否定された直後に宿敵からの叱咤激励で立ち直ったので隙なし。されど現時点では身近で自分の死が悪影響を齎すところに尽くすべき大和の民がいる只の一般人の子供であるため大人しめ。
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