英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
今話は、原作39話目に当たりますが、原作不在の正二十面体もう1体の撃破と引換えに宗次が重傷を負った影響で、一部展開や交流関係を改変しております。
「順調に回復してるわね。もう日常生活に支障はないと思うわ。負荷掛けたり、掃除や特訓したら傷が開くからまだ駄目だけど。」
「ありがとうございます。」
5月2日放課後、保健室の窓から曇天が見える中、俺は京子先生の診察を受けている。
右手や手首に包帯が巻かれているが、特に問題なさそうだ。
「……本当に、もう無茶しないでね。あの日、あなたが頑張ってくれたお陰で市民の犠牲を減らせたけども、あなたが傷付いて亡くなる事で悲しむ人は必ずいるのよ。」
「ご忠告、感謝します。……それでも、俺がこうして利き手を傷めてでも、誰かを護れたのなら、後悔はしていません。元々戦場に志願して赴いた以上、覚悟はしていましたし。」
「………立派ね、だけどあなた自身も大切にしなさい。無事に生きて帰ってくる事も、エース隊として、そして子どもとして重要なんだから。」
「心得ておきます。」
念入りに無謀を諌めてくれる先生にお辞儀をする。
コンコンッ!
「「失礼する(します)。。」」
「入っていいわよ。」
扉を開けたのは、大河原先生と優太だった。
「保科教諭、空知、怪我の調子は?」
「少々痛みますが、特に問題ありません。」
「右手も腕も、何事もなければ来週火曜頃には全快する見込みね。安心して。」
「良かった……。保科先生、宗次君の事、ありがとうございます。」
「いいのよ、これは私達の仕事だし。それより委員長なら、なるべく彼に無理はさせないでおいてね。」
「……ところで大河原先生、映助達はトイレ掃除ですか?」
「そうだ。理由が理由とはいえ、規則を破った訳だからな。」
「みんなには、申し訳ないと思っています。京子先生、何時からなら掃除に加われそうですか?」
「あなたも同じ罰が課せられてたのよね。全快に合わせて来週火曜からになる筈よ。それまで酷使しなければ。」
「分かりました。……それでは失礼します。」
俺は立ち上がり、京子先生に頭を下げる。
「それじゃあ気をつけて。」
「空知、弓月。俺は別件で此処に残るから、先に出ておいてくれ。」
「了解しました。……そうだ宗次君、回復を知らせるついでに小向井さん達の所へ訪ねていかないか?」
「そうだな、行くか。」
こうして俺と優太は、保健室を退室する。
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「~~みんな混乱して、遠藤君や平坂さんが車勝手に乗ってってでも助けようと言ってたんだ。」
「……そうか。」
「それで、小向井さんや鴉崎さんに斑鳩君が一緒に行こうと賛同して、流石に避難民置いてく訳にいかないから俺1人残って避難誘導を続ける事に決まって別れたんだ。」
「……優太、俺のせいで負担と責任一杯背負わせてしまって申し訳ない。」
「いいんだ。宗次君達が戦ってくれたのもあって、あの場の人達に犠牲者は出なかったし。」
俺達2人は、あの日の出来事を話しながら、4階のトイレへと向かって歩いている。
「……それに、此処だけの話、俺は怯えていたんだ。幻想兵器の矢が切れて、疲れていた中で迫りくるCEの下へ駆け付けるのが恐くって、5人で十分だから救援は任せて、委員長だから代りに1人後方で避難誘導に当たればいいって。……みんなは、宗次君も、勇敢だよ。」
「いや、それは違う。」
無意識に足を止め、無事な左手で委員長の右肩を掴むと、当然驚愕の表情を向けられたが構わず言葉を続ける。
「避難民達はきっと、恐怖に苛まれて混乱した状態で、住み馴れた街を急に離れろと迫られていた。彼等大勢の期待と不安をたった1人、一身に受け止めながら自らの職務と責任を全うし、事実誰一人として死なせることなく移動させてみせた。それは紛れもなく、誇って然るべき偉業だ。」
「……は、えっ!?」
「映助達は兎も角、俺はCEの足止めという大義の下、孤独に強敵と戦いたいから、困難を乗り越えて英雄に近付きたいから。そんな身勝手な欲望で市民を逃がすという役目を放棄しただけだ。
「………あ……あり、がとう。」
「……いきなり肩掴んで悪かった。」
「い、いや大丈夫さ。……こっちこそ、励ましてくれて、褒めてくれて礼を言いたい方だよ。」
「それは違………何でもない、兎に角、彼奴等にも労っていこう。」
好敵手との堂々巡りになりかけた遣り取りを思い出し、こんな所で時間を掛ける訳にも優太を留める訳にもいかないので、会話を中断し歩みを再開させる。
――――――――――――――――――
4階の男子トイレ前に着いた俺達は、様子を伺おうと入り掛け__
「何でマジッ○リンやねん、ちゃんとサン○ール*1用意せえやっ!」
「そこは重要なのか?」
「……宗次君、段々自然とツッコミするようになってきてるね。」
映助が洗剤に文句を吐きつつ真面目に便器を磨いており、一樹は洗面台を丁寧そうに洗っていた。
そんな2人が、俺達の言葉に反応して顔を向けてくる。
「おっ、兄弟!ケガ治ったんか!?」
「宗次さん!どうして此処に?」
「まだ完治してなくて掃除は手伝えないんだが、普通に生活する分なら問題ないらしい。」
「それで折角だし、トイレ掃除するみんなの下へ行こうと誘ったんだ。」
「せやったんか。まぁ無事で何よりやが、ぎょーさんあるんやし、委員長も手伝ってくれや。」
「それはごめん、大河原先生から「処罰対象外の人間が手伝っては罰とならないから、今日以降は加わるな。」と禁止されてて。」
「朝のホームルームでも言ってたじゃないですか。……でも、普段から業者さんが綺麗にしてくれているから、まだ楽でいいので大丈夫です。」
「はぁーっ、せやけどな一樹たん、トイレが全部でいくつ有ると思ってるんや?それを全部、毎日掃除せえなんて、鬼の所業やわ。」
「地下までやらされない*2だけ、マシだと思いますよ。」
「何億円もする装甲車の弁償が、掃除で済むなら安いものだろ。」
「といってもアレ、直せばまた使える程度の損傷だし、現にちゃんと運転して帰って来れたしな。」
「せやけど、あれ壊したのワテらやないやん、あのスケコマシやんかっ!」
「そうですけどね。」
「………」
保健室のベッドの上で聞いた話なのだが。
当時群れを離れ、避難していた市民が1体のCEに襲われ、他クラスの1年生達が疲労困憊な中、慌てて助けに駆け付けようとした時、眩い光が空からやって来て、そのCEを消し去った上に、市内のピラーもその光線1本で滅却したらしい。
ピラーの状態を京子先生に尋ねた際に聞かされた、英人とエクスカリバーが成し遂げた勝利には、右手右腕が強く痛む程笑って感動したものだ。
尤も映助達にとっては、いや俺にとってもなのだが、大変危険で迷惑な被害を与えたのも事実な訳で。
「ワテら毎光で焼き殺されかねへんとこやったし、もし家やら道路やらまとめて吹き飛ばされてたらと思たら腹立ってしゃーないで!」
「だが、あいつのお陰でピラーを破壊できた。それに見聞きした限りだと、結果として誰一人として死なず、あの車以外に物的被害は生じてないんだろ。」
「まぁ、せやけどな……」
もしも、ピラーを破壊できずにいたら、今頃は前橋市から人が居なくなっていた事だろう。
俺等は危険な目に遭ったものの、CEから逃れられた市民は全員避難所に集まっていたとはいえ、街中に侵食するように生えたピラーを、建物や道路を一切傷付けることなく浄滅してみせた。
それは誰がどう見たって“英雄”の称号を授かるべき無謬の功績であり、2戦目で発揮した光線の制御技術の賜物だろう。
好敵手の実力と成長性を感じる度に、興奮や闘志が湧き上がり__
(「いや待てよ、ならどうして……俺達の車1台だけが、吹っ飛ばされたんだ?」)
市街地に生えたピラーと、市中に蔓延るCEのみが浄滅された。それだけの出力と精密性を発揮しながら、ピラーから遠ざかろうとする装甲車は巻き込まれた。
あの場の近くにもうCEは居なかったから、態々向きを操って此方に寄越す必要性はない。
おまけに、聞いた話だと装甲車の被害は、CEに衝突した分と1回ひっくり返った分のみ。俺達も1回転させられた程度で__
「それに、あくまでも結果論だけどさ。罰の理由が「命令を破り持ち場を離れ、無免許運転で勝手にCEとの戦闘行動に入った」程度で済み、車の損傷は天道寺英人がピラーを倒した際の、何方にとっても避け難い巻き添え被害、って事で不問にされたじゃないか。一応偶然だとしても、彼のお陰で軽くなったんだし。」
「それは確かに、そう言われましたけどね……。」
「__っ!」
__もしや、英人は……俺達の存在を、ルール違反の行動や車の損傷に気付いて、少しでも問われる責任が軽くなる様に、車や車内の俺達がなるべく取り返しのつく位に調整して、あの程度に抑えて巻き込まれた様に操ったのか!?
確証はなく、本人に聞くしか分からないが、約束したからまだ当分尋ねられない。取り敢えず、この考察は記憶の片隅にでも仕舞っておこう。
「あぁー、けったくそ悪いわ、もっと楽しい話をしようや。」
口だけでなく体も動かしていたからか、何時の間にか掃除を終えていた映助は、話題を変えようとした。
「明日は待ちに待った土曜日やしな。」
特高も普通の高校と同じように、土日は休みとなっている。但し、CEの襲撃は休日だろうとお構いなしなので、潰れる事もよくあったが。
「休日か……」
ひょっとしたら丁度良い機会かもしれない、と顎に手を当てて考え込んでいたら、隣の女子トイレから誰か出てくるのが見えた。
「そっちも掃除終わったんだ、お疲れさま。」
「本当、面倒ですよね~」
「つ、疲れました……」
陽向、心々杏、神奈。彼女達も、同じくトイレ掃除の罰を受けており、疲労が伺える。
「__って、そ、宗次君!?何で此処に!?ってか怪我は大丈夫なの!?」
「平気だ、多分来週から掃除手伝える筈だ。」
「それで報告しにきたんだよ。小向井さん、平坂さん、鴉崎さん、お疲れ様。」
「お、応……。」
陽向が何やら慌てた素振りを見せ、心々杏は面食らったのか口調が崩れ掛けていた。
「これを後2週間……結構きついですよ……。」
神奈がぼやきながら背伸びをするも、俺と優太以外全員が頷いた。
授業で厳しい訓練を受けた後だと、単なる掃除も相当体に堪えるのだろう。
「まぁ、明日はのんびり休もうや。」
「……そうね。」
映助の言葉に珍しく同意し、早く寮に帰ろうと歩き出す陽向に対し、俺の気持ちを伝えるべく呼び止める。
「平坂さん、明後日は空いているか?」
「えっ?」
「暇だったら、俺と付き合って欲しい。」
「……えぇぇぇ―――っ!?」
陽向は一拍置いて、突然絶叫し、そして何故か茹でダコよりも真っ赤になった。
「休日にお誘いって、まさか……」
「都合が悪かったか?なら」
「暇、暇、暇です!地球の裏側だって付き合うわ!」
「そうか、良かった。」
大袈裟な位勢い込んで頷いてくれたその反応を前に、安心から微笑し、隣で陽向程ではないが驚いている様子の2人に向かって誘う。
「小向井さんと鴉崎さんも、明後日は空いているか?」
瞬間、何故か神奈は気まずそうな、心々杏は呆れ果てた表情に変わった。
「は、はい、暇ですけど……」
「空いてるですよ~……まぁ、そんな事だろうと思ったけどね~」
「映助、一樹、それと優太も、明後日付き合ってくれるか?」
「はい、喜んで。」
「俺も構わないよ。」
「えぇけど、何すんねん?」
「皆に詫びと、お礼をしたくてな。」
自分のせいで、命令を破らせ危険に飛び込ませた挙句トイレ掃除の罰も負わせてしまった映助、陽向、一樹、心々杏、神奈。それにより市民の避難誘導という難行と重責を1人で担わせてしまった優太。
みんなに、言葉だけじゃなく実体の伴った報いを届けてやりたくて、苦笑しながら正直な想いを伝えた。
「と言っても、食事や映画を奢るくらいしか出来ないが。」
「まぁ、それで兄弟の気が済むならええで。」
映助は素直に誘いを受けてくれた。本当に、友達に恵まれている。
が、何か拙かったのか、陽向の方は先程の喜びようとは真逆の暗い顔で、壁にのの字を書いており、神奈に慰められている。
「えぇ、分かってたけどね、デートのお誘いとか、そんな訳ないって、はははっ……」
「ひ、陽向ちゃん、ファイトだよ……」
それを不思議に思って見ていたら、心々杏から背伸びしながら宗次の肩を叩かれる。
「宗次ちゃんは一度、豆腐の角に頭をぶつけるべきですね~」
「それと同じ事を、近所の子にも言われのだが、何故だ?」
「あははっ、これは処置無しです~」
何故かケラケラ笑われて、首を捻る。
美緒ちゃん達もそうだったけど、女子って年齢や地域問わず訳の分からないものだ。
……そういえば、英人とクラス全体で出陣した筈の、最も訳の分からない自称千影沢音姫は、大丈夫なんだろうか?
「兄弟、ワテは絶対に教えてやらんで。自分一人だけ幸せになろうなんて許さへんで、くくくっ」
「そういう発想が、モテない原因だと思うんですが」
映助が変なことを言っては一樹の冷たいツッコミを受け、轟沈した。その横で心々杏が呆れた溜息を吐く。
「一番悪いのは、一目惚れしておいてそれをハッキリ告げない、ヘタレちゃんだと思うですけどね~」
「ヘタレ言うなっ!」
「あれれ~?誰も陽向ちゃんとは言ってないですよ~?」
「むきゃあぁーっ!」
奇声を上げて取っ組み合いを始める陽向達を見て、思わず微笑する。
「皆、仲が良いな。」
「……宗次さん、豆腐買って来ましょうか?」
「冷凍させられたら何よりだね、角に当たった程度で治るとは思えないけど。」
………何で一樹も優太も豆腐の話してるんだ?
原作にて、途中迄映助や陽向達と共に移動し戦闘していたものの、避難誘導から抜け出し宗次の救援に向かった面子に居なかった、委員長の優太。
彼の当時の行動や内心について描写してみました。ついでに何時の間にか、宗次からの好感度も得ることになりましたが。
感想や指摘に質問等、何時でも募集しております。
1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合
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前半後半等と文章を分割すべき
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制限内なので1話分として投稿してもよい