英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今回は原作40・41話目に該当しますが、描写の省略やオリジナル展開導入しておりますので、御了承下さい。



第20.5話下 入学経緯と伝言

 

  5月4日土曜日、槍術の鍛錬ができなくて残念ではあるが、兎に角ゆっくり休んで疲労や傷の回復に専念した。幸いにもCE襲撃のサイレンは鳴らずエース隊の出動もなかった。尤も優先的に出動させられるのは上級生か初陣で活躍した1年A組だし、仮に全隊員を駆り出す程の事態になっても今の俺だと怪我が治ってないからと待機させられるのだろうが。

 

 そして迎えた日曜。俺達7人は久しぶりに私服を着て、寮の1階に集まっていた。

 

「じゃあ、許可を取りに行きましょうか。」

 

 陽向が先頭に、優太が最後尾となって歩き、談話室の向かいにある、寮長の部屋へと向かう。

 

「寮長さん、ちょっといいですか?」

 

「入んな。」

 

 ノックして声を掛けると、しわがれた無愛想な声が返ってくる。

 言われた通り扉を開けると、六畳間の狭い部屋の中で、老婆が卓袱台に膝をついて、のんびりとテレビを見ていた。

 12番棟の寮長、白浜寅美さんは、何時も通り元気そうだ。

 

「今から外出してきたいんですけど。」

 

「はいよ。」

 

 陽向にぶっきらぼうな返事をしつつ、寅美は卓袱台の上に放り出していた、タブレットPCを手に取る。

 そして、俺より使い慣れているのか老婆らしからぬ素早いタッチで操作すると、急に眉をひそめた。

 

「あんたら、外に出るのは30分ほど待ちな。」

 

「まさか、許可が下りなかったんですかっ!?」

 

 最悪の予想が過ぎり、陽向は顔を曇らせる。

 何時CEが襲ってくるかも分からない以上、休日とはいえ特高を空にはできないので、外出を許される生徒の数は決まっているのだ……けども。

 

「え~、私達は外出するの初めてなのに~?」

 

 心々杏も不満そうに頬を膨らませる。

 外出許可は基本的に早い者勝ちだが、近々に外出した者は弾かれる事が多い。

 大河原先生の話だと、入学から約1ヶ月、授業の疲れから全く外出していなかった1年の面々は、優先的に外出を許される筈なのだが。

 

 そんな考えを見抜かれたのか、寮長は静かに首を横に振る。

 

「許可は取れたよ、だが茶菓子でも食って少し待ってな。」

 

「何でや?バスに遅れてまうやんか。」

 

 映助はそう文句を言いつつ、差し出された煎餅を頬張る。

 

 その時優太が、ピクリと眉を動かし外を睨んだ。

 

「あれ?何か声がするな。」

 

「えっ、声ですか?」

 

 一樹が手を当て耳を澄ませてみる。

 俺も外に注意を向けて聴覚を研ぎ澄ませば、何やら遠くから人の声が聞こえてくる。

 

「気付いたのかい。まぁ、そのうち分かる事だしね。」

 

 寅美は諦めた様子で溜息を吐き、手元のタブレットPCを操作した。

 すると、テレビの画面が切り替わり、監視カメラが撮った特高の校門前が映し出される。

 

 そこには、50名ほどの中高年が集まって、手に手に垂れ幕や看板を掲げては、大声で何やら叫んでいた。

 

「何や、これ……?」

 

「デモだよ、特高反対のデモ。」

 

 俺達が唖然としていると、寮長は心底嫌そうに吐き捨てる。

 

「「子供を戦わせて恥ずかしくないの」「こんな基地があるからCEが襲ってくる」「前橋市から出て行け」って、暇な大人が叫んでんのさ。」

 

「な、何よそれっ!」

 

 陽向は怒りのあまり、声を詰まらせてしまう。

 

「私達が戦ってるから、CEから皆を守れているんじゃない!この前だって、いきなり戦う事になって、死ぬかもしれないって不安で、でも頑張って__」

 

「分かってるよ、あんたらは間違っちゃいない。」

 

 落ち着け、と嗜める寮長の声は、変わらずぶっきらぼうだが、目には優しい光が宿っていた。

 

「あんたらは立派に戦った、あたしらはちゃんとそれを分かってる……でもね、それが分からない奴らも居るんだよ。」

 

 それがこいつらだと、寅美は忌々しそうにテレビ画面を指さす。

 

「最近は大人しかったんだけどね、この前の騒動で久々に被害が出たから、また騒ぎ出したのさ。」

 

 前橋市の北東、黒檜山から突如現れたCEの小部隊、それに続く小型ピラーの出現。

 大河原先生から語られたその日の被害者数は、CEの攻撃による意識不明者数が5名、避難時の混乱による重傷者が12名。

 説明の後に先生は、「事の重大さを考えれば、奇跡的なほど少なかった。できる限り頑張ったんだ、胸を張れ。」と言ってくれた。

 

 然しだからと言って、被害者家族の心が休まるわけではない。

 

「自分らが弱くて何も出来なかったのを、受け入れられないのさ。だからこうやって、人のせいにしようと馬鹿みたいに叫んでる。」

 

「そ、そんな……」

 

 神奈が、ショックを受けて俯いてしまう。

 自分達がもっと頑張れていたら、この人達も怒り悲しむ事はなかったのに。

 

 そう考えているのは俺にも分かる。

 守れなかった命や未来、荒らしてしまった街や田畑、生み出してしまった喪失と生活苦。

 今の自分達には限界だから、戦いに於いてやむを得ない被害だから、仕方のない__等と妥協し納得するのが、理屈の上では正しいのだろう。

 __嗚呼だから?此等は覆しようのない結果であり、ならばこそ俺は、俺達は、この事実を真摯に受け入れて、その嘆きや損害に報いるべくより犠牲を減らせるよう精進し、()()で以て希望を取り戻さなければいけない。

 

 そう決意する俺やみんなを見て、寮長は複雑な表情で、少し迷ってから呟く。

 

「気に病むんじゃないよ。どうせこいつらの大半は、被害者でもなければこの街の人間でもないんだからさ。」

 

「えっ?」

 

 被害に遭った前橋市の市民でもないのに、特高を非難するデモを行う。

 その意味が分からず問いかけようとしたが、寮長は遮るように再びテレビを指さす。

 

「やれやれ、ようやく来たよ。」

 

 画面を見れば、走って来た青と白のツートンカラーに塗られた警察のバスが、デモ集団の前に停車していた。

 そして、中から飛び出てきた警察官達が、暴れる中高年を容赦なく拘束して、バスの中に放り込んでいく。

 

「やるやん、今時こんな強硬策に出たら、マスコミがうるさそうやのに。」

 

「え~、暴走族の取り締まりとかこんなもんですよ~?」

 

 驚く映助の横で、心々杏は珍しくもないと欠伸をかく。

 

「流石、元ヤンは詳しいわね。」

 

「何の事か分からないです~」

 

 わざとらしいブリッ子の演技に、今更騙される者はいない。

 

「そうだよね、それにしても本当にテキパキしているよ!」

 

 ……1人、怪しいのはいるが。

 

「ほれ、校門も片付いたし許可も取ったから、さっさと行きな。」

 

 シッシッと手で追い払われ、俺達ら寮長室を後にした。

 

「やれやれ、せっかくの外出やのに、いきなりケチがついたわ。」

 

「本当、嫌になるわよね。」

 

 ぶつくさと文句を言いつつ、皆で校門を抜けてバス停の前に立つ。

 

「うん?」

 

 足元に紙が飛んできて、ついそれを拾い上げる。

 

 そこには「子供を戦わせる総理は辞めろ!」という毒々しい文字と共に、目覚めない子供に縋り付いて泣く、両親の絵が描かれていた。

 

「デモのチラシか?そんなけったくそ悪いもん捨てえや」

 

「そうだな。」

 

 映助に頷き返してゴミ箱を探したが、見付からなかったので仕方なく折りたたんでポケットにしまった。

 

「言われてみれば、俺達が戦えているというのも不思議だな。」

 

 デモ隊の言い分ではないが、子供を戦わせるとなれば、世論の反発は凄まじいものがあるだろう。

 なのに、こうして特高が建てられ、エース隊員としてCEと戦っているというのは、良く考えずとも異例の事であった。

 

「あれっ?宗次君はニュース見なかったの?」

 

「ニュース?」

 

「特高や幻想兵器の事を、総理大臣が発表した時のよ。」

 

「そう言われれば、見たような……」

 

 CEに対抗出来る切り札、だの高校だの検査だの、だったかな話題の報道があったような無かったような……

 駄目だ、地元はCEの被害はなくて全体的に関心自体余り無かったし、普段は天気予報くらいしかテレビを見ないからよく覚えてない。

 

「どんなニュースだったか……」

 

「ほら、これの事ですよ。」

 

 一樹がスマホでその動画を探して出して見せてくれた。

 

 動画の中では、今も変わらず首相を続けている、エネルギッシュな初老の男が、力強く答弁していた。

 

「我が国を守るには、もはやこの新兵器に頼るしかないのです。そして、誠に遺憾ながら、この新兵器は若い子供達にしか使えないのです。」

 

 子供を戦わせるなんて非人道的だ、貴方は鬼だ、という野党の追及にも、あっさりと言い返す。

 

「では、貴方達が代わりにCEと戦ってくれるのですか?CEを倒せる当てがあるのですか?」

 

 その正論の前には、野党もマスコミも、そして当時視聴していた国民も黙るしかなかったのだろう。

 

 対CE戦の経緯と現状を学ぶ授業で知った事だが、当時は長野県民2百万人がCEの手で虐殺されてから、まだ3年しか経っていない時期である。

 そして、戦地からかけ離れた東北や九州、北海道や沖縄という、CEの被害を何処か対岸の火事の様に実感できずにいた人々にも、物価の上昇や物資の不足という形で、長引く戦争の恐怖が伝わり始めた頃でもあったそうだ。

 

 誰だって子供を戦わせたくはない。だが、他に方法がないのだから仕方がない。

 その言葉を免罪符として、特高とエース隊員は誕生したのだろう。

 

「なるほどな。」

 

「兄弟、ちゃんとニュースは見んとあかんで。」

 

 素直に頷いたところで、丁度良くバスが走って来る。

 揃って乗り込みつつ、先程浮かんだもう1つの疑問を告げる。

 

「ところで、皆の親は反対しなかったのか?」

 

 人々をCEから守るため、子供を戦わせるのは仕方ない。だが、自分の子供を危険な戦場に出すなんて絶対にお断りだ。

 実に勝手な言い分だが、大概の親はそう考えるものであろう。

 

 その問いに、まずは映助が明るく答えた。

 

「ワテの親なんか酷いで「お前が兵隊になったら、めっちゃ補助金が貰えるんや、これで借金が返せるわ」って、笑って息子を送り出したんやで?マジで人でなしやわ、あのジジババ共っ!」

 

 ごっつ腹立つわ、と映助はバスの背もたれを叩いた……が、親友としての付き合いが、嘘であると感じさせる。

 

「私の家は、お父さんが泣いて止めたけど、お母さんが「貴方の好きなようにしなさい。」って送り出してくれたから。」

 

「俺は母さんが悲しみながら止めてくれたけど、父さんは厳しい顔で「行ってこい、そして生きて帰ってこい。」と応援してくれたんだ。」

 

「僕の方も似た感じで、お父さんったらワンワン泣いて、お母さんに叱られてました。」

 

「…………」

 

 陽向や優太の場合は兎も角、男子の一樹を父親が泣いて止めるのは、何か間違っている気がしたが、何も言わないでおこう。

 

「うちはババ__ママが快く送り出してくれたですよ~」

 

 またブリッ子笑いをする心々杏だが、どうせ「自衛隊でちっとはマシに教育されてきやがれ、この不良娘っ」と蹴り出されたんだろうと、黙りながら確信する。

 

「わ、私は、両親が反対したけど、お、お婆ちゃんが許してくれて……「我が子がお国のために、ひいてはあんたらやご近所さんの役に立とうって言ってるんだよ、親なら胸を張って送り出しておやり。」と言ってくれたの……。」

 

「素敵なお祖母さんだな。」

 

「は、はい、私が漫画を描いているの、両親にバレて叱られた時も、庇ってくれて……」

 

「…………」

 

 優しいお祖母さんだと思ったが、ふと一樹の方を見ると何か言いたげでも黙り込んでいる様に見えた。……まるでさっきの俺に似た感じだが、敢えて気にしないでおこう。

 

「そう言う兄弟はどないやねん?」

 

「俺の場合は、悔しがってたな。」

 

「はぁ?」

 

「爺ちゃんが、「ワシに行かせろ、ガラス玉なんぞ槍一つで十分じゃ!」って、自分で戦いたがっていた。」

 

「……ファンキーな爺さんやな。」

 

 まぁ本人としては、受け継ぎ培ってきた伝統を長年自分にも俺にも無用と言い聞かせてきたら、まさかそれを披露し世の為人の為に役立てる好機が訪れた、というのもあるかもしれないが。

 

(「安心して、そして誇ってくれ爺ちゃん。俺は此処で、空壱流槍術を存分に活躍させて誰かを救えているんだ。それに爺ちゃんが武術を教えてくれたお陰で、俺より遥かに有望で素晴らしいライバルに出逢えた。もし後々紹介できたら、絶対お互いに気に入る様な英雄だから。」)

 

「……それにしても、皆進んで特高に来たんだな。」

 

 話しぶりから察せたのだが、改めて不思議に思う。

 子供が戦場に向かうのを許す両親も珍しいが、自ら望んで死地に向かう高校生も本来珍しいだろう。

 

 その問いに、映助がまた呆気からんと口を開く。

 

「まぁ、給料貰えるしな。それに__刹那ちゃんと同じとか、格好良いやん。」

 

 「刹那ちゃん」?……嗚呼、英人の姉のことか。

 

 入学初日に映助から聞いた話だと、最初の幻想兵器使いであり、()()()()()()撮影し流した動画の視聴者からは、剣の聖女とか戦乙女だのと呼ばれていた、だっけか。

 

「実は私も、刹那さんに憧れて入ったところはあるのよね。」

 

「僕も同じです。アイドルにはまっているみたいで、ちょっと恥ずかしいですけど。」

 

「華麗に剣を振るってあのCEを討つ姿、俺もあんな風に格好良くなれたらって。」

 

「せ、刹那さん、素敵ですから……」

 

「美人でスタイル抜群でおまけに強いとか、神様は不公平ですよね~」

 

 心々杏だけ何か妙だが、みんな一様に天道寺刹那への憧れが、この道に進ませたきっかけであるらしい。

 

 彼女と同じ選ばれた英雄になれる__それは、子供っぽい憧れなんて言葉だけでは抑えきれない、少年少女ならば誰もが願う夢なんだろう。

 

「本当に凄い人だったんだな。」

 

「だから何度も言うとるやん、刹那ちゃんは英雄やって!」

 

 あの日と同様に力説する映助を見て思う。

 

 天道寺刹那、英人の姉は、死してなお影響を及ぼす英雄と呼ぶに相応しい者らしい。

 消息を絶ってから数年も経過して尚、人々の心の中に刻まれ、永久に語り継がれているのが無知だった俺にも分かる。

 

 そう、彼女は最早物語の存在、人々の想いが集まり形成された、まるで幻想の__

 

「__っ!?」

 

「どないしたんや、兄弟?」

 

「……いや、何でもない。」

 

 突如怖気が走って震えてきたが、慌てて頭を振って誤魔化す。

 

(「幻想の英雄……」)

 

 頭に浮かんだその単語が、何故か妙に不安を抱かせる。

 

 だけど、バスに酔ったのかと勘違いして気遣ってくれる皆を、安心させようと世間話していたら何時の間にか、その単語と悪寒を大して気に掛けなくなってくる。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 その後駅前で下車して映画館に行き、ガラ空きなホールにてリバイバルのホラー映画を騒がしく観て、シャッターの閉まっていない飲食店を探しラーメン屋を見つけ、カレー蕎麦等を頼みエース隊への感謝として烏龍茶をサービスされ生涯で最も美味しい昼食を頂き、ゲームセンターで少し遊んで特高に戻り、夕方食堂で食べて寮の自室で休憩し__

 

「おや、また出掛けるのかい?」

 

「いや、グラウンドで少々ランニングしに行くだけです。」

 

「そうかい、もう暗くなってるのに元気なものだねぇ。」

 

 午後7時、寮を1人出て、駆け足でグラウンドへ向かう。

 

「__はっ、はぁっ、……拙いな。」

 

 先週火曜日の重傷以降鍛錬を禁止されて鈍った身体を、走り込んで元の調子を少しでも取り戻さなければならない。到着して最初にそう悔やんでしまう。

 

 木の槍は持ってきていない。最短で明後日の朝診察し許可してもらわねば、得物を扱う事ができないからだ。

 

「よし、兎に角やるか。」

 

  考え事は走りながらだ。どうせ戦闘中は激しい身体の動作と、自分・仲間・敵の分析や周囲への気配り等冷静な思考を両立させられないと。

 

 

 ……黒檜山のCEが全て片付いてから、俺が切っ掛けとなり大騒ぎ大急ぎで特高に帰って来たあの日。

 停車し扉を開けてから、真っ先に京子先生が、その背後に医療担当と思わしき迷彩服が、更に後方には大河原先生が見えた。

 

 怪我の状態について問われ、「痛むけどまだ耐えれる。」と答えた。当時は激痛に反して気分の高揚が冷めることなく寧ろ燃え滾り、手術が必要になっても麻酔無しで乗り越えられそうとさえ考えていた位だった。実際、装甲車を()()()()()振り絞って一緒にひっくり返してみせたのだ。*1

 が、京子先生から無茶を厳しく叱責され、忙しなく付近の病院に搬送された。

 

 「精神にのみ害を齎すというCEが相手だとはいえ、戦争の基地でもある特高に高度な外科治療設備を置いてなかったのか?」と疑問が芽生えたが、口に出さず治療や各種検査を受けた。

 病院内で一夜を過ごし、水曜に特高へ復帰するも日中ずっと保健室に居させられ、木曜授業出席を認められるも座学のみ、そして漸く今日から一部の運動が許可された。

 

 それにしても、怪我の経緯について装甲車内でも病院でも教室でも、クラスメイトから先生達から求められて、正直に返したら驚かれ悲しまれ怒られ困惑され心配されてたな。

 

 「CEを掘削するように幻子装甲を指先へ集中させ、結晶体の中を手の皮膚が引き摺られながらも無理矢理押し込んで、穿ち掘り進めてコアを突いた。」と説明しただけなのに、「そんな手法あり得るのか」「無謀にも程がある」なんて、みんな混乱していた。

 確かに、あのやり方は6年間で初めて現れたらしき特殊なCEを、単騎且つ蜻蛉切が形成できない程に疲労困憊な状態で倒すべく編み出した。だけど、光線を受け流せるよう幻子装甲に調整を加える事も、生身の肉体が傷付いてでも敵を殺す術も、幻想兵器使いとして初の事例だったのは意外だった。

 

 あと、病院で幻想兵器の適性も再検査されたけど、京子先生達あの場の全員が何故かとても驚いていた様に見えたし、驚愕の声も複数耳に入ってきたな。その後何事も無かったが如き様子で合格を告げてくれたが、そんなに珍しく、そして口外できない事態が俺の身に生じたのだろうか……

 

「__あら、精が出るわね。」

 

「__っ!?」

 

 突如掛かってきた、2週間ぶりの声。

 咄嗟に足を止め、無意識に身体の向きが変わり、両手が構えられた。

 

 視界は寮の方角と、薄い灯りに照らされる“千影沢音姫”を捉えていた。

 

「……こんばんは、日曜夜にグラウンドへ来て、何の用だ?」

 

「別に。ただ独り散歩したくなって、偶々此処に通り掛かっただけ。ホントよ。」

 

 軽く笑う彼女の表情と素振りは、美しくも不気味に見えた。

 

「そんな疑う目しないでよ、また会うとは思ってなかったのよ?」

 

「………そうか、失礼な気分にさせたなら謝る。済まなかった。」

 

「大袈裟ね、気にしてないから大丈夫よ。」

 

 両手を後ろに組みながら近寄る“音姫”に、警戒しつつも足を動かさずその場に留まり、次の言動行動を待つこと数秒、彼女の視線が握り拳に移った。

 

「……ところで、その右手、何があったの?」

 

「気になるか?CEとの戦いで負った……名誉の勲章、みたいなものだ。」

 

「……勲章、ね。痛い思いしてまで得たっぽい、包帯の下の傷が、誇らしいの?」

 

 笑顔から呆れ顔に変わる音姫の疑問に、肯定で返す。

 

「嗚呼そうだ。之の所為でみんなを騒がせて迷惑掛けてしまったけど、それでも結果論とはいえ()()()()に繋がってくれた、勝利の証だ。」

 

「……後悔してないの?」

 

「先生方も仲間も困らせてしまった事以外はな。死の危険も激痛も処罰も、安い代償さ。」

 

「………ふぅん、あっそ。」

 

 音姫が何やら考え込む素振りをしていたが、止めて寮の方角へと振り向く。

 意図も思考も全く掴めないな……と、其処で伝えるべき言葉に気付く。

 

「そうだ千影沢、さん。伝えたい事がある。」

 

「さん付けは要らないけど何?前もって言っとくけど告白ならノーよ。私は()()()()なの。」

 

「なら好都合だ。あ、……()()()()()に伝言だ。「軽井沢から前橋市に駆け付けて、ピラーを倒して、街も市民も俺達も護ってくれて、本当にありがとう。」と。」

 

「__は?」

 

 瞬間、何故か音姫が唖然とする。お前の幼馴染に感謝を伝えたいだけなのに?

 

「……何でアンタが?」

 

「当然だろ?その時前橋市北東には、小型ピラーと自衛隊の攻撃を生き延びたCE、そして疲れ切って戦うのが難しい状態の1年と、急に出てきたCEによって混乱する避難民が居た。追い付かれて犠牲が生じてもおかしくなかったし、実際避難指示が間に合わず撃たれた市民が5名出た。」

 

「……ま、でしょうね、私や英人達A組のいない1年なんて、そんなものよ。」

 

「しかも、たとえあれ以上の犠牲を出さずに避難完了できても、街中のピラーは健在だ。長野のより小型なものの、嘗て自衛隊が総力をあげて倒そうとしても傷1つ付かなかったピラー。それがのさばる以上、避難民を故郷に返せないし、対CE戦線が特高を挟む形で追加されて益々エース隊の、日本の戦況が悪化する。」

 

「……まぁね、賢いじゃない。」

 

 「長野」の単語が出た瞬間、何故か表情が曇った様に見えたが、直ぐに戻して言外に言葉を促してくる。

 

「天道寺英人は、千影沢の幼馴染は、そのピラーを討ち取った。市民やエース隊に襲い掛かる脅威を浄滅し、CEに占拠された街を解放したんだ。……千影沢や、A組女子は正直なところ信頼できなかったけども、お前達の普段主張する「天道寺英人は英雄だ。」は、真実その通りだと感心した。だから折角の機会に、()()()()()()()()に、称賛と感謝を伝えたいんだ。」

 

「………そう、なの……」

 

 英人(ライバル)の秘事や関係性に言及しないよう注意しつつ、嘘偽り無き本心を語った__というのに何故か、音姫の態度は複雑そうで……?

 

「……分かったわ。取り敢えず、アンタも英人の素晴らしさを理解したって事も。」

 

「そうだ、伝言だけど俺の名前を出すかどうかは任せる。話に聞くとA組はどうやら、俺を凄く嫌って憎んでいるらしいし。」

 

「そうね、アンタは()()()の愛しの英人を傷付けたんだもの。」

 

「そう言う千影沢はどうなんだ?2度もこうして話し掛けてきて。」

 

「私にとってアンタは面白いのよ。2度も”絶対無敵の英雄“に挑んで敗けて滑稽で。なのに今、大怪我負っても体鍛えて諦めないって目をして、全く()鹿()みたい。」

 

 __その時、思わず笑ってしまう。だってそうだろう?

 

「ふっ、そうか。「馬鹿」と評価されたか、()()の幼馴染から。……ありがとう。」

 

「……え、何その反応?褒めてないんだけど。」

 

「もう俺は12番棟に戻るが、どうするんだ?」

 

「……そうね、私も帰るわ。おやすみなさい。明日伝えとくわ。」

 

「感謝する。お互い身体を休めればいいな。」

 

 こうして音姫は、そして俺もグラウンドを後にする。

 

 最高で最強の英雄(馬鹿)に近付けたなら、英人(ライバル)の如く幻想兵器の可能性を追求し心一つで限界や強敵に挑んだ甲斐が増えたというものだ。

 そんな小さな喜びを胸に秘めて、走りながら寮へ戻る。

 

*1
後から聞いた血の跡がベッタリ付いていたとの事だが、余計に汚してしまって申し訳ないと思う。





 感想や指摘に質問等、何時でもお待ちしております。

 外出中の動向につきましては、『第35話 感謝』に記されている内容から短く要約する程度に留めました。理由としては、宗次の心境の変化や優太という+1名でさして中身が変わる訳ではない、と判断したからです。

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