英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

43 / 82

 2日前の夜にて、お気に入り登録者数200人に到達致しました!今後とも、連載に励んでゆきますので何ぞとお付き合い宜しくお願いします。



第21話 観戦と異道

 

  5月6日火曜の夜。

 己は何時も通り1-Aで傀儡を演じながら、幻想兵器の性能検証やフットサルの改良、迦具土神としての挨拶回りや勧誘に勤しみ、今布団に籠もって監視カメラから窺い知れぬよう、携帯端末で動画を視聴する。

 

 内容は1-Dと3-A合同の集団戦闘訓練。本来もっと長く体力と幻想兵器の扱いを向上させた上で始める筈が、予想外の初陣によりA組以外も即戦力化してエース隊の対処能力を強化すべく前倒しされ、然し1-D最強(宗次)の負傷により完治予定日の翌日、即ち今日に延期された。

 

 大河原から同志芹沢を通して、体調の回復傾向を聞かされていたが……果たして演習はどうなったのやら。

 

(「現時点だと、3-Aに[宿敵戯曲]の候補足り得るエース隊員は見受けられない。然しひょっとしたら、宗次(好敵手)と1戦交える事で何らかの素質に目覚めてくれるかもしれん。」)

 

 動画を再生、ヘッドホンから音が流れてくる。

 

「__やあ、今日はよろしく頼むよ。」

 

 グラウンドには3-Aが待機しており、1-Dの面々を迎えていた。

 

「うげっ……」

 

「何であんたが居るねんっ!?」

 

「こら、先輩に失礼だろ。」

 

 嫉妬でもしているのか、嫌そうな声を出す平坂と遠藤の頭を、大河原が軽く小突いて本日の予定を説明し始めた。

 

「敵役として訓練に協力して貰うため、3年生達にも集まって貰ったんだ、ちゃんと感謝しろ。」

 

「いえ、ボク達の訓練にもなりますから、気にしないでください。」

 

 先山がそう謙遜して笑顔を浮かべれば、彼女のファンクラブでもある3-A女子のみならず、1-D女子の殆どが見惚れて溜息を吐いていた。

 

「あれの何が良いのかしら……」

 

「陽向ちゃんはバレンタインに、同性からチョコを貰う側ですからね~」

 

「も、貰った事ないわよっ! ……3回しか。」

 

(「ふむ、惹かれなかったのは2名か。尤も片方は恋敵候補への嫌悪も一因だろうが。」)

 

 騒がしくなってきた生徒達を、大河原がまた手を叩いて静かにさせた。

 

「では、これより集団戦闘の訓練を行う。といっても、既に諸君らが経験した実戦での戦い方を、3年生を敵と見立てて繰り返すだけだ。」

 

 現時点でのエース隊の戦法は、射撃部隊で先制攻撃し、盾部隊を先頭に突撃、あとは白兵部隊が切り込む……これ1つだけとなる。

 歩兵部隊としては至極単純であるが、エース隊の性質や限界、交戦対象を鑑みれば合理的。その簡単な手順こそ1年は既に把握してはいるだろうが、細部の詰めが残っているが故のこの演習。

 

「射撃の有効範囲、CEが攻撃を開始する30mの距離、それを走って詰めるのに掛かる時間、2度目の攻撃が飛んでくる5秒の間隔、それらを何度も繰り返して体に叩きこむ。」

 

 そうして、考えずとも体が動かせるまで訓練を積まねば、本来は戦場に出すべきではないのだが、新たなピラーの出現など、非常事態が重なって少しでも即戦力が望まれる今、じっくりと訓練する余裕は無くなってしまったのだ。

 

「前回のように、否応なく諸君らが戦場に出る事もあるだろう。その時、死んで後悔しないよう、集中して訓練に励むように。」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

 実戦を経験した後だけあり、1-D全員が素直に忠告を受け入れる。

 

 そんな生徒達の姿に、子供を戦場に立たせねばならぬ事を考えてか、又は[機械仕掛けの英雄]のやられ役の背負わせる事をなのか、大河原が一瞬顔を顰めるも、直ぐに険しい顔に戻り指示を出し始めた。

 

「では先山、そちらは頼むぞ。」

 

「はい、お任せください。」

 

 一般市民の出でありながら自然な風に貴族の如く優雅な礼をして、麗華が3年生を率いて3百mほど離れた。

 

「では、向かって右から30分隊、31分隊、31分隊の順で横一列に並べ。」

 

「先生、並ぶってどんな風にや?」

 

「射撃隊が最前列、次に盾隊、最後に白兵隊の3列だ。白兵隊の数が多ければ4列目を作れ。列の間隔は広めに、3歩分は開けておくように。」

 

「先生、俺達の分隊に盾持ちが居ないんですけど?」

 

「諦めろ。」

 

「えぇーっ!?」

 

「というのは冗談だ。古田か西野、30分隊の盾役に回れ。出来れば後で話し合って、30分隊と隊員を入れ替えろ。」

 

「じゃあ、俺が行きます。」

 

 初めての分隊訓練とあり、細々と確認を挟みつつも、D組の36名が綺麗に整列すると、確認した大河原が遠くの先山に合図を送った。

 

「先山、開始してくれ。」

 

「了解です。」

 

 先山が大声で返事したのを合図に、3-Aは盾隊を前にゆっくりと前進してくる。

 

「3年生は丁度CEと同じ速度で向かってきている。150mを切ったら射撃開始だ、全員準備しろ。」

 

「「「はい、武装化!!!」」」

 

 1-D全員が幻想兵器を取り出し、構えたまま3年生が近づくのを待つ。

 

「この間が苦手なんですよね……」

 

 武器がスリングだから、常にグルグル回しながら待つのは疲れると、斑鳩が軽く愚痴をこぼしていた。

 

「銃か、せめてクロスボウの幻想兵器が有れば便利なんだろうが。」

 

「それもう幻想(ファンタジー)やなくて現実(リアル)やん。」

 

(「……一応、理論的には()使()()()()()()()使()()もあり得る、のだがな。」)

 

 1-Dがそんな話をしている間にも、3-Aは確実に近付いてきていた。

 

「170、160……撃てっ!」

 

 大馬の号令に合わせ、6名の射撃隊が一斉に矢や投石を放てば、全弾狙い違わず、先頭を歩いていた盾持ちの3-Aに命中した。

 

「本番では倒れるまで撃つが、訓練では一度だけでいい。射撃隊は全員下がれ。」

 

「「「はい!!!」」」

 

 6名は素早く列の後方に移動し、盾隊と宗次達白兵隊前に出てくる。

 

「既に実戦で経験済みだが、50m付近まで近づいたら、盾隊を先頭に突撃する。間違っても最初の攻撃までは盾隊を追い抜かないように。」

 

 盾もないのにCEの集中砲火を浴びれば、一瞬で幻子装甲を貫かれてしまうだろう。

 少なくとも射撃の予測や察知で回避するなり近接武器で受け止めるなり、幻子装甲の集中で特定箇所以外を無防備に晒す無茶は、エース隊員に求められてはおらん。

 

「そろそろだ、70、60、55……全員、突撃!」

 

「い、いきます……っ!」

 

「やったるでっ!」

 

 緊張しながらも駆け出した鴉崎の後に、映助達も雄叫びを上げて続き__

 向かいから見ていた先山が、少し意地悪な顔をして、隣に立つ名護へと合図を送った。

 

「さて、お勉強の時間だね。」

 

「こいつが先輩からのプレゼントだっ!」

 

 名護が下級生との初訓練恒例の洗礼として、まだ30mラインを切っていない段階で矢を放ち、針に糸を通す正確さで鴉崎の膝を撃ち抜いた。

 

「きゃ、きゃあっ……!?」

 

(「油断だな、鴉崎。仕方ない話だが、突撃の妨害を想定しておらぬだろう?」)

 

 全力疾走中に膝を撃たれては、立っていられる筈もない。

 鴉崎は顔面からスライディングするように倒れてしまう。

 

「ちょっと、大丈夫っ!?」

 

「うわっ、危ないです~っ!」

 

 後ろを走っていた平坂は心配して思わず立ち止まり、そのまた後ろに居た小向井が、ぶつかりそうになって悲鳴を上げた。

 

「何やてっ!?」

 

 遠藤は勢いをつけすぎていたせいで、倒れた神奈を追い抜いてしまい30mラインをうっかり突破。

 

「撃てっ!」

 

 思惑通り、先走ってしまい孤立した遠藤目掛けて3-Aの射撃隊が一斉に攻撃を放った。

 

「ちょ待っ!?」

 

「伏せろっ!」

 

(「咄嗟の対応、流石だぞ宗次よ。」)

 

 悲鳴を上げて固まった遠藤の背中を、宗次は蜻蛉切の石突で強く突き飛ばした。

 

「ぐべっ!」

 

 お陰で遠藤は顔面を地面で引き摺られ、土埃が掛かり恐らく衝撃で装甲が削られたろうが、迫っていた矢や投石に当たらずに済んだ。

 

「おい、これどうすれば__」

 

「止まるな、走れっ!」

 

 困惑して足を止めかけた分隊の仲間に叫び返し、宗次は疾風の如く走ってゆき、前を行く30、31分隊も追い抜いて、誰よりも先に3-Aの戦列へ突入し待ち構えていた盾役に渾身の突きを見舞ってのけた。

 

「うおっ!?」

 

 あまりの衝撃にのけ反る盾役の後ろで、冷静にストップウォッチを眺めていた先山は、5秒が経つのに合わせて叫んだ。

 

「撃てっ!」

 

 射撃隊だけでなく、盾役の傍に控えていた剣や槍の使い手達が、CEの光線攻撃に見立てた突きを一斉に放った__が、宗次は慣れた様子で深く沈み込み、攻撃を全て避け切ると、反撃の一撃を再び盾役に放ってみせた。

 

「そこまでっ!」

 

 槍と盾がぶつかる甲高い音と同時に、大河原が全員に止まるよう叫んだ。

 

「先生、あれ何の真似やっ!」

 

「あ、あぅ……」

 

 俯せだった遠藤が起き上がり、自分が転んだせいで大変な事になったと知り涙目になった鴉崎を指さして抗議した。

 

「走塁妨害とか聞いてへんでっ!」

 

「では三塁に進め。」

 

「やったで!これで得点チャンス__って騙されるかいっ!」

 

 遠藤のノリツッコミを受け、大河原が一度笑ってから直ぐ真顔に戻って説明した。

 

「いいか、実戦では石や窪みに足を取られて転ぶ事なんて珍しくもない。諸君らの主戦場となる御代田町の周辺は、戦争初期にミサイルや榴弾を何発を撃ち込んだせいで、穴だらけになっている。」

 

 平らに整地されたグラウンドはおろか、雑草の生い茂る野原よりも歩き辛いものだ。

 

「そのため、今回のように盾役や前列の誰かが転ぶなんてトラブルは、珍しくもなんともない。」

 

「実際、痛い目に遭った事があってね。」

 

(「3年前の林田の事であるな。己もあの時は……否、灰原も牛尾も、忘れる事は決してない。」)

 

 躓き転んだ所為で今も眠りについているクラスメイト(戦友)を思い出し、先山が苦笑し後方で他の者達も深く頷いた。

 

「転んだからといってCEは待ってくれない。このようなトラブルが起きた時、素早く対処する方法を学ぶのも訓練の内だ。」

 

 だから2年へと進級した時から、集団戦闘で相手するどの下級生クラスにも、相手側に事前通告せず、先陣切って突撃する盾役を転ばせるようにしているそうだ。

 

「むぅ、言いたい事は分かるけど……」

 

「ちょびっとオコですよね~」

 

 友達が貧乏くじを引かされた事に、平坂と小向井が腹を立てているものの、本番でミスして死なせない為の親切心故と理解しているらしく、怒るに怒れない模様で、溜息と共にそのわだかまりを吐き出すと、落ち込む友の肩を叩いて励ましていた。

 

「では元の位置に戻れ、最初からもう一度やり直すぞ。」

 

「ふぅ、はぁ、……はいっ…!」

 

「……空知、無理してないか?まだ痛むなら休んでいいぞ。」

 

「いえ、大丈夫です。久々に激しく動いたもので。直ぐ前の調子に戻ります。」

 

(「………」)

 

 大河原に言われ、両組はまた3百mの距離を取るため歩き出していった。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

(「__これで9回目だが……宗次の奴、迅速且つ的確な判断、広範な視野に細やかな気配り。集団戦への適応力はずば抜けているものの……」)

 

 射撃の後に突撃という、分隊での動きを繰り返すこと十回目。

 

「はあっ!」

 

「くっ!」

 

「………そこまで!」

 

 3-A全ての盾役を押し倒したところで、全員訓練を止めた。

 

「ふぅぅーっ、ありがとうございます。」

 

「はあっ、此方こそいい練習になったよ、一番強かったかも。」

 

「よし、一度十分の休憩*1を取る。」

 

 大河原が手を叩きながら声を掛けると、両組共に安心した表情が広がり、座り込む者も出てきた。

 

「はぁ~、結構疲れるわね。」

 

 白兵隊の面々にはまだ余裕が見受けられるも、50m区間を連続で走ったとあって、額には汗が浮かんでいた。

 

「あの性悪3年ども、容赦なしやしな。」

 

「然し、良い訓練になった。」

 

「そりゃあ、宗次ちゃんは良いですけどね~」

 

「まぁな、折角1週間ぶりに身体も槍も動かせる機会を得られたんだ。本当に良かった。」

 

「あ……そういえばそうですよね。昨日も見学でしたし。」

 

 土埃一つない宗次を、小向井が尻の土を払いながら恨めしそうに見上げ、射撃隊からフラつきながら寄ってきた斑鳩が頷いた。

 

 そんな彼らの元に先山が、エース隊の指揮担当が歩み寄ってきた。

 

「やあ宗次君、元気そうだね。」

 

「はい、先輩も。」

 

「なに普通の挨拶してんねん。」

 

 変換器内の盗聴器越しに、3者の遣り取りが聞こえてくる。

 

「単刀直入に言おう、ボクと試合をしてくれないかい?」

 

「はい、分かりました。」

 

「即決かいっ!」

 

(「ほォ、先山が宗次に手合わせか。さてどうなるやら。」)

 

「先生、麗華先輩と試合をしたいのですが、構いませんか?」

 

「先山とだと?」

 

 大河原が驚いて目を見開いていたが、笑顔で手を振る麗華を見て、少しだけ考えて頷いた。

 

「いいだろう、お前達ならやりすぎる事もあるまい。だが空知、無理はするな。右手や腕に痛みや異変を感じたら恥じなくていいから直ぐ申告しろよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 大河原がタブレットを操作し、幻子装甲が半減したら両者の幻想兵器が消えるよう、試合の設定を行った。

 

「では、早速お願いしようかな。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 2人が距離を取って向き合うと、同時に自らの得物を、それも何の偶然かお互いに槍の武器を呼んだ。

 

「「武装化。」」

 

 宗次の手に現れるのは、日本産、史実由来で本多忠勝が愛用したという、無骨な蜻蛉切。

 先山の手に現れたのは、英国発、出典も所有者もアーサー王(己と同じ)な、純白のロンドミニアゴ。

 

(「幻想兵器によっては銘を把握せねば、どころか知れただけで性能や異能を察するのも困難な代物がある。それは原典の認知度だけでは済まないが……」)

 

「「「何時も素敵です麗華様!!!」」」

 

「何やイケメンにお似合いの槍やな。」

 

「むぅ、宗次君とお揃いか……」

 

「陽向ちゃん、最近思考がヤバくないですか~?」

 

 心境はどうあれ何方の組の外野も先山に注目する中、2人はジリジリとすり足で距離を詰めていった。

 

(「さて、我が好敵手対エース隊白兵最強……勝敗如何にせよ[宿敵戯曲]へ十分差し込める展開だ。宗次に少々心配事(ハンデ)はあるが、切札抜きで先山の実力を踏まえれば問題なかろう。尤も、窮地に追い込んでくれた方が戯曲上有難いのだが。」)

 

「はっ!」

 

 先に動いたのは先山、裂帛の掛け声と共に突きを放ったが、宗次がそれを穂先で払い、返しの突きを繰り出した。

 然し、先山が横に飛んでそれを避けると、槍を低く払って足を狙ったが、宗次が軽く後ろに下がって躱した。

 

 瞬きの間に繰り出された2人の攻防を観ていた生徒から歓声が起こっていた。

 

「凄い、宗次さんと互角にやり合っているっ!」

 

 斑鳩の驚きは、宗次の卓越した強さを知る1-Dにとって、先山の実力に対する共通の印象であった。

 

「嘘!?1年の身で、麗華様と張り合ってるなんて!?」

 

 3-Aも同様、宗次と先山を伯仲かの如く評価している様だが……然し、当人達はとっくに技量差を見抜いていた模様だ。

 

「遊ばれてるね。」

 

 先山が顔面に向けて突きを放つも、宗次は首を逸らすだけで避けてみせた。

 

(「やはり我流であるな。素人が単独で訓練し対CE戦や幻想兵器使い達(非達人非軍人)との模擬戦しか経験しておらぬ2年間では、上出来な位だ。」)

 

 それでもエース隊としては十分重く速く綺麗な動作であるものの、それは西洋のスポーツ学的な速さ__筋肉のバネによって生み出される、トップ・スピードの速さに過ぎず。

 

 宗次が十数年掛けて師と歴史に習い血の汗流して築いた、東洋武術の重視する早さ__気配を断ち、予備動作を消し、相手に知覚されない攻撃を放つ、時間を短くする早さではなかった。

 

 人の身体とは得物を持つ手よりも前に、体の節々が微かに動くものだ。

 その機微を感じ取れば、どのタイミングで何処を攻撃されるか、練達とあらば秒前には分かって余裕を持って避けられる訳で、現に宗次は今も、そして己を含め汎ゆる幻想兵器使いを相手に完璧に察知してのけておる。

 

(「まぁ、()()()宗次に追い縋ろうと付き合えてるのは運が良い。」)

 

 注目すれば分かるのだが。

 平静を装ってはいても、先週迄自然に保てていた呼吸が乱れている。無駄なく正確であった身体の所作も、コンマ単位の遅れやミリ単位のブレが生じている。汗の量は普段より多く、表情に苛立ちを隠匿する痕跡も見受けられる。

 

 無理もない、先週午後より1日以上寝たきりで、木金は座学のみ出席、日課であったランニングは一昨日再開し、本日久方ぶりに槍を握れたのだ。肉体面でも技量面でもブランクは否めない。十度の集団戦も此の闘いでも隙を出さぬのは寧ろ称賛すべき事柄よ。

 

「やはり、君相手に出し惜しみはできないか」

 

 先山が、自分の攻撃が掠りもしない事に喜びを浮かべている様で、その心意気は認めるが何れにせよ切札を解放する決意らしく、、百合の如く白い槍を胸に抱いた。

 

「咲き誇れ、王の聖槍(ロンゴミアント)__」

 

 先山の唇が、白い槍の柄に触れた途端、眩い光が、彼女の全身を包み込んだ。

 

「ロンゴミアント……アーサー王の槍?」

 

(「それだけでは判らぬぞ、相手の切札は。さてどう対処する?」)

 

 戸惑う宗次に向けて、先山が力強く大地を蹴った。

 

「さあ、第2幕といこう!」

 

 速いだけの真っ直ぐな突進に、宗次が当然の如く迎撃の突きを放った__が、触れた蜻蛉さえ切り裂く名槍は、先山の体を包む神々しい光によって弾き飛ばされてしまった。

 

「何っ!?」

 

「卑怯とは言わないでくれたまえ。」

 

 笑って繰り出された聖槍を、宗次がギリギリで避けて、蜻蛉切を半回転させて石突で麗華の側頭部を打った。

 だが、これも光によって弾かれてしまい、一転不利と化した事で、慌てて下がり距離を取った。

 

「幻子装甲よりも強力なバリア?」

 

「その通り、皆は❛聖なる加護❜と呼んでいるけれどね。」

 

「「「キャー、麗華様ステキっ!!!」」」

 

 3-Aの女子ファンから黄色い歓声が上がる中、先山が自身の兵器の権能を解説していた。

 

「時間制限は有るけれど、その間はどんな攻撃も通した事はないよ。」

 

 何処から攻撃されるか分からない乱戦中であろうとも、CEの光線を全て無効にして、冷静に周りへの指示や救助を行える。

 この聖槍の力が有るからこそ、先山は会長たる神近を押しのけて、エース大隊の総指揮を任されているのだ。

 

「ロンゴミアントにそんな伝承が有ったとは、初耳ですが。」

 

「だろうね、所有者のアーサー王はこれを使っていた時に、息子のモルドレッドに致命傷を負わされているしね。」

 

(「幻想兵器の原典とは、1つに限らぬ。刹那の〈光の剣〉が欧州の複数神話や伝承に於ける特定の共通する特徴の剣を取り纏めた兵器であるように。その際追加される機能も場合によりある訳で。」)

 

「ロンゴミアントはキリストを貫いた槍〈ロンギヌスの槍〉と同一視される事もある、いわば神の子の血を受けた聖槍だからね、その辺りが解釈されたんじゃないかな?」

 

「なるほど。」

 

「あと、ボク達の担任は「世界的に有名なカードゲームで、その名前のカードが有ったから、そちらの影響も有るんじゃないか」と言っていたよ。」

 

「カードゲームですか?」

 

「生憎ボクもそれを知らないけどね。さて、無駄話はお終いだよ。」

 

 言い終えるや否や、先山が普段の優雅な振舞いからは縁遠い、荒々しく強引な攻めを繰り出してきた。

 

(「❛聖なる加護❜の制限時間は約5分、それ迄耐え凌げるか押し切られるか、或いは……」)

 

「__っ!」

 

 いくら技量の差があるとはいえ、防御不要の捨て身攻撃を連発されては、宗次とて捌き切れなかったようで、先山の強力な薙ぎ払いを受けて、右手から蜻蛉切が弾き飛ばされた。

 

「宗次君っ!?」

 

「貰ったよ!」

 

(「__これは。……くくッ、勝負あったな。」)

 

 1-Dから悲鳴が上がるなか、先山がトドメの突きを見舞った。

 

 だが、それこそが過ち。

 勝ったという確信と興奮が、普段は冷静で頭の回る先山から、疑いの心を奪ってしまったらしい。

 全てが誘われ、打たされた突きだという事に。

 

 真芯を捉えたかに思えた聖槍を、宗次が体を捻って紙一重で受け流した。

 

「えっ……?」

 

 そして、驚く先山の前で、聖槍の柄を両手で握り、全身の力と体重をかけて、ドリルのように捩じり回しながら突いてみせた。

 無手による武器の奪取技、それを漸くキレが戻ってきた状態で用いたのだ。

 

 技の直後で固まっていた先山の細い指が、男の全力に耐えられる筈もなく、聖槍が掌を滑り抜け、持ち主の鳩尾を石突で貫いた。

 

「がっ……!」

 

 無敵の防御を誇るロンゴミアントの聖なる加護も、自身には無効であったらしい。

 突き飛ばされ倒れ込む先山に、宗次は素早く駆け寄って、奪った聖槍を突きつけた。

 それも、変換器のスイッチを押して聖槍を消されぬよう、右腕を足で踏みつけるという念の入れようで。

 

「続けますか?」

 

「……いや、ボクの負けだよ。」

 

(「__お見事。」)

 

 先山が一瞬だけ悔しそうに言葉を詰まらせたが、直ぐに笑って負けを認めた。

 

 その途端、1-D男子と平坂の歓声が、3-A女子の悲鳴が上がった。

 

「よっしゃあ、やったで兄弟っ!」

 

「流石は宗次君っ!」

 

「いやー、麗華様ーっ!」

 

「何か嫌な見覚えが……」

 

(「安心せよ、裏のある親衛隊とは違ってブーイングや難癖は飛ばすまい。」)

 

「残念だよ、勝ったと思ったんだけどね。」

 

「「勝ったと確信した時こそ、敗北は忍び寄ってくる」と、爺ちゃんが言っていました」

 

「なかなか含蓄のある言葉だね」

 

(「全くだ、己としても実感のある話よ。」)

 

「俺もあまり守れてはいませんが。」

 

 苦笑していた宗次に笑い返し、麗華が右手を差し出した。

 

「ありがとう、楽しい試合だったよ。」

 

「こちらこそ。」

 

 宗次が喜んで彼女の手を握り返した__直後、先山がその手を引っ張った。

 

「えっ?」

 

「これはお礼だよ。」

 

 そして先山がなんと、驚く宗次の頬に接吻をかましたのだ!

 

「「「いやあああぁぁぁ―――っ!!!」」

 

「ぎゃあああぁぁぁ―――っ!」

 

(「クッ、ハハハハッ!そうかそうか宗次よ、よもや愛と恋の英雄道(そういう方向)へ征くか!」)

 

「あの、今のは……?」

 

「おっと、そろそろ時間だね。」

 

 戸惑って頬を押える宗次に、先山が背を向けて離れてしまった。

 

「ほら、そろそろ訓練を再開するぞ。」

 

 丁度休憩時間も終了したし、放っておくと面倒になると判断したのだろう。大河原が手を叩いて生徒達を急かした。

 

 斯くして、3-Aは、特に女子の多数が先山を眺めながら混乱の広がりを見せ、1-Dでは__

 

「ふふふっ、今日の村雨は血に飢えているわ……」

 

「陽向ちゃん、ウェイト、ウェイトです~っ!」

 

「れ、麗華×宗次とかご褒美すぎ、ぶふぅ……っ!」

 

 平坂が惚れた男に生じた事態を前に目を血走らせて刀を抜き、小向井が必死に、鴉崎が恐らく趣味のBL絡みの妄想を宗次と先山に見出したのか鼻血を吹きつつ、2人がかりで押し止めていた。

 

 その横で、宗次はまだ頬を手で押さえたまま首を捻っていた。

 

「あれは、何だったんだ?」

 

「……知りません。」

 

「妬まし__くないわ、不思議なほどに。」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

(「__以後の戦闘訓練は、すっかり本調子を取り戻した宗次中心に、3-Aの扱きに1-Dが何とかついてゆけて終わった訳だが、いやはや本日最も楽しめたぞ。」)

 

 宗次の集団戦に於ける適応力とクラス全体にとっての重要性、エース隊白兵最強を打ち破った一騎打ち。

 其れ等も然ることながら、特筆すべきは先山による頬への口づけと平坂の反応。

 

(「神星の宿敵《ヴァルゼライド》は、色恋など欠片もなく、友情さえ寄せ付けず、孤高の絶対強者として己に挑む存在(英雄)であった。」)|

 

 道理も心配も一蹴し、たった独りで突き抜けるあの無謬の輝きは、己を深く熱く魅了した__が。

 

(「宗次は宗次だ。鋼の英雄(ヴァルゼライド)では断じて非ず、故に強さの在り方も歩む道も、奴と同じ英雄譚(ティタノマキア)である必要はないのだ。」)

 

 秋葉には「重ねるな」としつこく忠告されているが、そんなつもりは微塵もない。あくまでも武士(好敵手)として尊敬し、何れ辿り着く迦具土神の勝利の先で、我等なりに決着を果たす所存だ。故に__

 

宗次達(若人)よ。友情、恋愛、大いに励むがよい。その総てが、成長への糧となろう。」

 

*1
矢や投石を放つ射撃隊、攻撃を集中的に受ける盾隊は、幻子干渉能力の消耗が激しいため、あまり連続での訓練は事故の危険が有るからだ。





 感想や指摘に質問等、何時でもお待ちしております。

 因みに[宿敵戯曲]の候補として空知宗次が確実になって以降、英人は秋葉から「彼はあくまでも空知宗次だから、決してヴァルゼライド(英雄)と重ねるな。」と事ある毎に忠告を受けております。その発言自体は至極正しい懸念に基づいているので、英人は反発こそしないものの若干うんざりしております。

1話分に於いて、小説本文の文字数が1万超えとなる場合

  • 前半後半等と文章を分割すべき
  • 制限内なので1話分として投稿してもよい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。