英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

48 / 82

 今回の第23.5話は、色鐘と保科、そしてエース隊vsCEの裏の裏に関する話となります。



第23.5話 信じ難き悪魔と畏れ多き提供

 

 

  機械仕掛けの英雄(天道寺英人)不在の中、エース隊を御代田町へ派遣し、流石に今回は前の様な緊急事態など起こらないし、万が一生じても特高に残した予備戦力や付近の基地にて待機中の自衛隊で柔軟に対処できる……と。

 

 去年の如く、何ら問題も異常も死者もなく、順調にエース隊だけでCEを撃退してくれるのだと、忘れられる筈がないあの晴天下での喪失(過ち)を忘却してしまったのかと、そんな慙愧に一瞬塗り潰されてしまう。

 

「__なぁっ!?あれは……いや、今は……」

 

 凡そ2週間ぶりに、突如出現した小型ピラーと新種のCE、それを現場で展開している大勢のエース隊員達のヘッドセット越しに確認し、できる限り迅速に、慎重な対応へ移行すべきと判断し、現場指揮官へ伝える。

 

「総員撤退、装甲車に搭乗し、軽井沢まで下がれっ!」

 

「撤退……了解しました。」

 

 先山が、僅かに驚くも直ぐに従い仲間への指示を始めてくれた。

 一度の攻撃すら加えず敵前逃亡する事に不満を抱く者や、唐突なピラーの出現に怯えていた者の反応も見聞するが、全学年がどうにか混乱せず装甲車に乗り込んで、同時進行で通達していた全運転手により、CEが200m付近まで接近してきた時点で、軽井沢に向かって後退してくれた。

 

 一先ずはこれでよしと安堵しつつも、幾ら未知の事態が2連続で生じているからといっても、進撃してくる群れを放って置いて戻す訳にはいかない。

 エース隊(彼等)には悪いが、戦闘再開を前提として、指揮所内へと立て続けに指示を飛ばす。

 

「京子、新種のファイルを生徒達に開示しろ」

「空知君の動画データは?」

 

「駄目だ、作成した3Dモデルを使って説明しろ。」

 

「了解です。」

 

 開戦から6年、初めてCEの新種が現れたという非常事態は、混乱を招くため出来るだけ伏せておきたかったが、こうなっては仕方がない。

 生徒達への説明は京子や他の教師達に任せ、綾子は次なる手を打つ。

 

「新町駐屯地に連絡、第12対戦車中隊に出撃を要請しろ。」

 

 小型ピラーから出現した正二十面体型の数は約35体。

 それに加えて、元からいた六角柱型が約600体。

 

 対するエース隊員は、3年が4クラス、2年が3クラス、1年がD組だけの計8クラス、約300名である。

 本来であれば2倍程度の数など、苦戦する事はないのだが、今回は1年の槍使い空知宗次しかまだ戦った事のない新種が出現した以上、何れ程戦況を揺るがすか我々には分からない。

 

 ここは戦車隊に砲撃を加えて貰い、CEを半数ほど減らして安全マージンを十分に確保した上で、エース隊が突撃して新種のデータをさらに取る。それが最善の作戦だとして、最寄の基地へ連絡させた。然し__

 

「色鐘三佐、新町駐屯地が戦車隊は出せないと言っています。」

 

「何だと?」

 

 出撃拒否と伝えられ、眉間にしわが寄る。その可能性も有りえると、微かに予想していただけに、驚きよりも怒りが滲む。

 

「替われ、私が直接話す。」  

 

 心情が声に映らぬ様気を引き締めながら手元の受話器を取り、数年前迄所属していた新町駐屯地の現司令官に直接電話を掛ける。

 誰からの電話か、分かった上で無視しているのだろうと勘繰りたくなるほど、長いコール音の末に、低いダミ声が響いてくる。

 

「__何の用かね、色鐘三佐。」

 

「風見一佐、軽井沢方面に進行中のCEを撃退するため、第12対戦車中隊に出撃して頂きたい。」

 

 分かっているくせに言わせるなという怒りを飲み込み、風見正紀(かざみまさのり)へと、努めて平静な声で出撃を願った。

 だが残念ながら、或いはやはりというべきか、奴は鼻で笑って拒絶してくる。

 

「黒檜山を含む他方面からCE襲撃の可能性がある以上、うちの戦車隊を動かす事はできんな。」

 

 その主張自体は何も間違ってはいない。

 再び前橋市に、またはより首都に近い伊勢崎や本庄に、小型ピラーが出現しないという保証はどこにもないのだから。綾子とてその可能性を危惧していたから、今日は2年D組と1年の3クラスを特高に残しているのだ。

 

 しかし、このまま新種を含むCEとの戦闘になれば、エース隊員に犠牲が出かねない。

 

「エース隊2個小隊を直ちに特高まで戻し警戒に当たらせます。その替わりに戦車隊を出して頂きたい。」

 

 CEとの戦闘、それも入り組んだ市街地戦を想定するならば、小回りのきくエース隊員の方が戦車よりも遥かに有効である。逆に開けた平地で砲撃を加えられるなら、戦車隊は新種のCEが相手だろうと、有利に戦えるだろう。

 物資不足の状況で、貴重な弾薬を消費するのは痛いが、それ以上に貴重なエース隊員の命には代えられない。

 

 そう頼み込むが、然し相手の態度は度し難い事に。

 

「……なんと言われようと、戦車隊を出すつもりはないな。CEはご自慢のエース隊でいつものように撃退してくれたまえ。」

 

 せせら笑う奴の声から滲み出てきたのは、国を守る自衛官の魂ではなく、権力に溺れた者のドス黒い感情。

 自分達大人を差し置いて、戦場で活躍する子供達への醜い嫉妬。エース隊の指揮官となった事で、若い女性でありながら三佐にまで上り詰めた、私への差別と侮蔑。

 

 つまり、ただ気にくわないから、それだけでこの風見という司令官は大局も見ず、此方の申し出を断り、特高の生徒達を危険に晒そうというのだ。

 

(「この俗物がっ!」)

 

 喉元まで出かかった罵声を、必死の思いで飲み込む。

 こんな男であろうとも、階級が上の人物に罵声を吐くわけにはいかない。今ここで、上官侮辱なんてくだらない罪で足を引っ張られては、それこそ風見やその背後に居るであろう、売国者達につけ入る隙を与えてしまう。

 

(「宮田司令が居てくれれば……」)

 

 詮無き事と分かっていても、そう悔やまずにいられない。

 

 風見の前に新町駐屯地の司令官を務めていたあの人は、6年前、CEの出現当時から群馬を守り続けていた、それこそ刹那同様に英雄と呼ぶべき上官だ。

 敵の正体が何も分からない初期から友軍を支え、幻想兵器なんて怪しい武器を振るってくれた刹那にも理解を示し協力をしてくれた。

 刹那の死後、打ちひしがれながら影山の案にも携わる様になった私達に代わって戦線を守り続け、漸く特高が立ち上がってからも、まだ数が少ないエース隊員を支えるべく、あの手この手で政府から車両や弾薬を引っ張り出し、戦車隊を率いて支援をしてくれた。

 

 そんな宮田司令がいてくれれば、今日とて二つ返事で援軍を回してくれただろう。だが、今は陸将補に昇進し東部方面隊へ移り……何時しか疎遠になってしまった。

 「天道寺姉弟の思い出が残るこの新町で戦い抜きたい」……そう語っていたあの人は、私や京子、秋葉一尉が特高に異動した後に起こった息子さんの件i 以降、漠然とした私感に過ぎないものの、何かが変わりまた我々に隠し事をしている風になってしまった。やがて嘗ての決意はどうしたのか、陸将補へ上がり東部方面隊の高級幹部となるも、昇進祝いの連絡を最後に会話する機会がなくなってしまった。

 

 ……宮田陸将補のお考えや事情など窺い知れないが、それにしてもどうしてあの人の後釜に風見の様な俗物が選ばれたのか……と、胸の内で呪っていると、また不快なダミ声が受話器から放たれてくる。

 

「それに、これは君達にとっても好都合なのではないかね。」

 

「好都合?」

 

 何が我々にとっても好都合なのかと虚を突かれて訝しんでいたら__

 

「味方の窮地を知り、挫折から這い上がる……君らご自慢の英雄とやらが、実に好みそうなシチュエーションではないのかね。」

 

「__っ!?」

 

 まるで知恵の実を進める蛇の如く、絡み付くように告げられた言葉が、ゾッと凍り付くような寒気を齎してきた。

 

 駐屯地の司令官という立場上、風見は幻想兵器の詳細を知らされているし、天道寺英人の無断出撃とその顛末も知っている。

 だから、その発想が出た事自体はそこまで驚きに値しない。ただ私が考えつかなかった、考えないようにしていたその指摘が、あまりにも悍ましかったのだ。

 

「ご自慢の英雄は、苦境を乗り越えるほど強くなるそうではないか」

 

 それは確かに事実、天道寺英人の幻想兵器〈機械仕掛けの英雄〉は、まさに物語の主役のごとく、ピンチから奇跡の逆転を果たしてパワーアップを成し遂げていた。

 

 1度目は入学式での稼働テスト、本来予定していた八百長を命じた工作員(幼馴染の千影沢音姫)ではなく、空知宗次との試合になったが、見事に倒された後、〈機械仕掛けの英雄〉が生み出している子幻想兵器(サブ・ファンタズム・ウェポン)〈エクスカリバー〉の能力を解放してみせた。

 2度目も彼との試合、完膚なきまでに敗北しながらも、私や親衛隊(A組女子)が時間を稼いでいる間に、2つ目の子幻想兵器〈タケコプター〉を生み出してみせた。

 ……何故近代の創作物からひ○つ道具という機械が採用されたのか、幻想兵器の判断など解りようがないが兎に角だ。

 

 伝説の剣や槍が、多少の誤差や曲解を含みながらも、その逸話通りの能力を発揮するように、()()という概念そのものを幻想兵器とした天道寺英人は、皆が望む英雄通りの活躍をしてみせるのだ。ならば、今回とて()()()()()()に立ち直るのだろう。

 

 CEに敗れて助けを呼ぶ、弱く哀れなエース隊員達という、英雄を輝かせる脇役を犠牲にした上で。

 

(「__馬鹿な、ありえんっ!」)

 

 頭に浮かんだ妄想を、どうにか必死に追い払う。

 天道寺英人が、刹那の弟が、ただ“英雄に相応しい格好良いシチュエーション”なんて巫山戯たモノのために、誰かの犠牲を望む筈がない。脱走してピラーの破壊に失敗して以来、寮の自室ではなく何故か校舎内の避難用シェルターに内側から鍵掛けて引き籠もり、千影沢音姫達の入室さえ拒んで出て来ないのとて、あくまで傷心が原因。

 

 まさか風見の言うような状況を望んで、犠牲が出るのを待っているなんて、そんなドブ以下の吐き気を催す思惑からなんて事は絶対にない……ないと、信じたい。

 

「~~では、御武運を祈っているよ。」

 

「…………」

 

 風見が何か喋りたて、一方的に電話を切るまでの間、反論の一言すら告げられなかった。

 ただ、背中に冷や汗が浮き出るのを感じながら受話器を置くと、訝しむオペレーターに指示を送る。

 

「防衛大臣と総理に連絡、風間指令に命令を出して、新町駐屯地を動かすよう求めてくれ。」

 

「……了解。」

 

 恐らくどうせ、多忙を理由に無視されるか、検討に時間が必要だという事実上の拒否を示されるか、どちらかだろうと覚悟しつつオペレーターへ各所への連絡を始めさせた。

 生徒達が下がった軽井沢の防衛ラインへと、新種を含むCEが到着する迄残り約40分。政治家の重い腰を動かすには、あまりにも短すぎる時間であった。

 

「くそっ……」

 

 己の無力さと、英雄という悪夢に苛まれて顔を覆ってしまう。

 

 ……もう、犠牲者は4人で一杯一杯だというのに。

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

 私達研究員は綾子先輩__いえ、色鐘三佐の命を受け、新種のCEとなる正二十面体型の説明を軽井沢迄引かせたエース隊に説明した。

 

 実際の戦闘映像でなく、CEの挙動を再現しようと作っていた3Dモデル映像を、ヘッドセットの左目側に着けた透明ディスプレイに流しながら伝えたのだけども、生徒達の反応は、驚愕よりも困惑の方が濃かった。

 

「本当にこんな丸っこいの居たのか?」

 

「たいして形は変わらないのに、射程は百m以上?嘘でしょ?」

 

「回転して攻撃を弾く?俺の〈エッケザックス〉hを止められるとは思わないが?」

 

 4月末に初めて姿を見せたのは前橋市内だけで、2・3年生に向かわせた軽井沢には1体も出てこなかった新種。自分の目で直接確認していないだけに、生徒達の半数が疑いの声を漏らしている。

 その深刻さに欠ける呟きを耳にして、無言で顔を顰める。

 

(「拙いわね……」)

 

 出現から6年間、全く変化のなかった敵に、いまさら新たな種類が増えたと言われても、にわかに信じ難い気持ちは分かる。

 私だって、リアルタイムで空知君の戦闘を見ていなければ、嘘だと疑っていたもの。

 

(「せめて彼の動画を見せられれば……」)

 

 動かぬ証拠を突きつければ、疑っている生徒達も少しは深刻に受け止めてくれるかもしれないが、歯がゆい事にそれは出来ない。

 

 彼は、たった1人で25体の六角柱型を蹴散らし、新種の二十面体型すら、即座に対策を立てて2体も仕留めた槍使い。

 剣の聖女として名を馳せた刹那を彷彿とさせる、英雄みたいなその活躍を、他の生徒達が知ればどうなるか。

 

 まるで王のごとく振舞う聖剣使いへの対抗馬として、担ぎ上げるかもしれず、そうなれば、単に天道寺英人の英雄性が薄れて力が弱まるだけでなく、特高を二分する事態まで発展する恐れがあるから。

 

(「よりによってこんな時にっ!」)

 

 影山准教授が説明した様に、何れ程気に入らなくても、天道寺英人の力は強大で、CEを蹴散らしピラーを破壊するために必要だと分かるから、生徒達は不満を呑み込んでいる。

 

 でも今は、聖剣使いが暴走した上で勝手に落ち込み、シェルターに籠もって戦う義務を放棄している。

 必死に隠しているこの無様な姿が知られたら、生徒達が天道寺英人を見限り、替わりの英雄を求めたとしても、当然の流れだから。

 

(「いっそ、空知君の方が英雄だったら……」)

 

 思わず嘆きながら、然しそれが無理な注文だと分かってもいる。

 

 幻想兵器の原動力とは思い込みの強さ。

 その為、会話や戦闘映像からでも冷静に物事を考えられるその在り方は、戦士として優秀な一方で、幻想兵器使いとしては決して二流を抜け出ない。

 

 事実、彼が入学前から備えている卓越した体術と槍術による戦闘能力は凄いけども、幻想兵器の蜻蛉切は鋭いだけで何の特殊能力も無く、幻子装甲も()()()()7発程度しかCEの攻撃に耐えられないだけの出力と比較的脆い方で、残念だけど幻想兵器使いとしては落ちこぼれ。

 だからこそD組に配置されたのだし、間違ってもピラーを破壊して日本を救う英雄にはなれない。

 

(「……筈、なんだけどねぇ……」)

 

 そんな空知君の異常を認知したのは例の2週間程前。

 地面に置かれたヘッドセットのカメラには、8発以上も被弾しているのに動作に支障がなかった。出血し付近の病院にまで搬送しなきゃいけない程の重傷を負ったにも関わらず、適性は失っていなかった。というかDからC+にまで上昇する前代未聞の現象には、私もそうだけど検査結果知った全員が驚愕し困惑するしかなかった。今は亡き影山先生なら解き明かせたと思うけども……

 

(「いえ、無意味な妄想も無関係な考察も置いときましょ。それよりこのままでは……」)

 

 改めて生徒達の様子を窺ってみれば、やはりというべきかエース隊内に温度差があった。

 

 3年生は、新種の登場に驚きつつも、冷静且つ深刻にその情報を吟味し、此方から伝えたデータを元に、どう対処するかを分隊の仲間達と話し合っていた。

 

(「流石ね。彼らは特高設立時から戦い続けてきた、いわば古参兵。」)

 

 約160人しか居なかった頃に、まだ新町駐屯地に居た宮田司令の協力を受けながら、手探りでCEとの戦い方を磨いてきた。その過程で、不幸にも3人も意識不明者を出してしまったけども、その重い教訓から慢心や油断はほとんど無い様子ね。

 

(「……問題は2年生達ね。」)

 

 彼らはその先輩達に導かれ、戦法を習い、指示に従って戦い、そして常に勝利を得てきた。

 一度の敗北もなく、1人の死者すら出した事がない。

 彼らにとってCEとは、勝って当たり前の、変わり映えが無い的でしかない。

 

(「今まではそれでも上手くいっていたけれど、今回は……」)

 

 同じ不安を抱いたらしく、2年の担任教師達がもっと緊張感を持てと叱りつけているが、何処迄効果が有るか。

 

 彼らの中には、特に“思い込みの力”を強くするために、良い設備や待遇で甘やかされてきた2年A組には、聖剣使いと似た驕りがあり、幻想兵器を使えない大人達への侮りがある。

 これが落ちこぼれと言われ、厳しい訓練を課せられてきた2年D組だったら、また話が違うのだけども、生憎と1年D組の替わりに特高で待機を命じられている。

 

(「どうすればいいの?私に何が出来る?」)

 

 生徒達を救う手が見つからず歯噛みしていた中、突然耳に、ふと静かな声が響いてくる。

 

「京子先生、ちょっといいですか?」

 

「空知君っ!?」

 

「お忙しいですか?」

 

「い、いえ、大丈夫よ。」

 

 思わず裏返った声を出して、宗次に訝しまれてしまい、慌てて深呼吸してから耳を傾ける。

 

「あの件ですが、話しても構いませんか?」

 

 口止めされていた、正二十面体型との戦闘。

 それを仲間に語ってもよいかと、許可を求めてくる空知君の申請に対し、様々な影響を考慮した上で頷く。

 

「いいわ、ただし1年D組の子達にだけよ」

 

 空知君と接点の少ない2年生には、証拠映像もなく彼が話した所で、大した影響は与えられない。

 でも、共に死線を潜り抜けたクラスの仲間にならば、彼の声は深く響く筈。

 

 そう考え決断し、英雄への悪影響を敢えて無視して、宗次と1年D組全員の通信を繋げる。

 

「ありがとうございます。」

 

「無事に__」

 

(「いや待ってこれ依怙贔屓よ!」)

 

 「帰って来てね」と続ける前に、慌てて口を手で塞ぎ、1年D組間の通信状態へと意識を向ける。

 

(「……刹那も、宮田司令も、英雄なんていないけれど、それでもお願いだから生きて帰って……!」)

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

「……それで、どうなのかい?エース隊の様子は。」

 

「第1期生は冷静に思案・警戒。3期Dは元々慣れの弱い状態の中、武士の説明により脅威の共有と戦意の高揚を両立。……2期生は、同志達が懸命に引締めに取り組んでおる。」

 

「成程。……改めて聞くが、此処からの支援は引き続き?」

 

「禁ずる。総理と大臣も抑えている。万が一の窮地の兆候を見受け次第、直ちに己が駆け付ける。」

 

「了解した。……にしても厳しいねぇ、英雄様は。エース隊に、自分も自衛隊も助けてくれない戦場を与えとは。」

 

「戦う理由と協力や思考の必要性を提供し、更に活躍の機会も授ける為だ。」

 

「初めての敵が35体もいて?」

 

「事前に戦闘映像kは同志のエース隊員皆へと送り、対策も促しておる。現に彼等は、友人単位分隊単位クラス単位で、注意喚起と戦法再構築に努め、徐々に意識の拡がりをみせている。頼もしい限りよ。」

 

「支援しない旨も伝えたそうだが?」

 

「細かいバラつきはあれど、一様に了承し張り切っておったぞ。「英雄に救われるばかりの同志ではない、我々の手で勝ち残り守り抜く雄姿を迦具土神に示してみせよう!」といった具合でな。」

 

「……簡単に人々をお守り下さる絶対強者に依存せず、自らの勇気と努力と知恵と絆と誇りでもって勝利せよ。それが迦具土神の命令にして理想と?」

 

「然り。予定調和の成功を当然に思い怠惰と慢心と思考停止に耽る事なく、万能の救世主使命と功績を見失い事もなく、護国護民の兵士として自分達で存在意義を見出し立ち上がり貫こう。大和の明日を背負う彼等には、斯様な気概を懐き前を向いて欲しいのだよ。」

 

「故に、もう外へ出ても大丈夫なのに暗い地下で観戦している訳か、全く。」

 

「そう云う貴官は如何かね?先程愉しげに会話していた新町駐屯地司令、風見正紀一佐。」

 

「嗚呼、実に最高だったよ。嫌な女が無知を気付かずに曝け出す不様、大いに素敵であった。真実を知るが故の優越感が、これ程甘美なものとはね。感謝するよ迦具土神。」

 

「それは結構。因みに興味本位の質問だが、特に面白かった部分は何処かね?」

 

「「味方の窮地を知り、挫折から這い上がる。君らご自慢の英雄とやらが、実に好みそうなシチュエーションではないのかね?」……クックックッ、天道寺英人が、現地のエース隊員をCEの脅威の噛ませ犬に落ちぶれさせて華々しく勝利する為の踏み台に仕立て上げたがっている、なんて的外れな妄想する顔が目に浮かぶわ。」

 

「否、間違っては居らぬぞ?己は、戦友や民草の窮地を前に絶望から立ち上がる__斯様な展開を()()のが大好きなのだよ。本来特別性のない者(エース隊の兵達)が、立ち塞がる強敵や他者に迫る危機に逃れも返りもせぬ喪失をぶつけられ、それでもまだだと奮起し抗う雄姿。其処に魅せられるのが己の、或いは人としての性であろう。」

 

「……だから今回、色鐘達(表向き)には長野ピラーに敗北したショック、同志向けにはピラー研究、その口実を用いて()()を齎したのが実情か?」

 

「ピラー研究は真でもある。こうして1人の時間があればこそ捗っておるのでな。」

 

「そうか、まぁいい。……長話し過ぎた、業務に戻るので切らせて頂いても宜しいか?」

 

「構わん。御協力感謝する。今後とも、表裏何方も励んでおくれ。大和万歳。」

 

「……嗚呼、大和万歳。」

 

 共有可能な範囲で作戦を伝える宗次や同志達の映るPCを眺めながら、秘密の回線を用いた通話を終える。

 

 エクスカリバーもタケコプターも展開済み。この機関専用の地下空間から、何時でも地上に出て翔び立てる。

 だが、新たな小型ピラーも正二十面体も、現時点ではエース隊の意欲と武功を阻害して迄出しゃばる程の脅威に非ず。

 

 然しながら、彼等が居るのは戦場故、予想だにせぬ危機や問題が発生したとて驚くに値せん。最悪の場合、2年ぶりに黒が__精神を奪われたエース隊員が出てしまう懸念も有り得る。

 

 本来防ぐ余裕が十全にあるならば、如何にエース隊(若人達)の試金石として相応しかろうと、大和の民草生命とは1人であろうが、天秤に掛ける事さえ烏滸がましい。

 故に此度は、()()()()()()()()()()と嘆きを決して生み出さぬと己も出陣すべきが道理であるが……去れど、長野ピラーの調査より4日経った今なら……フフフッ、ハハハッ。

 

「さぁ宗次よ、貴様と戦友達の勝利()を魅せてくれ。同志の皆よ、汝等なら恒星()無くとも輝けると信じておる。」

 

 コンクリート製の天井を見上げながら手を広げて哄笑し__

 

「そしてエース隊の面々よ、望んでいたであろう、()()になる機会は用意したぞ?市民の生活圏へと迫る未知の強敵、絶対強者も軍の支援も不在の戦場。勝利とは難く、重い程に得るもの多く誇らしいのだ。己は諸君の自立を、生還を、雄々しき()()()を、心より期待している。」

 

 それが、ヴァルゼライドとアドラーを観続けてきた神星として。嘗て大和の勝利を託された決戦兵器として。旧西暦にて表裏から国と民、そして人類種の今日を護り明日を拓く歯車(英雄)としての願いであるが故に。

 

 

i
聞いた所によると、大人しい青年だったという末っ子が、初めて出来た恋人に誘われ、CEを神の使いと崇拝する宗教にはまり、長野ピラーの下へ向かい結晶体の群れに心中する(魂を捧げる)よう誘われたそうだ。ところが幸運にも封鎖線で現地の警察に発見され署へと連れて行かれ、連絡を受けた宮田司令が到着した際には、警察官が何やら説得してくれたらしく恋人共々反省して自殺を諦めCE教から足を洗う事を誓っていた、との話だ。

h
ドイツの英雄叙事詩『シドレクス・サガ』に登場する武器で、巨人エッケが用いて後にベルンのディートリヒが使用することになった剣。

k
但し宗次が撃破した1体目分のみ。2体目の戦法は再現性が低過ぎて、自分で勝手に想像して挑戦するなら兎も角、同志達に真似させて失敗と意識喪失を招くのは御免被る。





 感想や指摘に質問等、何時でもお待ちしております。

 本作英人は良心的な黒幕です。何せ、前世の世界に於ける、同じ中の人の光狂いな黒幕は__
“数名除き無用になった捨駒で構成された全員若者の部隊に、佐官級しか与えられない最新装備を配布し、想定される実態より遥かに過小の難易度設定で任務を通達して向かわせ、1名除き全滅すると確信しながら一方で捨駒含めた彼等も予想裏切り覚醒・生還してくれると望み願っている”という有様ですから、迦具土神は立派な黒幕です!
(嘘です)



本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか

  • はい
  • いいえ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。