英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 天道寺家両親の名前については、本作で創る予定はありません。理由としては至極単純、人名のセンスに自信がないからです。



第3話 悍ましき異形とありふれた限界

【ドキュメンタリー:英雄の生きた被災地】の一場面

 

 

 

当時○○小学校の教師A「気づいたのはあの月あの日の昼休み時間でしたね。給食をみんな終えて遊びに行こうとしてた時に、英人君が妙なものが見えたと私を呼んだので覗いてみたら……あの忌々しいCEが視界に入ったんですよ」

 

「それで驚いてしまった途端にあの子から、「慌てないでください、先生にはクラスにみな揃って避難に動くよう指示をお願いします。己は身軽なので、一刻も早く校長室に乗り込んで襲撃の恐れを伝えに向かいます。心配は要りません、先生なら必ず子供達を救えます」と言って走っていったので、何とか呼び掛けて纏めました」

 

記者「それは凄いですね。でも何故気付けたのでしょうか。それにその当時、只の子供として普通は気に留められなかったのでは」

 

A「それが、天道寺君はあの始まりとなった“松本市の君臨”の翌々日、混乱と不安の中一応月曜だからと学校を開いたのですが、その朝の会にて、学級委員長だった彼がこう述べたんですよ」

 

ーー(演説再現ドラマ)ーー

 

A「元々彼は、賢くて大人びた面のある子だったんですが、その時はまるで、大の大人どころか、歴史や英語の勉強で観る様な偉人の演説……冗談かと思わけがちな言い方ですけど、本当にそう見紛う程に、誠実さと思いやり、静かな迫力と恐れを感じさせる雰囲気で話してくれたんですよ」

 

「それに普段から、成績優秀でクラスのみんなを余さず引っ張って、できない子にも配慮し、先生の言うことをしっかり聞きながら時に私達でも驚く疑問や反対意見を投げ掛けたりするんです。更に他のクラスや上級生や下級生、そして地域住民とも交流し何かあれば助ける。そんな絵に描いた様な完璧で将来の楽しみな生徒だったんです」

 

記者「なんとまぁ、その時から英人さんは英雄みたいな少年だったわけですね」

 

A「はい、少なくとも、私とクラスのみんなは彼に感謝しております」

 

「ただ……私自身、あとの話を知ってしまってからこうも思ってしまうんですよ」

 

「英人君に学校を……みんなを助けてもらったせいで……御両親が亡くなられてしまったのではないかと」

 

 

_______________________

 

 

 その日は曇天だった。個人的な日課として休み時間毎に東を見張れば、未だ身近な日常に存在していなかった、非現実的な結晶体をとうとう観測したのだ。

 

「先生、此方に来て窓の向こうを見てください。妙なものが空に見えました。恐らくニュースで話題のCEかと。」

 

 そこからはまず、給食が皆食べ終えて教室を離れようとするものも相当いた中で先生を呼んで確認。呆気にとられる奴を説きクラスの統制を任せつつ、己はマナー違反を破ってでも急いで校長室に駆け込み校長先生らに緊急事態を知らせた。当初は困惑、持っていた双眼鏡で東を見てもらった後は動揺していたが、それでも学校の災害対応指示と役所への連絡を実行してくれた。斯くして学校の避難態勢は整った。校長の様子から避難警報も発令されることが決まった。

 

 然しこれはあくまで襲来による被害の抑制に過ぎない。そして……母は在宅勤務で北方面の自宅に、父は其処より離れた所の職場にいる。

 

「済まない、親が心配となったので離れる。必ず生きて戻ってくる」

 

 そう告げて直ぐ部屋を出て、追随者が現れぬようひっそりと且つ急いで向かった。

 混乱の様子が見られる通学路を、CEが東から来たと叫びながら走って自宅が見えてきたところで__

 

「英人!なんでこんなところに!?」

 

「姉上こそ、高校でも抜け出したのか!?」

 

「英人に倣って景色を見てたらアレが見えて……それより無事なの?」

 

 姉上の通う高校は、歩いて行けるものの小学校より遠い距離だというのに、そこから発見し追い付かれるとはな。

 

「嗚呼、だが今はまだCEの襲来方面から離れているとはいえ、この辺りも時間の問題だ。家に入り次第母と、できれば避難物資ごと脱出する。」

 

「うん!」

 

 そして家に突入し、気付いていた様で荷物を持ち出すところの母と接触。

 

「刹那!英人!大丈夫なの!?」

 

「こちらは問題ない、とにかく逃げるぞッ」

 

 斯くして3人で荷物を所持し家を出た瞬間_

 

ギュイーン!!!

 

 

――眩い光、背中の柔らかい感触、地面への衝突。

 

「…え?」

 

 偶然か意図的か、何故か襲来方面から距離のある我が家へ向けてのCEの遠距離攻撃が、母を貫き__

 

「逃……げて…でも……行…」

 

 それを最期に倒れた。ならばッ――

 

「避難所に行くぞっ、また撃たれるか本体が来る前にッ!」

 

「でもお母」

 

()()()()()母の様に骸と化してはそれこそ母の想いを無駄にするぞ!」

 

「…っ!」

 

 止まる姉に声を掛け走り、その後に追い付かれながら撤退し、どうにか避難先の施設に辿り着いた。

 すると職場全体で此処に逃れたのか、父と再会した。

 

「刹那、英人……無事で良かった。その様子だと……」

 

「……」

 

「母上はCEに撃たれ自宅前で倒れている。荷物は姉上が持ってきてくれたが身柄は置いていかざるを得なかった」

 

「……そう…か……」

 

 父は悲痛に打ちひしがれながらも、我が子の前で見せるわけにはいかぬと堪えているようだった。

 

「母上は我らに逃げるよう最期に言った。こうして3人で生きて逢えたのだ、今はとにかく、絶望せず前を向いて耐え抜こう。」

 

「……あ、英人……」

 

「……そうだな、生きてくれてありがとう。俺の同僚たちも家族と再会できているし……ちょっとトイレに行ってくる。」

 

 そう言って離れた父。生きる意志はまだ残っているが、余程母の事実上の死と不在が堪えているらしい。

 

「……暫く一人にしてやろう、喪失を受け入れるのに我らは邪魔となる。姉上も此処に友が居れば話し掛けてやるとよい。但し絶望に浸る者には注意してあたれ、下手な言葉はより傷つけるが放っておけば最悪な事態になりかねん」

 

「……分かった。英人もね。」

 

 そして探しに行く姉。さて己の小学校は此処がいざという時の避難先だが……

 

「英人!よかった無事だったのね!先生から学校を抜け出したと聞いて心配したんだから!」

 

 耳に入る幼い高音は、天道寺家の幼馴染にしてクラスメイトの千影沢音姫であった。

 

「音姫か、そちらも逃げられた様だが、学校の皆はどうだ?」

 

「みんな大丈夫よ。先生が英人のお陰でこっちに逃げられたと言ってたわ。いなくなったのは凄く心配してたけど。」

 

「すまない、私情と独断で乱す真似をしてしまったのは己の不覚だ。罰は改めて受けよう。ところでその先生方はどうした?」

 

「みんな今も集まってるよ、英人も早く来よ!」

 

「そうか……悪いが先に父上の様子を見てくる。母上がCEやられたまま置いてきてしまったので精神に不調をきたしていることだろう。己のことは音姫が伝えてくれ。」

 

「……え、英人のママが……!?」

 

 彼女に無事の報せを任せた後、トイレに向かってみる。あの様な災害被害者遺族は、必ずしも死者の無念を背負って前に生きる気力へと変換できるわけではなく、やる気を失う、他者に害を為す、最悪自死を選ぶ__そういった後ろ向きの状態に陥りやすい。父にもそうなり得るおそれがあるのだ。何とか探し、せめて確認しておかねばならない。

 懸念を懐きながらも各トイレの捜索や父の同僚への聞き込みを行い、途中に自衛隊が回収と付近のCEの駆除に向かっているとの朗報を聞いて、後施設外に出歩けば__

 

「……ウゥっ…ひっぐ…ぁぁ……」

 

 __やはり相当堪えているようだ。だが如何に対処すべきか、それとも放置が最善手か。意志を燃やせど身体が死にゆく英雄を励ました経験はあるが、身体は健全でも親しい者を亡くし落ち込む只人を励ます経験は無いのだが。

 

「ウァ……あや、と……?」

 

 気づかれたか、言葉を選ばねばな。

 

「父上、見てしまって申し訳無い。偶々通りがかったものでな。__母上の件については済まなかった。」

 

「……気に、しないでくれ……英人も…刹那も悪く…ない、子どもたちだけでも…生きて…いてくれて……」

 

「母上は、我らに逃げるよう生きるよう仰られた。父上に対しても、生きてほしいと……まだ黄泉で逢わなくてもよいと願っている。」

 

 ――己は嘘をついた。最期の本音は「生きよ」ではなかっただろう。

 

「……そ、うか……教えてくれてありがとう。英人も辛いだろうに……」

 

「確かに母上の喪失は悲壮に感じている。心も体も救えなかったのは己が不足と過ちであるが、然し問題ない。寧ろこの時こそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。」

 

「………あ?英人?」

 

 __その時だった。またも感じた恐るべき予感から東を見れば…

 

ギヤャーーン!!!

 

 放たれる光線、初撃は父を突き飛ばし回避できたものの、母を貫いたあの大型CEの狙撃により危険を覚えた。

 

 まずい、此処は避難所だ、攻撃されては更に多くの民草が犠牲となる__待て、何かおかしい。狙撃音が聞こえたのは己が自宅を出た瞬間と今の2回のみ、インターバルがあるとしても、それ以前は見たことも聞いたこともない。しかも己の位置に対してより奴に近い所に、今混乱状態にあるか、人がいる。おまけに奴のいる方角には他のCEは不在だ。

 

 __我が家への狙撃といい、まさか。もしかすると…

 

「試してみるか、()()C()E()()()()()()()()()()()()()と。」

 

 CEに関する発見はまだ僅かだが、攻撃を受けたものが皆、身体は無事だが魂を抜かれたが如く昏睡状態にあると報道されていた。ならばあの光線によって精神を捕食若しくは排除している可能性がある。そのことを鑑みれば、前世という特異性を有する己を優先対象にしているのやもしれぬ。無論、根拠のない思いつきだが、仮にそうならば此処に留まり民草を巻き込むよりも離れて少しでも自衛隊の到着まで時間稼ぎができるだろう。

 

「父上、今から己は自転車で出ていく。運がよければCEが遠ざかるだろうが、避難を呼びかけてくれ。」

 

「…なッ!?何をいきなり言い出し」

 

「一息ついたところでまた逃げるのもそれを求めるのもさぞ辛く困難な要請だが、それでも時間が経てば助けが来る。頼んだぞッ!」

 

 そして己は走り、駐輪場の自転車を申し訳ないが無断で奪い駆けた。すると、この場合は幸運だというべきか、敷地出て離れると奴が向きを変えてきた。いったい如何に己の存在を探知したのかは不明だが、加速していく内に此方へと動く素振りを見せた。このまま力の限り走り続ければきっと援軍が、でなくとも民の犠牲を抑えられる筈__

 

「英人ォ!何やってんだァ!」

 

「__んなッ父上!?何故己を!?」

 

 発言の途中で追いつかれ、停止し乗せられたが__悪く言う意図はないが父は蛮勇ではない上に傷心状態にあったろうに。

 

「兎に角避難所から離れたい、さすればあのCEは己に注意を引かれ、自衛隊が駆けつけて父上らは助かる。だからせめて己独りでどうにか__」

 

「バイクの持ち主に、避難の伝言を頼んだ。……お父さん、きっと英人よりも弱いんだ、CEが来ると聞いて、心の備えをしていた筈が恐怖で外れそうになったんだ。……お母さんのことを聞いて、辛かった。……けど、立ち直れそうになったのは、お前や妻に刹那が生きているからだ。……更にお前が、それも自分たちを守るために死ぬなんてのは…耐えられないんだよ……。」

 

「__分かった。勝手に無謀な真似をして済まなかった。だがいつまた狙撃されるかもしれぬ、一先ず現在地は今しがた避難所の責任者へと伝えた。実のところ、母上が家を出た瞬間に、己を庇って撃たれたので、障害物が探知や光線を何処まで妨げるか不明確だ。然しこの方向なら、自衛隊の駐留場所に繋がるから生存率はゼロではない。急いでくれ!」

 

「ああ、ありがとな。二人で必ず、刹那と生きて逢って、お母さんと我が家のもとへ帰ろうな……ぁァ?」

 

 サイドミラーを見て様子の変わった父。__もしや!

 

グゴオォーーーンン!!!

 

 浮かび上がった奴は、上空から己を見下ろし、光を集束させて…

 

「英人、お前なら俺より立派になれる。刹那姉さんをよろしくな……ぁぁ、逢えるんだなァ……」

 

 二度目の失敗、喪失__父がバイクごと光に飲まれた。

 

「くっ、おおォ、不甲斐ないぞ己はァ、大和に繁栄を齎すのが使命であろうぞ散々ではないかァ!」

 

 愛してくれた者(誰か)が、己のせいで未来を奪われた。――もっと早く駆けつけなかったせいで、誰も巻き込まず単身囮に徹しなかったせいで。無力と無様を痛感した。

 

「__否、否、否だ、己はまだ終わっていない!」

 

 使命を果たせず絶望の淵に立たされた経験ならある。逆襲劇の斬首は敵の理解不足と託せる者の不存在、解任の無線は任務失敗の表れと想定不足による落差。何方も己の甘さで進撃を閉ざすものであった。

 

 だが此度は違う、母上も父上も目の前で己の代わりに喪った。そうだ、己は両親(誰か)のお陰で、無辜の民(誰か)の犠牲によって、明日を生きたかった者(誰か)に託されて道を進めている。ならばこそ__

 

「生者の義務とは貫くこと。涙を笑顔に変えんがため、人は大志を抱くのだ。」

 

「背負うべき喪失は重いが、しかしそれを誇りへ変えよう。己は必ず、燃えし野望が世界を拓くと信じている。」

 

「人々の幸福を未来を輝きを___守り抜かんと願う限り、己は無敵だ。来るがいい、明日の光は奪わせんッ!!」

 

 

 我が宿敵の、災厄の眷星と対峙し宣告した言葉が、不思議と口から発せられた時には、空に硝煙が舞い、大和の民を襲ったCEでなく、迷彩柄の飛行機と自動車と兵士に囲まれていた。

 




 疑問点や改善点に誤字脱字等があれば、引き続き遠慮なく伝えてください。
 次回は、唯一となってしまった家族との再会、そして原作(の過去話)へと繋げる予定です。
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