英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
凡そ4週間ぶりの最新話、大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
ノン(以下略)回ですが、今回も感想会はなく、代わりに作中キャラ著のとあるレポートを記載しております。
「本当にこんな丸っこいの居たのか?」
「たいして形は変わらないのに、射程は百m以上?嘘でしょ?」
「回転して攻撃を弾く?俺のエッケザックスを止められるとは思わないが?」
エース隊8クラス全員へと伝えられた新種のCE、正二十面体。その情報に対し、困惑や慢心の声の比率が最も大きかったのは第2期生であった。
未だシェルター内で解析と研究に専念している英雄から、護国護民の役目を託された上級生としては情けなく思える弛緩ぶりであるが、然しやむを得ない現状でもある。
幻想兵器を主体とする対CE戦のノウハウが殆どない中で、戦死者も出しながら3年間戦い抜いた1期生。逆に対CE戦の経験が1度しかなく、それ故先入観も余分な慣れも持たぬ3期生。
対して彼等第2期生は、経験を積んだ1期生に導かれ、実用的な位に構築された戦法を習い、上級生や指揮所からの指示に従って戦い、そして常に勝利を得てきた。
敗北や死別の経験なく、ルーティンワーク的に戦って勝っての繰り返しを1年に渡り続けてきた彼等にとって、CEとは外観も生態も倒し方もまるで変わり映えが無い的でしかなかった。
それでもせめて実際の映像__前橋市北西部に於ける宗次との戦闘を視聴できれば良かったものの、指揮所ではこの土壇場で突然新種の情報を公開した場合の混乱とを秤に掛けた上で、再現された3Dモデル映像という妥協案で対処した。……その結果がこの半端な認識だった。
「みんなもっとシャキッとしなさい!未知のCEが現れたのよ!」
「油断大敵なんて言葉位小学校で習っただろ!腑抜け過ぎだぞ!」
「まだ生態の分析も戦法の構築もできていないんだ!今迄とはわけが違う!」
「お前達が勝ってこれたのは六角柱と戦ってきた先輩ありきです。今回は頼るのも難しいですよ!」
第2期生を担任する、
2期生の中には、エース隊設立以前よりCE相手の防戦に務めてきた__悪意と偏見に満ちた表現を取るならば、幻想兵器に選ばれし子供達の様な華々しい成果を挙げられなかった、そんな
「みんな、先生の言う通りよ!もっとやる気出しましょ!」
「そうだ!勝って兜の緒を締めよ、を改めて肝に銘じるべきだ!」
「新種とやらが胡散臭くて大したことない存在なら、態々今此処で俺達に口煩く叱る必要ないだろ!」
否、未知の脅威を脅威として理解し注意喚起に励む少年少女は、2期生にもちゃんと居るのだ。
「でも今迄あたし達順調に連戦連勝だったし問題ないでしょ。」
「それは6年前からずっと六角柱しかやってこなかったからで、丸っこいCEも同じ様に倒せる保証はない筈だ!」
「大袈裟過ぎんぞたかが見た目の違う奴が出ただけで、どうせ普段と変わんねーよ!」
「だが先月末に、前橋市で小型のピラーが新たに生えてきたのよ!コレも危険や異変の予兆であってもおかしくない!」
軽井沢の地で2期生約110名に、警戒を呼び掛ける者と杞憂に感じる者との言い争いが生じて、その騒がしさは音のみならず、不安や危機感さえも伝搬してゆき__
「てゆうか無理じゃねーの?先輩も自衛隊も初めて戦う相手を、僕等が気をつけたところで勝てるとは、ちょっと……」
「__だからこそ、いいじゃないか!!」
一際大きな声が轟き、全2期生のみならず教師も発生源に注目した。
視線を集めながら腕を組むは、
「俺達は今迄先輩に導かれながら戦ってきた。だが例の新種は、先輩達にとっても初めての敵だ。この意味が分かるか?俺達は先輩に従い倣うことなく活躍できる、最初の機会という訳だ!」
「「「__っ!!!???」」」
「しかも、以前CEをあっさり消し去った1年A組はこの地に居ない!つまり、彼奴等に俺達の出番を掻っ攫われやしないってことだ!」
「………!!!???」
「だけどな、この機を活かす為には、残り数十分で覚悟を決めて、対策をできる限り立てて、想定外の危険に備えた心境で挑まなきゃならない!」
「え、それは……」
誰かが漏らした、話では聞いていても長らく実戦にて感じていなかった死の恐れ。
それを彼は耳に入れて尚、更に喉と腹に力を込めて言い放った。
「だが!そんな困難を乗り越えてこそ、俺達はエース隊として胸を張り笑ってられるさ!だから逆に聞きたい!今迄もこれからも、先輩達に支えられながら“英雄”に救けられながら唯予定調和な勝利を重ねて、それで伝説の力を振るうエース隊だと言えるのか!?そんな姿を、俺達より訓練の不足した状態で初陣を勝ち抜いた後輩達に、銃後の守るべき家族や友達といった人々に誇れると思うか!?」
楽観視を表した者も警戒を呼び掛けた者も不安を懐いた者も、誰もが沈黙すること数十秒。
「……やろう!私達、エース隊2年生の力を発揮する時が来たのよ!」
「そうだ!“英雄”が居なくても、努力と工夫と勇気でもって勝利するんだ!」
「教えてくれた先輩達に報いる為に!今年来てくれた後輩達を死なせず真に模範たり得るエース隊員でいる為に!」
絶え間なく満遍なく湧き上がる、本気の闘志と宣言は、彼等が“与えられた暴力で気楽に英雄を気取る子供”ではなく、“腐らず怯まず護国護民の使命を貫き挑戦する一人前の戦士”である証明だと言えよう。
「み、みんな……!」
「其処まで真剣な心持ちになってくれるなんて……!」
「もしかして、ひょっとしたら……!」
「ええ、我々も励まされた気になってきました……!」
4人の教師も、2期生の担任となってからの14ヶ月間で最大の盛り上がりを目の当たりにして、共感と希望を生徒達に向けるようになった。
そんな場の空気を察した恩田は、深呼吸した上で頭を下げて語り掛ける。
「みんな、ありがとう!それじゃあ、分析と作戦だ!!」
「「「おぉーーー!!!」」」
ーーーー(中略)ーーーー
エース隊は、嘗てゴルフ場だったと思われる見通しの良い平野にて、CEの群れを待ち受けていた。
そして、出撃後に目撃してから約1時間ぶりに、壁の如く密集した約600体の六角柱と、その背後に隠れた約35体の二十面体が迫りながら姿を現した。
これより、5月13日の戦闘の本番が、後に“岩戸前戦劇”と呼ばれる迎撃戦の第1幕が開かれるのだ。
「射撃隊、構え!」
先山の指示を受けて、学年及びクラス混合の射撃隊約50名が、各々の射撃武器を敵に向けた。
そして、普段同様150mの距離まで引き付けてから、一斉に撃ち放った。
伝説の矢や石球や投げ槍が、今迄通り次々と前面の六角柱を倒していくも、背後に控える二十面体には全く届かぬまま、幻子干渉能力を消耗していった。
「射撃隊、下がれ!」
弾切れとなった者の増加傾向と止め時を、視覚や聴覚に経験則でもって判断した先山が、第二段階へ移行すべく指示して退かせた。
この時点で、六角柱は内1/4が削られ残り約450体となった。これだけならば、盾隊を含む約240名のエース隊員による突撃で容易に蹂躙できるだろう。
だが問題は、1体も傷付くことさえなく背後で不気味に静観を決め込んでいる、正二十面体型であった。
この新種を如何に攻略するかが、自衛隊も英人も救けられないこの戦場の決め手にして最大の難関であった。
「今だ、全員突撃っ!」
そして遂に、先山が新種含めた残存CEを撃砕すべく号令を放った。
__此処で、指揮所にて最も不安に思われていた、右翼配置の第2期生に焦点を当ててみよう。
「みんな、征くぞっ!!」
「「「応っ!!!」」」
和風な赤色の盾を前面に構える恩田が先頭となって、2年生約110名が突撃を開始した。
その流れは常と変わらず、去れど違いがあるとすれば、近接攻撃武器の種類別の配置だった。
これ迄の構成は、個人的関係性、分隊、クラスという纏りに依るものであり、得物の形状や用途で区分されていない混ぜこぜの状態だった。然し、今回は前列に剣・槍等の、後列に槌・斧等の幻想兵器使いとで偏っているのだ。
斯様な変化を内包しつつも、CEの群れへと何時も通り突き進む2期生は、六角柱からの一斉射撃を最前列の盾隊が防ぎ、次の攻撃に移る5秒間の隙を白兵隊が倒してゆく。
だが本番は、イレギュラーの脅威は此処からだった。
「うわっ!どこから攻撃がっ!?」
「何でこのタイミングで!」
「__っ!?手強いな此奴等は……」
最初の攻撃を終え、硬直した白兵隊に向けられたのか、六角柱達の間にできた僅かな隙間を縫って、後方の二十面体から狙い澄ました光線が放たれてきた。
未知の敵の攻撃パターンと、既存の六角柱との連携を受けて、恩田達盾隊が咄嗟に白兵隊の前へ飛び出し守ろうとするも、防ぎ漏らした光線を喰らった者から、驚愕と悲鳴、そして装甲が半分以下に削られてしまった証のアラームが戦場へと響き渡ってゆく。
「くっ、ここまで厄介だなんて!」
先山がそう吐き捨てるも、即座に指揮官として冷静を努め直し、危険状態に達した隊員に撤退を呼び掛けつつ、CEの敵意と攻撃を自らに集中させるべく、早くもロンドミニアゴの能力を開放して群れへと突っ込んでいった。
1期生と3期生D組が懸命に奮戦する中、動揺が最も目立ってしまっている2期生であった、が__
「先山先輩……、まだだ!先輩達に任せるだけの
「「「当然だぁっ!!!」」」
先頭にて光線を受け止めている恩田、その勇ましい掛け声に応じて士気を盛り上げんとする2期生達が、恐れず前進しながら反撃に移行する。
先ず狙撃手の護衛も務めているらしき六角柱を、前方配置の白兵隊が刀剣で槍でと蹴散らしてゆく中で、盾隊と後方の白兵隊が防壁の先へ到達した。
「かかれぇーー!!」
「「「うおぉぉぉーーー!!!」」」
斧に槌に棍棒にと武器を向けてくる白兵隊を前に、二十面体共は危険を察知したのか、光の充填を取り止めた。そして移動せずに体を動かそうと__白兵能力に於いて最高峰となる空壱流槍術継承者の刺突さえ弾いた回転防御でもって返り討ちにする隙をつくらんとして、回り始めて速度を上げてゆく__が。
「いけえぇーー!」
「どうだっ!」
「うぉらぁー!」
叩き込まれた幻想兵器の一撃は、反時計回りに高速回転している二十面体を、遮られずに次々と砕きながら吹っ飛ばしていった。
鈍器により面での衝撃を直接叩き込む。その作戦が、少年達による僅か数十分程度で練られた机上の空論に留まらなかった証と言わんばかりに、飛び散る破片を陽光に照らし出して煌めかせていた。
「いいわよ!護衛は全うするから、存分にやっちゃいなさい!」
「勿論だ!」
他の二十面体や後方への侵入に気付いた一部の六角柱から、攻撃直後の隙を狙って撃たれた光線を、盾隊が防ぎ。
「お前等の相手はこっちだ!」
「まだ仕留めてないでしょあんたら!」
反転した六角柱や、二十面体の内損傷程度で済んだ個体を、前列から露払い役に徹して先を譲っていた方の白兵隊の一部が撃砕していた。
A・B・Cという幻想兵器のレベルなど関係ない、クラスと待遇格差を越えた2期生全体による集団戦闘は、徐々にCE側の連携した抵抗を押し崩していた。
「このまま潰し切ってやるわ!」
「油断するな!依然新種は手強くしぶといぞ!」
情報通達直後の印象を塗り潰す様な強敵だ、とは皆既に実感しているも、それ故に作戦遂行が好調な現状、という気の緩みに陥りかねない空気を察した恩田が、引き締めを図って叫んだ、その時。
「危ないっ!」
「__っ!?」
突然背後から突き飛ばされ、倒れた彼の真上を、通常以上に濃く太い光線が走り抜けた。
「悪い、ありがとう、……えっと、名前は?」
「A組第13分隊、草壁洋太だ。気にすんな。」
助けてくれた草壁へと礼を告げて、共に立ち上がると、其処へ盾を構える少女と盾を持つ少女がやって来た。
「洋太!ま〜た飛び出して!」
「昴さん!大丈夫ですか!?」
13分隊の雨宮水樹と、20分隊の
「俺は草壁君のお陰で平気だが、それより目の前の敵だ。」
「待って下さい、六角柱は兎も角、新種の相手はできませんよ。」
「確かに、盾2人と剣と槍、じゃあね。。」
「けど、退かせてくれるとも鈍器持ち来てくれるとも思えねぇぞ。」
前を見れば、2体がジワジワ迫りながら光を溜めていた。周りを見れば、同期の多くが混戦状態にあり、CE側の布陣を崩せてはいるものの、鈍器系の白兵部隊は他の二十面体に、それ以外の白兵部隊と盾隊は六角柱の対処や鈍器系の支援に掛かりっきりであった。
「……いや、この4人で倒す。作戦は元々内心で練っていたのを今明かすから、聞いてくれ。」
「「えっ!!??」」
「……昴さん、もしかしてそれって……」
「アレのことさ、蕾。あの2体は此処で片付ける。協力してくれるか?」
恩田から問われて3秒、最初に返答したのは。
「……やろう!熱い演説かまして奮い立たせてくれたお前のことだ、きっとすんごい案だろ!」
「洋太……、分かったわ、私も手伝う!共に愛し、共に戦おうって誓い合ったんだもの!」
「こんな時にも惚気ないで下さいよ……、でもまぁ、仕方ありません。昴さんと他クラスだけに任せる位なら加わります!……でもちゃんと現実的に改良して下さいね。」
「当然さ、それよりみんなありがとう!んで、作戦ってのは~~」
警戒を緩めることなく、前方に盾を向けつつ慎重に距離を図りながら伝達する恩田に対し、草壁と雨宮は驚き、鹿島は呆れ、然し直ぐに3人とも頷き武器を構えた。そして__
「いくぞっ!」
「応っ!」
「ええっ!」
「はいっ!」
雨宮、恩田、鹿島、草壁の順列を組んだ状態で突撃した。
それに合わせてCEが2体とも、僅かに下がりながら同時に光線を放ち、盾使い2人が1発ずつ防ぎ__
「「頼むっ!!」」
「「任せて(下さい)っ!!」」
雨宮と鹿島が列から左側へと別れ、そのまま何方も突き進んでいった。
CEも位置に応じて二手に別れ、六角柱が女子の方を討つべく光線を放つも。
「くうっ、今よ蕾!」
「やぁーーっ!」
雨宮の盾が受け止めている隙に、彼女の背後から鹿島が槍を突き刺し、六角柱のコアは見事穿たれた。
一方で難敵、二十面体を相手取る男子2名は。
「うぐっ!」
「大丈夫か!?」
六角柱を上回る威力、雨宮の盾を下回る幻想兵器の性能。思わず足を止めてしまい、草壁に心配された__が。
「__ま、だ、だぁっ!!」
魂の叫びと共に歩みが再開され、赤色の盾の罅割れが決意に応じて減速し、歯を食いしばりながら後ろへ命じる。
「草壁君!俺に構わず手筈通りやれぇ!」
「__!お、おう!」
信頼の籠もった指示に従い、右側へ身体を向けた背後の戦友に合わせて、恩田は__
「おりゃぁぁーー!!」
なんと、光線を逸らすかの如く、盾を左側へ投げ捨て突進した!
そして二十面体と2m地点にて彼は右腕を上げれば__瓜二つの形状である黒色の盾が握られていた。
恩田昴の幻想兵器は、『古事記』に記されていた、時の天皇による神々への捧げ物の内の1対、〈赤色の盾と黒塗の盾〉。
防具としての逸話や特殊能力はさして存在せず、単体の耐久性も盾系の幻想兵器としては低級である。が、原典にてセットで伝承された効果により、「
迫りくる恩田に気付き、回転し始める二十面体だが、其処に彼は__
「っらあっせいっ!!」
右腕を振り被って盾で殴りつけた。回転中の二十面体は、面での衝撃を喰らった所為で、破片を撒き散らしながら吹っ飛ばされて__
「隙やりぃっ!」
注意が恩田に向いたまま、回転が止まり、結晶体が薄く脆く削られた所へと、草壁のエッケザックスをコアに刻み込まれた。
赤い球体を斬られて崩れゆく二十面体を、恩田と草壁が眺め、既に六角柱を倒して周囲からの襲撃に備え警戒していた鹿島と雨宮が見守り……やがて完全に消滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ、………勝てた。」
「あぁ、新種、倒せた、んだよな?」
「……やった、やったよ洋太!蕾!あと恩田さん!」
「まさか本当に、上手くいくなんて……」
4人とも呼吸を整えながら、緊張と興奮と感慨に浸ること数秒経過し。
「おぉーい!洋太ー!水樹ー!」
「「……!!??み、みんなぁーー!!」」
「ん?何だ一体?」
「……水樹さんの友人で、同じ分隊の人達、よね?」
「そうよ、13分隊の……あ。」
雨宮が、急に何かを思い出したかの様な表情になった直後、駆け付けてきた2期生数人が隣の草壁へと詰め寄り__
「今迄何やってたんだよ!?」
「ま〜たいつもみたく突っ走ってさ〜!」
「心配したんだぞこっちは!」
「ご、ごめんみんな、突然飛び出して……」
口々に独断専行について叱られる草壁、その下へ周囲に気を払いながら部外者2名が近付いた。
「君達が草壁さんと雨宮さんの仲間か、2人には色々救けてくれたんだ。」
「挨拶や反省は手短にして下さいよ、付近に敵がいないからって此処はまだ戦場ですから。」
「……あんたが演説の人か、うちのバカップルが色々世話になったな。」
「バカップルって何よ?……こっちこそ、恩田さんと蕾には感謝してるわ。」
強張ったままの9人の顔が綻びること少々、恩田が射撃隊以外の13分隊全員へと向き合った。
「草壁君、雨宮さん、ありがとう。13分隊の皆、まだ戦いは続いてるけど、お互い勝ち残っていこう。」
「あぁ、そうだな。それと、俺からも礼を言わせてくれ。作戦と勇気を示してくれた姿は、とてもカッコ良かったぜ。」
「では私達も自分の分隊に戻ります。水樹さん、頑張りましょう!」
「そっちも頑張ってね、色々と!」
斯くして、C組とA組の共同戦闘は無事に終わり、互いの分隊互いの持ち場へと別れていった。
「流石に無茶したせいか、もう盾が薄くなってんな。後退して大人しく分隊の護衛に専念するしかないや。」
「「演説した手前全体纏めるべく最前に立つ」なんて役目はもう十分ですよ、昴さん。……色々と、か……」
一方は、残念がりつつ気持ちを切り替えてゆく男と、安心しつつつ秘めた想いを揺さぶられた女が、奥から戦況の優勢な20分隊へと退いてゆき。
「んで、私達はどうする?」
「このまま戦うつもりだ、体力も干渉能力も余裕あるからな。」
「よっしゃあ!もっと倒してやるぜ!……俺も、恩田みたく勇敢に勝利を、水樹の為にも……」
「……洋太?」
一方は、分隊全体で激戦区へと身を投じる方針を定めながら、1人の危うい憧憬を抱えて__
ーーーー(中略)ーーーー
直後、宗次へ残った二十面体から3本の光線が飛んで来た。
今度は察知こそすれど回避不能な攻撃が、硬直した身体に全て突き刺さらんとし__
(「好都合っ、だっ!」)
初陣終盤での対二十面体2戦目にて考案・実現し、以後再現を試みるも為せなかった秘技。
原因を絶体絶命の窮地による、防衛本能の活性化、思考力と決意の増大に求めた宗次が待望した瞬間が、今此処にあるが故に、幻子装甲は応えてくれた。
❛|幻装変化・滑衝甲
装甲を剥ぎ取る筈だった3本の光が、全て微細な衝撃だけ与えて余さず逸れてゆき、そして発射後の隙を逃す訳もなく__
「はぁーーっ__!?」
反撃の突きを、と蜻蛉切を放てば、何故か蜻蛉も切り裂く鋭利な穂先がまだ回転していない結晶体に、刺さりもせずに弾かれた。
先程より薄まっている蜻蛉切を握り直し、次撃に備え直ぐ様後退した宗次は、槍を構え直して3体と向き合いながら対応を練り直してゆく。
刺さることなく薄まる幻想兵器、それが果たして❛滑衝甲❜の副作用なのか分からぬ宗次は、取り敢えず再使用を内心禁じた上で、光を充填させながら迫り来る3体を、地道に躱しつつ機を窺うべきか、被弾覚悟で突撃すべきかと
「今だーっ!」
「せいやっ!」
「喰らえぇっ!」
いた所、3体の側面や背後から、他分隊や1期生の鈍器系白兵隊が殴りつけてきた。
「………あれは。」
宗次は気付いていなかったが、既に大局はエース隊の勝利で決していた。
戦場にて僅か3体にまで残ってしまっていた二十面体は、不意打ちに対し回転防御を行うも、重い棍棒や斧、ハンマーで打たれ止められて、槍や小剣使いにコアを砕かれてしまった。
それでも死物狂いの抵抗と学級学年を越えた初めて連携故に、止めが遅れて再び回転されたり、反撃の光線を受けて退く者も出はしたが、脱出も道連れもできずに1分と掛からず全て打ち砕かれていった。
「おっしゃ、勝ったでぇーっ!」
「「「うおぉぉぉっしゃぁぁぁーーー!!!」」」
真っ先に勝利の雄叫びを上げた遠藤に釣られ、荒い息を吐いていた他の生徒達も、境目なく揃って武器を掲げ声を張り上げた。
(「……想像だが、あの時偶然にも俺が囮の形で3体の注意を引き付けていて、その隙に皆が包囲して倒してくれた、という流れだろうか。」)
宗次は、勝因を推察した。
此度は強力な単騎に依らず、集団戦故の、多種多様な武器を揃えるエース隊だからこその、みんなで掴んだ勝利だったのだろうと。
「……勝てたか。」
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったよ。」
ともあれ、感慨深く呟いた所に、ロンドミニアゴを手にした先山が歩み寄って来た。
「さっきの動き、君はあれを知っていたんだね?」
「すみません。」
「いや、責めている訳じゃないんだ。先生達にでも口止めされていたんだろう?」
宗次が頭を下げれば、先山は慌ててそうフォローした。
「新種のCEが現れたなんて、世界的な大事件だからね、伏せておくのも当然さ。」
「よく分かりますね。」
「これでも、成績は3年のトップなんだ。」
白い歯を見せて笑顔を浮かべる先山を前に宗次は、何と返せば良いか分からず苦笑を見せた。
そして、皆で帰ろうと振り返り__
「やだ……洋太、目を覚ましてっ!」
その悲痛な叫びは、布陣右翼の前方からだった。
響く嘆きは、勝利に湧いていたエース隊の空気を引き裂いてゆく。
雨宮が幾ら涙を浮かべて揺さぶっても、草壁が格好つけて励ましてくれることはなかった。
焦点を失った瞳、瞬きも呼吸も忘れた様に微動だにせぬ身体。
魂を奪われて人形と化した姿は、小型ピラーの出現した前橋市内でも多く生じたものであった。
「やだよ……洋太、洋太ぁぁぁ―――っ!!」
特高にて出逢い結ばれた恋人から、何度名前を呼ばれても、エッケザックスの使い手は目を覚まさなかった。
「……っ!?水樹さん……草壁、さん……!」
「くっ、あれでお別れなんてっ……!勝ち残っていこうと言ったのに……!」
共に六角柱と二十面体を討ち取った、恩田も鹿島も戦友の末路を知ってしまった。
特高設立より2年1ヶ月弱、長野県軽井沢での戦闘にて、滋賀県出身の2期生A組第13分隊所属、草壁洋太、昏睡状態となり帰投。
__天道寺英人が入学してから最初の、そして英雄不在の戦場に於いて4人目となる意識不明者であった。
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【2031/5/12付 迦具土神より5/9の長野ピラー(以下「NP」と略す)単独調査結果報告】一部抜粋
❲機密レベル❳
本レポートについて、報告日時に於いては機密レベル伍に指定する。よって閲覧は、実務上本件に関わる役職・迦具土神との連絡を担当する同志に限定される。
❲判明事項❳
●NPにて、ヒト科含めた蛋白質生命体が保有していたと推察される“魂”を確認。
●解析によると魂の状態は、多数が快適性を感じており現状に不満が見られない。一方で少数派ではあるが、Pに対する反発や憎悪、外部への心配、剥き出しの共同生活環境への不満を募らせる魂も見受けられた。
●CEによる意識不明者の状態に関するデータと照合してみた所、全て一致しており、また身体と魂は一時的に分断されているのみで、Pに干渉して再接続させることは可能と思われる。
●P自体については、幻想兵器同様に幻子を通したヒト科の認識力による影響を受け易い性質がある。
●Pは取り込んだ魂の内包している、意識や記憶を完全に読み取ることができる模様で、其れ等と自身の生存本能に基づき成長している。
●また、外部の何者かがNPに度々接触しては情報を伝達している記録も発見。全て同一個体に依るもの且つPと同類存在であるらしき事、更に接触日時と影山明彦が人の目から離れた日時が重なっている事から、恐らく影山は、NPの下に複数回訪ねては脅迫対象の情報を抜き取っていたと思われる。
❲結論❳
邂逅より6年間、Pとは正体不明な捕食存在と認識されていたが、実際には地上からの認識力によるストレスを受けて自己防衛的に姿を表し調査・反撃していた結晶生命体であった。それを踏まえた上で、Pという生物種は人類種にとり単なる脅威的な害獣であるのみならず、幻想兵器としての機械仕掛けの英雄と、迦具土神機関の科学力をもってすれば、巨大且つ万能の再現装置、即ち亜種ではあるが“幻想兵器”として活用し得る、新たな地下資源となるだろう。
更に、その過程としてPにハッキングを行えば、内部に収容された魂魄を外界に解き放ち、意識不明者の精神を取り戻し目覚めさせることが可能となる。見立てとしてはあくまでも、生命活動を維持している身体の個体のみが復活し、既に器を喪失した者の精神の行く末は定かでない。とはいえこれが実現すれば、各地の病院にて昏睡中の日本国民を救うのみならず、CE被害に喘ぐ世界中の国と民の希望として、我が国の国際的地位及び評価の確立に貢献することは確実であろう。
❲今後の方針❳
迦具土神としては、既存のCEの討伐・採取に加えて、[P改造操作プログラム(仮称)]の開発に取り組む所存である。また迦具土神含め機関としては、以後もしもNPが小型Pを分離形成する事態が生じれば、Pのコアを回収し検査する決定を此処に下す。尚、Pのコアに異常が発生した場合や、影山や他国等の反日分子が回収を察知した場合に備えて、保管及び研究施設を機関の秘密研究所に限定する。
感想や指摘に質問等、何時でもお待ちしております。
因みに今回の描写自体に、嘘偽りはありません。2期生は作中野現実でも、同様の発言や活躍等を経ております。
但し、恩田を初めとして此処で警戒や克己を叫んだ2期生は、全員同志です。それ故彼等は、迦具土神から正二十面体と宗次の戦闘映像を事前に既に視聴しており、また“英雄”や自衛隊の助けもないことを伝えられた上で挑み、そしてそれ等を同志達以外の一切に内緒にしております。
本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか
-
はい
-
いいえ