英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今話で、遂に第51話を迎えました!
 皆様の御愛読と応援のお陰です。今後とも執筆活動になるべく励んでゆきます。



第25話 惑いの星空と足掻きの戦術

 

  取り寄せた書物を読み漁り、素人1人がたかが数時間で考案した浅知恵且つパッチワークな代物だが、兎にも角にも完成した所で何時もの校舎裏に普段より遅く来て、木の槍を持ち練るような突きを繰り返し、終えて虚実を改めて練習し始め__ふと槍を下げて振り返る。

 

「こんばんは。」

 

 毎度の如く音もなく背後に迫っていた音姫に向けて、先んじて挨拶を告げれば、心底嫌そうに顔を歪めてくる。

 

「うわっ、可愛くないのね。」

 

「可愛いと思われても困るが。」

 

「そう?引きこもりの構ってちゃんより、可愛げのある子の方が私は好きよ?」

 

英人になんて物言いだお前?

 

「……それで、何の用だ。」

 

 夕方の憂さ晴らしに、また井戸の替わりに愚痴を漏らしに来たのか。

 そう訝しんでいたのだが、此奴はハズレだとでも言うように、口の端を吊り上げて笑いポケットに手を突っ込む。

 

「はい、これあげる。」

 

 其処から取り出した銀色の物が向かって放り投げられたので、受け取り掌を開いて見てみると、それは「屋上」と書かれた札のついた長い鍵だった。

 

「棒手裏剣かと思ったが。」

 

「欲しいならプレゼントするけど?」

 

(「まさか持っているのか?」)

 

 と内心の驚きが顔に出たのか、奴はまた意地悪に笑う。

 

「それで、これは何のつもりだ。」

 

「だからプレゼント、君がどう動くかなって悪戯心と、功労者へのちょっとしたお節介を込めて。」

 

「…………」

 

「別に使わなくてもいいのよ、私は困らないし。」

 

 挑発するように言ってきた奴は、背を向け話を続けてくる。

 

「けど、また誰かを泣かせたくないなら、どうにかした方がいいと思うけど?」

 

「何っ?」

 

「でも、どこかの猪娘には泣かれちゃう事になるかな?」

 

 その方が私的には面白いと言わんばかりに、また性悪に笑って去ろうとする音姫の背中へと、僅かに迷ってから声を掛ける。

 

「お前は、大丈夫なのか?」

 

「……何が?」

 

「無理をしていないか?」

 

「…………」

 

 無言で振り返った音姫の顔から、笑みは消え去っていた。

 だが、そんな自分の表情を悟ったのか、直ぐに歯を剥き出しにして、チャシャ猫のように不気味に笑った。

 

「そういう優しい台詞は、あの猪娘に言ってあげたら?」

 

 音姫はそう言うが早いか、闇に溶け込むように消えてしまう。

 

「やはり、忍者だな。」

 

 変な所で感心しつつ、掌の鍵を見ると、明りの落ちた校舎に向かう。

 

 CEの襲撃がある事や、地下施設で教師達が幻想兵器の研究などを行っている事から、夜中でも特高の校舎は鍵が掛けられていなかった。

 誘導灯の薄い光だけが照らす不気味な校舎内で、迷わず階段を上っていく。最上階の4階から更に階段を上ると、普段は鍵を掛けて閉鎖されている、屋上に続く扉の前に辿り着いた。

 貰った鍵を差そうとドアノブを掴んで、直ぐ違和感に気付く。

 

「開いている?」

 

 どうやら、既に誰かが来ていたらしい。

 

 特高の中に不審者が入り込むような事はないと思うが、鍵の渡し主が音姫なだけに、最大限に警戒し、音を立てないようゆっくりと扉を開く。既に5月を迎えたとはいえ、夜ともなれば肌寒さを感じる風が吹く屋上に、足音を殺して忍び込む。

 

 そして、直ぐに先客の姿を発見した。

 屋上の中心で寝転がり、夜空の星を眺めていたのは、そんな姿も絵になる麗華先輩だった。

 

「こんばんは。」

 

「やあ、こんばんは。今日は星が綺麗だね。」

 

 歩み寄り話し掛けると、先輩は少しだけ驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔を浮かべて、自分の隣を手で叩く。

 取り敢えず誘われるまま彼女の横に寝転がり、眩い夜空を見上げる。

 

「都会の星は、もっと少ないのかと思ってました。」

 

「ふふっ、君は冗談も上手なんだね。」

 

 素直な感想だったのだが、何故か先輩が吹き出した。

 そんな彼女へ、施錠されていた筈の夜の屋上に居る理由を静かに問う。

 

「先輩は、どうしてここに?」

 

「ボクは一応、生徒会の役員だからね、屋上の鍵くらいなら貸して貰えるんだ。君こそ、どうしてここに来たんだい?」

 

「魔女に鍵を貰ったので。」

 

「ふふっ、君は本当にジョークが上手いな。」

 

(「……まぁ、実際の経緯知られてはきっと面倒な事になるだろうしいっか。」)

 

 限りなく正解に近い答えを言ったつもりなのだが、流石に分かり辛かったようで、先輩が声を出して笑った。

 

 そこでふと会話が途切れ、俺と先輩は暫くの間、無言で星々を見上げ続ける。

 2人きりで星空を眺める中、その静寂を終わらせるのは先輩からだった。

 

「昔から、落ち込むことがあると、よく星を眺めていたんだ。……吸い込まれそうな錯覚を覚える、無限に広がる宇宙と、その中で煌く無数の星々を見ていると、自分の悩み事がちっぽけに思えてくるのさ。」

 

 横に顔を向ければ、先輩はそう言って、届かぬ星に手を伸ばしている。

 

「先輩も落ち込む事があるんですね。」

 

「酷いな、ボクだって可憐な乙女だよ?」

 

(「「オトメ」……彼奴は可憐じゃないな。」)

 

 つい浮かべてしまった苦笑を見て、何かを誤解したのか先輩が拗ねたように頬を膨らませてから、急に声のトーンを落としてくる。

 

「前にここを訪れたのは、もう2年も前になるかな。」

 

(「2年前……入学したばかり、いや特高が開いてばかりの頃か。」)

 

 語ってくれたのは、エース隊員の誰もが戦闘を知らぬ新兵で、手探りでCEと向かい合い、その所為で忘れられない後悔を生んでしまった話であった。

 

「灰原君はC組で、ろくに話す機会もなかったんだ。」

 

 曰く、初陣の際、自衛隊の戦車隊に砲撃を加えて貰い、CEを半数以上も減らし、十分安全と思われる状態で挑んだというのに、攻撃を受けてパニックを起こした所為で、撤退を呼びかける通信の声を無視して突撃し、集中砲火を浴びて意識不明の昏睡状態となったという。

 

「牛尾君はB組でね、少ししか話した事はなかったけど、厳つい外見に反して、穏やかで優しい人だったよ。」

 

 曰く、実家は北海道の農家で、補助金で家の借金を返すべく、争い事は苦手だけれどもエース隊員となったものの、灰原の死による動揺が消えきっていない、2回目の出撃の際に、同じ分隊の仲間を庇って精神の死を迎えてしまったという。

 

「林田さんはボクと同じA組でね、少しドジな所があったけど、それも笑って許せるような、元気で可愛らしい子だったよ。」

 

 曰く、2人の死を無駄にしないよう懸命に鍛錬と研究を重ねて、誰の犠牲も出さずに勝てるようになってきた頃であり。幻子装甲が半減し、前線から下がろうとしたのに、地面の窪みに足を取られたのか転んでしまい、更に運が悪い事に、転んだ弾みで手を離れた幻想兵器が、彼女の腕を斬り付けてしまい、まだ半分は残っていた装甲を破壊し、そうして無防備に倒れていたところに光線が飛んだという。

 

「遠い外国の出来事なら、馬鹿だなって笑えたんだけどね。」

 

「それで……」

 

 俺達との集団戦闘訓練で、執拗に転ばせて対処法を学ばせたのは、その時の痛みを下級生達に味わって欲しくなかったからだった。

 納得して尊敬の眼差しを向ければ、先輩が照れ臭そうに笑い、然し直ぐ真顔に戻って再び暗い夜空を見上げた。

 

「君も気づいていると思うけど、草壁君は雨宮さんと付き合っていたんだ。彼が告白して恋人になる前、相談を受けた事もあるんだよ。」

 

「そうだったのですか。交友関係、広いんですね。」

 

「これでも現場指揮官なんて大役を任されているからね、1人1人の顔や名前を覚えておきたかったのさ。」

 

 昼食の時、A組の豪華な食事を取らず、B・C・D組の皆と共に同じ席に着き、同じ物を食べていたのも、その一環だったのだろう。

 

「草壁君と雨宮さんは、本当に仲睦まじくてね。「分かれたら、残りの2年が地獄だよ」なんて脅しても、「俺達、絶対に分かれませんから!」なんて断言していたよ。分隊の仲間達も、やっかみながら祝福してた様だったしさ。」

 

 それなのに、2人は永遠の別離を遂げてしまった。

 

 ……その喪失と慟哭を、仲間として、指揮官として、先輩として向き合っているのが理解できてしまう。

 

「覚悟はしていた筈なんだけどね。」

 

「………」

 

「誰かを失うのは、やっぱり苦しいね……」

 

 先輩は、夜空に伸ばしていた手を下ろし、目元を隠す。

 その女の子らしい細い指に、微かな震えが発生し、その隙間から涙が溢れているのを見て思う。

 

(「……これが、背負う事、勝ち残る事、導く事の重さか。」)

 

 これ迄散々あんな苦しみや悲しみに恐れと接して抱えてさえいるだろう大河原先生に対して、不遜にも「涙を笑顔に変える」と豪語してしまった我が身を恥じてしまう。

 別に軽い気持ちで宣ったつもりじゃないが、言ってしまった以上は、そして先輩の重責と意志に報いて少しでも分け合う為にも、それを態度の面でも成果の面でも体現しなければならないと深く実感して、同時に強まった尊敬の念を告げる。

 

「先輩は、優しいんですね。」

 

「……違うよ、ボクはそんな御大層な人物じゃない。」

 

 その後に唇が、何やら声にならない本音を漏らす様に動くのが見えて、俺は不意に体を起こして立ち上がる。

 

「少し待っていて下さい。」

 

 そう言うと、小走りで屋上から一番離れた寮である9番棟の自室へ駆け抜けて、急ぎまた校舎屋上迄戻って行く。

 __手に1冊のノートを握り締めながら。

 

「それは?」

 

「俺1人では活かせません。だが、先輩ならきっと活かせる。」

 

 そう言って、訝しんでいる先輩へとノートを手渡す。

 まさか、音姫の奴はここまで読んで鍵を渡したのかと、薄ら寒いものを感じつつも、誰かの涙を止める為には必要であったから。

 

「これは……っ!?」

 

 読み始めた先輩の顔に驚きが浮かんでいたのを見て、手応えを感じ持って来た理由を説明する。

 

「古臭い物ばかりなので、現代風に手直しが必要ですし、有効だという保証もありません。けれど、同じ所で足踏みしていては、また同じ様に失ってしまう。」

 

 それは俺達のクラスから生じるかもしれず、更に新種の脅威が今後もまた襲来し被害を齎すかもしれない、そんな危険性が有るのならば。

 

「やれる事は、やってみましょう。」

 

 やらずに後悔するより、やって後悔する方がいいなんて、本当に大切なモノを失った事のない、正論気取りの詭弁だとしても。

 今のエース隊にはきっと、正二十面体型という恐怖を乗り越える、希望の光が必要だと思うから。

 それが眩く煌めく太陽(英雄)ではなく、頭上で散らばる星の様に儚い輝きであっても、無数に集まれば夜道を照らす光になるのだから。

 

「そうだね、やってみようっ!」

 

 先輩が目尻に残った涙を拭い、差し出した俺の手を借りて立ち上がった。

 

 その瞳には、仲間を失っても立ち上がり、創意工夫を凝らして戦い抜いてきた、不屈の魂が蘇っていた。

 

 いつもの頼もしい姿に戻った麗華先輩を見て、微笑しもう一つの想いを伝える。

 

「それと、ずっと言いたかった事があります。」

 

「えっ……?」

 

 虚を突かれ、普段のイケメンさとは真逆の、可憐な少女らしい表情で頬を赤くした先輩へと__

 

「寒いので、中で話しませんか。」

 

「……君は、ジョークと同じくらい、ロマンも磨くべきだね。」

 

「?」

 

 風邪をひいては大変だと心配したのに、何故か酷くガッカリした顔で陽向と似た事を言われ、首を傾げる。

 

「まぁいいや。それはそうと、対策案を詰めるなら今から食堂に行かないか?」

 

「分かりました。発案者としても、お付き合いします。」

 

「__⁉︎……いや、違うか。」

 

「……?」

 

 という訳で、校舎の中に戻ろうとし__星空の東の端に目を向ける。

 

(「__英人、俺達は大丈夫だ。英雄に頼らなくたって、今度こそは1人も犠牲を出さずに勝利できると示してみせる。だから、神算に及ばずとも、俺と麗華先輩とで挑戦してやる。」)

 

 無尽蔵に湧いてくる結晶体、CEに勝る人類最大の武器、知恵という牙でもって。

 

 





 感想や指摘に質問等、お待ちしております。

 次回は、5/13にて犠牲者1名出した上での戦勝から、今話より2日後となる5/15に於ける、宗次が知り得ない裏側の話となります。

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