英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今話について、前半は5/15中の色鐘視点で描く話ですが、後半は視点を変更し5/13の晩に時間を戻し、第24・25話の裏側を書き記した構図となりますので、ご了承下さい。



第25.5話 悔恨と光明

 

「……色鐘三佐、運転ありがとうございます。」

 

「気にするな、上官としてこれ位は当然だ。」

 

  夕焼け空の下、私と月岡は、漸く群馬県へと戻って来た。

 道は大して混んでおらず、行きも帰りも順調な運転であった。

 

 ……こんな事が不幸の反動だとでも云うのなら、随分安く見られたものだ。

 

(「彼の生命と未来、家族や恋人に仲間達の哀しみ、それを何だと思っている……!」)

 

 叫ぶ宛のない蓋をすべき怒りなのは自覚している、私にそれを宣う資格がないのも知っている。それでも、嗚呼全く。

 

「それに……一昨日のことも。」

 

「そっちも気にしなくていい。お前は間違っていないし、私もよく解る。……苦しみを抱えていれば、私なり養護教諭でもある保科なりに相談してくれ。」

 

(「……刹那、こんな今の私に対しても、健気に励ましてくれるのだろうか?」)

 

 甘えた未練と胸の奥に秘め、あの戦後を思い返す。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「緑・13名、黄色・196名、赤(限界)・85名、黒……1名です。」

 

「………」

 

 静まり返った指揮所の中に、オペレーターの乾いた声だけが淡々と響いた。

 

 ……私も含め、この場に居る教師達にとっては、既に最低でも3度は経験した事であり、自衛隊員となった時から、常に心構えをしていた事でもあった。

 それに、残酷な物言いになるが、強力な新種のCEを相手にして、たった1人しか犠牲が出なかった事は、むしろ奇跡的な幸運だと分かっていた。

 

 ……それでも、本来大人が守ってゆくべき子供であり、厳しく優しく育て上げたかった教え子の命が奪われた痛みは、決して軽くならなかった。

 

「洋太君……っ!」

 

 4人目の意識不明者のクラス担当の月岡が、耐えきれず指揮所から飛び出していっても、誰も咎めなかった。そこまで冷酷にはなれなかった。

 

「追撃の危険性もある、撤収を急がせろ。」

 

「はい。」

 

 だが我々全員が失意や慙愧に浸る余裕はなく、為すべきことをと命令し、軽井沢で呆然と立ち尽くす生徒達に呼び掛けを始めた。

 

 映像では、仲間を失った経験を持つ3年達がいち早く立ち直ってくれたのだろう。心を失った草壁の体を担ぎ、泣き叫ぶ雨宮を引っ張って装甲車に乗せていた。

 

 そうして、計24台の装甲車が全て発進したのを見届けてから、漸く椅子に座り込んで、重苦しい息を吐き出す。

 

「……これで満足か。」

 

 我ながら、呪詛のようであったその呟きは、いったい誰にあてたものか。

 

 無力な自分達か、無能な駐屯地司令や政治家か、それとも__

 

「京子、病院の手配は任せる。」

 

「……了解です。」

 

 京子に指示し、只々頷いたその前を通り過ぎて、指揮所を出ていった。

 これから芹沢校長の下へ訪問し、今後の対応決定を行わねばならなかった。政府や防衛省への報告、弔慰金の申請に加えて、最も辛い仕事が待っている以上、立ち止まることは許されないのだ。

 

 真っ直ぐ進んだ先、廊下の角で嗚咽していた月岡の肩を叩き、辛い仕事の日にちを伝えた。

 

「出発は明後日だ、いいな。」

 

「……はい。」

 

 頷き返したのを確認すると、後は月岡が思う存分泣けるようにその場を離れた。

 

 各所への報告を手早く終わらせてから、私と彼女は、草壁洋太の実家に向かい、彼の戦死を家族に直接伝える責務があった。

 

「また、殴られるかもしれんな。」

 

 約2年前の事を思い出し、薄く笑った。

 

 泣かれ、罵倒され、張り倒されるかもしれないが、その方がむしろ心は楽であろう。

 もしも、残された両親が悲しみもせず、多額の金をせびってきたり、子供の死を政府の批判にでも利用するようなら、その時は本気でCE教とやらに入信して、この世の滅亡を望んでしまいたくなる。

 

「……いかんな。」

 

 不甲斐ない弱音を、頬を叩いて追い出しめ、今度こそしっかりとした足取りで、執務室に向かって歩き出していった。

 

――――――――――――――――――

 

 

 そうして先程まで、私達は滋賀県へと赴き、草壁家に息子が昏睡状態になった事__実質的な戦死を伝えていた。

 

「……立派な、御両親でしたね。」

 

「……そうだな。」

 

 怒りや嘆きをぶつけられる事を覚悟していたが、2人共息子の戦死を告げられても、静かに涙を流しただけで、責められなかった。

 父親にいたっては、「態々ご足労頂き、ありがとうございました。」と頭を下げてくれた程であった。

 

「地域柄*1というのもあるかもしれん、が……」

 

「それでも私達に、堪えながら冷静に丁寧に対応して下さって、洋太君を心から愛しているのも伝わってきて、本当に……」

 

「……嗚呼、同感だ。」

 

 だからこそ余計に、彼らの愛する息子を奪ってしまった事に、深い負い目を懐いてしまう。

 

 __それからずっと沈黙が続き、やがて日が沈んだ頃に、特高へ帰還する。

 

「……色鐘三佐、お疲れ様でした、色々ありがとうございます。」

 

「……お互い、何とかやっていこう、月岡三尉。」

 

 そうして、2-A担任としての仕事がまだ残っている月岡と別れて、1人教職員寮へと戻る。

 

「……責められないというのも、辛いものだな。」

 

 自室でベッドに寝転がり、重く溜息を吐く。

 

(「今日はもう、酒を飲んで寝てしまおうか。」)

 

 疲れ果てて、そう思った直後、枕元の通信機が音を鳴り響かせてくる。

 

(「何だというのだ?CE案件ならサイレンがなる筈だが。」)

 

 億劫ではあるが、それでも職務放棄する訳にいかないので、手に取り通信を開く。

 

「色鐘三佐、よろしいでしょうか。」

 

「日森 *2か、どうした?」

 

 気分を切り替えるべく、直ぐに指揮官らしい顔つきをと意識して応じる。

 

「お疲れの所申し訳ありませんが、急ぎ見て貰いたい物があります。」

 

「分かった、直ぐに行く。」

 

 通信を切ってベッドから起き上がり、冷蔵庫の中で冷えているビールに少しだけ後ろ髪を引かれつつ、自室を出て指揮所に向かえば、日森1人だけが其処に居た。

 

「それで、見て貰いたい物とは。」

 

「先山麗華から提出された作戦の立案書です。」

 

「作戦の立案書?」

 

 訝しみつつ、A4用紙を受け取れば__そこには、先山の几帳面な性格が窺える、パソコンで綺麗に整えられた図形や文字で、ある戦術の有用性が説明されていた。

 

「これは……」

 

「検討の余地は十分あると思います。」

 

 読み進めるうちに思わず驚きを浮かべていたら、日森が強く頷いた。

 

 熱心に説明してきた教え子の姿に、情でほだされた訳ではなく、自衛官として冷静な目で見て、その作戦が有効だと判断したのだろう。

 

 読解した感想として、私も同じ思いだったが、つい顔を手で覆って溜息を吐いてしまう。

 

「全く、腑抜けていたのは私達の方だな。」

 

 あの戦いで、即座にこれを思いついていたら、草壁洋太を死なせずに済んだかもしれなかったというのに。

 

(「……今更だな。過去の怠慢、失敗を悔やんだところで、それだけでは何にもならんと、6年前の時点で深く実感させられたにも関わらず。」)

 

 勿論、仮に作戦を思いついた所で、準備の時間があまりにも足りなかったあの状況で行えば、余計な混乱を招いて、寧ろ被害が拡大した可能性の方が高いだろう。

 ただ、2年近くも快勝を続けていた所為で、真正面からの力押しか考えない、視野狭窄に陥っていた事実は否めなかった。

 

「しかし、これを先山がな。」

 

 彼女は、3-Aの分隊長であり、現場での指揮官を任せられた、エース隊の要と言える生徒である、というのが私含めた特高教員の評価だ。戦闘、学問ともに優秀な生徒であり、皆を惹きつけるカリスマ性にも溢れている存在。然し何方かと言えば慎重な性格であり、このように大胆な作戦を思いつくタイプには見えなかったのだが。

 

 そんな疑問を察したのだろう、日森から苦笑しながら説明されたのは。

 

「いえ、先山は細かい詰めと書類の作成をしただけで、作戦の骨子を考えたのは1年の男子だと。」

 

「1年の男子?」

 

 ふとある槍使いの顔が浮かび、綾子は少し離れた席で聞き耳を立てていた親友の顔を窺う。

 すると、自分の事でもないのに嬉しそうにニヤケていた京子は、恥ずかしさと気まずさからか、急いで顔を逸らす。

 

「なるほど、教師だけでなく上級生も射落とすとは、大した槍捌きだ。」

 

「はぁ?」

 

 訝しむ日森に、苦笑して誤魔化した。

 

(「だからこそ“英雄”を喰っては困るのだがな。」)

 

 ふと、[機械仕掛けの英雄]に対する懸念が浮かんだものの、彼の個人戦闘能力や、今回示された戦術眼は確かなだけに、“退学”という不穏な選択肢は引っ込めておく。

 

「大して予算の掛かる作戦でもない、整備班に必要な物を調達させて、急ぎ準備させろ。」

 

「了解!」

 

 そう返した日森は、急いで指揮所から出て行った。恐らく校舎の横にある倉庫に駆け込み、今頃なら装甲車の点検中であろう整備班を呼び集めて指示してくれている筈だ。

 

(「子供達が絶望から立ち上がろうと足掻いているのだ、我々大人が停滞していては、到底顔向けできん。」)

 

 今度こそ、誰一人として犠牲を出さずに勝利するのだと、決意を入れ直し__

 

「……それにしても、奴はまだ塞ぎ込んでいるのか?」

 

 校舎内の地下シェルターに引き籠もっている、2人の槍使いとは対照的な、不甲斐ない“聖剣使いの英雄様”への不満を漏らした。

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

「……みんな、ごめん。」

 

「謝らなくていいよ、気持ちはホントによく分かるから。」

 

「そうだぜ、無理すんなって。」

 

「洋太だってきっと、水樹にも危険な目に遭ってほしくないと思ってるさ。」

 

「アタシ達は大丈夫だから、アンタが気に病む必要ないのよ。」

 

「……本当に、あり…がとう……!みんなも……死な、ないで、ね……!」

 

「……あぁ、わかってる!俺達は死なない!ちゃんと全員生き抜いて、洋太と水樹の分まで戦ってやる!」

 

「……それじゃ、この辺で私達戻るから。いつか、世の中が平和になった時に、また11人揃って会いましょ。」

 

 そうして、第2期生A組13分隊の10名が、一同に名残惜しさと哀しみを秘めた表情で退室した。すると、その数秒後。

 

「……ごめんね、みんな……!ごめんね、よう、た……!」

 

 雨宮が、俯きながら涙を流して嗚咽し……ノック音が扉から鳴る。

 

「失礼します。雨宮水樹の見舞いに来ました。」

 

「……えっ、この声、蕾?」

 

 鹿島が入室し、雨宮のベッドへと近寄る。

 

「保健室に運ばれたと聞いてやって来ました。保科先生は居ないんですね。」

 

「う、うん。私が目覚めた時には不在で、それからずっと。」

 

「そうですか。……ご気分は如何ですか?私に出来ることがあれば遠慮せず言って下さいね、友達ですから。」

 

「取り敢えず、大丈夫、かな。心配してくれてありがとう。」

 

「ならいいのですが。ところで、何があったのですか?私の知る限りでは、後輩女子に殴られて気絶させられた、らしいですけど。」

 

「……実は、9番棟の、1年A組の寮の前で、色々叫んじゃって、それで、抗議、された、だと……」

 

「まぁ、何はともあれ身体は無事そうですね。……草壁さんの件は、その……」

 

「……蕾、恩田君はどうしてる?」

 

「……昴さん、ですか?彼なら見舞いを私に任せて寮に戻ってると思いますが。」

 

「まだ告白はしてないの?」

 

「………えっ⁉︎す、昴に⁉︎何でそんな話を急に⁉︎」

 

 途端に赤面し慌てふためく鹿島を見てか、雨宮が笑った。

 

「いや、ほら、お互い恋愛相談した仲じゃん。結局進展したのかなぁ、って。」

 

「れ、恋愛相談⁉︎アレは蕾さんの恋を助けようと何とかアドバイスとか捻り出して、その代わりに熱血気取って迷惑な位に振り回してくる昴さんの募り積もった愚痴聞いてもらっただけで……!」

 

「えぇ〜、小さい頃からの幼馴染だった癖に、何で未だに自覚さえしてない段階なのよ、情けなっ。」

 

「な、何よ!……何ですかその言い草は!折角訪ねてあげたのにそれでも親友ですか⁉︎クラスの格差なんて気にせず仲良くしてこうって言ったのに、A組ってやっぱ最低です!」

 

「それは関係ないでしょ〜!……ふふっ。」

 

「……は、ははっ。すみません、変なこと色々言い過ぎました。」

 

「謝んなくていいわよ。……ねぇ蕾?恋する前に別れて気付かされるのと、愛し合ってから離されるのとどっちが辛いんだろ?」

 

 問い掛けの裏の意図を察したのか、鹿島は俯き黙り込むこと数秒。

 

「……分かり、ません。でも、何方も、悔やんで悲しんで苦しむでしょうね。水樹さんに言うことではないかもしれませんが。」

 

「……先山先輩にさ、洋太と一緒に恋人になったこと報告したのよ。」

 

「あの人にも、相談していたんですよね。それで?」

 

「その際微笑みながら、でも何処か真剣な感じで、「分かれたら、残りの2年が地獄だよ。」なんて忠告されたの。それで洋太が、「俺達、絶対に分かれませんから!」と大声で誓ってくれて、私もときめきながら絶対にそうだ、離別するもんか、って決意して……」

 

「……」

 

「それなのに……彼処で新種と六角柱を4人で倒して分隊に戻った後……洋太はやけに焦った様なやる気に満ちた様な感じで、私は洋太なら、私達13分隊から大丈夫って突っ走るのを止められず、盾役なのに守れずに目の前で洋太が撃たれて剣も消えて……」

 

「……」

 

「その撃った奴は他の組の人が倒したんだけど、急いで駆け寄って、幾ら揺さぶっても声掛けても、何も言わず何処も動かず……ただ泣き叫びながら帰って、救急車で運ばれるのを只々見送るだけで……あの聖剣使いの英雄が戦場に来てれば洋太は死なずに済んだのにって……」

 

「水樹さん……」

 

「……ごめん、ね蕾。実は、月岡先生や分隊の仲間にはさっき伝えた、んだけど。私……エース隊辞める。」

 

「__そう。」

 

「ホントは洋太の分まで戦わなくちゃ、今度こそ仲間を守り切るんだ、1回はそう決意しようとしたの。……でも直ぐに、洋太が倒れる光景が目に浮かんで、全身が震えて何も言えなくなって、やっと漏らせた言葉が、「恐い、戦いたくない」でね。」

 

「……」

 

「みんな、私を叱らずに、仕方ないとか、2人の分も頑張るとか、休んでいいとか慰めてくれて……嬉しくて、それ以上に自分が情けなくて、だけどCEと戦うのも誰かがまた死ぬのを見るのも、嫌な気持ちに塗り潰されて……もう2度と、盾を握れないのかもね。」

 

「……」

 

「……蕾、良かったら恩田さんと一緒に辞めない?無理矢理にでも抜け出させて、そうすればCEに、私の親友も、親友の大切な人も__洋太と共に戦ってくれた彼も殺されないよ?」

 

 その時、鹿島が雨宮へ顔を寄せた。

 

「水樹さん、それはできません。私も、昴さんも、先輩方の為同期の仲間の為後輩達の為人々の為、命懸けで矛となり盾となる覚悟をと、先程改めて誓ったのですよ。それに昴さんは、草壁さんを命の恩人であり誇るべき戦友でもあり、だからこそ彼の犠牲を背負って守り抜こうと燃えていました。なら私は、()()()()()()()として勝利の時まで付き合う腹積りです。」

 

「そんなの……そんなのどうだっていいよ!命懸けの覚悟?それで死んだらどんなに周りの人が悲しむか分かるでしょ⁉︎」

 

「承知の上で、その悲しみをこれ以上生まない為に私は槍を掲げるだけですよ。……正直な気持ち、水樹さんにも、今後とも同期として共に戦って欲しいと思ってます。」

 

「はぁっ⁉︎ふざけないでよ!あなた達の覚悟に巻き込まないで!大体、どれだけCE()を討ったって、どんなに人を助けたって、洋太は帰って……生き返って……愛してるって抱き締めてはくれない……のよ……!」

 

 雨宮が再び泣き崩れた、その耳元へと鹿島は顔を近付けて__

 

「……勝利すれば草壁さんが()()()()、としたら?」

 

「__え?」

 

 顔を上げた雨宮へと、鹿島が()()を切り出す。

 

「……内緒にしていましたが、実は私、ある秘密プロジェクトに協力しているのです。その内容を掻い摘んで言うと、C()E()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ことですね。」

 

「ピラーから……意識を……?」

 

「法螺でも詐欺でもありません。既にそれを成功させるプログラムは、完成されているのですから。ただ今直ぐに実現する為には、長野ピラーを制圧しCEの邪魔が入らない状態にしなければなりません。」

 

「完成……制圧……な、長野ピラーを抑えてしまえば、洋太は復活する訳⁉︎」

 

「静かにして下さい。この話は、政府のごく一部が秘密裏に取り組んでいて、特高内部でも参加者は限られています。例えば保科先生も、このプロジェクトについて何一つ知りません。」

 

「……そんな話を、私にするってことは……」

 

「水樹さん、貴女には2つの選択肢が用意されてます。第一は、協力を拒むこと。そうしたらたとえ貴女が在学を希望しようとも、機密保持目的で()()()()退()()する羽目になるでしょう。仮に、今語った話の一部だけでも他者に漏らせば、京都の両親の生活さえ危ぶまれます。何より、来たる勝利の日には草壁さんが、()()()()()()()()()()()()()()()()回復するでしょうね。」

 

「っ⁉︎……それ、は……」

 

「第二は無論、プロジェクトへの参加です。当然此方も秘密を隠し通さなければなりません。たとえ相手が先生であっても、仲間であっても、参加者以外に明かすことは禁じられています。それに引き続き、エース隊員として戦闘に参加して頂くことになりますし、中枢からの命令があれば、秘密裏に実行してもらいます。」

 

「………」

 

「メリットとしては、まぁ報酬ですね。貴女や家族には勿論ですが、中枢からは、草壁さんやそのご家族に対しても、エース隊員の給料とは別口で、多額の金を支払うとのことです。それと……」

 

「単に勝利と復活の他力本願じゃあなく、洋太の恋人として、自分の手で洋太を取り戻せるのよね。………勧誘されてる私の価値ってどんなもん?」

 

「良い話か否かは解釈に委ねますが、エース隊内の新規協力者を1人得る、それだけのものです。基本的には全体の規模からすれば微々たる物、エース隊員としての希少性は確実ですが、英雄的活躍を果たせるかは本人次第、というのが、私に対する売り文句でしたね。」

 

「そっかー、……たとえ微力でも、私も勇気出して頑張れば、必ず、洋太を救えるのよね?」

 

「プロジェクトの一員としても、水樹さんの親友としても、あの時の共闘に加わったエース隊員としても、約束します。草壁さんは、()()が絶対に救い出してみせます。ですから水樹さん、CEが恐ろしい存在なのは承知の上で、どうか協力して下さい!」

 

 頭を下げられた雨宮は、考え込むこと暫し。

 

「……ねぇ蕾、3つ、質問していい?」

 

「はい、答えられる範囲なら。」

 

「先ず、蕾は何時からどうしてそのプロジェクトとやらに参加してたの?」

 

「去年の今頃、CEとの戦いに初めて赴いた日の午後ですね。理由は……精神的に疲弊していたところを救ってくれた、からでしょうか。」

 

「自分がそういうのに関わってるか、恩田さんは知ってるの?」

 

「その質問には答えられません。」

 

「……そう、まぁいいわ。んで最後に、……蕾は、プロジェクトの一員だから私に近付いて、友達になろうと接してたの?」

 

 自分達2人の築いた友情は、打算ありきの仮初だったのかと暗に問い詰められた鹿島は、首を横に振る。

 

「それは違います。水樹さんを今日誘ったのは、()()貴女が恋人を喪い悲嘆に暮れていて、それを見かねた中枢部が私にプロジェクトの内容を__草壁さんも復活させられるとの機密情報を、勧誘せよとの指示と共に受け取った次第です。」

 

「……はあぁぁ〜〜、蕾、アンタ普段から丁寧口調だけど、今はもう堅っ苦しい感じね。」

 

()()として、だけでなく()()()()()()()()()()として対峙しているから、でしょうね。」

 

「……色々言いたいこと聞きたいこと沢山あるし、まだ恐怖は残り続けているけど……」

 

「……」

 

「特高で初めて出逢って、告白して受け入れてくれて、生活でも戦場でも一緒だった洋太を、……私が怯えて逃げてる間に、完全に他人任せで救ってもらってちゃ、恋人として立つ瀬がない、わよね。」

 

「それって、水樹さん……」

 

「あと、蕾が重大な秘密や責任抱えて、絶賛片想い中の幼馴染と共に命懸けで前線に挑んでいるもの、私が恋の成就や別離を支えてやらなきゃ()()失格よね。」

 

「……え、ち、ちょっと水樹⁉︎」

 

「決めたわ!私もプロジェクトに参加して、蕾と秘密共有しながら立ち上がって、洋太を救ける!」

 

「ありがとう……!でも昴さんとはそんな感じじゃ」

 

「そん代わり約束して!蕾も生き抜いて、私と同じ目に遭わないでよ!恋愛で応援し合った仲なんだから!」

 

「は、はい!ちゃんと生き残ってみせます!それと別に恋人はいませんし」

 

「それで先ず、何すればいいの?契約書にサイン?」

 

「いえ後程スマホに専用のアプリについて送信しますので、今の保健室での会話も、今後のプロジェクト関連の一切も、絶対誰にも明かさないで下さい。発覚次第、先程述べた通り処罰下りますので。あと私から水樹さんの恋愛相談受けてただけで別に自分は応援される恋は」

 

「了解!それはそうと、蕾ったらまた普段の調子に戻ってるわよ?本心に素直になったらどうよ?……きっと、喪ってから気付いちゃ、手遅れだから。」

 

「……取り敢えず、参加を承諾するということで宜しいですね。出たら伝えておきますので、通知をお待ち下さい。再三申し上げておきますが、たとえ分隊の仲間であれ、教職員であれ家族であれ、また如何なる交渉を外部から持ち掛けられようとも、中枢から容認された者以外には決して知られてはいけません。仮にその様な事態となれば、親友であっても私は庇いませんので。」

 

「……誓うわ、絶対内緒にしておく。」

 

「それではまた明日、()()()()()()()()()として会いましょう。……()()()なんて、考えないで下さいよ。」

 

「そったも、何度でもいうけども、死なないでね。あんな思いは2度としたくないの。」

 

 そして2人は、無言で指切りして、鹿島が手を離して退室していった。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

コンコン、コンコンコンッ

 

「高天原より天下りて。」

 

「火之迦具土神の星へと集わん。」

 

 鋼製の扉を開けて、同志を招き入れる。

 

「第2期生A組、雨宮水樹、()()()へ加入の意向を示しました。」

 

「了解、この時をもって、雨宮水樹を機関の協力者と仮認定する。翌日放課後迄観察し、仔細問題なければ通信隊に送らせる。それまでは()()()()()()()()として対応せよ。」

 

「承知致しました。」

 

 そこで鹿島が、薄暗いコンクリートの室内を見渡す様に首を回して口を開く。

 

「……ところで、迦具土神様。此処に監視カメラは?」

 

「……置いておらぬ。言ってみればこの場に於いて生じた出来事は、己と同志鹿島以外誰も把握し得ない訳だ。」

 

「分かりました。……迦具土神様、少々失礼します。」

 

「構わん。」

 

 そう述べて、一歩一歩己の正面へと近寄って__

 

ドゴォッ‼︎

 

「__グウゥッ!」

 

 ……鹿島は、己の腹から拳を引いて、一歩後退し無言で深く頭を下げて、この空間から退出していった。

 

「……この程度で収めて頂けるとはな。さて、雨宮家及び草壁家への支給手続き、そして研究所の改築手続きに取り掛からねば。」

 

 己の采配により、一度人生を停止させられた草壁洋太(犠牲者)の為にも、そんな己を大義の下支えてくれている機関同志及び協力者の為にも、そして祖国(大和)の未来の為にも。

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

「……お待たせしましたね、昴さん。」

 

「気にすんなよ、俺達仲間で、そして幼馴染の仲だろ。」

 

「それでも態々、図書室前で待ってもらっていたので。何とかはぐらかせました?」

 

「嗚呼、……洋太の件があったから、気分転換の一言で簡単に別れられたさ。……それより、そっちはどうだ?」

 

「水樹さんは成功、なんだかんだで立ち直ってくれました。……それで、報告して……傷が目立たぬよう殴らせて頂きました。」

 

「……そうか、ありがとう。そして悪かったな。その……」

 

「いいんですよ。水樹さんを相手するのに私が適任でしたし、私の分も昴さんの分も込めて重く撃ちました。」

 

「……俺達も、同罪だと思うか?」

 

「……異を唱えることなく、ただ様の期待に応えてみせるまでだ、と了承し……同志以外の誰にも、草壁さんや水樹さんにも支援なき過酷な戦いになる旨を伝えず……その結果が、アレですからね。」

 

「……草壁君に救けてもらって、一緒に新種を撃破して、別れてから俺達は後方で戦ってた分隊に戻って、そうしてCEが1体も見えなくなった時に、雨宮さんが泣き叫んでいた、んだよな。」

 

「………そうして、私と昴さんが、最高機密の情報と、それを用いて勧誘せよとの指示を受け取ってた間に、水樹さんが()()()()()()()の9番で、天道寺英人を__迦具土神様を非難して、同志以外の親衛隊員に気絶させられて。」

 

「教師やクラスメイトが退室して独りだけになった隙を見計らって説得を、だっけか。……色々辛い役目、任せちまったな。」

 

「お礼も謝罪も要りませんよ。大体迷惑掛けさせられることなんて、昔から沢山あるのでもう慣れてます。」

 

「あぁー、確かに幼い頃はそうだったな。腕白坊主だった俺の尻拭いさせてばっかで。」

 

「エース隊に上がってからも続いてますが。」

 

「おいおいまさか?流石にねぇだろ。……話は戻すがよ、務め続けられるか?」

 

「………」

 

「俺は……草壁洋太の昏睡の責任を、迦具土神だけに求める気はねぇ。エース隊2期生として、罪を背負って……日本の勝利と、兄貴や戦友達の復活迄戦い抜くつもりだ。」

 

「できますか?」

 

「できる……、じゃねぇ、()()()()。成し遂げてやりてぇし、果たさなきゃいけねぇ。お前はどうだ蕾?止めんなら俺から口伝てしておくけど。」

 

「余計な気遣いですね。騙してきた親友を既に誘った身で逃げるなんて許されませんし、まだまだ貴方を放ってはおけません。共にエース隊員として、同志として、……幼馴染として、勝ち残る気概です。」

 

「よおし!それじゃあ__静かにっ!」

 

「__っ!?何を……足音が2つ、上から来ますね。」

 

「兎に角見つからずにやり過ごさねぇと。てか誰だ?」

 

「………あれ?薄暗くてハッキリとは見えませんが……先山、先輩?」

 

「傍には……ありゃ確か、迦具土神を2度も敗北寸前迄追い詰めたり新種を単騎で初めて倒した、3期生の武士か!?」

 

「……気付く素振りもなく降り去ってくれましたが、何故あの2人が、こんな夜に一緒に上に居たんでしょうか?」

 

「さぁな、迦具土神に聞けば教えてくれるかもしれないけど。」

 

「……帰りましょうか?あと胸から手を離して下さい。緊急対応だったので叱りませんから。」

 

「__っ!?わ、悪かった蕾!……そうだな、俺達も帰って休もう。」

 

*1
草壁洋太の出身地である滋賀県は、現時点では直接CEの進行を受けていない。然し、長野県やその周辺から逃れてきた人々が多く流れてきている所為で、沖縄や北海道という遠方よりも、CEの恐怖とそれと戦う事の重要性が身近に感じられる地域といえる。

*2
日森健也ひもりけんや、現在は3-Aを担任している二等陸尉だ。





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