英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今回は、原作同様に5/17の、宗次にとっては3度目となる正二十面体型個体との戦闘になります。



第26話 星座と疎外

 

ウゥーーッ‼︎

 

 あれから4日たった土曜の昼、CE襲撃のサイレンが、まるで見計らった様に特高に鳴り響いた。

 

「休日に出撃とか、最悪やな……」

 

「………」

 

 装甲車に乗り込んで愚痴る映助の声は、普段よりも精彩に欠けていた。

 

 先の襲撃と戦死から数日程度では、心の整理を付けられない者が居たって当然なのだ。

 戦死者である草壁洋太の恋人、雨宮水樹が対CE戦への決意を強めたらしき振る舞いを見せているとはいえ、戦意を取り戻させるには限界がある。

 

「私も転校、するべきなのかな……」

 

 前田さん*1が弱音を漏らしても、誰もそれを咎めなかった。

 

 どうやら皆も一度ならず考えていたらしかった__卑怯者、臆病者と謗られようと、戦って死ぬ前に特高から逃げてしまいたいと。

 

 そんな弱気に追い打ちをかける様に、通信機から凶報が届く。

 

「御代田町のピラーより、正二十面体型が28体出現、長野より進軍中の六角柱約600体と合流する動きを見せています。」

 

「「「__っ!‼︎⁇?」」」

 

 俺以外の32分隊全員が、悲鳴も出せず恐怖に震えた。

 

 1年生にとっては初めて認識した戦死者をを出した、あの悪魔の狙撃手が再び出現した。それは即ち、また誰かが死ぬかもしれないという事なのだ、という不安が充満してゆく。

 

「ひ、陽向ちゃん……っ!」

 

「…………」

 

 涙目で抱き着いてくる神奈の頭を、陽向が無言で優しく撫でているも、その顔には厳しい表情が浮かんでいた。

 

 それを見たから、という訳でもないが、努めて穏やかな声でもって皆に語り掛ける。

 

「大丈夫だ、もうやつらの好きにはさせない。皆で無事に帰れるよう、ちゃんと作戦を用意してある。」

 

「何やてっ!?」

 

 落ち込んでいても驚きのリアクションだけはキッチリ取ってくれる親友に、笑みを返し続ける。

 

「本当は、今日にでも練習してから行う筈だったんだがな。」

 

 ぶっつけ本番になるが、それほど難しい動きをするわけでもないので、問題なく完遂できるだろう。

 

「そんな作戦、いつの間に……ってまさか、あのイケメン先輩とかっ!?」

 

「何だ、知っていたのか。」

 

 なら話は早いと頷けば、映助から何時もの裏拳ツッコミが入り、何時も通りに受け止める。

 

「いや、自分が放課後、あのイケメンと食堂で仲良く話とるの、めっちゃ評判だったんやで。」

 

「そうなのか?」

 

「せや、B組やC組の女子ファンが、えらい目で兄弟を睨んどったわ。」

 

「…………」

 

 何やらまた知らぬ間に、とんだ恨みを買っしまっていたらしい。

 

「2年生の件があったから、皆そんな元気なかったから良かったものの、平時なら背中から刺されとったで。」

 

「いや、流石にそれは__」

 

「この前、宗次さんの部屋の前に、藁人形が落ちていましたよ。気味が悪いから捨てておきましたけど。」

 

「「「…………」」」

 

 一樹の思いがけない告白に、俺だけでなく32分隊全員が言葉を失った。

 

「それより、あの人とは作戦の話をしていただけで、何もなかったのねっ!」

 

「あぁ、そうだが。」

 

 と思えば、急に真剣な顔つきで身を乗り出してきた陽向へと少し驚きつつも頷き返す。

 すると、何故か陽向は目に見えてほっとし、薄い胸を撫で下ろした。よく分からんな女子というのは。

 

「よかった、付き合ってたどうしようかと……」

 

「だから、この時期にそれは無いって言ったじゃないですか~」

 

 そんな彼女へと、以前何かあったのか、心々杏が呆れてツッコミを入れた。

 

 そんな風に、普段の空気を取り戻してきた皆を見て、微笑みを浮かべていたら、映助が本題を切り出してくる。

 

「それで、どんな作戦やねん?」

 

「あぁ、そろそろ先生達から詳しい説明があると思うが、先に言っておくと__」

 

 一度言葉を切った上で、親友の肩を叩き告げる。

 

「映助、お前が作戦の要だ。」

 

「何やてえぇぇぇーーーっ!?」

 

 映助が絶叫を上げた直後、指揮所から通信が来て、京子先生から作戦の説明がなされる。

 

 ヘッドセットのディスプレイに、分かりやすく画像を映したその説明を聞き、他10人全員が納得したように頷いてくれた。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 前回とは別の場所だが、同じようにゴルフ場の名残が伺える、まばらに木が生えた緑の草原へと降り立ち、陣形を展開していく。

 

 32分隊も、前回と同じく左翼に向かってゆく一方で、俺と映助だけ別行動で陣形の後方に向かって走る。

 そこでは、麗華先輩達10名の3年生が待っていた。

 

「今日はよろしくお願いします。」

 

「そんなに畏まられると、調子が狂ってしまうよ。」

 

 先輩が、何やら少し拗ねたように唇を尖らせると、その後方から、1人の生徒が前に歩み出てきた。

 

 長い黒髪をドリル状に巻いており、お嬢様風の気品を漂わせる、切れ長の目をした美しい少女だった。

 

「貴方が空知宗次君、それと遠藤映助君ですわね。」

 

「はい。」

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 まだ18歳位の筈だが、妙に色香の漂う声で呼ばれ、映助が思わず声を上ずらせた。

 それを見て、彼女が口に手を当てて上品に笑う。

 

「私からも改めてお願い致しますわ。今日の作戦、必ず成功させましょう。」

 

 そう言うと、優雅に黒髪をなびかせて、背後の装甲車に乗り込んでいった。

 

「流石、雰囲気あるわ~っ!」

 

「確かに、凄い人だな。」

 

 身悶えている映助の横で、感心して頷く。

 

 彼女は本当に名家のお嬢様なのだろう。武術家の立ち振る舞いとは違うが、手足の先まで動きが優雅に洗練されており、人の上に立つ者特有の自信が満ち溢れていた。

 

「前に話したけど、彼女が生徒会長、神近愛璃(かみちかあいり)だよ。」

 

 俺の耳元へと、麗華先輩からこっそりと説明された。

 

 作戦会議中の紹介だと曰く。特高の頂点、3年A組の中でも最も優れた生徒として、生徒会長に選ばれたのが彼女、だとのこと。

 今年度英人が入った事で、最強の座を追われたものの、「自尊心と実力は毛ほども傷ついていない、ルビーのように硬く鮮やかな、入学以来のボクの親友さ。」と誇らしげに紹介していた。

 

 そして、幻想兵器の性質故に作戦の成否を握る要の1人である。

 

「は~、京子先生みたいな大人も色っぽくて好きやけど、生徒会長みたいな2つ上くらいの方が歳も近いしええな~っ!兄弟もそう思うやろ?」

 

「…………」

 

 __何故だろうか。突如、原因不明の怖気を覚えてしまい、本能的に口が噤んだ。

 

「……待たせると悪い、俺達も急ごう。」

 

「せやな。」

 

「むぅ~、君ははぐらかすのも上手だね。」

 

 何かあったのか少し不満そうな麗華先輩と共に、装甲車へ乗り込む。

 

 実の所、今回の戦闘に於いて俺がクラスから離れて映助と同行する必要性はないのだが、本作戦の立案者としても、親友を巻き込んだ者ととしても、間近で見届ける責任があると判断したのだ。

 

 それから20分後、待ち構えている俺達の前に、結晶体の群れが現れる。

 ヘッドセットのディスプレイから映る映像。其処で先頭を進んでいるのはまたも六角柱型で、その30mほど後方に28体の正二十面体型が控えている。

 

「「「射撃隊、前へ!!!」」」

 

「「「はいっ‼︎!」」」

 

 3年生以外にとって初めてエース隊から意識不明者の出た4日前、それを想起し怯んでいるだろう生徒達の背を押すようだと、教師達の張り上げられた声から感じた。

 

「「「200、180、160……放てっ!!!」」」

 

 150mまで引き付けて一斉に射撃を放つ、此処までは指示担当者以外普段通りだ。

 

 だが、この先は違う。

 

「射撃隊は装甲車に搭乗して後退。盾隊、白兵隊もゆっくりと後退せよ。」

 

 敵との距離を100m以上も維持しつつ、おれ前を向いたまま後ろに下がっている。

 

 その怪しげな行動を訝しむ様子もなく、稚拙なプログラムで動く機械の如く、人が大勢いる場所、つまりエース隊の誘導方向へと一定の速度で近付いており__

 

「ひゃっはぁーっ!」

 

(「何故そんな雄叫びを……?」)

 

 ともあれ、俺達は装甲車でもって、元ゴルフ場の林からCE共の背後へ飛び出した。

 そして、六角柱型という壁のない後方から、厄介な正二十面体型に向けて、アクセル全開で突き進んでいく。

 

「おらおらっ!ワテの前は誰も走らへんでっ!」

 

「ぶつけるなよ。」

 

 ヒートアップ中の運転手へと後部席から注意する。

 

 車体に3つ取り付けられたカメラから、ヘッドセットのディスプレイに外の景色が送られているとはいえ、全ての窓ガラスを装甲板で覆った為に小さいディスプレイ以外で外部の様子を把握できない状態なんだ。俺達1()2()()の運命は、親友のハンドル捌きに掛かっているのだから。

 

「心配せんでも、ちゃんとピッタリ届けたるで。」

 

 そんな映助の声に反応したわけでもないが、高速で接近してくる装甲車に気付いた二十面体が一斉に赤い光線を放ってくるのが、俺のディスプレイにも映る。

 

 然しどれ一つとして分厚い装甲版を貫くことなく、少々振動が伝わった程度で車内は依然変わらず薄暗いままだ。

 

「何やSF映画みたいで興奮するわっ!」

 

「そうか?」

 

 完全自動運転の車が普通に走っている前橋市内も、余程SF映画のようだったのだが。

 

 そんな無駄口を叩いてる内に、装甲車が二十面体達の前方10m辺りまで接近し、急ブレーキが踏まれて停止した。

 それと同時に、打ち合わせ通り麗華先輩が後部扉を開けて外に飛び出した。

 二十面体達がそれを待っていたとばかりに、28本の光線を一斉に放つのが見えた、ものの。

 

「咲き誇れ、ロンゴミアント。」

 

 降車直後に発動した、完全無敵の防御により全て防がれて終わった。

 

 そして、次の攻撃に5秒程のチャージ時間を要するのは、六角柱であれ二十面体であれ変わらないのは2度の戦いで十分把握された情報であり、それだけあれば問題ない、筈。

 

「愛璃っ!」

 

「任せなさい!」

 

 麗華先輩が呼んだ時点で、彼女の横を神近生徒会長が通り過ぎ、無防備な二十面体に向けて、赤い魔剣を解き放つ様を眺めていた。

 

「塵と化しなさい、レーヴァテインッ!」

 

 其れについて、「世界を焼き尽くす黄昏の炎」と原典で謳われたというが、斯様な力がほんの僅かに、然し直径10mにも達する巨大な火の柱となって現出した。

 

 その膨大な熱量の前では、回転による防御など意味をなさぬ為に、10体以上もの二十面体が、一瞬で灰すら残さず蒸発していった。

 

「うおっ、眩しいっ!」

 

 装甲車の中で映助が目を押えて悶えている間にも、乗り合わせ8人の3年生達が一気に降りては、次々と幻想兵器の力を開放していった。

 

「雷神の怒りをくらえ、ミョルニルッ!」

 

「赤枝に刺されて死に絶えろ、ゲイボルグッ!」

 

 誰もが知る伝説の武器が唸りを上げて、回転防御が無意味と化す凄まじい威力で、二十面体の群れを一瞬で蹴散らしているその光景は、幻想が現実と化したが如き、美しさすら感じる破壊の嵐に思えた。

 

 しかし、残念ながらそれは僅かな間だけであり、伝説の中の伝説を再現したと称賛すべき3年生達が、瞬く間に幻子干渉能力を使い尽くしたらしく、目眩と共に膝をついていった。

 

 大河原先生の説明曰く、幻想兵器の能力は強力な程燃費も悪く、連発が困難になるそうだ。

 

(「英人はあくまで例外、か。……「心の力」、以外に理由はあるのだろうか?」)

 

 思いつく限りでは、()()()の定義の何れも英人が絶大なのは予想が付く。だが、それだけによるものだと、説明を鵜呑みにするのに何故だか抵抗を抱いてしまうのだ。

 

(「……否、そんなことより今はこの戦場だ。」)

 

 後部扉の向こうでは、今疲れ果てている様子の3年生達が惜しみなく最強の攻撃を放ってくれた結果、二十面体がたった1体だけ残っていた。

 

(「__今だっ!」)

 

出番が来たと、幻想兵器を形成させ動く。

 

「任せますわよ。」

 

 膝をついた状態の会長の呟きが耳に入った時点で、残った1体へと接敵し、石突で突いて回転させ弾かせてから、停止して反撃目的で光を充填させる二十面体に、真の攻撃である穂先を見舞う。

 

❛我流・虚実転身❜

 

 よって、最後の1体のコアを貫き撃砕。

 装甲車で接近してから、10秒も掛からずに28体もの正二十面体型は殲滅された。

 

 然し、その喜びに浸るのはまだ少し早い。

 俺達の突撃に合わせて、六角柱への攻撃を開始した本隊は、まだ戦いを続けているのだから。

 

「麗華先輩っ!」

 

「任せてくれたまえ!」

 

 9名もの3年生達が疲労して動けない状態の中、まだ聖槍の加護が残っている麗華先輩が、彼等の護衛の為この場に待機する役割となる俺の前に出て、六角柱の群れに飛び込んでいく。

 

 

 ……その後の流れは一方的であった。

 

 懸念材料であった新種さえ倒してしまえば、後は凡そ2年も全戦全勝を遂げてきたという、六角柱しか残っていないのだ。

 通信機越しに此方の成功を知ったであろう、30番隊含めた隊員達が勢いに乗って攻め込み、2分足らずで約600体ものCEを砕き終えていった。

 それはもう、俺が加勢する必要のない程に。

 

「被害は?」

 

「大丈夫、みんな無事よ。」

 

 六角柱が此方に意識を向ける暇さえなく倒されたことで、蜻蛉切を解除し京子先生に聞けば、朗報を優しく答えてくれた。

 それが他の隊員達にも聞こえたのか、多数が本当に無事なのか周りを見回しており、誰一人倒れ伏していないのを確認した上で。

 

「よっしゃーっ!大勝利やでーっ!」

 

「「「いぃやったあぁぁーーー‼︎!」」」

 

 後方から装甲車から降りてきた映助*2の、そして視界に映る欠けた様子のない隊員達の歓声が響き渡っていった。

 

「よかった……」

 

「成功しましたね。」

 

 緊張が解け、思わず座り込んでしまった麗華先輩の下へ歩み寄り、笑って手を差し出した。

 先輩は少し頬を染めつつ、その手を取って立ち上がると、照れを隠すように普段通りの笑顔を浮かべる。

 

「自信はあったけど、ここまで上手くいくとはね。」

 

「えぇ、先人の知恵が役に立ちました。」

 

 実家から持ってきた兵法書や軍学書、其れ等を紐解き立てた作戦は単純なものだ。

 

 本隊を囮に敵を引きつけ、その間に敵の背後を取り、一番厄介な箇所を真っ先に叩くという、島津の“釣り野伏せ”に代表される、敵を誘導しての包囲殲滅。

 第二次大戦より一般的となった、装甲車両の機動力を生かした電撃戦。

 それらを組み合わせただけで、独創性の欠片もなく、人間相手には絶対に通用しない、稚拙な作戦に過ぎないだろう。

 

 ただ、CEという知能を持たない結晶体が相手ならば、十分に有効な戦術として成功してくれたのだ。

 そして、誰一人欠けることなく皆が生き延びた、その結果だけで満足している。

 

「これも麗華先輩のおかげです、本当にありがとうございました。」

 

「やめてくれたまえ、礼を言いたいのはボクの方だよ。」

 

 先輩に頭を下げたら、謙遜のつもりなのか慌てる様子を見せ__然し、直ぐに何やら考え込み、平静な表情で口を開く。

 

「それほど感謝してくれるのなら、1つ我儘を聞いてくれないかな?」

 

「はい、俺に出来る事なら。」

 

「じゃあ、ボクの事は麗華と呼んで欲しい。」

 

「最初からそう呼んでいた気がしますが?」

 

 基本的に、女子へと話し掛ける際は苗字にさん付けする方ではあるが、先輩に関しては偶々、苗字よりも名前の方が耳に残っていたので、麗華先輩と呼んでいた筈なのだが。

 

 すると先輩は、何故か複雑な表情を向けてくる。

 

「いや、そうではなくてだね、麗華と__」

 

「そ、宗次君、無事で良かった!」

 

 突然、陽向が裏返った様な大声を上げ、俺の下へと走り寄って__きたかと思うと急に立ち止まり、肩を叩いてくる。

 

「平坂さんも、無事で安心した。」

 

 自分と映助が抜けていた分心配していたが、それが杞憂で済んだらしき陽向が頷き返しつつ、俺の手を引いてゆき__いきなり麗華先輩から、反対の手を掴まれた。なんで?

 

「子猫ちゃん、悪いけど手を放してくれないかな?彼とはまだ大切な話があるんだ。」

 

「すみません先輩、これから分隊の仲間内で大事な話があるんです。」

 

(「どうした2人とも!?何の話があるんだ?」)

 

 表向きは笑顔を浮かべながらも、まるで睨み合っている様に見えてしまうのは何故だろうか?

 

「いや~、ヘタレちゃんにしては随分と攻めましたね~。解説の一樹ちゃんはどう思われますか~?」

 

「僕に聞かれても困るんですけど。」

 

「ふぁ、ファイトです……っ!」

 

 陽向が来た方角から、話し声が聞こえてきたと思えば、2人の発する何かが益々強まっていくのを感じてしまう。

 

 ……陽向と麗華先輩って、相性悪いのか?

 

「作戦は終わったんですから、先輩と宗次君はもう関係ありませんよね?」

 

「関係ならあるよ。ボクと彼はあの夜から……ふふっ。」

 

「……冗談はその男みたいな顔だけにして下さい。」

 

「……君の胸の方が、よほど男らしいと思うよ?」

 

「上等だ、構えなさいよっ!」

 

「望むところだね。」

 

「2人とも、落ち着いてくれ!」

 

 訳のわからぬまま割って入って制止したのに、何故か両者が試合するでもあるまいに、幻想兵器(刀と槍)を構え合ってしまう。

 

 折角CEとの戦いが無事に終わったというのに、幻想兵器で喧嘩されては安全面でも隊規面でも問題だ。そんな事態に2人が陥らぬようまた巻き込まれぬよう、周囲の人達が駆け寄って来た__その時。

 

「おい、あれってまさかっ!?」

 

 その音源に首を向け、その人が指差す方向を__澄み切っている青空を見上れば。

 

 黄金に輝く流星が、東の空から飛来して、そして唖然と見上げる俺達の上を通り過ぎ、西の地平線へと消えてゆき。

 

(「__まさか、あれは……!」)

 

 一拍遅れて眩い閃光が上がり、大地を削る地響きが轟いてくる。

 

 誰が、何をしたのか、通信機から説明を受けずとも、鮮明に理解できる。

 そしてそれが、何を示しているかも。

 

(「は、はははっ……!」)

 

 心配したんだぞ、元気なんだな、何があったんだ、ピラー倒してくれたんだ、お前がいなくても俺達やれたぞ、作戦知ったらどう評価してくれるのか、他にも他にも……

 言いたいことが山程喉に出かかって、口角が上がるのを止める気にもならず、全身が震えて疲れも感じなくなって、溢れんばかりのどうしようもない想いが噴き上がってきて__

 

「……あ」

 

「「「遅えよっ‼︎!」」」

 

 ……同じ地平から一斉に生じた叫声に、蒼穹の流れ星から急に意識を戻されてしまった。

 

「何で今更やねん、4日前に来いや!せめて30分前に来いや!」

 

「刹那様の弟君とはいえ、流石にこれは腹に据えかねますわね……」

 

 映助が真っ赤になって怒鳴り散らし、その横では会長が深い溜息を吐いていた。

 他の生徒達もクラスや学年関係なく一様に、英人に対するブーイングで騒ぎまくっている。

 

「ピラーが破壊されたなら、これは喜ばしい事なんだ。うん、喜ぶべきなのに……」

 

「先輩、こんな時は優等生面をせずに、怒っていいんですよ?」

 

 先程まで一触即発になりかけていた麗華先輩と陽向も、この時ばかりは不満に依るものか意気投合している始末。

 

 ……複雑な気分だが、結果論とはいえ、この時英人が、エース隊員の心を垣根なく1つに纏めてみせたのだろう。

 そんなことを、ひっそりと装甲車の影に移動して、周囲の人も俺への注目も無いのを確認して座り込みながら思う。

 

「……俺、1人だけなのか?」

 

 ヘッドセットを地べたに置いてからボソリと呟くも、幸い誰にも気付かれなかったらしく、まだまだ文句は尽きないエース隊の皆。

 

 再び空を見上げれば、まるで地上の喧騒とは無縁な様に、再び黄金の光が通過していく。

 特高へと戻っているのだろうライバルの姿を目で追っていると、自然と疑念が溢れてしまう。

 

「……お前は、一体何を抱えているんだ?」

 

 ……分かっている、それを問う権利はとうに自ら放棄したのだ。

 

 日本の為人々の為未来の為にと羽撃いて征かんとしている英雄、その進撃を邪魔したくないから、彼奴の秘密を暴くことも、素顔を第三者に明かすことも、そして接触することさえも、あの日に俺の方から禁ずると誓った。それを破った時点で、俺はライバルと名乗れなくなるから。

 

 だから、この未練がましさ、女々しさは捨て去って、出来ることを成し遂げながら雄々しく前を向いて、槍術と知恵と()()()()()をもって戦い抜かねばならない。

 

 仲間達(誰か)の笑顔を守る為に、何れ勝利を果たした太陽(英雄)へ挑む為に。

 

*1
前田真由里まえだまゆり、俺達第32分隊の一員で、気弱な少女。幻想兵器は、史実由来となる〈巴御前の薙刀〉だ。

*2
親友を指名した理由は、単なる運転担当の自衛官でなく万が一の時の為の幻子装甲で攻撃を防がことができ、尚且つ装甲車を運転できる(少なくとも運転経験のある)エース隊員は彼1人だけだから。





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