英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 お待たせして申し訳ございません。
 今回は、1万字超えの長文となっておりますので、ご了承下さい。




第26.5話 外憂と戦評

「よかった~!聖剣使いの英雄が表に出てきてくれて!」

 

「小型ピラーも消してもらったし、これで一先ず助かったわ!」

 

「………」

 

 天道寺英人が特高を飛び出してから、衛星を通して御代田町を見下ろせば、CEの群れを一掃した時同様に上空から光線でピラーを滅ぼした。その光景を見て、周囲の職員達は喜んでいたが、私はどうにも無邪気に同調できない。

 

「音姫、あいつに何かしたのか?」

 

「いえ、命じられた通り、食事を渡そうと扉の前に訪ねた際に、向こう側へと軽く声は掛けていましたが、それ以外の余計な真似はしておりません。」

 

 通信機から返ってくる千影沢音姫の声も、喜びではなく困惑が滲んでいた。

 

 8日前の晩から、ずっと校舎地下のシェルターに閉じこもり、食事を届けに来た時さえ誰とも会おうとしなかった天道寺英人。

 彼を立ち直らせるため、当初はクラスの皆(親衛隊全員)で、一般生徒に見つからないよう密かに代わる代わる訪ねては、声を届けて励ましたり泣く演技で同情を誘ったり、もっと露骨に体で慰めようと語り掛けもしてもらった。

 

 然し、彼はそれを全て拒絶し、1人で部屋に立てこもり続けた。

 こうなると構うのはむしろ逆効果であり、先週の確認で(保存食とはいえ高級な)食料も、水も入浴設備も揃っているので勝手に死なれることはないだろうし、時間という最高の妙薬に治療を任せ、好きにさせていた。ところが数十分前に、何の前触れもなくシェルターから出てきて、慌てて駆け付ければ唐突に、御代田町に生まれた新たなピラーを破壊しに行くと言い出したのだ。

 

(「勝手に飛び出さなかっただけ、少しは成長したと考えるべきか。」)

 

 そう思いつつ、然し正直釈然としない。

 

 あの行動は、御代田町のピラーを破壊したという成果だけを見れば、確かに素晴らしい行為である。

 ただ、冷めた視点で観察すると、強い相手に負けて落ち込んで、その腹いせに弱い相手を殴りつけるという、幼稚で乱暴な子供の癇癪にしか見えないのだ。

 

(「そんな感情的で思い込みの激しい馬鹿だからこそ、あの力が出せるとはいえ……」)

 

 つくづく、幻想兵器という物は御しがたいと、重い溜息を吐き、さておいて復活後の状態を確認する。

 

「京子、エクスカリバーの威力はどうなった?」

 

「上がっています、前回の2倍はあるでしょう。」

 

 たった今、御代田町に刻まれた一文字の破壊痕と、約3週間前、前橋市に刻まれたそれを比較してくれた京子の報告に、一先ず満足する。

 

「上がったか。本人には余計な邪魔が入ったものの、噂の方は順調に拡散しているようだな。」

 

 インターネットのあらゆるSNSを利用して、拡散されているある噂。

 剣の聖女・天道寺刹那の弟、天道寺英人が特高に入学して、その聖剣でピラーを破壊し、前橋市を救ったという、事実ではあるが過剰な脚色が加えられた美談。

 

 特高の教師達が仕込んだ証拠写真だけでなく、本当に助けられた前橋市民の書き込みもあり、それはネットと縁の薄い一部の年齢層や地域を除いて、日本国民のほぼ全員が知る事となっていた。

 今はまだ、本人の顔写真を公開していないため、実体の掴めない漠然としたイメージだとしても、自分達を救ってくれる“聖剣の英雄”は居ると、大勢の人々が認識している模様であった。

 

 その想いというエネルギーが、幻子によって一つに集った事で、〈機械仕掛けの英雄〉という幻想はその力を確実に増したのだ。

 影山が嘗て刹那を対象にして実施し、彼女が消え去った為に頓挫した、幻想兵器使いの戦術・戦略兵器級の破壊力を目指した成長計画。それが立案者の後追い自殺後に、彼女の弟に依って、我々生き残ってしまった大人達の手で再始動させたのだ。

 

「このまま順調にいけば、長野ピラーの破壊も夢ではないのだが……」

 

「先輩、不吉な事を言わないでくれます?」

 

 変なフラグを立てないでくれと、後輩から茶化された、その直後。

 

「色鐘三佐、岩塚幕僚長から連絡があり、校長と3人でゆっくり話がしたい、とのことです。」

 

「__っ!」

 

 オペレーターに緊張した声で告げられて、一瞬で顔が強張るのを感じた。

 

「分かった、直ぐに折り返し連絡を入れますと伝えてくれ。」

 

 あえて「ゆっくりと」と言ってきたという事は、他の職員達には聞かせられない、重要な話だという事だ。

 だから言わんこっちゃないと、恨めしそうに視線を向けてくる京子を背に、指揮所を出て校長室の前に立ち、1つ深呼吸をしてからノックする。

 

「色鐘三佐、参りました。」

 

「入ってくれ。」

 

 入室すれば、芹沢校長がソファに座っており、応接テーブルにてノートパソコンが1台置いてあった。

 

「此方に座ってくれ、色鐘三佐。」

 

「失礼します。」

 

 校長の右隣に座り、正面を向けば暗い画面が明るくなり、呼び出してきた上官の顔が映る。

 

「__お忙しい中、お呼びしてすみません、芹沢校長、色鐘三佐。」

 

「「此方こそ、お待たせして申し訳ございません、岩塚幕僚長*1 。」」

 

「……早速で済まないのですが、お話とは何でしょうか?」

 

 穏やかな声色の幕僚長に対し、校長が尋ねた。

 

 新種を含むCEを相手に快勝し、天道寺英人が復活してピラーを破壊した直後。こんな時に緊急で伝える用事など、ろくな事ではあるまい。

 そう覚悟を決めていたが、予想通り最悪な、予想外の事態を告げた。

 

「アメリカ、ロシア、中国の3ヶ国から1人ずつ、特高に転校生を迎え入れる事になった。」

 

「……はぁ?」

 

「色鐘君。」

 

「__失礼しました。」

 

「いえ、お2人とも気にしなくて構いませんよ。そう反応しても仕方ありません。」

 

 会談相手がお2人とも陸将(相当)だという事を、迂闊にも一瞬忘れてしまったが、だからこそ岩塚幕僚長のフォローが有難く、そして共感する。

 

 伝えられたのは要するに、米露中の出身者を1人ずつ、エース隊員として迎え入れ、幻想兵器を持たせて戦わせろという事だ。

 ……それはつまり、日本をCEから守る要、最高の軍事機密である幻想変換器のデータを、他国に売り渡すと言っているに等しい。

 

「しかも、3名が転入する先は1年A組だ。」

 

「……正気ですか?」

 

「………」

 

 更に酷さが積み重ねられた所為で、怒りのあまり逆に頭が冷え、首にされるのも承知で、鋭利な暴言を吐いた。

 伝えた上官も同じ思いだったのか、聞かなかった事にして淡々と話を続けてくる。

 

「上が決めた事だ、もう我々に断る術はない。」

 

「しかし、明らかな工作員を天道寺英人に近づけるなどっ!」

 

「………」

 

 そう、転入先に1年A組を指定したきたという事は、〈聖剣の英雄〉に近付く事が目的に他ならない。

 

 3ヶ国から送られてくる転校生とやらは、間違いなく絶世の美少女であろう。

 それが体を使って天道寺英人を洗脳し、自国側に引き込む目論みなのだ。

 無断出撃の1件を起こした、犬塚霧恵のように。

 

「あれが他国に寝返れば、どうなるか分かっているのですか?」

 

「……全くですな。」

 

 何百体ものCEをたった1人で薙ぎ払い、小型のピラーを破壊してみせた天道寺英人の聖剣。

 それが敵に向いている間はいい。だが、味方に向けられたなら。

 

「国会議事堂でも吹き飛ばされないと、政治家の皆様はお分かりになりませんかね?」

 

 不満と懸念のままに、皮肉という形で、現実に起こり得る悪夢をぶち撒けた。

 幻想兵器は何も、CEしか殺せない武器ではないのだから。

 

「色鐘君、気持ちは解るが落ち着き給え、画面の幕僚長に言って何になる?」

 

「……申し訳、ございません。」

 

「いや、結局止められなかったのは事実だから構いませんよ。……分かっている、分かっているのですよ。」

 

 校長から指摘され非礼を自覚し、それでも腹を立てないでいてくれた上官から、深い嘆きを込めて告げられる。

 

「幻想兵器の危険性は、総理達も、そして3ヶ国も。」

 

 ……だからこそ、汎ゆる手で政府に圧力をかけて、特高に工作員を潜り込ませる手を打ってきたのだろう。

 

「長野ピラーを破壊し、CEの魔手から解放された後、日本がそのまま他国への侵略を開始すると、彼らは本気で思っているのですよ。」

 

「馬鹿馬鹿しい話ですね。」

 

「………」

 

 いつまで約1世紀も前の事である、大戦の頃を蒸し返すとは。

 そんな時代遅れの覇権主義、今の日本人が抱くはずもない。ただでさえCEとの終わりない戦争で、国民の胸には戦いへの忌避と倦怠が満ちているというのに。

 もしも、日本が侵略戦争を始めるように見えるのなら、それはミラーイメージ、3ヶ国が侵略戦争を行いたいという本心の表れに過ぎない。

 

「今の日本に戦争をやる力など無いと、子供だって分かるでしょうに。」

 

「………」

 

 そう、この6年間で武器弾薬の備蓄をほぼ使いつくしている日本は、国民感情以前の問題として、物理的に対外戦争など行えないのだ。

 

「幻想兵器が有ると言っても、あれは人との戦争には向いていません。」

 

「………」

 

 人の感情、認識いったものをエネルギー源とする幻想兵器は、冷静沈着で任務に忠実といった、成熟した大人には使えない。つまり、人を殺しても全く感情が乱れない、兵士として優秀な者では駄目なのだ。

 そして、既に幻想兵器を使えている感受性の高い少年少女では、人殺しという罪に心が耐えられない。

 

 神話伝承の英雄達が使った武器を持ちながら、英雄のような大量殺戮者にはなれないという矛盾。

 それを超えて人を殺せる者がいるとすれば、それは殺人に快感を抱くサイコパスか、神のためなら殺人もいとわない狂信者だけであろう。

 若しくは、自分が殺した者達をゲームの駒のように、対等な“人間”としてすら見ていない、真正の()()か。今の聖剣使い(天道寺英人)にその傾向があるのではないかと、胸に浮かんだ嫌な予感はしたが、敢えて無視する。

 

「確かに、幻想兵器はテロリストの手に渡ったりすれば、大被害を及ぼす危険な武器ではあります。だからといって、日本が対外戦争を始めるなんて話には繋がりません。どれほど強い“英雄”であろうと、たった1人の人間で戦争に勝てる訳がないと、誰でも分かる話ではないですかっ!」

 

「………」

 

 無理筋だとは分かっているが、それでも日本の為世界と人類の為に3ヶ国からの工作員を拒否して欲しいと訴える。だが然し、もうどうしようもないのか、スピーカーからは重々しく諦観に満ちた説明が繰り返される。

 

「上がそう決めたのだ、もう我々は大人しく受け入れるしかない。」

 

「しかし……っ!」

 

「色鐘君、もう止さないか、岩塚幕僚長とて既にできる限り阻止に尽力してくれた筈だ。」

 

 その直後、急に温度の下がった声が発せられる。

 

「……これを断れば、日本は本当に潰されしまう。」

 

「核兵器でも撃ち込んでくるつもりですか?」

 

「それもあり得るでしょうな。」

 

「それはまた、随分な強硬姿勢に出てくるとは……」

 

「…………」

 

 悪い冗談のつもりが肯定され、思わず言葉を失った。

 

「米露中は3名の転入を受け入れなければ、日本こそがCEを生み出した戦犯だと、全世界に発表すると脅してきたそうだ。」

 

「馬鹿なっ!」

 

 ……隣に校長が座っていなければ机を叩いてしまいそうな位、あり得ない最悪の難癖だ。

 

「CEのせいで日本人が何百万人死んだと思っているのですかっ!?」

 

 直接その手に掛かった者だけでも、長野県民を中心とした200万人。長引く戦争の不安や、物資不足からくる治安の悪化による、殺人事件や自殺も含めれば、その数はさらに膨れ上がるだろう。経済的な損失にいたっては、何百兆円になるのか考えたくもない。

 そんな自殺行為を、日本がする意味など全くない。

 

 無理に理由を見出すとすれば、CEで他国を疲弊させた後に、CEからの救済を目的に進軍、そのまま各地を占領していくという、征服行為のためであろうか。

 だが、本当にCEを生み出し、世界征服を狙うというのなら、こんな6年間も辛い戦いを続けたりするものか。

 

 しかし、大国はその妄想があり得ると考えている。

 そして、真実とは所詮、より大勢の人間がそうだと思い込んだ幻想でしかないのだろう。

 

「核兵器まで使った3ヶ国や、南米や中東のような地獄に比べれば、日本は遥かにマシだ。そして何より、CEの襲来から半年と経たず、幻想兵器なんて物を生み出せたのは、CEと内通していたからに他ならない……それが三ヵ国の言い分だそうだ。」

 

「ふざけた事をっ!」

 

 怒りのあまり、血が滲む程に拳を握り締めるが、当然だろう。

 

 幻想兵器を、それを生み出す幻想変換器を完成させられたのは、1人の天才的な科学者(影山明彦)と、稀代の才能を持った少女(天道寺刹那)が揃っていたという、それこそ御仏の慈悲を信じたくなるような幸運のお陰ではあるが、CEとの裏取引など断じてない。

 そもそも、取引を出来るような知能がCEにあれば、互いに滅ぼし合うような戦争にならず、人類と友好を築く道が取れたかもしれないのに。

 

「それにしても、自国民の中から候補を選抜し、エース隊員として送り込んでくるという事は、米露中も幻想変換器の仕組みを解明したことになりますな。」

 

「恐らくそうでしょうね。」

 

 校長の言葉に対し、証拠はまだ掴んでいないがその可能性が最も高いと、言うかの様に重々しく頷かれた。

 

 広大な領土を持つため、大量のピラーが出現してしまい、自国に核兵器を撃ち込むところまで追いつめられたとはいえ、大国の生産力と技術力はいまだ健在であった。

 天道寺刹那が幻想兵器を使ってから、既に5年以上が経つ今、3ヶ国が未だに幻想変換器を開発できず、日本の後塵を拝していると考える方が愚かであろう。

 

「変換器の組み立てと調整は、特高(此処)でしか行っておらず、情報やブツが流れ出たことも無いと自負しております。然し、各部品はメーカーの委託に頼るしかない故、其処から情報が漏れていると考えるのが自然でしょう。」

 

「何処の会社も、金は喉から手が出るほど欲しい筈ですしな。」

 

「はぁ〜っ……」

 

 校長の指摘に、幕僚長も私もまた深い溜息を吐く。

 

 陸上自衛隊の戦車が、三菱重工や日本製鋼所の手で作られているように、幻想変換器もチップや回路、外装といったパーツを1から全部、特高で作れる施設など無いため、幾つかの会社に製造を任せていた。

 当然、軍事機密の塊であるため、その情報が漏洩しないよう、徹底的な管理を求めてはいるが、長引く戦争による不況で、どこの会社も倒産寸前の今、大国から融資や賄賂を持ちかけられては、役員の何人かは容易く国を売ったであろう。

 

 そうでなくとも、日本は昔から工作活動や情報戦が苦手である。

 大国が本気でスパイ活動を始めれば、防ぎ切れるわけがない。

 

 特高が長い年月で培った実戦データだけは、流石に奪わせていないので、直ぐに運用する事は不可能でも、幻想変換器その物は3ヶ国も手に入れている、と想像するのは難くない。

 

「ならば日本の邪魔などせずに、自国で勝手に“英雄”を作って、ピラーを破壊すればよいものを……っ!」

 

「それを出来ないのが、大国というモノなのでしょうな。」

 

「国家とは、国のトップとはそう企むのが寧ろ正道とはいえ……ねぇ。」

 

 歯軋りする私に同調してくれたのか、お2人とも苦い声で応じた。

 

 日本はその小さい国土と少ない天然資源から、世界を手中に収めるなんて誇大妄想は不可能だと知っている、思い知らされた。だから、自国の平和を守れればそれで良いと、余計な野心など抱かない。

 

 しかし、米露中の3ヶ国は違う。強大な力を持ち、世界を統べるという覇道が決して不可能ではないからこそ、“英雄”というより強力な力を求め、それを持つ日本を許せない。

 

「一昔前の核と同じだ。自分が持つのは良い、だが他国が持つのは許さない。」

 

 まるでどこかのガキ大将のように、自分勝手で傲慢な態度。だが、それを通せるのが大国という強者であり、それを呑まされるのが日本という弱者。

 どんな綺麗事で言いつくろった所で、弱肉強食がこの世の掟。

 

 されど、大人しく食われてやる謂れはない。

 

「その3人が来るのはいつ頃ですか?」

 

「早ければ1週間後、遅くとも2週間後には特高へ向かう見込みです。」

 

「でしたら、仕事を増やさせてるのは気が進みませんが……やれ検疫だの、寮の部屋が空いていないだのと適当な理由をつけて、出来るだけ時間を稼いで頂けませんか?」

 

「構いませんよ。私から統合幕僚長や大臣にお願いしておきます。」

 

 最早特高や陸自の反対では覆せない以上、工作員の転入阻止は諦めて、現実的な対処法の相談をし合うしかない。

 

「その3人には1年A組から常に2人ずつ、監視をつけますがよろしいですね?」

 

「当然です。転入までは確約しましたが、校内で好き勝手させるとまでは約束していないので、その点は安心して下さい。」

 

「表向きは単なる外国からの転校生として受け入れる事になるでしょうし、……天道寺英人に裏を見せれん以上、どうしても接触は許してしまいますがな。」

 

「それは仕方あるまい。余計な事を言い出したら、それとなく邪魔をし、間違っても2人きりになどさせぬよう、必ず誰かが張り付くしかない。」

 

 聖剣使いが、遥々海外から訪れた美人転校生3名と、それに嫉妬した同級生の女子達に取り合いされて喧嘩の中心となる__等と、何も知らぬキーマンから見るクラスの絵面を想像して、辟易してしまう。

 

「男としては、少し羨ましくもありますがね。」

 

「余計な冗談言いなさんな、岩塚幕僚長。」

 

「おっと、すみませんな芹沢校長。」

 

「……厄介者が来る前に、1つ片付けておきたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「「何をですかい??」」

 

 息ピッタリに合わさり尋ねてきた校長と幕僚長へ伝えるのは、聖剣使いが復帰し、戦力に余裕ができた今だからこそ、ようやく解決に乗り出せる懸念材料とその対処。

 

「黒檜山のピラーを探索、後に破壊します。」

 

 衛星写真では発見できなかった、しかし必ず山中に隠れている筈の、CEの拠点を破壊して、後顧の憂いを断ち切る。

 

「任せよう、好きにやりたまえ。」

 

「了解。」

 

「校長は如何ですかな?」

 

()()()()としての活動は三佐に一任してあります故、彼女が実施すると決めたならば容認し、校長として支援する迄です。」

 

「では頼みますぞ。」

 

 2人で画面前で敬礼して、通話が終了した。そして校長が私の方へ首を向けてくる。

「……色鐘君、できるのかね?」

 

「はい。既に大枠だけなら完成しております。後は細部を詰めながら、不確定要素の排除に取り組むのみとなります。」

 

「そうか、では大変だろうが是非とも励んでくれ。必要であれば何時も通り申請したまえ、武運を祈るぞ。」

 

「はっ!何としてでも、刺客の来日前に排除してみせます。」

 

 そう応えて私は退室し、自分の執務室に移ってから気持ちを切り替えるべく背伸びをし、机の引出しから黒檜山のピラー排除に向けた作戦計画のファイルを取り出す。

 

(「……私に許された責務と贖罪は、ピラーも外国も関係なく、汎ゆる敵から日本を守るべく戦い続ける事だけ、なのだ。)

 

 

>――――――――――――――――――<

 

 

 8日ぶりに日の光を浴びながら、己は特高へと帰還し、追い出す形で東京に向かってもらった犬塚を除いた親衛隊29名及び先程の歓待を受けた。

 

「皆が長いこと励ましてくれたお陰で、漸く自信を取り戻せた。ありがとう。ただすまないが、久々に体を動かした所為で疲れた。自室に戻って休まさせてくれ。」

 

 元々、己が復帰したらパーティをと予定していた彼女等には悪いが、まだ今日の仕事は終わっていないのでそう告げて打ち切らせ、1人早々に9番棟へ移る。

 

 そうしてサッとシャワーだけ済ませて、自室に入りヘッドホンを付けて布団に包まり。

 

「……高天原より天下りて。」

 

「火之迦具土神の星へと集わん。」

 

 通信部隊と交信する。

 

「現在、9の207より発信。其方の状況は?」

 

「此方は問題なし。尚、軽井沢ピラーの外殻消滅後、岩塚幕僚長より連絡が入り、交信より10分前にて芹沢・色鐘とのオンライン三者会談が終了せし。」

 

「了解。会談内容は海外からの刺客か?」

 

「嗚呼、英国の件はまだ公的ルートで来てないが、米露中の3ヶ国より“転校生3名の訪日・編入”のみ特高へ通達された。時間稼ぎが想定通り色鐘から要望されたが、承認で構わないな?」

 

「有無、己としても備えるべく()()の時間はまだ欲しいのでな。」

 

「なら改めてその旨を伝えておくぞ。……話は変わるが、御代田町での2戦目はどうだった?」

 

「詳細な推移は把握しておらぬが……、素晴らしい作戦勝ちであったのだろう?」

 

「御名答。」

 

 好敵手が先山と、一昨日の晩迄2人で試行錯誤していた姿を脳裏に浮かべる。

 

「実家に蓄えられていたであろう参考資料。特高搬入前に検閲されたが成程、古今東西質量共に優れた書物が豊富であった。」

 

「その大量の資料を、僅か1、2時間程度読み漁って草案組み上げノート1冊に書き纏めて先山に提示、おっかない知力と行動力だわ。」

 

「それから暇さえあれば食堂にて、対CE戦の経験とエース隊員の幻想兵器の把握に於いて()()奴より秀でている先山と作戦会議を行い、正二十面体型の深掘りや幻想兵器の情報共有等も含め話し合われておった。ククッ、お陰でエース隊全体に、特に1期Aに宗次の名が知れ渡ってくれたわ。」

 

「[機械仕掛けの英雄]にとってはマイナスだがな。んで一昨日、一応先山名義で日森に手渡され、色鐘三佐に提出。実施に向け指示が出され、機関としても予定通り協力した訳だ。お前もそれ読んで随分称賛してたが、……実際今日は、少なくとも通信隊隊長として分かり得る範囲でだが大成功だった様に思えたが、3()()()()()()()()()から見ても上出来な戦術だったのか?」

 

「応とも。」

 

 A4レポート用紙1枚分に纏められた戦術の流れを思い起こす。

 

 __準備段階では、全面的に鋼板で覆いカメラを外付けしてある装甲車1台を整備班に用意させておく。理由は、CEと相対するに於いて唯の装甲車だと、光線が硝子窓を通り抜けて、或いは車体の耐久性を上回る程の負荷を与えてしまい内部のエース隊員が車外に出られず撃ち抜かれてしまうからだ。

 その上で、再び二十面体型複数体を雑えた群れの侵攻を察知して迎撃戦を開始する日には、遭遇前に予め、殲滅力()()なら最上位の神近を含めて回転防御を意に介さぬ程の強大な短期戦用の幻想兵器使い、特殊能力による盾役も兼任できる先山、白兵最強ながらも継戦能力も高い宗次、相性の良い鈍器使いにして唯一運転経験のある遠藤の12名を、予想されるCEの侵攻ルートの側面の林に潜ませる。

 そしていざ戦闘を始めたならば、先ず戦闘力の限定的な者達で構成された大部隊によって六角柱(護衛兵)の大群を引き付けておく。さすれば当然、二十面体(狙撃手)が援護射撃すべく正面向いて妨害を気にせずに充填するが、その隙を狙って12名が改造装甲車で突入。

 前方の六角柱が気付いて反転する前に、二十面体の背後へ回り込んで、最初に先山が降車し❛聖なる加護❜で集中砲火を受け止めインターバルを作り、次に神近がレーヴァテインで大きく削り、第3に残り8名が殲滅させる。

 更に、認識力切れで二十面体を残してしまった時の為の予備戦力として宗次や遠藤を控えさせ、一方で後方からの支援を失った六角柱に対しては、陽動部隊で普段通り討ち滅ぼす。

 

 ……以上が想定される展開であったのだが。

 

「実際、作戦遂行に支障はなかったか?」

 

「嗚呼、敵の全滅、黒0の完全勝利さ。1期生Aの討ち漏らしは1体出たが武士が難なく撃破、その間六角柱が反転することなく潰されたぞ。まぁ、詳細は自分で視聴してくれ。それで、評価の続きは?」

 

「ふむ、敢えて問題点を、一言で表すならば、エース隊に高度な作戦行動を求めるのは困難とはいえ……稚拙、と呼ばざるを得ん。」

 

「確かにな。ま、本人も度々自嘲してたが、あくまでも()()()()()CEに対しては有効であって、人間相手に果たして通じるか、な程度だ。……逆にいえば。」

 

「教育機関は義務教育分の公立普通校のみ、私塾の経験はなく、家の道場には相当な書物が揃ってこそいるが教わったのは専ら個の武芸のみ。」

 

「成績も、地元どころか全国から募ってある特高でも上位クラス。だが特別天才って程でもなく、比較にすんのは馬鹿らしいが人外(お前)の足元には到底及ばない。が、それでも十分な逸材だ。……卒業後、入隊して幹部目指してくれねないものか?」

 

「本人の志望は○○村に帰って道場引継ぎであるがな。……嗚呼、重大な件を忘れておった。Pコアは無事回収できたか?」

 

「大丈夫さ。CEが1体残らず消滅された更地のど真ん中、迦具土神に伝えられた通り光に固められていたのを発見し、バレることなく例の研究所に持ち去ってみせた。衛星の目からも、指示通りその間だけ外されていたから記録にも写ってない。それで現在研究所内に再生せずに保管されてるぞ、お前のレシピで昨日作った液体に閉じ込められてな。」

 

「それは何より。では今後とも宜しく頼むぞ、同志秋葉。」

 

 と其処で、4日前の記憶を反芻し、己の罪過をふと思い起こす。

 

「……それと、同志雨宮の様子は如何であったか?」

 

「……“エース隊員”としては、俺の認識だと完全復活した模様だ。戦意はクラス内随一且つ入学以降最高潮、それでいて恋人の後追いする気はないらしく冷静に作戦内での役割を全うし、でもって味方の護衛にも精力的。一見すれば、寧ろ前より成長した様に思えたな。()()()()()()、だが。」

 

「そうか。一応、勧誘させた鹿島含めて身近な立場の同志には、エース隊全体の安定も

兼ねて支えてもらっているが、引き続き見守っておこう。」

 

「……とうに聞き飽きているのを承知で、また尋ねるぞ、迦具土神。ピラーをハッキングして人の魂を解放させ、意識不明者を目覚めさせるプログラムは完成してある、それは本当なんだな?」

 

「然り。意識の収奪・内包の原理も含め長野ピラー生態・構造・意思の全てを解析し、少なくとも身体が生命活動を維持している者に限り魂を元に返す手段は確立されている。幻想兵器で1000回のシミュレーションを重ね検証した。後は対人類の生存闘争に向けて分離される小型ピラーのコアを用いて修正してゆくのみだ。」

 

「……ま、俺はそもそも学者でも技術者でもないし、“精神”に関しては生死問わず大勢観察し弄くってただろうAI(壱型様)相手に質問することさえ、我ながら烏滸がましいがな。」

 

「否、己は素人質問ばかりか指摘であろうと大歓迎だぞ。」

 

「……まぁいい、話が長引き過ぎた。悪かったな迦具土神。通話切るぞ、大和万歳。」

 

「有無。お互いこれからも、犠牲にしてしまった草壁を黄泉から連れ戻す為に、そして大和と民草、人類種の輝かしき勝利の為に励んでゆこう。大和万歳。」

 

 会話を終えて、携帯端末を開き研究所(彼処)からの報告を読めば、先程語られた通りの内容が綴られていた。

 此方の状況報告と労いのメールを返信して、早めに眠りにつく。

 折角態々復活を歓迎する為の予定を組んでいた、色鐘や親衛隊には申し訳ないが。

 

(「ピラー活用に関する報告書の反響への対応、秘密研究施設の改築・増員と隠蔽工作、雨宮加入に当たっての手続、草壁家への補償、宗次案の準備の支援、ピラーコア回収に向けた新技開発。大層有意義であったものの、大忙しで寝不足気味なのでな、今日は休ませて頂きたい。」)

 

 何れ必ず到来させる大和の勝利を、CE犠牲者へ報いる時を。そして益々才覚を発揮させて戦友達を魅了しながら英雄へ登り詰めている、好敵手との誓戦(試合)を夢見る様に、目蓋を閉じる。

 

*1
岩塚哲也いわつかてつや陸将。総理大臣、防衛大臣、総合幕僚長に次ぐ、自衛隊という組織のトップに立つ人物であり、陸上自衛隊の最上位者でもある上官だ。また、芹沢校長とは先輩後輩の仲で、今だに交友関係が続いていると、聞いたことがある。 





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