英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 私事になりますが、昨日、映画『トラペジウム』視聴しました!夢理想に真っ直ぐ過ぎて手段を選ばず且つ行動力旺盛な姿勢、去れど固定観念と露骨な悪態等の所為でメンタルケアを疎かにし仲間から笑顔を奪ってしまう未熟さ、それでいて本編前に散々味わいデビュー後も格差感じて自己肯定感低めで、自分が無自覚に光放って誰かに幸せを与えながら本人から伝えられるまで気付けない有り様、そんな主人公でした!お陰で本作も、益々励んでゆけます。

○対面期間に於ける男3人の年齢について
 迦具土神壱型(天道寺英人):クリストファー・ヴァルゼライド:空知宗次=1017〜40代:20〜30代:16歳前後
 ヴァルゼライドと宗次はご覧の通り、大人と子供位離れた歳の差なのですが、本作主人公にしてみれば、たかが四半世紀にも満たない年齢差の2人とも、前回の秋葉が言うように「赤子同然」にあたるのです。



第28話 登山と凶剣

 

  月曜夜から降り続けた雨は、天気予報を裏切り一昨日の早朝まで続いた。雨が明けた昨日の早朝、長野ピラーからCEの群れが出現、西の名古屋方面に進軍し、自衛隊の砲撃によって撃破されたそうだ。これを受けて当日昼に、黒檜山の探索が土曜日__即ち今日に実施する旨を伝えられた。

 

 そういう訳で、今回の予備戦力にして、対ピラー駆逐用部隊として位置付けられたであろう英人達1年A組を除く全11クラス、エース隊約4百名が、黒檜山の手前にある大沼に集められている。

 

「ではこれより、黒檜山の山中に潜んでいる、小型ピラーの探索を開始する。」

 

 英人達の担任にして、エース隊を統括する色鐘指揮官の宣言と同時に、ヘッドセットのディスプレイに周辺の地図とルートが表示された。

 

「諸君らは分隊ごとに分担されたルートを、ピラーと思しき異物がないか探りつつ、約3㎞先の花見ヶ原キャンプ場まで進んで貰う。」

 

 たった3㎞とはいえ、道なき山の斜面を歩くのだ。今は午前7時だが、探索が終わるのは午後1時過ぎになるだろう。日が落ちた山中は一気に危険度が上がるため、時間にはかなりの余裕を持たせてあるが、それでも気は抜けない。

 

「CEと遭遇した場合は、撃破よりも逃走を優先して構わん。但し、逃げる際は分隊で固まって動き、バラバラに分かれて遭難しないよう、そこだけは注意せよ。」

 

綾子の後ろには、相馬原駐屯地から出向いてくれた2機の救助ヘリコプター・UH-60Jが、万一に備えて待機していた。

 

「では、探索開始っ!」

 

 色鐘先生がパンッと手を叩いたのを合図に、33個の分隊は其々のルートに向かって歩き出した。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 斯くして俺達32分隊は、担当となった黒檜山の南側、駒ヶ丘に近いルートを数時間掛けて歩き続けた。

 

 その間、音姫の選んだマニキュアを陽向が余程気に入ったのか暫し手を見てはニヤけてを繰り返したり、京子先生から俺だけに聞こえる様にベルト型変換器支給の進捗状況を伝えられたりしつつ、ピラーどころかCEにも出遭うことはなかった。その内皆に個人差はあれど疲労が見られ始めた辺りで、木々の開けた場所で早めの昼食を取ることに決めた俺達は、特高から渡された乾パンとオレンジスプレッドを和やかに食べているのが今の状況だ。

 

(「……それにしても、火曜は結構騒がせてしまったな。」)

 

 食べながらの愚痴混じりの雑談を他の皆としている優太にふと目が行って、そんな事を思い出す。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 黒檜山探索予定を伝えられた月曜の翌日、大河原先生が話していた通りの雨であったが、体育館*1で何時も通りの距離走って、模擬戦を行なった。

 

「宜しく頼む。矢を放つのに遠慮は不要だ。しっかり本気で射抜いてみせてくれ。」

 

「ははっ、難しいな。俺としては、お手柔らかに願うよ。」

 

 最初の相手は優太、『ロビンフッド』に於けるウィリアム・テルの弓を使ってくる。林檎状の赤い球体に対しては必中を誇り、故にCEの結晶に囲まれた小さなコアをも貫き__されど、斯様な代物を身に付けていない標的を狙うにあたっては、通常の弓同様に狙って撃たなければ当たらない。

 

「取り敢えず、俺は構えているから蜻蛉切の穂先に命中させてくれ。大丈夫だ、もう慣れている筈だ、確実に当たる。」

 

「……何時からそんな調子だったっけ?まぁいいや、そっちも気を引き締めてくれ!」

 

 そうして優太が此方の、標的へと狙いを定め、弓を引き矢を放ち__

 

カンッ

 

「お見事。なら次はこっちから攻めに行くぞ、接近されずに倒してみろ。」

 

「それで加減無しに動かれて、負けないでいられた遠距離系はまだ1人もいないんだけど。……挑戦してみるよ。」

 

 そうしてまた同様に弓を引き構える優太を見据え、俺も駆け抜け迫る姿勢を取り__後方に回した穂先に一瞬、視線が向いた。

 

 矢を真正面から受けた事で生じた僅かな傷。使用に支障を来す程でなく、そもそも対人戦故に用いるのは石突だから気にする必要はない、が。

 

(「折角の機会だし、試してみるか。」)

 

 __英人との2戦目、その前半感じた違和感の2つ目。当日結局分からぬまま誰にも言わなかった疑念だが、最近原理を推察できた。それは__

 

(「幻子の、そして意識の集中。装甲に費やされる分の幻子や干渉力を、攻撃を喰らう際以外常時武器に集め、攻撃性能を強化していた。」)

 

 即ち、防御をかなぐり捨てれば武器はより鋭く、丈夫となり、装甲も結晶もより削り砕け、また強靭な武器と鎬を削る際も優位となる。肉体的弱者だありながら判断力と集中力と勇気に秀でたライバルの対抗策だった訳だ。

 

 そして、俺もそうすれば__装甲が一時的に消滅する程の幻子を蜻蛉切に移せば、結晶の鎧を少量の力で穿てる筈だ。

 

(「相手の狙いを察して回避するのにも有効な練習法だ。付き合ってもらうぞ、優太。」)

 

 幻想兵器である以前に弓矢という凶器を前に、全弾回避若しくは射抜かれても突進する前提の下、自ら無防備となって死地へ挑む事。それは初陣にて掴み取った覚醒の好機にあたる、との認識で以て、優太の視線と弓を構える姿勢を見詰め、全てを注ぎ込むべく槍を握り締め、意識を限界以上に研ぎ澄まして__

 

ブーッ!ブーッ!ブーッ!ブーッ!

 

「空知!大丈夫かっ⁉︎」

 

「宗次君⁉︎」

 

「__え?」

 

 ………あれ?

 

「幻子装甲が完全消失したんだ、何があった⁉︎」

 

 先生も優太も、模擬戦や待機中の皆も一斉に大騒ぎしながら駆け寄ってきた、ので、(モデル(英人)の件は伏せて)正直に語ったら。

 

「「「……………」」」

 

「どうした皆?それに頭を抱えていますが、先生も大丈夫ですか?」

 

「………空知、訓練後、話がある。」

 

 そうして先生が、口の開きっぱなしな同級生一同にも行き渡らせる様に告げたのは。

 

「エース隊全員に忠告、いや()()する。決して、必ず、幻子装甲を自らの意思で弱めてはならない。これは模擬戦であれ実戦であれ、幻想変換器を装着する上で絶対の条件だ。取り返しのつかない危険を招く事、絶対に忘れず、慢心や好奇心に流されないで自分の心身生命を大切に守る精神を絶やすな。俺の命令、承知したな。」

 

「「「はい。」」」

 

「……はい。」

 

「では模擬戦を再開せよ。但し空知だけ、同級生の試合を観察してアドバイスするように。クラス内で1番強いお前なら、皆の成長を支えられる筈だ。くれぐれも、今日は幻想兵器を直接扱うな、分かったか。」

 

「はい。」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

(「……結局、その後試合を許されず助言や指摘に徹して、終わったら先生から厳重注意受ける羽目になってしまったが……、収穫はあった。」)

 

 第一に、装甲の応用性の広さ。第二に、幻子を操るコツの習得。第三に__

 

(「英人の変換器の仕様は、やはり俺の、或いは他のエース隊員のものとは異なる。」)

 

 模擬戦にて装甲半減(アラーム発生)後は幻想兵器を使えなくなる、との仕組みが彼奴だけ働かないことは2戦目時点で分かっていた。だがそれだけでなかった。俺が試した際、装甲分が急激に薄くなる感覚の途中でアラームが鳴った。そして英人の剣を受けた時や槍技を体へ直撃させた感覚を、初戦と2戦目で比較すれば、恐らく技を喰らう前には、既に何度も半分以下迄装甲から移していただろう。それでもアラームは、槍技を喰らった時のみ発生した。以上から考えられるのは、英人の変換器だけ、受けた衝撃か何かが装甲半減分以上に達した時のみ鳴るよう変更されている、と思われる。

 

(「それにしても、だとすれば英人はやはり__」)

 

「むっ!? ……誰か、ティシュ持っとらん?」

 

 と、何時の間にか食べ終えていた映助が真剣な眼差しを周りに向けてきた。まさか……

 

「汚いわね。」

 

「映助ちゃん最低です~」

 

「生理現象なんやから仕方ないやろっ!」

 

 女子6人から非難の眼差しを受け、涙目で叫び返す親友へ、こんな事もあろうかと用意しておいた、芯を抜いて縮めたトイレットペーパーを手渡す。

 

「兄弟、恩に着るでっ!」

 

「ちゃんと手は洗ってくださいよ。」

 

 一樹の注意を背に、映助が木々の影に入っていき__

 

「おわっ!?」

 

「どうしたっ!」

 

 10秒と経たぬ内に悲鳴があがり、蛇でも出たのかと、急いで声の元に駆け寄れば__

 

「あ、あれ……」

 

 驚愕に目を見開きながら、森の先を指差している。何があったと急いでそちらへ目を凝らして__

 

(「CE、か?だがアレは……」)

 

 木々の群れに隠れながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる赤い球体は、CEのコアである証明だ。然し、本体を覆う六角柱や正二十面体の結晶が無い。いや、遠目では分かり難かっただけで、更に集中して見遣れば、光を反射する結晶の煌きが見て取れる。但し其れは初めて見る輪郭__コアを中心として、上下に向かって線を引いたように伸びる、薄い板の如き光が映し出されている。

 

「何だ、あれは?」

 

 その個体が、身体を正面から一瞬真横へ逸らして、全容を垣間見れば__まるで幅の広い剣を、2本繋げた様な姿。名付けるとすれば、両刃型だろうか。

 

(「また、正二十面体型とは異なる新種と出会すとはな。今度はどんな戦闘パターンだ?」)

 

 警戒と疑念を胸に蜻蛉切を呼び出すと、後方から駆け付けて来た仲間のであろう足音が聞こえてくる。

 

「あれ、CEよね?」

 

「昼間に人魂は出ないと思いますよ~」

 

「な、なんか怖いです……」

 

 皆も、あの両刃剣の様な敵を見て、戸惑いの声を上げていた。

 

 生い茂る木々の合間に浮かぶ、赤い眼球のようなコアの輝きは、まるでこちらを窺う妖怪で、見ているだけで怖気(や闘志)が湧いてくる。

 

「こっちが当たりだったようだな。」

 

「ワテ、くじ運は悪い方なんやけどな……」

 

 軽口を叩き合いつつ、皆も幻想兵器を呼び出して構えた。

 

 幸い敵は1体しか見当たらず、映助が早期に発見してくれたお陰で、体勢を整える余裕もある。

 

 新種というのは気がかりだが、退くにはまだ早過ぎだ。

 

「一樹、優太、頼む。」

 

「はい、いきます。」

 

「あぁ、任せてくれ。」

 

 一樹と優太に、遠方から先制攻撃を加えるべく前に出てもらった。

 

 2人は、木々に当たらぬよう慎重に狙いを定めた様子を見せ、同時に射撃を放った。

 

 スリング石もウィリアム・テルの弓も、CEの赤い眼の如きコアに対しては必中となり、故に何方も真っ直ぐに飛翔する。

 

 だが、それがコアを貫く事はなかった。

 

 あの新種は突然、縦方向に高速回転して、向かってきた投石と矢を弾き飛ばしてしまった。

 

「「「何っ!?」」」

 

(「くっ、二十面体型に続き、此奴も回転防御持ち__いや、止まらない?まさか⁉︎」)

 

 驚愕の声、止まった攻撃、それを無視するが如く、新種が回転を減速させず寧ろ勢いを増して__獲物を狙う鷹の様に、此方へ向かって飛んで来る!

 

「えっ……?」

 

「伏せろっ!」

 

 最前列に出ていた一樹の硬直、迫る回転鋸の如き結晶の刃、咄嗟に蜻蛉切で後ろから足を払って、無理やり転ばせる。

 

「うわっ!」

 

(「間に合ったか。だがアレは危険だな。」)

 

 背中から地面に落ちたその側を、新種が通り過ぎて行った。

 

 新種は木の枝を切り落としながら、そのまま20mほど突き進んだかと思うと、ゆっくりと弧を描いて旋回し、再び此方に突撃してくる。

 

「な、何なんだよこいつっ!?」

 

 CEと言えば人間の精神を、魂を奪う様な光線を発してくるだけの存在だった筈であり、直接的な物理攻撃を仕掛ける事例は聞いた事がない*2

 

 そんな非難を叫ぶ余裕すら、今はない。

 

「来るぞ、避けろ!」

 

 両刃剣型が剛史へ襲い掛かり、救援も回避もさせてくれない。

 

「くそっ!」

 

 剛史が反射的に(マサカリ)を前に掲げ、攻撃を防ごうとした__が、回転の力があまりにも強過ぎるのか、鉞は弾き飛ばされ、結晶の刃が彼の左肩を切り裂いてしまう。

 

「ぐわーっ!」

 

ブゥーッ!

 

 幻子装甲のお陰で、肉体にまでダメージは通らなかった様だが、たった一撃で半分も装甲を削られたのか、警告のアラームが鳴り響いた。

 

「ひぃ……!」

 

 その光景を前に、真由里が悲鳴を上げたのも無理はない。頭や理屈ではなく、心や感性で分かってしまう。

 

 人の精神、意識を奪う攻撃をしてきた、今迄のCEとこの両刃剣型は違う。皮を切り裂き、骨を断ち、血と内臓を撒き散らして、此方を殺しにきている。

 

 戦死とは言っても、実際には意識不明の昏睡状態であり、医学やCEの研究が進めば、ひょっとしたら目覚めるかもしれないという、僅かな希望が残っていた、これ迄の犠牲者達とは違う。決して蘇る事のない、完全なる肉体の死が、人間(俺達)》に迫ってきている。

 

「ま、また来たっ!?」

 

 再び旋回してきた両刃剣が、今度は避けようとした豊生の背中を切り裂きながら通り過ぎていく。

 

「こんなん、どうせいって言うねんっ!?」

 

 確かに、反撃しようにも、真正面からでは回転の威力で弾かれてしまう。そもそも、鷹のごとき速度で飛んで来る巨大な剣なんて代物を相手取る術も分からないだろう__と、混乱や絶望が皆の空気を染め上げ尽くす前に、何とか捻り出した急拵えの戦法を試すべく動く。

 

「鴉崎さん、手を貸してくれ!」

 

「え、えっ……!?」

 

 先ずは、驚く神奈の手を引いて、皆の前に出る。

 

(「あれは単純に、一番近い相手に突撃している。」)

 

 旋回を終え、またも向かってくる両刃剣型を睨みながら、太い木の前に神奈を立たせ、その後ろに控える。

 

「一瞬でいい、耐えてくれ。」

 

「は、はい……っ!」

 

 神奈は言われるまま、木の幹に押し付けるように盾を構えてくれた。そんな彼女に向けて、回転ノコギリと化したCEが突進し、太い木の幹さえ、容易く真っ二つに切り裂いて近づいてくる。

 

 だが、最強の矛以外には決して破れぬ、最強の盾までは断ち切れない。

 

「ひぅ……っ!」

 

 衝撃に負けて倒れる神奈の前で、己が切り裂いた木に挟まれる形で、両刃剣型の動きが一瞬止まる。それだけあれば、十分な隙だ。

 

 木に柄を引っ掛けぬよう、槍を短く握りながら、素早く敵の横に回り込み、近距離からの突きを放つ。

 

❛空壱流槍術・横胴貫❜

 

 中心部のコアを貫いたことで、両刃剣型は既存のCEと同様に欠片となって砕け散った。

 

「悪いが、回転技の相手はもう慣れた。」

 

「おぉ、流石は兄弟やでっ!」

 

「やっぱり格好良いな……」

 

「陽向ちゃん、こんな時まで惚気るのは止めてくれます~?……んで、2人とも大丈夫ですか~」

 

「な、何とかな。」

 

「だけどもう、幻子装甲が限界__」

 

 剛史と共に立ち上がろうとした豊生が、CEのやってきた森の方角を向いたまま、中腰の姿勢で固まる。__まさか。

 

「あ、あれ……」

 

 声を震わせながら、指を差したその先へと俺達は目線を移せば。

 

 木々が陽光を遮る、薄暗い森の奥、血のように不気味な赤い輝きが1つ、2つ、3つ、4つ、5つ……。

 

 数えるのも馬鹿らしい程の剣の群れが、血を求めるが如く、此方へ押し寄せてきていた。それを目にした、皆の答えは唯一つ。

 

「あんなん相手にしてられんわっ!」

 

「走れ、逃げるぞっ!」

 

 元来た西の方向に向けて、一斉に駆け出してゆく。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 森の中を西へと、必死に逃げ続けてはいるものの、背後から迫る赤い光の群れは、引き離すどころか徐々に距離を縮めている。

 

(「やはり、きついか。」)

 

 木の根や岩が邪魔をする森の中では、毎日何十周も校庭を走って鍛えたエース隊員の足でも、とても速度を出せる場所ではない。

 

(「それに、体力も厳しい。」)

 

 隊の最後尾につき、走りながら皆の疲労度を窺っていたのだが、中学の時に文系クラブで運動をしていないらしく、元々の体力が少なかった一樹・神奈・真由里の足が遅れ始めている。

 

 今は下り道を走っているからいいが、登りとなれば一気に体力が底を突き、背後のCEに追いつかれるだろう。

 

「…………」

 

「宗次君、また馬鹿な事を考えているでしょ。」

 

 いつの間にか横に並んでいた陽向に、非難の視線で睨まれて、驚いて顔を上げる。

 

「どうして分かったんだ?」

 

「それは__」

 

 陽向が何か言い掛けて、言うのを止めたのか赤くなって頭を振る。

 

「と、とにかく、またあの時みたいな真似は許さないからね!」

 

「しかし、このままでは拙い。」

 

 走り続けながら、一瞬背後を振り返る。

 

 森の影で輝くCEの数は、凡そ30体程度とそこまで多くはないが、全て新種の両刃剣型である。このまま追いつかれれば、誰かが確実に斬り殺される。ならば、被害を最小限に抑えなければならない。

 

「けど、宗次君が死んだら、私__」

 

 泣きそうになる陽向の声を、笑いながら手をかざして遮った。

 

「大丈夫だ、死ぬつもりはない。そもそも、あれと正面から戦う気もない。」

 

「えっ?」

 

「囮になって、あいつらを誘導する」

 

 両刃剣型はその攻撃方法と威力こそ脅威だったが、知能は正二十面体型に劣るようで、ただ一番近い相手に突進するだけだった。その習性を利用し、独りで敵の群れを別方向に誘導して、皆が逃げる時間を稼ぐ。

 

「俺1人なら、逃げ切る自信はある。」

 

 子供の頃から山の中を駆け回り、遊んできた身だ。まだ体力も脚力も十分に余裕があるし、この入り組んだ環境も慣れっ子だ。

 

(「……本当は、単騎で奴等を殲滅してみたいんだがな。」)

 

 流石に今回は、初陣での殿より難しそうだし、皆に余計な心配を掛けさせるから、残念だが自重せざるを得ない。

 

 そんな俺の笑顔を見た陽向が、軽く溜息を吐くと、真っ直ぐに見詰めてくる。

 

「分かった、でも私もついて行くから。」

 

「然し__」

 

「1人じゃ囮として足りないかもしれないでしょ?」

 

「むっ……」

 

 痛い所を突かれて、思わず黙り込んでしまう。

 

 CEは基本的に、大勢の人間が居る方に進む性質がある。近くに居るのが宗次だとしても、彼を無視して遠くの11人を追う可能性はあった。戦術的合理性を追求するなら願ってもない申し出で__

 

「だが……」

 

 彼女を、仲間を危険な目に付き合わせたくなくて、何とか説得しようとするも、陽向が無視して通信機に叫ぶ。

 

「京子先生、聞こえてたでしょ?どっちに誘導すればいいの?」

 

「……北よ、他の分隊が集合して、そちらの救援に向かっているわ。但し合流するには、まだ1時間以上も掛かるわ。」

 

 話を振られた京子先生が、溜息交じりにそう答えた。

 

「1時間以上……、逃げ切ってやるわ!」

 

全く貴女まで……2人とも、止めてもやるんでしょう、絶対に生きて帰るのよ。」

 

「はい。」

 

 心配しながらも認めてくれた先生へ、力強く頷き返し、隣の陽向をもう1度見詰める。

 

「いいんだな?」

 

「うんっ!」

 

 笑顔で頷いて見せた戦友へ微笑み返し、先頭を走る親友に向かって叫ぶ。

 

「映助、俺達が囮になって敵を引き剥がす。後は任せたぞ!」

 

「ちょっ、いきなり何言い出すねんっ!?」

 

「心配しないで、だから止まらず走って!」

 

「えっ、陽向ちゃんまでですか~っ!?」

 

 驚く皆が止めようとする前に、俺達は西から北へと走る方向を変え、迫るCEを引き寄せるべく一度足を止めた。

 

「京子先生、皆は?」

 

「……大丈夫、ちゃんと逃げているわ。」

 

 説得の真っ最中だったのだろう、先生は少し遅れて、問題なしと返事を寄こした。

 

「なら、俺達も逃げ切るだけだ。」

 

「そうね。」

 

 頷き合っていると、狙い通り両刃剣型が向かってくる。

 

 そして、約20mまで近付いたところで、先頭を進んでいた1体が、回転しながら突進してきた。

 

「平坂さん!」

 

「任せて!」

 

 槍を両手で構えて太い木の前に移動し、背後に陽向が張り付く様に隠れた。

 

 それに気付かず突っ込んできた両刃剣型は、再び木を真っ二つに両断し__

 

(「今だけ穂先は不要だ、集中させろ!」)

 

 装甲分を蜻蛉切へ移した、あの手法の応用により穂先が消える程移し替えて強化した柄で、受け止められて動きを止め、直後陽向が俺の背から飛び出て、村雨の刃でコアを両断する。

 

「行こう!」

 

 共に、結晶が砕け散る姿には目もくれず、再び北に向かって走り出す。

 

 仲間がやられて怒ったわけでもなかろうが、残る30体あまりの両刃剣型は、全て此方の後を追ってきた。

 

「……あと7回程度だな。」

 

 走りながら蜻蛉切の柄を見ると、結晶の回転鋸を受け止めたせいで、僅かに薄い切り傷が刻まれていた。

 

 一度破壊された幻想兵器は、再び呼び出せるようになるまで十分前後は掛かる。その間、無手で逃げ続けるという状況は、出来れば避けたかった。

 

 幸い、先頭と後続の距離が開いていたおかげで、他の両刃剣型まで攻撃を開始してくる事はなく、此方とつかず離れずの距離を保ちつつ、山の中を走り続けてゆく。

 

「はぁ、本当にしつこいっ!」

 

 10分以上も走り続けているが、変わらず同じ速度で追ってくるCE達に、陽向が軽く息を荒げつつも悪態を漏らした。

 

(「まだ余裕はある、何とかなりそうだな。」)

 

 生徒会長達の第0分隊がヘリに搭乗を終え、この先で降下して待ち構える手筈になっているそうだ。其処迄誘導できれば、取り敢えず追ってくる奴等は彼等と共に撃退できるだろう。

 

 勿論、森に隠れて見えないだけで、まだ大量のCEが潜んでいる可能性が高く、急いで撤収する必要はあったが。

 

 そう、希望が見てきた時__

 

「__っ、眩しいっ!」

 

 背後から迫るCEに急き立てられ、俺より余裕のない心境で走り続けていたであろう陽向が、森を抜けて目の前が急に明るくなった瞬間、手を掲げて視界を遮ってしまい__

 

「えっ……」

 

「__なっ⁉︎」

 

 突然崖の淵に身を乗り出して、落下し始めて__

 

「平坂さんっ!」

 

 咄嗟に槍を投げ捨て、離れゆくその手を掴めた__ものの、それで半分以上も足場から乗り出した体勢になったのか、2人分の体重を地面から離れかけた片足で支えられる筈なく、直ぐに俺も崖から落ちてしまった。

 

(「死なせて、たまるかっ!」)

 

 陽向を庇う様に抱き締め、防御本能(装甲)を全力で捻り出し展開し、岩にぶつかって体が跳ねる衝撃を受け、まだだ耐えろ守るんだと歯を食い縛りながら心の中で叫び続け___

 

*1
雨天につきグラウンドが使えない日は、体育館にて走り込みや模擬戦を行うことになる。但しスペースは当然狭くなるので、学年・クラス毎でなるべく均等に特訓できるよう割り振られるという。その際、本来特訓の時間だが当日中に体育館を使用できなかったクラスは全日座学となり、一方で使用したクラスは後日グラウンドの使用を他クラスに譲り特訓の時間が座学になる、という制度だそうだ。

*2
正二十面体型の高速回転は、直に触れようものなら確実に幻子装甲を削りまた吹っ飛ばす程に危険だ。然しあれはあくまで攻撃を跳ね返す防御技に過ぎず、少なくとも見てきた限りに於いて回転しながら突撃してくる真似はなかった。





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 因みに本作宗次は、幻想兵器のレベルは勿論のこと、身体能力や学力さえも光属性らしい熱意や理想を得てより努力に励んでいるお陰で、原作より上達しております。但し、本文中に於ける体育館内の1件然り、初陣に於いて原作通りの独断行動に加えオリジナルの無謀な攻略法の所為で、大河原先生からは内心問題児との印象も抱かれております。

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