英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
今話は、第5章宗次視点回の最後になります。
「__まだだ!!」
そう叫んで、英雄が立ち上がった。
その猛りに、未来を見つめた真っ直ぐな瞳に、心が打ち震えた。
「エクスゥ、カリバァァァァ!!」
決意の喝破に呼応して掲げられた黄金光は、太陽みたいに眩しくて揺るぎなく、不撓不屈の覚悟と理想を示されて。
(「__勝つのは、俺だ。」)
だからこそ、全身全霊で挑むべく、それだけを思って、眼前の天才の如く分析し何処迄も冷徹に倒し方を構築した。
どんな危険を冒してでも、必ず勝利してみせる。この槍の誇りと、漢としての矜持と、相手への敬意を以て。
たとえ隙をつけたとしても、奴ならそれでも立ち上がって抗う筈だと、確信に満ちた期待を胸に。
「宗次、済まない。__止めてくれぇぇぇェ!!!」
__爺ちゃんとの稽古で勝った事は一度もなく、だが俺にとって最初にして真の
――――――――――――――――
「__……ん?あ、れ……、確か、俺は……」
目蓋を開き、初めに見えた光景は、生い茂った木々の合間から微かに覗く赤い空。
同時に、今迄の経緯を思い出す。
「……生きてる。」
その事実に、喜びではなく驚きの呟きが漏れた。数秒の間、そのまま呆然と空を見上げ__
「平坂さんっ!?」
拙いと飛び起き、共に転げ落ちた彼女の姿を探し、直ぐ横に目を瞑って倒れていた彼女を見つける。
「……っ!」
全身から鈍痛が響くが、そんな事はどうでもいいと、急ぎ這うようにして陽向に近づく。
口の前と首筋に手を当てるが、息も脈も確かにある。丹念に全身を見回してみるが、出血は見られず、単に気を失っているだけらしい。
「良かった……」
安堵の息を漏らすと、漸く落ち着いて周囲を見回す。
両側が高い岩壁になっており、崖というより谷の底といった方が正確であろうか。幅は10mもなく狭いが、高さは40m近くもあって、登り切るのは難しそうだ。
「……よく死ななかったな。」
生身であれば普通は死んでいる、恐らく幻子装甲のお陰なのだろう。流石に全ての衝撃を吸収するのは不可能だったらしく、自分の全身を見下ろせば薄い青痣が出来ていたが、少なくとも裂傷や骨折は見られなかった。
「助かった。」
右腕の変換器に礼を告げつつ、改めて疑問を呟く。
「何故、生きている?」
装甲のお陰で、谷を転げ落ちても死ななかったのは分かる。
だがその後、背後に迫っていたCEに、殺されなかった理由が分からない。宙に浮いて進むあの結晶体達ならば、これほど深い谷の底でも、平気で降りてこられたはずなのに。
「見逃すはずもないが……」
心があるとも思えない結晶体が、慈悲をかける筈もない。
タイミングよく救援が到着してCEを撃退したのならば、自分達が救助されていないのがおかしい。
ならば、考えられる答えは1つ。
「俺達を見つけられなかった?」
目標を見失って別の所に移動した、そう考えるのが妥当であろう。だが、いきなり谷の底に落ちたからといって、気付かないなんて事があるだろうか。
「数百m程度、訳もないはずだ。」
CEは人が大勢いる方向に進む習性がある。つまり、遥か先にいる多数の人間を、感知する機能があるという事だ__が、然し、ならば。
「CEは、どうやって俺達を捉えている?」
あの硬い結晶の体に、鼻や耳のような器官があるとは思えない。中心部で赤く輝くコアは、まるで目の様に見えるが、生物のそれと同様に光を受容する感覚器官があるかと言われれば、やはり疑わしい。
それでも、CEは間違いなく人間を狙い、その精神を奪い取って意識不明に陥れて__
「まさか、意識か?」
確信めいた直感が、ふと閃いた。
人の精神、意識なんて物は神経細胞の化学反応にすぎない、という冷めた考えは、人の意思を伝達する幻子という新たな粒子の発見により、ほぼ否定された。精神は確かに存在する。少なくとも、幻想兵器という膨大なエネルギーを生み出す程度には。__それが、授業にて語られた現行の科学的常識であるそうだ。
CEはそれを感知して、人間を襲っているのではないか。だから、気絶して完全に意識を失っていた宗次達を、そこらの石と判別がつかず、見失ったのではないか。
「……分からんな。」
CEは眠っている人間を襲うかどうか、そんな実験データでもあればハッキリとするのだが、流石にそこまで外道な研究をしてはいないだろう。
「しかし、意識を奪うか……」
改めて疑問に思う、CEは何故人の意識を奪っているのか。
人類を駆逐して地球を征服するというのなら、今日現れた両刃剣型のような個体を、最初から繰り出すべきである。
そもそも、世界中にピラーが出現した六年前のあの日以降、CEは大軍で襲ってくる事はなく、散発的に小部隊を繰り出しては全て撃退されてきたという。複雑な知能が無いとしても、あまりにもお粗末な行動である。
其処から察するに、CEは人間の殺戮・排除目的で襲っているのではなく、意識を奪う事こそを目的としているのだろう。
「精神エネルギーを食うとでもいうのか?」
まるでSF映画の怪物だ__いや、CEは実際に怪物だったな。
「さしずめ、蟻の化け物だな。」
ピラーを女王と考えれば、光線で精神を集める六角中や正二十面体は、餌を運ぶ働き蟻。新たに現れた両刃剣型は、外敵を倒す兵隊蟻。ピラーという生命を維持するために、エネルギーを運ぶ赤血球と、病原体と戦う白血球と言い換えてもよいだろう。
「……待て。」
己の連想に、思わず冷や汗が浮かぶ。
意識を奪うのではなく、肉を切り裂き物理的に人を殺すという、凶悪な両刃剣型。それが白血球のような免疫機構として生み出されたのならば、倒すべき病原体が居るはずだ。
「俺達か?」
否、特高とエース隊員が生み出されたのは2年前、最初の幻想兵器使いだという
ならば、何を倒すために生み出されたのか?
考えるまでもない、1人居るではないか。
CEの本体、ピラーが生き延びる為には、急激な進化を促してでも、今のうちに倒さねばならない
「ん……宗次君……?」
横から陽向のか細い声が響いてきて、慌てて思考の海から舞い戻る。
「よかった、気が付いたか。」
「あれ、私……宗次君に抱きしめられ、うわわっ!」
陽向が真っ赤になりながら、勢いよく起き上がり、然し直ぐ痛みに顔を歪めて座り込んだ。
「痛っ……」
「無理をしない方がいい、外傷はないようだが。」
「えっ、まさか宗次君、私の体を調べたのっ!?」
「ざっと見ただけだ、触診はしていないから、自分で確かめてくれ」
「あっ、うん、そうだよね……」
(「幾ら何でも、無断で異性の身体に触ったり服の下まで覗く訳にはいかないからな。……脈の確認はさておき。」)
すると陽向が、安心したような残念なような、複雑な顔を何故か向けてきたが、自分の身体を確かめられる様に、黙って背を向ける。
「うん、大丈夫。少し手足が痛むけど、捻ったりはしていないよ。」
「そうか、良かった。」
自分の体を調べ終えた陽向に、振り返って笑みを浮かべる。だがその後、暗い顔で俯かれて。
「ごめんね、私のドジに宗次君まで巻き込んで……」
「気にしないでくれ。元はと言えば、俺の馬鹿に君を巻き込んだせいさ。だから、謝り合ったりするのはやめて、今はこの状況を何とかしよう。」
そう告げると、陽向が自分の頬を叩いて、気持ちを切り替えたのか、改めて周囲を見回した。
「それにしても、凄い高さから落ちたね。」
「あぁ、登るのは不可能だろう。」
ピッケルとハーケンも買っておくべきだったかと、軽く後悔する。
「そうだ、助けを呼べばっ!」
「忘れていた、通信機で__」
言われて思い出し耳に手を当てる……が、其処には空気と皮膚と髪だけだった。どうもヘッドセットが転げ落ちた時に外れてしまったらしく、周囲を探っても見当たらなかった。
「平坂さんのは?」
「……駄目、動かない。」
故障したのか電池が切れたのか、いくらスイッチを押しても、陽向のヘッドセットは無言のままだ。
「救助が来れば良いが。」
上を見上げるが、谷の両脇から生えた木々によって、空は殆ど見えない。つまり、ヘリで上空から探索しても、谷底の俺達を発見するのは困難であろう。
「こちらの位置は分かっている筈だが。」
転げ落ちる直前まで、ヘッドセットは彼らの位置やカメラの映像を、指揮車へと送っていた筈だから、衛星写真で確認できずとも、おおよその場所は把握しているだろう。
然し、空色から落下より数時間は経っているだろうに、救助が来た様子はない。
「まさか、私達見捨てられちゃった!?」
「いや、それはないだろう。」
通信の反応がなく、状況から死んだと判断されても、遺体の回収には来る筈だ。なのに、ここまで来ていないという事は、何らかの事情で来られなかったと考えるべきか。
「CEの大軍が押し寄せて、退くしかなかったとか。」
想像だが、気絶した囮を見失った30体あまりの両刃剣型は、俺達を救助すべく、此処より少し北に降下してきた第0分隊の方に向かい返り討ちにあうも、分隊の方は激しい消耗により継戦困難となって、その時さらなるCEの群れが確認され、口惜しいが退くしかなかった。恐らくはそんな所であろう。
「けど、それって結局、私達が見捨てられたって事じゃない?」
「……そうだな。」
少し考え、素直に頷くと、そんな俺を見詰めていた陽向が、呆れて溜息を吐いた。
「またCEが襲って来るかもしれないのに、本当に冷静なんだから……」
「そんな事はないと思うが。」
(「死を恐れぬ狂戦士に思われているようで心外__……いや、我ながら身に覚えが有り過ぎた。」)
「でも、頼りにしてるからね。」
心細さからか手を握ってくる陽向に、強く頷き返す。
「嗚呼、絶対に守ってみせる。」
「__ち、ちょっとま、待ってよ……!ええ、と、その……」
「……?大丈夫か?……まさか熱が!?」
「い、いや問題ない問題ない平気平気!そ、その少し、そんなキリッとした顔で言われて、恥ずかしくて……、少しだからね!心配要らないから!」
「そうか。ならいいが、僅かでも異変を感じたら直ぐ報告してくれ。余計な気遣いで黙ったまま、体調を悪化されては困る。」
「わ、分かったわ大丈夫よ。それと、何と言うか……ロマンを感じたっていうか、ほら初陣の際は、絶対に保証できる自信のないことは口にしない様にしてたじゃない。」
先月末の、陽向との会話を思い出して苦笑する。
「嗚呼、そうだったな。……当時とは考えが変わったというか、深く強く確信しただけさ。」
「考え、って?」
「人は心一つ、思い一つで何事も成し遂げられる。勇気と気力と夢さえあれば、どんな不可能も可能になる。だから安心してくれ、何が起ころうと、生還させてみせる。」
(「そうだろ?英人。
それはさておき、もっと口を強く噤みながら顔が紅くなり全身震えている(もしや我慢してくれているだけで一刻の猶予もないかもしれない)陽向へと、荷物確認を呼び掛ける。
背中のバックパックをおろして開くが、折角買ったライトは転落の衝撃で壊れていた。だが、支給されたコンパスと地図、それにナイフと救急セット、ライターや固形燃料は無事であった。
食料は昼の分で食べ尽くしてしまったが、水筒の中身はまだ十分残っている。
「時刻は17時か。」
腕時計を確認して、随分と長い間、気を失っていたのだと改めて知った。再び空を見上げるが、今はまだ十分に明るいものの、あと1時間と経たず日が落ちて暗くなってくるだろう。
「危険だな。」
CEとの夜間戦闘はもちろん、夜の山を歩くなど自殺行為でしかない。しかも、此処は登る場所も見当たらない谷の底、下手に動き回る事もできやしない。
それらの現状を分析した上で、最善の方法は1つである。
「寝ようか。」
「……えっ?」
「今日は、此処で夜を明かす。」
「えぇぇぇーーーっ!?」
何故か絶叫した陽向を眺めつつ、横になって理由を説く。
「体の痛みも取れていないし、明日の朝まで寝たほうがいい。」
CEに襲われる危険性はあったが、それは動き回っても同じ事である。ならば、救助が来る可能性もあるし、下手に動かず夜を明かした方がいいだろう……が、どうも激しく動揺していて。
「いや、その、急にそんな……」
「平坂さん?(まさか俺と、或いは男と一緒に寝るのは無理だ、とか?ならできる限り意識されないよう、離れて気配も音も立てないで眠ると説得するか。)」
真っ赤になって慌てふためく陽向だが、暫し深呼吸を繰り返すと、深々と頭を下げて__
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」
「あ、あぁ……(傍では寝たくない、という訳じゃない、のか?)」
戸惑って首を傾げつつ、陽向が寝やすいよう地面の小石を手で払っておく事にした。
――――――――――――――――
その後、陽向の健康と装甲の応用開発を兼ねて実施すべく、彼女を説得してどうにか了承させ、色々雑談している内に眠って、俺の方は練習継続の為、意識を保ち続ける傍ら授業内容やら空壱流の技やらを頭の中で復習し、気付けば空が白み始めてきた。
「ん……あ、宗次君。……もしかして、まだ起きてたの!?」
陽向の寝起きの言葉で、ふと時間を確認したら、午前4時頃であった。
「まぁな、地面は固いし眠気もなかったから、寧ろ助かった位だ。寒くなかったか?」
「それは宗次君の方でしょ。本当にできてたの?」
「予想以上に、な。それより、怪我の痛みも引いたし、体力が落ちる前に動き出そう。」
食料は無く、水筒の水もほぼ飲み尽くしてしまった。 時間が経てば歩く事も不可能となる。その前に森を抜ける必要がある。
(「本来であれば、救助を信じて待つべきなんだろうが……」)
谷底に転落してから半日以上が経つが、救助が来る様子はない。CEがいつ襲ってくるかも分からない状況で、ただ餓え渇きながら他人を当てにするのは、流石に不安だ。それに、陽向の体調も、俺の変換器の電池残量も怪しい以上、あまり悠長にしてはいられない。
「どっちに行くの?」
「先ずは西だな。」
昨日方位磁石を確認したら、谷の底は西から東南の方向に伸びているようだった。ならば、探索の出発点であった大沼のある、西方向に進むのが最善だ。
__然し、西方へ歩いて5分足らずで。
「これは登れそうにないな……」
30m以上はある急な岩壁に立ち塞がれてしまい、天辺を見上げて直ぐに諦め切り替えることにする。
「じゃあ、反対方向に行く?」
「……それしかないか。」
東南は両刃剣型と遭遇した方向であるので、危険性が高く出来れば避けたかったが、他に道がない以上は仕方がない。
そうして来た道を戻り通り越して、20分程歩き、それでも未だ谷底から出られず__
「待った。」
即座に立ち止まり、横を歩いていた陽向を手で制する。
「どうしたの?」
「前方に、何か違和感がある。」
陽向が前に屈み目を凝らし、俺も今度はじっくり凝視しながら10秒後、漸く前方の代わり映えがしない景色に潜む何かを見抜いた。
「あそこだけ、妙に綺麗なような……」
ゴツゴツと張り出した岩壁が続く谷の中で、一か所だけ妙に平らな岩肌があったのだ。周りの岩と同じ土気色ながら、上空から差し込む僅かな光を、まるで磨いた鏡のように反射する美しいそれは__
「まさか、ピラーっ!?」
「そのようだ。」
自分達が探し求めていた物を、最悪の形で発見してしまい、額に冷や汗を浮かべつつも感心する。
「道理で見つからない訳だ。」
木々によって隠された、狭い谷の側面に半分埋もれて、擬態なのか周囲の岩と同じ色を纏っている。これでは、衛星写真をいくら精査しても、見つかりようがない。
(「偶然ではない、これを狙ってやったとするならば……」)
ピラーには知能がある。葉っぱに擬態する昆虫の如き、生存本能と言うべき簡素なものだとしても。
「宗次君、どうするの?」
「…………」
(「選択肢は3つ。だが、何れにせよ……」)
観察している限り、此方に気付いていないのか、または昨日、両刃剣型を大量に生み出したりして余力が残っていないのか、ピラーからCEが出てくる様子はない。然し、此方が近づいたり刺激を与えたりすれば、大人しくしている保証はない。とはいえ、谷底を這い上がる手段はなく、脱出路はこの先にしかない。
(「いっそ動かれる前に俺達で……いや、それは危険過ぎる。」)
小型ピラーに槍を突き刺し刀で斬り掛かって、抵抗されずに倒す。最も理想的な選択はこれであり、決意のままに挑めばやってやれない事はない。……などと、そうしたい気持ちは山々だが、あの小型ピラーの耐久性はCEを上回る、としか想像できず、試すには極めて知らなさ過ぎる。況してや俺も陽向も、決して万全な状態ではなく、更に俺1人だけで挑戦するなら兎も角今だと必ず陽向も巻き込んでしまう。それでもアレが市民やエース隊にとっての直ちに潰すべき圧倒的脅威というなら、この場の2人の生命を賭けてでも倒さねばならない、という
となればその選択肢は除外せざるを得ず、では運を天に任せて駆け抜けるか、引き返して西側の絶壁を無理に登るか。何方がマシな道かを考える事にして__
「空知宗次君っ!平坂陽向君っ!居たら返事をしてくれっ!」
突然、上空から拡声器による大声と共に、激しいローダー音が鳴り響いてきた!
「えっ、救助が来たっ!?」
「見捨てられてはいなかったか。」
半分諦めていた救いの手に、思わず胸を撫で下ろす。
「おーい、ここですーっ!」
木々の隙間から僅かに見える空に向かって、陽向が大声を上げながら手を振った__直後。
今まで土気色に染まっていたたピラーが、新たな手下を生み出すつもりか、擬態を解いて七色の光を放ち始める。
「拙い、逃げよう!」
直ぐ様陽向の手を引き、元来た方へと走り出す。
「せっかく救助が来たのにっ!」
後ろを振り向く暇もなく、只管前方へと走り出せば、視界の奥に、天から垂らされた救いの糸を見つけた。
「こっちだ、早くっ!」
足が森の木々に触れそうなほど、ギリギリの地点でホバリングをしている救難ヘリから、ロープで降下してきた2人の自衛隊員が、此方側へと手招きしてくれている。
「助かった!」
先に走り着いた陽向の体へ、自衛隊員がチューブ状のサバイバスリングを着け始めるのを見て、宗次は後ろを振り返る。
其処には、ピラーから生み出されて後を追ってきた、数体の両刃剣型の姿があった。 特に先頭の1体は、あと数mで攻撃を開始する距離まで迫っている。このままでは、上昇中にヘリか俺達が切り刻まれてしまう。
「少しだけ待ってください!」
「おい、君っ!?」
自衛隊員の制止を振り切り、迫るCEに向けて、幻想兵器を呼び出しながら走り出す。
「宗次君っ!」
陽向の悲鳴が聞こえたのと同時に、両刃剣型が回転突撃を始めてくる。迫る結晶の回転ノコギリに対して、蜻蛉切を短くもって身構え__斬り裂かんと最接近されるも紙一重で右へ、装甲にさえ掠ることもなく避けながら、すれ違いざまに突きを放つ。
❛空壱流槍術・横胴貫❜
何度も両刃剣型の突撃を間近で見て、その速度を覚えたお陰で、我ながら精巧な一撃のみでコアを貫けば、結晶の剣はそのまま数mを回転飛行しながら、空中でバラバラに砕け散っていった。
「凄い……」
そんな誰かの声を聞いて数秒足らずで、陽向や自衛隊員の下へ素早く駆け戻って叫ぶ。
「出してくださいっ!」
「分かった、上げてくれ!」
サバイバスリングを装着する余裕はもうなく、隊員へ直ぐにしがみ付けば、隊員の方も全身を使って挟み返してくれて、上空のパイロットへ向けて合図を送る仕草を見せた。するとホバリングしていたヘリが即座にローダーを唸らせ、急上昇を開始した。
「うひゃぁーっ!」
ロープ一本で宙吊りになりながら、空を飛び回る中、陽向の悲鳴が聞こえた。 一方眼下では、俺達という目標を失った数体の両刃剣型が、上昇浮遊はできないのか恨めしそうに谷底を彷徨いている。
「はぁー、死ぬかと思った……」
CEから十分に距離を取った所で、ヘリの機内に引き上げられると、陽向が腰を抜かしたように座り込んだ。
「全く、君は無茶をするな。」
「すみません。」
助けてくれた隊員に軽い口調で叱られて、深く頭を下げた。両刃剣型に突っ込んだ事よりも、救助を信じて待たなかった事が、申し訳なく思えてしまった。
「然し、どうして俺達の居場所が分かったんですか?*1ええと……」
「柳井航空救難団飛行群*23等空曹だ。何故かっていうと……だな。」
すると、柳井空曹は俺の右腕を指さしてくる。
「それの電波を探って来たんだよ。微弱な物だから、見つけるのに手間取ってしまったが。」
「成程。」
その説明に納得し、再び命を救ってくれた幻想変換器を撫でる。
(「そういえば、バイタルデータを……取っていると……言っていたな。」)
ヘッドセットの通信機ほど強力な電波ではないので、谷底から山を越えた先までは届かずとも、上空のヘリなら感知できたという事だろう。
……嗚呼、然し、これは…
「それにしても、遅くなってしまい悪かったね。」
「……いえ、大、丈夫……で、す……、ふゎぁ……」
「おや、眠いのかい?疲れたろうし寝てくれていいよ。」
「……あり、がとうご、ざいます……(ピラーの居場所、報告、しないと……、できなかった、ら……陽向さん、頼んだぞ……)」
――――――――――――――――
その後、俺は保健室のベッドで目を覚まし、眠ってからの事を京子先生から聞いた。
ヘリが特高に着くと、同級生や大河原先生に加えて麗華先輩や京子先生まで迎えに来て、陽向が先生方へあの擬態ピラーの位置を伝えてくれたそうだ。
そのピラーは2時間後、今から約1時間前にて、英人に破壊してもらったという。
また、昨日の話もしてくれた。
俺達が谷底に転落した後、追跡していた標的を見失った30体あまりの両刃剣型は、谷の少し北に降下していた第0分隊を襲うも返り討ちにされた。それと同時に、大量の六角柱型、及び少数の正二十面体型・両刃剣型による大軍が出現し、エース隊員全員の撤退が決定され、出発地点の大沼付近まで引き返していった。そして、皆に引き寄せられて大沼の手前で集まったCEの大軍だが、急遽呼び出された英人が浄滅してくれたという。然しその時点で日が地平線に没してしまったので、山中に両刃剣型が残っている危険性も踏まえ、その日の探索は打ち切られてしまったが、太陽が顔を出すと同時に救助を再開し、こうして無事に救い出せた、との話であった。
それから一旦先生が退室し、用意された弁当を1人頂き、食べ終えた頃に大河原先生も来て、体調や遭難中に関する質問を幾らか受けて、心配と叱責と感謝告げられて退室した。
だが奇妙なのは、実践していた
斯くして12番棟へ帰ったら、クラスの皆に加えてまさかの麗華先輩が歓迎してくれた。
どうやらヘリが着いてピラーの位置が報告されてから、陽向も含め全員食事を取っており、眠気に耐えられなかった彼女は皆に迎えを頼んで先に就寝していたそうだ。
それで、喜ばれ泣かれ騒がれること少々、皆も恐らく俺(と陽向)を待った所為か疲れた様子であり、俺もまだ全快とはいえない状態だったので、先輩と別れて寮棟に入り、自室で改めて眠りに就くのであった。
感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。
次回は、宗次と陽向が分隊を離れてからの他者視点でお送りします。
本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか
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はい
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いいえ