英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 本作はフィクションです。実際の出来事とは一切無関係です。
 また、主人公は絶対正義ではありませんし、自身の言葉全てを正しいと信じて述べている訳ではありません(リーダーとして、矛盾や情報の選択を行うということ)。


第4話 喪失したものと進みゆく時

  ――己を救援に来てくれた自衛隊員は、もっと離れた避難場所として他の小学校に移された。そこで姉と再会したのだが__

 

「……聞いたよ、英人。……お父さんがアイツに撃たれたって」

 

「嗚呼そうだ、己を救けるべく身代わりになった。言い訳はせん。全ては独断と不徳の致すところだ。怒り、恨む権利はあって当然のことだ。」

 

「……恨むなんて……できるわけないよ……お母さんもお父さんもいない現実に、苦しくて哀しくて……そんな中でたった一人の家族を大切にできなきゃ寂しいよ……」

 

「__それは済まなかった、この期に及んで姉上を更に追い詰める真似をしてしまったな。ところで友達はどうであった?」

 

「友達…は、高校から抜け出した後、混乱しながらも纏まって避難できたみたいで、無事だった。けど、その日休んでいた生徒は襲われたって。見た顔の人たちが幾らか居なかったの。それと、CEがまた来た際、パニックしかけたんだけど、そいつが…お母さんとお父さんを撃った奴が逸れたのが見えてから落ち着いて、今のうちにまた避難するよう準備してた間に自衛隊が到着して、護られながら運ばれたの。」

 

「そうか、だが一先ず姉上も、姉上の友達も逃げてこられて何よりだ。生きてさえいれば希望を懐いて耐え忍ぶことができる。さすればいつか必ず、勝利し、日本の再興…と我が家への帰還が果たされようぞ。」

 

「うん、励ましてくれてありがとう。英人も小学校の友達に会いに行ってきたら?みんな心配してたし、音姫ちゃんなんか凄く泣いていたんだから。」

 

「そうであったか、では改めて己の無事を報告し、二度の脱走の処罰を受けねばなるまい。__折れず腐らず前を向けば、望む明日へ辿り着けるさ。」

 

 そう伝え己は、教師や生徒等を探すことにして__

 

「あ、英人ぉ!生きててよがったぁぁ!!」

 

 直ぐに音姫と再会した。

 

______________________

 

「先生、避難の際は規律ある集団行動こそ鉄則であると自ら述べたにもかかわらず、小学校でもあの避難場所で勝手に出ていき迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」

 

「……英人君、生きててよかったです。ご両親の件は……」

 

「母上も父上も、己を救って亡くなられた。今の己は彼らの犠牲の基に、ここに居る。だからこそ、己は両親のためにも前を向いて生きております。御心配をお掛けしてしまいました。」

 

「……分かりました。ですが、もし耐えられそうになったら、遠慮なく私や頼れる大人、それに友達にも相談して下さいね。人間は、自分は大丈夫だと思っていてもふとした瞬間に無理が祟って体を壊したり心の病気になったりするものです。休みたくなれば休んで、泣きたくなったら泣いて、我慢できなくなったら打ち明けてもいいんですよ。」

 

「御教示いただき、ありがとうございます。しかし先生も、お大事になさってください。たとえ大人であっても、疲れや悩み、別離に絶望で責任感も矜持も崩れてしまうことがある__と、以前テレビで紹介されておりました。他の子どもたちなら重荷かもしれませんが、少なくとも己であれば、何時でも相談してください。」

 

 そう先生と話した後、クラスの皆と三度目の再会を果たしたが、やはり心配を掛けさせてしまったようで、相当喜んだ者、問い掛けてきた者、泣き出してしまった者など、純粋な善意や好意が伝わってきた。特に音姫に至っては、俯き泣きじゃくっており、宥めるのに大層苦労した。

 

 その日から、CEの襲撃を受け指定された危険区域に居住していた者達は、避難所生活を余儀なくされた。己と姉は小学校で他人と共に暮らし、配給を受け、先の見えない不自由な日々が始まった。

 

_________________________

 

「CEは世界各地で暴れており、底なしに湧く数としぶとさでもって人の生活圏――人口、土地、もの自体とそれを生み出す術、それに成長しよう豊かになろうといった意志を脅かしている。既にある兵器で闘えてはいるが、威力が足りないせいで持ち堪えるのが精一杯。その現状を思えば、正直なところ、明日明後日で家には帰れないだろう」

 

 己は今、此処での避難所生活をする小学生全てを纏める役目を自ら志願し、現状の説明を皆の前で行っている。

 

「皆、家に戻りたいと思っているのだろう。CEが怖いと怯える人も、新しい生活に慣れず困っている人もいるだろう。__己の様に、家族など大切な者を奪われた人だっている」

 

 CEは、日本軍が5度の世界大戦と併せて伝えなかったのが異常な程の、人類史に刻まれるべき大厄災である。世界各地でピラーが発生しているせいで、他国の支援は期待できず、亡国に到る国や領土汚染を覚悟の上で核兵器を使用する国も現れると予想される。経済はローカル・グローバル両方で大打撃、失業率は人口分布の偏りもあって急上昇。税負担はそれらの対処に向けて増大し、治安も悪化は免れず、娯楽など余裕の不足で下火になる。VRの世界的普及はこのままだと難しいが__まだだッ!

 

「だが、そのことを分かった上で己は希望を懐いている。何故なら人間は、無限の可能性と勝利を成す底力があるからだ。皆の知るインフルエンザウイルスは、嘗て数千万人もの人間を死に至らせた。然し今や、死者数数十万人規模に抑え込むことができている。何故か。それは先人たちが、見えない位小さなウイルスを発見し、ワクチンや特効薬という対抗手段を科学で創り出し、社会を清潔で健康的な在り方に育て上げてみせたからだ。日本に限定すれば、第二次世界大戦において、複数の大都市が焼かれ、うち2つにいたっては、放射線という毒に汚染されて復興できないのではとまで言われた。だがその都市は全て、人も建物も生活まで成長してのけた。何故か。その街に人が戻り、故郷と誰かを愛し、一生懸命に働きながら再建したからだッ!」

 

 これは鼓舞だ、子どもたち(大和の民)に希望の光を灯すのだ。如何なる弁を弄してでも、愛と夢と勇気を湧き上がらせることこそ、今の己に為せるのだから。

 

「だから己は信じている。ここに居る皆も含め、人間なら必ずや、CEに反撃する機会を生み出し撃退すると。奪われたまちを取り戻し、復活させると。それは何時になるのかはわからない。だがその時は未来に必ず訪れる。その未来を迎えるには今日を生き延び、頑張ることが何よりの方法だ。何難しい事は言わん。食事と睡眠と運動を心掛けて、心身共に健やかに在り続け、隣にいる友を助け合い、頑張る大人や年上を応援し、落ち込む年下に手を差し伸べる。その()()()()を実行すれば、明日は今より良くなるであろうよッ!__以上、○○小学校三年生、天道寺英人。」

 

 小さな体でどうにかやりきったお陰か、拍手喝采が鳴り響いた。この効果が何時まで保つかはわからない。だが皆が現状の難しさとそれでも前を向く大切さを理解してくれたら演説の甲斐があったものよ。

 

「……お疲れ様、英人。凄かったよ。」

 

「姉上か、褒めていただき有り難い。少し休ませてもらおう。」

 

 一先ず休憩だ。この演説は姉上に動画撮影をやってもらい、避難所の担当者に提出し評価次第では他所で映してもらうつもりである。

 

「それにしても、やっぱり英人は羨ましいな。あそこまで話せる度胸と頭の良さに……お母さんとお父さんが喪ったばかりでできる強さも。」

 

「なに、己は為せることをやったまでよ。両親が身を挺してでも繋いでくれた意志と命、無駄にはできん。」

 

「……そうか、そうね、私も明日はきっと良くなるんだと頑張らないと。」

 

「くれぐれも無理はせんようにな。病は気から、体の方は頑丈な姉上でも、心に余裕がなければ頑張り過ぎで体調を崩しかねず、それで更に心を弱らせての悪循環となり得る。先の演説で述べた通り、当たり前をやっていけばよいのだ。」

 

「……ありがとう。大丈夫よ、だって()()()()()がいるんだもの。弟に心配されるだけの姉でいたくないし。」

 

 

_____________________

 

 

 その後の避難所生活は、あまり代わり映えのしない、だが死もない毎日であった。避難所運営の手伝いと勉強と運動、その間に食事と休憩、規則正しく就寝と起床。悩みの相談も個人的に受け付けていれば、ちょっとした愚痴や世間話から日常的な問題、深刻な求めまで来たので大人にも伝えながら対応した。

 

 変わった出来事ならば、ミクロなことだと音姫が父の仕事の関係で引越しとなり、彼女も残る友達も皆涙を流しお別れ会を開いた。

 

 一方でマクロでは、遂にアメリカ合衆国と中華人民共和国とロシア連邦が核兵器を使用した。国土への甚大な環境被害、避難させても尚防ぎきれなかった健康被害症例、それらと引換えにピラーの排除を成し遂げた報せは、全世界に届き期待と不安を掻き立てた。それは過去の2発の原子爆弾被害から核兵器への忌避感がまだ逃れなかった第三次世界大戦前の日本でも論争を引き起こし、長野県と隣県の犠牲や松本ピラーが耐えきってしまう恐れを踏まえた上で実行すべし、と天秤が傾く可能性を生んだ。己としては、最小限に犠牲を抑える備えと、最大火力兵器が通用しなかった場合の戦略を立てているならば、使用に踏み切り日本の復興に切り替えるべきなのだがな。

 

「核兵器__か。」

 

 前世の、迦具土神壱型の異能が今も有していれば、単身突入し、放射能汚染を発生させず破壊力のみの核融合攻撃で挑戦できるのだが__いや、よそう。ないものねだりは時間の無駄だ。

 

 

 こうして8月を、未だ日本の戦況も我らの生活状況も解決せぬまま迎え___

 

 

___運命の車輪が一度、初めて回り始める___

 

 

 

 




 というわけで、ようやく原作到達です。

 因みに、“幼馴染の千影沢音姫”はこれにて一度フェードアウト、出るとすれば本筋から離れての短話になります。
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