英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
今回は、宗次と陽向が救出された後の色鐘視点と秋葉視点になります。
指揮所にて視聴する、見下ろす形で映し出される黒檜山。天道寺英人の聖剣が谷底のピラーが破壊される所を眺め、胸を撫で下ろす。
「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが」
2人の生徒が消息を断った時は、最悪の事態を想定し、戦力と士気の低下、退校者の続出を懸念して頭を抱えたが、災い転じて福となし、こうしてピラーを破壊できたのだから世の中は分からない。
「やりましたね、先輩。」
「色鐘三佐と呼べ。あと、化粧を直してこい。」
喜び笑顔を浮かべる後輩の顔に、深い隈が出来ている事を指摘し、溜息を吐く。
「お前もいい歳なんだから、小娘達のように騒ぐのはこれきりにしろ。」
空知宗次が消息を絶った時、見ている方が心配になるほど取り乱し、声高に救助を叫んだ事を蒸し返せば、京子が恥じらって赤くなりつつ言い返してくる。
「生憎、三十路を超えた色鐘三佐と違って、私はまだ20代ですから。」
「ほざけ。」
嫌そうに顔を歪めると、京子は笑いながら席を立って洗面所に向かった。 それを見送り、椅子に腰を下ろして一息ついた所で、また不穏な報告が届く。
「色鐘三佐、芹沢校長より電話です。」
「……まさか、狙ってはいまいな?」
また良い事の直後にかかってきた、恐らくは凶報の電話に、盛大な頭痛を覚えつつ、手元の受話器を取る。
「お待たせ致しました、芹沢校長。」
「こちらこそ、また大変な時にすまないな、色鐘三佐。岩塚幕僚長からの通達だ。」
……幕僚長からの。やはり嫌な予感は的中か?しかも
「転校の日取りが決まったらしくてな。5月29日木曜日とのことだ。」
……やはりか、全く。
「切りよく、6月の頭にでもして欲しかったですね」
「私も岩塚幕僚長もそう言ったのだがね、
「焦る乞食は貰いが少ないと、あちらの諺には無いのでしょうか?」
「最後の一杯は重要とか、そんな言葉はあった気がするがね。」
……とはいえ、今こうして軽口を叩ける程余裕があるのは、私だけでなく校長も同様らしい。
何せ、懸念材料の黒檜山ピラーが破壊されたお陰で、今後は背後を気にする事なく、西方のCE共に集中できるのだ。勿論、また新たなピラーが出現する危険性はあるので、警戒を怠る気は微塵もないが。
「さて、此処からが中央からの悪い知らせだ。」
「出来れば聞きたくありませんね。」
うんざりすると溜息を吐き終えた辺りで、電話の向こうから重々しく告げられたのは。
「米露中に加えて、英国もエース隊員を1人捻じ込んできた。」
「イギリスIが?」
一応、各地に出現したピラーの対応に加え、アフリカや中東から難民が押し寄せて地獄絵図と化したEU加盟国に比べれば、遥かに平和を享受していたものの、苦境に立たされている中で、海と大陸を大きく隔てたこの地へ幻想兵器使いを送る余裕があるのだろうか。
「3ヶ国と同じように、此方の足を引っ張る意図にしても、何故このタイミングで……」
米露中から送られてくる3人の転校生は、日本の幻想変換器技術を盗む事よりも、英雄・天道寺英人を誑し込んで、自国に引き込む事が目的だと推測される。
彼がこのまま長野ピラーを破壊し、日本をCEから解放した後、真っ先に己の国を救わせる為か、或いは日本だけ救われるなど許さないと、英雄を抹殺する為だろう。ともあれ、何れも其々の思惑があって、
それと同時に、邪魔する競争相手を減らそうと、他国に圧力をかけているのは想像に難くない。実際、他の(相対評価含めて)小国から特高へ生徒を送りたいという話は、少なくともエース隊を取り纏めてからは1度も耳にしていない。
そこにイギリスが割り込んできたのだ。当然、3ヶ国が良い顔をする訳がない。
「日本以上に睨まれているだろうに……」
アメリカに追い越される形で凋落したとはいえ、元は世界の半分を植民地化した超大国。再び覇権を狙う気かと、米露中からの警戒も厳しかろうに、ピラーを破壊できる切り札に唾をつけようと、それも後出しで行えば、3ヶ国が一体どんな嫌がらせをするか。考えるだけで嫌気が差して……いた、のだが。
「いや、どうも岩塚幕僚長からの話によると、米露中は英国の行動を黙認するらしくてな。」
「黙認、ですか?どうしてそんな態度を……」
「何でも英国は、転入先を1年の、A組でなくD組へするよう求めているそうだ。」
「……何だと?いえ、何故ですか?」
D組?天道寺英人の居るA組ではなく?
「一応、「A組へ入れるには幻想兵器の適性が弱いから」、又「既に他国からの編入が3人も決まっている中で更に押し込むつもりはない」、と説明されたらしいが、疑わしい事この上なし、というのが私や幕僚長のみならず内閣・防衛省・外務省の認識だと確認しておいた。納得するのは難しかろうが、それ以上は聞き出せず、調べもできなかったそうでな。最早我々には覆しようのない決定事項である点も含めて、どうか理解していただきたい。」
「……分かりました。」
「この後、クラス担任の大河原君や12番寮棟の白浜寮長にも私から伝えておく。色鐘三佐は、保科幻想兵器管理主任や1年A組へ情報共有を行い、対応を考えておき給え。」
「承知致しました。」
そうして通話が終了し、大きく溜息を吐いた所で、京子が戻って来た。
「……色鐘三佐、どうかなされましたか?」
……さて、早速話しておかねばならんが、然しどうしたものか。
露骨すぎる米露中とは真逆の要求が、寧ろ不気味で寒気を覚えてしまう。それでも私達の為すべき役割は、結局難易度や負担を増すのみで、変わる事も怠る余裕も逃れる術もないのだろう。
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「お疲れ様、今回も無事Pコア回収できたぞ。」
「……それはよかった。擬態する知能と機能を有しているのだ、前回以上の成果が、期待できる筈。」
「……全く無茶しやがって。
「何のこれしき、英雄とは、無理を通して偉業を果たす……ものよ、……ふわぁぁ……」
「やれやれ、頼むぞ迦具土神、お前の体調には日本の未来が掛かっているからな。現状、換えの効かない決戦兵器が、こんな所でお釈迦になったら恨むぞ。」
「わかっておる。……眠る、とは、斯くも厄介な障害だ。ヴァルゼライドが改造に必要睡眠時間短縮も望んでいた理由、
「はぁ、そうか。……ただ、精神や認識力消耗してでも必死になってくれて、助かった面はある。」
「……と申すと?」
「救助ヘリが特高に着いてから、変換器の検査をした所、武士のだけバイタルデータが測定されておらず、電波も発信されていなかった。」
「__何だと?」
「平坂の方は問題なく計測、発信されていたが、武士は遭難中の夜間だけその機能が停止されていた。バイタルデータの電波は微弱だからな、2人分生きてたならもっと見つけ易かっただろうが、1人分だから真上に留まってなければ探知できなかった可能性がある。」
「………」
「真夜中お前から届けられた位置情報を、鶴見副隊長が救難団内の同志へ送り、ルート誘導させ、見事その地点で平坂からの電波を拾えた。お前に感謝してたぜ、
「……そうであったか。然し何故斯様な異常が?」
「その件は明日伝える。原因調べ掛けてる所だし、お前も眠いだろ?今日はここ迄にして、早く寝ておけ、大和万歳。」
「ご厚意、感謝する。大和万歳。」
通信が切れたので、俺も背伸びをする。
「毎度の報告、お疲れ様でした。」
「気にするな、機関業務としては些細な仕事だ。」
巣鴨に声を掛けられ、笑みを浮かべて返す。
「それにしても宜しかったのですか?転校生の件は。黒檜山からの帰還途中には、岩塚幕僚長から日にちと人数が事前の情報通りに伝えられた、とだけしか報告していなかったのですが。」
「短距離飛行中に、お疲れの状態で聞かせる程重要な案件ではないからな。昨夜時点で既に把握していた話だ。」
「確か、米のアメリア・フィリップス、露のナターリャ・バラノフ、中のハク・メイファン。それと追加で……」
「シャーロット・クロムウェル。3国と違い、影山明彦元准教授の助力がある英国からだ。」
「嗚呼、そうでした。それで、私の挙げた3名が
「その通りだ。然し魔窟とは、言い当て妙ではないか?
尤も、実際には特高全体が魔窟と呼んでもいいだろうが。
「其処に飛び込むのですから、流石大国、選び抜かれた工作員、度胸がありますね。虎穴に入らずんば虎児を得ず、って姿勢から本気度が窺えます。」
「さて、どうやらな。」
とはいえ、3国の欲する獲物の正体が、虎児の皮被った開明獣Aだと知っての冒険かは怪しいが。
「それはそうと、影山明彦の狙いは何でしょうかね?そもそも何故日本に留まらず自殺偽装迄して渡ったのでしょうか?裏で秘密裏に我が国以上の好条件で雇われたとか、CE関連の研究や開発で必要なものが英国に存在した、とか?」
「さあな。新町での付き合いは、色鐘現三佐や宮田現陸将補に比べて随分少なかった。同志になって、奴が駐屯地から去った後色々機関の仕入れ情報を読み込んではいた。何考えているのかは分からないが、何れにせよ機関の大義、日本国と国民の利を阻害するなら相応の対処を取るまでだろう。」
「そうですね。では、これにて失礼します。大和万歳。」
「嗚呼、ゆっくり休めよ。大和万歳。」
そう言って巣鴨が退室してから、俺は欠伸して、ある1人の英国人について纏めた資料を、手に取って見つめる。
「……シャーロット・クロムウェル。」
出身地はバーミンガム、広大な農園を経営するクロムウェル伯爵の3女。
家族の評判は極めて良好。両親と成人している上の兄妹は優しく真面目で朗らか、仕事面でも地域関係も仔細問題なし。本人も、歳や外見の割に幼く純粋で明るくて、毒気を抜かれて誰もが好意を抱く様な天然の仁徳を備えた美少女、との人物評だ。また、日本のアニメを愛好しており日本語も読み書き会話何れも高水準な位習得しているらしい。
経緯については、国防省による上流階級の子息限定での極秘適性テストに於いて、優秀な成績を出してスカウトされ、周囲から危険を理由に反対されるも貴族としての責務を動機に了承。そして他に合格し参加を希望した子供達と共に、
以上が調査結果であり、推測項目には、改良・強化された幻想変換器の開発と付与、及び変換器を通した特高内部の情報収集の懸念も指摘されていた。
「……読んでみた限り、英人の様な怪物らしさは感じなかった。実際は露見していない可能性も確実に有り得るが。」
駐屯地入りする前の英人の記録には、ピラーとCEの脅威と対応を地元襲撃前に啓発し、避難後__両親が死亡、いや収奪されたその日から、避難民の精神と生活の安定化に尽力し、斯様な大人顔負けの冷静で合理的な貢献を数ヶ月続けておきながら、幻想兵器の適性は姉共々A+。
今思えば当然の話だが……、少なくともクロムウェル含め4人とも、アレを彷彿とさせる逸話は確認できなかった。
「ま、何にせよ4日後を待つのみか。」
ともあれ、編入生全員がイレギュラーではない事を祈るしかない。特高通信隊隊長と機関の同志、と二重に役割や重責を背負って取り組むだけでも大変なのだ。この上人外級の他国人を制御下に置こうものなら高確率でパンクしてしまう、そんな事態は真っ平ごめんだ。
(「……彼奴だけは喜びもしそうだがな。」)
武士に続き、今度は他国からも自身の絶対性を脅かしかねない程の
日本復活に必須の共犯者である点を抜いても、敗れて当然潰えて当然な筈の、如何なる領域に於ける不利や窮地を、唯一つ除いて全て乗り越えてきたその語り草は、祖国の征服と所有を企む不倶戴天の脅威と見做すには、あまりにも誇らしげで信頼と尊敬に満ちていて__
(「……そういえば、壱型の前世の話で……、狼狽や心配から騒いだ事、“逆襲劇”以外であったっけか?」)
感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。
次話は、恒例のノン(以下略)及び同窓感想会を予定しております。
それと、活動報告にて本作関連の相談を設けます。詳細はそちらに記しておきましたが、簡単に申し上げますと、表の顔は現特高通信派遣隊隊長である秋葉晴乃、彼の階級に関する意見募集です。
本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか
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はい
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いいえ