英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 第6章の宗次視点回にして、本作最後に登場する原作√ヒロインの1人、シャーロット・クロムウェルの来日と試合回です。

 これで、原作あとがきに記された、本編中に出てくる宗次のヒロインは、天道寺刹那、保科京子、千影沢音姫(本作での本名は“月夜”)、平坂陽向、先山麗華、と6名揃いました。



第30.5話 帝国の黄薔薇と巨人の駿馬

 

 

  黒檜山からの帰還から4日経てば、とうに体の痛みも疲れも消え失せてくれたお陰で、俺は元気に爽やかに朝を迎えられた。然し、そうして落ち着いた気分で朝食を済ませて登校し、もう直ぐHRが始まろうという頃に。

 

「何やあれっ!?」

 

「どうした?」

 

 突然の大声に驚き問い掛ければ、騒がしい親友が窓の外を震える指でさしてくる。

 

「外人の美少女が3人も居るっ!」

 

「「「何だとっ!‼︎???」」」

 

 再び叫んだ瞬間、クラスの男子の大半が、揃って窓際に殺到する。

 

「うおっ、マジもんのパッキンだっ!しかも超巨乳だとっ!?」

 

「あの銀髪の子、美しい……まさに雪の妖精だ。」

 

「隣の黒髪ツインテールな、アジアン美人も中々。」

 

 その外国人達が余程見目麗しいのか、甘い溜息が外側の窓際から聞こえてきた。

 

「本当、うちの男子は馬鹿ばっかね。」

 

「健全な反応だと思うですけどね~」

 

「で、でもちょっと気になります……」

 

 一方で女子達は彼等の姿に呆れつつも、見知らぬ外人が何故此処に居るのか不思議がっているようだ。

 

「兄弟、ぼさっとしとらんで自分も拝んどきっ!」

 

「あぁ。」

 

 映助に促されて窓の外を窺えば、右から西洋系の顔立ちをした金髪の白人、全体的に色素が薄いロシア系らしい子、中国系らしき黒髪の少女と、タイプは三者三様ながら、確かに類稀な顔立ちの少女が歩いてきている。

 

 唯、その歩き方や姿勢から、妙な既視感を覚える。

 

(「姿勢が綺麗すぎる、何らかの訓練を受けているのか?」)

 

 礼儀作法や武術とはまた違う、どうすれば相手を虜にできるのか、指の先まで計算した動きを身に着けた、女優やモデルのような動きとでも言えばよいか。

 

(「1-Aの女子に近いか。」)

 

 英人を不自然な程に溺愛する馬鹿な小娘__を演じている、千影沢音姫を筆頭とした彼奴等と似た臭いを敏感に感じる。

 

 対して当の彼女等は、俺達の視線に気付つ様子のないまま特高の中に入っていった。

 

「ワテ、ちょっと玄関掃除してくるわっ!」

 

 早速お近づきになろうという魂胆か、映助は教室から飛び出そうとした、ものの。

 

「感心だな、では放課後頼むぞ。」

 

 丁度入って来た大河原先生に、行く手を阻まれたようだ。

 

「先生、退いてや!あの子達に告白できへんっ!」

 

「豚に真珠という諺を知っているか?」

 

「ごは……っ!」

 

 容赦ない憐みの表情を前に、映助が床に転がり落ちた。先生はそんな彼を跨いで通り、教壇に立った、直後。

 

「先生、あの子達は何なんですかっ!」

 

「やっぱり転校生ですか?クラスは一体どこにっ!?」

 

 男子から喧しく質問責めを受けた先生は、パンッと手を叩き、ゆっくりと語り出す。

 

「諸君が察している通り、あの3人は外国から迎え入れた新たなエース隊員だ。そして転入先のクラスだが……」

 

「ごくりっ……」

 

「1年A組だ。」

 

「「「くそがぁぁぁ―――っ‼︎!」」」

 

(「……となればやはり、彼女等は恐らく対ピラー用最強戦力(英人)狙いか?もしそうなら彼奴の活躍を外国が把握した訳であり、目的が何であれ自国の為接触の機会を設けようと日本政府へ圧力を掛けてきたのだろうか?」)

 

 考え込む俺を他所に、教室内はというと。「くそっ!何でまたあのハーレム野郎の所なんだよ!」

 

「もう30人以上も美少女いるだろっ!?1人位こっちに寄越せ!」

 

「爆ぜろ!もげろ!絶えろ!」

 

 親友や剛史に豊生、他にも殆どの男子によるあらん限りの罵詈雑言が、外にも漏れそうな位に叫ばれている。されど珍しいことに先生からの叱責は起こらず、少しして口を開けば。

 

「……それと、我が1年D組も1人、転校生を迎える事となった。」

 

 瞬間、ピタリッ、という擬音が聞こえそうな程、騒ぎまくっていた男子が一斉に静まり返って席に着く。先生はそれに呆れ果てた様子を見せるも、直ぐに普段の真面目な教師の姿に戻り、廊下に向かって声を掛ける。

 

「いいぞ、入ってくれ。」

 

「Yes sir!」

 

 ネイティブらしき英語の、元気が良い返事と共に扉を開けて入って来たのは__

 

 後ろで纏めた輝くブロンドの髪と、蒼穹を思わせる透き通った青い瞳。数秒の静寂は、鼻筋の整った顔に満面の笑みを浮かべ、敬礼しながらの名乗りで打ち破られる。

 

「シャーロット・クロムウェルであります、シャロとお呼びくださいっ!」

 

 窓越しみ見えたあの3人と違い、洗練されきった完璧な美はない。だが、野に咲く黄色いバラを思わせる、イギリス人の転校生。

 

 そんな彼女の挨拶を受けて、先程迄妬み辛みを放っていた男子達から、異様な高揚を感じ取った直後。

 

「「「おっしゃぁぁぁ―――っ‼︎!」」」

 

「な、何でありますかっ!?」

 

「気にするな、アホが感染る。」

 

 再び呆れ果てている先生の横で、クロムウェルさんが戸惑って男子達を見回していた。その姿は実に自然で、怪しい所は無いもない。然し__

 

(「何故、D組に外国から転校生が?」)

 

 あの3人__少なくともクロムウェルさん同様に金髪の女性とは異なり、別の人種・地域をルーツに持つと外見から思わしき、もう2人を送り出した国の狙いは想像できる。だが仮にイギリスからの転入生が1人のみだとすれば、英人を把握できなかったのか捩じ込めなかったか……との理由に限定して推察するのは楽観的過ぎる、がそれ以外の理由__敢えて1-Aに入れようとしなかった意図が思い付かない。

 

 ともあれ訝しみながら窺っていると、当の彼女と視線が偶然ぶつかる。すると、クロムウェルさんは皆に向けたのと同じ、素直な輝く笑みを送ってきた。

 

(「分からんな……」)

 

 英国が何も知らせずに派遣して利用するつもりなのか、英国含めて野心なく単純に対CE戦への協力や幻想兵器開発国へ運用を学ぶ為なのか、或いは千影沢音姫の如く彼女も仮面を被っているのか。

 

 何れにせよ、万が一英人の、日本の勝利を妨害される事態が引き起こされぬよう、俺なりに尽力すべく注視する必要がある。然し、だからといって転校生を冷たく遇らうのは、彼女にとっては勿論、喜ぶクラスの空気にも、そしてエース隊や日本の評判にも悪いだろう。

 

 よって、今は取り敢えず警戒心を胸中に潜め、友好的に振る舞う事を心掛けて、微笑を返しておくことにする。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 それから1時間目の数学が始まり、クロムウェルさんは数学の問題も日本語での説明及び回答も難なく行えて、順調に終わり休憩時間となった。

 

 その途端に、クラスの男子も女子も皆、彼女の下へ勢いよく詰め寄る。

 

「ねぇねぇ、シャロちゃんってイギリスのどこ生まれなの?」

 

「生まれも育ちもバーミンガムであります。」

 

「好きな食べ物は?」

 

「定番ですが、クリームをたっぷり塗ったスコーンが大好きであります。」

 

「イギリス料理は不味いって本当?」

 

「も、黙秘を貫かせて頂くであります。」

 

 物珍しさから質問攻めしてくるクラスメイトに対し、クロムウェルさんは嫌な顔一つせず、相変わらず流暢な日本語で答えていた。

 

(「バーミンガム……後で調べておくか。ひょっとしたら彼女やその裏を探るのに役立つかもしれない。」)

 

 と聞き耳を立てていたら。

 

「シャロちゃんって、恋人とかいるのっ!」

 

「えっ、恋人でありますか?」

 

 倉田に質問の番が回ってきたらしく。

 

「いないであります。」

 

「「「おっしゃぁぁぁ―――っ‼︎!」」」

 

「でも、好きな人はいるであります。」

 

「「「ごはっ‼︎!」」」

 

 普段通り騒がしい男子の多数がその場に倒れ、今度は陽向が何やら恐る恐るといった具合に近寄っていた。

 

「そ、それで、誰が好きなの?」

 

「もちろん、軍曹殿でありますっ!」

 

 そう満面の笑顔で答えて、両足の踵を揃え、右手を掲げて見事な敬礼をし、胸を張る彼女を観察する、が。

 

(「……「軍曹」?好きな人って事は特定個人を指す姿勢だとして、何処かの高名な軍人か、交友関係に英国兵士も居るのか?然し階級だけを告げるのは妙だが……」)

 

「「「……誰⁇?」」」

 

 どうやらクラスの皆も心当たりがないらしく、困惑の空気が漂ってきたが、神奈が1人近付いてくる。

 

「あ、アニメ、好きなの……?」

 

「はい、大好きであります!日本語もアニメで学んだのです。」

 

「ど、同志……っ!」

 

(「成程、アニメキャラを指し示していたのか。俺よりずっと世間の娯楽に聡いクラスメイトでも思い当たらない存在、気になるな。溶け込むべく用意した設定の可能性もある。」)

 

 ともあれ、唯一そのアニメを知っていたらしき神奈が感激した様子でクロムウェルに抱き着いた。

 

「わ、私はやっぱり、中尉×伍長の兄弟カップルが最萌えなんだけど、シャロちゃんは……?」

 

「What?何で人名を掛け算するでありますか?」

 

「あ~、転校生ちゃんは知らなくていい世界ですよ~」

 

「神奈、外国の子に何を吹き込もうとしてんのっ!」

 

 相変わらずよく分からない神奈を、陽向と心々杏が慌てた様に、首を傾げているクロムウェルから引き剥がした。

 

「でも、宗次君狙いじゃなかったんだ、良かった……」

 

「女房の妬くほど亭主はモテずって諺、知ってますか~?」

 

「……?」

 

 と思えばまたもよく分からない会話に及んだ2人を他所に、倒れていた男子達が立ち上がり、何やらやる気を出している。

 

「つまり、シャロちゃんは今フリーという事だな?」

 

「ふふふっ、どうやら俺達にも運が回ってきたようだ。」

 

「悪いが、シャロちゃんのハートはワテのもんやで!」

 

 余程恋愛への欲求が溢れているのか、盛り上がり睨み合う彼等を眺めながら。

 

「まさか、これが目的ではないだろうが……」

 

「どうしました?」

 

「いや、何でもない。」

 

 ふと漏れた呟きを、同じく着席中の一樹に聞かれ、問いに首を振って誤魔化した。

 

(「D組に不破の種を撒いたところで、外国にメリットがあるわけもない。」)

 

 しかし、開校から2年余り、幻想兵器という国家機密を扱う特高に、今までなかった外国の転校生を迎え入れたのだから、何らかの理由があるはず。

 

(「幻想兵器の秘密を探るとか、そういう目的だろうか?」)

 

 それならば、態々転校生など送らずとも、映画に出てくるようなスパイを送り込めばいい話であろう。とはいえ、より正確且つ実用的な情報を入手する為なら此処へ忍ばせるに越した事はなく、また日本人の協力者を入れるのでなく自国の人間を直接潜入させる場合、教職員より生徒の方が自然な以上、十分あり得る動機だ。

 

(「……分からんな。英人なら或いは見抜けるかもしれないが。」)

 

 戦闘の事ならばまだしも、政治の話になると頭が回らない。

 

 取り敢えず今は、無駄な勘繰りに時を費やすのを止めて、ジャージの袋を持って立ち上がる。

 

「次は、グラウンドで訓練だぞ。」

 

「しもうたっ!?はよ着替えんと!」

 

 遅れたら、またグラウンドを何十周も追加で走らされると、クロムウェルに群がっていた皆も慌てて着替えを始め、彼女も女子に説明されて一緒に動いていく。

 

 そうして、どうにか全員遅れず校庭に集合した、のだが。

 

「クロムウェル、1つ聞いていいか?」

 

「Yes sir !」

 

「何でブルマーなんだ?」

 

 先生が指摘した通り、彼女の体操服は皆のジャージと違い、俺の中学でも何年か前に廃止された(と体育教師から世間話の中で聞かされた)、ショーツ型の紺色ブルマーであったのだ。

 

「まさか生で見られる日がこようとは……」

 

「ありがたや、ありがたやっ!」

 

 何が有難いのか分からんが、男子達がクロムウェルの白く長い太ももを凝視していた。

 一方の本人は、その視線に気づいた様子もなく、不思議そうに首を傾げている。

 

「What?日本の体操着はこれと違うでありますか?」

 

「いいや、シャロちゃんは正しいで !」

 

 怪我していなければ朝食も皆と同じ普通の献立であったというのに、何故か映助が鼻血を垂らしつつ肯定したが、それを見た大馬は溜息を吐きつつ指示を下す。

 

「クロムウェル、保健室に行って皆と同じジャージを借りて来い。」

 

「Yes sir !」

 

「何でやぁぁぁ―――っ!」

 

 素直に従うシャロを余所に、血涙を流して担任に襲い掛かる映助だが、やはり結局首を絞めて落とされてしまい、グラウンドを30周追加で走らされる事となった。

 

「お、鬼や、血も涙もない悪魔やで、あの先公……っ!」

 

「自業自得だろ。」

 

 逆恨みする親友にツッコミつつも、親友として体力向上がてら付き合い同じ回数を走り切った所で、既に走り終えていたクロムウェル達の方を窺えば。

 

「シャロちゃん、足速いですね~」

 

「はい、これでもスポーツで鍛えていたでありますっ!」

 

「イギリスだと、やっぱりフェンシングとか?」

 

「て、テニスとか似合いそうです……」

 

 明るく人懐っこい態度のお陰で、もうクラスの女子と打ち解け合っているようだ。

 

(「杞憂だったか?)

 

 英人の下へ転校してきた3人から、何処か不穏な気配を感じたので身構えていたが、どうも彼女に関しては、見た目通りに善い子なのだろうか。

 

 そんな事を考えていると、タブレットPCを手に先生が歩み寄って来る。

 

「ではこれから、普段通り2人組になって練習をして貰うが……空知、クロムウェルの相手をしてくれ。」

 

「はい。」

 

「何で兄弟やねん、ずるいでっ!」

 

 騒ぐ映助を毎度の事だと気にも留めず、彼女の所に歩み寄っていく。

 

「クロムウェルさん、俺と幻想兵器を使った練習試合をして貰うが、大丈夫か?」

 

 そう言いつつ、彼女の左腕に目を遣れば、見た事のない金色の腕輪が填められていた。

 俺達も、先輩方も英人も共通している黒い腕輪より、一回りほど大きく形も違うが、恐らくあれが持ち込んできた、英国製の幻想変換器なのだろう。

 

「はい、お願いしますであります。」

 

 クロムウェルは俺の視線に気付いた様子もなく、また元気に敬礼しながら申し出を受け入れた。

 そうして、俺とクロムウェルは20m程の距離を取って向き合い、合わせて皆が少し離れる。

 

「シャロさん、どんな武器を使うんでしょう?」

 

「パンジャンドラムとかじゃないですか~?」

 

 当然、先生もクラスメイトも全員がクロムウェルに注目する中、俺は愛槍を呼び出す。

 

「武装化。」

 

 右腕の変換器から溢れ出した光が、天下三名槍の1つ、蜻蛉切と化した。

 

「おぉ、綺麗なジャパニーズ・サムライスピアであります。」

 

 クロムウェルは鋭い槍の輝きに感嘆の声を漏らしつつ、自らも左腕を掲げて叫ばんとする。

 

「Come on Gullfaxi !」

 

 金色の腕輪から放たれた光の放流が、彼女の横で巨大な塊となって姿を現した。

 

 大地を揺るがす四本の力強い脚、燃えるような黄金の光を放つ尻尾と(たてがみ)。前足を掲げ、(いなな)くように太い首を揺さぶその姿は__

 

「「「__馬っ!!!???」」」

 

「はい、北欧神話の名馬・グルファクシスでありますっ!」

 

 ……驚愕するクラスメイトに向けて、彼女は愛馬を紹介しながらその背に跨る。

 

「これは凄いな……」

 

 流石に感嘆の声を発しながら、巨大な黒馬を見上げた。

 

 体高は2mをゆうに超え、体重は2tに届くかというサイズであり、確かに伝説の名馬として相応しい風格である。

 

「それでは、参るでありますっ!」

 

 クロムウェルがグルファクシスの手綱を引くと、此方に向けて突進してきた。

 地響きを上げて時速50㎞近い速度で向かってくる、約2tもの巨大生物。それは大型のジープが走ってくるのと変わらぬ様に感じた、故に。

 

「くっ……」

 

 轢き飛ばされては堪らないと、大きく横に飛んで黒馬の突進を躱し、同時に、馬の横腹目掛けて蜻蛉切を突き出した。

 体重が乗り切っていない、腕だけで放った突きとはいえ、普通の馬であれば内臓を破られ絶命するであろう、と自認していた、ものの。

 然し、流石は幻想より生まれし神話の名馬という訳か、分厚皮に浅い傷が付いただけで、グルファクシスは痛みに怯える事すらなく、平然と通り過ぎていった。

 

「流石はサムライ、やるでありますね。」

 

 そう聞こえた直後、クロムウェルが黒馬を大きく旋回させ、再び突進してくる。

 

(「やるしかないか。」)

 

 向かってくる巨体を前に、覚悟を決める。

 

 黒檜山で戦った薄い両刃剣型CEと違い、巨大な黒馬は紙一重で避けて反撃する事は難しい。

 ならば、相手の突進力を逆に利用して、真正面から急所を突き貫くしかない。

 

 足を止めて槍を構え、傍から見れば自殺行為としか思えないだろう、捨て身の体勢で待ち構える。

 そして、グルファクシスが槍の射程に入ろうとした直前。

 

「はっ!」

 

「何っ!?」

 

 クロムウェルの合図と共に、黒い巨体が大地を蹴って宙を飛んだ !

 

 上空から降ってくる二トンの塊に対し、此処は放つ寸前だった突きを中断するのではなく、寧ろその勢いを利用して前に転がり飛ぶ。

 その判断が功を奏し、グルファクシスを追い越す事で、紙一重で巨体の踏みつけを回避した__が。

 前転して動きが止まった瞬間、俺の背に向けて、後ろ足の蹴りが襲い掛かってくる !

 

「ぐぅ……っ!」

 

 一応第二撃も予期していた故、前転を決めた時点から蜻蛉切の柄に幻子を集中させておき、それを背負う形で辛くも馬の蹄を防いだが、それでも人の頭を簡単に粉砕する程であろう蹴りの衝撃は殺し切れず、転がって止まった時には、蹴り飛ばされる直前での位置から何mも離れていた。

 

「宗次君っ!?」

 

「何やあの馬、強すぎやろっ!?」

 

 観戦していたクラスメイトから上がってきた悲鳴が耳に入りながら、土埃で汚れた身体を素早く立ち上がらせる。

 

(「最悪、後2発喰らえば終わりだな。」)

 

 防ぎ方次第でもう少し耐えられるだろうが、こんな時は悲観的予測の上で慎重に構えるべき、と幻子装甲の残りを計算していると、旋回を終えたクロムウェルが馬上から声を掛けてくる。

 

「まだやるでありますか?」

 

「無論だ。」

 

(「次に決着を果たす時迄、常勝を貫くと誓った故に。」)

 

 再び槍を構えるれば、クロムウェルが満面の笑みを浮かべた。

 

「それでこそ、ジャパニーズサムライであります!」

 

 そう告げると、前を向かせたままグルファクシスを後退させていった。恐らく、更なる助走をつけ、今度こそ仕留ようという意思の表れ。

 そして、3度目にして最後の疾走を開始した神話の黒馬に対し、此方も前に向かって駆け出してゆく。

 

「無茶だっ!?」

 

 誰かの悲鳴が聞こえたが、前に出す足を止めない。

 

 そして、人と馬の距離が5mを切った瞬間、グルファクシスは再び大地を蹴って宙に飛び__直ぐ様、蜻蛉切を大地に突き立て、棒高跳びの要領で宙へ上がる。

 

「Whatッ!?」

 

「__勝つのは、俺だっ!」

 

 驚愕に目を見開く騎手を視界に収めながら、右拳に全ての意識を集中して突きを放つ。

 

 集中幻子拳(ピンポイント・ファンタズム・パンチ)__バリアさえ砕く何重ものバリアを纏った拳が、凡ゆる生物の急所である眉間を打ち抜いけば。

 

「――っ!?」

 

 あくまで幻想、人の意思エネルギーが生み出したモノに過ぎない為か、グルファクシスは痛みに悲鳴を上げる事なく、殴られた衝撃も合わさって、重力に引かれ落下していった。

 

 それに一拍遅れる形で落下を開始しながら、左手を右腕に伸ばす。

 

カチカチカチッ。

 

「武装化。」

 

 一度消し、再び生み出した蜻蛉切を両手で握り、黒馬に向けて全体重をかけて落下する。

 

 何の特殊な能力もない、だが停まった蜻蛉が切れるほど鋭利な矛先は、黒馬の眉間を突き貫き、幻子の光へと変えていった。

 

凄い(brilliant)……」

 

 着地間際に聞こえた声の発信源が、跨っていた黒馬の消滅と共に、地面に向かって落下し__すかさず両手で受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「…………」

 

(「怪我は無さそうだな……空中で手を掴んでくれた英人程には、格好良くないし難しくもないが、一先ず安心だ。」)

 

 まるで夢を見る様に呆然としているも、それ以外に問題の見受けられないクロムウェルを、地面に下ろそうとして__

 

「凄いであります、感激であります!宗次殿はニンジャだったでありますねっ!」

 

「そ、「()()殿()」………、って、は?」

 

 懐かしい響きだと感慨に耽っていた所為で、その後ろのある意味聞き捨てならない単語への疑問が遅れてしまった。

 

父親(Dad)は「ニンジャなんて存在しない、いいね?」と言っていたけど、本当は居たであります。しかも、サムライでニンジャなんて最強でありますっ!」

 

「いや、俺は侍でも忍者でもないんだが……」

 

 首に抱き付かれて可笑しな内容の歓声を間近に浴びせられ、誤解を解こうと説明しても、キラキラと輝く目を向けるその様は、まるで聞いていないのだと示していた。

 

「分かっているでありますよ。ニンジャは忍ぶ者、正体を秘密にするのは当然であります。」

 

「……取り敢えず、離れて貰えるか?」

 

(「心を乱すな、悟られるな!英人ならできたぞ、英人ならできたぞ、英人ならできたぞ……」)

 

 ……真正面から首に抱き着かれて、形の良い膨らみが胸板に当たり、それに照れ臭さ(邪念)が過ぎり、恥をかかせぬ様に鎮めている中、彼女から視線を逸らせば__

 

「兄弟、またワテらのお星様を奪うんかいっ!」

 

「スケコマシに3人盗られ、シャロちゃんまで盗られるくらいなら、いっそ……っ!」

 

「行くぞ、全員で囲めば仮に宗次相手でも、1発くらい当てられるはずだ!」

 

 映助始め男子の多数が、早くも幻想兵器を構えて俺に攻撃を開始しようとしており、更にその後方に注意を向ければ。

 

「心々杏、女房の妬くほど亭主は……何だって?」

 

「申し訳ありませんでした。」

 

「ま、まだそうと決まったわけじゃ……」

 

 何故か顔を上げた状態でぶつぶつ言っているらしき陽向と、彼女に向かって土下座している心々杏、必死に慰めようとしているらしき神奈がおり。

 

 其処でふと、大騒ぎしているクラスメイト達を叱りつけている筈の、先生の声が聞こえないと気付き視線を当てれば__

 

「あれは一体……」

 

 手に持ったタブレットPCを何やら操作しながら、未だに離してくれないクロムウェルへと疑惑の眼差しを向けている様に見えた。

 

(「恐らく、幻想兵器(グルファクシス)の性能、か?俺達(D組)には明らかに不釣り合いであろうし、何なら入学後に見てきた幻想兵器の中でもトップクラスだ。あれより強力だと確実に言えるのは、英人のエクスカリバー位で……、いや今は映助達の鎮圧が先か。」)

 

 と其処で、思考を切り替えてクロムウェルを無理矢理にでも突き放し、迫り来る野郎共に対峙するのであった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 因みに、授業後に大河原先生が1人の時こっそり尋ねた所、英人のクラスに配属された3名は、アメリカ人・ロシア人・中国人、であったそうだ。

 

 





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