英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 遅くなりましたが、最新話となります。ただ、今回は短めの話です。



第31話 騎馬戦と人物評

 

  5月30日金曜日、入学より間もなく3ヶ月目に突入しようという日の晩。刺客との交流兼観察という新たな仕事も熟した後、自室へ着いた所で、布団を被り端末から通信派遣隊へと繋げる。

 

「高天原より天下りて。」

 

「火之迦具土神の星へと集わん。」

 

「今宵は宜しくな、同志園田よ。」

 

「此方こそ、今夜はお付き合い願います。」

 

 色鐘・保科に誘われ、飲みに外出しておる秋葉の代理を務めてくれた、園田副隊長と言葉を交わす。

 

「報告はございますか?」

 

「さして無い。精々、組内同志の演技が依然変わらず安定しておる事と、刺客3名にはまだ己への疑念や機関の察知を覗わせる様な変化が見えん、といった事位だ。」

 

「仔細問題無し、ですね。此方からは、先ず昨夜にクロムウェルの部屋から発信されたデータについて、1時間前に終わりました。内容は本日の中途報告と変わらず彼女の腕輪から盗撮盗聴された特高内の映像のみでした。発信源の方は、1期生A組同志が密かに尋ねたところ、本国から持ち込んで幻想兵器の充電に用いているノートパソコンからでした。恐らく今夜も行われるでしょうが如何致しますか?」

 

「送信内容に変わりなくば、監視に留めておけ、彼女並びに英国及び影山には悟られぬようにせよ。傍受した映像は保管しておけ。」

 

「承知しました。その映像は視聴なされますか?」

 

 ……悩ましい所だが、そちらも長々と観ていては寝不足になる。3期生D組の状況は当日中に把握しておきたい。やむを得んな。

 

「否、届けずともよいので保管してくれ。何か気になる点を見つけたら、そちらから報告・相談してほしい。」

 

「了解しました。では次に、彼女が武士所属の第32分隊に配属されました。また3限の合同演習にて、通常は32分隊で戦闘に携わり、非常時に3期生A組の神近等強力な幻想兵器使いを乗せ運ぶ、遊撃部隊に近い役割が定められました。経緯の詳細は授業映像をご確認下さい。」

 

「有無、感謝する。他に報告はあるか?無ければ終了するが。」

 

「特にございません。では大和万歳。」

 

「大和万歳。」

 

 そうして接続を切り、己が教室にて座学擬きで浪費していた間の訓練を観戦する。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 3時間目、3期生D組及び1期生A組はジャージ姿でグラウンドに集合したが、流石にA組の面々が一様に、クロムウェルの巨大な黒馬を目の当たりにして、驚愕を露わにしていた。

 

「噂では聞いていたけれど、本当に馬の幻想兵器とはね。」

 

「綺麗な黄金の(たてがみ)ですわね。武器としても強そうですわ。」

 

 そう口々に述べていたA組に対し、32分隊の面々がクロムウェルとグルファクシスの運用について頭を悩ませているようだ。

 

(「仕方あるまい、歩兵部隊に突然騎兵1組捩じ込まれてしまったのだ。彼女の特性を活かしつつ分隊としての協調を乱さない、という難題を如何に両立させてみせるか、見ものだな。」)

 

 最も容易に思い付く方法としては、彼女が仲間から幻想兵器を借り受けて使用するか、もう1人に乗ってもらい自分が馬を操縦する間に幻想兵器を馬上から使用するであろう。

 また、直接CEに突撃するのでなく、幻想兵器使いを運び接近したら降ろして戦ってもらい、消耗すれば回収して引かせる、という装甲車代わりの運用法も挙げられるか。

 

(「それで結局、宗次が騎乗したか。奴の地元に馬はおらん故騎馬経験はない筈だが、身体能力と安全性に於いては妥当な判断であろうよ。」)

 

 そうして宗次が、喜色満面のクロムウェルから手を差し出され、掴んで引っ張られてグルファクシスの背に飛び乗った、が。 

 

(「ほう、素晴らしい程絵になる姿だ。記念に撮って収めておこう。」)

 

 手綱を握っているのはクロムウェルであり、跨っているのは白馬ではなく、巨大な化け物の如き黒馬だが、その背後に槍を持った宗次が座っている光景は、まるで御伽話に出てくるお姫様と、勇壮な王子様の様に見えた。

 一方で彼等の付近、それと向かい側のA組では、平坂と先山が嫉妬心からか随分表情を歪ませて、周囲に宥められておったが、嗚呼実に愉快愉快。

 

「準備はいいな、始め!」

 

 斯くして大河原の合図で幕開けた訓練だが、CE役となるA組の盾隊に向けて、D組が射撃を行い、続いて50m程度まで引き寄せてから、盾隊を先頭に突撃するという、常の流れが始まった。

 とはいえ、日本国エース隊の集団戦闘訓練を初めて受ける身のクロムウェルには、緊張が少々見受けられた。宗次はそんな彼女と行動の確認をし、細い肩を励ますように叩いていた。

 

「70、60、55……全員、突撃!」

 

 大河原の合図に合わせて、D組が一斉に走り出し、クロムウェルも盾隊の突撃後に動き、グルファクシスを軽く走らせた。

 そして30mラインに到達した瞬間、A組の射撃隊が光線代わりに矢を放ってきた。

 その中で同志安田が、先輩として洗礼を与える気概でか、盾役の後ろから迫って来るグルファクシスへと矢を飛ばした。

 

 放たれた矢は黒馬の額に命中するが、訓練中は幻想兵器の威力を抑えている事もあってか、掠り傷を付けただけで、あっさりと弾かれてしまった。そして、本物ではなく痛覚も恐怖も感じぬであろう幻想の馬は、その程度で止まらない。

 最初の攻撃が終わったので、漸く本気で走れると判断したのか、彼女が馬の横腹を軽く蹴り、瞬間馬は太い4本の足で大地を蹴り上げ、一瞬でトップスピードまで加速していった。

 

「くっ……」

 

 これには流石の宗次といえども、振り落とされそうになったらしく、左手で騎手の腰を掴んで体勢を立て直した。

 その間に、神話の名馬が30mを一瞬で走り切った。

 

「マジかよっ!?」

 

 迫る巨体の迫力に気圧されてか、同志藤野が悲鳴じみた声を上げつつ、しっかりと盾を構えて立ち塞がった。そこに、時速50㎞以上で疾走する約2tの馬という、凄まじいエネルギーの乗った槍が突き刺さり。

 

「「ぐぅ……っ!!」」

 

 衝突の瞬間、痛みを堪える声が、宗次と藤野の両方から上がった。

 藤野は車に撥ねられたように吹き飛ばされ、宗次の右手から蜻蛉切が吹き飛んだ。

 注視すれば、脱臼を危惧して敢えて槍を手放そうと緩めていた模様であったが、それでも鋭い痺れが手に走ったらしい。

 

「大丈夫でありますかっ!?」

 

「ストップ、止まれ!」

 

 彼女が慌てて馬を止めたのと同時に、大河原も練習中断の声を上げた。

 

「宗次殿、怪我はっ!?」

 

「俺は大丈夫だが、3年生の方が……」

 

「はっ、そうでありました!」

 

 クロムウェルが振り返って尋ね、藤野の状態を確かめるべく馬を降り、倒れている所に駆け寄り手を差し伸べた。

 

「お怪我はないでありますか?」

 

「痛てて……これくらいなら大丈夫だが、今度はもう少し手加減してくれよ。」

 

(「怪我人が出なかったのは昼間の時点で把握しておったが、危うかったな。」)

 

「はい、ついやりすぎてしまい、申し訳ないであります……」

 

 藤野が立ち上がった辺りで、両クラスの全員がクロムウェルとグルファクシスへ注目していた。

 

「ふむ、これは困った暴れ子猫ちゃんだね。確かに強力だが、皆の足並みを崩してしまうし、突出しすぎて危険だ。酷な話だが、居ないほうが良いかもしれないね。」

 

「うぅ、やはり仲間外れでありますか……?」

 

 クロムウェルが悲しそうに俯いていると、その横に宗次が歩み寄って来た。

 

「それなんですが、クロムウェルさんには生徒会長とか、A組の強い人と組んで貰って、遊撃部隊的に使うのが良いと思います。」

 

「私ですの?」

 

(「有無、流石宗次、その様子だと訓練開始前に思い浮かんでいたな。」)

 

 彼に名指しされた神近は驚き、然し少し考えてから頷いた。

 

「そうですわね、私なら乗馬を嗜んだ経験もありますし、レーヴァテインを使って疲労した後、運んで貰えるのは助かりますわ。」

 

「一撃離脱戦法か、また変わったCEが現れた時の切り札にはなりそうだね。」

 

 A組の面々も奴の意図を素早く理解したらしく同意や感心を示していたが、一方で当のクロムウェルはまた顔を曇らせていた。

 

「私、宗次殿と一緒に戦えないでありますか……?」

 

 寂しそうな顔をする彼女に、宗次は優しく笑い返していた。

 

「いや、32 分隊の仲間になったんだ、普段は俺達と一緒に居よう。だが、何かあった時の切り札として、3年生との連携も練習しておいた方がいい。」

 

「切り札……それは燃えるでありますなっ!」

 

 説得が功を奏したらしく、クロムウェルは途端に顔を輝かせ、生徒会長の手を引いた。

 

「では早速、秘密特訓を開始するでありますよ、チョココロネ殿!」

 

「こ、コロネ呼ばわりは流石に失礼ですわよ!」

 

「ドリルの方が良かったでありますか?」

 

「もっと駄目ですわっ!」

 

「むぅ~、ではお姉様とお呼びするであります。」

 

「お姉様……ま、まぁ、悪くはありませんわね。」

 

 先輩相手でも物怖じしない態度のクロムウェルを前に、神近がすっかり呑まれてグルファクシスの背に乗った。

 

 その後、クロムウェルは神近達1期生A組を乗せて慣らすべく馬を走らせ、最後には神近が騎乗体勢でグラウンドの広い空きスペースへとレーヴァテインを発動させ、疲弊した状態で乗ったまま戻って来て終いとなった。

 

(「……さて、今日も心底楽しめたな。クロムウェルとグルファクシス、3期生D組、更に1期生A組、彼等の連携でより対応の幅が広がり、CE被害を抑えるのにも宗次達が活躍するのにも繋がってゆくぞ。……唯、懸念があるとすれば。」)

 

 本来の適性レベルを上回るあのグルファクシス。宗次の様に最初に測って以降に適性レベルが上昇して幻想兵器の性能も向上した、という訳ではなさそうだ。それにあくまでも監視カメラからの映像や接触した同志の報告に基づく推察だが、紛うことなき善性で勇気も努力も有りるものの、決して己や宿敵どころか英雄信者のアドラー将兵やエース隊員内の同志程にさえ、光への傾倒度合では及ばない。

 昨夜の「刹那に近い」という秋葉評は、実に的を得ている。正確にはCEの襲撃を受ける前の刹那、あれを彷彿とさせる気質であった。もしもクロムウェル家やバーミンガムがCEに襲われ奪われたなら、肉体の才能はともあれ、同様に嘆き悲しみ苦しみ惑い怯え、それでも()()()()()と立ち上がるであろう。

 

 何れにせよ、使用者自身に原因が無ければ、あの影山も関与した幻想変換器に仕掛けがある訳だが……、現状、[瓊瓊杵維新]の修正や彼女の排除は不要だな。

 よって問題は、A組相当の出力と異様な迄に長い継戦能力を両立させる幻想兵器、その副作用だ。

 たとえ外国人であろうと、リスクを知らされず自覚もしていない中で力を用いて取り返しのつかない事態に陥る、など見過ごせん。去れどブラックボックス化されて且つ本人が常時装着している英国製変換器を調べるのは不可能に近い。仮に機関として日本人・政府の仕業と発覚されない様な手駒を用意し、無理矢理に強奪して分解やX線照射を行った所で、日本産同様に内部の重要箇所が壊れる程度の仕掛けは施されている筈だ。

 

(「未だ、如何なる国であれ海外と揉め事を起こす訳にはいかんのでな。」)

 

 兎に角、彼女に関しては経過観察、少しでも異常を探知すれば幻想兵器使用の抑制を働きかける方針でゆこう。

 

(「彼女と試合する機会さえあれば、エクスカリバーを斬り付けて解析できるのだがな。」)

 

 4月頃なら親衛隊内の同志に挑発させ、若しくは他組や先輩の同志に近付かせて挑戦を唆せばよかったのだが、試合するには〈機械仕掛けの英雄〉として成長し過ぎて彼女でも相手にならん程の格差ができてしまった。それに色鐘や月夜等もそれを認めんだろうし、実際5月に入ってからは1度も対幻想兵器使いとの戦闘をさせてもらえんくなった。

 

(「……仕方あるまい。我等も見張っておく故、頼んだぞ宗次よ。」)

 

 





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 次回は、本文にて外出中と描写されている、秋葉と色鐘&保科の話です。

 因みにこの第31話は元々、英人視点が前半、秋葉視点が後半という構成で纏めて投稿し、次回を宗次視点の31.5話とする予定でした。然しその場合、字数が1.2万字を超える長さになってしまうので、秋葉視点を次回に回し宗次視点回をその次の話に投稿する事にしました。
 その秋葉視点については、今週中に届けられるので、ご安心下さい。

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